こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。経済安全保障という言葉が政策の真ん中に据えられて、もう数年が経ちました。その舵取りをしている場が「経済安全保障推進会議」です。名前は聞いたことがあっても、誰が集まって何を決める会議なのかまで説明できる人は、実務の担当者でも案外少ないのではないでしょうか。
この記事では、経済安全保障推進会議がどんな根拠で設けられ、そこで何が協議されてきたのかを、内閣官房や首相官邸の一次情報をたどって整理します。高市政権が指示した経済安全保障推進法改正の5本柱、施政方針演説が掲げた「特定国に依存しないサプライチェーン」という方向、そしてそこから浮かび上がる「エネルギー自律」という論点。最後に、この論点で意外と大きな役割を担うことになった国土交通省の動きまで追いかけます。会議体を取り違えると全体像がゆがむので、どの発表がどの場で行われたのかを丁寧に区別しながら進めます。
経済安全保障推進会議とは何か
経済安全保障推進会議は、令和3年(2021年)11月19日の内閣総理大臣決裁「経済安全保障推進会議の開催について」を根拠に、内閣官房に設けられた会議です[^1]。議長は内閣総理大臣が務め、事務局、つまり所管を担うのは内閣官房の国家安全保障局(NSS)です。安全保障の裾野が経済の分野にまで広がっていくなかで、経済安全保障の取組を強化・推進するために開かれる、関係閣僚レベルの司令塔だと考えるとわかりやすいと思います。
回を追うごとに議論の対象は具体化してきました。第1回は令和3年11月19日、直近の第8回は令和7年(2025年)11月7日で、これまでに計8回が開催されています[^2]。第8回は高市政権が発足してから初めての開催でした。国民生活や経済活動を支える基盤が、どこかの一国に過度に依存していないか。技術や情報、資本の流れに安全保障上の穴が空いていないか。そうした問いを、外交や防衛の枠だけでなく経済の言葉で扱う場が、この推進会議です。
この会議は制度づくりの起点でもありました。経済安全保障推進法そのものが、令和3年11月の第1回会議で法制化の検討が始まり、令和4年(2022年)5月11日に成立、同月18日に公布されたという経緯をたどっています[^9]。つまり推進会議は、法律を生み出し、その運用を点検し、次の改正の方向を指し示す、いわば政策の背骨にあたります。個別の役所がばらばらに動きがちな経済安保の論点を、首相とNSSが束ねる。この構図を押さえておくと、以降の話が立体的に見えてきます。
該非判定の属人化を、AIで解消する。
経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDなら、判定時間を約7割削減し、判定根拠を構造化データで保存できます。
会議で協議された内容:推進法改正の5本柱
第8回会議で焦点になったのが、経済安全保障推進法の改正です。高市首相は令和7年11月7日の会議で、推進法の成立から3年が経ち、国際情勢が「かつてない速度と複雑さで変化し続けている」として、小野田経済安全保障担当大臣に対し「経済安全保障推進法の改正に向けて、早急に検討を開始してください」と指示しました[^3]。ここまでは首相官邸が公表した一次情報で確認できる事実です。改正を「やる」という方針が、首相の口から明確に示されたわけです。
その改正で何を検討するのか。報道によれば、検討項目は五つの柱に整理されます[^4]。サプライチェーンの強化、基幹インフラ制度の見直し、重要事業の海外展開支援、シンクタンクの創設、そしてデータ保護。有識者会議での議論を経て、2026年の通常国会に改正案を提出する考えだと報じられています。ここから先は日本経済新聞などの報道に基づく見通しであり、条文として確定した内容ではない点は、あらかじめ断っておきます。
