こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。「うちは日本から貨物を出していないので、輸出許可は関係ないですよね」。商社や卸売業の方と話していると、ときどきこの言葉を耳にします。気持ちはわかります。輸出管理という名前からして、日本の港や空港から貨物が出ていく場面を思い浮かべますから。
ところが、貨物が日本の税関を一度も通らない取引でも、外為法の許可が必要になるケースがあります。それが今回のテーマ、仲介貿易規制です。呼び名がいくつもあるのが初心者泣かせなところで、実務では仲介貿易、三国間貿易、三国間取引、仲介取引などと呼ばれますが、法令上の正式名称は「外国相互間の貨物の移動を伴う貨物の売買、貸借又は贈与に関する取引」といいます。この記事では法令の用語に合わせて仲介貿易取引と呼ぶことにします。2025年10月9日に施行された改正で条文の位置が変わった点も含めて、はじめて輸出管理に触れる方に向けて整理していきます。
仲介貿易取引とは何か。日本を通らない三国間取引
まず定義から押さえます。仲介貿易取引の根拠条文は外為法(外国為替及び外国貿易法)25条4項です。条文をそのまま引くと、「居住者は、非居住者との間で、国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める外国相互間の貨物の移動を伴う貨物の売買、貸借又は贈与に関する取引を行おうとするときは、政令で定めるところにより、当該取引について、経済産業大臣の許可を受けなければならない」とあります[^1]。
法律の文章はどうしても硬いので、要素を分解してみます。ポイントは三つです。
一つめは、取引の主体が「居住者」であること。居住者とは、ざっくり言えば日本国内に住所や本店を持つ個人・法人のことです。日本の会社であれば、まず居住者に当たると考えて差し支えありません。二つめは、相手方が「非居住者」、つまり外国の企業や個人であること。三つめが最大の特徴で、貨物が「外国相互間」を移動することです。たとえば日本の商社が米国のメーカーから機械を買い、その機械を米国から直接タイの顧客へ船で送る。貨物は米国からタイへ動くだけで、日本には一度も入ってきません。これが典型的な仲介貿易取引です。
なぜこんな取引まで規制するのか、疑問に思う方もいるでしょう。理由は単純で、日本からの輸出だけを縛っても、日本企業が外国と外国の間で懸念国向けの取引を仲介できてしまったら、規制に大きな穴が空くからです。契約の当事者として貨物の行き先を左右できる立場にある以上、貨物の物理的な所在にかかわらず責任を持ってもらう。そういう発想の制度だと理解しています。
なお、契約形態は売買に限りません。条文にあるとおり、貸借や贈与も対象です。実はこの範囲は最初から広かったわけではなく、規制の細部を定める省令は制定当初(平成19年6月1日施行)は売買のみを対象としており、平成21年の改正(2009年11月1日施行)で貸借と贈与に広がったという経緯があります[^12]。規制は時代とともに広がる方向で動いてきた、という点は頭の片隅に置いておいて損はありません。
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許可が必要になる二つのケース。武器と「おそれ」
仲介貿易取引のすべてに許可が要るわけではありません。許可が必要な範囲は外国為替令(外為令)17条5項が定めていて、大きく二つに分かれます[^2]。
第一のケースは武器です。輸出貿易管理令(輸出令)別表第1の1の項に該当する貨物、つまり銃砲や軍用車両といった武器そのものの仲介は、外国相互間の移動を伴う売買・貸借・贈与のすべてが許可対象になります。経済産業省の公式説明でも、武器の仲介は「全ての国・地域が対象」と明記されています[^3]。CISTEC(安全保障貿易情報センター。輸出管理の民間専門機関です)の解説では、米国メーカーから購入した機関銃をイスラエルに売却するような、日本を経由しない取引も許可対象になる例として挙げられています[^10]。相手国がどこであろうと、武器の仲介に例外はない。ここは覚えやすいところです。
