こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
取引先から、ある日いきなりExcelのファイルが届きます。件名には「CMRT」や「EMRT」、本文には「期日までにご回答をお願いします」。開いてみるとシートが8枚も9枚もあり、英語まじりの質問と製錬所の一覧表がずらりと並んでいます。はじめて担当になった方が手を止めてしまうのは無理もありません。
このファイルは、製品に使われている錫・タンタル・タングステン・金(3TG)や、コバルト・リチウムといった鉱物が、どの製錬所を通ってきたかをサプライチェーンでたどるための調査票です。いわゆる紛争鉱物への対応、最近の言い方では「責任ある鉱物調達」の現場で使われています。
2026年4月17日には最新版のCMRT 6.6とEMRT 2.11が公開され、EMRTの対象は6鉱物まで広がりました。一方で米国では開示規則の廃止法案が審議待ちになっていて、「そのうち答えなくてよくなるのでは」という声も聞きます。先に言っておくと、少なくとも今年の調査がなくなることはありません。その理由も含めて、CMRTとEMRTの違い、記入の勘所、3TGの基礎、制度の現在地の順にお話しします。最後に、輸出管理の該非判定とのつながりにも触れます。
本文の版番号と日付は、2026年10月4日にRMI・各国当局・JEITAの一次情報で確かめ直したものです。実際の回答では、依頼元の指定とRMIの最新の案内もあわせて確認してください。
まず結論から(AIO向け要約)
- CMRT(Conflict Minerals Reporting Template)は3TG(錫・タンタル・タングステン・金)用、EMRT(Extended Minerals Reporting Template)はコバルト・銅・天然黒鉛・リチウム・天然マイカ・ニッケルの6鉱物用の調査票です。どちらもRMI(Responsible Minerals Initiative)が無料で配布するExcelの標準様式です。
- 最新版はCMRT 6.6とEMRT 2.11で、どちらも2026年4月17日の公開です。RMIは次の改訂を2027年春の見込みとしています。
- 様式の核心は製錬所(smelter、refiner)の一覧です。受け取った側は、記載された製錬所がRMIの第三者評価(RMAP)で適合(Conformant)と判定されているかを突き合わせます。
- 米国のSEC開示規則(ドッド・フランク法1502条)は2026年10月時点でも有効で、廃止法案(H.R.7085)は下院本会議待ちです。EUの紛争鉱物規則(2017/821)は2021年1月から全面適用され、2025年10月にはRMAPをEU規則上の同等スキームと認める決定が出ました。
- 紛争鉱物の調査も、輸出管理の該非判定も、製品をBOM(部品表)まで分解して部品ごとの中身を追う仕事です。化学物質の確認(SDS・CAS番号)とあわせて一つの調査体制にまとめると、同じ部品を何度も調べ直す手間が減ります。
3TGとは何か、紛争鉱物とは何か
3TG(スリー・ティー・ジー)は、次の4つの金属の頭文字を取った呼び方です。TinのT、TantalumのT、TungstenのT、GoldのGで、Tが3つとGが1つなので「3TG」と書きます。
| 金属 | 元素記号 | 主な用途の例 |
|---|---|---|
| 錫(Tin) | Sn | はんだ(基板の接合)、めっき |
| タンタル(Tantalum) | Ta | コンデンサ(電子部品の蓄電) |
| タングステン(Tungsten) | W | 超硬合金、電極、フィラメント |
| 金(Gold) | Au | 電子接点、配線、めっき |
並べてみると、電子機器や金属部品のほとんどが、どこかで3TGを含んでいることが分かります。調査票が業界を問わず回ってくるのはこのためです。
