こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
取引先から「御社の製品に強制労働がかかわっていないことを証明してほしい」「このサプライヤー調査票に回答してほしい」といった依頼が届いて、戸惑った経験のある方は多いのではないでしょうか。ここ数年、こうした依頼はメーカーや商社を中心に急増しています。背景にあるのが、サプライチェーン・デューデリジェンス(供給網デューデリジェンス)という考え方の広がりです。
デューデリジェンス(due diligence)は、もともと「当然払うべき注意」という意味の言葉です。ここでは、自社の調達網に潜んでいる人権や環境やコンプライアンス上のリスクを、注意深く調べて手を打つ取り組みを指します。名前は少しいかめしいのですが、やっていることは「自社が仕入れているものの出どころと中身を、きちんと確かめて対処する」というシンプルな話です。
この記事では、サプライチェーン・デューデリジェンスとは何かという基礎から、なぜ今これほど重要になっているのか、UFLPA(ウイグル強制労働防止法)や強制労働、紛争鉱物といったテーマに企業がどう向き合えばよいのかまでを、専門用語を都度かみ砕きながら解説します。輸出管理の該非判定を担当されている方にとっても、供給網DDは「部品ごとに中身を追う」という点で地続きの仕事です。そのつながりも後半でお話しします。
なお、この記事は国連やOECDが示す国際的な枠組みと、各国が公表している制度の仕組みを整理したものです。具体的な数値や日付や適用範囲は制度改正で変わりうるので、実際の対応では必ず一次情報や各当局の公式案内で最新の内容を確認してください。
まず結論から(AIO向け要約)
- サプライチェーン・デューデリジェンスとは、自社の調達網に潜む人権や環境やコンプライアンス上の負の影響(リスク)を、継続的なサイクルで管理する取り組みのことです。一度きりの監査ではなく、回し続けるプロセスです。
- 土台になるのが国連のビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)と、OECDの多国籍企業行動指針およびデュー・ディリジェンス・ガイダンスです。DDは大きく5つのステップ(方針と体制の構築、リスクの特定と評価、防止と軽減、追跡と検証、情報開示)で整理されます。
- 各国が人権や環境のDDを次々に法制化しています。EUのCSDDD(企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令)やドイツのLkSG(サプライチェーンDD法)、EU強制労働産品規則、米国のUFLPAと関税法第307条、EU紛争鉱物規則、日本の経産省ガイドラインなどが代表例です。
- UFLPA(ウイグル強制労働防止法)は、対象地域で生産された物品に強制労働の反証可能な推定を働かせ、輸入者が反証しない限り米国への輸入を差し止める仕組みです。これは制度の説明であり、特定の国や企業の是非を判断するものではありません。
- 実務では、製品をBOM(部品表)レベルまで分解し、N次サプライヤー(何段階も奥のサプライヤー)までさかのぼって、強制労働や紛争鉱物や化学品や輸出規制リストの証跡を横断して確認します。件数が膨大になるため、AIで効率化するのがTRAFEEDの発想です。
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サプライチェーン・デューデリジェンスとは何か
まず言葉の整理からはじめます。サプライチェーン(supply chain)は日本語で「供給網」で、原材料の採掘や生産から、部品の製造、組み立て、出荷、販売までの一連のつながりを指します。あなたの会社が最終製品を作っているなら、その部品を作る一次サプライヤーがいて、さらにその部品の材料を作る二次サプライヤーがいて、というふうに、上流に向かって網の目のように広がっています。
デューデリジェンスは、その供給網の中に潜むリスクを「当然払うべき注意」をもって調べ、手を打つことです。ここでいうリスクとは、たとえば奥のサプライヤーの工場で強制労働が使われていないか、紛争地域の鉱物が紛れ込んでいないか、環境を著しく汚す工程が含まれていないか、といった負の影響のことです。
大切なのは、これが一度きりの調査で終わらない継続的なプロセスだという点です。国連やOECDの枠組みでは、次の5つのステップを繰り返し回し続けることが求められています。
- 方針を定め、管理体制を作る(責任ある企業行動を経営方針に組み込み、社内の担当や仕組みを整える)
- サプライチェーンにおけるリスクを特定し、評価する(どこに、どんなリスクが、どの程度あるかを洗い出す)
- リスクを防止し、軽減する(見つかったリスクに優先順位をつけて手を打つ)
