こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
2025年4月に公開された「AI 2027」は、超知能(あらゆる分野で人間の最も優れた専門家を上回るAI)が数年で現れ、米中の開発競争が制御を失っていく様子を年ごとに描き、世界中で読まれました。ただ、あれは「このまま進むとこうなるかもしれない」という予測です。同じチームが2026年7月9日、今度は「では、どうすればいいのか」に踏み込んだ文書を公開しました。それが「AI 2040: Plan A」です。副題は「現時点で私たちが知る、最もましな計画」。ずいぶん控えめな看板だと思いませんか。
先に要点をまとめておきます。
- AI 2040: Plan Aは、米国の非営利研究団体AI Futures Projectが2026年7月9日に公開した政策シナリオです。PDF版は90ページあります
- 何もしなければ2030年に現れうる超知能を、米中の合意と検証の仕組みで2040年まで遅らせる道を、2027年から2040年まで年ごとに描いています
- 本命のPlan Aと並べて、Plan B(中国を妨害)、Plan C(リードを安全に回す)、Plan D(全速で競争)、Plan S(無期限に停止)が示されます
- 著者ら自身が「予測ではなく提言」と明記しています。著者5人の見積もりでは、Plan Aが実際に起きる確率は3〜15%、最も起きやすいのはPlan D(25〜50%)です
- 公開後も、国内規制の暫定案(8月)、政策担当者向けの1ページ要約(9月)、代表のココタイロ氏による米上院での証言(9月30日)と、動きが続いています
経営者がこの文書を読む意味は、国際政治の知識が増えることではないと私は考えています。速さを取るか、安全を取るか。単独で走るか、周りと歩調を合わせるか。AI 2040が国家に突きつけている問いは、AIを自社にどう入れるかで迷う経営者の問いと同じ形をしているからです。2026年10月4日時点で原文と補足資料を読み直し、数字と事実を更新しました。自社とAIの距離感が気になる方は、先にAIリテラシーの無料診断で現在地を確かめておくと、後半の話がぐっと具体的になります。
AI 2040とは何か。誰が、いつ、何のために書いたのか
AI 2040を書いたのは、米国の非営利研究団体AI Futures Projectです1。資金は主にSurvival and Flourishing Fundと大口の個人寄付者から得ていると公表しています。前作AI 2027、そしてAIの能力の伸びを数値で見積もる予測モデル「AI Futures Model」に続く、3番目の主要な公開物にあたります2。著者は6名で、公式サイトの表記順にトーマス・ラーセン氏、ロミオ・ディーン氏、ブレンダン・ハルステッド氏、イーライ・リフランド氏、ライアン・グリーンブラット氏、ダニエル・ココタイロ氏です3。
報道ではOpenAI出身のココタイロ氏の名前が先に出がちですが、執筆の分担を見ると中心にいたのはラーセン氏です。サイトのAboutページには、ラーセン氏がプロジェクトを立ち上げ、内容の最終決定権を持ったと書かれています2。ラーセン氏は以前、AI安全の政策提言団体Center for AI Policyを創設した人物です。ココタイロ氏は団体の代表で、OpenAIではシナリオプランニングを担うガバナンス研究者でした1。中核のアイデアの多くと、本文の大部分は彼の筆によるもの。検証の研究と計算資源・経済のモデルはディーン氏、秘密裏に進む開発(コバート・プロジェクト)の分析はハルステッド氏、プロジェクト管理と補足資料の執筆はリフランド氏が担いました。前作で共著者だったブロガーのスコット・アレクサンダー氏は、今回は一部の章を書き直すなどの協力にとどまり、共著者には入っていません4。
公開日は2026年7月9日(米国時間)で、団体のブログで告知されました5。本文はウェブで読めるほか、90ページのPDFも配布されています(2026年10月4日に私が取得した版)。公開後も修正が続いていて、Aboutページの変更履歴には9月23日まで細かな訂正や補足資料の改訂が記録されています2。数字を引用するときは、いつの版かを添えたほうが安全な文書です。
いちばん大事なのは、この文書の性格です。著者らはトップページで「Plan Aは、主として予測ではなく提言だ」と書き、さらに「このシナリオは、未来が実際にどうなるかについての私たちの最善の推測ではない」と念を押しています3。細かく読むと区別があって、Plan Aを実行に移すところは提言、実行した後に何が起きるかの描写は予測、という建て付けです。チームの紹介ページでは、ラーセン氏をこのシナリオの筆頭著者として紹介し、シナリオを「米国の政策担当者に向けた私たちの提言」を描いたものと説明しています1。想定している読み手は、ワシントンの政策担当者だということです。
なぜ政策提言をわざわざ物語の形にしたのか。著者らは「シナリオ精査(scenario scrutiny)」という考え方を挙げています。多くのAI政策の提案は、それが成功する筋書きを細部まで書き出そうとすると行き詰まり、思ったより効かないか、副作用が大きいと分かる、と著者らは指摘します。だから自分たちの提案から先に、その精査にかけてみせる、というわけです3。冒頭にはアイゼンハワーの「計画そのものに価値はないが、計画を立てることがすべてだ」という言葉が引かれています。この発想は、後半で書く経営での使い方にそのままつながります。
前作「AI 2027」と何が違うのか
AI 2027(2025年4月3日公開)は予測でした6。AIがより賢いAIを作る工程を2027年に完全に自動化し、その年のうちに知能爆発と超知能に至る、という筋書きです。そこから米中の競争が制御を失う結末と、減速して危機を避ける結末の二つが描かれました。前作が示したAGI(汎用人工知能、人間並みに幅広い仕事をこなせるAI)の時間軸については、2027年に向けたAGI到来の現実味を整理した記事でも扱っています。用語に不安がある方は、AI・DXの基本用語をまとめた記事を先に眺めておくと、この先が読みやすくなるでしょう。
AI 2040が変えたのは二点です3。一つは既定の時間軸で、何も手を打たなかった場合にAI研究開発が完全に自動化される年を、2027年から2030年に置き直しました。AI 2027の「2027」は、執筆を始めた時点でココタイロ氏が「その速さか、それより速く進む確率は五分五分」と見ていた年で、今回の「2030」は、執筆を始めた時点のラーセン氏にとって同じ位置にある年です。シナリオ群全体で予測の不確かさを表すための置き直しだと説明されています。もう一つは統治の行動で、こちらは提言だから書き換えた、とはっきり書かれています。
