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JTBD(ジョブ理論)とは。顧客が片付けたい用事の見つけ方

公開2026-07-19濱本 隆太

顧客は商品を「買う」のではなく、状況を前に進めるために「雇う」。JTBD(ジョブ理論)で、顧客が本当に片付けたい用事を見つける方法を、架空の幼児食サブスクを題材に手を動かしながら解説します。氷山の下を掘る3つの問いと、そのまま貼れるAIプロンプトつきの実践ガイドです。

JTBD(ジョブ理論)とは。顧客が片付けたい用事の見つけ方
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こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。

以前、ある新規事業の立ち上げに伴走したとき、担当者が自信満々でこう報告してくれました。「20人にヒアリングして、ほぼ全員に『いいですね』と言ってもらえました」。数字だけ見れば大成功です。ところが半年後、実際にお金を払った人はゼロでした。一人もいなかったのです。これは特別に運が悪かったわけではありません。「いいですね」を集めて安心し、そのまま作り込んで外す。新規事業でいちばんよく見る失敗の形です。

なぜこんなことが起きるのか。答えは、顧客が口で言う「欲しい」と、顧客が本当に片付けたい用事がまるで別物だからです。この用事を見つける道具が、今日お話しするJTBD(ジョブ理論)です。TIMEWELLの書籍『顧客と歩むAI時代の事業のつくり方』でも中心に据えている考え方で、AIを使って新規事業を始めたい人にとっては、これを外すと最初のボタンを掛け違えます。

先に要点を3つ挙げておきます。

  • 顧客は商品を「買う」のではなく、状況を前に進めるために「雇う」。表面の要望の下に隠れた片付けたい用事(Job)を見つけるのがJTBDの核心です
  • 用事は機能・感情・社会の3層でできています。機能だけを聞いて満足すると、いちばん売れる価値を取り逃します
  • 検証すべきは「いいですね」という言葉のYesではなく、前金や事前予約といった行動のYesです

自分やチームがどのくらいAIを顧客理解の相棒にできそうか、先に肌感をつかんでおきたい方は、5分ほどのAIリテラシー診断から始めてみてください。

顧客は商品を「買う」のではなく「雇う」。JTBDとは何か

JTBDは英語のJobs to be Done、直訳すれば「片付けるべき用事」です。マーケティングでよく引かれる、有名なたとえ話から入りましょう。ホームセンターでドリルを買う人がいます。その人が本当に欲しいのはドリルでしょうか。違います。欲しいのは壁に開く「穴」です。ここまではよく聞く話ですが、JTBDはもう一段掘ります。では、なぜ穴が欲しいのか。壁に棚を取り付けて、家族写真を飾って、それを眺めながら食卓につきたいから。つまりその人がドリルに任せた用事は「家族の思い出をいつも目に入る場所に置く」ことでした。

この視点に立つと、商品は「買われる」ものではなく「雇われる」ものだと見えてきます。顧客はある状況に置かれていて、それを前に進めたい。そのために手近な何かを雇う。今日はドリルを雇ったけれど、明日は接着フックを雇うかもしれないし、写真を飾ること自体をやめて、スマホの待ち受けにするかもしれません。競合はドリル同士の中にいるとは限らないのです。

有名なミルクシェイクの調査が、この感覚をよく表しています。あるファストフードチェーンが、なぜ朝の時間帯にシェイクが売れるのかを調べたところ、買っていたのは長い車通勤をする人たちでした。彼らがシェイクに任せていた用事は「退屈で単調な運転を、片手で少しずつしのげる相棒になること」。だから競合は他社のシェイクではなく、すぐ食べ終わってしまうドーナツや、手がべたつくバナナだったわけです。味を競っても意味がありません。雇われている用事が「退屈な通勤の相棒」なら、勝負どころは、飲み終わるまでの時間の長さや片手で扱える手軽さになります。

ここで大事なのは、顧客自身は自分の用事を言葉にできないことがほとんどだという点です。ドリルを買いに来た人に「本当は何がしたいんですか」と聞いても、たいていは「いや、穴を開けたくて」で止まります。だから作り手が氷山の下まで潜って、本当の用事を掘り当てにいく必要があります。この掘り方こそが、JTBDを実務で使えるかどうかの分かれ目になります。

「いいですね」はなぜ最悪の言葉なのか

顧客理解の話をすると、必ず出てくるのが冒頭のヒアリング失敗です。全員に褒められたのに誰も買わない。私は、顧客インタビューで「いいですね」と言われた瞬間、その回から得られた情報はほぼゼロだと考えています。理由は3つあります。

