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【完全解説】台湾国家核心キー技術32項目と国家安全法初の刑事訴追事例|東京エレクトロン台湾子会社1.5億TWD罰金

2026-05-20濱本 隆太

2026年4月、台湾の知財・商事裁判所が、国家安全法2022年改正後初の刑事判決を言い渡しました。元TSMC社員に懲役10年、東京エレクトロン台湾子会社に1億5,000万台湾元(約7億円)の罰金。32項目の「国家核心キー技術」と域外使用罪の構造、そして日本企業がいま検討すべきコンプライアンスの論点を、田中太郎が中立的に整理します。

【完全解説】台湾国家核心キー技術32項目と国家安全法初の刑事訴追事例|東京エレクトロン台湾子会社1.5億TWD罰金
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株式会社TIMEWELLの田中太郎です。

2026年4月27日、台湾の知財・商事裁判所が、ある事件で第一審判決を言い渡しました。元TSMC社員に懲役10年、装置サプライヤーである東京エレクトロンの台湾子会社に1億5,000万台湾元(約7億円)の罰金。日本の経済紙でも報じられた、この一文だけを読んでも、何かが大きく変わったことが伝わってきます。

これは、2022年5月に改正された台湾の国家安全法——「国家核心キー技術」(NCKT)の営業秘密の域外使用と経済スパイを犯罪化した法律——が、施行から3年を経て初めて適用された刑事事件です。指定された32項目のうち、半導体分野の「14nm以下のIC製造プロセス技術」に該当するTSMCの2nm世代の機密が流出した、と検察は構成しました。

筆者がこの事件を追ううちに痛感したのは、ふたつのことです。ひとつは、台湾の経済安全保障法制が、ニュースの見出しからイメージするより遥かに広い射程を持っていること。もうひとつは、その射程が、台湾に駐在員や子会社を持つ日本企業の日常業務と地続きであるということ。本稿では、32項目の構造と国家安全法第8条の条文構造を初心者向けに整理し、初の起訴事例の事実関係を辿り、米国EEA・EAR、EUデュアルユース規則、日本の経済安全保障推進法との比較表も交えて、実務担当者が次の月曜日から手をつけられる5ステップまで落とし込みます。

本稿は中立性を重視し、立法経緯にあった「対中防衛」という性格づけを断定せず、条文が「台湾域外」一般を対象とすることを強調する立場で記述します。被告の実名は公開報道で報じられた範囲にとどめ、判決事実に基づいて整理します。

この記事でわかること

  • 台湾「国家核心キー技術(NCKT)」5分野32項目の構造と指定基準
  • 国家安全法第8条が定める域外使用罪・経済スパイ罪の法定刑(懲役5〜12年、罰金最大1億TWD、利得2〜10倍加算)
  • 2025年8月に初めて適用された起訴事例(元TSMC社員3名+東京エレクトロン台湾子会社)と2026年4月の第一審判決の事実関係
  • 米国EEA・EAR、EUデュアルユース規則、日本の経済安全保障推進法との比較表で見る台湾制度の独自性
  • 台湾に駐在員・子会社を持つ日本企業が直面する4つの典型リスクシナリオと、月曜から動かせる実務5ステップ

まず押さえる3つの用語

用語 概要
NCKT(国家核心キー技術/國家核心關鍵技術) 台湾国科会が指定する、域外流出により安全保障・産業競争力・経済発展に重大な損害を与える技術。2026年5月時点で5分野32項目。
国家安全法 第8条 2022年5月改正で新設。NCKT営業秘密の「域外使用罪」と「経済スパイ罪」を規定する。法定刑は懲役5〜12年、罰金500万〜1億台湾元(約23億〜470億円相当、為替により変動)。
域外使用罪 NCKT営業秘密を「台湾域外」で使用する目的で取得・使用・漏洩する罪。「域外」には中国大陸・香港・マカオ・その他外国がすべて含まれ、仕向地を問わない構造になっている。

この3つの言葉が頭に入っていると、以降の議論はかなり読みやすくなります。「14nm以下が含まれる」「域外には日本も含まれる」「懲役上限は12年」——この3点だけでも、本稿の射程は伝わります。

