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経済安全保障推進法 改正案(2026年・閣法第30号)— 役務・医療インフラ拡大で輸出管理担当者が見るべき論点

2026-06-01濱本 隆太

審議中の経済安全保障推進法改正案(閣法第30号)が成立すれば、役務への支援拡大、基幹インフラへの医療追加、JBICによる海外事業支援が動き出します。輸出管理担当者がいま社内で確認すべき該非判定とスクリーニングの論点を、一次情報をもとに整理します。

経済安全保障推進法 改正案(2026年・閣法第30号)— 役務・医療インフラ拡大で輸出管理担当者が見るべき論点
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こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本隆太です。

2026年3月19日、政府は経済安全保障推進法と国際協力銀行法を一度に手直しする改正案を閣議決定し、その日のうちに国会へ送りました[^1]。第221回国会の閣法第30号という整理番号がついた、推進法にとって2022年の制定以来はじめての本格的な改正案です。衆議院の内閣委員会では5月13日に質疑が行われ、6月に入ったいまも審議のさなかにあります[^2]。成立したと書いている記事を見かけますが、正確には「審議中」です。ここを混同すると社内説明で足をすくわれるので、最初にはっきりさせておきます。

私はふだん輸出管理の現場に近いところで仕事をしているので、この改正をはじめて目にしたとき、正直「これは輸出管理の話なのか」と一瞬戸惑いました。条文の中心は国内の供給網と基幹インフラを守る話で、輸出許可の話ではないからです。けれど読み込むほどに、該非判定やスクリーニングを担う担当者こそ目を離してはいけない改正だと感じるようになりました。役務への拡大と医療インフラの追加は、自社が「何を、誰に、どこへ渡しているか」を捉え直す作業と地続きだからです。今日はその理由を、一次情報をたどりながら腰を据えて書きます。

経済安全保障推進法という土台を、まず正確に押さえる

話を改正に進める前に、土台になっている法律の形を正確に共有させてください。経済安全保障推進法は、正式には「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」といい、令和4年法律第43号として2022年に成立しました[^3]。長い名前ですが、要は経済政策と安全保障を切り離さずにまとめて打つための法律です。この法律は、性格の違う4つの制度を1本に束ねた構造になっています。

ひとつめが、特定重要物資の安定的な供給の確保です。半導体や医薬品、重要鉱物のように、途絶えると国民生活や経済が立ち行かなくなる物資を国が指定し、国内生産や備蓄を後押しします。ふたつめが、基幹インフラ役務の安定的な提供の確保。電気やガス、通信のように社会の根っこを支える役務について、重要な設備の導入や維持管理を委託する前に国へ届け出て審査を受ける仕組みです。3つめが、特定重要技術の開発支援。先端的で機微な技術の研究開発に国が資金を出し、官民で進める枠組みです。4つめが、特許出願の非公開。武器転用につながりかねない発明について、出願の内容を公開しないでおく制度です。

この4本柱のうち、輸出管理担当者がふだん意識しているのは特定重要物資と特定重要技術のあたりでしょう。重要鉱物の調達先や、研究開発で扱う機微技術は、安全保障貿易管理の関心領域とそのまま重なります。今回の改正案は、この土台の上にいくつかの新しい部屋を増築するイメージです。土台の形を知らずに増築部分だけ眺めると、なぜそこに部屋を足すのかが見えてきません。だから遠回りに思えても、4制度の輪郭を頭に入れた状態で次へ進んでほしいのです。

ちなみに、この4制度がそれぞれどんな実務負担を企業に課すのかは、別記事の「経済安全保障の基礎」で踏み込んで書いています。本稿では改正の話に集中するので、制度の入口を丁寧に確かめたい方はそちらを先に読んでおくと、この後の理解が一段深くなるはずです。

該非判定の属人化を、AIで解消する。

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改正案の3つの柱を、提言と国会資料から読み解く

では、何を増築しようとしているのか。出発点は、内閣官房に置かれた「経済安全保障法制に関する有識者会議」が2026年1月30日にまとめた提言「経済安全保障の更なる推進に向けた提言」です[^4]。この提言が示した方向性を政府が法案に落とし込み、3月19日の閣議決定に至りました。提言の目次をたどると、改正の意図がかなりはっきり見えてきます。柱は大きく3つだと私は読んでいます。

