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ABFフィルムとは何か|「対中供給3割削減」報道から読む、規制ではない供給制約の怖さ

公開2026-08-19濱本 隆太

味の素がABFフィルムの対中供給を3割削減すると報じられました。ただしこれは政府の輸出規制ではなく、能力が張り付いた中での配分の話です。そもそもABFとは何なのか、半導体のどこに使われているのかを図解の代わりに丁寧に説明したうえで、規制ではない供給制約が輸出規制と同じ効き方をする理由を整理します。

ABFフィルムとは何か|「対中供給3割削減」報道から読む、規制ではない供給制約の怖さ
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株式会社TIMEWELLの濱本 隆太です。

「味の素がABFフィルムの対中供給を3割削減」というニュースが流れました。半導体まわりを追っている人には大きな話ですが、そもそもABFフィルムが何なのか分からないという方が多いと思います。私も、最初に聞いたときは「味の素が半導体?」でした。

この記事では、まずABFとは何で、半導体のどこに使われているのかを、図がなくても分かるように説明します。そのうえで、今回の件をどう読むべきかを整理します。先に結論を言うと、これは輸出規制ではありません。でも、規制ではないからこそ考えさせられる話だと思っています。

先に、事実関係を整理します

報道の出どころから確認します。

  • 2026年8月中旬、中国メディアが「味の素が中国大陸の顧客に対しABFフィルムの供給を3割削減すると通知した」と報道
  • 台湾の工商時報などがこれを引用する形で伝えた1
  • 理由として報じられているのは生産能力の制約。政府の規制や政策的な措置とはされていない
  • 味の素の公式発表は、本稿執筆時点で確認できていません

ここは大事なところなので繰り返します。日本政府がABFフィルムを輸出規制の対象にした、という話ではありません。 報じられているのは、能力が張り付いている中で、どこにどれだけ回すかという民間企業の配分判断です。

報道では、既存の生産能力が満杯で、増設が始まるのは先になるため、優先順位をつけざるを得なかったという文脈で説明されています。この背景も一次情報で確認できたものではないので、そういう説明がされている、という以上には踏み込みません。

そもそもABFフィルムとは何か

味の素の公式説明に沿って見ていきます23

ABFは Ajinomoto Build-up Film(味の素ビルドアップフィルム) の略で、半導体パッケージ基板の中で銅配線を覆う層間絶縁材料です。同社の言葉を借りれば、高性能CPU内部の微細な電子回路と外部の電子部品をつなぐ役割を担い、「ナノサイズからミリサイズへ」信号を導きます。

半導体のどこにあるのか

「チップの中」ではありません。チップとマザーボードの間です。

半導体チップの端子は極めて微細で、そのままではプリント基板に載せられません。間隔が細かすぎて、はんだ付けできないからです。そこでチップの真下に、配線を層状に積み上げた小さな基板を置きます。これがパッケージ基板です。

このパッケージ基板の中では、チップ側の細かい間隔から、マザーボード側の粗い間隔へと、信号の道が段階的に広がっていきます。階段を降りるように、少しずつ間隔を広げていくイメージです。この階段を作るために、銅配線の層を何層も積み上げる(ビルドアップする)。

そして、積み上げた銅配線どうしが短絡しないように絶縁しているのがABFです。名前のとおり、ビルドアップのためのフィルムです。

なぜ「フィルム」であることが効いたのか

もともと、この種の絶縁材はインク状のものを塗って乾かす方式でした。味の素の説明によれば、片面ずつ塗って乾かす必要があり、効率が悪かった。フィルムにしたことで、貼るだけで両面を一度に加工できるようになり、4工程が1工程に減ったとされています。

厚さは一層あたり20〜30マイクロメートル。髪の毛の直径が平均約80マイクロメートルなので、その3分の1以下です。この薄さが、高密度な配線を積み上げるための条件になります。

どこから生まれたのか

ここが面白いところです。味の素の説明では、1970年代にアミノ酸の技術を応用したエポキシ樹脂の基礎研究が始まり、1990年代にパソコン用半導体基板への応用を決め1999年に大手半導体メーカーへ初採用という流れです。

調味料の会社が、アミノ酸の研究の延長線上で半導体材料に行き着いた。そして同社は、パソコンのCPU向けで全世界の主要なパソコンのほぼ100%のシェアに達していると説明しています。

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なぜいま、この材料が話題になるのか

ABFが使われるのは、FC-BGAと呼ばれる高性能向けのパッケージ基板です。CPU、GPU、FPGA、ASICといった、演算の中心にあるチップに使われます。

AI向けの半導体では、この基板がどんどん大きく、層が多くなっています。複数のチップを一つのパッケージに載せるチップレット構造や、メモリを積層して隣に置く構成が主流になると、パッケージ基板の面積も配線層数も増える。チップ1個あたりに必要な材料の量が増えているわけです。

一方で、この材料を作れる会社は限られています。味の素がほぼ独占的な地位にあり、他にも層間絶縁フィルムを手がける企業はあります。たとえば積水化学工業は、FC-BGA基板向けの熱硬化型層間絶縁フィルムを自社製品として公開しています4。ただ、この分野は顧客側の認定プロセスが長く、性能が出せることと採用されることの間には距離があります。

規制ではない。でも、効き方は似ている

ここからが本題です。

輸出管理の記事を書いていると、「規制されたから入らなくなった」という話をよく扱います。中国の輸出管理にしても、日本の半導体製造装置21品目の措置にしても、制度が動いて供給が変わる。

今回はそうではありません。誰も規制していないのに、必要な量が入ってこない可能性があるという話です。

調達する側から見ると、この2つは区別がつきません。規制で止まっても、能力不足で回ってこなくても、生産計画が狂うという結果は同じです。むしろ厄介なのは後者かもしれません。規制なら、条文があり、対象品目があり、許可申請という手続きがある。能力配分には、条文も、異議申立ての窓口もありません。