ひとつ目は、ノーコストで言えることです。「いいですね」を言うのに、相手の財布は1円も動いていませんし、カレンダーの予定も1つも埋まっていません。人間は、目の前の相手を傷つけない範囲でなら、いくらでも好意的な言葉を無料で配れます。特に日本のビジネスの場では、相手のアイデアを面と向かって否定するほうがよほど失礼だという感覚があります。だから優しい人ほど褒めてくれる。褒め言葉の多さは、相手の優しさの指標であって、需要の指標ではありません。

ふたつ目は、それが未来の話だということです。「使うかもしれません」「あったら便利そうです」は、まだ来ていない自分についての予想にすぎません。人は未来の自分を、実態よりずいぶん立派に描く癖があります。ダイエット器具を買った日の自分が、毎日使う未来を確信していたのと同じです。私の実感では、「使うかも」と答えた10人のうち、実際に行動する人は1人いるかどうか。9割は善意の予想が外れます。

3つ目が、いちばん怖い理由です。「いいですね」をもらうと、作り手の学習が止まります。賞賛を検証済みの証拠だと勘違いして、安心して次の工程へ進んでしまう。本当はまだ何ひとつ確かめていないのに、確かめた気になる。冒頭の担当者がまさにこれでした。20回のインタビューで20回学べたはずが、20回とも「いいですね」で満足して、何も学ばずに開発へ進んでしまったのです。

ではどうするか。答えはシンプルで、言葉のYesを集めるのをやめ、行動のYesを取りにいくことです。前金、事前予約、紹介の約束、これらは相手のコストが実際に動いています。ここは新規事業の顧客検証全体に効く原則なので、インタビューそのものの設計は顧客に向き合うMom Testの考え方でも詳しく扱っています。

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用事は3層でできている。機能・感情・社会の役割

「いいですね止まり」から抜け出す鍵は、用事を分解して見ることです。顧客が片付けたい用事には、いつも3つの層があります。何を達成したいかという機能的役割、どう感じたいかという感情的役割、そして他者にどう見られたいかという社会的役割です。優れた事業は、この3層すべてを捉えています。逆に、うまくいかない事業のほとんどは、機能的役割ばかりを語り、感情と社会の役割を素通りしています。

顧客が任せたい用事 ミルクシェイクの例
機能的役割 何を達成したいか 空腹を満たす、片手で摂れる
感情的役割 どう感じたいか 退屈な運転を紛らわせたい、少しの楽しみが欲しい
社会的役割 他者にどう見られたいか だらしなく見えない、車内を汚さない

この3層レンズがなぜ効くのか、2つの実例で腹落ちさせます。ひとつは、あるベビーシッター事業の話です。仕組みは便利で、機能的には文句のつけようがありませんでした。ところがヒアリングでは「便利だね」で全員が止まる。掘っていくと、母親たちの心には「子どもを他人に預けるなんて」という罪悪感と、「あの家はよそに預けてまで」という世間体の不安が働いていました。つまり感情と社会の層に、乗り換えを止める強いブレーキがかかっていたのです。そこで、保育士資格を持つお姉さんが送り迎えする形にして安心感を持たせ、利用シーンを美容院に行く2時間だけに限定して罪悪感を下げました。商品の中身はほとんど変えていません。捉える層を変えただけで、事業が回り始めました。

もうひとつは、京都のある漆塗り職人の話です。丁寧に作られた器が、なかなか売れませんでした。作り手は「品質は最高なのに」と機能の話ばかりしていました。でもお客さまに話を聞くと、その器を買った人は、母親の還暦祝いに贈っていたり、娘の結婚の記念に選んでいたりしました。彼らが本当に雇っていたのは「器」ではなく、「家族への愛情を、形にして手渡せる媒介者」だったのです。この用事に気づいてから、売り方が変わりました。器そのものではなく、それを誰にどんな気持ちで渡す一品なのかを語るようにしたのです。これは伝統工芸だから特殊、という話ではありません。女性向けの事業でも、法人向けの堅い商材でも、機能だけを語って感情と社会の役割を見落とす失敗は、驚くほど共通して起きます。

氷山の下を掘る3つの問いと、Job Story

では、その氷山の下をどうやって掘るのか。私が使っているのは3つの問いです。順番に聞いていくと、表面の要望から本当の用事まで、自然に降りていけます。

1つ目は状況の問いです。そのとき、何をやろうとしていましたか。2つ目は動機の問いです。それができたら、次に何をしたかったのですか。3つ目は成果の問いです。最終的にどうなれば、うまくいったといえましたか。この3つの答えをつなげると、「〔状況〕のとき、〔動機〕したい、なぜなら〔成果〕だから」という1文になります。これをJob Story(ジョブストーリー)と呼びます。

