EARとは何か
EAR(Export Administration Regulations)は、米国商務省産業安全保障局(BIS: Bureau of Industry and Security)が管轄する輸出管理規則です。米国から輸出されるデュアルユース品目(軍民両用の貨物、ソフトウェア、技術)を管理するための包括的な規制体系で、米国外の企業にも適用される「域外適用」の性質を持っています。
日本企業にとって重要なのは、自社が直接米国と取引していなくても、米国原産の部品や技術を含む製品を第三国に輸出(再輸出)する際にEARが適用される可能性がある点です。
なぜ日本企業がEARを理解する必要があるのか
EARが日本企業に適用されるケースは主に3つあります。
- 米国原産品目の再輸出:米国から調達した部品、ソフトウェア、技術を第三国に輸出する場合
- 米国原産の技術・ソフトウェアの外国製品への組み込み:製品に含まれる米国原産の部品・技術の割合が一定以上の場合
- 米国原産技術に基づく直接製品:米国原産の技術やソフトウェアを用いて海外で製造された製品(直接製品規則)
EARに違反した場合の罰則は、違反1件あたり最大100万ドルの罰金または20年以下の禁固刑、行政制裁として違反1件あたり最大約36万ドルの課徴金、さらにはEAR規制対象の一切の取引禁止(Denial Order)という極めて厳しい内容です。
EARの規制構造
ECCN(Export Control Classification Number)
EARで規制される品目は、ECCN(輸出管理品目番号)によって分類されます。ECCNはCommerce Control List(CCL)に掲載されており、「5桁の英数字」で表記されます。
例:「3A001」 → 3(エレクトロニクス)、A(装置・機器)、001(国家安全保障上の理由で規制)
ECCNに該当しない品目は「EAR99」に分類され、多くの場合は許可なしに輸出可能ですが、取引先や最終用途によっては制限がかかることがあります。
License(許可)の要否判定
ある品目を特定の国に輸出する際にBISの許可(License)が必要かどうかは、以下の要素で判定します。
| 判定要素 | 内容 |
|---|---|
| ECCN | 品目の規制分類番号 |
| 仕向国 | 輸出先の国 |
| 最終用途 | 品目の使用目的 |
| 最終需要者 | 品目の最終的な使用者 |
| License Exception | 許可の例外規定の適用可否 |
デミニミスルール
デミニミスルール(De Minimis Rule)は、外国製の製品に含まれる米国原産品目の割合が一定以下であれば、EARの再輸出規制が適用されないとする規定です。
- 多くの国向け:米国原産コンテンツの割合が製品価値の25%未満であれば、EARの規制対象外
- 特定の国向け(キューバ、イラン、北朝鮮、シリアなど):基準が10%に厳格化
ただし、デミニミスルールの計算方法は複雑で、適用条件も品目や仕向国によって異なるため、安易な判断は避けるべきです。
Entity List(エンティティリスト)
Entity Listは、米国の安全保障や外交政策上の懸念がある企業・組織・個人のリストです。Entity Listに掲載されている相手に対してEAR対象品目を輸出・再輸出する場合は、原則としてBISの許可が必要となり、許可方針は多くの場合「推定却下(Presumption of Denial)」です。
日本企業は、取引先がEntity Listに掲載されていないかどうかを定期的に確認する必要があります。Entity Listは随時更新されるため、取引開始時だけでなく継続的なスクリーニングが求められます。
近年のEAR規制強化の動向
先端半導体関連の規制
2022年10月以降、米国は先端半導体および半導体製造装置に関するEAR規制を段階的に強化しています。特に中国向けの先端コンピューティング半導体やスーパーコンピュータ関連品目への規制が大幅に拡大されました。
FDPR(Foreign Direct Product Rule)の拡大適用
直接製品規則(FDPR)の適用範囲も拡大しており、米国の技術やソフトウェアを使って海外で製造された製品に対する規制が強化されています。これにより、日本国内で製造した製品であっても、米国技術を基にしている場合はEARの規制対象となる可能性があります。
日本企業の実務上の対応
コンプライアンス体制の整備
- 自社製品に含まれる米国原産コンテンツの把握:サプライチェーンを遡り、米国原産の部品・技術・ソフトウェアの割合を把握する
- ECCN分類の確認:自社製品および調達品のECCN分類を特定する
- 取引先スクリーニング:Entity Listをはじめとする各種制裁リストとの照合を定期的に実施する
- 記録の保持:EARでは輸出関連の記録を5年間保持することが義務付けられている
外為法との二重遵守
日本企業は外為法(日本の輸出管理法)とEAR(米国の輸出管理規則)の双方を遵守する必要があります。同じ取引が両方の規制対象になることもあるため、どちらか一方だけの確認で済ませることはできません。
| 比較項目 | 外為法(日本) | EAR(米国) |
|---|---|---|
| 所管官庁 | 経済産業省 | 米国商務省BIS |
| 規制対象 | 日本からの輸出 | 米国原産品の輸出・再輸出 |
| 品目分類 | 輸出貿易管理令別表第1 | Commerce Control List(ECCN) |
| 域外適用 | なし | あり(再輸出規制) |
| 罰則(罰金上限) | 3,000万円(個人) | 100万ドル(約1.5億円) |
複数規制への対応を効率化する
EARと外為法の二重遵守は実務負担が大きいのが現実です。TIMEWELLのEX-Checkは、外為法だけでなくEARを含む複数国の輸出管理規制に対応した判定支援を提供しています。各種制裁リストとの照合や規制該当性の確認をAIが支援することで、コンプライアンス業務の正確性と効率を高めることができます。
EARの規制は年々複雑化・厳格化の傾向にあります。最新の規制動向を把握し、自社の対応体制を継続的に見直すことが、リスク管理の基本です。