1本目が、役務への支援拡大です。これまでの特定重要物資の枠組みは「モノ」が中心でした。半導体そのもの、医薬品そのものを支援する発想です。ところが提言は、重要な物資の供給に不可欠な「役務」にまで支援の対象を広げるべきだとしています[^5]。報道では、海底ケーブルの敷設やロケットの射場といった役務が例として挙げられました[^1]。物が作れても、それを運ぶ航路や打ち上げる場所がなければ供給は成り立たない。その当たり前を制度として拾い上げる動きです。物を見ていた目を、物に紐づくサービスや設備、その担い手にまで広げる。これが1本目の核心です。

2本目が、基幹インフラへの医療分野の追加です。提言は基幹インフラ役務の章で、医療分野を新たに加える必要性を正面から論じています[^6]。具体的には、医療情報基盤や診療報酬の審査支払を担う機構、そして規模の大きい個別の病院が検討対象に挙がっています。背景にあるのは、医療機関のデジタル化が進み、電子カルテやオンライン診療がサイバー攻撃の標的になりやすくなったという現実です。命に直結する役務が止まることのインパクトを考えれば、ここを基幹インフラに数えるのは理にかなっています。

3本目が、JBIC(国際協力銀行)を通じた海外重要事業への金融支援です。今回、推進法だけでなくJBIC法もあわせて改正案に載ったのはこのためです[^7]。経済安全保障の観点から重要な海外事業に、官民が共同で出資する際、JBICが劣後出資という形で損失リスクを先に引き受ける。民間が手を出しにくい事業に呼び水を差す仕組みです。半導体や造船、ドローン製造などが対象として語られています[^1]。あわせて提言は、総合的な経済安全保障シンクタンクの創設や、政府と民間が機微情報をやり取りする官民協議会の新設にも触れています[^8]。輸出管理の現場から見て見過ごせないのは、この官民協議会です。流出防止に関わる情報が政府と企業の間で行き交う場ができれば、担当者の情報源が一段増えることになります。

基幹インフラ257者・16分野化が、企業にとって持つ意味

3つの柱のうち、企業の実務にいちばん早く効いてくるのは基幹インフラの拡大だと考えています。ここで現行制度の規模感を数字で押さえておきましょう。内閣府の説明会資料によれば、特定社会基盤役務の制度はすでに動いており、令和8年4月1日時点で257者が特定社会基盤事業者に指定されています[^9]。法律自体は令和5年11月に施行され、制度の運用は令和6年5月17日から始まりました。指定された事業者は、国が定める重要設備を導入したり維持管理を委託したりする前に、導入等計画書を国へ届け出て審査を受けます。審査期間は30日。国が外部からの妨害行為に使われるおそれが大きいと認めれば、勧告や命令を出すこともできる仕組みです。

対象は現在15分野です。電気、ガス、石油、水道、鉄道、貨物自動車運送、外航貨物、港湾運送、航空、空港、電気通信、放送、郵便、金融、クレジットカードの15です[^9]。このうち港湾運送は、令和6年の改正で追加され、令和7年4月1日から施行、同年11月2日に届出義務が始まったばかりの新顔です。つまり制度は固定されたものではなく、社会情勢に応じて分野が足されていく性格を持っています。そこに今回、医療が16番目として加わる方向にある。15が16になるという一見地味な数字の変化が、実は何百という医療関連事業者を新たに制度の射程に引き入れる可能性を持っているのです。

ここで自社が指定事業者でないからといって安心するのは早い。制度の図をよく見ると、規制の網は指定事業者だけでなく、重要設備を供給するベンダーや、維持管理を請け負う委託先、さらにその再委託先にまで及びます[^9]。設備の構成部品を納めている会社も、審査の対象に組み込まれることがあります。これはつまり、自社が医療機器や情報システムを基幹インフラ事業者へ納めている立場なら、取引先の審査を通じて自社の素性や供給網を問われる場面が増えるということです。指定されるかどうかの線引きの内側にいなくても、そのすぐ外で取引している企業には、確実に影響が波及します。私はこの「波及の射程」こそ、今回の改正でいちばん見落とされやすい点だと思っています。

