こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。「関税さえ払えば輸入できると思っていたら、税関で貨物が止まった」。輸出入の相談で、これに近い話を何度も聞いてきました。止まった原因の多くは、関税ではなく「他法令(たほうれい)」の確認漏れです。食品を輸入するなら食品衛生法、植物なら植物防疫法、中古車を輸出するなら道路運送車両法。関税とは別に、これらの許可や検査を受けている証明が税関で求められます。証明できなければ、いくら関税を納めても税関は輸出入を許可しません。今回はこの他法令について、根拠となる条文と税関が公開する一覧表をもとに、初めて貿易実務に触れる方でも自分の貨物をチェックできるところまで整理します。まず自社の取り扱い品目に他法令が絡みそうか気になった方は、輸出コンプライアンス診断で論点の当たりをつけてから読み進めると理解が早いはずです。
「他法令」とは何か。関税法70条が税関の許可と結びつく仕組み
他法令とは、関税関係以外の法令のうち、輸出または輸入に関して許可・承認等を定めているものを指します[^1]。食品衛生法や植物防疫法、薬機法、そして安全保障輸出管理で知られる外為法まで、所管する省庁もバラバラな法律の集まりです。これらがなぜ税関の窓口で一括して確認されるのか。その答えが関税法第70条(証明又は確認)にあります。
70条は3つの項で組み立てられています[^3]。1項は、他法令の規定で輸出入に「許可・承認等」を要する貨物について、輸出申告や輸入申告の際にその許可等を受けている旨を税関に証明しなければならない、と定めています。2項は、他法令で「検査又は条件の具備」を要する貨物について、税関の審査(67条の検査等)の際にその検査の完了や条件の具備を証明し、税関の確認を受けなければならない、という規定です。そして3項が実務上いちばん効いてきます。1項の証明がされないか、2項の確認を受けられない貨物は、税関が輸出も輸入も許可しない、と明記されているのです。
ここが誤解されやすいところですが、税関そのものが食品や医薬品の許可を出しているわけではありません。許可や承認を出すのは各主管省庁で、税関はその許可等が「ちゃんと取れているか」を出入国の関所でまとめて確認している、という役割分担です。運用上の根拠通達も分かれていて、輸入は関税法基本通達70-3-1、輸出は70-1-1が取り扱いを定めています[^1][^2]。関税の計算とは全く別の話として、品目ごとにこの他法令の網がかかっていると考えてください。
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【チェックリスト】税関が確認する輸出入の他法令一覧
では、具体的にどの法律が他法令なのか。税関は輸入と輸出でそれぞれ一覧表を公開しています。輸入関係他法令一覧表(令和7年6月現在)には30件[^1]、輸出関係他法令一覧表(令和8年4月現在)には11件が掲載されています[^2]。数の差は、輸入のほうが検疫や食品安全など国内に持ち込ませない規制が多いためです。逆に文化財保護法(重要文化財などの海外流出防止)と道路運送車両法(中古自動車)は輸出側にしか出てきません。主なものを、対象品目の例と主管省庁、輸出入の別で一覧にしました。
| 法令名 | 主な対象品目(例) | 主管省庁 | 輸入 | 輸出 |
|---|---|---|---|---|
| 外国為替及び外国貿易法(輸入・輸出貿易管理令) | IQ品目、制裁対象貨物、ワシントン条約該当品、武器・化学兵器等 | 経済産業省 | ○ | ○ |
| 麻薬及び向精神薬取締法 | 麻薬・向精神薬・大麻・麻薬等原料 | 厚生労働省 | ○ | ○ |
| あへん法 | あへん、けしがら | 厚生労働省 | ○ | ○ |
| 覚醒剤取締法 | 覚醒剤、覚醒剤原料 | 厚生労働省 | ○ | ○ |
| 大麻草の栽培の規制に関する法律 | 大麻草の種子 | 厚生労働省 | ○ | — |
| 毒物及び劇物取締法 | 毒物、劇物 | 厚生労働省 | ○ | — |
| 火薬類取締法 | 火薬、爆薬、火工品 | 経済産業省 | ○ | — |
| 高圧ガス保安法 | 高圧ガス | 経済産業省 | ○ | — |
| 銃砲刀剣類所持等取締法 | 拳銃、猟銃、刀剣類等 | 警察庁 | ○ | — |
