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【完全解説】H20/H200/MI308チップの対中輸出可否|15%手数料制と2022-2026年の規制変遷

2026-05-20濱本 隆太

NVIDIA H20/H200、AMD MI308/MI325Xの対中輸出可否を、2022年10/7ルールから2026年1月の最終規則までの規制変遷でたどります。中国向け売上の15%を米政府に支払う前例なきスキームの仕組みと合憲性論点、中国側の購入抑制要請、日本企業の再輸出リスクと実務5ステップまで、輸出管理の初心者向けに整理しました。

【完全解説】H20/H200/MI308チップの対中輸出可否|15%手数料制と2022-2026年の規制変遷
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株式会社TIMEWELLの濱本です。2026年5月時点で、米中AI半導体規制をめぐる景色は半年前と大きく違う形になっています。NVIDIA H20は禁輸→再開→生産停止検討と二転三転し、より高性能なH200とAMD MI325Xまで条件付きで中国に売れるようになりました。その条件として導入されたのが、対中売上の15%を米政府に支払うという前例のないスキームです。

「H20とH200は何が違うの?」「15%手数料って関税のこと?」「自社の中国拠点向けGPU調達、止めるべき?」。最近こうした質問を立て続けに受けます。本記事では輸出管理を初めて触る方でも理解できる粒度で、チップ仕様・規制位置づけ・時系列・15%手数料制・中国側の動き・日本企業の実務対応までを整理しました。なお本稿は2026年5月20日時点の情報です。最新確認はBIS、経産省、CISTECなどの一次情報源にあたってください。

まず用語を3つだけ理解する

技術論に入る前に、これだけは押さえてください。

  • TPP(Total Processing Performance/総演算性能):BIS(米商務省産業安全保障局)が対中輸出規制の基準として使う指標。チップの密演算性能に演算精度のビット長を掛けて合算した値。AIチップが「先進コンピューティングチップ」に該当するかを判定する物差し。
  • Performance Density(性能密度):TPPをダイ面積で割った値。「小型化×高性能化」を同時に判定するために導入された。TPPが低くてもPerformance Densityが高ければ規制対象になる。
  • 15%手数料制:トランプ政権がNVIDIAとAMDに課した独自スキーム。中国向けH20/MI308の売上の15%を米連邦政府に支払うことを条件にライセンスを発給する。2025年8月から実運用に入った。

各チップの仕様と規制位置づけ

NVIDIA Hopper系統(H100/H20/H200)

項目 H100(グローバル) H20(中国向け) H200(グローバル)
メモリ 80 GB HBM3 96 GB HBM3 141 GB HBM3e
メモリ帯域 3.35 TB/s 4.0 TB/s 4.8 TB/s
FP16演算性能 約1,979 TFLOPS 約296 TFLOPS 約1,979 TFLOPS
TDP 700W 350W 700W
主な用途 学習・推論全般 主にLLM推論 学習・推論、大型LLM

H20で注目すべきは、演算性能を意図的にH100比の約15%まで落とした「中国専用SKU」だという点です。一方でメモリ容量と帯域はH100を上回り、LLM推論のように「演算よりメモリ帯域がボトルネックになるワークロード」では、H100より20%以上速いケースさえあります。

H200は中国向けに作られたチップではありません。米国・世界共通モデルとして2024年に投入された製品が、2026年1月から条件付きで対中輸出可能になった点が画期的でした。演算性能はH20比でおよそ6倍です。AMD側もMI308がMI300Xのダウングレード版、MI325Xがフラッグシップという同じ構図で、「演算は規制ラインの下、メモリは可能な限り盛る」という設計思想が両社で一致しています。

BISが2026年1月時点で運用している主な閾値は次の通りです(EAR Part 740.29、ECCN 3A090など)。

  • TPP ≥ 4,800、または(TPP ≥ 1,600 かつ Performance Density ≥ 5.92)のAIアクセラレータは対中輸出にライセンスが必要
  • TPP < 21,000 かつ DRAM帯域 < 6,500 GB/s のチップは「ケースバイケース審査(個別審査)」対象(H200・MI325Xが該当)
  • TPP ≥ 21,000 のチップ(B200/Blackwell系)は引き続き「presumption of denial(原則不許可)」

