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起業で一番苦労するのは資金繰り|黒字倒産を避ける考え方と、資本金はいくら積むべきか

公開2026-07-26濱本 隆太

起業して最初に、そして最後まで苦しむのは資金繰りです。損益計算書では黒字なのに現金が尽きて倒産する「黒字倒産」がなぜ起きるのか、入金と支払のタイミングのズレと運転資金の考え方をかみ砕いたうえで、資金ショートを避ける打ち手と、資本金はいくら積むべきか(信用・融資・消費税・許認可の観点)を、国税庁など公的な一次情報に基づいてこれから起業する方向けに整理します。

起業で一番苦労するのは資金繰り|黒字倒産を避ける考え方と、資本金はいくら積むべきか
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こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。

起業に興味を持つ方と話していると、「事業のアイデア」や「マーケティング」の話で盛り上がることが多いです。もちろん大事です。ただ、実際に会社を立ち上げてから、そして立ち上げたあともずっと、経営者を眠らせないのは、たいていもっと地味なものです。お金が回るかどうか、つまり資金繰りです。

私自身、MBAで財務を学んだときは、損益計算書(PL)と貸借対照表(BS)とキャッシュフロー計算書(CF)を、いわば横一列に並んだ三兄弟のように習いました。財務3表という言い方をします。それぞれの読み方を覚えて、試験ではどれも同じくらいの重さで問われます。ところが、いざ自分で事業を持ってみると、この三つはまったく対等ではないと痛感します。日々の生死を分けるのは、圧倒的に現金の動き、キャッシュフローだからです。

この記事は、これから起業する方、あるいは起業して間もない方に向けて書いています。まず、なぜ現金が尽きるのか、黒字なのに倒産するとはどういうことかを、用語からかみ砕いて説明します。そのうえで、資金ショートを避けるための打ち手を並べ、最後に多くの人が悩む「資本金はいくら積むべきか」を、信用・融資・消費税・許認可という四つの観点から整理します。数字とお金の話なので、確かめられた事実と、あくまで一般的な目安とを、はっきり分けて書くつもりです。ちなみに、自分がAIやデジタルをどのくらい使いこなせそうかを起業前に把握しておきたい方は、AIリテラシーの無料診断を先に済ませておくと、身軽な会社づくりの話がより具体的に読めます。

なお、この記事は一般的な情報の整理であって、個別の税務や法務の助言ではありません。実際の金額や手続きの判断は、必ず税理士・公認会計士・社会保険労務士・行政書士・弁護士などの専門家にご相談ください。

MBAでは横並びでも、現場で刺さるのはキャッシュフロー

財務3表を、ごく簡単におさらいします。専門用語が続くところなので、たとえを添えながらいきます。

損益計算書(PL)は、一定期間にいくら儲かったかを示す表です。売上から費用を引いて、最後に利益が残ります。会社の「成績表」のようなものだと考えてください。貸借対照表(BS)は、ある時点で会社が何を持っていて(資産)、いくら借りていて(負債)、元手がいくら残っているか(純資産)を示します。会社の「体格や体力の健康診断書」に近いです。そしてキャッシュフロー計算書(CF)は、期間中に現金が実際にどれだけ入って、どれだけ出ていったかを示します。会社の「血液の流れ」だと思ってください。

学ぶときは、この三つを並べて、つながりを理解することが大切だと教わります。それ自体は正しいです。ただ、事業を存続させられるかという一点に絞ると、優先順位ははっきりしています。手元の現金が尽きた瞬間に、会社は止まるからです。どれだけPLが黒字でも、どれだけBS上の資産が大きくても、支払うべきお金を支払えなければ、そこで終わります。人間でいえば、健康診断の数値がよくても、血液が回らなくなれば命に関わるのと同じです。

