こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
2026年10月28日、高市早苗首相が首相官邸で、ドイツのメルツ首相と向き合いました。メルツ首相が2025年5月の就任後、初めて日本を訪れた機会で、約30社のドイツ企業団が同行しています12。報道の見出しには「経済安保で連携」「包括宣言」と並びますが、読んだだけでは、それが具体的に何を意味するのかが見えにくい。そう感じた方も多いのではないでしょうか。
先に結論を書きます。今回の会談は、日独が経済安全保障を協力の柱として文書にまとめた、政治的な意思表明です。中身は大きく4つに分かれます。重要鉱物の調達先を広げること、半導体・AI・核融合などの先端技術で組むこと、防衛産業での協力を深めること、そして、恣意的な輸出制限などの経済的威圧への懸念を共有することです。一方で、日独の法律や輸出管理の制度を直接変える合意は、確認できた範囲には見当たりません134。
要点(2026年10月28日時点)
- 高市首相とメルツ首相が会談し、共同声明に加えて、経済安保と先端科学技術協力に関する2つの共同宣言を発表したと報じられている
- 確認された内容は、重要鉱物の調達先の多角化、半導体・6G・核融合での協力、AIハイレベル対話の創設、防衛産業協力、GCAP(日英伊の次期戦闘機)へのドイツ参加の検討
- 共同宣言は中国も米国も名指ししていないが、経済的威圧への深い懸念を示した
- 共同文書の全文は、外務省サイトから取得できなかった。本稿の引用は、共同通信・産経新聞・ドイツの報道などによる
日独の動きを、ほかの二国間の経済安全保障協力と並べて見たい方は、日印首脳会談の記事も合わせてどうぞ。
先に、ニュースに出てくる言葉を整理します
この種のニュースは、言葉の壁で読みにくくなります。会談の記事に頻出する用語を、先に押さえておきます。
共同声明と共同宣言は、どちらも首脳が連名で出す政治文書です。一般に、会談全体の成果をまとめるのが共同声明、特定のテーマに絞って方針を示すのが共同宣言です。今回は、共同声明に加えて、経済安全保障と先端科学技術協力のそれぞれについて宣言が出たと報じられています。どちらも、条約のように国会の承認を経て法的な義務を負わせるものではありません。
**覚書(MOU)**は、企業や機関が「こういう方向で協力しましょう」と交わす合意文書です。契約と違い、細かい権利義務までは定めないことが多く、実際の取引に進むかどうかは別の話になります。
経済的威圧は、貿易や投資、輸出入の規制を、相手国に政策を変えさせる圧力の手段として使うことを指します。重要鉱物は、半導体や電池、モーターなどに欠かせず、特定の国に供給が偏りがちな資源の総称で、レアアース(希土類)もその1つです。ACSA(物品役務相互提供協定)は、自衛隊と相手国の軍が、燃料や食料、弾薬などを互いに融通し合うための協定。GCAPは、日本・英国・イタリアが共同で開発している次期戦闘機の計画です。
10月28日に、何が起きたのか
会談の前後の動きから整理します。メルツ首相は、日本に先立ってシンガポールでインド太平洋戦略について講演し、日本では日独経済サミットに出席して投資家と対談、その後は韓国で「ドイツ・ビジネス・アジア太平洋会議」に出席する日程です5。ドイツ首相のアジア歴訪の中に、日本が組み込まれた形です。
会談そのものは、報道によれば、次のような内容でした。両首脳は、共同声明に加えて、先端科学技術協力と経済安全保障に関する共同宣言を発表することで合意しました。AIについては「ハイレベル対話」を創設し、次期戦闘機GCAPへのドイツ参加を検討する方針を確認しています。日独の首脳と主要閣僚による「政府間協議」を、来年ベルリンで開く考えも示されました13。
高市首相は、日独を戦略的認識と意志を共有する「同志国」と位置づけ、メルツ首相は協力できる分野が数多くあると語ったと伝えられています1。対面の首脳会談は、昨年11月以来です。
事前報道では、この宣言は、安全保障、経済安保、防衛産業協力などを最も包括的に扱う初の宣言になると、日独の外交筋が説明していました。宣言は、企業間の合意や覚書(MOU)の「枠組み」を提供する位置づけで、ドローン新興企業のクオンタム・システムズなどが、日本企業と20件超のMOUを結ぶ予定とも報じられていました25。これは事前の予定の報道で、実際に結ばれた覚書の内容や件数は、今回の確認範囲では分かりません。
経済安全保障の共同宣言には、何が書かれたのか
共同宣言の全文は取得できていないため、ここはドイツ側の報道(Euronews)が伝える内容を中心に書きます4。
