
「原産地証明書を用意してほしい」と取引先から言われて、いざ調べ始めると、書類が何種類もあって面食らうことがあります。商工会議所で取るもの、日本商工会議所でしか取れないもの、そもそも日本では発給できないもの。名前も似ていて、どれを頼めばいいのか判断がつかない。実務で最初に詰まるのは、たいていこの入口です。
この記事では、原産地証明書とは何かを、一般(非特恵)・特定(EPA)・特恵(Form A/GSP)という3つの種類に分けて、発給機関・根拠法・関税上の効果の違いから整理します。第一種と第二種の区別や、日本商工会議所の証明書が要らない協定はどれかまで、一次情報にもとづいて確認していきます。輸出の担当になったばかりの方が、自社にどの証明書が必要かを自力で見分けられるようになることを目標にしました。
原産地証明書の3種類 早見表
細かい説明に入る前に、全体像を1枚で押さえます。この表の並びが頭に入っていれば、以降の話で迷いにくくなります。
| 項目 | 一般(非特恵)原産地証明書 | 特定原産地証明書(EPA) | 特恵原産地証明書(Form A/GSP) |
|---|---|---|---|
| 主な目的 | 輸入国の法令要請・契約・L/C指定など(関税優遇以外) | EPA締約国で特恵(EPA)税率の適用を受ける | 開発途上国原産品に一般特恵関税を適用(日本が輸入する側) |
| 発給機関 | 日本国内の各地の商工会議所 | 日本商工会議所(第一種)・認定輸出者(第二種)・自己申告 | 原産国(輸出国)の権限ある発給機関。日本国内では発給不可 |
| 根拠法・条約 | 商工会議所法(昭28法143号)第9条+1923年ジュネーブ条約 | 経済連携協定に基づく特定原産地証明書の発給等に関する法律(平16法143号) | 関税暫定措置法(昭35法36号)第8条の2 |
| 関税上の効果 | 直接の減免効果なし(原産国の証明のみ) | 相手国でEPA税率(通常より低率)を適用 | 一般の関税率より低い特恵税率。LDCは無税・無枠 |
| 発給の方向 | 日本からの輸出時など | 日本からEPA締約国への輸出時 | 途上国から日本への輸入時 |
3種類を分ける軸は「何のために出すか」と「誰が出すか」です。ここがずれると、せっかく取った証明書が相手国の税関で通らなかったり、そもそも取れない書類を探し回ったりします。通関に必要な書類の全体像を先に押さえたい方は、通関に必要な書類チェックリストもあわせて読むと、原産地証明書の位置づけがつかみやすくなります。
一般(非特恵)原産地証明書とは。商工会議所が出す「原産国の証明」
一般原産地証明書は、特恵関税以外の目的で、貨物の原産国を証明する書類です。非特恵原産地証明書とも呼びます。輸入国の法令が原産国の申告を求めているとき、あるいは売買契約や信用状(L/C)で提出が指定されているときに使います。関税を下げるための書類ではなく、「この貨物はどの国が原産か」という事実を第三者が証明するための書類だと考えると、性格がはっきりします。
発給するのは、日本国内の各地の商工会議所です。輸出者が本社所在地などを管轄する商工会議所に申請し、審査を経て発給を受けます。根拠は商工会議所法(昭和28年法律第143号)第9条で、商工会議所の貿易関係証明の発給業務がここに定められています。あわせて、税関手続の簡易化に関する国際条約、いわゆる1923年ジュネーブ条約の第11条が、商工会議所に原産地証明の発給権限を認めています。国内法と国際条約の両方に裏づけられた制度だと理解しておくと安心です。
ここで押さえておきたいのは、一般原産地証明書には関税を減免する効果がない、という点です。あくまで原産国を証明するだけで、後で説明するEPAやGSPのような優遇とは切り離して考える必要があります。「原産地証明書さえあれば関税が安くなる」という思い込みは、この一般証明書と特恵系の証明書を混同したときに起きがちな誤解です。
特定原産地証明書(EPA)とは。特恵関税を受けるための証明
特定原産地証明書は、経済連携協定(EPA)にもとづく原産資格を満たしていること、つまりその産品が協定上の原産品であることを証明する書類です。日本からEPA締約国へ輸出する産品が、相手国の税関で通常より低いEPA特恵税率の適用を受けるために使います。一般原産地証明書との最大の違いは、関税を実際に下げる効果を持つ点にあります。
根拠法は、経済連携協定に基づく特定原産地証明書の発給等に関する法律(平成16年法律第143号、公布日は平成16年11月25日)です。第1条は、EPAの適確な実施を確保するため、特定原産地証明書の発給等を適正かつ確実に行い、我が国の輸出貿易の健全な発展に寄与することを目的に掲げています。EPAという国際約束を、国内の発給実務に落とし込むための法律だと捉えるとわかりやすいでしょう。