H20はもともとこの閾値を下回るよう設計され、本来ライセンス免除レベルでした。にもかかわらず2025年4月に個別ライセンス必須化された経緯が、後で見る政治力学の入り口になります。

該非判定の属人化を、AIで解消する。

経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDなら、判定時間を約7割削減し、判定根拠を構造化データで保存できます。

時系列で追う対中輸出可否(2022–2026)

時期 出来事
2022年10月 バイデン政権が10/7ルール。A100/H100が事実上禁輸
2023年10月 規制強化(10/17ルール)。A800/H800など派生品も禁止。NVIDIAがH20、AMDがMI308を投入
2025年1月 バイデン政権、退任直前にAI Diffusion Rule公表
2025年4月 トランプ政権、H20/MI308の対中輸出に個別ライセンス必須化。事実上の禁輸
2025年7月 NVIDIA、H20の対中販売再開を発表(Huang CEOとトランプ大統領の会談直後)
2025年8月 「対中売上の15%を米政府に支払う」合意が報道される。中国CACは国内テック企業にH20購入の自粛を指導
2025年12月 トランプ大統領、H200/MI325Xの対中輸出許可方針を表明(手数料率25%と報道)
2026年1月15日 BIS最終規則(FR 2026-00789)施行。H200/MI325Xを「presumption of denial」から「個別審査」へ
2026年1–2月 Alibaba・Tencent・ByteDance等約10社が購入承認を取得(1社あたり最大75,000個)
2026年第1Q NVIDIA、中国顧客向けH20売上ゼロを開示。AMDはMI308関連で約4.4億ドルの在庫評価損
2026年1月以降 中国税関がH200の通関を実質的に止めているとの報道(日経・ロイター)

H200は「もともと売れなかった製品が、条件付きで売れるようになった」というベクトル。H20は「売れていた製品の対中売上がゼロになった」というベクトル。両者は完全に逆方向に動いていて、ここを混同しないことが重要です。

日本企業の輸出管理担当者がいま取るべき5ステップ

背景の整理に入る前に、結論から書きます。流動的な情勢でも、実務として手を動かすべきことは決まっています。

ステップ1:自社のAIチップ調達・保有状況を棚卸しする

H20/H100/H200/MI308/MI300X/MI325X等を、設置拠点別にリスト化します。中国子会社向けの調達計画があれば、必ず該非判定とEAR適用の有無を確認してください。「自社では先端AIチップは使っていない」と思っていても、クラウド経由で間接利用しているケースは少なくありません。

ステップ2:ECCNと現在の規制ステータスを確認する

ECCN(Export Control Classification Number:米国輸出規制品目分類番号)は、米商務省が品目ごとに割り当てる5桁コードで、対中輸出可否やライセンス要否の判定起点になります。対象チップのECCN(多くは3A090.a等。AIチップ向けの分類番号)と、2026年5月時点の対中輸出ステータス(ライセンス必要/個別審査/原則不許可)をチェックします。BIS Federal Register、Morgan Lewisなど法律事務所のアラート、JETROのビジネス短信を組み合わせるのが現実的です。

ステップ3:de minimisルールの判定を行う

米国製チップを組み込んだ自社製品を中国向けに輸出する場合、米国原産価値の比率を計算し、de minimis閾値(米国原産価値が一定割合以下なら適用除外となる原則。中国向けは原則25%)に該当するかを判定します。先端AI半導体については閾値が極めて低く設定されており、事実上対象になりやすい構造です。

ステップ4:受領者のEntity List該当性を確認する

中国子会社や中国側取引先について、米国Entity List、未確認リスト(Unverified List)、経産省の外国ユーザーリストを総点検します。グループ会社の役員・株主の変更で該当性が変わるケースもあるため、定期的なモニタリングが要ります。

ステップ5:社内ルールとアラートの仕組みを整える

新たな対中輸出案件が起票された段階で輸出管理部門にエスカレーションされる業務フローを整備します。あわせて、米中規制動向のモニタリング(BIS新規制、中国CAC指導、税関規制)の体制を作ります。情報のキャッチアップを担当者の個人努力に依存させない仕組みが、流動的なこの時期には不可欠です。