時間軸については、著者のあいだでも見方がそろっていません。ココタイロ氏は「現実はこのシナリオよりいくらか速く進む可能性が高い」と考えていると明記されていますし、AI 2027を書き終えた時点の彼のAGI到来の中央値は2028年、ほかの著者は2031〜2035年でした3。著者らはトップページで「AI企業は、今後1〜10年のうちに、人間より賢いAIシステムを作るという目標におそらく成功する」とも書いています。前作の切迫感は、新作でもそのまま残っていると読んでよいと思います。
孫正義氏の「2040年」とは別の話
「AI 2040」で検索すると、ソフトバンクグループの孫正義氏が2026年7月14日のSoftBank World 2026で語った2040年の展望も一緒に出てくるはずです。こちらは、2040年に世界のGDPの約20%、年間約7,000兆円がAIの世界に置き換わる「ASI Economy」を描いた企業のビジョンです7。この記事で扱うAI 2040は、米国の非営利団体による政策シナリオで、まったくの別物。ただ、同じ年に照準を合わせた二つの話の片方が「そこでどう稼ぐか」を、もう片方が「そこまでどう減速するか」を語っているのですから、並べてみるとなかなか示唆的だと感じています。
自社の時間軸に引き直しながら読みたい方は、AI駆動組織への移行ロードマップ&自己診断シート(2026年版)を手元に置いておくと、後半の「経営者はこのシナリオをどう使えばよいか」が具体的になります。
Plan Aの年表と4つの原則(2027年から2040年まで)
シナリオは年ごとの章立て。主要な章を表にまとめました。以下はすべてシナリオ上の想定で、確定した予測でも事実でもありません。
| 年 | 章のタイトル(原文) | シナリオで起きること |
|---|---|---|
| 2027 | The Writing on the Wall | 米国の労働力が人間とAIエージェントの二本立てになる。議会がAI透明化法を可決するが、状況は根本的には変わらない |
| 2028 | AI on the Ballot | AIが大統領選の最大の争点になる。建設中のデータセンターの費用は米国の軍事予算全体の2倍に達する |
| 2029 | Choose a Path | 米国が国際協調を表明し、中国が応じる。計算資源の申告と新規学習の一時停止を経て、多国間の枠組み「コンソーシアム」が生まれる |
| 2030 | Plan A is Established | 4つの原則のもとで、研究開発が透明な形で再開する |
| 2032 | Controlled Explosive Growth | 実質GDP成長率が約50%に達し、ロボットの生産が急拡大する |
| 2033 | The Citizen's Dividend | 計算資源とロボットの許可料を原資に、市民配当が配られる |
| 2034 | Mutually Assured Compute Destruction | 世界の計算資源がH100換算で600億基に。相互確証コンピュート破壊の体制が効いている |
| 2035 | Pause at Top Expert AI | AIがあらゆる分野でトップの専門家に並び、能力の引き上げをいったん止める |
| 2040 | Passing the Torch to AIs | 規制が段階的に緩められ、超知能に向けた慎重な拡大が再開する |
物語の分かれ目は2029年です。この年の章は、レーガン大統領の「信頼せよ、されど検証せよ」という言葉で始まります。米国の大統領が「超知能へ向かう狂った競争は終わらせなければならない」と演説して国際協調を打ち出すと、中国はこれに応じます。中国の側でも社会の不安定化や雇用の喪失、制御できない超知能といった同じ論点が議論されていたうえ、米国が先に超知能に到達した場合に自国に何が起きるかを懸念していた、という設定です3。とはいえ、米中に互いへの信頼はありません。それでも合意が成り立つよう、信頼を前提にしない設計を組み込んだのがPlan Aだ、というのが著者らの組み立てです。
最初の一年で行うのは、粗いけれど確かめやすい手順です。まず、大規模データセンターの所有者と、その上流にある半導体工場までが大口の購入と販売を公表し、各国のアナリストがリストを突き合わせ、米中は互いの施設に査察官を送ります。年末には、どちらの側も「相手が隠している計算資源は全体の約1%を超えない」と確信できる状態に。並行して、新しいAIの学習は一時的に止められます。既存のAIを動かす推論は続けてよいものの、学習に使われていないことを確かめる装置を、互いのデータセンターに後付けする決まりです。この段階を経て合意は二国間から多国間に広がり、年末までに世界の大半が「コンソーシアム」に加わります。
2030年、コンソーシアムは4つの原則で合意します3。1つ目は「時間を稼ぐ(Buy Time)」。安全に高い確信が持てるまで、必要なときはいつでも減速する、という原則です。AIが信頼できるかを見分ける方法も、超知能を規制する方法も、まだ誰も知りません。それを解くには何年もかかるので、知能爆発を遅らせて時間を作る、という理屈です。2つ目は「研究の完全な透明化(Total Research Transparency)」で、AIの研究開発はほぼすべて公開し、推論(AIの利用)だけは非公開のまま残す、という線引きです。誰が何を学習させているかが見えれば、危険な試みにはライバル企業や第三者が気づけますし、特定の価値観を密かに仕込むことも難しくなるでしょう。3つ目が「AIを広く行き渡らせる(Diffuse AI Broadly)」。アルゴリズムが公開され、進歩の速度も抑えられるので、多くの国の多くの企業が最先端に追いつきます。数社が秘密裏に競い合う2020年代の悪夢と、ちょうど逆の姿です。4つ目は「引き返せるようにする(Reversibility)」。能力の向上を、なるべくアルゴリズムの改良ではなく計算資源の増強でまかなう方針です。なぜでしょうか。アルゴリズムは一度漏れたら取り消せませんが、巨大なデータセンターなら、危険だと分かった時点で止められるからです。
