こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
2026年9月17日、第2次高市改造内閣が発足しました。首相官邸の閣僚名簿を開いて最初に確かめたのは、経済安全保障担当大臣の欄です。小野田紀美氏、留任。防衛大臣は小泉進次郎氏、外務大臣は茂木敏充氏、経済産業大臣は赤澤亮正氏、いずれも留任でした1。輸出管理や経済安全保障の実務を担う立場からすると、この4つの席が動かなかったことが今回の改造の最大の情報です。骨格は維持、周辺は刷新。10人が交代し、7人が初入閣した改造でも、私たちの仕事に直結する部分は継続で読んでよいと考えています。
ただ、「変わらない」で終わらせるのはもったいない話です。同じ日に閣議決定された基本方針には、経済安全保障担当大臣を中心に「不断にサプライチェーン調査を実施し、為替変動や経済的威圧にも強い経済構造を構築する」と書かれました2。担務の再編で、小野田氏はAI戦略などの兼務を外れ、経済安全保障に軸足を置く形になります。留任した各大臣の就任日の発言を拾うと、「継続」というより「加速」のトーンです。この記事では、官邸の名簿と基本方針、各省の会見録という一次情報を土台に、何が変わり、何が変わらないのかを実務者の目線で整理します。自社の製品や取引先が輸出管理の規制にどう関わるかを先に把握しておきたい方は、輸出管理セルフチェックを使ってみてください。
改造の全体像。骨格は維持、周辺は刷新
数字から見ていきます。閣僚18人のうち留任は8人、交代は10人です。10人の内訳は初入閣が7人(藤井比早之、関芳弘、簗和生、井林辰憲、笹川博義、古川俊治、中司宏の各氏)、再入閣が3人(山下貴司、細野豪志、葉梨康弘の各氏)。女性閣僚は片山さつき財務大臣と小野田氏の2人で、改造前と同数です13。留任した8人は、木原稔官房長官、茂木外相、片山財務相、上野賢一郎厚生労働相、赤澤経産相、小泉防衛相、城内実成長戦略担当相、小野田経済安全保障担当相です。官房長官、外相、財務相、防衛相という政権の背骨に加えて、経済政策と経済安全保障の担当も一人も動いていません。
2025年10月の政権発足以来、初めての内閣改造です。首相は会見の冒頭で、2月の衆院選で自民党が316議席、日本維新の会が36議席という「大きな負託」を得たと述べました4。その選挙を経て、2月18日に第2次高市内閣が全閣僚再任で発足しています5。今回は内閣総辞職を伴わない改造なので、正式名称は「第2次高市改造内閣」です。
交代の中で最も報じられたのは、林芳正総務相の退任です。昨年の自民党総裁選で高市首相と争った林氏が閣外に出る一方、同じく総裁選を戦った茂木、小泉両氏は留任しました。首相は記者会見で人選の基準を三つ挙げました。党所属議員へのアンケートに目を通したうえで「本人の専門知識、課題意識、やる気を吟味」したこと、「選挙に強く」腰を据えて政策を実行できること、そして外交・通商や経済財政政策のように「継続性の確保が重要な職務を担う閣僚」は留任させたことです。昨年の総裁選で争い今回続投した閣僚については「第1希望の役職であることを確認した上で人事を行いました」と述べ、来年の総裁選とは「一切関係はございません」と言い切っています。林氏の処遇については「個々の閣僚の人事に関するコメントは差し控えます」との答えでした4。
もう一つの変化は連立の形です。日本維新の会は2025年10月の連立参加以来、閣僚を出さない「閣外協力」でしたが、9月16日に高市首相と吉村洋文代表が閣内協力への移行で正式に合意し、翌17日に中司宏前幹事長が規制改革などを担当する内閣府特命担当大臣として初入閣しました6。首相は会見で、成長のボトルネックになっている規制や制度の見直しは成長戦略の大きな柱だとして「思い切った規制改革を実現していただきます」と述べ、中司氏の入閣を「自民・維新連立政権が新たな段階に進む象徴」と位置づけました4。
政権の運営面では、内閣官房副長官に中西祐介参院議員が就き、尾﨑正直、露木康浩の両副長官は留任しました。総理補佐官には、国家安全保障と核軍縮・不拡散を担当する若宮健嗣氏、地域未来戦略担当の佐々木紀氏、物価高対策・責任ある積極財政・デジタル政策担当の松本尚氏が新たに就任しています7。