紛争鉱物(conflict minerals)とは、採掘や取引で得たお金が武装勢力の資金源になるおそれのある鉱物を指します。米国のドッド・フランク法も、EUの紛争鉱物規則も、対象はこの3TGです。米国の制度は、コンゴ民主共和国(DRC)と、同国と国境を接する9か国の計10か国を「対象国」と定めていて、CMRTの質問にもこの言葉が出てきます。EUの制度はさらに広く、武力紛争が続いている、あるいは統治が弱く深刻な人権侵害が起きている地域を、世界のどこであっても紛争地域および高リスク地域(CAHRAs、キャラス)として扱います。EUの委託先が「例示的で網羅的ではない」リストを定期的に改訂していますが、載っていない地域なら安全という意味ではありません。
ここで一つ、はっきりさせておきたいことがあります。この仕組みは、特定の国や地域を悪者にするためのものではありません。対象地域には正規に採掘し取引している人が大勢いて、鉱業は地域の大切な生計手段です。土台になっているOECD(経済協力開発機構)のデュー・ディリジェンス・ガイダンス(2016年の第3版。外務省が仮訳を公開)も、リスクが見つかった取引先とすぐに縁を切ることだけを求めてはいません。改善を働きかけながら取引を続ける、改善を待つ間だけ一時停止する、改善が見込めない場合に取引をやめる、という3つの選択肢を示しています。
OECDガイダンスは、対応を5つのステップに整理しています。社内の方針と体制をつくる、サプライチェーンのリスクを特定して評価する、見つかったリスクへの対応策を立てて実行する、製錬所の第三者監査を活用する、結果を年に一度報告する、という流れです。見るべきリスクは附属書IIにまとめられていて、採掘・輸送・取引にかかわる重大な人権侵害、非国家武装集団への直接・間接の支援、治安部隊による不当な取り立て、贈収賄と原産地の偽装、資金洗浄、税や採掘料の不払いの6つです。CMRTやEMRTの質問は、この5ステップと附属書IIを、サプライヤーへの問いかけの形に置き換えたものだと思って読むと理解が早くなります。
近年は3TGに加えて、電池に使うコバルト・リチウム・ニッケル・天然黒鉛や、絶縁材や化粧品に使うマイカ(雲母)も責任ある調達の対象になってきました。これらを調べるのがEMRTです。
自社の調達体制を、先に点検しておく: 紛争鉱物(3TG)の章を含む、サプライチェーン・デューディリジェンスの自己点検チェックシートを配布しています。CMRTを取引先から集めて製錬所までたどれているか、EMRTの対象鉱物を扱っているかといった項目を、記入しながら確認できます。依頼元から「御社は何を確認しているのか」と聞かれたときの説明資料にも使えます。 → サプライチェーンDD 自己点検チェックシートをダウンロード(無料。会社名とお勤め先のメールアドレスのご登録が必要です)
該非判定の属人化を、AIで解消する。
経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDの機能・導入フローをまとめたサービスカタログを無料でダウンロードできます。
CMRT・EMRT・AMRTの違い(2026年の最新版と対象鉱物)
CMRTもEMRTも、RMIという業界団体が作り、無料で配布しているExcelの調査票です。RMIは電子機器や自動車などの企業が参加するRBA(責任ある企業同盟)が運営する取り組みで、取引先ごとにばらばらだった質問票を一つの書式にそろえる役割を担ってきました。三つの様式の違いを、2026年10月時点の情報でまとめます。
| 項目 | CMRT | EMRT | AMRT |
|---|---|---|---|
| 正式名 | Conflict Minerals Reporting Template | Extended Minerals Reporting Template | Additional Minerals Reporting Template |
| 対象鉱物 | 錫・タンタル・タングステン・金(3TG) | コバルト・銅・天然黒鉛・リチウム・天然マイカ・ニッケル | CMRT・EMRTの対象外の鉱物(利用者が最大10鉱物まで指定) |
| 最新版 | 6.6(2026年4月17日) | 2.11(2026年4月17日) | 1.31(2026年4月17日) |
| 次の改訂の見込み | 2027年春 | 2027年春 | 2026年秋 |
| 主なきっかけ | 米ドッド・フランク法1502条、EU紛争鉱物規則 | コバルト・マイカ採掘現場の児童労働リスク、EU電池規則 | 新しい鉱物の製錬・加工拠点の把握 |
