株式会社TIMEWELLの濱本です。
「海外工場に設計図面をメールで送る」「クラウド上のCADデータを現地スタッフが参照する」「外国人研究者に技術資料を渡す」。日常の業務連絡に見えるこれらの行為が、輸出管理の対象になることは、いまも現場で見落とされがちです。
輸出管理というと貨物の輸出を思い浮かべがちですが、日本の制度は技術の提供も同様に規制しています。さらに、令和4年5月1日施行のみなし輸出管理の運用明確化により、国内での技術提供であっても、一定の条件では許可が必要な場合がある、という整理が明確になりました。
本記事では、図面・設計データを扱う担当者が押さえるべき枠組みを、施行日と法令の根拠から実務チェックまで整理します。
この記事の要点
- 技術提供(図面・仕様書・口頭指導・クラウド共有)は貨物輸出と並ぶ規制の柱
- みなし輸出の運用明確化は令和4年5月1日から適用(特定類型の居住者への提供も対象)
- 技術の該非判定は、関連貨物の判定と分けて記録する
- 海外拠点への送付・クラウドアクセス・出張持ち出しはいずれも「提供」になり得る
- 判定根拠を残す書式と、提供履歴の管理が監査対応の核になる
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貨物と技術、どちらが規制されるか(早見表)
細かい話に入る前に、全体像を1枚にまとめます。
| 観点 | 貨物の輸出 | 技術の提供 |
|---|---|---|
| 主な根拠 | 輸出貿易管理令 別表第1 | 外国為替令 別表 |
| 典型例 | 装置・部品・素材の輸出 | 設計図面、製造手順書、プログラム、口頭指導 |
| 判定の単位 | 品目スペックと項番の照合 | 設計・製造・使用のいずれに関する技術か+関連貨物 |
| みなし輸出 | 基本は国境を越える貨物が対象 | 国内提供でも、非居住者・特定類型への提供は対象になり得る |
| よくある抜け | 判定書はあるが出荷照合が弱い | 貨物は判定したが、添付図面の判定を忘れる |
ポイントは、「モノを出していないから安全」ではないことです。データ1枚、画面1枚、口頭の説明1回でも、規制技術に該当すれば管理対象になり得ます。
1. 技術提供規制の基本
輸出管理の2つの柱
日本の安全保障貿易管理は、「貨物の輸出」と「技術の提供」の両方を対象にしています。後者の詳細は経済産業省の安全保障貿易管理ページと役務通達で確認できます[^1][^2]。
「技術」に含まれるもの
| 技術の形態 | 具体例 |
|---|---|
| 技術データ | 設計図面、製造方法書、仕様書、CADデータ |
| プログラム | ソフトウェア、ソースコード、制御用ファームウェア |
| 技術報告書 | 研究レポート、試験データ、評価資料 |
| 作業知識 | 口頭での技術指導、ノウハウ、実演 |
提供方法の広さ
| 提供方法 | 例 |
|---|---|
| 媒体 | 紙、USB、CD-ROM |
| 電子的送信 | メール添付、チャットでの送付、クラウド共有 |
| 口頭 | 技術指導、セミナー、商談での仕様説明 |
| 視覚的提示 | 工場見学、デモ、画面共有 |
所有権の移転は要件ではありません。借りた資料を返す行為や、閲覧権限を海外拠点に付与する行為も、状況によっては技術提供として評価されます。
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2. みなし輸出とは|令和4年5月1日施行の運用明確化
定義と施行日アンカー
みなし輸出とは、日本国内での技術提供であっても、一定の条件を満たす場合は輸出と同等に扱い、許可申請を求める仕組みです。
経済産業省によると、関連する省令・通達は令和3年11月18日に公布され、令和4年5月1日に施行・適用されています[^2]。ここが制度理解の日付の錨です。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 令和3年6月 | 産業構造審議会小委員会の中間報告で運用明確化の方向を提示 |
| 令和3年11月18日 | 関連省令・通達を公布 |