第二のケースが、別表第1の2から16の項に該当する貨物、いわゆるリスト規制品の仲介です。こちらは武器と違って、常に許可が要るわけではありません。外為令17条5項の定めでは、船積地域又は仕向地が輸出令別表第3の地域(いわゆるグループA。輸出管理の優等生とされる国々です)である場合を除き、その貨物が核兵器等の開発等に用いられるおそれがある場合に許可が必要になります[^2]。経済産業省の説明でも、大量破壊兵器等の開発等のおそれがある場合は「輸出令別表第3の地域を除く全ての国・地域」が規制対象とされています[^3]。地域の線引きの細かな適用条件は、実際の案件では経産省の最新の政省令・告示で必ず確認してください。
表で整理するとこうなります。
| 貨物の区分 | 対象となる国・地域 | 許可が必要になる条件 |
|---|---|---|
| 輸出令別表第1の1の項(武器) | すべての国・地域 | 外国相互間の移動を伴う売買・貸借・贈与はすべて許可対象 |
| 輸出令別表第1の2〜16の項(リスト規制品) | 輸出令別表第3の地域(グループA)が船積地域又は仕向地の場合を除く | 核兵器等の開発等に用いられるおそれがある場合(客観要件該当、またはインフォーム通知の受領) |
構造に見覚えのある方もいるかもしれません。リスト規制で網をかけ、それ以外は懸念の度合いで判断するという建て付けは、輸出そのものの規制と発想が共通しています。リスト規制とキャッチオール規制の全体像はリスト規制とキャッチオール規制の基本で解説しているので、土台から確認したい方はそちらを先に読むとつながりが見えやすいはずです。
もう一点、見落とされがちな論点を足しておきます。規制対象は貨物のやり取りだけではありません。経済産業省の説明では、外国相互間の技術提供、つまり技術の仲介取引も許可対象になる場合があるとされています[^3]。図面やプログラムを外国から外国へ流す商流を持っている会社は、貨物と同じ目線でのチェックが必要です。
「おそれ」はどう判定されるのか。仲介おそれ省令の中身
第二のケースに出てきた「核兵器等の開発等に用いられるおそれがある場合」。この曖昧に見える言葉が、実務ではいちばんの悩みどころになります。何をもって「おそれあり」とするのか。その基準を定めているのが、平成18年経済産業省令第101号、通称・仲介おそれ省令です[^4]。
同省令の定める要件は、大きく二つの経路に分かれます。
一つは客観要件です。契約書、または居住者が入手した文書・図画・電磁的記録に、当該貨物が核兵器等の開発・製造・使用・貯蔵などのために用いられる旨の記載や記録があるとき。あるいは、取引相手の非居住者、貨物の需要者、その代理人から、その旨の連絡を受けたとき。要するに、書類や連絡の中に危ない用途が見えているのに取引を進めるなら許可を取りなさい、という仕組みです[^4]。ここでいう核兵器等には、核兵器そのものだけでなく、軍用の化学製剤・細菌製剤やその散布装置、射程・航続距離300km以上のロケットや無人航空機も含まれます[^4]。ミサイルやドローンまで入ってくる点は、初めて見る方には意外かもしれません。
もう一つはインフォーム要件です。経済産業大臣から「この取引は核兵器等の開発等に用いられるおそれがある」という通知(インフォーム通知)を受け取った場合には、客観要件に当たらなくても許可が必要になります[^2]。政府側が持っている情報に基づいて個別に網をかける経路、と言えばイメージしやすいでしょうか。
この客観要件とインフォームの二本立ては、輸出側のキャッチオール規制と似た骨格です。輸出側では用途・需要者・インフォームの観点で判断する枠組みが知られており、詳しくはキャッチオール規制の3要件で整理しています。ただし、似ているからこそ混同に注意してほしい点があります。輸出側の制度をそのまま仲介貿易に当てはめて説明している解説記事が世の中には少なくないのですが、両者は根拠条文も要件の細部も別物です。仲介貿易の許可要件はあくまで外為令17条5項と仲介おそれ省令で確認する。この癖をつけておくと、誤った理解を防げます。
2025年10月の改正で何が変わったか。変わっていないものは何か
