こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
**8月11日にGrok Bot、12日にGrok 4.6。**SpaceXAIが数日のうちにエージェント製品と新モデルを立て続けに出してきました。Grok Buildも直前に正式版が出ています。
ベンチマークの読み方には注意が要ります。ベンダー公開の比較表を正直に読むと、話題になっているほど圧勝ではありません。それでも「本気を出してきた」という評価には同意で、理由は表の別のところと、価格にあります。
先に立場を書いておきます。**当社は現在Grokを推しています。**Grok Buildを実務のメインで使っていて、Codexも併用しています。理由は後半の価格の節に書きますが、コストパフォーマンスで見たときGrokの優位が明確になりつつあるというのが現時点の評価です。
この3日間で何が出たのか
事実を並べます。
Grok 4.6は2026年8月12日公開1。前世代のGrok 4.5は7月8日公開でしたから、約1か月での更新です。
Grok Botは8月11日にベータ公開されました2。位置づけがなかなか強気で、常時稼働するAIエージェントのチームが自分専用のクラウド環境を持ち、顧客の既存ツールにサインインして、多段階の作業を監督なしで完了するというものです。Mac・iOSから始まり、Windows・Linuxのデスクトップ版も出ています。SuperGrok Heavyなどの既存の上位プランに同梱される形です2。
Grok Buildはコーディングエージェントです。プロジェクトフォルダの中でコマンドラインツールとして動き、コードベースに向けて自然言語で指示を出す。「このリポジトリの構成を説明して」「このAPIにレート制限を追加して」といった使い方が想定されています2。7月28日に早期ベータ、8月7日にv1.0.0が出ています3。
会社そのものも変わっています。2026年2月2日にSpaceXがxAIを全株式交換で買収し、5月にxAIは独立会社として解散、7月6日にSpaceXAIという新しい社名とロゴが公開されました4。6月にはIPOも済ませています。つまり今のGrokは、ロケット会社とSNSと同じ屋根の下にあります。
ベンチマークを正直に読む
送っていただいた表を、勝敗で数えます。
| ベンチマーク | Grok 4.6 High | Grok 4.5 High | GPT-5.6 Sol Max | Fable 5 Max |
|---|---|---|---|---|
| AA Intelligence Index | 61 | 56 | 61 | 62 |
| GDPVal-AA v2 | 1753 | 1526 | 1728 | 1741 |
| CursorBench v3.2 | 69.9% | 66.7% | 67.2% | 70.5% |
| DeepSWE v1.1 | 65.9% | 54% | 73% | 70% |
| FrontierCode v1.1 | 61.3% | 56.6% | 60.6% | 64.9% |
| APEX-Agents | 57.5% | 47.1% | 56.7% | 59.2% |
| Terminal-Bench v3.0 | 26% | 15.7% | 34.6% | 34.1% |
| APEX-SWE | 56.4% | 53.6% | 記載なし | 58.8% |
| AA-Briefcase | 1577 | 1313 | 1502 | 1574 |
| Harvey LAB (Vals) | 15.8% | 12.9% | 2.5% | 11.3% |
10項目のうち、Grok 4.6が最高値なのは3項目です。Fable 5 Maxが5項目、GPT-5.6 Sol Maxが2項目。しかもこれはSpaceXAI自身が公開した比較表で、脚注には「第三者モデルのスコアは自己申告値または公開値のうち最良のもの」と書かれています5。ベンダーが自社に有利な条件で作れる表で、この結果です。
だから「圧勝」という読み方は、私はしません。
それでも本当の見どころは別にあります。前世代からの伸びです。
AA Intelligence Indexが56から61。GDPVal-AA v2が1526から1753。DeepSWE v1.1は54%から65.9%。APEX-Agentsは47.1%から57.5%。AA-Briefcaseは1313から1577。Terminal-Benchに至っては15.7%から26%です。
**1か月でこれだけ動いています。**絶対値でトップを取ったかより、この傾きのほうが怖い。次が同じ幅で伸びたら順位は変わります。
そしてベンダー表への疑いは、第三者の指標で確かめられます。Artificial Analysis Intelligence Index v4.1.1は、GDPval-AA v2、τ³-Banking、Terminal-Bench v2.1、SciCode、Humanity's Last Exam、GPQA Diamond、CritPt、AA-Omniscience、AA-LCRの9評価を合成した指標です6。