そしてもう一つ。規制は政府が変えれば元に戻り得ますが、能力の制約は工場が建つまで戻りません

経済安全保障の枠組みで読むと

経済産業省は、経済安全保障の取り組みを大きく2つに整理しています。特定の国や取引先に依存せず供給を続けられる状態を確保する自律性と、自社の技術や製品が他に代えがたい状態を作る不可欠性です(経産省の具体的事例集を読む)。

ABFの事例は、この2つが同じ現象の裏表であることを、きれいに示しています。

立場 この件の意味
材料を作る側 不可欠性が極めて高い状態。代替がきかないので、供給先を選べる立場にある
材料を使う側 自律性が低い状態。単一供給元に依存しており、相手の判断で計画が動く

不可欠性を確保するというのは、突き詰めればこういうことです。相手が困る立場に立つ。日本企業の多くは、素材や部材でこの立場を持っています。そしてそれは、同時に「使う側から見ると怖い存在」でもある。

自社がどちらの側にいるかで、この記事の読み方は変わるはずです。使う側なら代替を探す話になり、作る側なら「自社の不可欠性はどこにあるか」を棚卸しする話になります。

実務としてやること

具体的に何をするか。3つに絞ります。

1. 部品表を広げて、単一供給元に印をつける

自社の製品を構成する部材のうち、代替がきかないものがどれか。供給元が1社しかないもの、特定の国に集中しているものに印をつける。全部やるのは無理なので、「止まったら事業が止まる」ものから始めます。

2. 一次取引先の先を見る

ABFのような材料は、多くの場合、直接の取引先ではありません。基板メーカーから買っている会社にとって、ABFは二次、三次の供給元です。今回のような話が出たとき、自社への影響を即答できるかどうかは、そこまで遡って把握しているかで決まります。経済産業省の事例集でも、一次取引先までは見えるが二次・三次以降が見えない状態そのものが、投資家からリスクとして評価されると整理されています。

3. 「なぜその在庫水準なのか」を説明できるようにする

在庫を積むとキャッシュフローは悪化します。ただ、同じ事例集に収録された投資家の発言では、供給網リスクへの備えとしての在庫増はコストではなく事業継続への投資として受け止められるとされています。ただし、そう受け止めてもらうには説明できる状態であることが前提です。聞かれてから考えるのでは間に合いません。

この3つは、いずれも「調べて、記録して、更新し続ける」性質の作業です。取引先の資本関係は変わりますし、規制も動きます。私たちの輸出管理AIエージェントTRAFEEDは、該当性の判定と取引先スクリーニングを継続的に回すためのものです。席数ではなく従量課金にしているのは、調達や技術の現場に置いてもらうためです。

まとめ

  • ABFは味の素ビルドアップフィルムの略。半導体パッケージ基板の中で銅配線を覆う層間絶縁材料で、チップの微細な端子とマザーボードをつなぐ「階段」を作る部分に使われる
  • 厚さは一層あたり20〜30マイクロメートル(髪の毛の3分の1以下)。フィルム化により4工程が1工程になった。1970年代のアミノ酸研究が出発点で、1999年に初採用
  • 「対中供給3割削減」は中国メディア発の報道で、味の素の公式発表は確認できていない。理由として報じられているのは能力制約であり、政府の輸出規制ではない
  • 調達側にとって、規制で止まるのと能力で回ってこないのは結果が同じ。しかも後者には条文も申請手続きもなく、工場が建つまで戻らない
  • 経済安全保障の枠組みでは、作る側の不可欠性使う側の自律性が同じ現象の裏表として現れている典型例
  • 実務は3つあります。単一供給元に印をつけること、一次取引先の先を見ること、在庫水準を説明できるようにすること

最後に一つだけ。この記事を書くにあたって、私は「日本が対中規制に踏み込んだ」という枠で読むのをやめました。一次情報を当たると、そう書ける材料がなかったからです。ニュースの見出しに合わせて事実を寄せるのは、実務の役に立ちません。 起きているのは、規制よりも静かで、規制よりも戻りにくい供給制約の話です。そちらのほうが、自社の部品表を見直す理由としては強いと思っています。

サプライチェーンの可視化や取引先スクリーニングの仕組み化についてご相談は、お問い合わせからどうぞ。

Footnotes

  1. 工商時報「味之素ABF 對陸供貨削減3成」(2026年8月17日)。中国メディアの報道を引用する形で、削減幅3割、通知が8月中旬であること、理由として生産能力の制約が挙げられていることを伝えている。味の素による公式発表ではない。https://www.chinatimes.com/newspapers/20260817000207-260202

  2. 味の素株式会社「ABFフィルム」(イノベーションストーリー)。層間絶縁材料としての役割、1970年代のアミノ酸技術を応用したエポキシ樹脂研究、1990年代のパソコン用半導体基板への応用決定、1999年の初採用、パソコンCPU向けでほぼ100%のシェアという記述は同ページによる。https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/rd/our_innovation/abf/

  3. 味の素グループ「味の素ビルドアップフィルム®(ABF)の世界」。一層あたり20〜30マイクロメートルという厚さ、髪の毛の直径(平均約80マイクロメートル)との比較、インク方式からフィルム化により4工程が1工程になったという記述は同ページによる。https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/rd/aspj/abf/

  4. 積水化学工業株式会社「熱硬化型層間絶縁フィルム」。FC-BGA基板向けの層間絶縁フィルムを製品として公開している。https://sekisui.co.jp/electronics/ja/semicon/Insulationfilm.html

本記事は一部にAIを用いて作成し、公開前に人間が一次情報の確認と編集を行っています。

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