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イタリア発ディープテックが見せた「人間の優位性」|デザイン・職人精神・先端技術が交差する次世代イノベーション【SusHi Tech Tokyo 2026】

2026-04-29濱本 隆太

SusHi Tech Tokyo 2026イタリアパビリオンが提示した「ディープテック×デザイン×職人精神」のアプローチ。AIに置き換わらない「人間の優位性」をいかに事業化するか。TIMEWELL代表が、日本の老舗企業や地方発スタートアップへの示唆として読み解きます。

イタリア発ディープテックが見せた「人間の優位性」|デザイン・職人精神・先端技術が交差する次世代イノベーション【SusHi Tech Tokyo 2026】
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こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。

「Deep Tech with a Human Edge」——このセッションのタイトルが、9社のピッチを貫く一本の糸でした。SusHi Tech Tokyo 2026のイタリアデイで、駐日イタリア貿易振興会(ICE)のジョン・パウロ・ブルーノ氏がホストとなり、9社のイタリア発ディープテックスタートアップが立て続けにピッチを行いました[^1]。

私は正直、イタリアのスタートアップエコシステムについてはあまり詳しくありませんでした。ファッション、食、デザイン——これらに強い国、という印象しかなかったのです。しかしこの90分で、「人間中心のディープテック」という独自ポジションでイタリアが欧州内で際立った存在になっていることを強く認識させられました。

そして気づいたのです。これは「AIに置き換わらない人間の優位性」をいかに事業化するか、という問いへのイタリアなりの回答だと。デザイン、職人精神、先端技術。この三つが交差する場所にこそ、AI時代の差別化の答えがある——そう感じさせるセッションでした。

SusHi Tech Tokyo 2026が『国別ピッチ』の舞台に

SusHi Tech Tokyo 2026は、2026年4月27日〜29日に東京ビッグサイトで開かれています。過去最多770社のスタートアップが集まるこのイベントでは、毎年複数の国別パビリオン・国別ピッチセッションが開催されています[^3]。今年のイタリアセッションは、ICEがキュレーションした9社のスタートアップが日本市場進出を視野に入れて登壇する絶好の場でした。

TIMEWELLが掲げる「挑戦の民主化」は、国境を超えて広がるべきだと私は考えています。イタリアのスタートアップが日本市場に足を踏み入れる瞬間を、会場で見届けられたのは貴重な体験でした。近年イタリア政府は「National Startup Act」を強化しており、ディープテック支援の国家予算を年々拡大しています。その成果が世界の舞台に出始めたフェーズ、それが2026年なのだと感じます[^2]。

9社のピッチ — 人間中心ディープテックの群像

ここからは9社のピッチを順に振り返ります。それぞれが「人間中心」という共通項を持ちながら、領域の異なるディープテックを提示してきました。

Takeover — 危険な環境にロボットを飛ばす

最初にピッチしたTakeoverは、トンネル・地下施設・産業プラントの検査に特化したジオスペーシャルセンシング企業です。LiDARとレーザースキャンで高精度の3Dデータを取得します。

興味深かったのが、自社開発の自律飛行ドローン「Maria」です。GPSが使えない環境でも完全自律検査が可能だといいます。地下トンネル、山岳部、産業プラント内部——こうした「人間が行くには危険すぎる」場所にドローンが行きます。人間を危険から守ることがディープテックの目的という、まさに「Human Edge」の哲学が体現されていました。Takeoverは既に東京に拠点を置き、日本のインフラ運用事業者とのパイロットプロジェクトを計画しているそうです。

Demlabs Lab — 建設・海底・インフラを遠隔監視

Demlabs Labは建設現場、インフラ、海底工事という全く異なる現場の遠隔監視AIを展開しています。既に25カ国で導入され、日本では竹田建設、大手造船企業、金融グループと連携中とのことでした。

彼らが面白かったのは、プライバシー対応の独自AR技術です。画像内の人物・車両・区域を自動的にぼかすことで、GDPR等の規制に対応しつつ、安全アラートや人間・機械相互作用の監視を可能にしています。技術と法規制の両方を同時に解くディープテックの良例だと感じました。