- 対応を追跡し、実効性を検証する(打った手が効いているかを確かめる)
- 情報を開示する(取り組みの内容と結果を外部に説明する)
この5ステップは、OECDの「デュー・ディリジェンス・ガイダンス」が示す枠組みです。後で触れる紛争鉱物のガイダンスも、同じ5ステップの思想でできています。図にすると輪のように描かれることが多く、1から5まで進んだら、また1に戻って回し続けるイメージです。だからこそ「継続的なリスク管理プロセス」と呼ばれます。
一点、混同しやすい言葉があるので補足します。似た響きの言葉に「サプライチェーン・レジリエンス(強靭性)」があります。これは災害や供給停止に強い調達網を作る話で、供給が止まらないようにする観点です。サプライチェーン・デューデリジェンスはこれとは別で、供給網に潜む人権や環境のリスクを見つけて対処する話です。本記事が扱うのは後者、つまり継続的なリスク管理プロセスとしてのDDです。
該非判定の属人化を、AIで解消する。
経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDの機能・導入フローをまとめたサービスカタログを無料でダウンロードできます。
なぜ今、供給網DDが重要なのか
「昔から取引先の与信は調べていたのに、なぜ今さら人権や環境まで」と感じる方もいるかもしれません。理由は大きく2つあります。1つは各国がDDを法律で義務づけはじめたこと、もう1つは違反が実際にビジネスを止めるようになったことです。
世界で進むDDの法制化
ここ数年、人権や環境のデューデリジェンスを企業に求める法律が、各地で相次いで整えられてきました。代表的なものを挙げます。
- 国連の「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)」…法律そのものではありませんが、企業が人権を尊重する責任を負うという国際的な合意で、各国の法制度の土台になっています。
- OECDの「多国籍企業行動指針」と「デュー・ディリジェンス・ガイダンス」…責任ある企業行動のための実務手引きで、先ほどの5ステップの出どころです。
- EUの「企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)」…一定規模以上の企業に、人権と環境のDDを求めるEUの指令です。
- ドイツの「サプライチェーンDD法(LkSG)」…ドイツで先行して施行された、供給網の人権と環境のDDを義務づける国内法です。
- EUの「強制労働産品規則」…強制労働で作られた製品のEU市場での流通を禁じる規則で、採択後に段階的に適用されていくとされています。
- 米国の「UFLPA」と「関税法第307条」…強制労働がかかわる物品の輸入を差し止める仕組みです(後で詳しく説明します)。
- EUの「紛争鉱物規則(2017/821)」…紛争地域の鉱物の責任ある調達を求める規則です。
- 日本の経産省「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(2022年)…日本企業向けに、DDの進め方を示した指針です。
法律ごとに対象となる企業の規模や品目、適用の時期は異なり、しかも改正が続いています。ここでは「世界的にDDを求める流れが強まっている」という全体像をつかんでいただければ十分です。個々の適用条件は、必ず各当局の公式情報で確認してください。
違反が供給を止める時代になった
もう1つの理由は、より切実です。DDを怠った結果が、輸入差止や取引停止という形で、実際に事業を止めるようになりました。たとえば米国のUFLPAでは、条件に当てはまる物品は原則として通関できず、輸入者が反証できなければ荷物は港で止まったままになります。EUや各国のDD法でも、市場での流通制限や取引先からの契約解除につながりえます。
さらに、大企業が自社のDD義務を果たすために、取引先である中小のサプライヤーへ調査票を送る動きが広がっています。そのため、自社に直接の法的義務がなくても「取引を続けるなら回答してほしい」という形で、実務上の対応を迫られる場面が増えているのです。DDは、もはや一部の大企業だけの話ではなくなってきています。
自社が扱う品目や技術が輸出規制の対象になりうるかどうかは、DDの前提になる基本情報です。輸出管理の全体像は輸出管理の該非判定の基礎もあわせてご覧ください。
UFLPA(ウイグル強制労働防止法)とは何か
供給網DDを語るうえで避けて通れないのが、米国のUFLPAです。名前は難しく聞こえますが、仕組みを分解すれば理解できます。
UFLPAは英語のUyghur Forced Labor Prevention Actの略で、日本語では「ウイグル強制労働防止法」と呼ばれます。米国で2021年に成立し、2022年6月に施行されました(この成立年と施行日は公表されている事実です)。
