こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。「ホワイト国」という言葉、2019年の日韓の輸出管理をめぐる報道で初めて目にした方が多いのではないでしょうか。あのとき「ホワイト国から除外」という見出しが連日流れましたが、実はこの言葉、法令のどこを探しても出てきません。正式には輸出貿易管理令の「別表第3に掲げる国」のことで、経済産業省は2019年8月から「グループA」という呼称に整理しています[^1]。
つまり対応関係はこうです。通称「ホワイト国」、法令上は「輸出令別表第3に掲げる国」、現在の実務上の呼称は「グループA」。三つとも同じものを指します。この記事では、輸出管理をこれから学ぶ方に向けて、国グループA・B・C・Dという地域区分の中身と、その区分が輸出許可の要否にどう効いてくるのかを、経産省とe-Gov、CISTECの一次情報だけを根拠に整理していきます。
「ホワイト国」の正体は輸出令別表第3の国
まず土台から押さえます。日本の輸出規制の親法は外為法、正式名称は外国為替及び外国貿易法です[^8]。この法律の下に輸出貿易管理令という政令(内閣が定める命令)があり、実務ではこれを「輸出令」と略します[^3]。何を規制するか、どこ向けなら許可が要るかといった具体的なルールは、この輸出令とその別表に書かれています。
輸出令にはいくつかの別表がついていて、そのうち別表第3が「輸出管理を厳格に実施している国」のリストです。経産省のガイダンスでは、グループAを「各国際輸出管理レジームに参加し、輸出管理を厳格に実施している国」と整理しています[^4]。国際輸出管理レジームというのは、大量破壊兵器や通常兵器の拡散を防ぐために各国が参加している国際的な枠組みのことです。ここに載っている国は、日本と同じ水準で輸出管理をやってくれる信頼できる相手として扱われ、後で説明するとおり規制が一段軽くなります。この別表第3の国々を、実務の現場で長らく「ホワイト国」と呼んできました。
では「ホワイト国」であることの実質的な意味は何か。CISTEC(安全保障貿易情報センター。輸出管理の実務情報を発信する機関です[^10])は2019年の解説で、日本のホワイト国とは「大量破壊兵器関連及び通常兵器関連のキャッチオール規制の適用を免除する国」だと端的に定義しています[^5]。キャッチオール規制については後の章で丁寧に説明しますが、この一文が本質です。ホワイト国かどうかは、輸出の可否そのものではなく、規制の網のかかり方を左右する区分なのです。
呼称の変更についても触れておきます。経産省は2019年8月2日、輸出令改正の閣議決定に合わせて国別カテゴリーの呼び方を見直し、ホワイト国に相当する区分を「グループA」としました。ここで大事なのは、この名称見直しはあくまで実務上の呼称の整理であって、法令上の扱いに変更はないと経産省自身が明記している点です[^1]。名前が変わったから制度が変わった、わけではありません。
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国グループA・B・C・Dの違い
2019年の呼称見直しで、経産省は国・地域をA・B・C・Dの4グループに再分類しました。定義は経産省の発表原文でこう整理されています[^2]。
| グループ | 定義 | 法令上の根拠 | 該当国・地域の例 |
|---|---|---|---|
| グループA | 輸出令別表第3に掲げる国・地域(旧ホワイト国) | 輸出令別表第3 | アメリカ、英国、ドイツ、フランス、韓国など27か国 |
| グループB | 国際輸出管理レジームに参加し一定の要件を満たす国・地域(グループAを除く) | 包括許可取扱要領等の運用通達 | 経産省の包括許可取扱要領で要確認 |
| グループC | A・B・Dのいずれにも該当しない国・地域 | 上記の残余 | A・B・D以外のすべて |
| グループD | 輸出令別表第3の2または別表第4に掲げる国・地域 | 輸出令別表第3の2・別表第4 | 北朝鮮、イラン、イラクなど |
順に中身を見ます。グループAは現行の別表第3に掲げる27か国です。具体的には、アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、大韓民国、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆国[^3]。欧州の国が多く、アジアでは韓国だけが入っています。なお、ネットの解説記事には「グループAは26か国」と書いてあるものが今も残っていますが、それは韓国が除外されていた2019年8月から2023年7月までの話です。現行条文では27か国。この食い違い自体が、後で説明する「区分は動く」という教訓のいい実例だと思います。
グループDは反対側の端で、輸出令別表第3の2または別表第4に掲げる国・地域です。別表第3の2は国連武器禁輸国・地域のリストで、アフガニスタン、中央アフリカ、コンゴ民主共和国、イラク、レバノン、リビア、北朝鮮、ソマリア、南スーダン、スーダンの10か国・地域。別表第4はイラン、イラク、北朝鮮の3か国です[^3]。イラクと北朝鮮が両方の表に載っていることからわかるとおり、二つの表は目的が違う別々のリストで、どちらかに載っていればグループDに入ります。