ここから2035年までは、人間が理解し制御できる範囲でAIを強くしていきます。到達点は、トップの人間専門家に匹敵する水準。2035年、AIがあらゆる分野でトップの専門家に並んだところで、能力の引き上げをいったん止めます。系統の違う複数のAIに互いを監視させ、別の研究者がその仕組みを破ろうと攻撃し続ける体制が敷かれます。それでも「監視で抑え込む」型の安全の論証には限界が見えてきます。その先の章題は、2038年が「AIアラインメントはいまや科学になった」、2039年が「AIを信頼し始める」。アラインメントとは、AIの目的や振る舞いを、人間が本当に望むことに沿わせることです。言葉どおりに願いを叶えるのに本心はくみ取らない魔人の昔話がよく引き合いに出されますが、強力なAIほど、指示の文言ではなく裏にある意図に沿ってくれないと危ういのです。2035年の停止は、その作業のための時間だと読むと筋が通ります。
そして2040年。最良のAIは公開された価値観にそろえられ、AIをめぐる力も2026年よりずっと均等に分散している、という状態で、規制当局は進歩を抑えていた要件を少しずつ緩めます。制度や設備の多くがAIに委ねられ、人間が望んでも全部を止めることはもうできない段階に入ります。その先で超知能に向けた慎重な拡大が再開する、という締めくくりです3。著者ら自身、このシナリオでPlan Aは「不完全に、しかもぎりぎりのところで」成功すると書いています。うまくいく筋書きでさえ、余裕のある成功としては描かれていないのです。
「信頼せずに検証する」仕組みと、描かれた経済
Plan Aがほかの提言と違うのは、国家間の約束を相手の善意に預けない点です。土台にあるのはコンピュートガバナンス、つまりAIそのものではなく、AIを動かす計算資源(コンピュート)を管理しようという発想。ソフトウェアは国境を越えて一瞬で複製できますが、最先端のAIを学習させるには膨大な数の専用チップが要ります。それを詰め込んだデータセンターは宇宙から見えるほど大きく、目立つ電力設備も欠かせません。新しいAIチップを作れる工場は主に台湾、韓国、米国、中国にある一握りしかなく、最先端チップに欠かせない極端紫外線(EUV)露光装置はオランダの1社しか作っていない、と本文は書いています3。隠しにくく、しかも増やしにくい。だからチップと設備さえ押さえれば、AIの進歩に手綱をかけられるのではないか。著者らの見立ては、そこから出発しています。
数字の細かさは、この文書の読みどころの一つです。申告の対象は、最初はH100換算で1万基(約1億ドル)以上を購入した企業。1年以内に、世界の計算資源の0.001%(約2,800基、約1,800万ドル)以上を持つ企業まで、保有が把握されます。最終的な行き先をたどれない販売は全体の約1%で、多くは顧客を記録していない密輸業者と、廃棄されたチップです。その半分は後に衛星画像で特定されたデータセンターから見つかり、残る0.5%については、米中とも名乗り出た所有者に報奨金と法的な免責を提示する、という筋書きになっています3。
日本語の解説でよく見る「既存チップの98.5%を追跡できる」という数字は、執筆に協力したアレクサンダー氏が自身のブログで紹介した見積もりです4。彼はPlan Aの検証を、チップの供給を米中で共同管理する、既存チップの所在を突き止める、すべてのチップを互いに監査できる認可データセンター(ホワイトサイト)に集める、という3段階で説明しています。本文の記述(隠せるのは約1%)とは表し方が違うので、引用するときは出典を分けたほうが正確です。正直に書くと、私も初版ではこの区別をしていませんでした。
この仕組みを最後に支えるのが「相互確証コンピュート破壊(Mutually Assured Compute Destruction)」です3。冷戦期の相互確証破壊、つまり先に撃てば報復で自分も滅ぶから誰も撃てない、という核抑止の論理を、計算資源に置き換えた考え方。驚かされるのは、その仕掛けの具体性です。米中は、新しいデータセンターを、相手の軍事介入に最も弱い第三国に建てることに合意します。中国の新しいデータセンターはカナダに、米国の新しいデータセンターはモンゴルに。合意が崩れれば、米国とカナダはカナダにある中国のデータセンターを押さえにかかり、中国はそれを渡すくらいなら自ら計算資源を破壊するはずだ、と両国は考えます。逆も同じです。抜け駆けした瞬間に自分の計算資源を失う構図を、あらかじめ地理で作っておくわけです。失われるのが人命ではなく計算資源である点も、この発想の面白いところでしょう。
経済の描写は、この文書のなかで最も大胆で、最も批判を集めた部分です。2032年の章では実質GDP成長率が約50%に達します。米国の通常の成長率は年3%前後ですから、桁がまるで違います(本文の注による)3。AIとロボットが担う労働の割合は、経済価値で重み付けして2032年の約20%から2035年には約85%に上がります。その穴を埋めるのが「市民配当」。計算資源とロボットの許可料の大半を、米国の成人全員に配ります。金額は2032年に1人あたり年4万5,000ドルで始まり、2035年には約100万ドル、2040年には所得の下限が1,000万ドル。いずれも2025年の実質ドル建てです。米国外の人への配当は2032年に平均1,200ドル、2035年に9,000ドルと大きく見劣りし、著者らは「公平だからではなく、政治の現実への譲歩だ」と注記しています。一方、ダッシュボードの就業率は2033年の52%から、2038年には17%まで下がっていくのです。
桁に驚く前に、二つの但し書きを読んでおくべきだと思います。一つは、これらの数字が著者らの経済モデルから出ていて、著者ら自身が「確信がない」と注記していることです。確信があるのは「AIが経済を一変させ、政府が巨大な政府系ファンドに相当するものを持てるようになる」という大きな絵のほうだ、と書かれています。もう一つは物価の前提です。自動化で知的労働とモノの値段が劇的に下がる一方、土地のように増やせないものは高くなる、と注にあります。額面だけ取り出して「1人1億円以上もらえる」と読むのは早計で、物価の前提とセットでしか意味を持ちません。
加速一辺倒でも様子見一辺倒でもなく、その間で計画的に舵を取ること。国家の話でも企業の話でも、設計の考え方は共通しています。私たちがWARPというAIコンサルティングで経営者と向き合うときの問いも、根っこは同じだと感じています。
Plan B・C・D・Sの中身と比較(著者の確率つき)