この特定原産地証明書には、第一種と第二種があります。第一種特定原産地証明書は、同法にもとづき経済産業大臣が指定した指定発給機関である日本商工会議所(日商)が発給します。輸出者以外の第三者が原産性を確認して証明する仕組みなので、第三者証明制度と呼ばれます。ただし例外があり、日シンガポール協定のみ各地の商工会議所が対応します。
第二種特定原産地証明書は、経済産業大臣が認定した「認定輸出者」が、自ら作成する証明書です。第三者を介さず、認定を受けた輸出者自身が証明する仕組みで、認定輸出者自己証明制度と呼ばれます。日メキシコ・日スイス・日ペルーの各協定で採用されています。自社が認定輸出者になれば、そのつど日商へ申請する手間を省けるという利点があります。
EPA原産地証明の3方式。どの協定で何を使うか
EPAの原産地証明のやり方は、大きく3つの類型に分かれます。ここが実務でいちばん取り違えやすいところなので、丁寧に整理します。
1つ目は第三者証明制度です。指定発給機関である日商が発給する第一種特定原産地証明書がこれにあたります。2つ目は認定輸出者自己証明制度で、認定輸出者が作る第二種特定原産地証明書です。そして3つ目が自己申告制度です。輸出者・生産者・輸入者のいずれかが、自ら原産品であることを申告する方式で、第三者機関の発給を受けません。
自己申告制度を採用している代表的な協定が、CPTPP(TPP11)、日EU・EPA、日米貿易協定、日英EPAです。これらの協定では日商が発給する第一種特定原産地証明書は発給されません。「EPAならどれも日商の証明書が要る」という思い込みで日商に申請しようとしても、対象外で発給を受けられません。逆に、第三者証明が使われる協定なのに自己申告で済ませてしまうと、相手国で特恵税率を否認されるおそれがあります。なお、RCEPは扱いが異なり、日商が発給する第一種特定原産地証明書の対象(第三者証明)である一方、韓国・オーストラリア・ニュージーランド向けなど一部の相手国では自己申告も選択できます。RCEPを「自己申告だけの協定」と誤解しないよう注意してください。
どの協定でどの方式を使うかは、協定ごとの原産地規則で決まっています。第一種証明書の対象となる協定には、二国間ではインド・インドネシア・豪州・シンガポール・スイス・タイ・チリ・フィリピン・ブルネイ・ベトナム・ペルー・マレーシア・メキシコ・モンゴル、多国間では日アセアンとRCEPがあります(日本商工会議所の案内による例)。ただし各協定は改正されることがあり、RCEPのように国別の運用や経過措置がある協定もあります。実際に手続きへ進む前に、必ず該当協定の原産地規則と、税関・経済産業省の最新の解説で個別に確認してください。
特恵原産地証明書(Form A/GSP)とは。日本が輸入するときの途上国優遇
特恵原産地証明書、いわゆるForm A(様式A)は、これまでの2つとは向きが逆です。日本が輸入する側になるときに使う書類だからです。一般特恵関税制度(GSP)にもとづき、開発途上国を原産地とする産品に対して、一般の関税率より低い特恵税率を適用するために用います。
GSPの根拠は、関税暫定措置法(昭和35年法律第36号)第8条の2の特恵関税の規定です。日本は1971年8月からこの制度を実施しています。同条3項にもとづき、後発開発途上国(LDC)を原産地とする一定の物品は、無税かつ無枠という手厚い特別特恵の対象になります。途上国の経済発展を関税面から後押しする制度だと理解すると、日本が輸入する側で使うという構図が腑に落ちます。
Form Aを発給するのは、原産国、つまり輸出国側の権限ある発給機関です。税関であったり商工会議所であったり、国によって異なります。日本は開発途上国ではないため、日本国内ではForm Aは発給されません。「日本の輸出者がForm Aを取る」という理解は、この向きを取り違えた典型的な誤解です。日本の輸入者から見れば、途上国の取引先に相手国でForm Aを取得してもらう、という関係になります。
GSPは毎年度見直される制度です。2024年4月1日時点では126か国4地域が特恵受益国に指定され、そのうち後発開発途上国44か国が特別特恵受益国とされています。一方で、経済発展にともない対象から外れる「卒業」もあり、中国・メキシコ・タイ・ブラジル・マレーシアは2019年度に特恵関税の対象から除外されました。受益国は政令や告示で変わるため、実際に適用を検討する際は、公開時点の税関・財務省の最新資料で必ず確かめてください。