同日に閣議決定された基本方針は、「責任ある積極財政」による「強い経済」の実現、「力強い日本外交」、政権公約の実現を3本柱に据えました。実務に近いところでは、経済安全保障担当大臣を中心としたサプライチェーン調査の継続、デジタル大臣を中心としたサイバーセキュリティ対策の強化、国家情報会議を司令塔とするインテリジェンス機能の強化、そして「戦略三文書」の見直しが明記されています2。
世論の受け止めは厳しめです。時事通信が9月11日から14日に実施した世論調査では、内閣支持率が44.1%と前月比4.3ポイント下がり、派閥の政治資金問題で処分を受けた議員の閣僚起用には68.6%が反対でした。ただし調査は改造前で、今回の人事そのものへの評価は含まれていません8。
該非判定の属人化を、AIで解消する。
経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDの機能・導入フローをまとめたサービスカタログを無料でダウンロードできます。
留任した4閣僚の9月17日の発言。方針は継続、速度は上げる
輸出管理と経済安全保障に関わる4つのポストの顔ぶれは変わりません。ただ、留任した各大臣が9月17日に何を語ったかを見ると、「現状維持」ではなく「期限のある仕事を急ぐ」という空気が伝わってきます。
小野田紀美経済安全保障担当大臣は留任です。改造前は経済安全保障に加えてクールジャパン戦略、知的財産戦略、科学技術政策、宇宙政策、人工知能戦略の特命担当を兼ねていましたが、改造後の担務は経済安全保障、感染症危機管理、外国人との秩序ある共生社会推進の3つに絞られました1。AI戦略と科学技術・宇宙政策、知的財産戦略はデジタル大臣に移っています。首相は会見で、国家情報会議と国家情報局の法制化、対日外国投資委員会の設置など「高市内閣発足後、インテリジェンス機能を強化してまいりました」としたうえで、「これは『改革の第一歩』に過ぎません。『データ主権の確立』など、更なる経済安全保障政策の展開が不可欠でございます」と述べ、小野田氏には「担務の見直し」によって経済安全保障政策と外国人との秩序ある共生社会推進に「集中をしていただきます」と説明しました4。産経新聞は首相の閣僚指示書について、「不断にサプライチェーン調査を実施し、為替変動や経済的威圧にも強い経済構造を構築する」よう小野田氏に指示したと報じています9。この一文は閣議決定の基本方針にそのまま載っている文言です2。小野田氏本人の改造後の発言は、執筆時点(9月18日午前)で内閣府の会見録に掲載されていません。会見録が出た時点で追記します。
小泉進次郎防衛大臣も留任です。首相は会見で、無人機の大量運用など「新しい戦い方」の顕在化と「長期戦への備え」の必要性を挙げて「主体的」に防衛力の抜本的強化を進めるとし、小泉氏には「年内に行う、いわゆる『三文書』の見直しの重責をしっかり果たしていただきます」と述べました4。小泉氏本人の17日の記者団への発言は、4人の中で最も具体的でした。「2年目は三文書の改定、年内までという残された期日はそうない。この戦略の改定は日本の安全保障、そして地域全体に大きく関わるもの」として、「防衛省、自衛隊をあげて、総力を結集して、むしろ1年目以上の速度と強度で進めなければいけない」と語っています。首相からの指示は「三文書をしっかりとやるようにというものがやはり大きい」とも述べました10。同じ日の午後には、内閣官房で「総合的な国力から安全保障を考える有識者会議」の第4回が開かれ、「総合的な抑止力・対処力強化のための政府横断的な取組」が議題でした11。3文書の改定は年内、その最終局面を小泉氏が続投して迎えることになります。
赤澤亮正経済産業大臣は、改造当日の午前に行われた閣議後会見で1年間を振り返り、日米関税合意の実施、中東情勢への対応、熊本地震への対応を「3つの有事対応」と呼びました。日米については、米国が5兆円超の関税を課そうとしたものを2兆円超軽減する合意の前提として「日米政府の戦略的投資イニシアティブ」があり、経済安全保障の確保などに資する6件を発表済みだと説明しています。中東については燃料の激変緩和措置と備蓄放出、代替調達で「我が国全体として必要となる量」を確保できたと述べました12。改造後の担務には「中東情勢に伴う重要物資安定確保担当」と「AX(AIトランスフォーメーション)社会実装担当」が新たに加わっています1。留任後の取材には、首相からの指示は「やりかけの仕事をやり遂げよう」ということだと理解していると述べ、中小企業の生産性向上とフィジカルAIについて「世界に日本が先頭を走るぞという意気込みでしっかりやっていきたい」と語りました13。首相の側の説明も具体的です。医療・介護、運輸、建設などの分野でAIの活用を加速し、中小企業・小規模事業者へのAI普及を進めるために「AX社会実装担当」を新設して赤澤氏に兼任させたこと、化石燃料の調達安定性とGXの加速という「2つの強靱化」を進める「パワーGX戦略」を年末までに取りまとめるよう既に指示したこと、そのためにGX実行推進担当を務めてきた赤澤氏を再任したことを、会見で述べています4。