だから起業の現場では、「今月いくら儲かったか」よりも先に、「今、口座にいくらあって、来月末まで持つのか」を見る癖がつきます。利益は会計上の概念で、あとから計算されるものです。現金は、今そこにあるかないか、それだけです。この感覚の差が、財務を教科書で学んだ人と、実際に資金繰りに追われた人との、いちばん大きな違いだと感じます。

なぜ黒字なのに現金が尽きるのか

ここが、この記事のいちばんの核心です。「黒字倒産」という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。帳簿の上では利益が出ているのに、現金が足りなくなって支払いができず、倒産してしまうことを指します。一見すると矛盾しているようですが、仕組みを分解すると、むしろ起こって当然だとわかります。

原因の中心にあるのは、入金と支払いのタイミングのズレです。商売の多くは、その場で現金を受け取る形にはなっていません。仕事を納めてから、請求書を出して、取引先の締め日と支払日を経て、ようやくお金が振り込まれます。この「売上が立ってから入金されるまでの期間」を、入金サイトと呼びます。一方で、こちらが払うべきお金、たとえば材料の仕入代金、外注費、従業員の給料、事務所の家賃などは、入金を待ってはくれません。むしろ先に出ていくことが多いです。この「支払いまでの期間」を支払サイトと呼びます。

言葉だけだと掴みにくいので、簡単な例で並べてみます。

日付 出来事 現金の動き 手元の現金
4月10日 材料を仕入れ、仕入代金を支払う −60万円 40万円
4月20日 外注費・人件費を支払う −30万円 10万円
4月30日 100万円の仕事を納品し、請求書を発行(売上計上) ±0円(入金はまだ) 10万円
5月31日 ようやく代金100万円が入金される +100万円 110万円

※手元の現金は、期初に100万円あったと仮定した場合の推移です。

この例では、4月末の時点で100万円の売上が立っていて、PL上は黒字です。ところが現金は10万円しか残っていません。もしこの間に、想定外の支払いが20万円でも発生したら、その瞬間に資金がショートします。売上はある、利益も出る予定、それでも払えない。これが黒字倒産の正体です。悪いことをしたわけでも、商売が下手だったわけでもなく、単にお金が入る前に出ていったというだけで起こります1

そして厄介なのは、事業が伸びているときほど、この問題が深刻になることです。注文が増えれば、そのぶん先に仕入れる材料も増え、先に払う外注費も人件費も増えます。入金は相変わらず1〜2か月先です。つまり成長すればするほど、入金を待つ間に立て替えなければならない金額がふくらんでいきます。この、入金前の支払いを立て替えるために常に手元に置いておく必要のある現金を、運転資金と呼びます。

運転資金は、ざっくり次のように捉えられます。

運転資金 = 売上債権(売掛金など、まだ入金されていない売上)+ 棚卸資産(在庫)− 仕入債務(買掛金など、まだ払っていない仕入れ)

売掛金と在庫は、いわば「現金になる前の状態で寝ているお金」です。買掛金は「まだ払わずに済んでいるお金」なので、その分は助けになります。差し引きで残る金額が、事業を回すために自腹で用意しておかなければならない現金です。売上が2倍になれば、この運転資金もおおむね2倍必要になる、と考えておくと感覚を外しません1。「注文が増えて嬉しいはずなのに、なぜか口座が寂しくなっていく」という起業家の悲鳴は、ほとんどがここから来ています。

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資金ショートを避けるための打ち手

では、どうすれば現金が尽きる事態を避けられるのか。魔法はありませんが、地に足のついた打ち手はいくつもあります。順番に見ていきます。

資金繰り表を先につくる

まず最初にやるべきは、資金繰り表をつくることです。これは、これから数か月先までの入金と支払いの予定を、月ごとに並べた表です。損益計算書とは別物で、あくまで「現金がいつ、いくら動くか」だけを追いかけます。来月はいくら入って、いくら出て、月末に口座にいくら残るのか。それを3か月から半年先まで見通しておくと、「このままだと8月末に足りなくなる」という危険信号を、何か月も前に察知できます。

