こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
ここ一年ほどで、半導体まわりの話題が「GPUが足りない」から「メモリが足りない」へと、静かに、しかし確実に移ってきました。AIブームの主役といえば長らくNVIDIAのGPUでしたが、最近は投資家やアナリストの口から、次に効いてくるのはメモリだという声が増えています。米アトレイデス・マネジメントの創業者でテック投資家として知られるガビン・ベイカー氏もその一人です。同氏は1999年から2017年まで米フィデリティに在籍し、同社のOTCポートフォリオを運用して同業の上位に立った実績を持つ人物です[^1]。報道やX投稿で伝えられるところでは、ベイカー氏は2027年にハイパースケーラー、つまりAmazonやGoogle、Microsoftといった巨大データセンターを運営する事業者の設備投資のうち、30から40%がメモリに向かうと述べたとされます[^2]。さらに、先端のHBMを量産できるのはマイクロン、SKハイニックス、サムスンの3社しかない、とも語ったと伝えられています。
ただ、この発言は本人の一次ソースを直接確認できておらず、ポッドキャストの要約サイトやX投稿を経由した二次情報である点を先に断っておきます。それでも、後で見るように独立系のアナリストが別々に出している推計とおおむね整合しているため、方向としては筋が通っていると私は受け止めています。記事の性格もはっきりさせておきます。本稿は2026年6月時点の公開情報に基づく筆者個人の考察です。後半で触れる「伸びる企業」の話は、確定した予測ではなく、投資や銘柄の推奨でもありません。私のスタンスは単純で、メモリの逼迫は単なる部材価格の問題ではなく、戦略物資の供給が少数の企業と地域に集中するという経済安全保障の問題として捉えたほうが、企業の打ち手が見えやすくなる、というものです。
この記事でわかること
- HBMとは何か、なぜAI用GPUに欠かせないのかを、たとえ話を交えて初心者向けに
- ボトルネックがどこにあるのか、三社寡占と先端パッケージングの能力制約という供給の地図
- 需要がどこまで膨らむのか、ハイパースケーラーの投資とAIフレーションという価格の波及
- メモリを軸にしたエコシステムのどこが伸びるのか、という筆者の見立て(投資助言ではありません)
- メモリが戦略物資になったことの経済安全保障上の意味
HBMとは何か、なぜAI用GPUに欠かせないのか
まずHBMから説明します。HBMはHigh Bandwidth Memory、日本語にすると広帯域メモリのことです。何が普通のメモリと違うかというと、DRAMという記憶用の半導体チップを何枚も縦に積み重ね、その積層をGPUのすぐ隣に置いて、とても太いデータの通り道でつないでいる点です。チップを縦に貫いて配線するために、TSV、つまりシリコン貫通電極(チップに微細な穴を開けて上下を電気的につなぐ縦の配線)という技術を使います。これによって、たくさんのデータを一度に、しかも近距離でやり取りできるようになります。
たとえ話をします。GPUを、本を猛烈な速さで読む読み手だと考えてください。読み手がどれだけ速くても、本棚が遠くにあって、しかも一冊ずつしか取りに行けなければ、読み手はいつも本待ちで手を止めることになります。普通のメモリは、いわばこの遠い倉庫です。これに対してHBMは、本棚そのものを読み手の机の真横に何段も積み上げ、ベルトコンベアを何本も同時に走らせるような仕組みです。読み手が待たされなくなる分、GPUは本来の速さを出し切れます。生成AIの学習や推論は、この本のやり取りが桁違いに多いので、HBMがなければGPUは宝の持ち腐れになってしまいます。半導体がどんな部品で組み合わさっているのかをもう少し基礎から押さえたい方は、半導体業界の構造入門を先に読むと、この先の話が立体的に見えてくるはずです。
ここで起きているのは、価値の重心の移動です。これまではいかに速い読み手、つまり高性能なGPUを作るかが勝負でした。ところが読み手が速くなりすぎて、いまや本棚をどれだけ速く、高く、机の近くに積み上げられるかが全体の速さを決めるようになりました。だからこそ、本棚を作れる企業に注目が集まっています。ベイカー氏が次はメモリだと言ったのも、煎じ詰めればこの一点に尽きると私は理解しています。
該非判定の属人化を、AIで解消する。
経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDなら、判定時間を約7割削減し、判定根拠を構造化データで保存できます。
ボトルネックはどこにあるのか、三社寡占と先端パッケージングの壁
では、その本棚を作れる企業はどれだけあるのか。ここが今回のいちばんの肝です。先端のHBMを量産できるのは、事実上マイクロン、SKハイニックス、サムスン電子の3社しかありません。Counterpoint Researchの集計によると、2026年第1四半期のHBM売上シェアはSKハイニックスが58%、サムスンが21%、マイクロンが21%でした[^6]。次世代のHBM4でもこの3社の構図は変わらず、NVIDIAの次世代GPUであるRubin向けのHBM4については、SKハイニックスが供給の約3分の2を確保すると報じられています[^7]。世界中のAIサーバーの心臓部を、たった3社が握っているわけです。
