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半導体業界の構造入門:設計・製造・装置・素材・メモリを初心者向けに

2026-06-21濱本 隆太

半導体は誰がどうやって作っているのか。砂から3か月かけて作る工程、「2nm」が実は寸法ではない話、世界に一社しかない装置メーカー、AIの心臓HBMまで、料理やクッキーに例えながら初心者向けに解説します。読んだら誰かに話したくなる半導体入門です。

半導体業界の構造入門:設計・製造・装置・素材・メモリを初心者向けに
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こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。

いま手元のスマホの中には、米粒ほどのチップに何百億個ものスイッチが詰まっています。最新のAI向けチップだと、その数はなんと2,000億個を超える。しかも、それを作るのに3か月、工程数にして最大1,400もの段階を踏みます。私たちが当たり前のように使っているこの「砂粒」は、人類が作る工業製品の中でも飛び抜けて複雑な代物なのです。

半導体と経済安全保障の全体地図では、最先端の半導体は一社では作れず、世界中の会社が分業しているという話をしました。この記事では、その「どうやって作るのか」「誰が作っているのか」を一段深く掘り下げます。専門用語は出てきますが、すべて料理やクッキーに例えながら進めるので、構えずに読んでください。読み終わるころには、半導体のニュースが立体的に見えて、つい誰かに話したくなっているはずです。

そもそも半導体とは何で、なぜ「現代の石油」なのか

半導体とは、電気を「通す」金属と「通さない」絶縁体の中間の性質を持つ物質のことで、シリコン(ケイ素=砂の主成分)が代表選手です。この中途半端な性質を利用して、電気のオンとオフ、つまり0と1のスイッチを極小サイズで大量に作り込んだものが、私たちが「半導体チップ」と呼んでいるものです。

どれくらい極小かというと、1971年に世界初の商用マイクロプロセッサとして登場したIntel 4004のスイッチ(トランジスタ)はわずか2,300個でした。それが、2024年のNVIDIAのBlackwellというAIチップでは2,080億個。半世紀で約9,000万倍です。日本の人口の1,700倍を超える数のスイッチを、切手1枚ほどの面積に詰め込んでいる、と言えば狂気じみたスケールが伝わるでしょうか。

このスイッチが速く・省電力で動くほど、AIもスマホも賢くなる。だから世界中が半導体を奪い合う。石油が20世紀の産業の血液だったように、半導体は21世紀の血液になりました。「現代の石油」と呼ばれるのはそのためです。

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チップは「3か月・1,000工程」の超大作

では、その砂粒はどうやって作られるのか。ざっくり7つの工程に分けて、料理に例えながらたどってみます。

最初はウェハー製造。超高純度のシリコンを約1,400度で溶かし、種となる結晶を浸してゆっくり回しながら引き上げると、原子が整列した巨大な「氷砂糖の柱」が育ちます。これを薄い円盤に切ったものがウェハーで、チップの土台になります。次が一番の山場、露光(フォトリソグラフィ)。回路の「原版」に光を当て、レンズで縮小してウェハー上の感光剤に焼き付ける、いわばシルクスクリーン印刷です。最先端では波長13.5nmのEUV(極端紫外線)という特殊な光を使うのですが、この光の作り方がすごい。真空中に溶けたスズの粒を毎秒5万回も射出し、そこへ強力なレーザーを2発撃ち込んでプラズマ化させ、13.5nmの光を絞り出す。SFのような工程が、いまこの瞬間も工場で回っています。

焼き付けたあとは、エッチングで銅版画のように不要な部分を削り、イオン注入で不純物を狙った深さに撃ち込んで性質を調整し、成膜で新しい層を塗り重ねる。この「印刷し、削り、打ち込み、積む」という流れを何十回も繰り返して、回路を立体的に積み上げていきます。これが「総工程1,000超」の正体です。最後にダイシングで板チョコのように一粒ずつ切り分け、パッケージングで端子付きのケースに収めて、ようやく「使える部品」になります。

