こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
先週の火曜日、官邸で開かれた会議の資料を読みました。「中国依存を避けることが重要」という見出しで報じられていたので、実際に何がどう議論されたのかを確かめたかったからです。
結論から言うと、報道の見出しは間違っていませんでした。ただ、その一言に圧縮される前の資料には、そう言わざるを得なくなった事実がかなり具体的に並んでいます。中国の対日輸出管理強化が、2026年に入ってから3回打たれていることをご存知でしょうか。私はこの資料を読むまで、3回という回数を正確には把握していませんでした。
なお、報道で見かける会議名にはブレがあります。正しくは「総合的な国力から安全保障を考える有識者会議」です。細かい話に見えますが、一次資料を探すときに名前が違うと辿り着けません。
8月4日に何が起きたのか
事実から押さえます。2026年8月4日(火)の14時から15時30分まで、内閣総理大臣官邸2階大ホールで、この有識者会議の第3回が開かれました。議題は「経済安全保障・技術」です1。
会議そのものは新しいものではありません。令和4年9月22日の内閣総理大臣決裁で設置され、令和8年4月20日に一部改正されています2。2022年の安保3文書改定のときに置かれた会議を、今回の改定に向けて改組した形です。庶務は内閣官房が処理します。
設置の趣旨には、こう書かれています。我が国が持てる力、すなわち外交力、防衛力、経済力、技術力、情報力、人材力の総合的な国力を強くし、あらゆる政策手段を組み合わせて対応していくことが重要である2。防衛力だけを議論する場ではない、というのが最初から明示されているわけです。第1回は4月27日、第2回は6月8日に開かれ、第2回では外交力と防衛力が議題でした3。順番として、外交・防衛のあとに経済安全保障が来ています。
第3回で内閣官房国家安全保障局が出した資料が「国家安全保障における『経済安全保障』の今後の方向性」です4。構成は3部で、現行戦略における経済安全保障の位置づけ、2022年12月の戦略策定以降に何が変わったか、そして今回の改定でどう考えるか。この記事で読んでいくのは主に2つ目と3つ目です。
ひとつ先に断っておくと、第3回の議事要旨は本記事の執筆時点でまだ公開されていません。第1回と第2回は公開済みです。ですので以下で「有識者がこう言った」という部分は報道に基づく記述で、「資料にこう書かれている」という部分は一次資料に基づく記述です。両者は分けて読んでください。
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なぜ「依存を避ける」なのか。資料が並べた事実
資料の中で、私がいちばん手が止まったのは「経済の武器化の深刻化」と題された1枚です。ここに中国の措置が時系列で並んでいます4。
重要鉱物への輸出規制は、2023年8月のガリウムとゲルマニウムから始まりました。同年12月に黒鉛、2024年9月にアンチモン、2025年2月にタングステン・テルル・ビスマス・モリブデン・インジウム、そして同年4月に重レアアース7種(テルビウム、ジスプロシウム等)。対象が段階的に広がってきたことが、一覧にすると一目で分かります。
2025年10月に発表された措置は、性格がさらに変わりました。中国国外の組織・個人による中国以外の国・地域への輸出にまで許可取得を義務づける、いわゆる再輸出規制が入っています。対象は、中国産レアアースを価値比率0.1%以上含む外国製の製品(磁石等)、中国のレアアース関連技術を用いて外国で製造された製品、そして中国産のレアアース関連製品です。さらに中国国内で外国の組織・個人に輸出する場合も規制する、みなし輸出規制まで導入されました4。なおこの措置は1年間停止とされています。
そして日本を名指しした措置です。ここは回数を正確に書きます。
| 発表日 | 内容 |
|---|---|
| 2026年1月6日 | 日本の軍事ユーザー・軍事用途、および日本の軍事力向上に寄与する一切のその他のエンドユーザー・用途へのすべての両用品目の輸出を禁止 |
| 2026年2月24日 | 日本企業等20社を「管理リスト」に掲載(両用品目の輸出禁止)。別に20社を「懸念リスト」に掲載(輸出審査を厳格化) |
| 2026年6月29日 | 同じく20社を「管理リスト」、20社を「懸念リスト」に掲載 |
資料はこれを「本年に入り、日本のみをターゲットとしたデュアルユース品目の輸出規制の強化を発表し、国際的な慣行と異なる措置を立て続けに公表」と記述しています4。
ここで誤解のないように書いておきます。**リストに掲載されたことは、その企業が何か不正をしたという意味ではありません。**規制上の区分であって、企業の是非を判断するものではありません。正規の民生メーカーが広範な規制区分に巻き込まれた、というのが当事者から見た実像です。この点は、掲載企業を「危ない取引先」のように扱う書き方にならないよう、私自身も注意して書いています。