AI 2040は、Plan Aだけを推す文書ではありません。2029年の分かれ道で米国が取りうる主な対応を5つ並べ、そのうえでPlan Aを推しています3。ウェブ版の分岐図には、Plan D「Race to ASI」、Plan C「Burn the Lead」、Plan B「Fight China」、Plan A「Verified Slowdown」、Plan S「Shut it all down」の5つのボタンが並びます。PDF版の付録では章題が少し違い、Plan Bは「Sabotage(妨害)」、Plan Cは「The Slowdown(減速)」、Plan Dは「The Race(競争)」、Plan Sは「Shutdown(停止)」です。同じプランに呼び名が二つあると覚えておくと、海外の記事を読むときに迷いません。
各プランの比較は、補足資料「Comparing Possible Plans」にまとまっています8。書いたのはリフランド氏で、本人は「具体的な見積もりにはまったく自信がない。ただし、Plan AがPlan B〜Dより大幅に良いという結論には自信がある」と断っています。表の期間と二つの確率は、2029年初めに各プランの実行を試みた場合の、実装のばらつき全体での中央値です。
| プラン | 中身(補足資料の定義を要約) | 研究の自動化から人間が止められないAIまでの期間 | 制御を失わない確率 | 素晴らしい未来に至る確率 | 著者5人が見る「実際に起きる確率」 |
|---|---|---|---|---|---|
| A 検証つきの減速 | 検証できる国際的な減速合意と、AI研究の完全な透明化 | 約6年 | 72% | 42% | 3〜15% |
| B 対中妨害 | 中国の開発を妨害してリードを広げ、それを安全に使う。軍事攻撃も辞さない型と、サイバー攻撃などにとどめる型がある | 約3年(軍事型)、約2年(非軍事型) | 50% | 25% | 8〜15% |
| C+ 国内規制 | 中国を妨害せず、国内規制と輸出管理などで時間を稼ぐ | 約1.5年 | 45% | 25% | 8〜25% |
| C リードを燃やす | 先頭のAI企業がリードの一部を安全に回す。国内規制はない | 約1.1年 | 40% | 20% | 10〜20% |
| D 競争 | ほぼ全速で知能爆発に突き進み、安全には資源の1%以上を回す | 約1年 | 25% | 10% | 25〜50% |
| S 無期限の停止 | 最先端AIの能力向上を少なくとも数年止める | 比較表の対象外 | 対象外 | 対象外 | 「その他」に含まれる |
期間と二つの確率はリフランド氏の見積もりで、「実際に起きる確率」はリフランド、ココタイロ、ラーセン、ディーン、グリーンブラットの5氏の見積もりの幅です8。
Plan B(Fight China):中国の開発を妨害し、稼いだリードを安全に使う道
PDF付録のPlan Bでは、大統領が米国主導の連合を立ち上げ、「ルールに従って参加する国は最先端のAIを利用し、恩恵を分かち合える。参加しない国は敵対者になる」と宣言します3。米国の主要企業の人材、計算資源、アルゴリズムは、大統領が最終的に管理する一つの共同事業にまとめられます。他国は米国自身がルールを守っているかをどう確かめるのかと問いますが、米国のデータセンターに外国の査察官を入れることは受け入れられません。米中の対立はサイバー攻撃から物理的な妨害へと段階を上げ、2031年には、大統領が「AIに広く権限を渡す」か「さらに戦争へ踏み込む」かの二択を迫られる展開です。
著者らは、このプランに「複雑な気持ち」を抱いていると書いています。うまく実行できれば、Plan C(中国を妨害せず、少しだけ減速する)より長い減速期間を得られるかもしれません。けれども戦争のリスクは高く、うまく実行されたPlan Bでさえ、Plan AやPlan Sよりかなり悪い、と著者らは見ています。しかも妨害だけ行って減速はしない、という形に歪みやすく、そうなると現状(Plan D)の欠点に、権力の集中と早い段階での対立の激化が上乗せされる、という評価です3。補足資料でも、軍事攻撃を辞さない型(B-kinetic)と、サイバー攻撃やサプライチェーン攻撃にとどめる型(B-cyber)に分けて評価されています8。シナリオは米中のどちらかを悪役として描いているわけではなく、双方が相手の先行を恐れて行動をエスカレートさせる構図として書かれている点は、押さえておきたいところです。軍が攻撃の選択肢を準備するのはPlan Aを含むどのプランでも同じだ、という注記もあります。
Plan C(Burn the Lead):先頭企業がリードの一部を安全に回す道
Plan Cでは、大統領が安全とセキュリティのための強い規制を約束し、1年かけて企業のトップや中国、各国と話し合います3。興味深いのは、英国、フランス、インド、オーストラリア、日本、韓国といった中堅国の連合が、知能爆発を防ぎ、自国のAIも最先端に追いつけるような合意を強く求める存在として描かれることです。90ページのPDFで日本の名前が出てくるのは、私が全文を検索した限り、この一か所だけでした。
ところが合意は検証の方法でつまずきます。中国は自ら遵守を確かめたいと主張し、米国は中国の査察官を自国のデータセンターに入れることを受け入れません。完全な自動化の手前で、先頭の米国企業はしぶしぶ一時停止に応じますが、長くは続きません。他社が追いつき、中国も迫るなか、企業側は「計算資源の20%を安全研究に回しても、中国より余裕をもって速く進める」と大統領を説得し、再帰的な自己改良(AIが自分より賢いAIを作る循環)が再開します。その先はAI 2027の「減速」の結末に近い、と著者らは書いています。
評価は「Plan Dよりはましだが、それでも悪い計画」です3。数か月の減速では、急かされ、自社の成果に楽観的になりがちな安全チームが、知能爆発をうまく終わらせる方法を見つけるには足りない、というのが一つ目の理由です。このシナリオでAIに乗っ取られる確率について、著者の見方はかなり割れています。ラーセン氏とココタイロ氏が約70%、リフランド氏とディーン氏が五分五分、ハルステッド氏が約3分の1、グリーンブラット氏が約20%。補足資料は、中国を妨害せず国内規制で少なくとも2か月の減速を作る型を「C+」、国内規制なしで先頭企業が少なくとも1か月減速する型を「C」と分けています8。
Plan D(Race to ASI):いまの延長線で全速の競争を続ける道
検索でこの記事にたどり着いた方の多くが気にしているのが、Plan Dだと思います。補足資料の定義では、フロンティアAI企業がほぼ最大の速度で知能爆発を駆け抜け、安全には資源の「ゼロではないが小さな割合(少なくとも1%)」を回す道です。1%を下回ると、さらに悪い「Plan E」に分類されます8。ASIは人工超知能(Artificial Superintelligence)の略です。