グループBは「国際輸出管理レジームに参加し、一定の要件を満たす国・地域。ただしグループAを除く」という定義です[^2]。レジームには参加しているけれど別表第3には載っていない、AとCの中間的な位置づけと考えるとイメージしやすいでしょう。2019年の改正で韓国が別表第3から削除された際、韓国はこのグループBに分類されました[^2]。ひとつ正直に書いておくと、グループBに具体的にどの国が該当するかの網羅リストは、経産省の包括許可取扱要領という運用通達の別表で定められており、この記事では個別の国名を断定しません。実務で必要になったら、経産省の最新の告示・通達の原文で確認してください[^9]。二次情報の一覧記事を鵜呑みにしないほうがいい領域です。
残るグループCは、A・B・Dのどれにも当てはまらない国・地域です。世界の大半の国はここに入ります。定義上の残余カテゴリーなので、固有のリストは存在しません。
グループAなら何が変わるのか。まずキャッチオール規制
区分の中身がわかったところで、本題の「だから何が変わるのか」に入ります。効いてくる場面は大きく二つあって、一つ目がキャッチオール規制です。
日本の輸出規制は二本立てで考えると理解しやすいです。一つはリスト規制。規制対象の品目リストに載っている貨物や技術は、仕向地がどこであれ経産大臣の許可が必要になる、品目ベースの規制です。リストの読み方は輸出令別表第1の読み方ガイドで詳しく解説しています。もう一つがキャッチオール規制で、こちらはリストに載っていない品目でも、大量破壊兵器の開発などに使われる懸念がある場合には許可が必要になる、用途と相手ベースの補完的な規制です。網(リスト)から漏れたものをすべて(オール)捕まえる(キャッチ)、という名前のとおりの仕組みです。
このキャッチオール規制の条文上の根拠が、輸出令別表第1の16の項です。そしてその仕向地欄には「全地域(別表第三に掲げる地域を除く。)」と書かれています[^3]。カッコ書きに注目してください。別表第3の国、つまりグループAは、キャッチオール規制の対象地域から最初から除かれているのです。経産省のガイダンスも、リスト規制に該当しない貨物でも仕向地がグループAであればキャッチオール上の規制対象外になる、と整理しています[^4]。冒頭で紹介したCISTECの「キャッチオール規制の適用を免除する国」という定義は、この条文構造を指しています。
では、グループA以外に輸出するときは何を見るのか。輸出令第4条は、用途要件・需要者要件・インフォーム要件のいずれにも該当しない場合には許可が不要であることを定めています[^3]。ざっくり言えば、用途要件は輸出しようとする品目が懸念用途に使われるおそれがわかった場合、需要者要件は買い手側に懸念がある場合、インフォーム要件は経産大臣から「これは許可申請が必要です」と個別に通知を受けた場合、と考えてください。厳密な要件の書きぶりは条文とガイダンスにあたってほしいのですが、発想としては「モノが安全でも、使い道と相手次第で許可が要る」という規制です。
対象地域の濃淡も整理しておきます。経産省のガイダンスによれば、大量破壊兵器キャッチオールの対象はグループAを除く全地域で、インフォーム要件に加えて用途要件・需要者要件による確認が求められます。通常兵器キャッチオールは、国連武器禁輸国・地域(別表第3の2の10か国・地域)向けがインフォーム要件と用途要件、それ以外の一般国向けはインフォーム要件のみ、という設計です[^4]。仕向地がどのグループかで、確認すべき項目の重さが段階的に変わる。これが地域区分の一つ目の実務的な意味です。キャッチオール規制そのものの詳しい仕組みはリスト規制とキャッチオール規制の違いの解説にまとめているので、あわせて読んでみてください。
二つ目の意味。包括許可が使えるかどうか
グループAであることのもう一つの意味が、包括許可です。輸出許可には、取引ごとに一件ずつ申請する個別許可と、一定の範囲の品目・仕向地についてまとめて事前に受けておける包括許可があります。毎週のように同じ製品を同じ国へ出荷する企業にとって、一件ごとの個別申請は現実的ではないので、包括許可が実務の生命線になります。個別許可と包括許可の使い分けは輸出許可の個別と包括の違いの記事で詳しく書きました。
経産省のガイダンスによれば、包括許可には5つの種類があります。一般包括許可、特別一般包括許可、特定包括許可、特別返品等包括許可、特定子会社包括許可です[^4]。このうち地域区分と直結するのが最初の二つ。一般包括許可は、機微度が比較的低い品目について、輸出令別表第3の地域、つまりグループA向けに限って包括的に許可する制度です。実務で「ホワイト包括」と呼ばれてきたのはこれです。一方の特別一般包括許可(特一包括)は、別表第3以外の地域向けも含む代わりに、より厳格な自主管理を行う輸出者に付与されます[^4]。使い勝手のいい一般包括はグループA向け限定、それ以外の地域には管理体制の裏付けを条件にした特一包括で、という階段構造になっているわけです。
こうして見ると、グループAという区分の実務的な価値がはっきりします。キャッチオール規制の対象外で、かつ一般包括許可が使える。輸出者から見れば、確認の手数と許可申請の手間が両方軽くなる仕向地です。逆に言えば、自社の輸出先がどのグループに属するかを取り違えると、必要な確認を飛ばしてしまうか、不要な手続きに時間を溶かすか、どちらかの事故につながります。
