なぜ輸出管理体制が必要なのか
外為法は、特定の貨物の輸出や技術の提供について経済産業大臣の許可を義務付けていますが、企業がこの法律を遵守するためには、社内に適切な管理体制を構築する必要があります。
経済産業省は「輸出者等遵守基準」を定めており、輸出を行う企業に対して組織的な管理体制の整備を求めています。遵守基準を満たす社内体制を「輸出管理内部規程」(CP: Compliance Program、またはICP: Internal Compliance Program)として文書化し、運用することが実務上の標準となっています。
輸出者等遵守基準の9つの要素
経済産業省が定める遵守基準には、以下の9つの要素が含まれています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 1. 組織の代表者の関与 | 代表取締役等を輸出管理の最終責任者とする |
| 2. 組織内の役割分担 | 輸出管理に関する各部門の責任と権限を明確にする |
| 3. 該非確認の責任者 | リスト規制の該非判定を行う責任者を配置する |
| 4. 用途確認・需要者確認 | 取引の最終用途と最終需要者を確認する手続きを定める |
| 5. 出荷管理 | 許可条件に従った出荷を確保する手続きを定める |
| 6. 監査手続き | 輸出管理の実施状況を定期的に監査する仕組みを整える |
| 7. 教育訓練 | 関係者に対する教育訓練を実施する |
| 8. 文書管理 | 輸出管理に関する文書を適切に保存する |
| 9. 違反報告 | 法令違反が判明した場合の報告・対応手続きを定める |
輸出管理組織の構成
一般的な組織体制
企業規模に応じた輸出管理組織の構成例を示します。
大企業の場合:
代表取締役(最終責任者)
└─ 輸出管理統括部門(専任部署)
├─ 該非判定チーム
├─ 取引審査チーム
└─ 教育・監査チーム
中小企業の場合:
代表取締役(最終責任者)
└─ 輸出管理責任者(管理部門の責任者が兼務)
└─ 輸出管理担当者(実務担当者)
中小企業では専任部署の設置が難しいこともありますが、少なくとも責任者の指定と基本的な手続きの整備は必要です。
輸出管理内部規程(CP)の策定
CPに含めるべき内容
CPは企業の「輸出管理のルールブック」です。安全保障貿易情報センター(CISTEC)が公開しているモデルCPを参考に、自社の事業内容や規模に合わせてカスタマイズするのが一般的です。
CPに含めるべき主な項目は以下のとおりです。
- 目的と適用範囲:規程の目的と、対象となる取引の範囲を明記する
- 組織と責任:輸出管理に関する組織体制と各ポジションの責任を定める
- 該非判定手続き:自社の製品・技術がリスト規制に該当するかを判定する手順
- 取引審査手続き:取引先の信頼性、最終用途、最終需要者を審査する手順
- 出荷管理手続き:許可条件に従った出荷を確保する手順
- 技術提供管理手続き:外国人への技術提供(みなし輸出を含む)の管理手順
- 教育訓練計画:対象者、内容、頻度を定めた教育計画
- 監査手続き:内部監査の方法、頻度、フォローアップの手順
- 文書保存規定:保存対象文書、保存期間(原則5年)、保存方法
- 違反時の対応手続き:法令違反が発覚した場合の報告ルートと対応手順
CP策定のポイント
実効性を重視する:形だけの規程では意味がありません。実際の業務フローに沿った内容にし、担当者が迷わず実行できるレベルまで具体化しましょう。
自社の規模に合わせる:大企業向けのモデルCPをそのまま中小企業に適用すると、運用が回らなくなります。自社のリソースで運用可能な範囲から始め、段階的に拡充するアプローチが現実的です。
定期的に見直す:法令改正、組織変更、取扱品目の変更に応じてCPを更新する仕組みを組み込んでおきましょう。
該非判定の実務
該非判定は輸出管理の中核となるプロセスです。自社の製品・技術が輸出貿易管理令の別表第1に該当するかどうかを技術的に判定します。
該非判定の流れ
- 対象品目の技術仕様を確認する
- 輸出貿易管理令の別表第1の各項目と照合する
- 該当・非該当の判定結果を文書化する
- 判定結果を輸出管理責任者が承認する
該非判定には専門的な技術知識が必要であり、判定の誤りは法令違反に直結します。社内に専門人材がいない場合は、外部の専門家やツールの活用を検討すべきです。
教育訓練の実施
対象者別の教育内容
| 対象者 | 教育内容 | 頻度 |
|---|---|---|
| 経営層 | 輸出管理の重要性、違反リスク、経営責任 | 年1回以上 |
| 輸出管理担当者 | 法令の詳細、該非判定・取引審査の実務 | 年2回以上 |
| 営業・技術部門 | 基本的な規制知識、日常業務での注意点 | 年1回以上 |
| 新入社員・異動者 | 輸出管理の概要、社内規程の存在 | 着任時 |
教育の実施方法
- 集合研修やe-ラーニングによる定期教育
- 経済産業省やCISTECが主催するセミナーへの参加
- 法令改正時の臨時教育
- 事例ベースのケーススタディ
内部監査の実施
監査のポイント
内部監査では、CPに定められた手続きが実際に機能しているかを検証します。
- 該非判定が正しく行われているか:判定根拠、承認記録の確認
- 取引審査が適切に実施されているか:審査記録、チェックリストの確認
- 教育訓練が計画どおり実施されているか:受講記録の確認
- 文書が適切に保存されているか:保存期間、アクセス管理の確認
監査結果は経営層に報告し、改善が必要な事項については対応計画を策定して追跡します。
輸出管理業務を支えるツール
輸出管理体制の構築において、該非判定や取引先スクリーニングの作業量は無視できません。特に取扱品目が多い企業や、複数国の規制に対応する必要がある企業にとって、手作業だけでの対応には限界があります。
TIMEWELLのEX-Checkは、輸出管理業務のうち特に工数のかかる該非判定と取引先スクリーニングをAIが支援するツールです。経済産業省の基準に準拠したチェックプロセスを自動化し、判定結果の記録・管理までを一元的に行うことで、CPの実効性を高めることに貢献します。
輸出管理体制の構築は一度で完成するものではなく、法令改正や事業環境の変化に合わせて継続的に改善していくプロセスです。まずは基本的な体制を整え、運用しながら段階的に成熟度を高めていくことが重要です。