こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
2026年4月17日、日本経済新聞が「自治体のIT機器、中国製品を排除」と報じ、20日には共同通信も「自治体、中国ITを事実上排除へ」と配信しました12。私が4月24日に出したこの記事の初版も、こうした報道をもとに「中国製は事実上、自治体の調達網から消える」とまとめています。
その後、ルールは文書になりました。総務省は6月26日に地方自治法施行規則を改正する省令を公布し、7月31日には自治体向けの調達の手引書を通知しています345。原文を読むと、初版には直すべき点がいくつもありました。登録の制度は2つではなく3つあります。「認定品のみ」ではなく「原則として登録品」で、登録のない機器にも調達の道があります。文書のどこにも国名や企業名は出てきません。施行は「2027年夏」ではなく、2027年7月1日です。
今回は省令、局長通知、手引書の原文に沿って中身を整理し直し、報道の評価と政府の説明を分けて並べました。自治体に機器やクラウド、保守を納めている会社の方は、どこまで準備が要るかの目安にしてください。自社の輸出管理や取引先審査の体制が変化に追いついているか気になる方は、輸出管理体制の無料診断で現在地を確かめられます。
| 論点 | 2026年10月4日時点の答え |
|---|---|
| 根拠になるルール | 改正地方自治法施行規則(令和8年総務省令第80号、6月26日公布)。施行は2027年7月1日 |
| 原則として何を調達するか | JC-STAR、ISMAP(ISMAP-LIUを含む)、デジタルマーケットプレイスのいずれかに登録された製品 |
| 登録のない機器は買えないのか | 買えます。自治体がサプライチェーン・リスク対策を確認できれば調達できます |
| 国や企業の名指しはあるか | ありません。判断の軸は、事業者の本社などがある場所の法的環境や外部からの指示による影響です |
| いま使っている機器は | 施行の時点で動いているシステムと実施中の業務委託は、従前の例によります |
| 「中国製は事実上排除」は | 4月の報道の評価です。総務省は5月に「製造国や認証制度で機器を制約することはない」と説明したと報じられています |
何が決まったのか|省令・局長通知・手引書の3つの文書
今回のルールは3つの文書でできています。1つ目は、2026年6月26日に公布された「地方自治法施行規則の一部を改正する省令」(令和8年総務省令第80号)です3。2024年6月に公布された改正地方自治法で、自治体は情報システムを適正に使うために必要な措置を講じることが義務になりました。何をすれば義務を果たしたことになるのか、その細目を定めたのがこの省令です。新しい第16条の3は、組織体制の整備、情報資産の分類と管理、物理的・人的・技術的な対策、業務委託とクラウドの適切な利用、対策の評価と見直しまで、8つの項目を並べています。
2つ目は、同じ日に出た総務省自治行政局長の通知(総行サ第42号)です4。施行日を2027年7月1日と明記し、別紙でサプライチェーン・リスク対策の中身を示しました。3つ目が7月31日の手引書で、自治体の調達担当者がそのまま使える選定基準と仕様書の記載例が載っています56。通知と手引書は、どちらも地方自治法第245条の4第1項に基づく「技術的な助言」という位置づけです。自治体を法令として拘束するのは省令のほうで、通知と手引書はその中身を具体的に示す役割を担っています。
| 項目 | 原文で確認できる内容 |
|---|---|
| 施行日 | 2027年7月1日 |
| 対象の団体 | 都道府県と市区町村。一部事務組合、広域連合、地方独立行政法人にも周知。重要なネットワークにつながっておらず個人情報を多量に持たない団体と公安委員会は除く |
| 対象の情報資産 | 通信回線やルーター、サーバー、パソコン、モバイル端末、複合機、OS、ソフトウェア、ドローン、ネットワークカメラ、クラウドサービス、USBメモリなどの記録媒体、設計書など |
| 原則 | 情報資産の分類に応じ、政府の評価・登録制度に登録された製品を調達する |
| 登録がない場合 | 適切なサプライチェーン・リスク対策が講じられていると自治体が判断できるものを調達する |
| 経過措置 | 施行の時点で存在するシステムと実施中の業務委託は従前の例による。施行前の調達も、可能な限り同じ趣旨で対策する |