Koala — エネルギーは人々に属するべき

セッションで最も熱量を感じたのが、Koala(エネルギー取引プラットフォーム)でした。「エネルギーは人々に属するべき」というミッションから始まる彼らのピッチは、単なるテックスタートアップのそれではなく、社会運動に近い熱量を帯びていました。

市場規模の提示が印象的でした。ヨーロッパには3億人の消費者、5,000万人のプロデューサー、総市場規模95兆ユーロのエネルギー市場が存在します。しかし消費者は自分のエネルギーがどこから来てどう価格決定されるか、知ることも介入することもできません。

Koalaは6つのモジュールでこれを解きます。Share(ローカルエネルギーコミュニティ、無料)、Pro(専門家ツール)、Trade(P2Pエネルギー取引)、Flex、Crowd、Mateです。2025年のMVP発表から1年で6,000メンバー、75万ユーロの初期収益を達成し、10年後に1,500万ユーザー・年5億ユーロを目指すといいます。

私はこのピッチを聞きながら、「挑戦の民主化」の応用形態を強く感じました。エネルギーの民主化です。大企業と政府が独占してきた意思決定を、一般市民が取り戻すためのインフラ。TIMEWELLが挑戦者のために作ろうとしているインフラと、発想の根が同じだと感じます。

Luna — LLM時代のブランド可視化

Lunaは、ChatGPT、Gemini、Grok、Perplexity等のLLM上で自社ブランドを可視化するソフトウェアです。これは次世代SEOと呼んでもいい領域で、市場規模は2033年までに5億ドルに達すると予測されています。

ユーザーが検索エンジンではなくLLMから情報を取得する時代に、企業がどう発見されるか。これは重要な問いです。Lunaはウェブサイトを監査し、LLM内での言及位置を分析し、ランキング改善のための実行可能提案を提供します。**GEO(Generative Engine Optimization)**という新領域の先駆者です。従来のSEO業界全体が、この数年でLLM対応に再編されていく兆しを、このピッチから強く感じました。

Electa — 日本300万社のための財務AI

Electaのピッチは、日本市場への具体的な狙いが明確でした。日本には300万社の企業が存在し、AI導入不足による年間損失は約12兆円という推計を提示しています。対象企業の70%が専門分析担当者や複雑なソフトウェアを負担できない——この構造的課題を、5分のセットアップで使える財務予測AIで解くというわけです。

この数字は、私がTIMEWELLの仕事で日常的に実感していることとも重なります。日本の中堅・中小企業には、分析リソースが絶望的に不足しています。AIが汎用化した今、このギャップを埋めるプラットフォームが「非連続的な生産性向上」をもたらす可能性は極めて高いと感じます。

Atlas — 超音波×AIが予防医療を変える

医療領域ではAtlasが圧倒的に印象的でした。彼らはサルデーニャ島の「ブルーゾーン」(世界で平均寿命が長い地域)の長寿の秘密をテクノロジーに変換するという壮大なナラティブからスタートしました。

数字も強烈でした。統計的に3人に1人ががんに直面し、5,500万人が認知症を抱えています。日本では65歳以上人口が29%で、がんの40%が遅期発見とのことでした。

Atlasの第一製品「AD」は超音波リアルタイム分析により、陽性ケース検出を23%向上、診断速度を3倍高速化しています。第二プロジェクト「量子ツイン」は各患者の生きたデジタルモデルを構築し、AIと量子コンピューティングを組み合わせて臨床症状発症の2〜5年前に疾患を予測するというものです。

これは予防医療のパラダイムシフトです。「病気になる前に介入する」という、これまで医療が夢見てきた領域が、技術的に手の届く場所に来ていると感じました。

Icarus — 医療現場の電話を救う

もう一つの医療系、Icarusは極めて実務的な課題を解いていました。医療施設は電話対応で1日の25%を失っているといいます。Jenny AIアシスタントが電話フロー全体を構造化し、最大10の同時電話対応を処理するのです。