弊社TIMEWELLが提供する TRAFEED は、こうした多軸の輸出管理を現場で回すために設計された輸出管理AIエージェントです。経産省の安全保障貿易管理基準に準拠した該非判定、米Entity Listや外国ユーザーリストとの自動照合、取引先デューデリジェンスを多言語で実行できます。AIチップ調達の現場で「この案件はBISライセンスが要るのか、外為法のキャッチオール規制(リスト規制外の品目でも軍事転用懸念があれば許可制になる仕組み)が効くのか」を即時に判定したい場面で活用いただいています。詳しくはTRAFEEDで5秒可視化

15%手数料制の構造と合憲性論争

ここからは「なぜ5ステップが必要か」を理解するための背景です。

15%手数料制は、トランプ政権がNVIDIA/AMDに対し、対中輸出の対象チップ売上の15%を米連邦政府(国内研究開発資金)に支払うことを条件にライセンスを発給する仕組みです。Washington Postの初報では当初20%要求から15%に落ち着いたとされ、H200/MI325Xについては25%との報道はあるものの、最終規則本文に手数料規定は明記されていません。

特異なのは、商業企業から米連邦政府への「直接支払い」である点です。通常の輸出関税でも輸出規制当局へのライセンス料でもなく、用途は「国内半導体研究・製造支援」とされますが、経理処理や受領機関の運用は不透明です。

合憲性は米国内でも論争が続いています。米憲法Article I, Section 9(Export Clause)は輸出への課税を連邦政府に禁じており、ECRA(輸出管理改革法)50 USC 4815(c)は輸出管理ライセンスに関連する手数料を明示的に禁止しています。Lawfareに寄稿された分析やCarnegieのPeter Harrell氏らは「実質的に輸出への税であり違憲の疑い」と指摘する一方、米政府側は「ライセンス取得の対価であり税ではない」と整理しています。ただし原告適格(standing)を持つ主体が見えにくく、NVIDIA/AMDは中国市場を維持できる以上自社が訴える動機が乏しいため、2026年5月時点で正式な訴訟は提起されていません。私の理解では、訴訟リスクは中長期の不確実性として織り込みつつ、短期的には現行ルールに従うのが現実的な対応です。

賛否は次のように整理できます。米政府・支持側は「禁輸より輸出してモニタリングするほうが安全保障上有益で、米国の歳入・国内半導体研究の財源にもなる」と主張。NVIDIA/AMD側は「中国市場を完全に失うより収益の一部を還元してでも維持すべき」。批判側は「行政府が特定企業の輸出を交渉対象とする裁量的取引の常態化につながる」と懸念しています。規制実務に携わる立場から私が感じる最大の課題は「予見可能性の低下」です。大統領と企業CEOの会談で枠組みが変わる状況では、コンプライアンス担当者が立てる計画の射程が短くなります。

中国側の動きと日本企業への波及

米国側だけを見ていれば足りる時代は終わりました。

中国側の動き:CAC指導と国産化加速

2025年8月12日、中国サイバースペース管理局(CAC)はByteDance・Alibaba・Tencentなどを召集し、安全保障上のリスクを理由にH20購入の自粛を「行政指導」したと報じられました。理由は、NVIDIAが米政府に顧客情報を含む資料を提出する義務を負う可能性、すなわちチップ経由のデータ流出リスクです。並行して中国国産AIチップ企業が急伸し、寒武紀(Cambricon)の2025年上期売上は前年同期比43倍超。華為(Huawei)のAscendシリーズも主要選択肢として浮上しています。さらに2026年1月以降、中国税関がH200の通関を実質的に止めているとの報道もあり、米国側で約10社・最大75,000個の購入を承認しても実際の納入は限定的です。米中それぞれが「自国の安全保障」を理由に互いの製品を絞り合っている、というのが現在地です。

日本企業の3シナリオ:再輸出・組込製品・人的関与

日本企業にとってこの問題は他人事ではありません。米国輸出管理規則(EAR)は、米国製品・米国技術を含む製品が第三国(日本)を経由して中国などへ再輸出される場合にも適用されます。代表的なシナリオは3つあります。