翻訳の感覚を、身近な例でつかんでください。経理の担当者が「Excelでの月末処理がしんどい」と言ったとします。表面の用事は「Excelを速くしたい」です。ここで真に受けると、Excelの高速化ツールを作ることになります。でも3つの問いで掘ると、状況は「月末になると3日間、深夜まで数字を突き合わせている」、動機は「この作業を早く終わらせたい」、成果は「その3日を取り戻して、娘と一緒に夕飯を食べたい」でした。つなげると、「月末の締め作業で毎回3日つぶれるとき、この時間を短くしたい、なぜなら娘と夕飯を食べる時間を取り戻したいから」。本当に売れる価値は、Excelの高速化ではなく、家族との時間を取り戻すことのほうにありました。同じ機能を提供するにしても、どちらの用事に向けて売るかで、刺さり方がまるで変わります。

記入例で手を動かす。架空の幼児食サブスク

ここからは、架空の事業でJTBDを一周させてみます。題材は「こそだてごはん」、共働き夫婦向けに、管理栄養士が監修した幼児用の夕食を、平日18時に届けるサブスクです。

最初の仮説は、よくある入口でした。「忙しくて夕飯を作れない共働きのお母さん向けに、栄養バランスの良い幼児食を月2万円で届ける」。10人のママ友に聞くと、全員が「いいね、便利」と答えてくれました。冒頭の失敗と同じ光景です。案の定、誰も申し込みませんでした。

そこで3つの問いで氷山の下を掘り直します。状況は「保育園から帰った18時、疲れ切って料理する気力がゼロのとき」。動機は「子どもにちゃんとしたものを食べさせたい」。成果は「手抜き母親だと自分を責めずに済むこと」でした。Job Storyにすると、「保育園から帰った18時、料理する気力がないとき、子どもにちゃんとしたものを食べさせたい、なぜなら手抜き母親だと自分を責めたくないから」。ここで、用事を3層に分けてみます。

こそだてごはんで顧客が任せたい用事
機能的役割 平日の夕食を用意する、栄養バランスを確保する
感情的役割 手作りしてあげられない罪悪感を消したい、今日も乗り切れたと安堵したい
社会的役割 レトルトばかり食べさせる家だと思われたくない、連絡帳に胸を張って書ける食事にしたい

見えてきたのは、機能的にはみんな欲しがるのに、いざ「便利さ」を買おうとすると、手抜きや他人任せという自己否定と世間体がブレーキとして発動する、という構造でした。これが「便利だね止まり」の正体です。

そこで、商品の中身はほぼ変えず、訴求だけを作り直しました。「時短宅配」をやめて、「管理栄養士があなたの代わりに栄養を考えた半調理キット。盛り付けと最後のひと手間だけ、ママやパパが仕上げる」にしたのです。自分の手で仕上げたという感覚を残すことで罪悪感を下げ、仕上げた料理の写真を連絡帳に載せられる導線を足して社会的役割も満たしました。結果、機能はほとんど同じでも、申し込みが入り始めました。捉える用事の層を変えただけです。先ほどのExcelの例で言えば、「Excel高速化」を作らずに「月末の3日を短縮して娘と夕飯を食べる時間を取り戻す」を売ったのと、まったく同じ構造だとわかります。

この氷山を掘る作業は、AIを壁打ち相手にすると一気にはかどります。顧客の発言と自分の事業を渡して、本当のJobの仮説を出させるプロンプトです。角括弧を自分の題材に置き換えて、そのまま貼ってください。

あなたは新規事業の顧客理解を支援する、JTBD(ジョブ理論)の専門コーチです。
私の事業と、顧客から実際に聞いた発言を渡します。

■私の事業(一行で):[例:共働き世帯向けの幼児食サブスク]
■顧客の表面的な発言:[例:料理する時間がなくて困っている]
■顧客の属性・状況:[年代・職業・家族構成・その発言が出た場面]

次を出力してください。
1. この発言の「表面のJob」と、その下に隠れていそうな「本当のJob」の仮説を3つ、
   それぞれ根拠つきで。
2. 各仮説を「〔状況〕のとき、〔動機〕したい、なぜなら〔成果〕だから」の
   Job Story形式で1文に。
3. この発言を鵜呑みにすると作りかねない「間違ったソリューション」を1つ。
4. 本当のJobを確かめるために、次のインタビューで聞くべき
   「過去・具体・相手主役」の質問を5問。未来仮定(もし〜があったら使いますか)は
   禁止で、過去の具体的な行動を引き出す質問にすること。