資金繰りで倒れる会社の多くは、この表を持っていません。持っていないから、口座残高が減ってきて初めて慌てます。慌ててから融資を申し込んでも、審査には時間がかかり、間に合わないことがあります。逆に、早めに気づけば打てる手はたくさんあります。資金繰り表は、難しい会計知識がなくてもExcelで組めます。起業したその日から、まずこれを回すことをおすすめします。

借りられるうちに借りておく

日本で創業するときに、多くの起業家がまず検討するのが、日本政策金融公庫の創業者向け融資です。政府系の金融機関で、実績のない創業期でも相談に乗ってくれる窓口として知られています。このほか、自治体と信用保証協会が連携した制度融資という選択肢もあります。融資の限度額や自己資金の要件は制度改定が頻繁にあるため、金額の詳細は必ず公式サイトの最新情報で確認してください2

ここで大事な考え方が一つあります。お金は、苦しくなってからではなく、余裕があるうちに借りておくほうがよい、ということです。業績が悪くなってからでは審査が通りにくくなりますし、そもそも申し込む余力すら失っていることがあります。創業融資は、事業が計画どおり立ち上がる前提で、余裕を持って手当てしておくのが定石です。借りたお金を使わずに置いておけば利息の負担はありますが、その利息は、資金ショートで会社を失うリスクへの保険料だと考えると、決して高くありません。

補助金・助成金は「早めに、でも当てにしすぎない」

補助金や助成金は、返さなくてよいお金なので魅力的です。創業や設備投資、雇用に関するものなど種類も多く、活用できるなら活用すべきです。ただし、資金繰りの観点では二つ注意点があります。

一つは、多くの補助金が後払い(精算払い)だということです。つまり、先に自分でお金を使って、あとから対象経費の一部が戻ってくる仕組みが一般的です。ですから、補助金を当てにして先に発注すると、戻ってくるまでの間の立替え資金、いわゆるつなぎ資金が別途必要になります。「補助金が出るから大丈夫」と思っていたら、入金までの数か月で資金がショートした、という笑えない話が実際にあります。

もう一つは、申請の締切と採択のタイミングです。募集期間が限られていたり、申請してから採択・交付までに数か月かかったりします。だからこそ、使うと決めたものは早めに動くことが大事です。制度の具体的な条件や限度額は年度ごとに変わるので、中小企業庁や各自治体の最新の公式情報で確認し、必要なら中小企業診断士などの専門家に相談してください。

自己資金と資本金で「体の厚み」をつくる

融資も補助金も外から入れるお金ですが、いちばんの土台は、自分で用意する自己資金と、会社の元手である資本金です。ここが薄いと、少しの入金遅れや想定外の出費で、すぐに底をついてしまいます。逆に、ここに厚みがあれば、多少の荒波は乗り越えられます。

この自己資金と資本金をどう考えるかは、次の章のテーマそのものです。ここで章を改めて、じっくり整理します。

自社の資金繰りをどう設計し、どこにお金を残すべきか。この見立ては、起業直後ほど一人で抱えると危ういものです。私たちがWARPというAIコンサルティングで経営者に伴走するときも、最初に一緒に見るのは、たいていこの現金の流れです。特に、これから創業する方や創業して間もない方向けには、WARPアントレ(/warp/entre)という枠で、事業計画と資金の設計を並走して支えています。派手なマーケティングの前に、まず現金が回る形をつくる。順番を間違えないことが、最初の一年を生き延びるコツだと考えています。

資本金はいくら積むべきか

「資本金はいくらにすればいいですか」という質問は、起業相談で必ずと言っていいほど出てきます。結論から言うと、唯一の正解はありません。ただ、判断の軸ははっきりしています。信用、運転資金、消費税、許認可という四つの観点から逆算するのが、実務的なやり方です。順に見ていきます。