1. 国家核心キー技術32項目の構造

1-1. 第1弾:2023年12月公表の22項目

行政院は2023年12月5日、国科会の公告として第1弾22項目を発表しました。5つの分野に分かれており、それぞれの内訳は次のとおりです。

分野 項目数 主な内容
半導体 2 (1)14nm以下のIC製造プロセス技術および関連する重要ガス・化学品・設備技術/(2)ヘテロジニアスインテグレーション(異種集積)パッケージング技術(ウェハレベル、シリコンフォトニクス含む)
国防 6 軍用カーボンファイバー複合材料、軍用高温耐性カーボン材料、新型敵味方識別装置、マイクロ波・赤外線マルチモードシーカー、アクティブフェーズドアレイ偵察、ラムジェットエンジン技術
宇宙航空 8 衛星バス、衛星搭載光学・通信機器、地上局制御技術、ロケット推進系、衛星画像処理など(複数の細目で構成)
情報セキュリティ 3 暗号モジュール、量子耐性暗号関連、ネットワーク侵入検知・防御
農業 3 重要品種育成・繁殖技術、農業バイオチップ技術(残留農薬・病原体検査用)、農業施設運営管理技術

注目すべきは、項目数では半導体が2項目と少なく見える一方で、内訳は「14nm以下のIC製造プロセス」と「ヘテロジニアスインテグレーション」という、現在の半導体産業の二大競争軸そのものを抱え込んでいることです。TSMCの3nm・2nmはここに直撃しますし、Chiplet(チップレット)やシリコンフォトニクスといった先端パッケージングも同様に対象となります。

1-2. 第2弾:2025年の10項目追加

第2弾は2025年に公告され、合計を32項目に押し上げました。公開情報で確認できる主要な追加項目には以下が含まれます。

  • 第29項目:ネットワーク・アクティブ防御技術(Active Cyber Defense)
  • 第30項目:農業品種育成および繁殖技術(拡充)
  • 第31項目:農業バイオチップ技術(拡充)
  • 第32項目:農業施設エキスパートシステム技術
  • 上記に加え、量子・AI・光電融合関連の技術が報道で言及されている

第2弾の正式な番号付けや項目名の細部は中国語原文の公告を一次資料として確認する必要がありますが、第1弾と比べると「サイバー防御」「農業バイオ」が補強され、半導体・国防・宇宙航空・情報セキュリティ・農業という5分野の柱が維持されたかたちです。

1-3. 指定基準と義務

国科会は「国外への流出により、台湾の安全保障、産業競争力、経済発展が著しく損なわれる技術」をNCKTとして指定します。指定は公告日から発効し、対象技術を保有する企業・研究機関には次のような義務が課されます。

  • 当該技術に従事する人員の管理(採用、配置転換、退職時のフォローを含む)
  • 情報管理(アクセス権限、ログ保管、暗号化)
  • 国外への出張・対外接触の届出
  • 国外資金・JV契約の届出

これは「品目リスト型」の輸出管理と「人や情報を縛る」内部統制型の規制を組み合わせた、いわばハイブリッド型の制度設計です。後ほど米国EARや日本の経済安全保障推進法と比較しますが、台湾独自の色合いがここに出てきます。

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2. 国家安全法第8条:域外使用罪と経済スパイ罪

2-1. 2022年5月改正の中核

立法院は2022年5月20日に国家安全法(國家安全法)の改正案を可決しました。改正の中核は、第8条に2つの罪を新設したことです。

罪名 構成要件 法定刑
NCKT営業秘密の域外使用罪(第8条) NCKTの営業秘密を不正取得・使用・漏洩した者が、台湾域外(中国大陸、香港、マカオ、その他外国を含む)で使用する目的を有した場合 懲役5年以上12年以下、罰金500万〜1億台湾元
経済スパイ罪(同条・域外使用なしの基本類型) 外国・中国大陸・香港・マカオ・敵性外部勢力またはこれらが実質支配する組織等のために、上記営業秘密を取得・使用・漏洩 懲役5年以上12年以下、罰金500万〜1億台湾元

法定刑のうち、目を引くのは罰金上限の1億台湾元(為替によりますが概ね4.5億〜5億円規模)と、それでも収まらなければ違法収益の2〜10倍まで加算できるという規定です。未遂も処罰対象で、管轄は智慧財産及商業法院(IP・商事裁判所)に集約されています。