茂木敏充外務大臣も留任です。首相は会見で、自身が就任以来10か国を訪問し、12回の国際会議に出席し、47の国・機関と会談してきた信頼関係を基盤に「自由で開かれたインド太平洋」を進化させるとして、茂木氏には同盟国・同志国をはじめ諸外国との関係を「より一層深めていただきます」と述べました4。産経新聞によれば、茂木氏と小泉氏の留任は、緊迫する国際情勢への対応と安保3文書の年内改定を控え、外交・安全保障政策の継続性を重視したためで、茂木氏は中東情勢をめぐって電話を含め80回以上の会談をこなしてきたと同紙は伝えています14。外務省の会見録は執筆時点で確認できておらず、茂木氏本人の発言は報道による記述です。
4人に共通するのは、任期の途中で交代すると失われる「継続中の案件」を抱えていることです。3文書の改定、日米の投資イニシアティブ、中東発の物資確保、そして経済安全保障推進法の改正法の運用。これらは人が替わればゼロから説明し直す種類の仕事で、首相が継続性を選んだのは合理的だと私は見ています。
初入閣・再入閣の10人。経歴と実績を確認できた範囲で
新任の10人は、輸出管理の実務に直接関わるポストではありません。それでも、AI戦略が誰の手に移ったか、治安・テロ対策や法務を誰が担うかは、企業の情報管理やコンプライアンスに間接的に効いてきます。官邸の閣僚名簿、過去の内閣の閣僚略歴、報道各社のプロフィール記事から、確認できた範囲で整理します11516。
| ポスト | 氏名(区分) | 経歴と主な実績 |
|---|---|---|
| 総務大臣、地方創生・地域未来戦略・副首都整備等推進担当 | 藤井 比早之(初入閣) | 1995年に自治省(現総務省)入省。彦根市副市長を経て2012年に兵庫4区で初当選、6期。国土交通大臣政務官、内閣府副大臣、初代デジタル副大臣、外務副大臣、衆院農林水産委員長を歴任 |
| 法務大臣、男女共同参画・女性活躍・法制度検証改革担当 | 山下 貴司(再入閣) | 検事出身。東京地検特捜部や在米大使館勤務を経て2012年に岡山2区で初当選、6期。2018年10月から2019年9月まで第4次安倍改造内閣の法務大臣。衆院内閣委員長、党副幹事長 |
| 文部科学大臣 | 関 芳弘(初入閣) | 住友銀行(現三井住友銀行)出身。2005年に兵庫3区で初当選、7期。経済産業大臣政務官、環境副大臣、経済産業副大臣。2024年4月、派閥の政治資金問題で党紀委員会から戒告処分 |
| 農林水産大臣 | 簗 和生(初入閣) | 議員秘書、日本経済研究所研究員を経て2012年に栃木3区から初当選、6期。国土交通大臣政務官、文部科学副大臣、衆院安全保障委員長。2024年4月、同じ問題で党の役職停止6か月の処分 |
| 国土交通大臣、水循環政策・国際園芸博覧会担当 | 井林 辰憲(初入閣) | 2002年に国土交通省入省、道路局や中部地方整備局に勤務。2012年に静岡2区で初当選、6期。環境大臣政務官、内閣府副大臣、衆院財務金融委員長 |
| 環境大臣、原子力防災・クマ被害対策担当 | 笹川 博義(初入閣) | 群馬県議2期を経て2012年に群馬3区で初当選、6期。環境大臣政務官、環境副大臣、衆院農林水産委員長、農林水産副大臣。クマ被害対策担当は今回の新設 |
| デジタル大臣、AI・デジタル改革推進、サイバー安全保障、知的財産・科学技術・宇宙・人工知能戦略・海洋政策担当 | 古川 俊治(初入閣) | 外科医で弁護士。慶應義塾大学医学部と法科大学院で教授を務め、英オックスフォード大学でMBAを取得。2007年に参院埼玉選挙区で初当選、4期。参院財政金融委員長など。AI戦略は小野田氏から移管 |
| 復興大臣、防災・防災庁設置準備・国土強靱化担当 | 細野 豪志(再入閣) | 2000年に旧静岡7区で初当選、10期。民主党政権の2011年から2012年にかけて環境大臣と原子力損害賠償支援機構担当などを務め、原発事故対応を担当。2021年に自民党入党。11月に予定される防災庁の設置準備も担う |