しかも、DRAMを積み上げただけではHBMは完成しません。積層したHBMを実際にGPUと一枚の基板の上で隣り合わせに配置し、太い配線でつなぐ工程が要ります。ここで使われるのが、台湾TSMCが得意とするCoWoSという先端パッケージング技術です。CoWoSはChip on Wafer on Substrateの略で、複数のチップを一枚の土台の上に高密度に並べて一体化する2.5次元実装と呼ばれる手法を指します。TrendForceによると、TSMCのCoWoSの生産能力は2024年末の月産およそ3万5千枚から、2026年末には月産13万枚規模へと拡張が進む見通しですが、それでも需要に追いつかず逼迫は2027年まで続くと予測されています[^11]。さらにHBMを縦に積む段数が増えるほど、熱で圧着して貼り合わせるボンディングの工程やTSVの歩留まりが壁になります。つまり、先端DRAMを作る能力、縦に積む能力、GPUの隣に並べるCoWoSの能力という複数の制約が、同時に効いてくる構造です。いちばん狭い隘路は時期によってHBMとCoWoSの間を行ったり来たりします。
供給がこれだけ少数の企業と特定地域に集中していると、価格や入手のしやすさだけでなく、地政学のリスクと輸出管理のリスクが調達に直結します。規制が更新されるたびに該非判定をやり直し、取引先と最終需要者を照合する作業は、取引が増えるほど人手では回りません。私たちが輸出管理AIエージェントのTRAFEEDを提供しているのは、この速さと安全の両立を仕組みで支える土台が要ると考えているからです。なおTRAFEEDは輸出管理や取引先審査を支援するもので、価格予測や投資助言を行うものではありません。
需要はどこまで膨らむのか、ハイパースケーラー投資とAIフレーション
供給が増えにくい一方で、需要のほうは火がついたままです。冒頭で触れたベイカー氏の30から40%という数字は、独立した第三者の推計ともよく合います。半導体調査のSemiAnalysisは、ハイパースケーラーの設備投資に占めるメモリの比率が、2023年から2024年ごろの8%前後から2026年には約30%へと数年で約4倍に高まると見ています[^3]。証券会社のCLSAはもっと強気で、2026年の35%から2027年には48%まで上がると推計していると報じられています[^4]。前提の置き方によって幅はありますが、メモリが設備投資の3割から4割を占めるという感覚は、複数の専門機関に共通しています。
この需要の強さは、メーカーの決算にもくっきり出ています。マイクロンの2026会計年度第3四半期決算は、同社の公式発表によると売上高が414億6千万ドルと過去最高を更新しました[^5]。粗利率はGAAPベースで80%を超え、非GAAPベースでは約85%に達したとされ、これはメモリ企業として極めて異例の高水準です。経営陣はHBMの2026年通期分が完売し、HBM4を主要顧客向けに量産出荷していると説明しています。SKハイニックスも2026年第1四半期に四半期で最高の利益を計上し、営業利益率は約72%に達したと報じられました[^12]。需要が供給を大きく上回っている状況を、利益率の数字がそのまま映し出しています。
問題は、この高騰がデータセンターの中にとどまらないことです。メーカーが利幅の大きいAIサーバー向けやHBMに生産能力を寄せた結果、一般用途のメモリまで品薄になりました。TrendForceの見通しでは、2026年第2四半期に一般的なDRAMの契約価格が前期比で58から63%、NANDが70から75%上昇するとされています[^8]。そのしわ寄せが、私たちが日々手にする製品に回ってきました。2026年6月25日、AppleはMacBookやiPadを最大300ドル値上げし、その理由としてメモリやストレージ半導体のコスト高騰を挙げました[^9]。MicrosoftもXboxのストレージとメモリのコストが倍以上になったとしてゲーム機を値上げしています。AI需要が起点となって半導体が高騰し、それが消費者向け製品にまで波及するこの現象は、メムフレーション、あるいはAIフレーションと呼ばれ始めました[^10]。AIフレーションとは、AIの需要が引き起こす価格上昇が経済の広い範囲に染み出していく状態を指す造語です。Appleの値上げの背景をもう少し詳しく見たい方はAppleの値上げと半導体コスト高騰を、GPUやメモリの価格が今後どこまで上がるかの見通しはGPU・メモリ価格の将来予測を合わせてどうぞ。
どこが伸びるのか、メモリを軸にしたエコシステム(筆者の見立て)