政府の評価・登録制度は3つあります。JC-STARは経済産業省の制度で、IPA(情報処理推進機構)が運営するIoT製品のセキュリティラベルです。手引書の仕様書記載例は「★1以上」のラベルを求めています。ISMAPは政府が使うクラウドサービスの評価制度で、国家サイバー統括室、デジタル庁、総務省、経済産業省が運営しています。影響度の低い業務向けSaaSのためのISMAP-LIUも含まれます。3つ目のデジタルマーケットプレイス(DMP)は、デジタル庁と基本契約を結んだ事業者がソフトウェアやサービスを登録するカタログで、2024年度に運用が始まりました46。初版で書かなかったのがこのDMPです。ISMAPの仕組みそのものは「ISMAPとSCS評価制度の解説」で詳しく書いています。
登録のない機器を調達する道筋も、手引書に具体的に書かれています。JC-STARの対象外の分野(パソコンやスマートフォンなど)もここに入ります。確認する項目は4つあります。製造や開発の工程で不正な変更が加えられないよう管理されていること。機器を作る事業者や保守する事業者の本社など(議決権の過半数を直接・間接に持つ者の本社なども含みます)がある場所の法的環境や外部からの指示によって、懸念を払拭できない機器を調達しないこと。ISO/IEC 15408などの国際標準に基づく第三者認証や監査で評価できること。必要に応じてSBOM(ソフトウェア部品表)を作成し提供していること6。
手続きの面では、受注する事業者が候補となる機器のリストを事前に自治体へ出し、自治体が懸念を払拭できないと判断すれば代替品を一緒に検討します。自治体機密性2以上の情報を扱う調達では、入札に参加したい事業者が確認書を出し、自治体が承諾書を返します。期間内に承諾書が出なければ承諾したものとみなす、という記載例まで用意されています6。クラウドについては、データセンターがある国の法律によって、適正な手続きを経ずに情報が外国の法執行機関へ開示されるリスクがあると判断されれば、使わないことも含むとされました4。契約方式は、価格以外の要素も評価する総合評価一般競争入札などを例に挙げています。
個人的には、納入する側の実務で一番重いのは機器のリストと確認書だと見ています。自社の製品だけでなく、部品の調達先や保守の委託先、その親会社まで答えを用意する必要があるからです。取引先や部品の素性を自社で点検する観点は、サプライチェーンDD 自己点検シートにまとめました(無料。会社名とお勤め先のメールアドレスのご登録が必要です)。
「中国製は事実上排除」は誰の評価か
「事実上の排除」という言い方は、4月の報道から始まっています。共同通信の配信記事は、総務省が政府の評価制度で認定された製品だけを調達するよう義務づける方針を固めたと伝え、認定製品に中国製は含まれていないので調達から事実上排除される、と続けました2。日経の見出しも「中国製品を排除」です1。いずれも報道機関の評価で、政府の文書に同じ言葉があるわけではありません。
政府側の文書を順に見ると、書き方は一貫しています。4月20日に総務省が公表したワーキンググループの報告書は、サプライチェーン・リスク対策を省令の細目に取り込むよう提言しましたが、国名は出てきません7。日経クロステックは5月7日、一部の報道で「事実上、中国製品の利用を制限する」と伝えられて総務省に問い合わせが集まったこと、総務省が「製造国や認証制度で機器を制約することはない」と否定したことを報じています8。日経も5月29日に「中国製品排除せずも、選定は厳格」という見出しで続報を出しました9。6月の局長通知と7月の手引書にも、国名や企業名はありません。2018年の国の機関の申合せも同じで、本文に国や企業の名前は書かれていません10。
一方で、5月の「認証制度で制約することはない」という説明と、6月の通知で示された「原則として登録品」は、読み比べると温度差があります。私の理解では、登録は原則の入口で、登録がなくても自治体が対策を確かめられれば調達できる、という形で両者が両立しています。報道が4月に伝えた「認定品のみ」は、文書になった段階で「原則」と「例外の確認ルート」に分かれた、と読むのが正確でしょう。
JC-STARの側も確かめておきます。IPAが10月1日に更新した適合ラベル取得製品の一覧を数えると、登録は355件、事業者は145社で、すべて★1でした11。自治体が使いそうな類型では、ルーターやスイッチなどの通信機器が88件、ネットワークカメラなどの防犯関連機器が42件、複合機などのOA機器が6件です。一覧には事業者の国籍を書く欄がなく、海外の事業者や外資系の日本法人も並んでいます。公開されている規程に特定の国の企業を対象外とする条文はなく、申請書に親会社や製造ベンダーの本社所在地を書く欄がある、という点は「JC-STARと中国製品の関係を整理した記事」で詳しく扱いました。