インタビューとAI検証。そのまま貼れるプロンプト集

Job Storyの仮説ができたら、実際の顧客に会って確かめにいきます。ここでの鉄則は、直近1ヶ月以内に本当にあった具体的なエピソードだけを聞くこと、そして最初の30分は自分のアイデアを一切口にしないことです。アイデアを先に説明した瞬間、相手はアイデア評価モードに入り、「いいですね」を返すスイッチが入ってしまいます。だから最初は相手の生活と過去の行動だけを聞きます。「最後にその作業をやったのはいつですか」「その日、何がきっかけで始めたんですか」といった問いから入るわけです。

質問をつくるときは、5つの書き換え方向を頭に置いてください。意見を聞かず行動を聞く、未来を聞かず過去を聞く、抽象を聞かず具体を聞く、自分の話でなく相手の話をさせる、言葉のYesでなく行動のYesを取りにいく。この5つで、質問の質はほぼ決まります。自分で作った質問リストがこの原則に沿っているか、AIに添削させると精度が上がります。

あなたは顧客インタビュー設計のレビュアーです。JTBDと、
褒め言葉を鵜呑みにしないインタビューの原則に精通しています。
私が作った質問リストを、1問ずつ添削してください。

■私の質問リスト:
"""
[ここに質問を貼る。例:もしAIが領収書を自動で仕訳してくれたら便利だと思いますか?]
"""

各質問について、次を表で出力してください。
| 元の質問 | 判定(OK/NG) | NGの型(意見・未来仮定・抽象・自分語り・言葉のYes誘導) | 書き換え後の質問 |
さらに、5つの書き換え方向(意見→行動・未来→過去・抽象→具体・自分→相手・
言葉のYes→行動のYes)のどれで直したかを各行に明記してください。
リスト全体で「自分のアイデアを匂わせている質問」があれば警告してください。
最後に、書き換え後から8〜10問を
「状況→機能→感情→社会→代替手段→予兆」の順に並べた60分用ガイド案も作ってください。

インタビューを録音したら、文字起こしを読み込ませて構造化します。ここでの禁じ手は、発言を自分の言葉に要約してしまうことです。要約すると、その人の生々しいニュアンスと、あとでピッチに使える肉声が消えてしまいます。一字一句のまま抜き出すのはAIが得意なので、任せてしまいましょう。

あなたは顧客インタビュー分析のアシスタントです。以下の文字起こしを読み、
構造化してください。

■仮名・セグメント属性:[ ]
■私の事前仮説:H1:[ ] H2:[ ] H3:[ ]
■文字起こし全文:
"""
[ここに貼る]
"""

出力フォーマット:
(1) 一字一句そのままのverbatim引用を、感情の動きが強い順に5件。
    各件に「なぜ重要か」を1行。要約や言い換えは禁止。
(2) Job Storyを「〔状況〕のとき、〔動機〕したい、なぜなら〔成果〕だから」の形で、
    機能・感情・社会それぞれ1件ずつ。
(3) この発言者の痛みスコア(1〜10)と、その根拠発言を3件(頻度・影響・感情の3種)。
(4) H1・H2・H3それぞれに「確認・反証・中立・言及なし」を判定し、根拠発言を引用。
(5) 事前仮説に反する反証発言を最低2件。なければ「該当なし」と明記し、
    黙って省略しないこと。
(6) 次回のインタビューで確かめるべき未解明の点を3つ。

良い反応なのに誰も申し込まない、という状態に陥ったら、購買を4つの力に分解して診断すると原因が見えます。今の不満(Push)、新しい解決策への期待(Pull)、既存への惰性(Habit)、乗り換えの不安(Anxiety)の4つです。採用は「Push+Pull」が「Habit+Anxiety」を上回ったときに起きます。「いいですね止まり」の正体が、この4つのどれなのかを突き止めます。

あなたは購買・乗り換えを4つの力(Push・Pull・Habit・Anxiety)で
診断する専門家です。「良い反応なのに誰も買わない」状態を分解します。

■事業:[例:中小工務店向けの現場写真AI日報アプリ]
■想定顧客と現状の代替手段:[例:社長・今はチャットと手書き日報]
■これまでのインタビューで聞いた発言(賛辞・懸念・言い訳など):
"""
[ここに貼る]
"""

