こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。輸出管理のご相談で、たまにこういう質問をいただきます。「うちはCPをまだ作っていないので、輸出管理の義務は発生していないですよね」。お気持ちはわかるのですが、答えはノーです。CPを作っていようがいまいが、輸出や技術提供を事業として行っている会社には、外為法上の義務としてすでに適用されているルールがあります。それが今回のテーマ、輸出者等遵守基準です。
先に言葉の整理をしておきます。正式名称は「輸出者等遵守基準」。実務では「輸出者遵守基準」や単に「遵守基準」と略されることも多いですが、すべて同じものを指します。そしてよく混同されるCPは「輸出管理内部規程」のことで、コンプライアンス・プログラム(Compliance Program)の頭文字です。遵守基準は全員に適用される法律上の義務、CPは手を挙げた企業が自主的に届け出るもの。この違いが本記事の柱になります。自社の体制が最低ラインを満たせているか不安な方は、読み進める前に輸出管理体制の無料診断で現在地を確かめておくと、この後の内容が自分ごととして読めるはずです。
輸出者等遵守基準とは何か。外為法第55条の10を読む
まず法律の条文から確認します。根拠は外為法(正式名称は「外国為替及び外国貿易法」)の第55条の10です。第1項で、経済産業大臣は、外為法第25条第1項の取引(技術の提供)または第48条第1項の輸出を「業として行う者」、条文上の呼び名で「輸出者等」が遵守すべき基準を、経済産業省令で定めなければならないと規定されています。そして第4項で「輸出者等は、輸出者等遵守基準に従い、輸出等を行わなければならない」と義務づけられています[^1]。
ここでひとつ、誤解の多いポイントを指摘しておきます。基準を「定める」のは経済産業大臣であって、輸出者ではありません。解説記事のなかには「輸出者は遵守基準を定めなければならない」と読める書き方をしているものもありますが、条文上の建て付けは、大臣が省令で定めた基準に輸出者等が「従う」義務です。自社で何かの文書を作って届け出ないと違法になる、という制度ではない。従うべき中身は最初から省令に書いてあります。
その省令が「輸出者等遵守基準を定める省令」(平成21年経済産業省令第60号)です。平成21年10月16日に公布され、平成22年、西暦でいえば2010年の4月1日に施行されました。その後、令和4年5月1日施行の改正と、令和7年10月9日施行の改正を経て現在に至ります[^2]。つまりこの制度、できてからすでに15年以上運用されている古参のルールです。にもかかわらず認知度が驚くほど低い。私の肌感覚では、リスト規制や該非判定という言葉を知っている方でも、遵守基準の存在を正確に説明できる方は少数派です。
適用範囲についても押さえておきましょう。条文の要件は「業として行う」こと、つまり事業として反復継続的に輸出や技術提供を行っていることで、企業規模の要件はどこにもありません。CISTEC(一般財団法人安全保障貿易情報センター。輸出管理分野の専門機関です)も、この基準は規模を問わずほぼすべての輸出者・技術提供者に適用され、中小企業や大学も例外ではないと解説しています[^12]。「輸出管理は大企業の話」というイメージは、少なくともこの基準に関しては通用しません。
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すべての輸出者に共通する2つの基準
では、従うべき中身は何か。全ての輸出者等に適用される基準は、省令第1条第1号に2つだけ書かれています。イとロ、それだけです[^3]。
1つめ(イ)は、該非確認についての責任者、条文の言葉で「該非確認責任者」を選任することです。該非確認とは、提供しようとする技術や輸出しようとする貨物が「特定重要貨物等」に該当するかどうかを確認する作業を指します。実務で「該非判定」と呼ばれている作業と同じものだと考えて差し支えありません。要するに、自社が外に出すモノや技術が規制リストに引っかかるかどうかを、誰が責任を持って確認するのかを決めておきなさい、ということです。