1円でも設立はできる。ただし信用の問題が残る

まず制度の話です。現在の会社法には、最低資本金の制度がありません。かつては株式会社なら1000万円といった最低ラインがありましたが、それは撤廃されています。そのため、理屈のうえでは資本金1円でも株式会社や合同会社を設立できるとされています3。この点は起業のハードルを大きく下げました。

ただし「設立できる」と「うまくいく」は別の話です。資本金は登記されて、誰でも見ることができる情報です。取引先が新しい相手と取引を始めるとき、あるいは金融機関が融資を検討するとき、資本金は「この会社にどれくらいの体力があるか」を測る一つの目安として見られます。資本金1円の会社と、資本金300万円の会社が同じ提案書を出してきたら、どうしても後者のほうが安心感を持たれます。信用がものを言う取引ほど、この差は無視できません。さらに現実的な問題として、資本金は事業の元手そのものなので、極端に少ないと、そもそも運転資金が足りず、事業を始めた瞬間から資金繰りに苦しむことになります。

消費税の免税ラインという分岐点

資本金を決めるうえで、多くの人が知らずに損をしがちなのが、消費税との関係です。ここは国税庁が明確に基準を示している、数少ない「確かめられる数字」なので、正確に押さえておく価値があります。

消費税には、事業者免税点制度という仕組みがあります。基準期間(法人の場合は前々事業年度)の課税売上高が1000万円以下であれば、原則として消費税の納税義務が免除されます4。ところが、設立したばかりの会社には、前々事業年度がありません。この基準期間がない新設法人については、別のものさしが使われます。それが資本金です。

具体的には、事業年度開始の日における資本金が1000万円未満であれば、新設法人は原則として第1期・第2期の消費税の納税義務が免除されます。逆に、資本金が1000万円以上あると、その事業年度は課税事業者となり、最初から消費税を納める必要が出てきます5。この差は、創業初期のキャッシュフローに直接効いてきます。だからこそ、特別な理由がなければ、資本金を1000万円未満に抑える設計がよく選ばれるわけです。

ただし、これには重要な例外があります。資本金が1000万円未満でも、次のいずれかに当てはまると課税事業者になります。国税庁が挙げている主なものは以下のとおりです45

免税にならない主な例外 内容
特定期間の売上超過 特定期間(前事業年度開始から6か月間)の課税売上高が1000万円を超える場合
インボイス登録 適格請求書発行事業者(インボイス)として登録している場合
課税事業者の選択 課税事業者選択届出書を提出している場合
特定新規設立法人 課税売上高5億円超などの者に50%超を支配される新設法人に該当する場合

特にインボイス登録は要注意です。取引先が課税事業者ばかりで、インボイスの発行を求められる業態だと、免税のメリットよりインボイス登録の必要性が上回ることがあります。免税ラインを取りにいくべきか、それともインボイス登録を優先すべきかは、事業の相手や業態によって答えが変わります。ここは自己判断せず、税理士に相談して決めることを強くおすすめします。

法人税の中小企業向け特例は資本金1億円が境目

もう一つ、規模が大きくなってから効いてくる基準にも触れておきます。将来、増資を検討する段階で知っておくと役立つ話です。

各事業年度終了時の資本金が1億円以下の法人は「中小法人」として扱われ、法人税の軽減税率をはじめ、さまざまな中小企業向けの特例の対象になります(ただし、前3事業年度の平均所得が15億円を超える適用除外事業者は対象から外れます)6。裏を返すと、資本金が1億円を超えると、これら多くの優遇から外れます。増資は会社の信用を高める一方で、税務上は不利になる面もある、ということです。創業時にはまだ遠い話かもしれませんが、「資本金を増やせば増やすほどよい」わけではない、という感覚は持っておくとよいと思います。