出力:
1. 発言を Push(今の不満)・Pull(新解決策への期待)・Habit(既存への惰性)・
   Anxiety(新規導入の不安)の4つに分類(表)。
2. 「Push+Pull > Habit+Anxiety」に照らし、今どの力が足りない・強すぎるかを診断。
3. 「いいですね止まり」の正体が Push弱・Pull弱・Habit強・Anxiety強 の
   どれかを結論づけ、根拠発言を引用。
4. 最も効く打ち手を3つ(例:Anxietyが正体なら不安を消すオンボーディングや返金保証)。
5. 次に取りにいく行動のYes(前金・事前予約・紹介の約束のどれか)を提案。

ここまで読んで、AIに任せすぎでは、と感じた方もいるかもしれません。線引きははっきりしています。AIに任せてよいのは、文字起こしと一次分析までです。発言の抜き出し、Job Storyへの整形、痛みのスコア化、この辺りは10分で終わります。以前なら数時間かけていた作業が、桁違いに速くなりました。一方で、この発言の裏にある本当の感情は何か、次のインタビューで何を確かめに行くか、ここをAIに丸投げした瞬間、事業は他人事になります。顧客の心に手を伸ばす行為そのものは、AIに代替させてはいけない部分です。私たちのAIコンサルティングWARPでも、新規事業チームと一緒にこのプロンプトを組み立てながら、ここから先は人が担う、という線を必ず引くようにしています。

よくある失敗と、その抜け方

最後に、現場で繰り返し見てきたつまずきを、対策とセットで共有します。自分のインタビューがうまくいっていないと感じたら、たいていこのどれかに当てはまっています。

いちばん多いのは、最初に自分のアイデアを説明してしまうことです。相手は評価モードに入り、優しい人ほど褒めてくれる。最初の30分はアイデアを封印して、相手の過去の行動だけを聞いてください。次に多いのが、「もし〜があったら使いますか」という未来仮定を聞いてしまうこと。人は未来の自分を実態より格好よく描くので、答えはほぼ当てになりません。「最後にその作業をやったのはいつですか」「似た用途に直近でいくら払いましたか」と、過去の具体的な行動に書き換えます。

機能的役割だけを深掘りして、感情と社会の役割を無視するのも、頻出の失敗です。伝統工芸も、女性向けの事業も、法人向けの堅い商材も、軒並みここで足をすくわれます。3層レンズを必ず通して、どう感じたいか、他者にどう見られたいか、まで言語化してください。表面のJobで解決策を作ってしまうのも同じ根っこです。「Excelが嫌」を真に受けてExcel高速化ツールを作る前に、3つの問いで「娘と夕飯を食べたい」まで掘る。ここを飛ばすと、誰も欲しがらないものが出来上がります。

分析の段階では、発言を自分の言葉に要約してしまう失敗と、AIに解釈まで丸投げする失敗に気をつけてください。verbatimは一字一句のまま保存し、解釈は別の欄に分ける。解釈と次の一手は自分で握る。そして、n=1の逸話を真に受けないこと。1人の心を動かした話は魅力的ですが、事業になるのは、5人以上で同じ用事が再現するパターンだけです。新しい痛みが出てこなくなる飽和を確かめてから、次へ進んでください。最後にもう一度言います。「いいですね」という賞賛を証拠と勘違いして開発へ進まないこと。取りにいくのは、前金や事前予約という行動のYesです。

まとめ

  • 顧客は商品を「買う」のではなく、状況を前に進めるために「雇う」。表面の要望の下に隠れた、片付けたい用事を見つけるのがJTBDです
  • 用事は機能・感情・社会の3層でできています。機能だけを聞いて満足せず、どう感じたいか、どう見られたいか、まで掘ると、いちばん売れる価値が見えてきます
  • 氷山の下は、状況・動機・成果の3つの問いで掘り、「〔状況〕のとき、〔動機〕したい、なぜなら〔成果〕だから」というJob Storyに落とします
  • 検証するのは言葉のYesではなく行動のYes。AIには文字起こしと一次分析まで任せ、感情の解釈と次の一手は自分で握ります

顧客理解は、フレームワークの知識ではなく、誰かひとりの顔がはっきり浮かぶかどうかで決まります。今日会いにいく相手が、どんな状況で、何を片付けたくて、あなたの事業を雇うのか。それが1文で言えるようになったとき、事業はようやく地に足がつきます。自社の題材で顧客の用事を掘り起こしたい、AIを事業づくりの相棒にしたいという方は、WARPの個別相談からお声がけください。最初のJob Storyを、一緒に手を動かしながら形にしていきます。


参考文献

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