まず、経済的威圧への深い懸念です。宣言は、恣意的な輸出制限や、重要原材料をめぐる報復措置による経済的威圧に、深い懸念を示したと報じられています。あわせて、過剰生産や市場の歪みを招く、市場原理に反する措置や慣行を拒否する姿勢も示しました。どの国を指すのかは書かれておらず、報道は、共同声明や公式発言が中国も米国も名指ししていない点に触れたうえで、間接的な言及と受け止められている、と伝えています4。
次に、協力の具体策です。サプライチェーンの監視と評価での協力を強め、重要原材料、半導体、電池、電気自動車、産業用AI、ロボティクス、医薬品、風力エネルギーといった分野での緊密な協力を検討するとされています。さらに、重要原材料に関する共同意向書への署名を歓迎し、供給源を広げることと、両国の自動車産業でレアアースの代替可能性を高めることを表明しました4。レアアースは、モーターに使う強力な磁石の原料などになる希少な金属です。代替とは、その使用量を減らす、またはほかの材料に置き換える技術のことです。
ここで気をつけたいのは、宣言は法的な拘束力を持つ条約ではない点です。共同宣言や共同声明は、政府同士が方向性を示す政治文書で、一般に、そのまま国内の法律や規制を変えるものではありません。「協力を検討する」と書かれた分野が、すぐに予算や制度になるわけでもない。今回の報道で確認できたのは、方向性と枠組みであり、数字や期限を伴う約束は見当たりませんでした。
該非判定の属人化を、AIで解消する。
経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDの機能・導入フローをまとめたサービスカタログを無料でダウンロードできます。
重要鉱物:なぜ、いま日独なのか
経済安全保障の中でも、今回いちばん具体性を帯びているのが重要鉱物です。背景には、日本が直面してきた供給の問題があります。
中国商務部は2026年1月6日、公告2026年第1号を発表し、すべての両用品目(民生用にも軍事用にも使える品目)について、日本の軍事ユーザー、軍事用途、および日本の軍事力の向上に資するその他の最終用途への輸出を禁止しました。公告は即日施行で、中国原産の両用品目を、この規定に違反して日本の組織・個人に移転または提供する第三国の組織・個人にも、法的責任を追及するとしています6。中国側は、輸出管理法などを根拠に、国家の安全と利益の維持や、不拡散などの国際義務の履行のための措置だと説明しています。その後も、2月24日の公告第12号で、日本の20の主体を「関注リスト(ウォッチリスト)」に加えるなど、運用が続いています7。リストに載ったことは、規制上の区分であって、その企業の是非を示すものではありません。
この措置の位置づけについて、日本と中国の受け止めは異なります。本稿は、どちらかの評価をするものではなく、日本の産業界にとって供給の不確実性が高まったという事実を前提に、日独の動きを読んでいます。この件は、中国MOFCOM公告2026年第1号の完全解説で条文ベースに整理しています。
日本は、そのあいだに調達先の分散を進めてきました。ドイツのWirtschaftsWocheは、日本が重要鉱物の確保を支援する政府系機関JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)を通じて備蓄を持ち、現在、9か国で15件のジョイントベンチャーを協議していると伝えています8。そのほかにも、2026年4月には日仏でレアアースの合意が報じられ、ジスプロシウムとテルビウムの将来需要の約2割を、フランスの精製工場から確保する計画だと伝えられています。6月には、高市首相がG7で、重要鉱物の備蓄に関する枠組みを提案したとも報じられています9。
ドイツ側には、別の事情があります。報道によれば、EUは2030年までに、重要原材料の特定の一国への依存を65%以下に下げる目標を掲げていますが、ドイツの調達先の多角化は、まだ初期の段階にとどまります。同紙は、ドイツの原料基金がこれまでに支援したのは2案件で、財務相が15億ユーロ規模に増額したこと、産業界から、日本のJOGMECのような国の機関を求める声があることも伝えています8。つまり、日本は仕組みを持っていて、ドイツは仕組みを作る途上にある。日本から学べる点が多い、というのが、ドイツ側の見方です。
AI・半導体・核融合:技術で組む
先端技術では、いくつかの具体的な動きが報じられています。
AIでは、「ハイレベル対話」の創設が合意され、サイバー攻撃への防御でも、より緊密に協力するとされています34。報道によれば、中国の輸出規制を念頭に、経済安全保障での連携を確認するという文脈の中での合意でした3。AIの対話の具体的な参加者や頻度は、記事では示されていません。
