動植物検疫と輸出入|植物防疫法・家畜伝染病予防法・狂犬病予防法の手続きを整理

TIMEWELL編集部2026-07-19
動植物検疫と輸出入|植物防疫法・家畜伝染病予防法・狂犬病予防法の手続きを整理

輸出管理の相談を受けていると、外為法や輸出令の該非判定はきちんと押さえているのに、農産物や食品、ペットを海外とやりとりする段になって「これは検疫が要るのか」と手が止まる場面によく出会います。動植物検疫は税関の通関とは別の手続きで、しかも植物と動物で窓口が分かれています。ここを知らずに空港や港へ持ち込むと、証明書が足りずに引き返すことになりかねません。

この記事では、日本の輸出入で関係する動植物検疫を、植物防疫法・家畜伝染病予防法・狂犬病予防法の3つの法律と、植物防疫所・動物検疫所の2つの実務機関に整理して解説します。条文番号と施行日を添えながら、輸入の届出から輸出の証明書、犬猫の連れ帰り、税関との関係までを一通りたどれる構成にしました。

3つの法律と2つの検疫機関 早見表

まず全体像です。輸出入で関わる動植物検疫は、対象が「植物か、動物か、ペット(狂犬病)か」で法律が分かれ、それぞれ担当する農林水産省の出先機関も決まっています。

項目 植物防疫法 家畜伝染病予防法 狂犬病予防法
根拠法 昭和25年法律第151号 昭和26年法律第166号 昭和25年法律第247号
所管の実務機関 植物防疫所(植物防疫官) 動物検疫所(家畜防疫官) 動物検疫所(家畜防疫官)
主な対象 植物(苗・種子・果物・木材等)、有害動植物 指定検疫物(偶蹄類・馬・家きん・うさぎ・みつばち等と畜産物) 犬・猫・あらいぐま・きつね・スカンク
輸入時の証明書 輸出国政府発行の検査証明書(第6条) 輸出国政府機関発行の検査証明書(第37条) 輸出国政府機関発行の証明書+マイクロチップ・抗体検査
輸入時の手続 遅滞なく届出し植物防疫所の検査(第8条) 動物検疫所で検査し輸入検疫証明書(第40条) 40日前までに事前届出し係留検査(第7条)
輸出時の手続 植物防疫官の検査で植物検疫証明書(第10条) 動物検疫所の輸出検査で証明書(第44条) 出国前検査で輸出検疫証明書
税関との関係 関税法70条の他法令として税関が確認 同左 同左

植物のことは植物防疫所、生きた動物も肉やチーズなどの畜産物も動物検疫所、と覚えておくと迷いにくくなります。自社の取引全体に他法令の抜けがないか先に確かめたい方は、輸出管理コンプライアンス診断を回してみてください。3分ほどで弱点に当たりがつきます。

植物の検疫(植物防疫法)

植物防疫法(昭和25年法律第151号)第1条は、輸出入される植物と国内の植物を検疫し、有害動植物を駆除・まん延防止することで農業生産の安全と振興をはかることを目的にしています。実務を担うのは横浜などに置かれた植物防疫所の植物防疫官です。

輸入の流れは条文で組み立てられています。第6条は輸入の制限で、原則として輸出国政府機関が発行した検査証明書、いわゆる Phytosanitary Certificate の添付を求めます。第7条は輸入の禁止で、禁止地域からの植物や検疫有害動植物、土などを対象にしています。ただし試験研究などの用途で農林水産大臣の許可を受けた場合は例外です。輸入した植物は第8条により、遅滞なくその旨を植物防疫所に届け出て、植物防疫官の検査を受けなければなりません。この届出と受検を飛ばして通関に進むことはできません。

対象になる植物は思いのほか広く、苗・穂木・球根・種子といった栽培用の植物から、野菜・果物・切り花・木材・穀類・豆類などの消費用の植物、さらに植物に有害な生きた昆虫や微生物まで含まれます。品目と産地の組み合わせによって、輸入禁止、輸出国での栽培地検査、輸出前の措置、日本での輸入検査など、課される条件が変わります。生の果実のように、産地次第で入れられるものと入れられないものがはっきり分かれる品目もあります。