上位はこうなっています。**Claude Opus 5(max)が63、Claude Fable 5(フォールバック付き)が62、GPT-5.6 Sol(max)が61、そしてGrok 4.6(high)が61。**続いてKimi K3(max)が60、Qwen3.8 Maxが58、GPT-5.6 Terra(max)とMuse Spark 1.2が57、Grok 4.5(high)が56、Claude Sonnet 5(max)が556。
つまり第三者の合成指標でも、Grok 4.6はGPT-5.6 Solと同点の61で、首位のClaude Opus 5とは2ポイント差。前世代の56から5ポイント上げて、上位集団に入っています。ベンダー表の主張は、ここでは概ね裏付けられています。
AI駆動開発を、実務で使えるところまで
トレンドを追うだけで終わらせないための実践プログラムがWARPです。元大手DX・データ戦略の専門家が、現場で動かすところまで伴走します。
大きくせずに伸ばした、という選択
技術的にいちばん面白いのはここです。
Grok 4.6はパラメータ数1.5兆で、Grok 4.5と同じV9基盤のままです。改善は事後学習、つまり教師ありファインチューニングと強化学習に寄せられています1。モデルを大きくして殴ったのではありません。
これは業界全体にとって示唆的だと思います。基盤を据え置いたまま、post-trainingだけで前世代を大きく上回れたという実例だからです。スケール則で押し切る時代から、同じ土台をどう仕上げるかの勝負に移りつつある、という見方の裏付けになります。
ただし弱点もはっきり出ています。**Terminal-Bench v3.0が26%**で、GPT-5.6の34.6%、Fable 5の34.1%に対して明確に下です。ターミナル上で長い手順をこなす能力を測るベンチマークで、ここが弱い。
**Grok BuildとGrok Botという、まさにその能力を売りにする製品を同じ週に出しているのに、です。**製品の発表と実測値の間にこの差があることは、導入を検討する側は知っておいたほうがいいと思います。エージェント製品は、デモと実運用の落差が最も大きい領域です。
社内のAI活用がどの段階にあるかを測っておきたい方は、AIリテラシー診断で現在地を確認できます。
マスク氏が社内で言ったこと
製品の裏側にある意思の話です。
SpaceXの全社会議で、マスク氏は従業員にこう言っています。約29分の映像がSpaceXのXアカウントに投稿されました7。
我々はAIで勝たねばならない。未来は圧倒的にAIとロボットだからだ7
数字もかなり具体的です。SpaceXのAI収益が他のすべての事業ラインを「おそらく9月に」上回り、第4四半期にはさらに引き離す。AI計算資源を2027年末までに10ギガワットにしたい。そしてこう続けます。
来年末までに10GWのAIをオンラインにできれば、年間3,000億ドルから5,000億ドルの収益になる7
さらに「おそらく4〜5年で、AIはSpaceXの価値の99%になる」とも述べています7。ロケット会社の経営者が、自社の価値の99%はロケットではなくなると社内で言っているわけです。
そしてこの収益はStarshipと火星計画の原資に充てられ、その系はTesla・SpaceX・xAIの共同チップ工場Terafabを通っていく、という構図です7。TerafabについてはSpaceXとTeslaのTerafabで、公表値と報道の食い違いも含めて整理しました。
読み方として気をつけたいのは、これは目標であって実績ではないということです。10GWも、3,000億ドルも、99%も、まだ達成されていません。社内向けの鼓舞という性格も当然あります。ただ、この規模の目標を掲げた組織が実際に1か月でモデルを更新し、同じ週にエージェント製品を2つ出したという事実のほうを、私は重く見ます。言葉ではなく出荷の速度が意思を示しています。
価格をどう見るか。そして中国勢との差
ここが今回いちばん大きい変化です。性能の話より、価格のほうが競争上の一手として重いと思っています。
Grok 4.6のAPI価格は100万トークンあたり入力2ドル、出力6ドル。Grok 4.5から据え置きです8。xAI自身がこれを「他のフロンティアモデルの半額」と位置づけています8。
性能を1世代分上げて、価格を据え置いた。実質的な値下げです。しかもこの打ち手は、トークン量に比例してコストが増える開発者とエージェント構築者に、まっすぐ効きます。
第三者指標と価格を並べると、位置がはっきりします。
| モデル | AA Index | 入力(100万トークン) | 出力(100万トークン) |
|---|---|---|---|
| Grok 4.6 | 61 | 2.00ドル | 6.00ドル |
| Kimi K3(max) | 60 | 3.00ドル | 15.00ドル |
| Qwen3.8 Max | 58 | 公開情報を確認できず | 公開情報を確認できず |