2つめ(ロ)は、輸出等の業務に従事する者に対して、最新の外為法とそれに基づく命令を周知し、関係法令の遵守に必要な指導を行うことです。平たく言えば、輸出に関わる社員への教育です。法令は改正されます。担当者が5年前の知識のままでは、規制の網が変わったことに気づけません。だから「最新の」という言葉がわざわざ条文に入っています。
たった2つ、と感じたでしょうか。私はこの設計を、よくできた最低ラインだと思っています。責任者を決めることと、担当者を教育すること。この2つがない組織では、どれだけ立派な規程を作っても輸出管理は回りません。逆に言えば、貿易商社でなくても、海外の顧客に製品を売っている製造業でも、海外拠点に技術資料を送っている会社でも、この2つは今日から求められている水準だということです。
なお、個人で輸出を業として行っている方には特例があります。省令第2条により、該非確認責任者と後述する統括責任者は同一人物が兼任できます。さらに省令第3条により、輸出者等が個人の場合は第1条第1号イや第2号の一部は適用されず、従業者への指導義務は「必要な情報を収集する」ことに読み替えられます[^6]。一人で事業をしている方に「責任者を選任せよ」「従業者を指導せよ」と言っても意味がないので、実態に合わせた調整が入っているわけです。
リスト規制品を扱う企業に上乗せされる10項目
ここからが本題の後半です。全員共通の2つに加えて、リスト規制品を業として扱う事業者には基準が上乗せされます。条文の呼び名は「特定重要貨物等輸出者等」。いかつい名前ですが、中身を分解すればシンプルです。
まず「特定重要貨物等」とは何か。これは別の省令「特定重要貨物等を定める省令」(平成21年経済産業省令第61号)で定義されていて、外国為替令別表の1から15の項の中欄に掲げる技術と、輸出貿易管理令別表第一の1から15の項の中欄に掲げる貨物を指します[^5]。つまりリスト規制の対象となる貨物・技術のことです。別表第一の構造は輸出令別表第1の解説記事で詳しく書いたので、リスト規制という言葉に馴染みがない方はそちらを先に読んでいただくとつながりが見えると思います。
上乗せ基準は省令第1条第2号のイからヌまでの10項目です。ここは条文の一覧性が高いので、表で整理します[^4]。
| 号 | 内容 | 性格 |
|---|---|---|
| イ | 代表者の中から、輸出等業務を統括管理する統括責任者を選任する | 義務 |
| ロ | 輸出等業務に関わる部門の権限・責任と、部門間の関係を明確にする | 義務 |
| ハ | 該非確認の手続を定める | 義務 |
| ニ | 用途や需要者(買い手・使い手)の確認手続を定め、実施する | 義務 |
| ホ | 出荷の際、文書等に記載された貨物と実際に輸出する貨物との同一性を確認する | 義務 |
| ヘ | 輸出等業務の監査を定期的に行う | 努力義務 |
| ト | 統括責任者や業務従事者に研修を行う | 努力義務 |
| チ | 子会社に対して指導等を行う | 努力義務 |
| リ | 輸出等業務に関する文書等を適切な期間保存する | 努力義務 |
| ヌ | 関係法令に違反した(そのおそれを含む)ときは速やかに経済産業大臣に報告し、再発防止に必要な措置をとる | 義務 |
眺めてみると、輸出管理の教科書に出てくる社内体制の要素がほぼ揃っていることに気づきます。責任者、組織、該非確認、取引審査、出荷管理、監査、教育、文書管理、そして事故時の報告。体制構築の実務は輸出管理体制の作り方で手順として整理していますが、その骨格はこの10項目にすでに書かれている、と言ってもいいくらいです。
このなかで実務の負荷が最も重いのは、経験上、ハとニです。該非確認は貨物等省令のスペックと自社製品の仕様を突き合わせる地道な作業ですし、用途・需要者確認は取引のたびに発生します。ここが人手だけで回らなくなってきた企業のために、弊社は輸出管理AIエージェントTRAFEEDを提供しています。約3万件の過去審査データを用いた岡山大学との共同実証でAI判定精度95%以上(自社調べ)を確認しており、懸念度は5秒で可視化されます。すでに20以上の組織で使われていますが、最終的な該非判定を行うのはあくまで貴社の輸出管理責任者です。この建て付けは、該非確認責任者の選任を求める遵守基準の思想とも一致していると考えています。