柱の中身も少しずつ像を結んできました。基幹インフラ制度の見直しでは、事前審査の対象を現行の15分野に「医療」を加えて16分野へ広げ、サイバー攻撃への備えを強める方向が想定されていると報じられています[^5]。シンクタンクの創設は、NSSを司令塔とした総合的な調査分析機関の設立を念頭に置くものとされます[^6]。データ保護の柱では、金融やゲノム、位置情報といった安全保障に関わる重要な個人データの保護体制を厚くし、中国など懸念国へのデータ流出を防ぐ対策が検討されると伝えられています[^7]。海外展開支援では、海底ケーブルの敷設のような「役務」への財政支援を可能にし、港湾の修繕などを通じて同盟国や新興・途上国、いわゆるグローバルサウスとの連携につながる海外事業を後押しする狙いだとされます[^8]。改正の全体像は経済安全保障推進法の改正で詳しく追っていますし、5本柱のひとつとして名前の挙がった日本版CFIUSについては日本版CFIUSの発足で別途整理しています。
エネルギー自律という論点
5本柱を眺めていると、供給網や海外展開、インフラといった言葉の背後に、ひとつの共通した動機が透けて見えます。特定の国に握られている状態から抜け出したい、という発想です。それがもっとも切実に表れるのがエネルギーの分野でした。
高市首相は令和8年(2026年)2月20日、第221回国会の施政方針演説で、経済安全保障・食料安全保障・エネルギー資源安全保障などのリスクを最小化する「危機管理投資」と、AI・半導体・造船といった「成長投資」を、積極財政の対象として並べて掲げました[^10]。守りの投資と攻めの投資を同じ土俵で語ったわけです。経済的な威圧に対抗する具体策としては、「特定国に依存しないサプライチェーンの再構築」と「依存脱却のための同志国との連携強化」を軸に、海底ケーブル敷設などの重要な役務への支援、基幹インフラ制度の強化、総合的なシンクタンク機能の構築、そして日本版CFIUS(対日外国投資委員会)の創設を表明しています[^11]。推進会議で示された5本柱と、施政方針が描く絵が、きれいに重なっているのがわかります。
エネルギーに絞れば、演説はより踏み込んでいます。安全性が確認された原子炉の再稼働を加速し、廃炉が決まったサイトの敷地内で次世代革新炉の開発と設置を進める。ペロブスカイト太陽電池や次世代型地熱発電のサプライチェーンを国内に築き、南鳥島の周辺海域に眠る海底レアアース資源の活用にも取り組む[^12]。これらはいずれも、燃料や資源、部材の調達を海外の特定国に委ねきらないための布石です。原子力、次世代太陽電池、地熱、海底資源と並べ方はばらばらに見えますが、通底しているのは「国内でまかなえる比率を上げる」という一点に尽きます。
エネルギー自律とは、脱炭素の話であると同時に、どこから何を運び、どこに蓄え、どう使うかという物流とインフラの話でもある。発電の技術がいくら進んでも、それを陸へ揚げ、送り、蓄える器がなければ絵に描いた餅で終わります。そう捉え直したとき、資源やエネルギーの主管庁ではない、意外な省庁の名前が前面に出てきます。国土交通省です。
国土交通省の貢献:CNP・港湾の水素受入・洋上風力の基地港湾
ここで会議体の取り違えに注意が必要です。国土交通省がエネルギー自律への貢献策を打ち出した舞台は、経済安全保障推進会議ではありません。金子国交大臣は令和8年4月27日の経済財政諮問会議に、資料「『日本列島を、強く豊かに』する、インフラ整備の推進」を提出し、そのなかで「エネルギー安全保障への貢献」として「エネルギーの自律性向上に向けたモビリティ・エネリンク(仮称)」を掲げました[^13]。仮称の構想段階であり、予算規模や工程まで固まった確定施策ではない点は、押さえておきたいところです。
構想の具体策として国交省が挙げたのは三つです。インフラの空間を使ったペロブスカイト電池の設置促進、港湾における水素利用と水素等の受入環境の整備、そしてFCV(燃料電池車)やEVの商用車の導入支援と走行中に給電するシステムの実装[^14]。道路や港湾、駐車場といった国交省が管轄する「場所」を、発電と受入と充給電のネットワークに組み替えていく発想です。あわせて同じ資料では、経済安全保障の観点も踏まえ、港湾荷役機械の自動化や遠隔操作化、サイバーポートによるデジタルの標準化を通じた国際コンテナ戦略港湾の競争力強化、さらに造船業の再生、つまり次世代船舶の生産体制の整備と船舶修繕能力の向上による安定的な国際海上輸送の確保も打ち出されました[^15]。輸送インフラそのものを安全保障資産として鍛え直す、という色合いが濃く出ています。