砂から始まって、ここまで約3か月。スマホを買うとき、その中の一粒のチップが3か月前に台湾の工場で生まれていた、と想像すると、少し見方が変わりませんか。

「2nm」は、実は寸法じゃない

半導体のニュースで必ず出てくるのが「2nm」「3nm」という言葉です。多くの人が「回路の幅が2ナノメートルなんだ」と思っていますが、これは正確には間違いです。

確かに1990年代までは、この数字が実際の加工寸法とほぼ一致していました。ところが微細化が進むうちに対応関係が崩れ、いまや「2nm」世代でも回路の実際の間隔は約45nmあります。名前の「2」とは桁が違う。つまり現在のノード名は、物理的な寸法ではなく「前の世代より進んでいる」ことを示すブランド名・等級名なのです。服のサイズの「M」「L」を思い浮かべてください。昔は実寸だったかもしれませんが、今は「だいたいこのくらい高性能」を示す呼び名になっている。これを知っているだけで、ニュースの解像度がぐっと上がります。

ちなみに、有名な「ムーアの法則(チップの性能は2年で倍になる)」は、いま死にかけています。NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは「ムーアの法則は終わった」と断言し、TSMCは「減速したが死んでいない」と反論する。共通しているのは「微細化は続くが、もう安くはならない」という認識です。2nmが難しいのは、トランジスタの構造、電源の配り方、露光装置の3つを同時に刷新する必要があるから。最先端ほど、技術もコストも崖を登るような世界になっています。

一社では作れない――分業の鎖と「すべての道はTSMCに通ず」

ここからが業界構造の核心です。最先端の半導体は、一社では絶対に作れません。高級レストランのフルコースのように、役割がきれいに分かれています。

イギリスのARMが回路設計の「基本レシピ」となる知的財産を提供し、NVIDIAやApple、AMDといった設計専門の会社(ファブレスと呼びます。fab=工場がless=ない、の意味)がそれを使ってチップを設計する。彼らは工場を持たないので、製造は台湾のTSMCに委託します。そのTSMCも、最先端チップを刻むにはオランダのASMLが作る露光装置がなければ何もできず、さらにその工場は信越化学やSUMCOといった日本企業が世界の約6割を握るシリコンウェハーの上で動いている。料理に例えれば、ARMがレシピの基本、NVIDIAたちが献立を考える料理人、TSMCが世界で唯一その超難料理を仕上げられる厨房、ASMLがその厨房にしか置けない特殊オーブン、日本勢が最高級の食材の供給元、というわけです。

この鎖で圧倒的に重要なのがTSMCです。世界中の設計会社の図面が、最後はこの一つの厨房に集まってくる。ファウンドリ(製造受託)の市場シェアは7割を超え、最先端に限れば9割超を握ります。古代ローマの「すべての道はローマに通ず」になぞらえて、「すべての設計はTSMCに通ず」と言ってもいい。象徴的なのが、2025年にNVIDIAがAppleを抜いてTSMCの最大顧客になったことです。NVIDIAからの売上は約234億ドル、TSMC全体の約19%に達しました。スマホのためにあった世界最高の製造枠が、AIのために使われるようになった。半導体の主役交代が、TSMCの注文票にくっきり表れたのです。

業界の「ツルハシ屋」ASMLと、日本の隠れた支配力

そのTSMCですら頭が上がらない相手がいます。オランダのASMLです。最先端チップに必須のEUV露光装置を作れるのは、世界でこの一社だけ。シェアは文字どおり100%です。1台の価格は標準機で200〜260億円、最新のHigh-NA型になると約400億円。大きさは路線バス並みです。

ここで思い出すのが、「ゴールドラッシュで一番儲けたのは、金を掘った人ではなく、ツルハシとジーンズを売った人だった」という言い回しです。AIブームに沸く半導体業界で、まさにそのツルハシを世界で唯一売っているのがASML。NVIDIAやTSMCがどれだけ華々しくても、ASMLが装置を売ってくれなければ最先端の工場は一歩も動きません。一般の人はNVIDIAやAppleの名前は知っていても、ASMLは知らない。「あなたが名前も知らない、世界一重要な会社」――これは飲み会で確実にウケる話です。