いちばん変化が大きいのはEMRTです。2021年10月20日の初版はコバルトとマイカの2鉱物だけでした。RMIは2024年9月に対象の拡大を予告し、2025年4月の2.0版で銅・天然黒鉛・リチウム・ニッケルを加えて6鉱物にしています。EUの電池規則が求めるデュー・ディリジェンスに企業が答えられるようにすることが、主な理由の一つです。その後、2025年10月に2.1版、2026年4月に2.11版が出ました。黒鉛とマイカは天然のものだけが対象で、人工的に合成したものは含みません。
EMRTには、質問1で鉱物ごとに「Not declaring(申告しない)」を選べる仕組みがあります。依頼元が知りたいのがコバルトだけなら、ほかの5鉱物は申告しないと答えられるわけです。個人的には、EMRTの依頼が来たら、まず「どの鉱物について答えればよいか」を依頼元に確認することをおすすめします。6鉱物すべてを一度に上流までたどるのは現実的ではありませんし、様式自体が対象を絞れる作りになっているからです。
2026年版の変更点は、どちらの様式もそれほど大きくありません。CMRT 6.6では製品リストに「要求者製品番号」「要求者の製品名」の欄が加わり、国名の表記がISOの短縮名にそろえられ、製錬所の参照リストが更新されました。2026年8月19日にはRMIのロゴを外した版も公開されましたが、RMIによれば機能は4月版と同じです。なお、RMIは記入済みの調査票を集めていません。回答は依頼元の顧客に直接返します。
CMRTの書き方:申告範囲・8つの質問・製錬所リスト
CMRT 6.6は8枚のシートでできています。Revision(改訂記録)、Instructions(記入の説明)、Definitions(用語の定義)、Declaration(申告)、Smelter List(製錬所リスト)、Checker(入力チェック)、Product List(製品リスト)、Smelter Look-up(製錬所の参照表)です。記入するのはDeclaration、Smelter List、Product Listの3枚だけで、ほかは読む・確かめるためのシートです。言語は日本語も選べます。以下は、電子情報技術産業協会(JEITA)の2026年版の記入解説とRMIの記入ガイドをもとに、迷いやすいところを中心にまとめたものです。
申告範囲は3択から選ぶ
Declarationシートの最初で選ぶのが「申告範囲又はクラス(Declaration Scope or Class)」です。A. Companyは自社の全製品、B. Product (or List of Products)は一部の製品、C. User definedは自社で決めた製品群について答える、という意味です。Bを選ぶとProduct Listシートへの記入が必須になり、回答者製品番号のほか、6.6からは依頼元の製品番号と製品名も書けるようになりました。Cを選んだ場合は「申告範囲の説明」欄に、どの製品群を対象にしたかを具体的に書きます。範囲は回答する側が決めてよいのですが、依頼元が指定してくることもあります。
もう一つ見落としやすいのが、連絡先の個人情報です。サプライヤーから受け取ったCMRTをそのまま顧客へ転送すると、担当者の氏名やメールアドレスまで渡ることになります。JEITAの解説も、国によっては個人情報保護の法令に触れるおそれがあるとして、事前にサプライヤーの了解を取るよう注意を促しています。
質問1〜8は「使っているか」から「どこまで特定できたか」へ進む
質問は4つの金属ごとに答えます。質問1は、製品そのものや製造工程で3TGを意図的に添加・使用しているか。含有量の多い少ないは関係なく、仕様や機能のために使っていれば「Yes」です。製造工程で触媒として使う錫化合物や、フロートガラスの製造に使う錫も含まれます。逆に、切削に使う超硬工具のような生産設備や、梱包材は対象外です。ここで「No」なら、その金属の質問2以降は答えなくてよい作りになっています。