ここは私たちの仕事の話を少しだけ。仕向地のグループ確認、該非判定、取引先の懸念確認といった作業は、一つひとつは単純でも、件数が積み上がると担当者の負荷が急速に膨らみます。弊社が提供している輸出管理AIエージェントTRAFEEDは、経産省基準に準拠してこの一連の確認を支援する道具で、AI判定精度は95%以上(岡山大学との共同実証、自社調べ)、各国法規の改正を当日反映し、取引の懸念度を5秒で可視化します。すでに20組織以上で導入が決定していますが(トライアル含む・自社調べ)、最終的な該非判定は貴社の輸出管理責任者が行う、という原則は変わりません。AIは判断の材料を速く正確に揃える係だと考えています。
韓国の除外と復帰が教えてくれること
最後に、この地域区分が実際に動いた唯一の大きな事例を見ておきます。2019年から2023年の韓国です。時系列で追うと、制度の動き方がよくわかります。
経産省は2019年7月1日に韓国向け輸出管理の運用見直しを発表し、7月4日以降、フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の3品目を個別許可の対象にしました[^7]。続いて8月2日に輸出令改正が閣議決定され、8月7日公布、8月28日施行で、別表第3から大韓民国が削除されます[^1]。これにより韓国向け輸出は一般包括許可が使えなくなり、キャッチオール規制の対象になりました。
このとき報道やSNSでは「韓国向けの輸出はすべて個別許可になる」という説明が飛び交いましたが、これは誤解です。経産省のプレスリリースは、特別一般包括許可は従前どおり適用可能と明記していますし[^1]、CISTECも、ホワイト国から外れて使えなくなる包括許可は一般包括許可(ホワイト包括)のみで、特別一般包括許可・特定包括許可は引き続き利用可能であり「全件が個別許可になる」という見方は誤解だ、と明示的に否定しています[^5]。グループAから外れることの効果は、規制の全面強化ではなく、一般包括という一番緩い経路が閉じてキャッチオールの網がかかること。ここを正確に理解しているかどうかが、この分野の解説の信頼度を測るリトマス試験紙だと私は思っています。
その後、2023年3月23日の通達改正で3品目への特別一般包括許可の適用が再開され、日韓の輸出管理政策対話を経て[^7]、2023年6月27日の閣議決定、6月30日公布、7月21日施行の政令改正で、韓国は別表第3に復帰しました。一般包括許可が再び使えるようになり、キャッチオール規制の対象からも外れています[^6]。除外から復帰まで、およそ4年です。
この一連の経緯から引き出せる教訓は二つあります。一つは、ホワイト国、グループAという区分は固定リストではなく、政令改正で動くということ。だからこそ、社内資料やWeb記事の「グループA一覧」を信じて止まるのではなく、e-Gov法令検索の現行条文[^3]や経産省の安全保障貿易管理のページ[^9]で最新の状態を確認する習慣が要ります。この記事に書いた27か国という数字も、公開時点の現行条文に基づくもので、将来の改正で変わる可能性は当然あります。もう一つは、ホワイト国制度は韓国のためだけの仕組みではないということです。別表第3は運用の歴史を持つ汎用的な国別区分であり、2019年の出来事はそこからの個別の削除にすぎません。制度の全体像を先に持っておくと、次にどこかの国の扱いが動いたときも、ニュースの見出しに振り回されずに実務への影響を見積もれるはずです。
仕向地のグループ確認から該非判定まで、輸出管理の実務を体系的に立て直したい方は、個別相談でお声がけください。貴社の取引実態に合わせて、確認フローのどこを仕組み化できるか一緒に整理します。区分は動く、だからこそ確認の仕組みを持つ。この記事で覚えて帰っていただくのは、その一点で十分です。
参考
[^1]: 輸出貿易管理令の一部を改正する政令が閣議決定されました — 経済産業省 — 2019年8月2日 [^2]: Cabinet Decision on the Bill for the Partial Amendment of the Export Trade Control Order(New Country Categories for Security Export Control) — 経済産業省(METI) — 2019年8月2日 [^3]: 輸出貿易管理令(昭和24年政令第378号)別表第3・別表第3の2・別表第4・第4条・別表第1の16の項 — e-Gov法令検索(デジタル庁) — 2026年7月7日取得(現行条文) [^4]: 安全保障貿易管理ガイダンス[入門編] — 経済産業省 — 第3.0版(2026年3月更新) [^5]: 韓国向け輸出管理の運用の見直しに関連する日本の制度運用についての基礎的解説 — CISTEC(安全保障貿易情報センター) — 2019年8月2日 [^6]: 輸出貿易管理令の一部を改正する政令が閣議決定されました — 経済産業省 — 2023年6月27日 [^7]: 韓国向け輸出管理の運用の見直し(経緯まとめページ) — 経済産業省 — 2023年8月4日最終更新 [^8]: 外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号) — e-Gov法令検索(デジタル庁) — 現行条文 [^9]: 安全保障貿易管理(トップページ) — 経済産業省 [^10]: CISTEC 安全保障貿易情報センター(公式サイト) — CISTEC