取得の実務。手続き・所要日数・有効期間・保存義務
証明書ごとに、手続きの窓口も期間も変わります。ここでは実務でつまずきやすいポイントを、特定原産地証明書(第一種)を中心に押さえます。
第一種特定原産地証明書は、日本商工会議所のオンラインの発給システムから電子申請します。日商が申請データを受理してから審査結果の通知まで、原則2営業日です。証明書の交付と引き換えに発給手数料を納付する流れになります。手数料の具体額は日商の料金表によって定められており、改定されることがあるため、申請前に最新の案内で確認してください。
見落とされがちなのが、書類の保存義務です。特定原産地証明書の申告データや、伝票などの立証書類は、証明書の発給日から原則5年間の保存が義務づけられています。ただし協定によって期間が異なり、日ブルネイ・日スイス・日ベトナム・日アセアン・RCEPの各協定は3年間です。発給を受けて終わりではなく、後日の事後確認に備えて根拠資料を残しておく必要がある、という点は最初に頭へ入れておきたいところです。
輸入する側の話として、Form Aの有効期間にも触れておきます。GSPのForm Aは、一般的な運用として発給日から1年が有効期間とされています。あわせて、特恵の適用には原則として原産国から日本への直接運送、いわゆる積送基準を満たす必要があります。第三国を経由する場合の取り扱いは制度で細かく決まっているため、通関時には税関の最新の原産地規則で確認してください。
もう一つ、実務で覚えておくと便利なのが提出不要のケースです。輸入申告1件あたりの課税価格が20万円以下の場合は、特恵を含む原産地証明書の提出が不要になります。少額の輸入であれば、証明書の手配自体が要らないこともある、ということです。
企業の輸出管理体制とTRAFEEDの活用
原産地証明書の実務は、該非判定や取引審査といった輸出管理の実務と並行して発生することがほとんどです。どの証明書が必要かの見分けに加えて、そもそも自社の輸出管理体制がどこまで整っているのかを一度棚卸ししておくと、後の手戻りが減ります。現在地を手早く把握したい方は、無料の輸出管理コンプライアンス診断を使ってみてください。3分ほどで、自社の弱点に当たりがつきます。
判定や審査そのものの負荷を下げる手段として、TIMEWELLのTRAFEED(旧ZEROCK ExCHECK)があります。TRAFEEDは経済産業省の基準に準拠した輸出管理AIエージェントで、多言語に対応し、該非判定や取引審査のプロセスをAIが支援します。輸出先も品目も頻繁に入れ替わる組織ほど、判定の属人化を防ぐ仕組み化の効果は大きくなります。自社の運用に合わせた進め方を相談したい場合は、TRAFEEDの個別相談から具体的に詰められます。
よくある誤解
原産地証明書をめぐっては、実務者でもつまずきやすい誤解がいくつかあります。先に潰しておきます。
「原産地証明書は1種類だけ」という理解は不正確です。実際には一般(非特恵)・特定(EPA)・特恵(Form A/GSP)の3種類があり、用途も発給機関も根拠法もまったく異なります。まず自社の目的がどれにあたるかを見分けるのが出発点です。
「特定原産地証明書があれば、どの国向けでも関税が下がる」というのも誤りです。効果があるのはEPA締約国向けのみで、しかも協定ごとに品目別の原産地規則が定められています。相手国とその協定の規則を確認しないと、適用は受けられません。
「EPAならどれも日本商工会議所の証明書が要る」という思い込みも要注意です。CPTPP・日EU・EPA・日米・日英などは自己申告制度で、日商の第一種証明書は発給されません。
「一般の原産地証明書があれば特恵関税が受けられる」も間違いです。一般原産地証明書に関税減免の効果はなく、特恵を受けるにはEPAの特定原産地証明書か、GSPのForm Aが必要になります。
よくある質問
一般原産地証明書と特定原産地証明書は何が違いますか?
目的と根拠法が異なります。一般(非特恵)原産地証明書は、輸入国の法令要請や契約・信用状(L/C)の指定に応じて原産国を証明する書類で、各地の商工会議所が商工会議所法(昭和28年法律第143号)にもとづき発給します。それ自体に関税を下げる効果はありません。一方、特定原産地証明書は経済連携協定(EPA)にもとづく原産品であることを証明し、相手国で通常より低いEPA特恵税率の適用を受けるための書類で、経済連携協定に基づく特定原産地証明書の発給等に関する法律(平成16年法律第143号)を根拠に、経済産業大臣が指定した日本商工会議所が発給します(第一種)。
特定原産地証明書はどこで、どのくらいの日数・費用で取得できますか?