輸出の側は第10条です。輸入国が検査証明を要求する植物などは、植物防疫官の検査を受けて植物検疫証明書の交付を受けた後でなければ輸出できません。申請は「植物等輸出検査申請書」を植物防疫所へ提出して行い、NACCSの植物検疫関連業務、通称APSによる電子申請にも対応しています。相手国が求める条件は、輸入禁止、輸入許可制、証明書対応、消毒措置、栽培地検査、精密検査、条件付きなど多岐にわたるため、輸出先が決まった時点で早めに確認しておくのが安全です。

ここ数年で運用が一つ変わりました。植物防疫法の一部を改正する法律(令和4年法律第36号)が令和4年5月2日に公布され、令和5年4月1日に施行されています。施行期日は令和4年政令第292号で定められました。この改正により、従来は植物防疫所だけが行っていた輸出植物などの検査の一部を、農林水産大臣の登録を受けた登録検査機関でも実施できるようになりました。輸出のボトルネックだった検査の受け皿が増えた、という理解でよいでしょう。登録検査機関で受けられる検査の具体的な範囲は農林水産省の該当ページで確認してください。

動物・畜産物の検疫(家畜伝染病予防法)

家畜伝染病予防法(昭和26年法律第166号)第1条は、家畜の伝染性疾病の発生予防とまん延防止によって畜産の振興をはかることを目的としています。輸出入にかかわる規定は第4章「輸出入検疫」に置かれ、第36条から第46条の4までが対象です。実務を担うのは動物検疫所で、横浜の本所に加えて全国に支所8か所と出張所18か所を構えています。担当する職員は家畜防疫官です。

この法律で必ず押さえたいのが「指定検疫物」という考え方です。第37条と同法施行規則第45条で範囲が定められており、伝染病を広げるおそれが高い動物と畜産物が一括りに指定されています。具体的には、牛や豚などの偶蹄類動物と馬、鶏・うずら・きじ・だちょう・ほろほろ鳥・七面鳥といった家きん、あひるやがちょうなどのかも類、犬、うさぎ、みつばち、そしてこれらの動物の死体や卵が含まれます。動物そのものだけではありません。骨・歯牙・肉・脂肪・血液・皮・毛・角・臓器といった畜産物、生乳・乳製品・精液・受精卵・ふん尿など、肉骨粉のような粉製品、ソーセージ・ハム・ベーコンといった加工品まで、幅広く指定検疫物に入ります。動物検疫所は生きた動物だけを見ているのではない、という点はここでつまずきやすいところです。

指定検疫物を輸入する場合は、原則として輸出国政府機関が発行した検査証明書の添付が必要です。そのうえで、指定された港や空港で動物検疫所の検査を受け、輸入検疫証明書の交付を受けます。この一連の流れは第40条の輸入検査に基づきます。海外みやげのハムやチーズが持ち込めないという話は、この仕組みから来ています。輸出については第44条の輸出検査があり、相手国が動物検疫証明書を求める品目は、動物検疫所の検査を受けて証明書の交付を受けてから輸出します。

ペット(犬・猫)と狂犬病予防法

犬や猫を海外から連れて帰る、あるいは海外へ連れて行く場面で登場するのが狂犬病予防法(昭和25年法律第247号)です。第1条は、狂犬病の発生予防・まん延防止・撲滅により公衆衛生の向上と公共の福祉の増進をはかることを目的にしています。輸出入検疫は第7条が規定しています。対象は犬に限りません。政令で定める動物として猫・あらいぐま・きつね・スカンクが加えられており、いずれも狂犬病を人に感染させるおそれが高い動物です。この拡大は、犬等の輸出入検疫規則(平成11年農林水産省令第68号、1999年10月1日制定、2000年1月1日施行)によるものです。

指定地域以外から犬や猫を日本へ輸入する場合の要件は、順序が決まっているところが厄介です。手順を整理すると次のようになります。

  1. 日本到着予定日の40日前までに、到着予定の動物検疫所へ事前届出を行う
  2. ISO 11784/11785に準拠したマイクロチップを装着する
  3. 生後91日齢以降に、不活化ワクチンまたは組換え型の狂犬病予防注射を2回以上受けさせる
  4. 狂犬病抗体検査で抗体価0.5IU/ml以上を確認する(有効期間は採血日から2年間)
  5. 抗体検査の採血日を0日目として、日本到着まで180日間以上待機する