| 国家公安委員会委員長、領土問題・CBRNEテロ対策・沖縄北方・消費者担当 | 葉梨 康弘(再入閣) | 1982年に警察庁入庁、在インドネシア大使館一等書記官などを経て2003年に茨城3区で初当選。財務大臣政務官、法務副大臣を複数回、農林水産副大臣、衆院法務委員長。2022年8月に第2次岸田改造内閣で法務大臣、同年11月に辞任 |
| 内閣府特命担当大臣(こども政策・少子化対策・若者活躍・規制改革・共生共助)、行政改革・国家公務員制度担当 | 中司 宏(初入閣、日本維新の会) | 産経新聞記者、大阪府議2期を経て1995年から2007年まで枚方市長を4期。2021年に大阪11区で初当選、3期。2025年8月から2026年9月まで維新幹事長。維新からの閣僚は初 |
処分を受けた2人の起用について補足します。関氏と簗氏の処分は、2024年4月4日に自民党党紀委員会が国会議員ら39人に対して決めたものの一部で、簗氏は党の役職停止6か月、関氏は戒告でした17。処分は党則上の区分であり、それ以上の意味を私が付け加えるつもりはありません。首相は会見で「過去に政治資金問題で処分を受けた閣僚もおりますが、必要な政策能力を持つ方です」と述べ、「選挙を経たということで過去に行ったことがなかったこととされるわけではございません」としつつ、説明を尽くし2回の選挙で有権者の審判を受けたことを理由に「襟を正して、重責ある公務に臨んでいただきます」と説明しました4。関氏自身は就任時の取材に、説明責任は「一生続くと思います」と語ったと報じられています18。
人事の癖として目立つのは、担当分野と経歴を重ねた配置です。元自治省の総務相、元検事の法相、元国交省の国交相、元警察庁の国家公安委員長、原発事故対応の経験者の復興相、医師で弁護士のAI・デジタル担当。木原官房長官は初閣議後の会見で、首相の基本方針として「専門知識や経験などを踏まえ、政権全体の力を最大限発揮する」ことを挙げ、細野氏には11月の防災庁設置を見据えて福島・東北の復興の知見を生かすこと、古川氏には政府と準公共部門のデジタル改革でAIを不可欠の存在として位置づけることを期待したと説明しました19。ロシア経済分野協力担当は、ウクライナ侵略が続いていることを理由に設置を見送ったと、同じ会見で語られています19。
首相自身は会見で、新任の各大臣に課題を具体的に割り当てています。藤井氏には新設の「副首都整備等推進担当」と、地域未来戦略に基づく産業クラスター計画(策定・公表済みが50以上)。古川氏には「AI・デジタル改革推進」と「人工知能戦略」に加えて科学技術、宇宙、海洋、サイバー安全保障、知財、新設の「コンテンツ戦略」。井林氏には国土強靱化と造船などの戦略分野、インフラ老朽化対策。関氏には大学改革や高専・工業高校のテコ入れによる「新技術立国」。簗氏には農林水産物の輸出拡大とフードテックの社会実装。細野氏には防災庁の設置を見据えた防災担当と、新設の「国際防災協力担当」。葉梨氏には「トクリュウ」などの悪質犯罪の撲滅と領土問題。山下氏には男女共同参画と法制度全体の検証・改革。笹川氏には新設の「クマ被害対策」です。人選の手法については、参院と維新を除きほぼ全員がアンケートで希望したポストに就いたとし、「旧派閥のバランスなどは全く考慮をしておりません」と述べています4。
輸出管理・経済安全保障の実務にとって、何が変わり、何が変わらないか
ここからが本題です。制度と人事を分けて考えます。
変わらないものから。制度の骨格は改造で動きません。経済安全保障推進法は2026年6月10日に改正法が成立、6月17日に公布され、重要物資の供給に不可欠な役務への支援、安定供給確保に向けた努力義務と協力要請、経済安保海外事業促進制度の創設、官民協議会の組織、シンクタンク機能の構築が加わりました2021。特定重要物資は2025年12月の政令改正で船体や無人航空機などが加わり、16物資になっています21。重要経済安保情報保護活用法(セキュリティ・クリアランス制度)は2025年5月に施行済みで22、対内直接投資の審査を担う対日外国投資委員会(JFIC)は2026年6月29日に発足しました23。外為法に基づく輸出管理では、2026年2月施行の輸出貿易管理令改正でFPGA組込装置などが追加されています(改正の解説記事)。これらを所管する大臣が全員留任した以上、運用の方向は9月16日までと同じです。当社の経済安全保障推進法の完全ガイドとセキュリティ・クリアランス制度の解説は、そのまま現行制度の説明として使えます。