港湾の脱炭素化は、構想より先に手が動いています。カーボンニュートラルポート(CNP)は、脱炭素に配慮した港湾機能の高度化や、水素・アンモニア等の受入環境の整備を図る港湾で、国交省が2050年カーボンニュートラルなどの目標のもとで形成を進めているものです。横浜港や神戸港では、水素を燃料とする荷役機械の導入実証がすでに行われています[^16]。国交省港湾局は令和7年(2025年)3月に「港湾における水素・アンモニアの受入環境整備に係るガイドライン(中間とりまとめ)」を公表し、港湾管理者や民間事業者が受入拠点の整備を検討する際の指針を示しました[^17]。同じ月には、コンテナターミナルの脱炭素化を客観的に評価する「CNP認証(コンテナターミナル)」の制度も創設しています[^18]。水素やアンモニアという次世代燃料を国内に受け入れる玄関口を、港からつくっていくという流れです。
洋上風力も、供給網の観点から港と結びついています。洋上風力発電の基地港湾、正式には海洋再生可能エネルギー発電設備等拠点港湾の制度は、港湾法に基づき令和2年(2020年)2月に創設されました。国土交通大臣が指定した基地港湾の埠頭を、発電事業者へ長期かつ安定的に貸し付ける仕組みです。令和6年(2024年)4月26日に青森港と酒田港が新たに指定され、それ以前の秋田港・能代港・鹿島港・新潟港・北九州港と合わせて計7港となりました[^19]。導入目標そのものは経済産業省側で示されており、2020年12月の「洋上風力産業ビジョン(第1次)」が、2030年までに10GW、2040年までに浮体式を含め30〜45GWの案件形成を掲げています[^20]。巨大な風車を組み立てて海へ送り出す拠点を国交省が整え、発電の目標をエネルギー当局が描く。役割分担のうえで、エネルギー自律という一本の線がつながっています。こうした情報や調達のガバナンスをどう束ねるかという論点は、経済安保センターと輸出管理ガバナンスや国家情報会議の設置とも地続きです。
企業にとっての含意:供給網とインフラ調達の点検
ここまでを企業の目線に引き寄せると、二つの宿題が見えてきます。ひとつは供給網、もうひとつはインフラ調達です。
供給網の側では、自社が扱う技術や貨物、サービスのうち、どれが特定国への依存を抱えているのかを平時から可視化しておくことが出発点になります。推進法改正の5本柱の筆頭がサプライチェーン強化であり、施政方針が「特定国に依存しないサプライチェーンの再構築」を掲げている以上、依存の棚卸しは政策の要請とも重なります。どの部材がどの国から来ているのか、代替の調達先はあるのか、機微な技術がどの取引に含まれているのか。これは輸出管理における該非判定や取引先スクリーニングと、根が同じ作業です。弊社の輸出管理AIエージェントTRAFEEDが日々支援しているのも、まさにこの可視化の部分で、経済産業省の基準に準拠して貨物や技術の該非判定、リスト規制やキャッチオール規制の判定、エンドユーザーのスクリーニングを仕組み化します。日々の輸出判定を回している企業ほど、その基盤をそのまま供給網の点検に転用しやすいと感じています。
インフラ調達の側は、少し目線を上げた話です。港湾の水素・アンモニア受入、洋上風力の基地港湾、CNP認証といった動きは、物流や電力に関わる企業にとって、これから調達や立地の前提が変わっていく合図です。次世代燃料の供給網に自社がどう接続するのか、脱炭素対応が取引先の選定条件に組み込まれていくのか。国交省の「モビリティ・エネリンク」はまだ仮称の構想段階ですが、CNPや基地港湾のように、構想が制度と補助の枠組みへ落ちていく過程は何度も見てきました。動き出してから慌てるより、点検を先に済ませておくほうが結局は速い。輸出管理と供給網、そしてインフラ調達を一本の課題として棚卸ししたい方は、個別相談からお声がけください。