| 食品衛生法 | 飲食物、添加物、器具・容器包装、おもちゃ等 | 厚生労働省 | ○ | — |
| 医薬品医療機器等法(薬機法) | 医薬品・医療機器・化粧品・動物用医薬品等 | 厚生労働省・農林水産省 | ○ | — |
| 植物防疫法 | 植物、有害動植物、中古農業機械等 | 農林水産省 | ○ | ○ |
| 家畜伝染病予防法 | 偶蹄類動物、家きん、肉・ハム・ソーセージ等 | 農林水産省 | ○ | ○ |
| 狂犬病予防法 | 犬・猫・あらいぐま・きつね・スカンク | 農林水産省 | ○ | ○ |
| 感染症法 | サル、プレーリードッグ等 | 厚生労働省・農林水産省 | ○ | — |
| 農薬取締法 | 農薬 | 農林水産省 | ○ | — |
| 肥料の品質の確保等に関する法律 | 肥料 | 農林水産省 | ○ | — |
| 主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律 | 米・麦等 | 農林水産省 | ○ | — |
| 砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律 | 砂糖、でん粉 | 農林水産省 | ○ | — |
| 畜産経営の安定に関する法律 | バター、脱脂粉乳、練乳等 | 農林水産省 | ○ | — |
| 水産資源保護法 | こい・きんぎょ・さけ科の発眼卵及び稚魚等 | 農林水産省 | ○ | — |
| 化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律) | 化学物質 | 経済産業省 | ○ | — |
| 石油の備蓄の確保等に関する法律 | 石油、揮発油、灯油、軽油 | 経済産業省 | ○ | — |
| アルコール事業法 | アルコール分90度以上のアルコール | 経済産業省 | ○ | — |
| 労働安全衛生法 | 有害物等(石綿等) | 厚生労働省 | ○ | — |
| 鳥獣保護管理法 | 鳥獣及びその加工品、鳥類の卵(野生動物) | 環境省 | ○ | ○ |
| 特定外来生物法(外来生物法) | ブラックバス、カミツキガメ等 | 環境省 | ○ | — |
| 水産流通適正化法 | 輸入はさば・さんま・まいわし・いか、輸出はうなぎ稚魚・あわび・なまこ・くろまぐろ | 水産庁 | ○ | ○ |
| 文化財保護法 | 重要文化財・重要美術品・天然記念物等 | 文化庁 | — | ○ |
| 道路運送車両法 | 中古自動車 | 国土交通省 | — | ○ |
| 印紙等模造取締法 | 印紙に紛らわしい外観のもの | 国税庁 | ○ | — |
| 郵便切手類模造等取締法 | 郵便切手類に紛らわしい外観のもの | 総務省 | ○ | — |
出典は税関カスタムスアンサー1801「輸入関係他法令一覧表(令和7年6月現在)」[^1]と5501「輸出関係他法令一覧表(令和8年4月現在)」[^2]です。ここで強調しておきたいのは、この一覧は固定ではないという点です。法改正のたびに掲載法令や対象品目、担当課の名称が更新されます。実務で使うときは、必ず公開時点の最新版を税関サイトで取り直してください。表を暗記するのではなく、「自社の品目がこのどれかに触れそうか」を見る地図として使うのが正しい向き合い方です。
混同注意。他法令と「輸出入してはならない貨物」(禁制品)の違い
他法令とよく混同されるのが、関税法69条の2(輸出してはならない貨物)と69条の11(輸入してはならない貨物)です[^3]。名前が似ているので同じ枠と思われがちですが、性質はまったく違います。69条の11に並ぶのは、麻薬・大麻・あへん・覚醒剤・あへん吸煙具、指定薬物、拳銃などの銃砲、爆発物、火薬類、化学兵器の特定物質、一種・二種病原体等、貨幣や有価証券の偽造・模造品、公安風俗を害する物品、児童ポルノ、そして知的財産を侵害する物品といった、そもそも持ち込みや持ち出しが禁じられている禁制品です。
違いを一言でいえば、禁制品(69条の2・69条の11)は「そもそも通さない」もの、他法令(70条)は「許可・承認等を受ければ通せる」ものです。前者は原則アウト、後者は手続きを踏めばセーフ、という発想の差があります。もっとも、麻薬や覚醒剤のように両方の条文に顔を出す品目もあり、線引きは見た目ほど単純ではありません。禁制品の全体像は税関で止まる輸入禁止品目の一覧で個別に整理しているので、あわせて確認すると混乱が減ります。少なくとも、根拠条文が70条なのか69条系なのかで、取るべきアクションが「主管省庁で許可を取る」なのか「そもそも扱わない」なのかに分かれる、という点は押さえておいてください。