変わるものは3つあります。第一に、経済安全保障担当大臣の担務が絞られたことです。改造前の小野田氏は経済安保のほかにAI、科学技術、宇宙、知財、クールジャパンを抱えていました。9月4日の会見録を見ると、発言の大半がAI外交、科学技術予算、宇宙、知財に割かれています24。これが経済安保と外国人政策に集約されました。大臣の時間配分が変わることは、政策のスピードに直接効きます。基本方針が「不断にサプライチェーン調査」と書いたのは、推進法改正で入った協力要請の枠組みを実際に回す、という意思表示だと私は読んでいます。企業側から見れば、自社が供給網のどこに位置し、どの物資や役務に連なるかを説明できる状態にしておく必要が、これまで以上に具体化します。
第二に、AIとサイバーの司令塔がデジタル大臣に集約されたことです。古川氏の担務にはAI・デジタル改革推進、サイバー安全保障、人工知能戦略、科学技術政策が並びます1。経済安全保障の実務では、技術流出の防止や研究セキュリティ、みなし輸出の管理がAI・科学技術政策と重なります。小野田氏と古川氏の間でこの境界をどう分担するかは、今後の会見で確かめるべき点です。
第三に、経産相の担務に「中東情勢に伴う重要物資安定確保担当」が加わったことです。ホルムズ海峡の通航は2026年の閉鎖後、回復しきっていません。当社の通航データの分析で日次の隻数を追っています。基本方針も最初の政策項目で「中東情勢等を注視し」と書きました2。エネルギーや石油化学品の調達先を持つ企業にとって、経産省の重要物資対応は輸出管理と同じくらい直接的な影響を持ちます。
海外の規制との接点も変わりません。内閣官房が8月の有識者会議に提出した資料によれば、中国は2026年に入ってから1月6日、2月24日、6月29日の3回、日本向けの輸出管理を強化し、2025年10月に公表した再輸出規制とみなし輸出規制は1年間停止されています25。首相は会見で、中国を「重要な隣国」とし、「戦略的互恵関係を包括的に推進しつつ、建設的かつ安定的な関係を構築していく方針」は一貫していると述べ、11月のAPECに合わせた首脳会談については予断を控えました4。米国では、エンティティリスト掲載企業の50%以上出資先を自動的に規制対象にするアフィリエイトルールの停止期間が、2026年11月に切れる見込みです(解説記事)。いずれも、一覧への掲載は規制上の区分であって、掲載された企業の是非を判断するものではありません。日本企業に必要なのは、取引先の資本関係と自社製品の該当性を、規制が変わるたびに確認し直せる体制です。当社のTRAFEEDは、該非判定と取引先スクリーニングをAIエージェントが支援する製品ですが、最終的な該非判定は貴社の輸出管理責任者が行う前提で設計しています。
今後3〜6か月で見るべき日程
実務者の手帳に入れておくべき日程を、確認できた範囲で並べます。
10月上旬に臨時国会が召集される見通しです。首相は会見で、2027年4月から2年間、食料品の消費税率を1%に引き下げる関連法案について、9月15日に閣議決定した大綱26に基づき「なるべく多くの政党に御賛同いただけますように、法案の準備や審議に丁寧に臨んでまいる」と述べ、財源は「市場の信認を得られるように、特例公債に頼らず確保する」「見通しはしっかりと立っております」と説明しました4。時事通信によれば、減税と給付に必要な財源は年約5兆円です27。衆院の定数削減法案は議員立法として継続審議中で、首相は連立合意と政権公約に掲げた以上「実現に向けて真摯に取り組んでいくべきもの」と述べています4。国会の審議時間は有限で、消費税法案が大きく時間を取れば、経済安全保障関連の質疑や法案の順番にも影響します。
安保3文書は年内に改定される方針です。9月17日の第4回有識者会議では、AIの研究開発を進めるべきだという意見や、防衛力強化の予算確保を後退させてはならないという意見が出たと報じられ、次回は10月下旬の予定とされています28。第3回では経済安全保障が議題で、政府資料は「生産力こそ抑止力」という言葉を使いました。当社の有識者会議の記事で一次資料を読んでいます。年末の閣議決定に向けて、防衛生産基盤や重要技術の扱いがどう書かれるかは、防衛関連のサプライヤーだけでなく、汎用品を扱う企業にも関わります。