半導体と6G、核融合エネルギーでも、協力を進める方針が確認されました1。ドイツのWirtschaftsWocheは、日本が半導体の工場や産業集積を九州と北海道で後押ししていること、ドイツにはドレスデンのTSMCのプロジェクトがあることなどを比べています。核融合では、メルツ首相が京都のスタートアップ、Kyoto Fusioneeringを訪れたと報じられています。同社はシーメンス・エナジーと、核融合の熱を電気に変える研究で協力しています48。
防衛産業と安全保障:もう1つの柱
経済安全保障と並んで、今回の会談では、防衛面の協力も確認されました。
2024年には、自衛隊とドイツ軍が燃料や弾薬を融通し合える物品役務相互提供協定(ACSA)に署名しています。企業レベルでも、川崎重工業がエアバスと軍用ドローンの開発で提携し、楽天グループが防衛新興企業ヘルシングの日本展開を支援している、と事前報道は紹介しています2。今回の会談では、防衛産業協力と、自衛隊とドイツ軍の連携強化で一致しました。次期戦闘機GCAPについては、メルツ首相がドイツの参加の可能性を提案し、検討することが確認された、という段階です。決定ではありません14。
安全保障の認識としては、欧州とインド太平洋の安全保障は不可分だという認識が確認され、メルツ首相は台湾海峡の平和の重要性を強調したと報じられています1。Euronewsは、両首脳が東シナ海と南シナ海の情勢に懸念を示し、武力や威圧によって現状を一方的に変更する試みを拒否した、と伝えています4。
過去の積み重ねの上にある会談
今回の会談は、突然始まったものではありません。日独の経済安全保障の連携は、数年かけて積み上がってきました。
2023年3月の第1回日独政府間協議では、経済安全保障が議論の中心になりました10。2024年7月の首脳間で、経済安全保障協議の設置が確認され、第2回の協議は2025年10月14日に東京で開かれています。日本側は外務省と経済産業省、ドイツ側は連邦経済・エネルギー省と外務省が共同議長を務め、供給網の強靱化、非市場的な政策・慣行への対応、重要・新興技術の保護と育成などを話し合いました。そして、経済安全保障分野での連携をさらに強めることで一致しています11。直近の2026年10月1日には、日独が第三国での邦人退避に関する協力覚書に署名しています12。
この流れの上に、今回の首脳会談があります。来年にベルリンで開く政府間協議が、今回の文書の次の節目になりそうです。
企業には、何が関係するのか
最後に、日独どちらの企業にとっても気になる、実務への影響を考えます。
まず、今回の共同宣言で、日本の外為法や輸出管理の制度が変わったわけではありません。輸出管理の制度の動きは、別の場所で起きています。たとえば、輸出貿易管理令の改正案の意見公募は、2026年10月19日から始まっています。詳しくは、外為法の改正を初心者向けに解説した記事をご覧ください。日独の合意と、日本の法改正は、別の流れです。
そのうえで、企業の実務に効いてくる可能性があるのは、次の3つです。
1つ目は、供給網の可視化です。宣言が「サプライチェーンの監視と評価」での協力をうたっているように、重要鉱物や磁石、半導体の調達先を、二次、三次の取引先まで把握する動きは、今後さらに強まるでしょう。2つ目は、複数の国の規制を同時に見る必要性です。日本の外為法、ドイツ・EUの両用品目規則、そして中国の措置が、同じ製品に重なる場面は増えています。3つ目は、政府間の枠組みを企業の取り組みにつなげることです。20件超とも報じられたMOUのように、企業間の協力は、宣言が示す枠組みの中で動きます。
こうした見直しを仕組みで支える道具として、弊社の輸出管理AIエージェントTRAFEEDを少し紹介させてください。経産省の基準に準拠した該非判定の支援や、取引先のスクリーニングを行います。最終的な該非判定は、貴社の輸出管理責任者が行います。自社の輸出管理の現状をまず知りたい方は、無料の診断ツールをお試しください。
私の見方
今回の会談で、いちばん手応えがあるのは、「日独が、同じ言葉で経済安全保障を語り始めた」ことだと私は考えています。2023年の政府間協議から数えて3年、協議の枠組みから、首脳が2つの宣言を並べる段階へ進みました。しかも、重要鉱物でも、AIでも、防衛産業でも、企業の覚書という実装の入口が、あらかじめ用意されています。
一方で、慎重に見ておきたい点もあります。宣言には法的な拘束力がなく、報道で確認できる範囲では、数値目標や期限がほとんど見えません。ドイツの原料基金が支援したのは、まだ2案件にとどまります。方向性が合意されたことと、調達が実際に変わることのあいだには、まだ距離があります。企業にとっては、「宣言が出たから安心」でも「宣言が出たから不安」でもなく、自社の調達と取引の点検を、淡々と前に進めるのがいちばん確かだと思います。