質問2は、3TGが製品に残っているか。「Yes」ならSmelter Listへの記入が必要になります。質問3と4は、サプライチェーン上の製錬所のいずれかが、米国の定める対象国(質問3)、あるいはCAHRAs(質問4)を原産地としているかを問います。答えは「Yes」「No」「Unknown」の三つです。受け取ったCMRTが全部「No」でも、自社が製錬所をすべて特定できていなければ「Unknown」と答えるのが決まりです。
質問5は、3TGをすべて再生材やスクラップから調達しているか。質問6は、調査対象のサプライヤーのうち何割から回答を得たかで、「100%」「90%超」「75%超」「50%超」「50%以下」「なし」から選びます。設備や消耗品のサプライヤー、3TGを含まないと分かっている部品のサプライヤーは、分母に入れません。質問7は製錬所をすべて特定したかで、「Yes」にできるのは、自社の回収率が100%で、受け取ったCMRTもすべて質問6が100%、質問7と質問8が「Yes」になっている場合だけです。質問8は、受け取った製錬所の情報をすべてこの申告に載せたかを問います。
「Unknown」や「No」が並ぶと不安になるかもしれませんが、正直に書くことがいちばん大事です。米会計検査院(GAO)の2024年の報告書によると、2023年にSECへ提出した企業のうち、デュー・ディリジェンスまで進んだ企業の推計62%が「鉱物の原産を特定できなかった」と報告しています。米国の上場企業でもそれが実態です。無理に「No」で埋めるより、調査中であることを書き、いつまでに何をするかを依頼元と共有するほうが信頼されます。
会社としての取り組みを問う質問A〜H
後半の質問A〜Hは、受け取ったCMRTの内容とは関係なく、自社の方針と取り組みについて答えます。Aは責任ある鉱物調達の方針を定めているか、Bはその方針をウェブサイトで公開しているか(公開していれば備考欄にURLを書きます)。JEITAの解説では、方針に対象鉱物(3TG)、対象リスク(OECD附属書IIのリスク)、対象地域(CAHRAs)、リスクが見つかったときの対応の4点が入っていれば「Yes」と答えられる、としています。Cは直接のサプライヤーに、第三者監査で確認された製錬所から調達するよう求めているか。Dはデュー・ディリジェンスの対策をとっているか、Eはサプライヤーに紛争鉱物の調査をしているか、Fは受け取った情報を検証しているか、Gは是正措置の仕組みがあるかを問います。Hは、SECやEUに年次の開示義務があるかどうかで、日本企業の多くは「No」になります。
Smelter ListとChecker
Smelter Listは、サプライチェーン上の製錬所を書き出すシートです。RMIが製錬所ごとに振っている識別番号(CIDで始まる番号)をA列に入れると、金属名や所在国などが自動で入ります。番号が分からないときは、先に金属を選び、製錬所名をプルダウンから選ぶ形です。参照表に載っていない製錬所は「Smelter not listed」を選んで名称と所在国を手入力し、名前すら分からない場合は「Smelter not yet identified」を選びます。原料が100%リサイクル材でも、製錬所の情報は報告が必要です。
入力の前に、受け取ったCMRTの製錬所を一覧にして、識別番号で重複を消し、製錬所ではない商社などを外しておくと後が楽です。最後にCheckerシートを開き、赤く残っている項目を埋めます。未記入の必須項目が0になれば完成です。
なぜ製錬所が主役なのか(RMAPとConformantの読み方)
CMRTでいちばん重要なのは、製錬所(smelter)・精錬所(refiner)の欄です。鉱石は多数の鉱山から集まり、製錬所で溶かされて金属になります。金属になった後は、どの鉱山から来たかを金属そのものから見分けるのはほぼ不可能です。一方で、世界の製錬所の数は鉱山や部品メーカーに比べてずっと少なく、原産地と製品をつなぐ「関所」のような位置にあります。RMIはこうした場所をピンチポイントと呼んでいます。
そこで責任ある調達では、鉱山を一つずつ追うのではなく製錬所を単位に調べます。製錬所より上流は、RMIのRMAP(Responsible Minerals Assurance Process)という第三者監査が担い、製錬所より下流は、CMRTという共通の書式で情報を受け渡す、という分業です。あなたの会社が受け取ったCMRTは、サプライヤーがさらに上流へ依頼して集めた情報の積み重ねでもあります。