| 令和4年5月1日 | みなし輸出管理の運用明確化が適用開始 |
改正前後の対比
| 区分 | 令和4年5月1日より前の実務感覚 | 令和4年5月1日以降 |
|---|---|---|
| 非居住者への提供 | 規制対象として管理 | 引き続き規制対象 |
| 居住者への提供 | 原則として対象外と整理されがち | 特定類型に該当する居住者への提供は対象 |
| 確認実務 | 居住性の確認が中心 | 雇用契約・経済的利益・指示従属などの類型確認が追加 |
特定類型のイメージ
「特定類型」は、居住者であっても外国政府等から強い影響を受けている状態を指します。経産省の解説資料では、大まかに次のような類型が示されています[^2]。
| 類型のイメージ | 内容の例 |
|---|---|
| 雇用契約等 | 外国政府機関等との雇用・契約関係 |
| 経済的利益 | 外国政府等から多額の金銭その他の利益 |
| 指示・従属 | 外国政府等の指示に従う関係 |
※個別の該当性は事実関係次第です。人事・法務と連携し、誓約書や確認手順を社内規程に落とすのが実務の基本です。大学・研究機関向けの事例集も経産省から公開されています[^2]。
3. 技術の該非判定|図面・設計データの手順
4ステップ
【ステップ1】判定対象技術の特定
↓
【ステップ2】関連貨物の該非判定
↓
【ステップ3】判定対象項番の選定
↓
【ステップ4】該非判定の実施と根拠記録
ステップ1:判定対象技術の特定
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 技術の内容 | 設計・製造・使用のどれに関するか |
| 技術の形態 | 図面、プログラム、口頭指導など |
| 提供先 | 誰に、どの国・組織で使うか |
| 提供方法 | メール、クラウド、対面など |
ステップ2:関連貨物の該非判定
技術規制の多くは、「規制貨物の設計・製造・使用に関する技術」を対象にします。そのため、関連する貨物側の該非を先に整理すると、技術側の判定が安定します。
| 関連貨物の該非 | 技術側の見方 |
|---|---|
| 該当 | 技術も該当する可能性が高い |
| 非該当 | 技術も非該当の可能性が高い(例外あり) |
暗号技術のように、貨物と独立して規制される技術もあるため、「貨物が非該当だから技術も必ず非該当」と決め打ちしないことが大切です。
ステップ3:項番の当たりをつける
| 技術の種類 | 関連しうる項番の例 |
|---|---|
| 工作機械の設計図 | 材料加工(いわゆる6項周辺) |
| 半導体の製造方法 | エレクトロニクス(いわゆる7項周辺) |
| 暗号アルゴリズム | 通信・情報セキュリティ関連 |
最終判定は、輸出令別表・外為令別表と貨物等省令の条文・閾値に当てはめて行います。項目別対比表やパラメータシートの使い方は、項目別対比表の書き方ガイドも参照してください。
図面チェックの観点
| チェックポイント | 確認内容 |
|---|---|
| 性能スペック | 規制閾値を超える精度・速度・出力がないか |
| 材質・構成 | 規制対象となりうる素材・構成を指定していないか |
| 用途の読み取り | 設計から読み取れる用途と、取引先が述べる用途の整合 |
| 暗号・制御ソフト | 暗号化機能や制御プログラムが付随していないか |
| 公開範囲 | 公知情報のみか、未公開の設計情報を含むか |
「設計・製造・使用」の区別
| 区分 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 設計 | 製品を作るための設計情報 | 設計図面、CADデータ |
| 製造 | 製品を作るための製造ノウハウ | 製造手順書、工程表 |
| 使用 | 製品を使うための情報 | 操作マニュアル、保守手順 |
判定結果は、判定日・参照した省令・根拠数値・判定者・承認者をセットで残します。検査では「非該当と書いた理由」が問われます。書式のたたき台は該非判定テンプレート(2026年版)をそのまま使えます。
4. 海外拠点・クラウド・出張での注意点
海外子会社への図面送付
グループ会社であっても、国境を越える技術提供は管理対象です。