3ヶ月で15社の有料クライアント(イタリア、スペイン、日本を含む)を獲得し、市場スケーラビリティは1,800万以上とのことでした。医療スタッフを電話対応から解放し、患者ケアに集中させる——地味ですが、医療現場で確実にワークするプロダクトです。

Every Day — 認証ニュースコンテンツ

Every Dayは初の認証ニュースコンテンツエコシステムを標榜しています。ディープフェイク、AIによる偽情報で機関・メディアが信頼性を失う中、「誰が何を撮影・投稿したか」を認証する仕組みを作っているのです。ノーベル平和賞のワールドサミットとも提携済みとのことでした。

情報の真贋問題は、AI時代の根本課題です。ブロックチェーンと暗号認証を組み合わせて「本物のコンテンツ」を保証するレイヤーは、今後あらゆるメディアに必要になります。

Digitara — 2022年にトリノ市の完全デジタルツイン獲得

Digitaraは2004年創業、地理空間・3Dデジタルツイン専門です。2022年にトリノ市の完全デジタルツインを獲得し、現在550人の専門家を擁しているといいます。MMS(Mobile Mapping System)、街路勾配、資産情報。都市行政向けの本格的デジタルツインインフラを提供しています。

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ブルーノ氏の意図 — イタリア×日本の実需マッチング

セッション後、ICEのブルーノ氏が「日本の大企業、自治体、研究機関との具体的なマッチング機会をこの場で創出したい」と強調しました。単なるショーケースではなく、実需を伴う商談プラットフォームとしてのSusHi Techの機能です。

私は会場のイタリア企業ブースを回りました。どのブースでも、日本人ビジネスパーソンと英語・イタリア語でプロダクトデモが進行中でした。『SusHi Techで会った』が新しい日本×欧州のビジネス立ち上げの標準フレーズになりつつあるのを実感しました。

この変化は無視できません。これまで日本市場に進出する欧州スタートアップは、ロンドンやベルリン経由で日本のVCにアプローチするケースが多かったのです。それがSusHi Techという1つのイベントで、日本の事業会社・自治体・研究機関と直接出会えるようになりました。商談リードタイムが半年単位で短縮されている、という実感があります。

筆者所感 — 『人間中心』という差別化軸

9社のピッチを聞き終えて、私が整理したのはこうです。「イタリアのディープテックは、技術の抽象度と人間的ナラティブの両方を持っています」

米国のディープテックは、しばしば「10xの改善」「スケールメリット」という抽象語で語られます。一方、今日のイタリア企業は、ほぼ全社が「人間のこの課題を解く」という具体的な人間像を提示していました。Takeoverは危険な現場の検査員を守り、Koalaはエネルギー消費者に主権を取り戻し、Atlasはブルーゾーンの長寿知恵を技術化し、Icarusは医療スタッフを電話対応から解放するのです。

**「人間が抱える課題から出発する」**というピッチ設計は、日本のスタートアップにとっても参考になるはずです。日本のピッチは往々にして「技術の凄さ」から入りがちですが、投資家や顧客は「誰のどの課題を解くのか」を最初に知りたいわけです。

『デザイン×職人精神×先端技術』という三位一体

イタリアが世界で独自ポジションを築いている理由を、もう一段深く考えてみました。私の仮説は、「デザイン×職人精神×先端技術」の三位一体こそがイタリアの強みだということです。

Ferrari、Brembo、Lavazza——これらの老舗ブランドは、単なるラグジュアリーではなく、先端技術を内製化しています。FerrariはF1で培った空力解析・素材工学を市販車に降ろし、Bremboはブレーキディスクの設計でAIシミュレーションを駆使し、Lavazzaはコーヒー豆のサプライチェーン最適化にIoTを活用しています。

一方、Atlasのような若いスタートアップは、ブルーゾーンという「土地に根ざした知恵」を最先端のAI・量子技術と組み合わせています。Digitaraもまた、トリノという都市の歴史と現代のデジタルツイン技術を融合させています。