この法律の核になるのが、反証可能な推定(rebuttable presumption/リバッタブル・プリザンプション)という考え方です。少しかみ砕きます。通常、何かを差し止めるには、差し止める側がその理由を証明する必要があります。ところがUFLPAでは、その関係が逆転します。対象地域、具体的には中国の新疆ウイグル自治区で全部または一部が生産された物品については、「強制労働によって作られたものである」と最初から推定されます。つまり、輸入する側が「これは強制労働で作られたものではない」ことを証明しない限り、原則として米国への輸入が差し止められる、という建て付けです。
この反証には、明確かつ説得力のある証拠(clear and convincing evidence/クリア・アンド・コンビンシング・エビデンス)が求められます。これは証明のハードルを表す法律用語で、かなり高い水準の立証が必要だと理解してください。執行を担うのはCBP(米税関・国境警備局)で、実際に港で物品の差し止めや検査を行います。
ここで、この記事の姿勢をはっきりさせておきます。UFLPAは制度の仕組みであって、特定の国や地域、そこに拠点を置く企業の是非を判断するものではありません。規制の区分に当てはまったからといって、その企業が不正をしたという意味にはなりません。むしろ実務の現場では、正規に事業を営んできた民生メーカーが、供給網の奥深くまでさかのぼって「強制労働がかかわっていないこと」を証明しなければならない、という重い負荷に直面しています。本記事は、そうした当事者が自社の供給網を遡って説明できるようにするための実務資料という立て付けで書いています。制度の説明は事実として正確に、しかし価値判断は加えない、という線引きを大切にしています。
強制労働(forced labor)そのものの定義
UFLPAが防ごうとしている強制労働とは何か、も押さえておきます。国際的な定義の土台になっているのが、ILO(国際労働機関)が示す考え方です。おおまかにいえば、罰などによる脅しのもとで、本人が自らの意思で申し出たのではない労働を強いられている状態を指します。
米国では、この強制労働がかかわる物品の輸入を止める仕組みとして、UFLPA以前から関税法第307条という規定があります。これに基づいて出されるのがWRO(違反商品保留命令/Withhold Release Order)で、特定の物品について強制労働の疑いがあると判断された場合に、その輸入を保留する命令です。UFLPAは、この307条の枠組みの上に、対象地域について反証可能な推定を上乗せした、と理解すると全体像が見えてきます。強制労働は、供給網DDが特定し防止すべき代表的な人権リスクなのです。
紛争鉱物もDDの一領域
供給網DDが扱うリスクは、強制労働だけではありません。もう1つの代表が紛争鉱物です。
紛争鉱物とは、その採掘や取引から得られる資金が武装勢力の活動資金になりうる鉱物のことで、代表が3TG(錫・タンタル・タングステン・金)やコバルトです。3TGは、Tin(錫)・Tantalum(タンタル)・Tungsten(タングステン)・Gold(金)の頭文字を取った呼び方で、スマートフォンや電子基板、はんだ、切削工具などに幅広く使われています。
紛争鉱物への対応も、OECDの5ステップの思想に沿った継続的なDDプロセスです。米国のドッド・フランク法第1502条とそれに基づくSEC規則、EUの紛争鉱物規則(2017/821)が代表的な法的枠組みで、企業には調達する鉱物の出どころを調べる責任が課されています。
実務では、RMI(Responsible Minerals Initiative)が提供する標準の調査様式を使います。3TG用のCMRT(Conflict Minerals Reporting Template)と、コバルトやマイカ用のEMRT(Extended Minerals Reporting Template)です。これらの様式を使って、原産国や製錬所の情報をサプライチェーンで受け渡していきます。突き合わせの単位が「製錬所」になる点など、紛争鉱物の調査には独自の勘所があります。詳しくは紛争鉱物と3TG/CMRT・EMRTの実務で解説しているので、あわせてご覧ください。
強制労働も紛争鉱物も、突き詰めれば「製品を分解して、部品ごとに中身と出どころを追う」という同じ作業に行き着きます。ここが、供給網DDの実務を貫く軸になります。
OECD5ステップの具体的な回し方
では、5ステップを実際にどう回すのか、供給網DDの実務に沿って具体的に見ていきます。頭の中に「製品を分解して、部品一個一個をたどる」というイメージを置いておくと、話がつながりやすくなります。
ステップ1 方針と管理体制の構築