PDF付録のPlan Dは、大統領が「イノベーションを優先し、AI規制は軽くする」と宣言する場面から始まります3。大手AI企業は減速せず、AI研究開発を自動化して互いに競い合い、それを「責任あるスケーリング」と呼びます。透明性は、長いモデルカードの公開や政府への説明といった最低限にとどまり、中国については「超知能で先を越されてはならない」と考えるだけです。その結果として描かれる年表は次のとおりで、倍率は現在と比べたAIによるソフトウェア研究開発の加速を指します。
- 2030年初め:コーディングを自動化するAI(5倍)
- 2030年半ば:人間を超えるAI研究者(25倍)
- 2030年後半:トップの専門家を凌駕するAI(250倍)と、超知能級のAI研究者(2,000倍)
- 2031年初め:人工超知能(1万倍)
自動化が始まってから1年ほどで超知能に届く速さです。著者らは、この先の展開はAI 2027と戦略的にほぼ同じなので、AI 2027を読んで分岐点で「競争(Race)」の結末を選んでほしい、と書いています。
著者らはPlan Dを「最悪(atrocious)」と評し、理由を三つ挙げます3。第一に、ほぼ全速で競争すれば、AI企業が知能爆発のあいだAIの制御を保てるとは考えにくいこと。第二に、仮にAIがうまく人間の意図にそろえられたとしても「誰の意図にそろえるのか」という問いが残り、企業のトップや大統領がAIの力で独裁者になる誘惑があまりに多いこと。第三に、第三次世界大戦のリスクが高すぎることです。米国が知能爆発に入ろうとしていると気づいた中国やロシア、インド、欧州、ブラジルなどが、経済的にも軍事的にも支配されることを恐れ、緊張が一気に高まる、という見立てです。ただし第一の点には注記があり、6人の著者のうち1人は、この状況で制御を失う確率は40%程度だと考えている、とされています。
補足資料の数字で見ると、Plan Aとの差はさらにはっきりします8。研究の自動化から人間が止められないAIまでの期間は約1年(Plan Aは約6年)、安全に回る計算資源はH100換算で50万基・年(Plan Aは1,000億基・年)、安全研究に投じられる研究者の延べ年数は200人年(Plan Aは100万人年)。制御を失わない確率は25%、素晴らしい未来に至る確率は10%です。前提の置き方を変えて集計した著者別の見積もりでは、Plan Dで制御を失わない確率はココタイロ氏の10%からグリーンブラット氏の55%まで開いています。
そして見落とせないのが、著者5人がそろって、Plan Dを実際に起きる可能性が最も高い道と見ていることです。ラーセン氏は50%、ココタイロ氏とディーン氏は30%、グリーンブラット氏は28%、リフランド氏は25%。トップページには、代わりのプランは米国が取りうる主な対応(あるいは何もしないこと)に対応すると書かれていて、Plan Dはまさに「何もしない」場合の道です。悪役のプランというより、いまの延長線そのものだと言えます。各国と各社が競い合い、安全への投資が相対的に小さい現状は、5つのなかでPlan Dにいちばん近いと私は見ています。
Plan S(Shut it all down):開発を無期限に止める道
Plan Sでは、新しい大統領が「神を作る必要はない。必要なのは、誰も神を作らないことだ」と演説してAI開発の世界的なモラトリアム(一時停止)を求め、中国もこれに応じます3。既存のAIチップの大半を追跡・監視して大規模な学習が行われていないことを確かめ、より良いアルゴリズムを探すAI研究も禁止。既存のデータセンターと既存のAIは動き続け、学習に使われていた計算資源が推論に回るので、使えるAIの量はむしろ倍増します。2030年末には、コンソーシアムが世界のAI計算資源の99%と、先端半導体の製造能力の100%を押さえている、という設定です。隠れた開発は世界中で起きるものの、AI研究が生物学者にとってのクローン人間研究と同じくらいタブーになり、人材が集まらないため、進歩の速度は停止前の10分の1以下に落ちると描かれます。
初版の記事で、私はPlan Sを「極端な選択肢」と紹介しましたが、これは原文の温度感とは違う紹介でした。著者らは「Plan Sに共感しており、Plan Aより良い可能性もある」と書き、補足資料でもPlan Sを「Plan Aと張り合いうるプラン」の筆頭に置いています8。それでもPlan Aを推すのは、停止の合意はいずれ崩れる可能性が高いと見ているからです9。止めているあいだはAIの能力を上げられないので、アラインメントの研究も進みにくくなります。合意が崩れて競争が再開したとき、Plan Aのほうが安全研究の蓄積が多い状態で再開できる、という比較です。著者らは、よく実装されたPlan Aは制御の喪失と権力の集中をおそらく避けられる一方、よく実装されたPlan Sでも10年ほどで再び危険な競争に戻りうる、と見ています3。逆に、Plan Sは仕組みが単純で、善意だが専門知識の足りない規制当局でも実行を誤りにくい、という利点も認めています。どちらを好むかは、米中の合意がどれだけ長続きすると見るかと、アラインメントの難しさの見立てしだいだ、というのが著者らの整理です。
5つを並べると、物差しが見えてきます。速さに振り切るのがPlan D、速さを捨てて止めるのがPlan S。その間に、対中妨害で時間を稼ぐB、国内規制や企業の判断で少しだけ減速するC+とC、国際協調で歩調を合わせて減速するAが並ぶ構図。どれを選んでも、得るものと引き換えに手放すものがあります。著者らが最も推すPlan Aの「実際に起きる確率」が3〜15%しかなく、最も避けたいPlan Dが25〜50%という見積もりは、望ましい終点と、そこへ至る道のりの遠さを同時に示していると私は受け止めています。
公開から3か月で何が変わったか(当時と現在)
この記事の初版を書いたのは2026年7月25日、公開から2週間あまりの時点でした。その後の3か月で、著者ら自身の発信と周辺の議論はかなり動いています。主な出来事を時系列で並べます。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2026年7月9日 | AI 2040: Plan Aを公開5 |