RMIの公開リストで製錬所を調べると、いくつかのステータスが出てきます。Conformantは監査を受けて基準に適合と判定された製錬所、Activeは監査中か受審を約束している製錬所、EligibleはRMIが製錬所と認めているものの、まだ監査に入っていない製錬所です。ステータスは変わるので、顧客に回答する前に最新のリストで照合し直すのが基本です。JEITAによると、米国の環境ラベルEPEATは2025年の基準改定で、3TGの製錬所のうちConformant(Activeを含む)の割合を65%以上とすることを必須にしました。パソコンやディスプレイ、携帯電話などを扱う企業から、適合製錬所への切り替えを求められる場面は増えていくでしょう。
EUも2025年10月16日の実施決定(EU)2025/2071で、RMAPをEU紛争鉱物規則上の「同等性」を持つスキームと認めました。RMIが2019年に申請してから、6年がかりの認定です。
ここで注意したいのは、RMAPで適合と判定されていることと、制裁の対象になっていないことは別の話だという点です。RMIは自らの利用規約で、提供する情報を米国の制裁対象かどうかの判断に使うことは意図していないと明記しています。顧客によっては、制裁リストに載った製錬所をサプライチェーンから外すよう求めてくることもあります。製錬所の名前を米国のSDNリストなどと照合するのは、取引先のスクリーニングと同じ考え方で行う、RMAPの確認とは別の作業です。なお、制裁リストやCAHRAsリストに載ることは、各国・地域の制度上の区分にすぎません。そこに載った企業や地域の是非を判断するものではない点も、社内で共有しておくとよいでしょう。制裁リストの種類と照合の手順は経済制裁リスト5系統の照合実務に、取引先の素性を確かめる考え方はエンドユーザースクリーニングと顧客デューデリジェンスの実務にまとめています。
2026年10月時点の制度の状況(当時→現在)
この記事の初版(2026年7月27日)から、様式も制度も動いています。主な変化を先に表にまとめます。
| 項目 | 初版(2026年7月)の記述 | 2026年10月4日時点 |
|---|---|---|
| CMRTの版 | 記載なし | 6.6(2026年4月17日)。次は2027年春の見込み |
| EMRTの対象鉱物 | コバルトとマイカ | 6鉱物(コバルト・銅・天然黒鉛・リチウム・天然マイカ・ニッケル)。最新は2.11 |
| 米国のSEC規則 | 開示を求める規則として説明 | 有効。廃止法案H.R.7085は下院本会議待ち。大統領に終了・免除を求める書簡も |
| EU紛争鉱物規則 | 2021年から適用「とされる」 | 2021年1月1日から全面適用。2025年10月にRMAPを同等スキームと認定 |
| EU電池規則 | 触れていない | デュー・ディリジェンス義務は2027年8月18日から(2年延期) |
米国:SEC規則は有効、廃止法案は本会議待ち
米国のドッド・フランク法は2010年7月に成立し、その1502条を受けてSECが2012年に紛争鉱物の開示規則を定めました。米国の上場企業は、毎年5月末までにForm SDという書式で、前年の製品に3TGが使われているか、その原産について合理的な調査をしたかを開示します。2025年分の期限は、5月31日が日曜日だったため2026年6月1日でした。2017年4月7日にはSECの企業財務局が、デュー・ディリジェンスと監査を伴う「紛争鉱物報告書」の部分を出さなくても執行を勧告しないとの声明を出しており、それ以来、原産国の合理的調査(RCOI)と開示が運用の中心になっています。