分野別に見る主な他法令
一覧表だけでは手触りがつかみにくいので、現場で相談の多い分野から見ていきます。まず食品です。飲食物や食品添加物、食器や容器包装、乳幼児向けのおもちゃまで、口や体に触れるものは食品衛生法の対象になり、輸入時には検疫所への届出が必要です。次に多いのが動植物の検疫で、植物防疫法、家畜伝染病予防法、狂犬病予防法の3本柱が関わります。植物や種子、肉やハム、ソーセージ、犬や猫といった生き物は、病害虫や伝染病の侵入を防ぐために検査を受けます。この動植物検疫の実務は独特の流れがあるため、動植物検疫の基礎ガイドで手続きの全体像をつかんでおくと申告がスムーズです。
医薬品や化粧品、医療機器を輸入するなら薬機法、化学物質そのものを扱うなら化審法や毒物及び劇物取締法が関わります。ここで見落とされがちなのが外為法の広さです。外為法(外国為替及び外国貿易法)は、輸出貿易管理令と輸入貿易管理令という2つの政令を通じて運用され[^6][^7]、安全保障に関わる武器や化学兵器の関連品はもちろん、ワシントン条約(CITES)に該当する希少な動植物やその製品、制裁対象貨物の輸出入までカバーします。ワシントン条約の対象品は独立した法律があるわけではなく、外為法を通じて規制される点が分かりにくいところです。革製品や漢方、楽器などが思わぬ形で該当することがあるので、ワシントン条約(CITES)の対象品ガイドで自社の商材が引っかからないか確認しておくと安全です。輸出側に固有なのが文化財保護法(重要文化財や重要美術品などの海外流出防止、主管は文化庁)と道路運送車両法(中古自動車、主管は国土交通省)で、中古車の海外販売が伸びている今、後者の相談は年々増えています。
2024〜2026年の最新改正
他法令は毎年のように動きます。直近で特に注意したいのが大麻関連法です。かつての「大麻取締法」は2025年3月1日施行の改正で「大麻草の栽培の規制に関する法律」(昭和23年法律第124号)に改称されました[^5]。あわせて、2024年12月12日施行分で大麻そのものが麻薬及び向精神薬取締法の規制対象、つまり麻薬として位置づけられています。この結果、現行の税関の他法令一覧では、大麻草の種子は大麻草の栽培の規制に関する法律、麻薬や大麻草・大麻製品は麻薬及び向精神薬取締法、という形で区分されるようになりました[^1]。CBDなど大麻由来製品の輸入可否や成分基準は改正後の厚生労働省告示で変わり得るため、断定はできません。個別の可否は厚生労働省や地方厚生局麻薬取締部に確認してください。
もう一つの大きな動きが水産流通適正化法(特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律、令和2年法律第79号)です。2022年12月1日に施行され[^4]、密漁品の流通を防ぐために対象種の取引に届出や証明を求める仕組みです。当初は輸出側の特定第一種にあわびとなまこが指定され、輸入規制の対象となる特定第二種にはさば・さんま・まいわし・いかが並びました。その後、令和6年法律第66号による改正(2026年4月1日施行)で対象が拡大し、うなぎの稚魚(全長13cm以下、2025年12月から適用)や太平洋クロマグロの大型魚(30kg以上)も対象に加わっています。対象種ごと、そして国内流通か輸出か輸入かで適用の開始時期が段階的に分かれているので、正確な区分は水産庁の最新告示で最終確認するのが安全です。
なお、外国産の種苗の輸入について規定を持つ林業種苗法(昭和45年法律第89号)[^9]のように、輸入に関する法令でありながら税関の他法令一覧には載っていないものもあります。一覧に無いから規制が無いとは限らない、という点は頭の片隅に置いておくとよいでしょう。
実務の進め方。該非確認は主管省庁へ、申告前チェックを習慣に
最後に、実際に自社の貨物を確認する手順です。まず知っておくべきは、税関は他法令の該非判断をしてくれないという事実です。税関は「他法令の該非に係る照会にはお答えできません」と公式に明記しています[^1]。つまり「うちの商品は食品衛生法に引っかかりますか」と税関に聞いても答えは返ってきません。正しい流れは、実行関税率表に付されている他法令コード[^8]でおおよその見当をつけ、最終的な該否は各主管省庁の担当課に確認する、というものです。食品なら厚生労働省、植物なら農林水産省の植物防疫課、というように窓口が分かれています。