| 2026年7月下旬 | フロンティアAI企業の従業員1,000人超が、最先端のAI開発のペースを意図的に調整する(pace the frontier)国際的な取り組みへの支援を米国政府に求める公開書簡に署名(AI Futures Projectのブログによる)10 |
| 2026年8月5日 | 著者らが国内規制の暫定案「How to pace the US frontier」を公開10 |
| 2026年8月16日 | 時間軸の予測を更新。わずかに短くなり、現実はAI 2027の予測の70〜90%程度の速さで進んでいると評価11 |
| 2026年9月9日 | 政策担当者向けの1ページ要約をサイトに追加212 |
| 2026年9月12日 | AnthropicのCEOダリオ・アモデイ氏がエッセイ「We Must Pace the Frontier」を公開(抄訳と解説の記事) |
| 2026年9月30日 | ココタイロ氏が米上院の小委員会で証言13 |
著者ら自身の考えで最も大きく動いたのは、8月5日の国内規制案だと思います10。著者らは「AI 2040では国際協調が本格的な国内規制より先に来るが、現実には国内規制から始め、それを国際協調に広げるほうがよいかもしれない」と書きました。米国企業のモデルやアルゴリズムの進歩が抑えられれば、蒸留(強いモデルの出力を使って別のモデルを鍛えること)や流出を通じて中国側に渡る能力も小さくなるので、国内での減速は中国の減速にもつながる、という理屈です。案は4つあります。最先端モデルの能力向上を社内向けモデルも含めて一時停止する案、計算資源のうち外部向けの推論に回す割合(例えば70%)と透明な安全研究に回す割合(例えば25%)に下限を設ける案、AI研究の自動化に使ってよいモデルの能力に上限を設ける案(例えば学習を終えてから9か月以上たったモデルだけを使える)、第三者のリスク評価者がリスクの上限を執行する案です。著者らは、どれもAI 2040ほど練られてはいないと断っています。補足資料にあった「国内先行のPlan A」という代替案が、具体的な形を取り始めた、というのが私の読みです。
9月9日に追加された1ページ要約は、4原則を政策担当者向けに言い直しています12。「引き返せるようにする」は「データセンターに自爆スイッチを維持し、合意が崩れても破局を避ける」と書き換えられ、実行の手順は、世界のAI関連の計算資源を突き止める、検証技術を整えるあいだAIの学習を一時停止する、安全の論証にもとづく規制と研究の完全な透明化のもとで研究開発を再開する、の3段階に整理されました。すぐに取るべき行動として挙がっているのは、政府と社会への透明性、政府のAI人材の拡充、計算資源の追跡、既存の輸出管理の執行、検証技術の研究開発の5つです。
9月30日の上院証言では、ココタイロ氏が二つの提言をしています13。一つはAI業界の透明性を大幅に高めること。もう一つは、AI研究の自動化を急ぐ競争から計算資源を振り向けることで、大手AI企業が計算資源のおよそ半分をAI研究開発に使っているとの推計を挙げ、それを例えば10%に下げれば研究の自動化への競争をかなり減速でき、余った計算資源を有益な利用や安全研究、利用者向けの値下げに回せる、と述べました。研究の全工程の自動化がいつ実現するかについては、2028年末までに約50%、というのが本人の個人的な見立てです。AI 2040の既定の年は2030年でしたから、少なくとも代表の時間感覚は、シナリオより前にずれています。ココタイロ氏がインタビューで語った「70%」という数字の中身は、別の記事で読み解きました。
初版からの訂正
初版の記述のうち、原文と補足資料を読み直して改めた点は次のとおりです。
| 項目 | 初版(2026年7月25日)の記述 | 現在の確認結果(2026年10月4日) |
|---|---|---|
| 公開時期 | 2026年の春ごろ | 2026年7月9日(米国時間) |
| 中心の著者 | ココタイロ氏を筆頭として紹介 | 表記順の先頭で、内容の最終決定権を持ったのはラーセン氏。ココタイロ氏は団体の代表 |
| 「約42%」 | 著者チームが見積もった成功確率 | 比較の補足資料を書いたリフランド氏の中央値(素晴らしい未来に至る確率)。Plan Aが実際に起きる確率は別で、3〜15% |
| 市民配当 | 2033年に年約2万5,000ドル、2035年に約160万ドル | 現在の版では、2032年に年4万5,000ドルで始まり、2035年に約100万ドル(2025年の実質ドル) |
| 雇用をめぐる批判 | 失業率が12%に達する描写 | 就業率が12%前後まで下がる描写への批判 |
| Plan S | 極端な選択肢 | 著者は共感を示し、Plan Aより良い可能性も認めたうえで、合意の持続性を理由にPlan Aを推す |
| 98.5% | 著者の見積もり | 執筆に協力したアレクサンダー氏の解説記事の数字。本文の記述は「隠せるのは約1%」 |
| 想定読者 | 2028年の大統領選の候補者に5つの計画を示す体裁 | 2028年の選挙と2029年の選択を物語として描いた、米国の政策担当者向けの提言 |
この計画を、どこまで信じてよいのか
ここまで中身をたどってきましたが、この文書を予言のように読むのは危険です。著者ら自身が控えめに構えているうえ、外部からも相応の批判が出ています。両方を並べておくのが健全な読み方だと思います。
まず著者らの留保です。比較の補足資料は冒頭で「これらはすべて大まかな最善の推測で、細部は私たちの推奨を支えるものではない(大きな結論は支える)」と断っています8。Plan Aを試みた場合に制御を失わない確率は、著者別に70〜81%。裏を返せば、本命のPlan Aですら2割から3割の確率で制御を失うと見積もっていることになります。FAQでも「Plan Aの実装は非常に複雑で、良い実装でも相当な存亡のリスクを伴う」と認めています9。楽観一辺倒の文書ではありません。
執筆に協力したアレクサンダー氏も、自身のブログで弱点を率直に挙げています4。彼は「この記事は私個人の意見で、団体の公式見解ではない」と断ったうえで、Plan Aにとって最大のリスクは、ゆっくり進みすぎて合意が崩れることだと書いています。前例として挙げるのは軍備管理です。米ロの戦略兵器削減条約(STARTと新START)は数十年続いたものの、2023年に履行が停止され、2026年に完全に失効しました。イランの核合意(JCPOA)は2年あまりしかもちませんでした。次のリスクが、追跡から漏れる1.5%の計算資源です。団体の計算では、隠した計算資源で決定的な優位を得るには10年以上かかるとされますが、そのあいだに合意の目的を果たしておく必要がある、という指摘。三つ目が技術の進歩そのもので、チップとアルゴリズムが毎年良くなれば、いずれ大学の研究室程度の設備で危険なAIを作れるようになり、信頼を前提にしない合意は成り立たなくなる、というものです。彼はこの文書を「公開するには無茶な代物だ」と書き、政治家の提案を測る「最低ライン」として読んでほしい、とも書いています。チームからは「すべて暫定的だと強調してほしい」と頼まれた、とも明かしています。