次に見るべきものは3つです。共同宣言の全文、来年ベルリンで開く政府間協議の中身、そして、20件超と報じられたMOUの具体的な中身です。
まとめ
日独首脳会談は、経済安全保障と先端技術の2つの共同宣言を軸に、重要鉱物、AI、半導体、防衛産業での協力を確認した会談でした。宣言は政治文書で、法律を直接変えるものではありません。それでも、供給網の監視や調達先の多角化という方向は、企業の調達や取引先管理に、確実に影響してきます。
経済安全保障は、いまや大企業だけのテーマではなくなりました。取引先の一次、二次に重要鉱物や半導体が関わっていれば、中堅・中小企業にとっても他人事ではありません。自社の調達と取引の点検につなげたい方は、個別相談からお気軽にどうぞ。
原文の確認範囲
本稿は、会談の当日(2026年10月28日)に、報道を中心に書きました。共同声明と2つの共同宣言の全文は、外務省のサイトが取得に応じなかったため、確認できていません。会談の内容は、共同通信、産経新聞、時事通信、およびドイツのEuronews・WirtschaftsWocheの報道によります。報道によって、数字や表現が異なる箇所があります(たとえば、核融合やAI分野への投資額)。そのため、金額は書いていません。
中国商務部の公告第1号は、原文(中国語)で確認しています。公告第12号と、日仏の合意、G7での提案は、報道や検索結果の要約に依拠していて、原文は読めていません。外務省の公表資料が出たら、本稿の記述を原文と照らして更新します。
参考
Footnotes
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日独首脳会談、AIハイレベル対話創設で合意 次期戦闘機開発への独参加検討も確認 — 産経新聞(Yahoo!ニュース)— 2026年10月28日 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7
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日独首脳、経済安保で包括宣言へ レアアースや防衛で協力格上げ―企業団、20超の覚書締結も — 時事通信 — 2026年10月23日 ↩ ↩2 ↩3
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日独、AI対話を創設 対中念頭、経済安保で連携 — 共同通信(琉球新報)— 2026年10月28日 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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Japan: Takaichi und Merz stärken Wirtschafts- und Technologiekooperation — Euronews(ドイツ語版)— 2026年10月28日 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8
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中華人民共和国商務部公告2026年第1号(両用物項の対日本輸出管制強化に関する公告)— 中華人民共和国商務部 — 2026年1月6日 ↩
-
Merz in Japan: Deutschland sollte von Tokio lernen — WirtschaftsWoche — 2026年10月 ↩ ↩2 ↩3
-
Japan, France agree rare earths deal to cut China reliance — Kitco(Reuters配信)— 2026年4月1日、Takaichi proposes G7 framework for stockpiling critical minerals — The Japan Times — 2026年6月16日 ↩
-
Second meeting of the Japan-Germany Economic Security Consultations — EU-Japan Centre — 2025年10月 ↩
-
Signing of the Japan-Germany Memorandum of Cooperation on Assisting Japanese and German Nationals Abroad — 外務省 — 2026年10月1日 ↩