2025年は輸出管理の制度が大きく動いた年でした。補完的輸出規制(キャッチオール規制)の見直しは、2024年4月に産業構造審議会の小委員会の中間報告で方向性が示され、2025年4月9日に関係政令・省令・告示・通達が公布、2025年10月9日に施行されています[^5]。外為令のこの改正は令和7年政令第175号によるもので、公布日と施行日はe-Govの沿革情報で確認できます[^6]。改正後の経産省の公式Q&Aには、HSコード、顧客要件、インフォーム要件、通常兵器キャッチオール新制度といった項目が並んでいて[^5]、輸出側の実務が相当変わったことがうかがえます。
では、仲介貿易規制はどう変わったのか。結論から言うと、条文の置き場所は変わりましたが、中身は変わっていません。仲介貿易取引を定める外為令の規定は、この改正で旧17条3項から新17条5項へ項番が移動しました。ただし、武器と大量破壊兵器のおそれという許可要件の実体は、改正前後で同一の文言です。e-Govで新旧両版の条文を対照すると、このことが確認できます[^7]。仲介おそれ省令も令和7年経済産業省令第39号で改正されていますが、内容は引用条項を17条3項2号イから17条5項2号イに改める、いわゆる項ズレ対応で、おそれ要件の実質は動いていません[^7]。
ここで一つ、注意喚起をしておきます。2025年改正の目玉の一つに通常兵器キャッチオールの新制度がありますが、これは輸出(輸出貿易管理令)側の制度です。仲介貿易の許可要件に通常兵器キャッチオールが導入されたわけではありません。改正のニュースだけを見て「仲介にも通常兵器の網がかかった」と誤解しないよう気をつけてください。一方で、関連する動きとして、外国ユーザーリスト(EUL。懸念のある外国の企業・組織を経産省がリスト化したものです)は2025年10月に改正され、通常兵器懸念の企業・組織が追加されています[^10]。取引先の確認という実務レベルでは、見るべきリストが確実に厚くなっているわけです。
正直なところ、この「条文は動いたが実体は同じ」という改正がいちばん厄介だと私は思っています。社内規程やマニュアルに旧条文の番号がそのまま残っていても、業務は表面上まわってしまうからです。気づかないまま数年が経ち、監査や当局対応の場面で古い条番号を引いてしまう。法改正のたびに条文の項番や引用関係を追いかけ続けるのは、人手だけではかなり骨の折れる仕事です。弊社の輸出管理AIエージェントTRAFEEDは、各国の法規の更新を当日に反映する仕組みを持っており、こうした制度側の変化を追いかける負荷を下げることを目的の一つにしています。
罰則と実務対応。仲介貿易の目を社内体制に組み込む
最後に、違反した場合の重さと、企業が実際に何をすべきかを見ておきます。
無許可で仲介貿易取引を行った場合の罰則は、外為法69条の7第1項1号に定められています。7年以下の拘禁刑もしくは2,000万円以下の罰金、またはその併科です。目的物の価格の5倍が2,000万円を超えるときは、罰金の上限は価格の5倍まで引き上がります。さらに、核兵器等またはその開発等のために用いられるおそれが特に大きいものとして政令で指定された貨物の場合は、同条2項2号により10年以下の拘禁刑もしくは3,000万円以下(こちらも価格5倍の上限あり)に加重されます[^8]。取引金額が大きいほど罰金の天井も上がる設計なので、「罰金を払えば済む」という計算は成り立ちません。なお、古い解説記事では罰則の条文を69条の6と書いているものを見かけますが、現行法の69条の6は経過措置の規定で、罰則は69条の7です。条番号ひとつでも、現行の条文で確かめる姿勢が大事だと思います。
では実務として何をするか。私は三つに整理しています。
第一に、商流の把握です。仲介貿易の怖さは、営業担当者が「日本から出さないから輸出管理は関係ない」と思い込んだまま契約を進めてしまうところにあります。三国間の商流が発生しうる部署を洗い出し、案件の入口で仲介貿易のチェックが走る業務フローを作る。CISTECは、仲介貿易を行う企業向けにモデルCP(輸出管理社内規程のひな形)の仲介取引対応版を提供しており、貨物の仲介貿易取引と技術の仲介取引の両方に対応した内容になっています[^9]。ゼロから規程を書くより、こうした型を自社の管理形態に合わせて反映するほうが現実的です。