最初にやるのは、会社としての方針を決めて、それを回す体制を作ることです。「当社は強制労働や紛争鉱物のリスクに対して、こういう考え方で臨みます」という方針を経営レベルで定め、調達部門や品質部門、輸出管理部門の誰が何を担うのかを整理します。ここが曖昧だと、後のステップがすべて場当たり的になってしまいます。
ステップ2 リスクの特定と評価(マッピングと優先順位づけ)
次に、自社の供給網のどこに、どんなリスクがあるのかを洗い出します。ここで鍵になるのがサプライチェーンのマッピング(可視化)です。自社が仕入れている部品や原材料が、どの一次サプライヤーから来て、その先の二次、三次、N次サプライヤーがどこにあるのかを、可能な範囲でたどっていきます。
とはいえ、すべてのサプライヤーを同じ深さで調べるのは現実的ではありません。そこでリスクベース(risk-based)という考え方を使います。これは、リスクの高いところから優先的に手をかける、という発想です。たとえば、リスクの高い国や地域から調達している品目、強制労働がかかわりやすいとされる工程を含む品目、紛争鉱物を使う部品などに優先順位をつけて、そこから深く調べていきます。限られた人手と時間を、効果の大きいところに集中させるわけです。
ステップ3 防止と軽減(サプライヤー調査と原産地の特定)
リスクの高いところが見えてきたら、実際に手を打ちます。中心になるのがサプライヤー調査です。取引先に質問票を送り、労働環境や調達方針、使っている鉱物の原産地や製錬所などを回答してもらいます。紛争鉱物なら、先ほど触れたCMRTやEMRTがこの質問票にあたります。
調査で得た情報から、原材料の原産地や、鉱物であれば製錬所を特定していきます。そして、もし問題のあるリスクが見つかったら、サプライヤーに改善を求めたり、是正措置を働きかけたり、場合によっては調達先を見直したりします。ここでも中立の姿勢が大切で、いきなり取引を打ち切るのではなく、まずは是正を促して一緒にリスクを下げていく、という考え方が国際的な枠組みでは重視されています。
ステップ4 追跡と実効性の検証
手を打ったら、それが本当に効いているのかを確かめます。サプライヤーが約束した改善を実行したか、リスクが実際に下がったかを追跡し、必要なら第三者による監査(audit)を入れます。紛争鉱物でいえば、製錬所が第三者認証を受けているかを確認する仕組みがこれにあたります。打った手を検証して、次のサイクルに反映させる。この繰り返しが、DDを「継続的なプロセス」たらしめています。
ステップ5 情報開示
最後に、取り組みの内容と結果を外部に説明します。方針、見つかったリスク、打った手、その効果を、報告書や取引先への回答という形で開示します。これは説明責任(accountability)を果たすと同時に、取引先や市場からの信頼を得る土台にもなります。各国のDD法の多くが、この開示を義務づけたり後押ししたりしています。
そして、開示まで進んだらまたステップ1に戻り、方針や体制を見直して回し続けます。制度も供給網も変わり続けるので、DDに「完了」はなく、回し続けることそのものが取り組みの本体になります。
証跡を横断調査するという発想(TRAFEEDの視点)
ここまで読んでいただくと、供給網DDの実務が、いくつもの証跡(エビデンス)を集めて突き合わせる仕事だと分かってきたと思います。強制労働(UFLPAへの対応)、紛争鉱物(3TG・コバルト)、化学品(SDS・化学組成)、輸出規制リスト(取引先や品目が制裁・規制対象でないか)、そして製品によっては電池パスポートのような新しい情報開示の要求。これらはそれぞれ別の制度ですが、確かめる対象は同じ「自社の製品を構成する部品と原材料」です。
ここに、TRAFEEDが大切にしている通奏低音があります。サプライチェーン・デューデリジェンスとは、突き詰めれば、部品や原材料を一個一個、BOM(部品表/Bill of Materials)のレベルまで分解して、その一つ一つについて、強制労働はかかわっていないか、紛争鉱物は使われていないか、危険な化学組成はないか(SDS・安全データシート)、輸出規制リストに触れないか、といった証跡を横断して確認していく継続的なプロセスだ、という見方です。
たとえば化学品については、SDS(安全データシート)やCAS番号(化学物質を一意に識別する番号)をたどって、その部品にどんな物質が含まれ、それが規制に触れないかを確認します。この考え方はSDS(安全データシート)と輸出管理で詳しく解説しています。また、電池を含む製品では、原材料や製造過程の情報を電子的に開示する新しい枠組みも動き始めていて、これはEU電池パスポートで扱っています。さらに、AIや先端技術が関係する製品では、輸出や利用そのものに新しい規制の議論が広がっており、米国のAI規制の動きでも触れています。この記事は、こうした個別テーマ(紛争鉱物・SDS・電池パスポート・AI規制)を束ねる、供給網DDのハブとして位置づけています。