第一種特定原産地証明書は、日本商工会議所のオンライン発給システムから電子申請します。日商が申請データを受理してから審査結果の通知まで原則2営業日です。証明書の交付と引き換えに発給手数料を納付します。なお日シンガポール協定のみ各地の商工会議所が対応します。申告データや立証書類は発給日から原則5年間、日ブルネイ・日スイス・日ベトナム・日アセアン・RCEPは3年間の保存が義務づけられています。
CPTPPや日EU・EPAでも日本商工会議所の証明書が必要ですか?
必要ありません。CPTPP(TPP11)、日EU・EPA、日米貿易協定、日英EPAなどは自己申告制度を採用しており、輸出者・生産者・輸入者が自ら原産品であることを申告します。この場合、日商が発給する第一種特定原産地証明書は発給されません。第三者証明(日商発給)が使われるのは協定ごとに定められた方式に従う場合で、使用する制度は必ず該当協定の原産地規則で確認してください。
Form A(GSPの特恵原産地証明書)は日本の輸出者が取得するものですか?
いいえ。Form A(様式A)は一般特恵関税制度(GSP)にもとづき、日本が輸入する際に、開発途上国を原産地とする産品へ特恵関税を適用するための書類です。発給するのは原産国(輸出国)の権限ある発給機関で、日本は開発途上国ではないため日本国内では発給されません。GSPは関税暫定措置法第8条の2が根拠で、2024年4月1日時点で126か国4地域が受益国(うちLDC44か国は特別特恵)です。中国・メキシコ・タイ・ブラジル・マレーシアは2019年度に卒業しています。
原産地証明書は輸出管理(該非判定)の書類と同じものですか?
別物です。原産地証明書は関税・通関のために、どの国が原産かを示す書類です。一方、輸出管理の該非判定は外為法(外国為替及び外国貿易法)にもとづき、貨物・技術が輸出貿易管理令の規制品目に該当するかを判断する手続きで、目的も根拠法もまったく異なります。両者は輸出実務で並行して必要になることが多いため、混同しないよう管理体制を分けて整えることが大切です。
まとめ
原産地証明書は1種類ではありません。輸出担当者としてまず腹に落とすべきは、一般(非特恵)・特定(EPA)・特恵(Form A/GSP)という3つの種類が、目的も発給機関も根拠法も別物だという事実です。一般は原産国を証明するだけで関税は下がらない、特定はEPA締約国で特恵税率を受けるためのもので日商が発給する第一種と認定輸出者が作る第二種がある、Form Aは日本が輸入する側で使い日本では発給できない。この3点の座標軸を持っていれば、自社にどれが必要かはたいてい見分けられます。
見分けの手順としては、まず「関税を下げたいのか、原産国を証明したいだけか」を切り分け、次に「日本から輸出するのか、日本へ輸入するのか」を確認するのが実務的です。EPAを使うなら、その協定が第三者証明・認定輸出者・自己申告のどの方式かを原産地規則で必ず当たってください。そして原産地証明はあくまで関税・通関の話で、外為法の該非判定とは別の手続きだという点を忘れないこと。この線引きができていれば、書類の取り違えは大きく減らせます。
参考文献(一次情報)
- 経済連携協定(EPA)に基づく原産地証明制度(経済産業省)
- 日本商工会議所での原産地証明書発給(第一種特定原産地証明書)(経済産業省)
- よくある質問(Q&A)原産地証明(経済産業省)
- 特定原産地証明書とは?|EPAに基づく特定原産地証明書発給事業(日本商工会議所)
- 特定原産地証明書の発給申請|EPAに基づく特定原産地証明書発給事業(日本商工会議所)
- 経済連携協定に基づく特定原産地証明書の発給等に関する法律(平成16年法律第143号)(e-Gov法令検索)
- 関税暫定措置法(昭和35年法律第36号)第8条の2(e-Gov法令検索)
- 1502 特恵原産地証明書について(税関 カスタムスアンサー)
- 1501 特恵関税制度の概要(税関 カスタムスアンサー)
- 一般特恵関税制度(GSP)(税関)
- 原産地基準・証明手続(税関)
- 原産地証明書の概要(東京商工会議所)
- 原産地証明書の種類|貿易・投資相談Q&A(JETRO)
- 特恵関税制度(外務省)