業種によっては許認可の財産要件がある

最後に、業種の壁です。ある種の事業は、許認可を取らないと始められません。そして許認可の中には、一定の財産を持っていることを条件とするものがあります。これを財産要件と呼びます。たとえば建設業や、人材を扱う職業紹介・労働者派遣の事業などでは、自己資本や資産について一定額以上を求められるとされています。また、外国人が代表者として起業し在留資格「経営・管理」を取る場合にも、事業規模に関する要件があるとされています。

これらの財産要件の金額は、業種ごとに大きく異なり、かつ制度改定で変わることがあります。特に在留資格「経営・管理」の金額要件は、近年見直しの議論が続いており、数字が動きやすい領域です。ですから、この記事では具体的な金額の断定は避けます。自分がやろうとしている事業に許認可が必要かどうか、必要ならどれくらいの財産要件があるのかは、必ず所管する官庁(建設業なら国土交通省や各都道府県、人材関連なら厚生労働省や労働局、在留資格なら出入国在留管理庁)の最新の公式情報を確認し、行政書士など専門家に相談したうえで、資本金を決めてください7。許認可の財産要件がある業種では、その要件が事実上の資本金の下限になります。

まとめると、逆算で決める

四つの観点を踏まえると、資本金の決め方は「逆算」に尽きます。当面の運転資金として最低いくら必要か、消費税の免税ラインをどう扱うか、許認可の財産要件はあるか、取引先や融資先にどう見られたいか。これらを積み上げていくと、自然と自社にとっての適正な帯が見えてきます。参考までに、あくまで一般的な目安として、事業タイプ別のイメージを表にしておきます。実際の金額は事情によって変わるので、必ず専門家と相談して決めてください。

事業タイプ 資本金の一般的な目安(あくまでイメージ) 主な理由
ソフト系・無店舗(Web・受託・コンサル等) 少額でも可(数万〜100万円程度から検討されることが多い) 設備投資が小さく運転資金が軽い。ただし信用面で極端に低くしすぎない配慮は要る
在庫・仕入れを持つ物販 運転資金を厚めに(在庫と入金待ちの立替え分を積む) 仕入れが先行し入金が後になるため、運転資金の負担が大きい
店舗・設備を構える事業 初期投資+数か月分の固定費を確保 家賃・内装・人件費など固定費が先に走る
許認可に財産要件がある業種 財産要件が事実上の下限になる 建設業・人材派遣・職業紹介など。要件額は所管官庁の最新情報で確認
消費税の免税を意識する場合 いずれも1000万円未満に抑える設計が多い 資本金1000万円以上だと新設法人でも初年度から課税事業者になる

ソフト系なら「小さく重くない会社」でスタートできる

ここまでの話を、これから多い起業スタイル、つまりお店も工場も持たず、大きな雇用も抱えない、いわゆるソフト系のビジネスに引きつけて整理します。Webサービス、受託開発、コンサルティング、コンテンツ制作といった、自分の頭と手が資本になる事業です。

こうした事業の強みは、固定費が軽いことです。大きな設備も在庫もいらないので、初期投資が小さくて済みます。ということは、運転資金の負担も相対的に軽く、資本金も無理に厚く積む必要が薄い。前の章の表でいえば、いちばん身軽に始められるタイプです。もちろん信用面で極端に低くしすぎない配慮は要りますが、数百万円を用意しなければ始められない、という業種に比べれば、起業のハードルは格段に下がります。

そのうえで、ソフト系ならではの資金繰りの工夫があります。それが、役員報酬の設計です。ひとりや少人数で始める会社では、社長である自分の役員報酬が、会社の固定費の中でも大きな比重を占めます。ここを抑えれば、会社から出ていく毎月の現金を圧縮でき、資金繰りにゆとりが生まれます。役員報酬は本人の社会保険料にも連動するため、報酬を抑えると、会社負担・本人負担の社会保険料も抑えられます。創業初期に会社を身軽に保つうえで、これは効果の大きいレバーです。