| Grok 4.5 | 56 | 2.00ドル | 6.00ドル |
| DeepSeek V4 Flash | 52 | 0.14ドル | 0.28ドル |
Kimi K3と比べると、Grok 4.6はスコアで1ポイント上、出力価格は2分の1以下です9。ここは注目に値します。中国勢は「安さで殴る」という理解をされがちですが、上位帯に上がってきたKimi K3は決して安くありません。同じスコア帯で最も安いのはGrokになっています。
一方、DeepSeek V4 Flashは入力0.14ドル、出力0.28ドル9。桁が2つ違います。ただしAA Indexは52で、Grok 4.6とは9ポイント差。**ここは同じ土俵ではありません。**用途を絞って安く回すならDeepSeek、フロンティア級の能力が要るならGrok、という住み分けです。
なお中国勢の本当の差別化軸は、価格そのものよりオープンウェイトにあります。SWE-bench Verifiedで80.2%から80.6%の0.4ポイント帯に5モデルが並び、そのうちDeepSeek V4 Pro Maxは重みを公開しています9。自社環境で動かせることに価値を置くなら、この選択肢は依然として強い。
ただし条件も書いておきます。プロンプトが20万トークン以上になると入力4ドル、出力12ドルへ倍になります。Web検索・X検索・コード実行はそれぞれ1,000回あたり5ドルの別建てです8。長時間動くエージェントは、まさにこの倍額レンジと検索課金に入っていきます。カタログ価格だけで見積もると外れます。
それでも当社がGrokを推している理由
立場を明確に書きます。現時点のコストパフォーマンスは、Grokが頭ひとつ抜けつつあると見ています。
根拠は3つです。
**ひとつめ。同スコア帯で最安であること。**AA Indexで61を取りながら入力2ドル、出力6ドルというのは、上位集団の中で明らかに有利な位置です。1点上のFable 5、2点上のClaude Opus 5と比べたとき、日常業務で回す量を考えると差は効いてきます。
**ふたつめ。値上げせずに世代を上げたこと。**これは一度きりの安売りではなく、価格を競争軸として維持する意思表示だと読んでいます。マスク氏の社内発言と合わせると、収益の取り方をモデル単価ではなく規模に置いていることが分かります。
**みっつめ。実際に使っているからです。**当社はGrok Buildを実務のメインで使っています。Codexも併用しています。カタログ比較ではなく、日々の作業で回した実感として、価格あたりの仕事量が良い。
体感の話を具体的に書きます。**Grok Buildの使用感は、Fable 5と遜色ありません。**コードを読ませて直させる一連の作業で、明確に劣ると感じる場面が少ない。そのうえで価格が半分なら、選ぶ理由になります。マルチモーダルに扱えることも、実務では想像以上に効きます。画面のスクリーンショット、図面、手書きのメモ。テキストに起こしてから渡す手間が消えるのは、地味ですが毎日効く差です。
ただし**日本語の生成能力には、まだ一部違和感が残ります。**言い回しが不自然になったり、敬体と常体が混ざったりする場面があります。ここはClaudeのほうが安定しています。日本語で最終成果物を出す業務では、まだ手が要る。早く追いついてほしい、というのが正直な希望です。
**よっつめ。画像・音声・動画を、同じ場所で作れること。**ここは意外と語られませんが、実務では大きい差です。
GrokはGrok Imagineとして画像と動画の生成を持っています。画像は1枚0.02ドル、品質重視のモードで1Kが0.05ドル、2Kが0.07ドル10。8月7日にはGrok Imagine Image 2.0が出て、指示への追従と編集が改善されました3。
動画も強化されています。Grok Imagine Video 1.5は、テキストから動画、画像から動画、参照画像から動画に対応し、テキストと画像からの生成はネイティブ1080pです。1秒から15秒のクリップを生成し、API価格は480pで1秒0.05ドル、720pで0.07ドル10。
そして音声です。7月29日にGrok Voice Think Fast 2.0という音声対音声のモデルが出て、8月5日に既定になりました。価格は音声1分あたり0.08ドル3。
私が注目しているのは、動画生成に音声が同一パスで乗ることです。音楽・効果音・セリフを、別工程の音声処理ではなく同じ生成の中で作る。1秒0.08ドルという設定です10。動画を作ってから音を当てる、という手順が要りません。
**これはClaudeにはない領域です。**Claudeは画像も音声も動画も生成しません。テキストとコードでは非常に強いのですが、成果物がテキスト以外に及ぶ業務では、そもそも土俵に上がらない。当社の用途で言えば、資料の図版、説明動画、音声ガイドといった作業がこれに当たります。
**この差は、モデルの賢さの比較とは別軸です。**ベンチマークの点数には出てきません。ただ、社内で使うツールを絞ろうとしたとき、「これ1つで画像も動画も音声も出せる」という条件は、契約と運用の本数をそのまま減らします。明確なアドバンテージだと見ています。
公平を期すために弱点も繰り返します。Terminal-Benchは26%で明確に下です。長い手順を自律的にこなす場面では、まだ他モデルのほうが安定します。当社が複数を併用しているのは、そこと日本語を埋めるためです。1つに寄せるのではなく、価格が効く領域にGrokを厚く置くというのが、現時点での実務的な答えだと思っています。
