こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
前編では、ものづくり白書2026が映し出した製造業の経済安全保障の現在地を追いました。リスク分析の本丸はサプライチェーンで、企業の悩みは「取引先の動向をどう掴むか」という外側へ移りつつある。けれど多くの企業は情報収集で足踏みしている、という話でした。
その「取引先の動向」を作り出しているのが、各国の輸出管理規制です。白書は第4節で、2025年に世界で何が起きたかを一枚の年表にまとめています。私はこの年表を眺めながら、少し背筋が寒くなりました。これだけの規制変更が、たった一年に凝縮されている。しかも白書が刊行されたあとの2026年に入って、状況はさらに動きました。今回は白書の年表を出発点に、発信国の一次情報にあたりながら2026年7月時点の地図を描き直します。自社の貨物や取引先が引っかからないか気になる方は、先に輸出管理体制の簡易診断で当たりをつけてから読むと、他人事に感じずに済むはずです。
白書が年表で切り取った2025年、各国が同時に動いた
まず白書の年表そのものを見ておきましょう。時系列に並べると、2025年がいかに異常な一年だったかが伝わります。
年明けの1月、米国は中国向けのAI用半導体などへの輸出管理を強化し、中国・ロシアが関係するコネクテッドカーの輸入・販売を禁止する最終規則を公表しました。同じ月に「米国第一の通商政策」に関する大統領覚書が出され、対中追加関税の応酬が始まります。2月には中国がレアメタルの輸出管理を強化し、タングステンやインジウムなど5品目を許可対象にしました。EUではAI法の禁止規定が適用を開始しています。4月になると中国はレアアースの輸出管理をさらに強め、米国も相互関税と自動車への25%関税を発動しました。EUは重要原材料の域外開発プロジェクトを打ち出し、日本は国内半導体メーカーへ最大約8千億円の支援を決めています^1。
関税、輸出管理、産業支援。米国、中国、EU、日本が、まるで示し合わせたように同じ四半期のうちに手を打っている。白書はこれらの背景を、先端産業分野をめぐる各国の競争激化にあると分析しています[^2]。半導体やレアアースという「経済の急所」を握ろうとする綱引きが、輸出管理という形で噴き出したわけです。
この年表を見て、製造業の担当者が「取引先の動向を掴むのが最大の課題だ」と答えるのは当然だと思います。自社の努力とは無関係のところで、調達先の国が突然ルールを変えてくる。年表はその現実を、日付入りで突きつけています。
該非判定の属人化を、AIで解消する。
経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDなら、判定時間を約7割削減し、判定根拠を構造化データで保存できます。
いちばん効いているのは、いまも止まっていない規制
ここからが、白書刊行後の話です。年表だけを見ると「2025年に規制が強まった」で終わってしまいますが、実務でいちばん怖いのは、いまこの瞬間も動いている規制のほうです。
その筆頭が、中国が2025年4月4日に導入した中重希土7種の許可制です。商務部と海関総署の公告2025年第18号で、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの7元素と、その金属や酸化物、そしてこれらを含む永久磁石が、出荷ごとに中国政府の許可を要する対象になりました[^3]。テルビウムやジスプロシウムは、高温でも磁力を保つネオジム磁石に欠かせない元素です。つまりモーターやアクチュエータを扱うほとんどの製造業が、この規制の射程に入ります。
重要なのは、この4月の規制が後述する米中の休戦の対象になっていない、という点です。2026年7月現在も、全面的に稼働しています。日本の製造業にとって、いちばん実体的に効いているのは、派手なニュースになった10月の規制ではなく、静かに続いているこの4月の許可制のほうだと私は見ています。
もうひとつ、対日で名指しの規制が動いています。中国は2026年1月6日の公告2026年第1号で、日本向けのデュアルユース品目に対する輸出管理を強化し、2月には日本企業を輸出管制リストやウォッチリストに掲載しました[^4]。これらも米中の休戦とは別枠で、日本を対象にした措置として残っています。詳しくは中国の対日デュアルユース規制を扱った記事に譲りますが、ここで押さえておきたいのは、「米中が手打ちをしたから安心」とは全く言えない、ということです。日本に効く規制は、手打ちの外側で生きています。
2026年11月10日という崖
では、ニュースを賑わせた米中の「休戦」とは何だったのか。ここが2026年後半の最大の論点なので、丁寧に整理します。