依存の構造そのものについても、資料は事実として記しています。中国は1990年代より政府主導で生産能力を戦略的に拡大し、一方で日本を含むG7等の生産能力は相対的に低下したこと。中国企業はOECD各国企業の平均の3〜8倍の政府支援を受けており、産業補助金が最も高く顕著であること4。「依存を避ける」という結論は、精神論ではなく、この積み上げから出てきたものです。個々の措置を追ってきた方には既知の話でも、こうして1枚に並ぶと圧が違いました。
中国側の制度そのものの読み方は中国の対日デュアルユース輸出規制とレアアース輸出規制の全体地図で個別に整理しています。
政府が示した4つの方向性
では改定でどうするのか。資料は「今後の取組の方向性」として4つを挙げています4。要点だけ拾います。
ひとつめが新たな国際経済秩序形成への自主的・能動的取組です。目標は「経済の武器化」を抑止・局限し得る、公正で予見可能性がある国際経済秩序の実現。FOIPの進化、CPTPPの戦略的強化、貿易救済措置など既存ルールの徹底活用が並びます。ここで使われている表現が「集団的な自律性・強靱性を確保」です。報道では有識者から「集団的経済安全保障」という言葉が出たと伝えられていますが、資料上の用語は前者です。引用するときは分けたほうがいいと思います。
ふたつめが社会全体の持続的対応能力の確保。脆弱性を発見し対処するサイクルを強化する、という考え方で、官民合同机上演習という具体策まで書かれています。エネルギー、食料、医薬品、生活必需品の備え、電力・通信・水道の維持が視点例です。改正経済安全保障推進法に基づいて設置される総合的な経済安保シンクタンクをハブに、産学官の専門人材を育てるとも書かれています。推進法の改正内容は経済安全保障推進法の改正で扱いました。
みっつめがサプライチェーンを俯瞰した生産基盤の強化です。ここに置かれた一文が象徴的でした。「生産力こそ抑止力」。NATO事務総長マルク・ルッテ氏の「より多く生産すれば、抑止・防衛態勢はより強固になる」という発言も引かれています4。個別の物資・技術を超えて、上流から下流、資源循環まで面的に強化するという考え方です。化学品などの汎用品も含む基盤的物資が対象に入っている点は、自社は関係ないと思っていた企業ほど読んでおいたほうがいいところです。
よっつめが安全保障と科学技術・イノベーションとの有機的連携で、AI技術スタックにおける不可欠性の確保が軸になっています。米中が最先端モデルだけでなくスタックの全層で自律性・優位性を追求しているという認識のもとで、日本がどこで不可欠な位置を占めるかという話です。
防衛力側の議論とあわせて全体像を見たい方は、骨太方針2026が示した防衛力強化もどうぞ。次回の会議は9月中旬に予定され、有識者の提言をもとに政府は年内に新たな安保3文書を閣議決定する方針と報じられています。
自社が名指しされたら、何が起きるのか
ここからが実務の話です。抽象論として読むと「大変そうだ」で終わってしまうので、具体的に何が起きるかを書きます。
仮に自社が「管理リスト」に掲載された場合、中国からの両用品目の輸出が禁止されます。ここで効いてくるのが、自社が直接輸入していなくても影響を受けるという点です。部材を国内商社から買っていても、その商社が中国から仕入れていれば、供給は止まります。自社の調達台帳に「中国」という文字がないから安心、とはなりません。
「懸念リスト」の場合は禁止ではなく審査の厳格化ですが、実務上は納期が読めなくなります。止まるより厄介な面すらあります。
さらに前述の再輸出規制を重ねると、影響範囲はもう一段広がります。中国産レアアースを価値比率0.1%以上含む外国製の磁石は、中国以外の国から調達していても対象になりえます。0.1%という数字を、自社製品について答えられる会社がどれだけあるでしょうか。これは責める話ではなく、そもそも把握できる仕組みを持っていないのが普通だ、という話です。
では何から手をつけるか。順番はこうだと考えています。
まず、自社とグループ会社が各リストに掲載されていないかを確認すること。3回分の公告を、すべて自分で確認します。次に、主要な調達先が掲載されていないか。ここは商社経由の間接調達まで遡る必要があります。そして、該非判定の記録が改正に追随できているか。日本側の輸出管理も同時に動いており、判定した時点の法令が今も有効とは限りません。
正直に言えば、この3つを人手だけで回し続けるのは相当にきついと思います。中国だけでなく米国のEARも改正が頻繁で、リストは各国が別々に更新します。当社が提供している輸出管理AIエージェントTRAFEEDは、この照合と法令改正への追随を支援するものです。過去審査データ約3万件を用いた岡山大学との共同実証でAI判定精度95%以上(自社調べ)を確認し、特許第7862062号を取得、20組織以上で使われています。ただし外為法上、最終的な該非判定を行うのは貴社の輸出管理責任者です。出力は判定の根拠資料としてお使いください。この線引きは制度上動かせません。
年内の閣議決定までに、企業ができること
まとめます。2026年8月4日、官邸で「総合的な国力から安全保障を考える有識者会議」の第3回が開かれ、経済安全保障が議題になりました。内閣官房国家安全保障局の資料は、中国による重要鉱物の輸出規制が2023年8月から段階的に拡大し、2025年10月には再輸出規制とみなし輸出規制まで及び、2026年には1月・2月・6月の3回にわたって日本を名指しした措置が打たれたことを、時系列で示しています。「依存を避ける」という結論は、この事実の積み上げの上に立っています。