そして数週間後にはGrok 4.7が控えています。2.1兆パラメータで、今度は基盤そのものが大きくなる予定です1。今回が「大きくせずに事後学習で5ポイント」だったことを考えると、次は期待していいと思っています。日本語がそこで改善されるなら、当社の使い分けは一段シンプルになります。
なお、**中国勢ではKimi K3を高く評価しています。**AA Indexで60というのは上位集団そのもので、「安いから使う」という段階はとうに過ぎています。価格は出力15ドルとGrokより高いので当社の主力にはしていませんが、実力は本物です。中国勢を価格帯だけで括る見方は、もう実態に合っていません。
そしてSpaceXAIが価格以外で狙っている場所も見えます。エージェントの完成度と統合です。Grok Botが「自分専用のクラウド環境を持ち、既存ツールにサインインして監督なしで動く」設計なのは、モデル単体ではなく動く環境まで込みで売るという選択です。オープンウェイトを自前で回す側が最も面倒に感じる部分を、そのまま製品にしています。
ただし、東京リージョンで使えません
推している立場で書いていますが、**日本企業にとって最大の懸念はここです。**価格でも性能でもありません。
Grokは東京リージョンを指定して使えません。
Amazon Bedrockには2026年6月にGrokが載りました。ただし載っているのはGrok 4.3で、今回の4.6ではありません11。そしてその4.3のリージョン内推論に対応しているのは、**米国西部(オレゴン)、米国東部(バージニア北部)、米国東部(オハイオ)**です。7月にはAWS GovCloud(US-West)にも展開されましたが、これも米国です11。
アジアパシフィック(東京)は入っていません。
さらにデータ保持についても条件があります。AWSの説明によれば、store=false を指定するだけでは保持ゼロを保証しません。確実にゼロにするには、実効的なデータ保持モードが none であり、かつそのモードを許すモデルであることが必要です11。
日本で仕事をしていると、この一点が効きます。
理由は感情ではなく手続きです。個人情報の越境移転は本人同意か、移転先の体制についての情報提供が要ります。業種によっては監督官庁のガイドラインで所在が問われます。そして最も現実的なのは、顧客との契約と社内規程です。「データは国内に留まること」と書いてある契約は珍しくありません。技術的にどれだけ優れていても、この一行があると使えない。
つまり日本企業の実務では、**モデルの選定に「東京リージョンで動くか」という列が1本増えます。**そしてこの列は、ベンチマークの点数や価格より先に効きます。該当しなければ、他の列を見る前に落ちるからです。
当社が用途を分けているのは、この事情もあります。**リージョン制約が効かない領域ではGrokを厚く使い、データの所在が効く領域では国内で動く構成を使う。**ZEROCKを国内のAWSサーバーで運用しているのは、この後者の要求に応えるためです。
なお、この話はGrokだけの問題ではありません。AIモデルの供給が米中に集中していること自体が、日本にとっての構造的な依存です。同じ形の問題を測位・エネルギー・食料まで広げて整理したものがみちびき7号機と日本の依存構造にあります。社内データをどこへ預けるかの論点はLLMベンダーへの直接データ提供が招く危機にまとめました。
一方で、ZDRの扱いは評価しています
リージョンの話とは別に、**データ保持そのものの設計は評価できます。**ここは公平に書きます。
xAIの既定では、APIのリクエストとレスポンスは監査目的で30日間サーバーに保存されます(保存時暗号化)。ただしこの データで学習は行わず、30日後に自動削除されます12。
そしてZDR(Zero Data Retention、ゼロデータ保持)を有効にすると、APIの入力(プロンプト)と出力(生成トークン)がディスクに永続化されません12。当社が確認した範囲では、これは上位プランの購入ではなく設定として有効化でき、追加料金は発生しません。ここは素直に良いと思っています。
料金体系の中に「データを守るなら上位契約へ」という段差を作らなかった、ということです。**コンプライアンス要件を、支払える会社だけの特典にしていない。**細かい話に見えますが、社内稟議の通しやすさに直結します。
注意点も2つあります。ひとつはZDRはチーム単位で、APIキーごとに個別に有効化することはできません12。もうひとつは、Grok BuildもAPIキー経由の利用はZDRに従う一方、ZDRを無効にしている場合はCLIの /privacy コマンドでデータ保持を止める必要があるという設計です12。既定で全部止まるわけではないので、導入時に一度触っておく必要があります。