ここからは将来の話になります。あらためて断っておくと、以下は確定した予測ではなく、ここまで確認してきた構造から筆者が描く一つの見立てにすぎません。特定の企業の株を勧めるものでも、投資助言でもなく、その通りになる保証もありません。会社が伸びるかどうかを断言する気はなく、どの層に追い風が吹きやすいかという仮説として読んでください。
軸になるのは、やはり本棚を作る3社、マイクロン、SKハイニックス、サムスン電子です。HBMが完売し、史上例のない利益率を出している以上、当面の追い風はこの寡占構造に向かいやすいと私は見ています。ただし高すぎる利幅は、いつか需給が反転すれば一気にしぼむ循環産業の宿命も抱えていて、楽観だけでは語れません。次に注目しているのが、本棚を机の隣に並べる工程、つまりTSMCのCoWoSに代表される先端パッケージングです。GPUがいくらあっても、ここの枠が取れなければ製品は完成しません。さらにその一段下、HBMを縦に積む際の貼り合わせを担うボンディング装置のメーカー、たとえばオランダのBESIや台湾のASMPTといった企業も、積層段数が増えるほど出番が増えると考えています。検査を担うテスト装置メーカーや、GPUとメモリの間の帯域を広げるインターコネクトの専業企業も、メモリ中心の世界では存在感が増しそうです。
注意したいのは、不確実性の大きさです。マイクロンの異例の利益率がどこまで続くのか、HBM4の歩留まりが計画どおり上がるのか、ハイパースケーラーの投資がどこかで減速しないのか、顧客が自前で設計するカスタムHBMが広がって価格交渉の力関係が変わらないのか。どれも結果次第で、見立ては簡単に外れます。だからこそ、ここで挙げた企業名は答えではなく、構造から導いた仮説の例として受け取ってほしいのです。私自身、断定はしません。
戦略物資としてのメモリ、経済安全保障の含意
最後に、視点を一段引き上げます。HBMやメモリは、もはや単なる電子部品ではなく、戦略物資になりました。報道によれば、世界のメモリ出力のうちデータセンターが消費する割合は、数年前の2割から3割程度から、いまや約7割にまで高まっています[^9]。AIインフラがメモリを吸い上げる構造が定着し、その供給を3社と、東アジアの限られた地域がほぼ握っている。これは、価格や入手のしやすさ以前に、特定の企業や地域で何かが起きれば世界中のAI開発が同時に止まりかねないという、単一障害点のリスクを意味します。サムスンやSKハイニックスは、このメモリ不足が2027年以降も続く可能性があると警告していると報じられています[^13]。逼迫は短期では解けないという見立てです。
供給がこれだけ偏ると、メモリの調達は購買部門だけの仕事では済みません。先端半導体やGPU、HBMは経済安全保障の中核物資であり、供給の逼迫と価格の高騰は、調達リスクであると同時に、輸出管理や地政学のリスクと地続きです。米国の輸出規制が域外の企業にまで適用され始め、同盟国も足並みをそろえる流れの中では、日本企業も再輸出や転売の規制と無関係ではいられません。一件あたりの取引額が膨らむほど、見落とし一つが招く損失も大きくなります。属人的な確認から、仕組みによる確認へ切り替える必要があるのは、このためです。自社の調達と輸出管理を速く、かつ安全に両立させる体制をどう作るか、具体的に詰めたい方は個別相談から現状をお聞かせください。輸出管理の実務に即して、一緒に整理します。
もう一度だけ確認します。本記事の現状認識は2026年6月時点の公開情報に基づくものであり、ベイカー氏の発言やマイクロンの一部の数字は二次情報や公式発表に依拠していて、一次資料での最終確認に至っていない箇所があります。伸びる企業に関する記述は筆者個人の見解で、将来の株価や業績を保証・予言するものではなく、投資助言でもありません。これを参考にした判断の結果について、筆者および株式会社TIMEWELLは一切の責任を負いません。判断にあたっては、必ず最新の一次情報と、自社の状況に即した専門家の確認を併用してください。
参考
[^1]: Gavin Baker — Atreides Management(チーム紹介・経歴) — Atreides Management, LP — 2026-06-29閲覧 — https://atreidesmgmt.com/team/gavin-baker/ [^2]: The AI Cost Crisis: AI Is Becoming Memory(ベイカー氏の30〜40%・3社のみ発言の二次まとめ、X @PodcastAlphaX 2026-06-27経由、一次未確認) — suijeneris Substack — 2026-06-28 — https://suijeneris.substack.com/p/the-ai-cost-crisis-ai-becoming-memory [^3]: Memory will consume 30% of hyperscaler spending this year(SemiAnalysis推計) — Tom's Hardware — 2026 — https://www.tomshardware.com/tech-industry/memory-will-consume-30-percent-of-hyperscaler-spending-this-year [^4]: Memory to take 48% of hyperscaler capex by 2027(CLSA推計) — Crypto Briefing — 2026-06-23 — https://cryptobriefing.com/memory-share-hyperscaler-capex-2027/ [^5]: Micron Technology Fiscal Q3 2026 Results(売上414.6億ドル・粗利率84.6%・HBM完売・HBM4量産、Micron公式発表/SEC Form 8-K、※SEC原本は閲覧時403) — 米SEC / Micron Technology — 2026-06-24 — https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/0000723125/000072312526000013/a2026q3ex991-pressrelease.htm [^6]: Global DRAM and HBM Market Share(HBM売上シェアSKH58/Sam21/Mic21、HBM4予測54/28/18) — Counterpoint Research — 2026-06-25 — https://counterpointresearch.com/en/insights/global-dram-and-hbm-market-share [^7]: SK hynix reportedly to supply about two-thirds of NVIDIA HBM4 — TrendForce — 2026-01-28 — https://www.trendforce.com/news/2026/01/28/news-sk-hynix-reportedly-to-supply-about-two-thirds-of-nvidia-hbm4-samsung-targets-early-delivery/ [^8]: DRAM and NAND contract prices to climb again in Q2(DRAM+58〜63%・NAND+70〜75%、TrendForce集計) — Tom's Hardware — 2026-06-01 — https://www.tomshardware.com/pc-components/dram/dram-and-nand-contract-prices-to-climb-again-in-q2 [^9]: Apple raises prices on MacBook and iPad, citing memory chip costs(Apple最大300ドル値上げ・Microsoft Xbox値上げ・データセンターがメモリ約7割を消費) — CBC News — 2026-06-25 — https://www.cbc.ca/news/business/apple-price-hike-ipad-macbook-ai-memory-chip-2026-9.7248577 [^10]: Memflation: the semiconductor boom's hidden cost(メムフレーション/AIフレーションの用語、Gartner予測に言及) — TechHQ — 2026 — https://techhq.com/news/memflation-semiconductor-boom-hidden-cost/ [^11]: TSMC CoWoS capacity expansion(月産3.5万枚から13万枚へ拡張、逼迫2027継続) — TrendForce — 2026-04-30 — https://www.trendforce.com/presscenter/news/20260430-13028.html [^12]: SK Hynix posts record earnings on AI memory demand(2026年Q1最高益・営業利益率約72%) — CNBC — 2026-04-23 — https://www.cnbc.com/2026/04/23/sk-hynix-earnings-ai-memory-shortage-hbm-demand.html [^13]: Samsung and SK Hynix warn AI-driven memory shortages could last until 2027 and beyond — Tom's Hardware — 2026 — https://www.tomshardware.com/tech-industry/artificial-intelligence/samsung-and-sk-hynix-warn-ai-driven-memory-shortages-could-last-until-2027-and-beyond