外部からの批判で最も鋭かったのは、経済の描写に向けられたものです。米国の保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のジェームズ・ペソコウキス氏は2026年7月15日の論考で、1年で50%の成長が起きる現実的なシナリオはほぼ「サイエンス・ファンタジー」だと評しました14。豊かな国の経済にとっては、5年間の累計で50%成長するだけでも異例だ、という指摘です。2030年代末に就業率が12%まで落ち込む描写についても、人々がそれを受け入れるのかと疑問を投げています。同時に、著者ら自身が経済について不確かさを認めている点にも触れています。一つの数字が突拍子もなければ、他の主張まで疑わしく見えてしまうものです。市民配当のような桁外れの数字を額面どおりに受け取らない、という注意喚起として、私も妥当だと感じます。
政治の現実性を突く声もあります。米国でマーケティング分野のAI活用を発信しているある論者の評は、「聞こえはいいが、実行できる選択肢とは思えない」「2028年より先は完全な当て推量だ」というものでした。遠い2040年を論じるより、いまどの方向に一歩を踏み出すかのほうがずっと大事だ、という含意です。このほか、AIの危険をもっと重く見る立場からは「Plan Aでは足りず、Plan Sこそ必要だ」という声が、逆に超知能という前提そのものを疑う立場からは「そもそもAIは普通の技術として扱うべきだ」という声が出ています。同じ文書が、両側から批判されているわけです。
批判を整理すると、争点はおおよそ三つに絞れます。技術的に本当に検証しきれるのか(追跡から漏れる計算資源と、アラインメントの前提)。国際政治として十数年も続くのか(米中協調の持続性)。経済の描写が現実離れしていないか(1年で50%の成長と桁外れの市民配当)。批判の多くは「論理は分かるが、前提が甘い」という形を取っていて、計画の骨格を全否定しているわけではありません。それでも私はこの文書に読む価値があると考えています。予測が当たるかどうかより、超知能という極端な事態に対して、透明化や検証、計算資源の配置といった具体的な手段で正面から向き合い、自分たちの案を自ら精査にかけてみせた、その思考の枠組みが参考になるからです。
経営者はこのシナリオをどう使えばよいか
最後に、このシナリオを自社の話としてどう使うかを書きます。
まず、日本という視点です。先に触れたとおり、90ページのPDFで日本の名前が出るのは、Plan Cの中堅国の連合の一か所だけでした。Plan Aの本編では、米国、中国、それ以外の国の計算資源とロボットの配分を35対20対45とする合意が描かれ、それ以外の国への配分は「主に核保有国と、データセンターや半導体製造を持つ国」に回るとして、英国、フランス、ドイツ、イスラエル、ロシア、インド、パキスタン、韓国、台湾が例に挙がっています3。あくまで注の中の例示で、日本を除外する意図があるとは読めません。ただ、超知能をめぐる交渉の席に日本の席が自動的に用意されているわけではない、という現実は直視しておくべきだと思います。国の政策も、実は同じ時間軸の上で動いているのです。日本の中長期の経済財政の見通しが2040年度までを見据えていることは骨太の方針2026を解説した記事で、AIが画面の中から物理世界へ広がる動きはフィジカルAIをめぐる日本の戦略を整理した記事で扱いました。
では、一企業は何をすればよいのか。私の提案は、AI 2040の作り方そのものを借りることです。一つ目は、自社にとっての「Plan D」を書き出すことです。何も変えずにこのまま進んだら、3年後、5年後に自社の業務と競争環境はどうなっているか。AI 2040の著者らが最も起きやすいと見たのが「何もしない」道だったように、多くの会社にとっても、いちばん現実味があるのは現状の延長線です。そこを言葉にしないまま打ち手を議論しても、比較の基準がありません。
二つ目は、自社のAI導入計画を「シナリオ精査」にかけることです。その計画がうまくいく筋書きを、誰が、いつ、何をして、どの数字がどう動くかまで具体的に書き出してみてください。書けないところがあれば、そこが計画の弱点です。著者らが自分たちの政策案に課したのと同じ手順で、社内の計画にもそのまま使えます。
三つ目は、4つの原則を社内のAI導入の物差しに置き換えることです。
| AI 2040の原則 | 文書での意味 | 社内のAI導入に置き換えると |
|---|---|---|
| 時間を稼ぐ | 安全に確信が持てるまで、必要なら減速する | 試行、部門展開、全社展開の段階ごとに「次に進む条件」を決め、満たすまで進めない |
| 研究の完全な透明化 | 研究開発をほぼすべて公開し、互いに確かめられるようにする | AIに渡したデータ、使い方、出力の扱いを記録し、誰が何に使っているかを見えるようにする |
| AIを広く行き渡らせる | 多くの国と企業に分散させ、力の集中を防ぐ | 活用が一部の人や部署に偏らないよう、研修で底上げし、成功例を共有する |
| 引き返せるようにする | 計算資源中心に進め、危険なら止められるようにする | 特定のAIサービスに依存しすぎない。データの持ち出しと、人の手で回す手順を残しておく |
四つ目は、見張る指標を決めておくことです。AI 2040の年表は、コーディングを自動化するAIの登場という節目を起点に組まれていました。企業でいえば、「AIなしでは回らなくなった業務が社内に出てきたか」「その業務の判断を、人が説明できる状態に保てているか」といった問いが、自社版の節目になります。シナリオの年号が当たるかどうかより、節目が来たときに慌てずに済む準備ができているかどうかのほうが、経営にとってはずっと大事です。