ただし、ここは手放しで褒める話でもありません。**2026年7月に、Grok Buildがコードベース全体をxAIのストレージへアップロードしていたことが報じられ、当時のプライバシー設定が期待どおりに機能していなかったという指摘が出ました。**SpaceXAI側は、Grok Buildは提供開始以来ZDRを完全に尊重しており、CLIでのアップロード無効化は常に可能でその選択は尊重されていたと説明しています13。**事実関係には食い違いが残っています。**本記事はどちらが正確かを判定しません。
ただ実務の教訓は明確です。ポリシーが良いことと、実装がそのとおり動くことは別です。当社がGrok Buildを主力にしているのは事実ですが、扱うデータの性質によって使い分けています。ここは自社で挙動を確認したうえで判断すべき部分です。同じ構造の話はテナント分離はなぜ「あとから」壊れるのかに書きました。
正直に言えば、**東京リージョンが解消されれば当社の使い分けはもっと単純になります。**ZDRという土台はできているので、あとは所在だけです。Grok 4.7でモデルが良くなることより、私はこちらを待っています。
なお、オープンウェイトを自社環境で動かす選択肢そのものは、日本企業にとって現実的な検討対象です。マルチテナントSaaSにデータを預けるときの論点はテナント分離はなぜ「あとから」壊れるのかに整理しました。
日本企業はどう向き合うか
まとめます。
2026年8月11日にGrok Bot、12日にGrok 4.6。会社は2月にSpaceXへ吸収され、7月にSpaceXAIへ改称。マスク氏は社内で「AIで勝たねばならない」と述べ、2027年末までにAI計算資源10GW、AIがSpaceXの価値の99%になるという見通しを示しています。
ベンダー公開表では10項目中3項目が最高値。ただし第三者のArtificial Analysis Intelligence Indexでも61でGPT-5.6 Solと同点、首位のClaude Opus 5とは2ポイント差まで来ています。しかもモデルを大きくせず事後学習で5ポイント上げた。弱点はTerminal-Benchと日本語生成で、前者は新製品の主戦場と重なります。
そして価格は据え置きの入力2ドル、出力6ドル。同じスコア帯で最も安く、1ポイント下のKimi K3(入力3ドル、出力15ドル)より出力は2分の1以下です。性能を上げて価格を据え置いた実質値下げが、今回いちばん重い一手だと見ています。
実務としてどうするか。モデルを1つに決め打ちしない、というのが現時点の答えだと思っています。1か月でこれだけ順位が動く市場で、特定モデル前提の作り込みをすると、次の更新で作り直しになります。プロンプトも評価も、モデルを差し替えられる形で持っておく。
そのうえで、自社の業務で何を測るかを先に決めておくことです。今回の表でも、GDPVal・Briefcase・法務系で強いモデルと、ターミナル作業で強いモデルは別でした。**ベンチマークの総合点は、自社の用途とほぼ関係ありません。**自社の実際のタスクを20件でも切り出して、候補モデルに同じ問題を解かせる。それが唯一まともな比較になります。
正直なところ、この分野は追いかけるだけで消耗します。1か月で世代が変わり、数週間後にはGrok 4.7が2.1兆パラメータで出ると予告されています1。全部を評価し続けるのは無理です。だからこそ、追う対象を「モデル」ではなく「自社の測り方」に置くほうが持続します。
そのうえで当社の現在地をもう一度書いておくと、主力はGrok Build、日本語の最終成果物と長い自律作業は他モデルで補う、という形です。Grok 4.7で日本語が改善されれば、この使い分けは要らなくなるかもしれません。そこは期待して待っています。
そして忘れやすいのが、選定の軸はベンチマークの点数だけではないということです。画像・音声・動画を同じ場所で作れるかどうかは、点数表のどこにも出てきませんが、契約と運用の本数を決めます。自社が何を作る会社なのかによって、見るべき列が変わる。
さらに日本企業には、点数より先に効く列があります。東京リージョンで動くかどうかです。Grokは現時点でここに該当しません。契約書に「データは国内に留まる」と書いてある案件では、性能も価格も検討の対象になりません。この列は最初に見るべきで、最後に見ると全部やり直しになります。
AI活用の設計や、どのモデルをどこに使うかの整理について相談したい方は、WARPの考え方が参考になるかもしれません。具体的な状況に踏み込んだ相談はこちらからどうぞ。
Footnotes