まとめ:司令塔から現場のインフラまで、一本の線で読む
経済安全保障推進会議は、首相とNSSが束ねる政策の司令塔でした。そこで示された推進法改正の5本柱が、施政方針演説の「特定国に依存しないサプライチェーン」という方向とかみ合い、エネルギー自律という論点へと収れんしていく。その論点を現場のインフラで受け止めるのが、国交省のCNPや港湾の水素受入、洋上風力の基地港湾だった。会議室の抽象的な議論と、港で動く荷役機械や埠頭が、実は一本の線でつながっている。この記事で伝えたかったのは、その俯瞰図です。
ひとつ付け加えるなら、こうした政策は「国がやること」で終わらせないほうがいい、というのが私の見立てです。供給網の依存を減らし、インフラの調達前提が変わっていく流れのなかで、自社の技術・貨物・調達構造を棚卸ししておいた企業と、そうでない企業とでは、次の数年で対応コストにはっきり差が出ます。遠い政策の話を、自社の点検リストに翻訳する。その地道な作業こそ、経済安全保障の時代に企業ができる、いちばん現実的な備えだと思います。
参考
[^1]: 経済安全保障推進会議 — 内閣官房 — 2021年11月19日(内閣総理大臣決裁) [^2]: 経済安全保障推進会議(第1回〜第8回の開催状況)— 内閣官房 — 2025年11月7日(第8回) [^3]: 令和7年11月7日 経済安全保障推進会議 — 首相官邸 — 2025年11月7日 [^4]: データ保護や供給網強化、高市首相「迅速に対応」 経済安保法改正を指示 — 日本経済新聞 — 2025年11月7日 [^5]: データ保護や供給網強化、高市首相「迅速に対応」 経済安保法改正を指示(基幹インフラ制度の見直し)— 日本経済新聞 — 2025年11月7日 [^6]: データ保護や供給網強化、高市首相「迅速に対応」 経済安保法改正を指示(シンクタンク創設)— 日本経済新聞 — 2025年11月7日 [^7]: データ保護や供給網強化、高市首相「迅速に対応」 経済安保法改正を指示(データ保護)— 日本経済新聞 — 2025年11月7日 [^8]: データ保護や供給網強化、高市首相「迅速に対応」 経済安保法改正を指示(海外展開支援)— 日本経済新聞 — 2025年11月7日 [^9]: 経済安全保障推進法 — 内閣府 — 2022年5月18日(公布) [^10]: 令和8年2月20日 第221回国会における高市内閣総理大臣施政方針演説 — 首相官邸 — 2026年2月20日 [^11]: 令和8年2月20日 施政方針演説(サプライチェーン再構築・日本版CFIUS等)— 首相官邸 — 2026年2月20日 [^12]: 令和8年2月20日 施政方針演説(エネルギー資源安全保障策)— 首相官邸 — 2026年2月20日 [^13]: 資料3 「日本列島を、強く豊かに」する、インフラ整備の推進(金子臨時議員提出資料)— 内閣府 経済財政諮問会議 — 2026年4月27日 [^14]: 資料3 インフラ整備の推進(モビリティ・エネリンク(仮称)の具体策)— 内閣府 経済財政諮問会議 — 2026年4月27日 [^15]: 資料3 インフラ整備の推進(港湾の自動化・造船業の再生)— 内閣府 経済財政諮問会議 — 2026年4月27日 [^16]: 港湾:カーボンニュートラルポート(CNP)の形成 — 国土交通省 — 2025年6月30日 [^17]: 「港湾における水素・アンモニアの受入環境整備に係るガイドライン中間とりまとめ」を公表します — 国土交通省 — 2025年3月24日 [^18]: 港湾:CNP認証(コンテナターミナル)— 国土交通省 — 2025年3月31日 [^19]: 青森港、酒田港を基地港湾に指定 〜洋上風力発電の導入を促進〜 — 国土交通省 — 2024年4月26日 [^20]: これまでの洋上風力政策の進捗(総合資源エネルギー調査会 洋上風力小委員会資料)— 経済産業省 資源エネルギー庁 — 2024年