(1) 日本本社が米国製AIチップを購入し中国子会社に転送する場合、BISのライセンスが必要で、並行して外為法上のキャッチオール規制(経産省)も適用される可能性があります。(2) 米国製チップを組み込んだ日本製品の中国輸出は、de minimisルールの判定対象です。(3) 米国市民・永住権者が中国でのチップ利用に関与する場合、Person-based規制(EAR 744.6)の対象になり得ます。

日本企業の中国子会社が現地クラウドからH20/H200ベースのAIコンピュートをユーザーとして利用する場合は直接の規制対象ではないものの、業務委託先・データ保管先の選定基準としての評価は避けられません。

日本側制度:外為法と経済安全保障推進法の動向

経産省は2023年以降、外為法上の包括許可・特定包括許可の運用を継続し、安全保障貿易管理ガイダンスを随時更新しています。CISTECもEARの解説と実務セミナーを定期開催。経済安全保障推進法と組み合わさることで、AIチップ関連の規制は今後さらに細分化される見込みです。特に外為法キャッチオール規制は、リスト規制の対象外品目であっても軍事転用懸念があれば許可制になる仕組みのため、米国EARとの「二重コンプライアンス」が常態化しています。

よくある誤解/FAQ

Q1. H20とH200は名前が似ているが、規制上はどう違うのか? H20は中国向けに性能を落とした専用SKU、H200は米国・世界共通のフラッグシップGPUです。H20はBISの性能閾値を下回るよう設計され本来ライセンス免除レベルでしたが、2025年4月に個別ライセンス必須化されました。H200は閾値超のためもともと対中輸出は「原則不許可」で、2026年1月に「個別審査」に格上げ。逆方向に動いた2つの製品です。

Q2. 「15%手数料制」は日本でいう関税のようなものか? 形式的には関税ではなく、ライセンス発給条件として企業が政府に売上の一部を支払う独自スキームです。米憲法は輸出への課税を禁じているため、これが「税」に該当するかが法的争点となっています。日本の輸出貿易管理令や関税法には類似制度はありません。

Q3. 日本企業が中国子会社に米国製GPUを送る場合、何に注意すべきか? (a)対象GPUのECCNと現在の対中規制レベル、(b)de minimisルール上の再輸出規制該当性、(c)BISのライセンス取得要否、(d)外為法上の役務取引許可・包括許可の要否、(e)受領者(中国子会社)のEntity List該当性、の5点を順に確認してください。

Q4. 規制違反のペナルティはどの程度か? EAR違反の罰則は、刑事で最大100万ドルの罰金または20年の懲役、行政罰で1件あたり最大30.8万ドル(毎年インフレ調整)または取引額の2倍まで。さらに米国市場からの締め出し(Denied Person List掲載)という致命的な事業リスクを伴います。

まとめ

2022年10/7ルールから始まった対中AI半導体規制は、4年弱でまったく異なる景色になりました。バイデン政権が積み上げた規制をトランプ政権が部分的に解いて売上の15%を取る形に変え、中国側は安全保障を理由に国産化を加速し税関で通関を止めるという対抗策に出ています。輸出管理の現場では、米国EAR・外為法キャッチオール・中国側の輸入規制という3つのレイヤーを同時に追う必要が、もう避けて通れません。

日本企業に求められるのは、規制が出るたびに慌てて対応するのではなく、自社の調達計画・拠点配置・グループ間取引を整理し、複数シナリオに耐えられる体制を作ることです。AIインフラ投資はリードタイムが長く、規制動向を読み違えると数年単位の損失につながります。今回の15%手数料制のような「裁量的スキーム」が今後どこまで広がるかは予測困難ですが、構造を理解した上で備えていれば、過剰反応せず冷静に判断する余地は残ります。

実務で動かすべき5ステップを再掲しておきます。

  • ステップ1:自社のAIチップ調達・保有状況を棚卸しする
  • ステップ2:ECCNと現在の規制ステータスを確認する
  • ステップ3:de minimisルールの判定を行う
  • ステップ4:受領者のEntity List該当性を確認する
  • ステップ5:社内ルールとアラートの仕組みを整える

関連して、AI Diffusion Rule撤回とH200中国解禁の衝撃中国輸出規制の最新動向EARアフィリエイトルールのリスクデュアルユース技術の軍事転用リスクも合わせてご覧ください。

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参考文献

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