きっかけは2025年10月30日、韓国で開かれた米中首脳会談です。ここで両国は1年間の休戦に合意しました[^5]。これを受けて中国は、10月9日に発表したばかりのレアアース拡大規制を、11月7日の公告第70号で停止します。停止期限は2026年11月10日まで[^6]。米国側も、エンティティリストに載る企業の子会社を自動的に規制対象とする、いわゆる「50%ルール」を同じく2026年11月10日まで停止しました[^7]。
この50%ルールは、もともと2025年9月末に導入されたばかりの強力な規制でした。規制対象企業に半分以上出資されている子会社は、名前がリストに載っていなくても自動的に同じ規制がかかる、という仕組みです。導入した直後に凍結したわけですから、いかに米中の駆け引きが激しいかが分かります。
そして私がいちばん注意を促したいのが、中国が10月9日に打ち出した公告第61号、いわゆる域外適用ルールです。これは「中国産のレアアースを価値ベースで0.1%以上含む海外製品」や「中国のレアアース技術で製造された製品」を第三国へ輸出する場合にも、中国政府の許可を求めるという内容でした[^8]。米国の輸出管理が世界中に及ぶのと同じ発想を、中国がレアアースで持ち込んだ格好です。これも今は第70号で停止中ですが、あくまで凍結にすぎません。
つまり2026年11月10日は、崖なのです。この日を境に、停止していた中国の拡大規制も、米国の50%ルールも、自動的に失効します。延長交渉がまとまれば凪が続きますが、決裂すれば規制が一斉に復活しかねない。輸出管理の担当者にとって、この秋は落ち着いて過ごせる季節ではありません。停止は撤回ではない。この一点を、社内で共有しておく価値があります。
日本とEUの「守り」と「攻め」
各国が規制で殴り合うなか、日本とEUも手をこまねいていたわけではありません。
日本はまず、守りを固めました。経済産業省は2025年4月9日に補完的輸出規制、いわゆるキャッチオール規制の見直しを公布し、10月9日に施行しています。通常兵器キャッチオールを強化し、工作機械、集積回路、レーダーや航行用の無線機器といった懸念度の高い品目を「特定品目」としてHSコードで指定して、企業に管理を求める運用に変えました[^9]。これは米国の対中規制と歩調を合わせ、日本を経由した意図せぬ技術流出を防ぐための強化です。この改正で該非判定の考え方がどう変わったかは、明らかガイドラインの解説記事で詳しく触れています。
攻めの面では、日米で重要鉱物の枠組みを作りました。2025年10月28日、東京で「採掘及び加工を通じた重要鉱物及びレアアースの供給確保のための日米枠組み」に署名しています[^10]。中国のレアアース圧力に対抗し、採掘から加工までを日米で確保しようという動きで、2026年に入ってからも日米の閣僚会合やアクションプランの策定が続いています。
EUはさらに構造的です。重要原材料法にもとづき、2025年3月に域内47件と域外13件の計60件の戦略プロジェクトを指定し、採掘や製錬、リサイクルの許認可を高速化しています[^11]。中国依存からの脱却を、単発の規制ではなく産業政策として設計しているところに凄みがあります。あわせてEUのAI法は、2026年8月2日から高リスクAIへの規制と罰則を伴う執行が本格化します[^12]。輸出管理とAI規制が地続きになりつつある、と感じさせる動きです。
守りのキャッチオール、攻めの重要鉱物枠組み。日本は両輪で動いていますが、現場でこれらを消化するのは、結局のところ各社の輸出管理担当者です。国が制度を整えても、日々の該非判定や取引先の確認を回すのは企業側の仕事として残ります。
白書の宿題に、製造業はどう答えるか
前編で見たとおり、多くの製造業は情報収集の段階で止まっています。今回並べた規制の動きを眺めれば、その理由もよく分かります。中国の公告番号を追い、米国のエンティティリストの更新を確認し、日本のキャッチオール特定品目のHSコードを突き合わせ、そのうえで11月の崖に備える。これを人手だけで、しかも本業の片手間でやり切るのは、もう現実的ではありません。情報の量とスピードが、担当者の処理能力を超えてしまっているのです。
だからこそ、集めた情報を判断に変える仕組みが要ります。ニュースを眺めて「大変な時代になった」と嘆くのではなく、自社が扱う貨物や技術がどの規制に該当するのか、取引しようとしている相手が各国のリストに載っていないかを、機械的に照合して初動を早くする。私たちが提供する輸出管理AIエージェントTRAFEEDは、まさにこの照合の部分を引き受けるために作りました。各国の法規制を反映し、貨物や取引先の懸念度を数秒で可視化する。中重希土7種の許可制のように「いまも止まっていない規制」も、11月に復活しかねない「崖の向こうの規制」も、担当者が見落とさないように支えます。最終的な該非判定は貴社の輸出管理責任者が行うべきものですが、そこに至るまでの情報処理を肩代わりすることで、白書が指摘した「情報収集止まり」の谷を越える手助けができると考えています。