11月には防災庁の設置が予定されています19。同じ11月には、米国のアフィリエイトルールの停止期限と、中国の2025年10月措置の停止期限が重なります25。9月24日に予定される米中首脳会談の結果次第で、双方の停止が延長されるか、再開されるかが決まると私は見ています。ここは一次情報が出るまで断定できません。
年末には2027年度予算案の編成があります。小野田氏は9月4日の会見で、科学技術関係予算の概算要求が前年度当初比73.7%増の10兆9,983億円になったと説明し、経済安全保障上の重要技術の育成強化や南鳥島レアアース泥開発の予算を挙げました24。担務は移りましたが、経済安保に関わる予算がどこに付くかは年末の予算案で確定します。
そして、小野田氏と古川氏の担務再編後の初めての記者会見です。両大臣がサプライチェーン調査、研究セキュリティ、AIと経済安保の境界をどう語るかで、来年前半の企業対応の輪郭が見えてきます。内閣府とデジタル庁の会見録が出た時点で、この記事に追記します。
私の見立て
ここからは筆者の見解です。三つあります。
第一に、今回の改造は経済安全保障の実務にとって「安定」です。ただし、安定は「何もしなくてよい」という意味ではありません。担当大臣の担務が絞られ、基本方針にサプライチェーン調査の継続が明記され、推進法の改正法が運用段階に入っています。制度は変わらないまま、運用の密度だけが上がっていく方向です。これが今回の人事から読み取れることだと考えています。
第二に、輸出管理の実務者にとって、この秋は「海外の規制変更が重なる季節」になります。国内の人事は落ち着きましたが、11月に米中双方の措置の停止期限が来ることは変わりません。日本の政策が安定しているからこそ、海外規制の変化に対応する余力を今のうちに確保しておくべきだと考えています。
第三に、AIと経済安全保障の担当が分かれたことは、企業側の窓口も分かれることを意味します。研究セキュリティや技術流出防止の相談をどこに持ち込むかは、今後の会見と省庁の役割分担を見ながら確かめる必要があります。正直なところ、ここは政府側もまだ線を引いている途中だろうと思います。
まとめると、第2次高市改造内閣は、輸出管理と経済安全保障に関わる4つのポストを全員留任させ、経済安全保障担当大臣の担務を絞り込み、閣議決定の基本方針でサプライチェーン調査の継続と3文書の見直しを明記しました。方針は継続、速度は加速。この前提で、自社の該非判定の体制と取引先の確認プロセスを、10月の臨時国会と11月の海外規制の期限の前に一度点検しておくことをお勧めします。人事や規制の変化を自社の輸出管理にどう落とし込むかを具体的に相談したい方は、TRAFEEDの個別相談でお話ししましょう。
Footnotes
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第2次高市改造内閣 閣僚等名簿(首相官邸、2026年9月17日)。各閣僚の担務、衆参の別は同名簿による。改造前の担務は高市内閣 閣僚名簿(2025年10月21日発足)と比較した ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
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第2次高市改造内閣が発足 「決断と実行」主要閣僚留任―裏金議員起用、林氏は退任・維新から初入閣(時事通信、2026年9月17日)。初入閣・再入閣の区分、人選の基準、首相の発言は同記事による ↩
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高市内閣総理大臣記者会見(首相官邸、2026年9月17日)。冒頭発言と質疑応答の全文。衆院選の議席数、人選の基準、各大臣への課題、経済安全保障とインテリジェンス、三文書、消費税減税の財源、定数削減、日中関係に関する発言は同会見録による。官邸の注記のとおり、首相は「AI社会実装担当」と発言したが正しくは「AX社会実装担当」 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12
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自民党・日本維新の会、閣内協力に正式合意 吉村洋文代表「責任共有する」(日本経済新聞、2026年9月16日)。9月17日の与党党首会談は維新の藤田文武共同代表と行われた(総理の一日、首相官邸) ↩