もう一つ、個人輸入や少額だから関係ない、という思い込みも危険です。他法令は金額や個人・法人の別ではなく、原則として品目ベースで適用されます。医薬品や食品、植物、動物、ワシントン条約該当品は、少量でも許可や承認、検疫の対象になり得ます。趣味の個人輸入が税関で止まる典型例がここです。だからこそ、輸出入を始める前の品目チェックを習慣にしてほしいと考えています。
ここまで見てきたように、他法令は所管省庁も条文もバラバラで、さらに毎年改正が入ります。安全保障に関わる外為法(輸出貿易管理令・輸入貿易管理令)の該非判定は、その中でも特に専門性が高く、リスト規制やキャッチオール規制、取引先の懸念度確認まで含めて判断が必要な領域です。この外為法パートの負荷を下げるために私たちが開発したのが、AI輸出管理エージェントのTRAFEEDです。各国の法令改正を当日反映し、貨物や技術の該非、取引先の懸念度を短時間で可視化します。岡山大学との共同実証などをもとにAI判定精度は95%以上(自社調べ)で、特許(第7862062号)も取得しています。ただし、TRAFEEDが担うのは主に外為法に基づく判断の支援であり、食品衛生法や薬機法といった他の他法令の該否は引き続き各主管省庁への確認が必要です。そして外為法部分についても、最終的な該非判定は貴社の輸出管理責任者が行うという原則は変わりません。
輸出入の他法令は、覚えるものではなく、品目ごとに引くものです。今日の記事の一覧表を手元の地図にして、自社が扱う品目に一本でも他法令の線が引かれていないかを確認してみてください。もし外為法まわりの該非判定や社内体制づくりで迷ったら、輸出管理の個別相談で具体的な品目に沿ってご相談いただけます。関税を払う前の一手間が、税関で貨物が止まる事態を防ぎます。
参考文献
[^1]: 税関カスタムスアンサー 1801「税関で確認する輸入関係他法令の概要」(輸入関係他法令一覧表・令和7年6月現在) https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/imtsukan/1801_jr.htm [^2]: 税関カスタムスアンサー 5501「税関で確認する輸出関係他法令の概要」(輸出関係他法令一覧表・令和8年4月現在) https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/extsukan/5501_jr.htm [^3]: e-Gov法令検索 関税法(昭和29年法律第61号)第70条・第69条の2・第69条の11 https://laws.e-gov.go.jp/law/329AC0000000061 [^4]: 水産庁「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律(水産流通適正化法)」 https://www.jfa.maff.go.jp/j/kakou/tekiseika.html [^5]: 厚生労働省「令和7年3月1日に『大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律』の一部が施行されます」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_43079.html [^6]: 経済産業省「外為法関連法令一覧(輸出貿易管理令・輸入貿易管理令ほか)」 https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/01_seido/03_law/houreiitiran.html [^7]: e-Gov法令検索 輸出貿易管理令(昭和24年政令第378号) https://laws.e-gov.go.jp/law/324CO0000000378 [^8]: 税関「実行関税率表(他法令コードを含む)」 https://www.customs.go.jp/tariff/index.htm [^9]: e-Gov法令検索 林業種苗法(昭和45年法律第89号) https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000089