AI 2040が描くような超知能は、まだ来ていません。だからこそ、今は準備のための時間だと捉え直せます。Plan Aが2035年の停止で安全の足場を固めようとするのと同じように、企業にとっての今の数年は、AIが本格的に賢くなる前に、自社の使い方の足場を固めておく期間です。AIの実力を過大にも過小にも評価せず、どの業務に効いて、どこに人の判断が要るのかを見極めることが出発点になります。その整理に迷っておられるなら、WARPの担当までご相談ください。元大手企業でDXやデータ戦略を担ってきた専門家が、月次で伴走しながら、AIを経営に落とし込むお手伝いをしています。AIを入れれば何もかも解決するわけではありません。どこに効いて、どこは人が決めるのか。そこから一緒に始めましょう。
まとめ
- AI 2040: Plan Aは、AI 2027を書いたAI Futures Projectが2026年7月9日に公開した政策シナリオです。筆頭著者はトーマス・ラーセン氏で、代表のダニエル・ココタイロ氏ら6名が書いています
- 何もしなければ2030年に現れうる超知能を、2029年の米中合意、計算資源の申告と学習の一時停止、2035年のトップ専門家水準での停止を経て、2040年まで遅らせる筋書きです。土台は4原則と、相互確証コンピュート破壊を含む検証の仕組みです
- 比較されるのはPlan B(対中妨害)、Plan C(リードを安全に回す)、Plan D(全速の競争)、Plan S(無期限の停止)です。Plan Dは自動化から約1年で超知能に届き、制御を失わない確率は25%と見積もられています
- 著者5人は、Plan Aが実際に起きる確率を3〜15%、Plan Dを25〜50%と見ています。最も推す道ほど起きにくく、最も避けたい道ほど起きやすい、という見立てです
- 公開後、著者らは国内規制から始める暫定案を出し、9月30日にはココタイロ氏が上院で透明性の向上と計算資源の振り向けを提言しました
- 経営者にとっての使い道は、年号を当てることではありません。自社にとってのPlan Dを書き出し、自社の計画をシナリオ精査にかけ、4原則で導入の段取りを点検することです
未来のシナリオは、当たり外れを競うためのものではなく、起こりうる幅を想定し、選択肢を並べて打ち手を考えるための道具だと私は思っています。AI 2040の著者らが自分たちの案を真っ先に精査にかけたように、まずは自社のAI計画を一度、具体的な物語として書き出してみてください。書けなかった一行が、いちばん先に手を打つべき場所です。
参考文献・一次情報
Footnotes
-
AI Futures Project「About」(団体概要、メンバーの略歴) https://ai-futures.org/about ↩ ↩2 ↩3
-
AI 2040「About」(執筆の分担、変更履歴) https://ai-2040.com/about ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
AI Futures Project「AI 2040: Plan A」公式サイト(本文、PDF版90ページ。2026年10月4日閲覧) https://ai-2040.com/ ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14 ↩15 ↩16 ↩17 ↩18 ↩19 ↩20 ↩21 ↩22
-
Scott Alexander「Introducing Plan A」Astral Codex Ten(2026年7月9日) https://www.astralcodexten.com/p/introducing-plan-a ↩ ↩2 ↩3
-
AI Futures Project 公式ブログ「AI 2040: Plan A」(副題「The least bad plan we currently know of」、2026年7月9日) https://blog.aifutures.org/p/ai-2040-plan-a ↩ ↩2
-
AI Futures Project「AI 2027」(2025年4月3日) https://ai-2027.com/ ↩
-
ソフトバンク ビジネスブログ「2040年『ASI Economy』への道筋。孫正義 特別講演レポート」(2026年7月16日公開。SoftBank World 2026 の講演内容) ↩
-
Eli Lifland「Comparing Possible Plans」AI 2040 補足資料 https://ai-2040.com/supplements/comparing-possible-plans ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8
-
AI 2040「FAQ」補足資料 https://ai-2040.com/supplements/faq ↩ ↩2
-
AI Futures Project「How to pace the US frontier: Tentative proposals for domestic AI regulation」(2026年8月5日) https://blog.aifutures.org/p/how-to-pace-the-us-frontier ↩ ↩2 ↩3
-
AI Futures Project「Q2.5 2026 Timelines Update: Uplift and Revenue」(2026年8月16日) https://blog.aifutures.org/p/q25-2026-timelines-update-uplift ↩
-
AI 2040「Summary of Plan A」(2026年9月9日追加) https://ai-2040.com/summary ↩ ↩2
-
Daniel Kokotajlo「Senate Testimony Sept 2026」(2026年10月2日。証言は9月30日) https://blog.aifutures.org/p/senate-testimony-sept-2026 ↩ ↩2
-
James Pethokoukis「Superintelligence Soon? How Seriously Should I Take The AI 2040 Scenario?」American Enterprise Institute(2026年7月15日) https://www.aei.org/commentary/superintelligence-soon-how-seriously-should-i-take-the-ai-2040-scenario/ ↩