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Grok 4.6は2026年8月12日に公開。パラメータ数1.5兆でGrok 4.5と同じV9基盤を用い、改善は事後学習(教師ありファインチューニングおよび強化学習)によるものでスケールの拡大によるものではないとされる。長時間動作するエージェントおよび対話的・視覚的作業に重点が置かれている。より大きい2.1兆パラメータのGrok 4.7が数週間後に続く予定とされる。公式発表は https://x.ai/news/grok-4-6 (本記事執筆時点で当方からのアクセスはCloudflareにより遮断されたため、内容は同発表を引用する二次情報により確認した)https://kie.ai/blog/what-is-grok-4-6 / https://www.buildfastwithai.com/blogs/grok-4-6-preview ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
Grok Botは2026年8月11日にベータ公開。常時稼働するAIエージェントのチームが専用のクラウド環境を持ち、顧客の既存ツールにサインインして多段階の作業を監督なしで完了するものとされる。Mac・iOSに加えWindows・Linuxのデスクトップ版が提供され、Androidは後日。既存の上位サブスクリプション(SuperGrok Heavy等)に同梱される。https://www.unite.ai/xai-launches-grok-bot-always-on-ai-teammates-with-their-own-cloud-computers/ / Grok Buildはコーディングエージェントで、プロジェクトフォルダ内のコマンドラインツールとして動作し、コードベースに対し自然言語で指示を与える。SuperGrok Heavy加入者から早期ベータで提供された。https://www.eweek.com/news/xai-grok-build-coding-agent/ ↩ ↩2 ↩3
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Grok Buildのリリース履歴。2026年7月28日にBuild Mode早期ベータ、2026年8月7日にv1.0.0(ダッシュボードおよびCLIの修正)。https://releasebot.io/updates/xai ↩ ↩2 ↩3
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2026年2月2日、SpaceXがxAIを全株式交換により買収し、xAIはSpaceXの完全子会社となった(xAI株1株につきSpaceX株0.1433株)。2026年5月にxAIは独立会社として解散し、AI部門はSpaceXAIへ改称。2026年7月6日に新しい社名とロゴがXで公開された。統合後の会社はSpaceX、xAI、Xを含む。https://finance.yahoo.com/technology/ai/articles/xai-makes-rebrand-spacexai-complete-215010760.html / https://www.socialmediatoday.com/news/spacex-rebrands-as-spacexai/824656/ ↩
-
本記事で参照したベンチマーク比較表は、SpaceXAIが公開したものである。同表の脚注には「Third-party model scores best of self-reported or publicly available.(第三者モデルのスコアは自己申告値または公開値のうち最良のもの)」と記載されている。ベンダー自身が作成した比較であることを前提に読む必要がある。本記事では、この点を補うために第三者指標であるArtificial Analysis Intelligence Indexを併記した。 ↩
-
Artificial Analysis Intelligence Index v4.1.1。GDPval-AA v2、τ³-Banking、Terminal-Bench v2.1、SciCode、Humanity's Last Exam、GPQA Diamond、CritPt、AA-Omniscience、AA-LCRの9評価を合成した指標。掲載されている主なスコアは、Claude Opus 5(max)63、Claude Fable 5(フォールバック付き)62、GPT-5.6 Sol(max)61、Grok 4.6(high)61、Kimi K3(max)60、Qwen3.8 Max 58、Muse Spark 1.2(xhigh)57、GPT-5.6 Terra(max)57、Grok 4.5(high)56、Claude Sonnet 5(max)55、GLM-5.2(max)53、GPT-5.6 Luna(max)52、DeepSeek V4 Flash 0731(max)52、Gemini 3.6 Flash 52、MiniMax-M3 45、MiMo-V2.5-Pro 43、Inkling 42、Nemotron 3 Ultra 38、Gemini 3.5 Flash-Lite 37、Muse Glimmer(high)35、Mistral Medium 3.5 30、Gemma 4 31B 30。https://artificialanalysis.ai/ ↩ ↩2