2026年に入って、この開示義務そのものを削る動きが出てきました。1月15日に下院議員のビル・ハイゼンガ氏が、証券取引所法13条(p)とドッド・フランク法1502条を削除する法案H.R.7085を提出しました。下院金融サービス委員会は1月22日に30対24でこれを可決し、3月19日に本会議の議事日程に載っています。6月2日には同委員会のフレンチ・ヒル委員長とハイゼンガ副委員長が大統領に書簡を送り、法律が定める権限で開示義務を終了するか、少なくとも修正・免除するよう求めました。書簡は、米国の仲介で2025年6月27日に署名されたコンゴ民主共和国とルワンダの和平合意や、同年12月4日の米国とコンゴ民主共和国の戦略的パートナーシップ協定を背景に挙げています。GAOは2024年10月の報告書で、この開示規則によってコンゴ民主共和国東部の暴力が減ったことを示す実証的な証拠は見つからなかったと評価しています。
ただし、廃止が決まったわけではありません。当社が10月4日に確認した範囲では、法案は本会議で採決されておらず、大統領による決定やSECの規則改正も公表されていません。仮に廃止されても、EUの規則や取引先の調達方針、EPEATのような製品基準にもとづく調査依頼は残ります。JEITAも2026年6月の説明会で、少なくとも2026年の調査への影響はない見込みだと説明しています。集めてきた製錬所のデータを、今の段階で手放す理由はないというのが私の考えです。
EU:2021年から全面適用、RMAPを同等スキームに認定
EUの紛争鉱物規則(Regulation (EU) 2017/821)は、2021年1月1日から全面適用されています。義務を負うのは、3TGの鉱石や金属をEUに輸入する事業者で、品目ごとに年間の輸入量の基準があります。たとえば精製前の金は100kgです。基準は、EUへの輸入量の95%以上が義務の対象になる水準に設定されています。部品や完成品の形で輸入する企業は直接の対象ではないため、日本の部品メーカーにとっては、EUの顧客や製錬所を通じた間接的な要請として届くのが普通です。
米国の制度が「調べて開示する」ことに軸足を置くのに対し、EUの制度は輸入事業者にOECDガイダンスに沿ったデュー・ディリジェンスそのものを義務づけています。2025年10月のRMAPの同等性認定は、この義務を果たす手段としてRMAPが公式に位置づけられたことを意味します。欧州委員会は2026年6月16日に規則の見直しに向けた調査の入札を公告しており、2027年前後に次の見直しが議論される見通しです。
電池まわりでは、EUの電池規則が定める電池のデュー・ディリジェンス義務が、規則(EU)2025/1561によって2025年8月18日から2027年8月18日に延期されました。対象はコバルト、天然黒鉛、リチウム、ニッケルで、EMRTの拡大はこの規則への備えでもあります。電池の原材料をどこまでたどる必要があるかは、電池パスポート(2027年義務化)の解説で詳しく扱っています。
日本:経産省の人権ガイドラインとJEITAの取り組み
日本には、米国やEUのような紛争鉱物専用の法規制はありません。土台になっているのは、日本政府が2022年9月13日に策定した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」と、業界団体の取り組みです。
なかでも中心的な役割を果たしているのが、JEITAの責任ある鉱物調達検討会です。RMIと連携して調査票づくりにかかわり、毎年、最新動向と調査票の書き方の説明会を開いています。2026年6月には、CMRT 6.6とEMRT 2.11の日本語の記入解説を公開しました。検討会のメンバーは52社(2025年4月時点)、説明会の参加者は2013年からの延べで1万8千人を超えています。RMI自身も記入ガイドの日本語版を公開しているので、はじめて担当する方は、まずこの2つを手元に置いておくとよいと思います。
人権・強制労働まで含めたサプライチェーン全体の枠組みは、サプライチェーン・デューデリジェンスとは何か(UFLPA・強制労働)で整理しています。
BOMレベルで調べる:紛争鉱物と輸出管理の該非判定は地続き
ここからは、私たちがTRAFEEDというサービスを通じて日々向き合っている、輸出管理との接点についてお話しします。
輸出管理には、製品や技術が規制の対象になるかどうかを見極める該非判定(がいひはんてい)という作業があります。日本では外為法や輸出貿易管理令の別表第1に照らして、その製品が規制品目に「該当」か「非該当」かを判断します。この判断を正しく行うには、製品を一つのかたまりとして見るのでは足りません。BOM(Bill of Materials、部品表)のレベルまで分解して、部品ごとの材質や仕様を調べる必要があります。ネジ一本、コンデンサ一個まで書き出した一覧表を思い浮かべてください。