では実際の調達で何が起きるのか。手引書は本社などの所在地の法的環境を手がかりに懸念を確かめる設計なので、どこに本社がある事業者かによって、説明に求められる資料の量が変わることは十分ありえます。ただし、それは製品ごとに自治体が判断する事柄で、一律の禁止とは性質が違います。JC-STARのラベルやISMAPへの登録の有無は制度上の区分であって、その企業の是非を判断したものではありません。日本企業であれ外国企業であれ、登録のない機器を納める事業者は、確認ルートで求められる証跡を出せるかどうかが問われます。
該非判定の属人化を、AIで解消する。
経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDの機能・導入フローをまとめたサービスカタログを無料でダウンロードできます。
なぜ自治体なのか
国の機関は、2018年12月10日の関係省庁申合せから、重要な情報システムや機器の調達でサプライチェーン・リスクに対応しています10。2020年9月には、政府機関等が使うドローンについても同じ趣旨の申合せが加わりました12。自治体はこれまで、総務省の情報セキュリティポリシーのガイドラインで対策を求められてはいたものの、法令で細目まで定められてはいませんでした。
局長通知は、自治体を対象にする理由をこう説明しています。国と自治体の情報システムはネットワークで相互に接続しており、自治体のサプライチェーン上の脆弱性を突いたインシデントが起きれば、被害が政府機関に及ぶ蓋然性は高い。だから政府機関と歩調を合わせた対策が必要だ、という論理です4。ワーキンググループの報告書も、自治体ではサプライチェーン・リスク対策への意識の醸成が途上で、最新の情報を使ってリスクを判断し調達を管理する体制が多くの団体で整っていない、と課題を挙げていました7。
自治体の側から見ると、事情はもう少し込み入っています。1,700あまりの市区町村がそれぞれ入札を行い、財政も人材も団体ごとに大きく違います。報告書によれば、自治体が運営する大規模な水道事業者などは、すでに経済安全保障推進法の基幹インフラ制度で重要設備の導入前に届出と審査を受けています7。同じ自治体の中で、水道は国の審査を受け、庁内のネットワーク機器は各課の判断で買う、というばらつきがあったわけです。省令は、このばらつきを法令の細目でならす試みだと私は受け止めています。
実際の事案も後押ししました。林芳正総務大臣(当時)は7月3日の会見で、陸上自衛隊が保有するUSBメモリからマルウェアが検知された事案について問われ、総務省が6月26日に自治体へUSBメモリなどの適切な取扱いと調達について注意喚起の通知を出したこと、利用状況の実態調査を7月中に行う予定であることを説明しています13。8月4日には、全国の知事と市区町村長に、トップ自らが予算や人員を確保してサイバーセキュリティ対策を進めるよう求める大臣書簡も出しました14。総務省は、サプライチェーン・リスクを含む相談を受け付ける総合窓口の設置や、全自治体が使える脆弱性診断システム(地方版ASM)の2026年度中の構築も予定しています414。
2018年からの流れを年表で見る
初版では、この方針を「高市政権の政府認定品制度」と書きました。省令は高市内閣の林総務大臣の名で公布されたので、この内閣のもとで決まったこと自体は事実です3。ただ、自治体に措置を義務づけた改正地方自治法は2024年6月、岸田内閣のときに公布されています4。国の機関の申合せは2018年です。政権の看板政策として打ち出されたというより、国の機関で続けてきた調達のルールに自治体を合わせる行政の積み上げ、と見るほうが原文に近いと考えています。
| 年月 | 出来事 |
|---|---|
| 2018年12月 | 国の機関のIT調達でサプライチェーン・リスクに対応する関係省庁申合せ10 |
| 2020年9月 | 政府機関等のドローン調達に関する関係省庁申合せ12 |
| 2022年5月 | 経済安全保障推進法が成立 |
| 2024年5月 | 基幹インフラの事前審査制度の運用開始 |
| 2024年6月 | 改正地方自治法の公布。自治体に情報システムの適正な利用のための措置を義務づけ4 |
| 2025年3月 | JC-STARの★1の申請受付が始まる11 |
| 2026年4月 | 報道(17日、20日)、ワーキンググループ報告書の公表(20日)、省令案の意見募集(24日から5月25日、意見9件)715 |
| 2026年6月 | 省令の公布と局長通知(26日)34 |
| 2026年7月 | 調達の手引書を通知(31日)5 |