この順序を守り、条件をすべて満たしていれば、到着時の係留検査は最短12時間以内で終わります。逆に、どれか一つでも不備があると最長180日間の係留になります。係留は必ず180日、という誤解をときどき聞きますが、180日はあくまで条件不備のときの最長です。順序が前後すると待機期間の起算がやり直しになるので、実際には出国の7か月以上前から逆算して準備を始める必要があります。

手続きが緩和される「指定地域」も知っておくと役に立ちます。狂犬病の清浄地域として指定されているのは、現在アイスランド、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー諸島、ハワイ、グアムの6地域です。これらからの輸入では手続きが軽くなります。指定地域は農林水産大臣の判断で追加も削除もされ得るもので、過去には英国・アイルランド・スウェーデンが2012年1月1日に、ノルウェーが一部を除いて2012年1月20日に、台湾が2013年7月25日に指定から外れています。最新の状況は動物検疫所の公式情報で確かめてください。

税関との関係(関税法70条の他法令確認)

ここまで見てきた検疫は、税関の通関とは別の手続きです。それでも両者はつながっています。橋渡しをしているのが関税法(昭和29年法律第61号)第70条の「証明又は確認」です。この条文は、輸入や輸出にあたって他の法令で許可・承認・検査の完了などが必要な場合、その手続きを了した旨を税関に証明または確認を受けなければ、輸入や輸出の許可は下りない、と定めています。植物防疫法・家畜伝染病予防法・狂犬病予防法の検査や証明書は、まさにこの他法令の枠組みのなかで税関に確認されます。

順番でいえば、検疫の合格と証明書の取得が先で、通関はその後です。検疫が済んでいないものは税関を通れません。逆に、税関を通ったから検疫もクリアしている、というのは成り立ちません。主体が農林水産省と財務省で分かれているぶん、片方だけ見て安心してしまう事故が起こりがちです。輸出入で確認すべき他法令は動植物検疫だけではないので、全体像は貿易に関わる他法令チェックリストで押さえておくと、抜けを防ぎやすくなります。

よくある誤解とつまずきポイント

現場でよく見かける思い込みを、正しい理解とあわせて並べておきます。

個人利用や少量なら検疫は不要、という誤解は根強いものです。実際には、郵送でも手荷物でも少量でも、植物・畜産物・ペットは検疫の対象で、多くは輸入禁止や制限がかかります。金額や数量の小ささが免除の理由にはなりません。

税関を通れば検疫もクリアしている、という思い込みも危険です。前の章のとおり、検疫は農林水産省、通関は税関と主体が別で、検疫の合格が通関許可の前提です。

検疫証明書は日本側が発行する、という誤解もあります。輸入時に必要な検査証明書は、原則として輸出国の政府機関が発行するものです。日本の検疫機関が交付するのは、主に輸出時の証明書だと整理してください。

狂犬病予防法はペットの話で輸出入管理とは無関係、というのも正しくありません。犬や猫などの輸出入検疫は、狂犬病予防法第7条と犬等の輸出入検疫規則に基づく正式な検疫制度です。どの国からでも犬猫は同じ条件、というわけでもなく、指定地域6か所とそれ以外で手続きも係留期間も大きく変わります。

動物検疫所は生きた動物だけを扱う、という理解も実態とずれています。肉・ハム・チーズなどの畜産物、つまり指定検疫物も動物検疫所の管轄で、植物防疫所とは別の窓口です。

よくある質問

動植物検疫と税関の検査は別物ですか。どちらを先に受けますか。

別の手続きです。動植物検疫は農林水産省の植物防疫所と動物検疫所が行い、税関の通関とは主体が異なります。関税法第70条により、植物防疫法・家畜伝染病予防法・狂犬病予防法などの他法令で検査や許可が必要なものは、その手続きを了した旨を税関に示さなければ輸入や輸出の許可が下りません。実務では検疫の合格と証明書取得が通関の前提になります。