-
SpaceXの全社会議におけるイーロン・マスク氏の発言。約29分の映像がSpaceXのXアカウントに投稿された。「we must win on AI, because the future is overwhelmingly AI and robots」、AI収益が他のすべての事業ラインを「おそらく9月に」上回り第4四半期にさらに引き離すとの見通し、2027年末までにAI計算資源10ギガワットを目指すこと、「if we bring 10GW of AI online by the end of next year, it will be $300 billion to $500 billion a year in revenue」、「Probably in four or five years, AI will be 99% of the value of SpaceX」、およびこの収益がStarshipと火星計画の原資となりTesla・SpaceX・xAIの共同チップ工場Terafabを通るという記述は、いずれも同報道による。https://www.teslarati.com/spacexs-next-trillion-dollar-bet-has-nothing-to-do-with-rockets-musk-tells-staff/ / 本記事執筆時点でこれらは目標および見通しであり、達成された実績ではない。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
Grok 4.6のAPI価格は100万トークンあたり入力2.00ドル、出力6.00ドル。前世代のGrok 4.5(2026年7月8日公開)と同額の据え置きであり、xAIはこれを「half the price of other frontier models(他のフロンティアモデルの半額)」と位置づけている。https://www.basenor.com/blogs/news/xai-launches-grok-4-6-1753-elo-half-the-price-of-rival-frontier-models / コンテキスト長は50万トークン。プロンプトが20万トークン以上になると入力4.00ドル、出力12.00ドルへ倍額となる。Web検索・X検索・コード実行はそれぞれ1,000回あたり5.00ドル、コレクション検索は1,000回あたり2.50ドルの別建て。消費者向けはSuperGrok Heavyが月額300ドル、SuperGrokが30ドル、SuperGrok Liteが10ドル。キャッシュ入力の割引率は出典により0.30ドル(85%引き)と0.50ドル(75%引き)の記載が分かれており、本記事では確定値として扱わない。https://benchlm.ai/xai/api-pricing / https://www.aipricing.guru/xai-pricing/ ↩ ↩2 ↩3
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DeepSeek-V4-Flashは100万トークンあたり入力0.14ドル、出力0.28ドル。DeepSeek-V4-Proは入力0.435ドル、出力0.87ドル。Kimi K2.6は0.95ドル/4.00ドルで256Kコンテキスト、SWE-bench Verifiedで80.2%、オープンウェイト。Kimi K3は3ドル/15ドル。SWE-bench Verifiedで80.2%から80.6%の帯にDeepSeek V4 Pro Max、Gemini 3.1 Pro、MiniMax M3、Qwen3.7 Max、Kimi K2.6の5モデルが並び、この帯の出力価格は100万トークンあたり2.40ドル(MiniMax M3)から12ドル(Gemini 3.1 Pro)まで開く。DeepSeek V4 Pro Maxはオープンウェイトで提供される。https://deepseek.ai/pricing / https://benchlm.ai/moonshot/api-pricing / https://www.morphllm.com/llm-api ↩ ↩2 ↩3
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Grok Imagineは画像と動画の生成を担うモデル群。画像は1枚0.02ドル(高速)、品質重視のグレードは1Kで0.05ドル、2Kで0.07ドル。動画(1.0および1.5)は1秒から15秒のクリップを最大1080pで生成し、音声を同一パスで生成する。API価格は480pで1秒0.05ドル、720pで0.07ドル、音声を同一パスで生成する場合は1秒0.08ドル(音楽・効果音・セリフを別工程の音声処理を経ずに同じ生成内で作る)。Grok Imagine Video 1.5はテキストから動画、画像から動画、参照画像から動画に対応し、テキストおよび画像からの生成はネイティブ1080pに対応する。https://www.aipricing.guru/xai-pricing/ / https://felloai.com/grok-imagine-video-generation/ / https://invideo.io/blog/grok-imagine-ai-generator/ / なお本記事執筆時点で、AnthropicのClaudeは画像・音声・動画の生成機能を提供していない。 ↩ ↩2 ↩3