そして、日本に出番がないかというと、まったく逆。製造装置では東京エレクトロンが世界3位、回路の元になる膜を塗る装置で世界シェア9割近くを持ち、素材ではシリコンウェハーを信越化学とSUMCOの日本2社で世界の約6割、回路を焼くのに不可欠なフォトレジスト(感光剤)に至っては日本勢が世界の約9割を握ります。つまり半導体は「アメリカが設計し、台湾が作り、オランダの装置と日本の素材がそれを支える」という、見事な国際分業で成り立っている。表舞台には出ませんが、日本は半導体の「縁の下」を握っているのです。

AIの心臓「HBM」と、最後の関所「CoWoS」

最後に、AI時代に一躍主役へ躍り出た二つの存在を紹介します。

一つはHBM(広帯域メモリ)。これはメモリを何層も積み重ね、データを一気にやり取りできるようにした特殊な部品です。どんなに頭のいいGPUでも、手元の資料をめくるのが遅ければ実力を出せない。HBMは、その天才の隣で猛烈な速さで資料をめくって渡す秘書のような存在です。これを量産できるのは韓国のSK Hynix、Samsung、米国のMicronの3社だけで、なかでもSK Hynixは「今後数年分まで完売」と言うほどの品薄。AIブームの隠れた大勝者です。

もう一つが、意外なボトルネック「CoWoS」。これはTSMCの先端パッケージング技術で、GPU本体と複数のHBMを一枚の土台にぎゅっと載せて一体化する工程です。AIチップは、これをやらないと完成しない。ところが大規模に量産できるのが事実上TSMCだけなので、「TSMCがCoWoSを処理できる枚数=NVIDIAが出荷できるGPUの数」という関係になってしまいました。料理人も食材も揃っているのに、盛り付け台が一つしかない高級レストラン。これがAIチップ不足の正体の一つです。日本のキオクシアも、生成AI向けのデータ保存需要でNANDメモリが売れに売れ、2026年6月には時価総額で国内上場企業のトップに立ちました。

ここで一つ、業界の経済を理解する鍵になる「歩留まり」の話を。歩留まりとは、ウェハー1枚から取れるチップのうち、ちゃんと動く良品の割合です。クッキーを焼くところを想像してください。天板いっぱいに並べて焼くと何枚かは焦げますが、天板の焼成コストは焦げが何枚でも変わらない。だから焦げが少ないほど、食べられる1枚あたりの値段は安くなる。しかもクッキーが大きいほど、一つ焦げたときの損が大きい。だから業界は、巨大な一枚岩のチップをやめ、小さなチップを「レゴ」のように組み合わせる「チップレット」方式へ移りました。一枚岩だと一か所の欠陥で全部パーですが、レゴなら不良ブロックだけ捨てればいい。先端ファブの建設費が2〜5兆円、2nmチップの設計費だけで約7億ドルかかる世界では、この歩留まりの数%が天国と地獄を分けるのです。

ここまでで、半導体が「設計・製造・装置・素材・メモリ」という役割の分業でできていること、そしてTSMCとASMLという二つの急所に依存していることが見えたはずです。次は、その役割を担う具体的な企業たちが、互いにどう競い、どう依存し合っているのかを、主要企業の相関図で描きます。構造がわかれば力関係がわかる。力関係がわかれば、なぜこれが国家の問題になるのかが見えてきます。

参考:工程数・期間は米半導体工業会(SIA)、TSMCのシェアや各社の数値はTrendForce・CNBC・companiesmarketcap、トランジスタ数や装置価格はTechInsights・ASML・Tom's Hardware、キオクシアの時価総額は日本経済新聞(いずれも2025〜2026年)の報道に基づきます。

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