この部品ごとの調査には、目的の違う確認がいくつも同居しています。一つは化学品の確認で、部品の材料の成分をSDS(安全データシート)やCAS番号(化学物質を一意に識別する番号)で調べる作業です。化学物質と輸出管理の関係は化学業界の輸出管理で、SDSの読み方はSDS(安全データシート)と輸出管理の実務ガイドで解説しています。もう一つが紛争鉱物の確認で、部品に3TGが含まれるか、含まれるならどの製錬所を通ってきたかをCMRTで確かめる作業です。
つまり「製品を分解して、部品ごとの成分・鉱物・原産までたどる」という一つの作業の中に、輸出管理と責任ある調達の両方の確認が入っています。目的は違っても、部品表をそろえ、サプライヤーから情報を集め、根拠を残すという土台は同じです。片方のために整えた部品表と問い合わせの仕組みは、もう片方にもそのまま効いてきます。私はここが実務でいちばん大きなポイントだと考えています。輸出管理の該非判定がどれほど部品単位の細かな作業かを知りたい方は、輸出管理の該非判定を無料でチェックで、自社製品の考え方を整理してみてください。
とはいえ、件数は膨大です。部品が数百から数千あり、それぞれにサプライヤーがいて、CMRTが返ってきて、製錬所を最新のリストと照合し、SDSのCAS番号を規制リストと突き合わせる作業が続きます。これを人手だけで回すのは正直に言って大きな負担で、大量のデータを突き合わせて気になる箇所に印をつける作業は、AIで下調べを効率化しやすい領域です。
私たちのTRAFEEDは、輸出管理の側でこの下調べを支える輸出管理AIエージェントです。日本の該非判定の下調べと、取引先の名称を各国の規制リスト・制裁リストと照合する作業を支援します。日本の安全保障輸出管理の該非判定では、岡山大学との共同実証と過去の審査データ約3万件をもとに、AIの判定精度95%以上という結果を得ています(2026年3月時点・自社調べ)。ただし、AIはあくまで下調べと照合を速くするための道具です。最終的な該非判定は貴社の輸出管理責任者が行うもので、紛争鉱物の対応方針も貴社が判断するものです。AIを該非判定にどう組み込むかは、AIを使った輸出管理の該非判定でもう少し踏み込んで書いています。
この記事のまとめ
- CMRTは3TG(錫・タンタル・タングステン・金)、EMRTはコバルト・銅・天然黒鉛・リチウム・天然マイカ・ニッケルの6鉱物を調べるRMIの標準様式です。最新版はCMRT 6.6とEMRT 2.11(2026年4月17日)で、次の改訂は2027年春の見込みです。
- CMRTは申告範囲(A・B・Cのいずれか)を決め、質問1〜8を金属ごとに、質問A〜Hを会社として答え、製錬所をSmelter Listに書き出します。分からないところは「Unknown」と正直に書くのが基本です。
- 突き合わせの単位は製錬所です。RMAPのステータスは変わるので回答前に照合し直し、制裁リストとの照合は別に行います。
- 米国のSEC規則は2026年10月時点で有効で、廃止法案は本会議待ちです。EU規則は2021年から全面適用され、2025年10月にRMAPが同等スキームと認められました。
- 紛争鉱物の調査と輸出管理の該非判定は、BOMレベルで部品ごとに中身を追うという同じ土台の上にあります。
CMRTやEMRTは、はじめは質問の多さに圧倒されがちです。それでも、「製錬所を単位に、原産をたどって説明できるようにする」という目的をつかめば、一つ一つの欄が何を聞いているのかが見えてきます。米国の制度がどう転んでも、自社の製品が何からできていて、どこから来たのかを説明できる会社が取引先から選ばれる流れは変わらない、というのが私の見立てです。
関連して、強制労働の観点から原材料をたどる考え方はUFLPA(ウイグル強制労働防止法)の実務ガイドでも取り上げています。
自社製品のBOMレベルでの調査体制づくりや、紛争鉱物と輸出管理を横断した進め方について具体的に相談したい方は、TRAFEEDの担当までご相談ください。