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| 図面の該非 | 規制技術に該当するか |
| 送付先国 | グループA国か、それ以外か |
| 受取人 | 非居住者・特定類型の確認 |
| 用途 | 契約・EUC上の用途と一致するか |
アクセス経路ごとの整理
| シナリオ | 実務上の見方 |
|---|---|
| 日本から図面をメール送付 | 技術提供に該当し得る |
| 日本サーバーの図面を海外からアクセス | 技術提供に該当し得る |
| 現地サーバーにコピーして参照 | 技術提供に該当し得る |
| 国内限定の権限管理 | リスクは下がるが、権限設定とログが必要 |
クラウドストレージ
| 状況 | 対応の方向 |
|---|---|
| 海外からのアクセスを許可 | 提供と評価される前提で判定・許可要否を検討 |
| アクセス権限を国内に限定 | 権限設定・ログ・定期棚卸しを文書化 |
| 規制技術を含む可能性 | 共有前に該非判定。必要なら許可申請 |
出張時の持ち出し
紙資料・ノートPC・USBいずれも、規制技術を含むなら管理対象です。出張前に持ち出しリストを作り、該非と許可要否を確認する運用が安全です。
5. 設計段階で規制閾値を意識する(デュアルユースの実務)
ここで扱うのは、特定企業の是非ではなく、両用品目・技術の制度上の線引きです。リスト掲載や性能閾値は規制上の区分であり、企業そのものの評価ではありません。
設計上よく使われる工夫
| アプローチ | 内容 |
|---|---|
| 性能の限定 | 規制閾値を超えない性能に設計する |
| 用途の特化 | 特定の民生用途に寄せた仕様にする |
| 機能の切り分け | 不要な高機能オプションを標準構成から外す |
| ソフト制限 | 特定用途以外では動作しない制御にする |
たとえば工作機械では、位置決め精度などの数値基準が該非を左右します。設計時に閾値を意識しておくと、後工程の判定負荷が下がります。ただし、設計上の工夫は取引審査の代替にはなりません。需要者・用途・キャッチオールの確認は別途必要です。
6. よくある抜けと対策
| パターン | 何が起きやすいか | 対策 |
|---|---|---|
| 図面の無意識な提供 | 仕様問い合わせに対し、判定なしで図面送付 | 提供前チェックリストを必須化 |
| 留学生・外国籍社員への開示 | みなし輸出の確認漏れ | 受入時の類型確認と研究テーマの該非 |
| 出張での口頭説明 | 口頭も提供に含まれる | 説明範囲を事前に確定し記録 |
| クラウド全社共有 | 海外権限が開いたまま | 権限棚卸しと国内限定ポリシー |
| 貨物のみ判定 | 添付技術資料の判定漏れ | 貨物と技術の二系統チェック |
7. 記録とツールで回す技術管理
技術管理の難しさは、件数の多さと証跡の散在にあります。メール、チャット、クラウド、口頭が同時に動くため、「誰が・いつ・何を・誰に」を後から追いにくいのです。
実務で最低限そろえたいものは次のとおりです。
- 技術の該非判定書(根拠付き)
- 提供先のスクリーニング/特定類型確認記録
- 提供履歴(媒体・日時・承認)
- 法令改正後の再判定ルール
TRAFEEDは、該非判定と取引先スクリーニングをAIで支援し、判定履歴を残すための輸出管理AIエージェントです。機能の全体像はTRAFEEDサービスカタログ(PDF)で確認できます。最終判断は必ず人が行います。AIは照合作業と記録の下支えです。
まとめ
- 図面・設計データ・口頭指導も技術提供として規制対象になり得る
- みなし輸出の運用明確化は令和4年5月1日から適用(特定類型を含む)
- 技術の該非は貨物と分けて実施し、根拠を残す
- 海外拠点送付・クラウド・出張はいずれも提供経路になり得る
- 設計段階の閾値意識は有効だが、取引審査は別途必須
まずは、よく送っている図面3件だけでも該非と提供先確認の記録を揃えてみてください。書式は該非判定テンプレートから始め、体制の棚卸しは無料診断、導入相談はお問い合わせ(TRAFEED)からどうぞ。