| 2027年7月 | 省令の施行(1日) |
初版を書いた4月下旬は、牧野フライスの買収計画への中止勧告(4月22日)と、国家情報会議設置法案の衆議院通過(4月23日。5月27日に成立)が続いた週でした。自治体の話もその流れの中で大きく報じられましたが、総務省の文書がこれらの動きと結びつけて説明しているわけではありません。並べて読むと勢いのある一連の政策に見えますが、制度の中身は、それぞれの法律と手続きの上で別々に動いています。
意見募集では、外国企業や海外クラウドへの対策をもっと明確にすべきだという意見も、小規模な自治体の負担を心配する意見も寄せられました。総務省は、今回の省令は地方自治法に基づく措置を法令上細目化するもので、さらなる明確化は今後の検討の参考とする、と答えています15。
初版(2026年4月)から変わったこと
初版は報道を下敷きに書いたので、文書が出そろった今と比べると、ずれている点が少なくありません。主なものを表にしました。
| 論点 | 初版(4月24日) | 現在(10月4日) |
|---|---|---|
| 調達の方式 | 政府認定品(JC-STAR、ISMAP)のみ | 原則として登録品。制度はJC-STAR、ISMAP(ISMAP-LIUを含む)、DMPの3つ。登録のない機器も自治体の確認で調達できる |
| 対象の機器 | PC、タブレット、通信機器、サーバー、クラウド | 情報資産全般。ただしJC-STARはパソコンやスマートフォンを対象にしていない |
| 省令 | 2026年6月に改正予定 | 6月26日に公布(令和8年総務省令第80号) |
| 運用開始 | 2027年夏 | 2027年7月1日に施行 |
| 既存の機器 | 更新のタイミングで切り替え | 施行時のシステムと委託は従前の例。施行前の調達も可能な限り対策を |
| 中国製品の扱い | 事実上の排除と断定 | 報道の評価として紹介。文書に国名はなく、総務省は製造国で制約しないと説明(報道による) |
| 決めた主体 | 高市政権の方針 | 2024年の改正地方自治法に基づく総務省令。公布は高市内閣の総務大臣 |
| 基幹インフラの分野 | 14分野 | 現行15分野。2026年6月公布の改正法で医療が加わる予定 |
| 中国による対日措置 | 2月の40社・団体 | 2月と6月の2回で、計80社・団体 |
いちばん大きな違いは、「認定品のみ」から「原則と例外の確認ルート」への変化です。初版の読み方だと、登録のない製品は一律に入札から外れることになりますが、手引書はそうなっていません。登録がなくても、製造工程の管理、本社などの所在地に関する懸念の払拭、第三者認証、SBOMといった証跡を出せれば、調達の対象になりえます。逆に言えば、登録のない製品を納める事業者ほど、説明の準備に手間がかかります。
基幹インフラの分野数は、初版の誤りです。現行は電気、ガス、石油、水道、鉄道、貨物自動車運送、外航貨物、港湾運送、航空、空港、電気通信、放送、郵便、金融、クレジットカードの15分野で、2026年6月17日に公布された経済安全保障推進法の改正で医療が加わることになりました16。中国の措置も更新が必要でした。中国商務部は2月24日と6月29日に、日本の企業・団体をそれぞれ40ずつ、輸出管理の管控名単と関注名単に掲載しています(公告第11号・第12号・第27号・第28号)17。掲載先の一覧は「中国の輸出規制リストに載った日本企業の一覧」にまとめています。掲載は中国の輸出管理上の区分であって、掲載された企業や団体の是非を示すものではありません。両国の措置を因果で結ぶ公式の説明もないので、この記事では並べて記すだけにとどめます。
民間企業への波及|納入事業者に届く3つの要求
省令が直接しばるのは自治体ですが、手引書を読むと、要求の多くは仕様書を通じて受注する事業者に届く形になっています。
1つ目は、自治体に機器やクラウド、保守を納める会社です。仕様書の記載例では、JC-STARのラベル(★1以上)を取得している証明資料、ISMAPやISMAP-LIUのリストへの掲載を示す資料、DMPへの登録を示す資料の提出が求められます。候補となる機器のリストの事前提出、自治体機密性2以上の情報を扱う調達での確認書も加わります。登録のない機器なら、製造工程の品質保証体制、製造環境へのアクセス制限、本社などの情報、第三者認証、SBOMまで説明の対象です。再委託先や保守の委託先も含まれるので、システムインテグレーターは下請けの構成まで把握しておく必要があります。