「技術だけでも勝てない、文化だけでも勝てない、両方を編み合わせる」——これがイタリア流のディープテックです。AI時代に「人間の優位性」を残すための、極めて実践的な答えだと思います。

日本×イタリアの補完性

このセッションで感じた日本とイタリアの補完性は強烈でした。日本の強みは精密製造、高齢化市場の先行、インフラの成熟です。イタリアの強みは人間中心設計、美的感性、スケーラブルなディープテックです。この2つを組み合わせる発想は、日本企業にとって大きな可能性を秘めています。

日本の医療機関がAtlasを導入する、日本のインフラ事業者がTakeoverのドローンを使う、日本の中堅企業がElectaの財務AIを導入する——こうした具体ユースケースが、SusHi Techを起点に立ち上がっていくはずです。

そして逆方向も成立します。京都の老舗、燕三条の金属加工、有田焼、輪島塗——日本にも「土地に根ざした職人精神」が無数に存在します。これらに先端技術を掛け合わせ、グローバル市場へ届ける動きが、これからの10年で加速するはずです。「単なるDX」ではなく、「職人精神を増幅する技術」という視点に立てば、AI時代に置き換わらない競争優位が見えてきます。

日本の老舗・地方産業へのインプリケーション

このセッションを聞きながら、私の頭の中では日本の老舗企業や地方発スタートアップへの示唆が次々と浮かんできました。

第一に、「歴史を技術に翻訳する」発想です。Atlasがブルーゾーンの長寿知恵を量子技術に翻訳したように、日本の老舗ブランドも「自社の暗黙知」を技術化できます。たとえば京都の老舗料亭が出汁の引き方をセンサーデータ化し、世界中のレストランに提供する——荒唐無稽に聞こえるかもしれませんが、技術的には2026年時点で十分可能です。

第二に、「ローカル×グローバル」の二重構造です。Koalaは欧州のローカルエネルギーコミュニティを支援しながら、95兆ユーロのグローバル市場を狙っています。日本の地方発スタートアップも、地域課題を出発点にしつつ、世界市場への接続を初日から設計すべきです。

第三に、「人間中心ナラティブ」の重要性です。日本の優れた技術が世界に届かない理由の一つは、ピッチが「機能スペック中心」だからだと私は思います。「誰のどの痛みをどう解くか」というイタリア流のナラティブを学ぶことで、日本の技術はもっと世界で評価されるはずです。

まとめ — SusHi Techは欧州スタートアップの日本ゲートウェイ

イタリアンテックの9社は、まさに「人間中心ディープテック」という独自の世界観を体現していました。私は彼らの帰国後に、複数社に日本側の協業先候補を紹介する予定でいます。TIMEWELLが日本国内で築いてきた企業ネットワーク、大学ネットワーク、自治体ネットワークを、彼らと繋げる——それが私なりの「挑戦の民主化の国際版」だと考えています。

SusHi Tech Tokyoは、アジア最大級のイベントとして、欧州スタートアップの日本ゲートウェイになっています。これから数年、日本×欧州のクロスボーダー事業が爆発的に増える予感がありますし、TIMEWELLもその流れの中で、日本の挑戦者が世界と出会う橋をさらに広げていきたいと思っています。

そしてもう一度繰り返しますが、AI時代に問われているのは「人間の優位性をどう事業化するか」です。イタリアの9社は、この問いに対して具体的な答えを9通り提示してくれました。日本の老舗、地方の伝統産業、そして新興スタートアップにとって、これほど示唆深い90分はそうそうありません。

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[^1]: YouTube. "Italy: Deep Tech with a Human Edge." https://www.youtube.com/watch?v=ggOIyNMTaoc [^2]: ICE - Italian Trade Agency. https://www.ice.it/ [^3]: SusHi Tech Tokyo 2026 公式サイト. https://sushitech-startup.metro.tokyo.lg.jp/

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