政府が示した方向性は4つ。国際経済秩序への能動的関与、社会全体の対応能力、サプライチェーンを俯瞰した生産基盤の強化、そして科学技術との連携です。「生産力こそ抑止力」という一文が、今回の性格をよく表していると思います。
年内に閣議決定される見通しですが、企業の側が待つ必要はありません。リストの確認も、間接調達の遡りも、該非判定の記録の点検も、戦略が決まる前から始められます。むしろ、戦略が決まってから動き出すと、同じことを考えた企業が一斉に代替調達先へ向かうことになります。
個人的には、資料の中で「化学品等の汎用品も含む重要な基盤的物資」と書かれていた一行が引っかかっています。規制というと先端技術の話だと思われがちですが、止まって困るのは案外ありふれたものです。自社の製品を1つ選んで、その部材がどこから来ているかを3階層まで遡ってみてください。それだけでも、見えてくるものがあるはずです。
サプライチェーンの依存構造や輸出管理体制の見直しについて具体的に相談したい方は、個別相談からご連絡ください。
Footnotes
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内閣官房「総合的な国力から安全保障を考える有識者会議(第3回)議事次第」。開催日時は令和8年8月4日(火)14:00〜15:30、場所は官邸2階大ホール、議題は「経済安全保障・技術」。https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/boueiryoku_kaigi/sogoteki_dai3/index.html ↩
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内閣官房「総合的な国力から安全保障を考える有識者会議の開催について」(令和4年9月22日 内閣総理大臣決裁/令和8年4月20日 一部改正)。「外交力、防衛力、経済力、技術力、情報力、人材力の総合的な国力を強くし、あらゆる政策手段を組み合わせて対応していくことが重要である」との趣旨、構成員は内閣総理大臣が開催し座長は互選で決定すること、庶務を内閣官房が処理することは同文書による。https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/boueiryoku_kaigi/pdf/yushikishakaigi_kaisai.pdf ↩ ↩2
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内閣官房「総合的な国力から安全保障を考える有識者会議(第2回)議事要旨」。日時は令和8年6月8日(月)15時28分〜17時05分、場所は内閣総理大臣官邸2階大ホール。外務省総合外交政策局長より「外交力の強化」、防衛省防衛政策局長より「防衛力の変革について」の説明が行われた。第1回は令和8年4月27日(月)18時00分〜18時56分。https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/boueiryoku_kaigi/sogoteki_dai2/gijiyoushi.pdf / 会議一覧は https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/boueiryoku_kaigi/sogoteki_kokuryoku.html ↩
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内閣官房国家安全保障局「国家安全保障における『経済安全保障』の今後の方向性」(令和8年8月4日、第3回会議提出資料)。重要鉱物の対象拡大の時系列(2023年8月ガリウム・ゲルマニウム、同年12月黒鉛、2024年9月アンチモン、2025年2月タングステン等、同年4月重レアアース7種)、2025年10月発表の輸出管理措置(再輸出規制の3類型・みなし輸出規制の導入・1年停止)、2026年1月6日/2月24日/6月29日の対日輸出管理強化の内容、「国際的な慣行と異なる措置」という記述、中国企業がOECD各国企業の平均3〜8倍の政府支援を受けているとの記載、今後の取組の方向性①〜④(「集団的な自律性・強靱性を確保」「官民合同机上演習」「生産力こそ抑止力」「化学品等の汎用品も含む重要な基盤的物資」)、およびNATO事務総長マルク・ルッテ氏の発言の引用は、いずれも同資料による。なお同資料は出典として経済産業省 第19回産業構造審議会 製造産業分科会資料(2026年2月)、CISTEC資料、JETRO資料等を挙げている。https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/boueiryoku_kaigi/sogoteki_dai3/shiryo.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7