守らないとどうなるか。指導・助言、勧告、命令、罰則の順番
義務だと言われると次に気になるのは、破ったらどうなるのか、です。ここは条文の構造が段階的にできています。
最初の段階は指導と助言です。外為法第55条の11により、経済産業大臣は必要と認めるときは、遵守基準に従った輸出等が行われるよう必要な指導及び助言をすることができます。次の段階が勧告で、第55条の12第1項により、指導・助言をしてもなお基準に違反していると認めるときは、遵守すべき旨を勧告できます。それでも従わなかった場合、同条第2項により、勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができます[^7]。
罰則が登場するのは、この命令に違反した段階です。外為法第71条第11号により、第55条の12第2項の命令に違反した者は、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処せられます[^8]。逆に言えば、遵守基準違反そのものに直接の刑事罰はありません。指導・助言、勧告、命令と段階を踏んで、命令まで無視して初めて罰則がかかる設計です。
「じゃあ命令が来るまで放っておけばいいのでは」と思った方がいたら、それは実務感覚としてかなり危ういと申し上げたい。経済産業省は外為法第68条に基づいて、輸出者等遵守基準または後述するCP通達の外為法等遵守事項に基づく安全保障輸出管理が適切に実施されていることを確認するための立入検査、いわゆる法令遵守立入検査を実施しています[^11]。体制の不備は検査で見える形になりますし、そもそも遵守基準の10項目が回っていない会社は、無許可輸出のような外為法本体の違反、つまり遥かに重い罰則のある違反を起こすリスクを常に抱えています。遵守基準の罰則が軽いのは、これが処罰のための規定ではなく、事故を未然に防ぐ体制づくりを促すための規定だからだと私は理解しています。
CP(輸出管理内部規程)との違い。任意なのに実務ではほぼ必須になる理由
さて、冒頭の疑問に戻ります。遵守基準とCPは何が違うのか。表で並べてから、文章で補足します。
| 観点 | 輸出者等遵守基準 | CP(輸出管理内部規程) |
|---|---|---|
| 位置づけ | 法律上の義務(外為法第55条の10第4項) | 自主管理の取り組み。届出は任意 |
| 中身を定める者 | 経済産業大臣(省令) | 各企業が自ら作成 |
| 適用・対象 | 業として輸出等を行う者すべて | 届け出た企業 |
| 求められる水準 | 最低ライン(全員共通2つ+リスト規制品で10項目) | CP通達別紙1「外為法等遵守事項」を満たす、遵守基準省令より一段厳しい内容 |
| 主な効果 | 従うこと自体が義務 | CP受理票の発行、包括許可制度の活用につながる |
CPの届出は経済産業省への任意の手続で、法的義務ではありません。CP通達「輸出管理内部規程の届出等について」に基づいて届け出て、規程の内容が適切であればCP受理票が発行されます。CP届出企業は、CP通達の別紙1「外為法等遵守事項」を満たす、遵守基準省令より一段厳しい内部規程を定めて自主管理を行うことになります[^9]。
では任意なのになぜ多くの企業がCPを届け出るのか。鍵は包括許可です。輸出許可には案件ごとに取る個別許可と、一定範囲の輸出をまとめて認めてもらう包括許可があり、包括許可が使えると許可手続の負担が大きく変わります。CP受理票の発行を受けている者は、毎年7月1日から31日までの間に、輸出者等概要・自己管理チェックリスト(CLと呼ばれる様式3の書類です)を提出しなければならず、適切な管理が実施されていればCL受理票が発行され、包括許可制度を活用できます。特別一般包括許可などを取得している企業が毎年のCL提出を怠ると、包括許可取扱要領の許可条件違反になります[^10]。つまりCPは「出したら終わり」ではなく、毎年のCL提出とセットで初めて実益につながる制度です。ちなみにCP取下げ届を出すと受理票は効力を失い、連動して効力を失う包括許可があることもMETIのページで注意喚起されています[^11]。