第二に、取引相手と需要者の確認です。おそれの判定は、契約書や入手文書の記載、相手からの連絡が起点になります。つまり、書類を丁寧に読み、相手が誰で、貨物が最終的に誰の手に渡るのかを調べる地道な作業が土台になるということです。需要者確認の具体的な進め方はエンドユーザースクリーニングの実務で詳しく書いたので、あわせて読んでみてください。
第三に、輸出管理以外の実務論点も忘れないことです。少し脱線しますが、JETRO(日本貿易振興機構)の貿易相談Q&Aによれば、仲介貿易は貨物が本邦通関を経ないため、1回あたりの支払や支払の受領が3,000万円相当額を超える場合の日本銀行経由の報告義務が免除されず、報告書の提出が必要とされています。信用状取引では、船積地から取り寄せる船積書類の書き替え条件を事前に確認しておく必要があるといった調整も生じます[^11]。仲介貿易は許可の話だけでなく、決済や書類実務の面でも通常の輸出と勝手が違う。この感覚を持っておくだけで、社内の関係部署との会話がだいぶ変わるはずです。
該非判定(自社の扱う貨物や技術が規制リストに該当するかの判定)や取引先スクリーニングの部分は、AIで大幅に効率化できる領域になってきました。TRAFEEDはAI判定精度95%以上(岡山大学との共同実証・自社調べ)で、懸念度を5秒で可視化し、論文・特許・研究者情報からなる2億件超のナレッジグラフを判定の裏付けに使います。特許第7862062号を取得し、すでに20組織以上に導入いただいています。ただし、最終的な該非判定は貴社の輸出管理責任者が行うものです。AIは判断の材料と速度を提供する道具であって、責任の置き場所を変えるものではない。ここは誤解のないように書き添えておきます。
日本を通らない取引にも日本の法律の網がかかる。仲介貿易規制は、輸出管理の中でも直感に反するぶん、見落としが起きやすい領域です。三国間の商流に少しでも心当たりがあるなら、体制づくりは早いに越したことはありません。自社のケースでどこから手をつけるべきか迷ったら、個別相談からお声がけください。商流の整理から一緒に考えます。
参考
[^1]: 外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号)第25条第4項 — e-Gov法令検索(デジタル庁) — 2026年7月7日閲覧(現行施行版) [^2]: 外国為替令(昭和55年政令第260号)第17条第5項 — e-Gov法令検索(デジタル庁) — 2026年7月7日閲覧(2025年10月9日施行改正反映版) [^3]: 安全保障貿易管理 仲介貿易・技術取引規制 — 経済産業省 — 2026年7月7日閲覧 [^4]: 外国相互間の貨物の移動を伴う貨物の売買、貸借又は贈与に関する取引に係る貨物が核兵器等の開発等のために用いられるおそれがある場合を定める省令(平成18年経済産業省令第101号) — e-Gov法令検索(デジタル庁) — 2026年7月7日閲覧 [^5]: 補完的輸出規制の見直しについて(2025年10月9日施行) — 経済産業省 貿易経済安全保障局 — 2026年7月7日閲覧(最終更新2026年4月15日) [^6]: 外国為替令 沿革情報(令和7年政令第175号による改正、2025年10月9日施行) — e-Gov法令検索(デジタル庁) — 2026年7月7日閲覧 [^7]: 外国為替令(旧版と現行版の条文対照)および仲介おそれ省令の改正沿革(令和7年経済産業省令第39号) — e-Gov法令検索(デジタル庁) — 2026年7月7日閲覧 [^8]: 外国為替及び外国貿易法 第69条の7 — e-Gov法令検索(デジタル庁) — 2026年7月7日閲覧(現行施行版) [^9]: モデルCPのご紹介(自主管理) — 安全保障貿易情報センター(CISTEC) — 2026年7月7日閲覧 [^10]: 輸出管理の基礎(安全保障貿易管理の概要) — 安全保障貿易情報センター(CISTEC) — 2026年7月7日閲覧 [^11]: 仲介貿易(三国間貿易)における留意点(貿易・投資相談Q&A) — 日本貿易振興機構(JETRO) — 2026年7月7日閲覧 [^12]: 仲介おそれ省令(平成18年経済産業省令第101号)制定文・附則・沿革情報 — e-Gov法令検索(デジタル庁) — 2026年7月7日閲覧