2つ目は、基幹インフラの事業者と、その設備を納める会社です。15分野の特定社会基盤事業者は、重要な設備を導入したり維持管理を委託したりする前に国へ届け出て審査を受けています。制度の詳細は「基幹インフラ事前審査制度の解説」に書きました。医療が加われば、病院や医療情報の基盤に機器を納める会社にも同じ発想が及びます。
3つ目は、海外の取引先から質問票が届く会社です。米国の取引先からは、取引先の審査の方法や部品の原産地を問う質問票が届くことがあり、日本の自治体向けに整えた記録はその回答にも使えます。米国では2026年3月、条件付きの承認を得たものなどを除き、外国で生産された家庭用ルーターの新しい機種が連邦通信委員会の機器認証を受けられなくなりました。日本では購入も使用も禁じられていないことを含めて、家庭用ルーターと日米の規制を整理した記事で書いています。消費者向けの機器にまで議論が広がった米国の動きは「米国で始まったデバイス規制の全体像」も参考になります。
自治体と取引がないから関係ない、とは言い切れません。取引先の先に自治体や基幹インフラの事業者がいれば、確認書や機器のリストの作成に協力を求められます。私は、要求そのものより、回答の材料が社内に散らばっていることのほうが手間になると見ています。部品の調達先は購買、製造工程の管理は品質保証、親会社や委託先との契約は法務、と担当が分かれていると、一枚の確認書を書くために三つの部署を回ることになるからです。
残る論点
方向性に異論は少ないとしても、運用には論点が残っています。
コストと人手が最初の壁です。機器の入れ替えや仕様書の作り直しは、財政や専門人材の限られた小規模な自治体ほど重くのしかかります。意見募集でも、同じ水準の対応が一律に求められると受け取られかねないという懸念が出ていました15。総務省は相談窓口の設置、地方版ASM、地方財政措置などの支援を挙げていますが、窓口の詳細は「今後通知」の段階です414。
JC-STARの対象と水準にも限りがあります。パソコンやスマートフォンは対象外で、取得済みの355件はすべて★1です。★1と★2はメーカーが自ら評価する自己適合宣言で、IPAもラベルは最低限の水準を満たした目印であり、完全な安全を保証するものではないと書いています11。政府機関や地方公共団体の重要なシステムを想定した★3と★4は第三者評価に基づく方式で、通信機器とネットワークカメラの★3の要件が公開され、評価機関の承認に関する規程が順次整えられている段階です。IPAは7月31日に、申請件数が急増して確認に通常より時間がかかっていると告知しました11。施行までに登録がどこまで増えるかは、調達の現場の負担を左右します。
判断の物差しの透明性も課題です。「懸念が払拭できない」かどうかは各自治体が判断するので、同じ製品でも団体によって結論が分かれる可能性があります。総務省の総合窓口が事前の相談先として機能するかどうかが、ばらつきを抑える鍵になるでしょう。登録の有無が実質的な参入条件のように働けば、競争への影響も出てきます。総合評価の入札で、価格以外の要素がどう点数化されるのかは、今後の公告を見ていく必要があります。
企業はどう備えるか
自社の立ち位置によって、急ぐべきことは変わります。
自治体や基幹インフラに機器やシステムを納めている会社は、提案する製品ごとにJC-STARやISMAP、DMPの登録状況を一覧にし、登録のない製品については、製造工程の管理、本社などの情報、第三者認証、SBOMをどこまで出せるかを確かめておくのが先決です。施行は2027年7月1日ですが、施行前の調達でも可能な限り対策をとるよう通知が求めているので、来年度の案件から仕様書に反映されることも考えられます。
海外、とくに米国や欧州と取引がある会社は、取引先の質問票に答えられるよう、使っている機器や部品、クラウドの素性と、取引先の審査の記録をそろえておくと安心です。手引書が見る「本社など」には、議決権の過半数を持つ親会社の本社も含まれます。この考え方は、輸出管理で取引先の資本関係を確かめる作業とよく似ています。
これから体制を整える会社は、取引先のスクリーニング、該非判定、みなし輸出の管理、技術情報のアクセス管理の4つを、担当者の記憶ではなく記録に残る形にするところから始めるのが現実的だと思います。
私たちが開発しているAI輸出管理エージェント「TRAFEED(トラフィード)」は、この記録づくりを支えるために生まれました。取引先の懸念度を5秒ほどで可視化し、各国の規制リストとの照合結果と判断の根拠、承認の記録を残します。該非判定も製品の仕様からAIが一次評価を行いますが、最終的な判定は貴社の輸出管理責任者が行います。JC-STARの登録状況を調べる機能ではありませんが、取引先や供給網について説明できる材料を日頃から残しておく、という点で今回の要求と地続きです。