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Amazon BedrockにおけるxAIモデルの提供状況。2026年6月にGrok 4.3がAmazon Bedrockで提供開始、2026年7月にAWS GovCloud(US-West)でも提供開始。リージョン内推論に対応するのは米国西部(オレゴン)、米国東部(バージニア北部)、米国東部(オハイオ)であり、本記事執筆時点でアジアパシフィック(東京、ap-northeast-1)は含まれていない。またBedrockに提供されているのはGrok 4.3であり、2026年8月12日公開のGrok 4.6ではない。データ保持について、AWSは
store=falseの指定のみでは保持ゼロを保証せず、確実にゼロの永続保持とするには実効的なデータ保持モードがnoneであり、かつそのモードを許容するモデルであることが必要としている。https://aws.amazon.com/about-aws/whats-new/2026/06/grok-amazon-bedrock/ / https://aws.amazon.com/about-aws/whats-new/2026/07/grok-4-3-bedrock-govcloud/ / https://docs.aws.amazon.com/bedrock/latest/userguide/models-regions.html / https://www.techi.com/grok-bedrock-portability-retention-regions/ ↩ ↩2 ↩3 -
xAIのデータ保持に関する仕様。既定ではAPIのリクエストおよびレスポンスが監査目的で30日間サーバーに保存され(保存時暗号化)、当該データでの学習は行われず30日後に自動削除される。ZDR(Zero Data Retention)を有効にすると、APIリクエストの入力(プロンプト)および出力(生成トークン)はディスクに永続化されない。ZDRはチーム単位の設定であり、特定のAPIキーのみを対象に有効化することはできない。https://docs.x.ai/developers/faq/security / ZDRが追加料金なしに設定として有効化できる点は、本記事執筆時点で当社が確認した範囲による記述である。またxAIの公式アカウントは「For teams using zero data retention, no trace and code data is ever retained. All API key use of Grok Build also respects ZDR. If ZDR is disabled, the /privacy command is available in the CLI to disable data retention, which also deletes previously synced data.」と説明している。https://x.com/SpaceXAI/status/2076692402442846289 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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2026年7月、Grok Buildが読み取ったファイルにとどまらずGitリポジトリ全体をxAIのストレージへアップロードしていたこと、および当時のプライバシー設定が期待どおりに機能していなかったことが報じられた。https://thehackernews.com/2026/07/grok-build-uploads-entire-git.html / https://www.techtimes.com/articles/320420/20260714/grok-build-shipped-entire-codebases-xai-cloud-privacy-toggle-did-nothing.htm / これに対しSpaceXAIは、Grok Buildは提供開始以来ZDRを完全に尊重しており、利用者は常にCLIでデータアップロードを無効化でき、その選択は尊重されていたと説明している。https://x.com/SpaceXAI/status/2077494536788664782 / 事実関係には双方の説明の食い違いが残っており、本記事はいずれが正確かの判定を行わない。 ↩