輸出管理担当者への実務影響をどう捉えるか

ここまで読んで、「結局これは輸出許可の話ではないのでは」と感じた方もいるはずです。たしかに条文の主戦場は国内の供給網と基幹インフラの保護で、輸出許可制度そのものを書き換える改正ではありません。それでも私が輸出管理担当者にこの改正を注視してほしいと言うのは、3つの接点があるからです。

ひとつめは、該非判定の対象が「役務」へ広がる視点の変化です。役務が支援の対象になるということは、政府が「重要なのは物だけではない」という前提で動き始めたということです。輸出管理の現場でも、貨物の該非判定だけでなく、技術提供や役務取引の該否を見る場面はもともとありました。今回の改正は、その役務への目配りを社内全体で底上げする追い風になります。海外の取引先へ技術や設計情報を渡す行為、保守やコンサルティングといった役務の提供が、安全保障上どんな意味を持つのか。物のリストだけ見ていた担当者は、ここで視野を一段広げることになります。

ふたつめは、取引先スクリーニングの守備範囲が伸びることです。基幹インフラの審査は、供給網をさかのぼって委託先や再委託先まで見ます。これは輸出管理でいう取引相手の素性確認、いわゆるエンドユーザースクリーニングの発想とよく似ています。自社が医療や役務の分野で基幹インフラ事業者と取引するなら、相手から「あなたの会社の資本構成や供給元を教えてほしい」と問われる頻度が増える。逆に自社が買い手として外部のベンダーを使うなら、その素性を自分で確かめる責任が重くなります。スクリーニングの考え方そのものは、輸出管理で長年積み上げてきたノウハウと同じ土俵にあります。

3つめが、キャッチオール規制との連続性です。補完的輸出規制、いわゆるキャッチオール規制の見直しが2025年10月9日に施行され、用途要件と需要者要件が明確化されました[^10]。リストに載っていない汎用品でも、通常兵器の開発などに使われる懸念が高いと判断すれば許可申請が必要になり、グループA国向けであっても迂回調達の懸念があればインフォーム要件で網がかかります。この見直しの詳細は別記事の「リスト規制とキャッチオール規制の全体像」で解説しているので、制度の中身を確かめたい方は参照してください。私が言いたいのは、経済安全保障推進法の改正もキャッチオールの見直しも、根は同じだということです。前者は自国の中核を守り、後者は外への漏れを防ぐ。守りと漏れ止めの両輪で、担当者は両方を同じテーブルに並べて見る必要があります。

こうした実務の広がりに、人手だけで追いつくのは正直しんどい。役務まで含めて取引を点検し、委託先や再委託先までさかのぼってスクリーニングし、キャッチオールの需要者要件まで照合する。これを取引のたびに手作業でやれば、担当部署はすぐに飽和します。私たちが提供している輸出管理AIエージェント「TRAFEED」は、取引先リストをアップロードするだけで、世界中の制裁リスト・需要者リスト・各国の規制リストを横断照合し、リスクの有無とその根拠を数秒で示します。経済産業省の基準に沿った該非判定の補助や、多言語の取引先名の名寄せにも対応しています。制度が役務や医療へと広がっていくこれからこそ、人が判断すべき論点に集中するために、機械的な照合は任せてしまう。そういう割り切りが現実的だと考えています。

企業が今やっておくべきこと

改正案は審議中で、最終的な条文や政省令の細部はこれから固まります。だからといって成立を待ってから動くのでは遅い。準備に使える時間が、いまこの審議期間です。私が顧客に伝えているのは、大きく3つの確認作業です。

まず、自社が基幹インフラの拡大の射程に入るかどうかを冷静に見極めることです。自社が医療や役務の分野で事業を営んでいるか、あるいはそうした分野の事業者へ重要設備や情報システムを納めているか。指定事業者になる可能性があるなら、導入等計画書の届出という新たな事務が発生します。直接の指定対象でなくても、委託先や供給元として審査に巻き込まれる立場なら、自社の資本構成や供給網を説明できる資料を今のうちに整えておくべきです。問われてから慌てて調べるのと、手元に用意してあるのとでは、対応の余裕がまるで違います。