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内閣支持44%、最低更新 「裏金」登用に7割反対―時事世論調査(時事通信、2026年9月17日)。調査は9月11〜14日、全国18歳以上2,000人、有効回収率57.1% ↩
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高市首相の閣僚指示書全容 経済安保強化へ担務再編、AI・地方創生も所管見直し(産経新聞、2026年9月17日、Yahoo!ニュース)。報道による ↩
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第2次高市改造内閣 防衛大臣に留任の小泉進次郎氏「1年目以上の速度と強度で進めなければいけない」(ABEMA TIMES、2026年9月17日)。防衛省の会見録は執筆時点で未確認のため、報道による ↩
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第2次高市改造内閣、留任の赤澤経済産業大臣「フィジカルAIをフル活用。日本が世界の先頭を走るという意気込みでやりたい」(ABEMA TIMES、2026年9月17日)。報道による ↩
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茂木外相、小泉防衛相は留任 3文書改定や国際情勢踏まえ継続性を重視(産経新聞、2026年9月17日、Yahoo!ニュース)。報道による ↩
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第2次高市改造内閣の顔ぶれ:裏金議員2人が初入閣、維新も閣内へ(nippon.com、2026年9月17日)。年齢、当選回数、選挙区、主な経歴は同記事による ↩
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官邸の閣僚略歴。小野田紀美、小泉進次郎、赤澤亮正、茂木敏充(いずれも高市内閣の名簿)、葉梨康弘(第2次岸田改造内閣の名簿) ↩
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党紀委員会が国会議員ら39人の処分を決定(自由民主党、2024年4月4日)。簗氏の処分内容は下野新聞(2024年4月4日)、関氏の処分内容は自民党が処分対象とした39人の議員ら一覧(日本経済新聞、2024年4月4日)による ↩
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不記載問題・関芳弘氏が文部科学大臣で入閣「心からお詫びを」「責任は一生つきまとうもの」(ABEMA TIMES、2026年9月17日)。報道による ↩
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「担務が多い」改造内閣の狙いは? 防災・AI・クマ対策など兼任&新設が相次ぐ 木原官房長官が説明(ABEMA TIMES、2026年9月17日)。報道による ↩ ↩2 ↩3
-
経済安全保障推進法(内閣府)。改正法の成立日・公布日と改正の柱は同ページによる ↩
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国家安全保障における「経済安全保障」の今後の方向性(内閣官房国家安全保障局、2026年8月4日、有識者会議第3回提出資料) ↩ ↩2
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消費税減税法案の審議に丁寧に臨むと首相(共同通信、2026年9月17日、Yahoo!ニュース)。減税の大綱は食料品消費税減税の大綱 閣議決定 来年4月から2年間 税率1%に(NHK、2026年9月15日)による ↩
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抑止力強化、AIを重視 安保3文書有識者会議、防衛費も(共同通信配信、中日新聞、2026年9月17日)。次回の日程は報道による ↩