2025年の年表は、来年にはもっと長くなるでしょう。規制は増えることはあっても、減ることはなかなかありません。だとすれば、規制が変わるたびに慌てる体制から、規制の変化を前提に回る体制へ。ものづくり白書2026が製造業に出した宿題の答えは、案外このあたりにあるのではないかと思っています。まずは自社の現在地を知りたい方は、個別のご相談からお声がけください。中国のレアアース規制の全体像を地図で掴みたい方は、レアアース規制のマップ記事もあわせてどうぞ。
参考文献
[^2]: 同白書 本文。貿易措置や輸出管理の強化の背景に関する記述。 [^3]: 中国商務部・海関総署 公告2025年第18号(2025年4月4日)。中重希土7種および関連品目に対する輸出管理措置。MOFCOM英語版:https://english.mofcom.gov.cn/Policies/AnnouncementsOrders/art/2025/art_0dd87cbee7b045bf93fabe6ab2faceee.html [^4]: 中国商務部 公告2026年第1号(2026年1月6日、対日デュアルユース輸出管制強化)、および公告2026年第11号・第12号(2026年2月24日、日本企業のリスト掲載)。MOFCOM:https://www.mofcom.gov.cn/zwgk/zcfb/art/2026/art_8990fedae8fa462eb02cc9bae5034e91.html [^5]: 米中首脳会談(2025年10月30日、韓国)。1年間の休戦合意。報道による(The Washington Post ほか)。 [^6]: 中国商務部・海関総署 公告2025年第70号(2025年11月7日)。2025年10月9日発表の拡大規制(第55・56・57・58・61・62号)を2026年11月10日まで停止。MOFCOM:https://www.mofcom.gov.cn/zwgk/zcfb/art/2025/art_b1ec77dd3f0d4762952904df7cdaadec.html [^7]: 米商務省産業安全保障局(BIS)"Expansion of End-User Controls To Cover Affiliates of Certain Listed Entities"(Federal Register 2025年9月30日掲載、2025年9月29日発効)。米中合意により2026年11月10日まで全世界向けに停止。Federal Register:https://www.federalregister.gov/documents/2025/09/30/2025-19001/expansion-of-end-user-controls-to-cover-affiliates-of-certain-listed-entities [^8]: 中国商務部・海関総署 公告2025年第61号(2025年10月9日、レアアース関連の域外適用措置)。MOFCOM:https://www.mofcom.gov.cn/zwgk/zcfb/art/2025/art_7fc9bff0fb4546ecb02f66ee77d0e5f6.html (2025年第70号により2026年11月10日まで停止中) [^9]: 経済産業省「補完的輸出規制(キャッチオール規制)の見直し」(2025年4月9日公布、2025年10月9日施行)。工作機械・集積回路・レーダー等を「特定品目」としてHSコードで指定。経済産業省:https://www.meti.go.jp/policy/anpo/apply-01/20251009_catchminaoshi/20251009catchall.html [^10]: 外務省「採掘及び加工を通じた重要鉱物及びレアアースの供給確保のための日米枠組み」(2025年10月28日署名、東京)。外務省仮訳:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100926027.pdf [^11]: 欧州委員会 重要原材料法(CRMA)戦略プロジェクト。2025年3月に域内47件、6月に域外13件を指定(計60件)。European Commission:https://single-market-economy.ec.europa.eu/sectors/raw-materials/areas-specific-interest/critical-raw-materials/strategic-projects-under-crma/selected-projects_en [^12]: 欧州委員会 AI法(Regulation (EU) 2024/1689)実施スケジュール。高リスクAIへの義務および執行・制裁権限は2026年8月2日から適用。https://artificialintelligenceact.eu/implementation-timeline/