次に、輸出管理の社内規程を役務の視点で読み直すことです。多くの企業の管理規程は貨物の該非判定を中心に組まれていて、役務取引や技術提供の判定がやや手薄になりがちです。改正が向かう方向は、物だけでなく役務やデータを安全保障の対象として捉える流れです。この流れに合わせて、自社の技術提供や保守役務、データの取り扱いを判定フローに組み込み直す。地味ですが効きます。あわせて、2025年10月に施行されたキャッチオールの新しい要件を、現場の判断基準に反映できているかも点検しておきたいところです。日本の輸出管理制度そのものの最近の動きは「輸出貿易管理令の改正動向」でも整理しているので、社内研修の素材にしてもらえればと思います。

3つめは、スクリーニングと該非判定の運用を、人手依存から仕組み依存へ移していくことです。役務拡大も医療追加も、突き詰めれば「見るべき対象が増える」という話です。対象が増えるのに担当者の数は増えない。この構造のまま手作業を続ければ、見落としが起きるのは時間の問題です。取引先の名寄せ、制裁リストとの照合、規制品目の該非確認といった反復作業を自動化し、人は判断と説明責任に集中する。改正が成立してから慌てるのではなく、審議のいまのうちに運用を一段引き上げておく。それが、私がいちばん強く勧めたい備えです。

まとめ

最後に要点を整理します。経済安全保障推進法の改正案は、2026年6月時点で審議中であり、成立済みではありません。ここを正確に押さえることが社内説明の出発点です。

  • 改正案は第221回国会の閣法第30号として2026年3月19日に閣議決定・提出され、推進法とJBIC法をあわせて手直しする内容
  • 3つの柱は、役務への支援拡大、基幹インフラへの医療分野の追加、JBICによる海外重要事業への金融支援
  • 基幹インフラは現行15分野・257者の指定があり、医療が加われば16分野化する見込み。供給網の委託先・再委託先まで射程が及ぶ
  • 輸出管理担当者にとっては、該非判定の役務への拡大、取引先スクリーニングの守備範囲の伸び、キャッチオール規制との連続性という3つの接点がある
  • 成立を待たず、審議中のいまこそ、自社の射程確認・規程の役務視点での見直し・スクリーニング運用の仕組み化を進めるべき

制度は社会情勢に合わせて分野を増やし続けます。港湾運送が直近で加わり、次は医療が控えている。この先も対象は広がるとみておくのが自然です。広がり続ける対象に人手で追い続けるのは持続しません。だからこそ、見るべき範囲が増える局面でこそ、機械に任せられる照合は任せ、人は判断に集中する。その構えを整えておくことが、改正の波を慌てずに受け止める唯一の現実的な道だと、私は考えています。

参考文献

[^1]: 半導体や造船、政府が海外事業支援 経済安保法改正案を閣議決定|日本経済新聞(2026年3月19日) [^2]: 閣法 第221回国会 30 経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律及び株式会社国際協力銀行法の一部を改正する法律案(議案経過情報)|衆議院(2026年) [^3]: 経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(令和4年法律第43号)|e-Gov法令検索 [^4]: 経済安全保障の更なる推進に向けた提言|経済安全保障法制に関する有識者会議(2026年1月30日) [^5]: 経済安全保障の更なる推進に向けた提言(III サプライチェーンの強靱化・役務に関する措置)|経済安全保障法制に関する有識者会議(2026年1月30日) [^6]: 経済安全保障の更なる推進に向けた提言(IV 基幹インフラ役務の安定提供・医療分野の追加)|経済安全保障法制に関する有識者会議(2026年1月30日) [^7]: 政府、JBIC法改正へ 経済安保海外事業に劣後出資|ニッキンONLINE(2026年) [^8]: 経済安全保障の更なる推進に向けた提言(VII 総合的な経済安全保障シンクタンク・VIII 官民協議会)|経済安全保障法制に関する有識者会議(2026年1月30日) [^9]: 経済安全保障推進法における特定社会基盤役務の安定的な提供の確保に関する制度(説明会資料)|内閣府(2026年4月1日) [^10]: 補完的輸出規制の見直しについて(2025年10月9日施行)|経済産業省(2025年) [^11]: 調査と情報―ISSUE BRIEF― 第1356号 経済安全保障の基本概念と推進法の動向|国立国会図書館(2026年3月31日) [^12]: 経済安全保障推進法|内閣府

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