海外の家族に果物や肉製品を送ってもらうのも検疫の対象になりますか。

対象になります。営業目的の輸入だけでなく、郵便物や手荷物であっても、植物なら植物防疫法、肉製品などの畜産物なら家畜伝染病予防法の検疫対象です。多くの国の生の果実や肉製品は輸入が禁止または制限されており、証明書がなければ持ち込めません。仕向国と品目ごとの条件を、植物防疫所や動物検疫所の情報で事前に確認してください。

犬や猫を海外から連れて帰るには、どのくらい前から準備が必要ですか。

指定地域以外からの場合、日本到着の40日前までに動物検疫所への事前届出が必要です。さらにマイクロチップ装着、狂犬病予防注射2回、抗体検査で0.5IU/ml以上、採血日から180日間以上の待機という順序があるため、実際には出国の7か月以上前から準備を始める必要があります。条件を満たせば到着時の係留は最短12時間以内で済みます。

指定検疫物とは何ですか。どんな品目が該当しますか。

家畜伝染病予防法第37条と同法施行規則第45条で定める、伝染病を広げるおそれが高い動物と畜産物です。牛や豚などの偶蹄類、馬、鶏などの家きん、うさぎ、みつばちといった生きた動物とその卵に加え、肉・骨・皮・毛・臓器、生乳・乳製品、精液・受精卵、肉骨粉、ソーセージやハムなどの加工品まで幅広く含まれます。輸入には原則、輸出国政府機関の検査証明書と動物検疫所の検査が必要です。

輸出のときも検疫は必要ですか。

必要になる場合があります。相手国が植物検疫証明書や動物検疫証明書を求める品目は、輸出前に植物防疫所や動物検疫所で検査を受け、証明書の交付を受けてから輸出します。植物については令和5年4月1日施行の改正植物防疫法により、農林水産大臣の登録を受けた登録検査機関でも輸出検査の一部を受けられるようになりました。相手国の条件は国と品目ごとに異なるため事前確認が欠かせません。

輸出入の他法令管理をどう回すか

動植物検疫は、輸出入で確認すべき他法令の一つにすぎません。実務ではこれと並行して、外為法・輸出令にもとづく該非判定という別の管理が走ります。品目が植物や食品なら検疫、貨物や技術ならリスト規制やキャッチオール、というように、一つの取引で複数の法令を同時に見なければならない場面は珍しくありません。担当者が一人で全部を抱えると、どこかで確認が抜けます。

該非判定の側の負荷は、仕組みで下げられます。TIMEWELLのTRAFEED(旧ZEROCK ExCHECK)は、輸出管理の該非判定を支援する輸出管理AIエージェントです。製品の仕様をもとに輸出令別表第1や貨物等省令の各条文との照合を支援し、判定の根拠とあわせて結果を提示します。経済産業省の基準に準拠し、多言語にも対応しています。検疫のような他法令の確認に人手を回すためにも、定型化できる該非判定は先に効率化しておくと、全体の抜けが減っていきます。

輸出入の管理体制をどう組めばよいか、自社の取引に即して相談したい方は輸出管理の個別相談をご利用ください。

まとめ

動植物検疫は、植物なら植物防疫法と植物防疫所、動物と畜産物なら家畜伝染病予防法と動物検疫所、犬猫などのペットなら狂犬病予防法と動物検疫所、という3法2機関の対応関係さえ頭に入れば、迷いは大きく減ります。次の一歩としては、自社が扱う品目やこれから運ぼうとしているものが、どの法律の対象に当たるかを一度棚卸ししてみることを勧めます。輸入なら証明書の発行元は輸出国側、輸出なら日本側の検疫機関で証明書を取る、この向きを間違えないこと。そして検疫の合格が通関の前提だという順序を崩さないこと。ペットは出国の7か月以上前から逆算する。この3点を押さえておけば、空港や港で足止めを食う事態はかなり防げます。品目別や国別の細かい条件は改正で動くので、最後は必ず植物防疫所・動物検疫所の最新情報にあたってください。

参考文献(一次情報)