ただし、ここに一つ、必ず知っておくべきルールがあります。役員報酬は、いつでも自由に増やしたり減らしたりできるわけではない、という点です。役員報酬を会社の経費(損金)に算入するには、原則として「定期同額給与」などの要件を満たす必要があります8。定期同額給与とは、支給の時期が1か月以下の一定期間ごとで、かつ各回の支給額が同額であるものを指します。そして金額の改定は、原則として事業年度(会計期間)が始まった日から3か月を経過する日までに行わなければなりません。この期限を過ぎてから期の途中で報酬を変えると、臨時改定事由や業績悪化改定事由といった例外に当てはまらない限り、定期同額給与とは認められず、増減させた部分が損金に算入できなくなることがあります8

つまり、「今月は儲かったから社長の報酬を上げよう」「今月は苦しいから減らそう」という思いつきの変更は、税務上は原則として通りません。役員報酬は、その事業年度が始まる前後の早い段階で、一年間の見通しを立てて、腰を据えて決めるものだと考えてください。ここを軽く見て期中に動かすと、思わぬ税負担が生じます。個人の生活費、所得税・住民税、社会保険料、そして将来の融資審査での見られ方まで含めた最適なバランスは、事情によって本当に人それぞれです。役員報酬の設計は、税理士や社会保険労務士に相談しながら、最初にきちんと組むことを強くおすすめします。

なお、起業家としての土台づくりや、経営者がこれからどんな力を磨くべきかについては、起業家育成の考え方をまとめた記事でも掘り下げています。あわせて読むと、お金の設計と人の成長の両輪が見えてくると思います。

最初の一歩を、どこに置くか

長くなったので、これから起業する方に向けて、最初の一歩を具体的に置いておきます。

まず、資金繰り表を一枚つくってください。会計ソフトも顧問税理士もまだいなくて構いません。Excelで、これから半年分の「入金予定」と「支払予定」を月ごとに並べ、月末の残高を計算するだけです。これを持っているかどうかで、危機に気づける時期が何か月も変わります。

次に、資本金を四つの観点から逆算してください。当面の運転資金、消費税の免税ライン(1000万円未満かどうか)、許認可の財産要件の有無、そして取引先や融資先からの見られ方。この四つを紙に書き出して積み上げれば、自社にとっての適正な帯が見えてきます。数字の確定は、税理士に相談してから決めれば十分です。

そして、経理や税務の一部は、早い段階からAIやクラウドの仕組みに任せて、身軽な体制で始めることをおすすめします。ひとり社長が資金繰り表づくりと事業の両方で消耗するのは、もったいないからです。経理そのものをどう軽くするかは、AI駆動経理の考え方をまとめた記事で具体的に整理しているので、あわせて参考にしてください。

会社の数字の設計、特に創業初期の資金繰りと資本金・役員報酬の組み立ては、一度で正解にたどり着くものではありません。事業が動き出せば前提も変わります。もし、ここで手が止まっているなら、WARPの担当までご相談ください。元大手企業でDXやデータ戦略を担ってきた専門家が、事業計画から資金の設計まで、月次で伴走します。特にこれから創業する方には、WARPアントレの枠で、最初の資金繰りが回る形をつくるところから一緒に取り組んでいます。アイデアを形にする前に、まず現金が尽きない仕組みを整える。それが、起業という長い勝負を続けるための、いちばん確かな一歩だと思います。