制度の鮮度についても触れておくと、現行のCP通達は令和7年4月9日公布、同年5月9日施行のもので、別紙1の外為法等遵守事項の内容には変更がありません[^11]。CPの具体的な作り方、つまり何を規程に盛り込み、どう届け出るかは輸出管理内部規程(CP)の作り方ガイドで一段深く解説しています。
整理すると、こういう二層構造です。1階が遵守基準。全員に適用される法律上の義務で、守って当たり前の最低ライン。2階がCP。任意だが、包括許可という実務上のメリットと引き換えに、より厳しい自主管理を宣言する仕組み。「CPを出していないから義務がない」のではなく、CPを出していない会社にも1階の義務は常にかかっている。冒頭の質問への答えは、この構造で説明できます。
まとめ。最初の一歩は「責任者を決めて、名前を書く」こと
最後に、これから体制を整える方に向けて、着手の順番を私なりに示しておきます。
最初にやるべきは該非確認責任者の選任です。役員でも管理部門の責任者でもいい、誰が該非確認に責任を持つのかを決めて、文書に名前を残す。全輸出者共通の義務の1つめは、極端に言えば今日中に満たせます。2つめの従業者への指導は、経産省やCISTECの公開資料を使った社内勉強会からで構いません。そのうえで、自社の製品や技術がリスト規制に該当しうるなら、上乗せ10項目を意識した体制づくりに進む。該非確認の実務を自社だけで担いきれない場合の選択肢は該非判定の外部委託と支援サービスの整理にまとめています。
ひとつ正直に書いておくと、この記事で紹介した条文はe-Govで確認できる現行法令に基づいていますが、外為法まわりの省令・通達は改正が続く分野です。特に貴社の個別の取引に関わる判断では、経産省の安全保障貿易管理のページと最新の告示を必ず直接確認してください。一次情報にあたる習慣そのものが、遵守基準ロの「最新の法令の周知」の実践でもあります。
15年前から存在する義務なのに、知られていない。知られていないから、体制がないまま輸出が続き、ある日事故が起きる。この順番を断ち切るには、法律の存在を知った日に最初の一歩を踏み出すのが一番です。自社の場合はどこから手をつけるべきか、具体的に相談したい方は個別相談からお声がけください。責任者の名前をひとつ決める。輸出管理は、そこから始まります。
参考
[^1]: 外国為替及び外国貿易法 第55条の10(輸出者等遵守基準) — e-Gov法令検索(デジタル庁) — 2026年7月7日閲覧 [^2]: 輸出者等遵守基準を定める省令(平成21年経済産業省令第60号)本則・附則 — e-Gov法令検索(デジタル庁) — 2026年7月7日閲覧 [^3]: 輸出者等遵守基準を定める省令 第1条第1号(全輸出者共通の基準) — e-Gov法令検索(デジタル庁) — 2026年7月7日閲覧 [^4]: 輸出者等遵守基準を定める省令 第1条第2号(特定重要貨物等輸出者等の基準) — e-Gov法令検索(デジタル庁) — 2026年7月7日閲覧 [^5]: 特定重要貨物等を定める省令(平成21年経済産業省令第61号) — e-Gov法令検索(デジタル庁) — 2026年7月7日閲覧 [^6]: 輸出者等遵守基準を定める省令 第2条・第3条(兼任・個人輸出者の特例) — e-Gov法令検索(デジタル庁) — 2026年7月7日閲覧 [^7]: 外国為替及び外国貿易法 第55条の11・第55条の12(指導及び助言・勧告及び命令) — e-Gov法令検索(デジタル庁) — 2026年7月7日閲覧 [^8]: 外国為替及び外国貿易法 第71条第11号(命令違反の罰則) — e-Gov法令検索(デジタル庁) — 2026年7月7日閲覧 [^9]: 企業等の自主管理の促進(CP届出・外為法等遵守事項) — 経済産業省 安全保障貿易管理 — 2026年7月7日閲覧 [^10]: 企業等の自主管理の促進(自己管理チェックリスト・包括許可) — 経済産業省 安全保障貿易管理 — 2026年7月7日閲覧 [^11]: 企業等の自主管理の促進(CP通達の改正・法令遵守立入検査) — 経済産業省 安全保障貿易管理 — 令和7年4月9日公布・同年5月9日施行の通達を掲載 [^12]: 輸出者等遵守基準 初めの一歩! — CISTEC(一般財団法人安全保障貿易情報センター) — 2026年7月7日閲覧