まとめ
- 2027年7月1日に改正地方自治法施行規則(令和8年総務省令第80号)が施行され、自治体の機器やクラウドは政府の評価・登録制度への登録品が原則になります
- 制度はJC-STAR(★1以上)、ISMAP(ISMAP-LIUを含む)、デジタルマーケットプレイスの3つで、パソコンやスマートフォンはJC-STARの対象外です
- 登録のない機器も、製造工程の管理、本社などの所在地に関する懸念の払拭、第三者認証、SBOMなどで自治体が確認できれば調達できます
- 「中国製は事実上排除」は4月の報道の評価で、文書に国名や企業名はなく、総務省は製造国で制約しないと説明したと報じられています
- 施行時に動いているシステムと業務委託は従前の例ですが、施行前の調達でも可能な限りの対策が求められています
報道の見出しだけを追うと、国と国のぶつかり合いの話に見えます。原文を読むと、中身は「誰が作り、誰が直し、その会社はどこの法律の下にあるのかを、調達のたびに確かめる」という地道な手続きでした。確認書や機器のリストを求められたとき、慌てずに答えられる会社が、結局は選ばれやすくなるはずです。
TRAFEEDの詳細やデモのご依頼は製品ページからどうぞ。機能の概要はTRAFEEDサービスカタログ(PDF)で確認できます。自社の状況に合わせた進め方を相談したい方は、個別相談も受け付けています。
参考文献
Footnotes
-
自治体のIT機器、中国製品を排除 政府の認定品のみ使用可能に — 日本経済新聞 — 2026年4月17日(報道) ↩ ↩2
-
自治体、中国ITを事実上排除へ 総務省令改正、来年夏から運用 — 共同通信配信(秋田魁新報掲載)— 2026年4月20日(報道) ↩ ↩2
-
地方自治法施行規則の一部を改正する省令(案)に対する意見募集の結果(省令の公布)— 総務省 — 2026年6月26日。省令本文は別紙2(令和8年総務省令第80号) ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
地方自治法施行規則の一部を改正する省令の公布等について(通知)(総行サ第42号)— 総務省自治行政局長 — 2026年6月26日 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10
-
「地方公共団体の機器等の調達におけるサプライチェーン・リスク対策のための選定基準及び仕様書策定手引書」について(通知)(総行サ第54号)— 総務省 — 2026年7月31日 ↩ ↩2 ↩3
-
地方公共団体の機器等の調達におけるサプライチェーン・リスク対策のための選定基準及び仕様書策定手引書 — 総務省 — 2026年7月 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
「地方公共団体におけるサイバーセキュリティに関する支援策及び実効性確保の検討に係るワーキンググループ 報告書」の公表 — 総務省 — 2026年4月20日。報告書本文はこちら(PDF) ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
総務省が自治体にサイバー対策「義務化」、中国製品排除せずも選定を厳格に — 日経クロステック — 2026年5月7日(報道) ↩
-
IT調達に係る国等の物品等又は役務の調達方針及び調達手続に関する申合せ(2018年12月10日関係省庁申合せ、2021年7月6日一部改正)— 消防庁の公表資料に収録 ↩ ↩2 ↩3
-
セキュリティ要件適合評価及びラベリング制度(JC-STAR)— IPA(2026年10月4日閲覧)、適合ラベル取得製品リスト — IPA — 2026年10月1日更新 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
政府機関等における無人航空機の調達等に関する方針について(2020年9月14日関係省庁申合せ)— 消防庁の公表資料に収録 ↩ ↩2
-
林総務大臣閣議後記者会見の概要(地方公共団体におけるサイバーセキュリティの確保に関する大臣書簡)— 総務省 — 2026年8月4日 ↩ ↩2 ↩3
-
「地方自治法施行規則の一部を改正する省令(案)」に対して提出された御意見及びそれに対する総務省の考え方 — 総務省 — 2026年6月26日 ↩ ↩2 ↩3
-
商務部公告2026年第11号 — 中華人民共和国商務部 — 2026年2月24日、商務部公告2026年第27号 — 同 — 2026年6月29日 ↩