まとめ

最後に、要点を整理します。

  • 財務3表は横並びで学びますが、事業の生死を分けるのは圧倒的にキャッシュフロー(現金の動き)です。利益はあとから計算される概念で、現金は今あるかないかがすべてです
  • 黒字倒産は、入金と支払いのタイミングのズレから起こります。売上が立っても入金は後日、支払いは先行するため、この立替え(運転資金)が足りなくなると、帳簿が黒字でも資金がショートします。事業が伸びるときほど運転資金は増えます
  • 資金ショートを避ける打ち手は、資金繰り表を先につくる、余裕があるうちに創業融資を手当てする、補助金は早めに動きつつ後払い(精算払い)を前提につなぎ資金を用意する、自己資金と資本金で体の厚みをつくる、の四つです
  • 資本金は1円でも設立できるとされますが(最新はe-Govの会社法原文で確認)、信用・運転資金・消費税・許認可の四つから逆算するのが実務です。新設法人は資本金1000万円未満なら原則として第1期・第2期の消費税が免税になりますが、特定期間の売上超過やインボイス登録などの例外があります
  • ソフト系は固定費が軽く身軽に始められます。役員報酬を抑えれば固定費と社会保険料を圧縮できますが、定期同額給与のルール(原則、期首から3か月以内に改定)があり、期中の安易な変更はできません
  • 税務・許認可・社会保険・在留資格の個別の判断は、必ず税理士・社会保険労務士・行政書士など専門家に相談してください。この記事は一般的な情報の整理であって、個別の助言ではありません

起業は、いいアイデアがあれば走り出せます。でも、走り続けられるかどうかは、現金が尽きないかどうかにかかっています。まずは資金繰り表を一枚つくるところから、始めてみてください。

参考文献・一次情報

Footnotes

  1. 黒字倒産・運転資金の考え方は、会計・財務の一般原則(教科書的知識)に基づく整理です。運転資金は「売上債権+棚卸資産−仕入債務」で捉えるのが代表的な算式です。個別の会計処理や自社の資金繰り試算は、公認会計士・税理士にご相談ください。 2

  2. 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」(創業者向け融資制度の案内)。融資限度額や自己資金要件などの具体的な数値は制度改定が頻繁にあるため、最新の公式情報で確認してください。https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/index.html

  3. 現行の会社法には最低資本金制度がなく、資本金1円でも株式会社・合同会社を設立できるとされています(2006年施行の会社法で旧・最低資本金制度が撤廃)。条文の原文はe-Govの会社法でご確認ください。本記事公開時点の一般的な理解に基づく記載です。https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086

  4. 国税庁 タックスアンサー No.6501「納税義務の免除」。基準期間(法人は前々事業年度)の課税売上高が1000万円以下であれば原則として消費税の納税義務が免除されること、特定期間の課税売上高1000万円超・課税事業者選択・特定新規設立法人などの例外について。https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6501.htm 2

  5. 国税庁 タックスアンサー No.6531「新規開業又は法人の新規設立のとき」。新設法人は基準期間がないため、事業年度開始の日の資本金が1000万円未満なら原則として第1期・第2期の納税義務が免除され、1000万円以上ならその事業年度は課税事業者となること(根拠は消法9・9の2・12の2)。https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6531.htm 2

  6. 国税庁 タックスアンサー No.5432「措置法上の中小法人及び中小企業者」等。各事業年度終了時の資本金1億円以下の法人が中小法人として法人税の各種特例の対象になること、前3事業年度の平均所得15億円超の適用除外事業者について。https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5432.htm

  7. 許認可の財産要件(建設業・有料職業紹介・労働者派遣など)および在留資格「経営・管理」の事業規模要件は、いずれも所管官庁の基準により、金額が改定されることがあります。本記事では具体的な金額の断定を避けています。国土交通省・各都道府県(建設業)、厚生労働省・労働局(職業紹介・労働者派遣)、出入国在留管理庁(在留資格「経営・管理」)の最新の公式情報を確認し、行政書士など専門家にご相談ください。出入国在留管理庁「経営・管理」の案内はこちら。https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/businessmanager.html

  8. 国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」。定期同額給与の定義(1か月以下の一定期間ごとに同額を支給)、改定は原則として事業年度開始の日から3か月を経過する日までに行う必要があること、臨時改定事由・業績悪化改定事由以外の期中改定は損金不算入となりうること(根拠は法人税法34条)。https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm 2

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