問題は、対象になる部品と証跡の件数が、実務では膨大になることです。1つの製品に数百から数千の部品があり、それぞれにN次までのサプライヤーがつながり、さらに強制労働・紛争鉱物・化学品・輸出規制と、確認すべき観点が複数ある。これを人手だけで、しかも継続的に回し続けるのは、率直に言って限界があります。
だからこそ、AIで横断的に効率化しよう、というのがTRAFEEDの発想です。TRAFEEDは、経産省基準に準拠した輸出管理AIエージェントで、各国の法規を当日反映し、2億件を超えるナレッジグラフをもとに、部品や取引先の情報を横断して調べる設計になっています。多言語に対応し、AI判定の精度については岡山大学との共同実証と自社調べで95%以上という結果を得ています(公式に確認している範囲での数値です)。膨大な件数の一次スクリーニングをAIが担い、人はリスクの高い部分の判断に集中する、という役割分担を想定しています。
ここで必ず申し添えたいのは、最終的な判断は人が行うという点です。輸出管理の該非判定にせよ、供給網DDのリスク評価にせよ、最終的な該非判定や対応方針の決定は、貴社の輸出管理責任者が行うものです。AIはあくまで、膨大な情報を集めて整理し、見落としを減らすための道具です。この役割分担を守ることが、実務でAIを安全に使うための前提になります。
なお、供給網DDと輸出管理は隣り合う分野なので、化学業界のように品目特性の強い分野では、業界固有の勘所もあります。化学分野の輸出管理については化学業界の輸出管理もご参照ください。
中小企業やこれから始める企業へ
「大企業の話で、うちには関係ない」と感じた方もいるかもしれません。ですが、先に触れたとおり、取引先からの調査票という形で、実務上の対応を求められる場面は確実に増えています。だからといって、いきなり完璧な体制を作る必要はありません。
現実的な進め方は、リスクベースで優先順位をつけて、できるところから始めることです。まずは自社が扱う品目の中で、リスクの高そうなもの(調達先の地域、含まれる鉱物や化学品、輸出規制に触れそうな技術)を洗い出し、そこから供給網をたどる。方針を一枚の文書にまとめ、調査票への回答フローを整える。そうした小さな一歩の積み重ねが、結果として取引先からの信頼につながり、いざ規制が強化されたときの備えにもなります。
大切なのは、DDを「一度やって終わり」の作業ではなく、少しずつ精度を上げながら回し続けるプロセスとして捉えることです。最初は粗くてもかまいません。回すうちに、どこにリスクが集中しているか、どのサプライヤーの情報が足りないかが見えてきて、次のサイクルで手を打てるようになります。
まとめ
最後に、この記事のポイントを整理します。
- サプライチェーン・デューデリジェンスとは、調達網に潜む人権や環境やコンプライアンスのリスクを、継続的なサイクルで管理する取り組みです。供給が止まらないようにする「強靭性」とは別で、リスクを見つけて対処する「継続的なリスク管理プロセス」です。
- 土台は国連の指導原則(UNGP)とOECDのガイダンスで、方針と体制の構築、リスクの特定と評価、防止と軽減、追跡と検証、情報開示という5ステップを回し続けます。
- 各国がDDを次々に法制化しており(CSDDD、LkSG、EU強制労働産品規則、UFLPAと関税法307条、EU紛争鉱物規則、日本の経産省ガイドラインなど)、違反は輸入差止や取引停止に直結します。個々の適用条件は各当局の公式で確認してください。
- UFLPAは、対象地域の物品に強制労働の反証可能な推定を働かせ、輸入者が明確かつ説得力のある証拠で反証しない限り輸入を差し止める仕組みです。これは制度の説明であり、特定の国や企業の是非を判断するものではありません。当事者は供給網を遡って証明する重い負荷を負っており、本記事はその実務を支える立て付けで書いています。
- 実務は、製品をBOMレベルまで分解し、N次サプライヤーまで可視化して、強制労働・紛争鉱物・化学品・輸出規制の証跡を横断して確認する作業に集約されます。件数が膨大なのでAIで効率化するのがTRAFEEDの発想ですが、最終的な該非判定と対応の決定は、貴社の輸出管理責任者が行うものです。
サプライチェーン・デューデリジェンスは、はじめは手強く見えますが、分解して整理すれば、日々の調達実務の延長線上にあります。どこから手をつければよいか迷ったときは、TRAFEEDの担当までご相談ください。貴社の扱う品目や供給網の形に合わせて、優先順位のつけ方から一緒に考えます。
将来的には、各国のDD法がさらに広がり、開示の電子化やAIによる横断調査が標準になっていくと筆者は見ていますが、これはあくまで筆者の見解です。制度は動き続けるので、必ず一次情報で最新の内容を確かめながら、DDのサイクルを回し続けていただければと思います。