2-2. 三層構造:通常の営業秘密侵害との比較

台湾の営業秘密保護は、現在「三層構造」になっています。

法律 対象 懲役
営業秘密法 第13条の1 一般の営業秘密侵害 5年以下
営業秘密法 第13条の2 営業秘密の域外使用 1年以上10年以下
国家安全法 第8条 NCKTの域外使用・経済スパイ 5年以上12年以下

つまり、まず通常の営業秘密法があり、その上に「域外使用の重罪類型」があり、さらにNCKTという国家指定技術については国家安全法の最重罪類型が適用される、という三段重ねの体系です。同じ営業秘密侵害でも、NCKT指定の有無で法定刑の下限が3〜5年単位で跳ね上がります。

2-3. 「域外使用」が意味するもの

ここがいちばん丁寧に説明したいポイントです。

第8条にいう「域外」には、中国大陸、香港、マカオ、その他すべての外国が含まれます。日本も米国もEUも、台湾から見ればすべて「域外」です。したがって、仕向地を中国大陸に限定して読むのは条文の読み方として正確ではありません。立法経緯では中国大陸への流出が主要な懸念事項として議論されたのは事実ですが、条文と運用は仕向地ニュートラルです。

この点が、後ほど見る初の起訴事例で実際に問題になります。流出先は日系企業の台湾子会社でしたが、第8条はそのまま適用されました。

3. 初の刑事訴追事例(2025年8月)と第一審判決(2026年4月)

3-1. 事件のタイムライン

日付 出来事
2025年7月8日 TSMCが内部監視システムで異常を検知し、当局に通報
2025年7月25〜28日 当局による家宅捜索と関係者の身柄拘束
2025年8月5日 台湾の裁判所が3名の勾留を決定
2025年8月27日 検察が3名を国家安全法および営業秘密法違反で起訴(初の適用事例)
2025年12月 検察が東京エレクトロン台湾子会社を法人として追起訴、罰金1億2,000万台湾元(約6億円)を求刑
2026年4月27日 智慧財産及商業法院が第一審判決

施行から3年、改正立法から4年。NCKT指定の第1弾から1年と少しで、刑事第一審判決まで到達したかたちです。

3-2. 被告と判決

被告 立場 第一審判決
陳立明氏 元TSMC社員、後に東京エレクトロン台湾子会社マーケティング部門へ転職 懲役10年
呉炳君氏 TSMC現職エンジニア 求刑9年(判決詳細は別途確認)
葛宜平氏 TSMC現職エンジニア 求刑7年(判決詳細は別途確認)
東京エレクトロン台湾子会社(法人) 装置サプライヤー 罰金1億5,000万台湾元(約7億円)

検察が法人に対して求刑したのは1億2,000万TWDですが、判決はそれを上回る1億5,000万TWDでした。日本の刑事司法に慣れていると違和感を覚える人もいるかもしれませんが、これは違法収益に対する2〜10倍加算規定が背景にあると考えられます。

3-3. 容疑の核心

検察が描いた構図はシンプルです。

陳氏はTSMC退社後、装置サプライヤー側のマーケティング部門に転職しました。その後、TSMC在職中だった元同僚エンジニア2名に対して、TSMCの2nm製造プロセスに関する技術文書、関連ガス・化学品・設備の情報を撮影・複製するよう依頼した、というものです。狙いはエッチング装置の性能向上と、TSMCの2nm量産ラインへの自社装置の採用、と指摘されています。

この事案では、適用法条として国家安全法第8条(NCKT営業秘密の域外使用罪)が中核に据えられました。第1弾22項目の半導体分野には「14nm以下のIC製造プロセス技術」が含まれており、2nmは当然ここに包摂されます。

3-4. 本事件が示した4つの含意

本事件は単発のニュースではなく、台湾の経済安全保障法制の運用について、4つの実務的なメッセージを発しています。

  1. 仕向地が日系企業でも国家安全法は適用される:条文どおり、「域外」一般が対象であることが運用面でも確認された。
  2. 法人格が独立に処罰対象になる:自然人だけでなく、台湾子会社の法人格そのものが起訴・罰金対象となった。日本本社のグループ・コンプライアンス上、無視できない事実です。
  3. 転職時の技術管理が中心的なリスクシナリオ:元社員が新天地に着任して、旧職場の機密に手をかけるという典型パターンが現実に起きた。
  4. 司法は重罰主義を採る姿勢:第一審で懲役10年は法定刑(5〜12年)の上限近くであり、抑止のための強いシグナル。

4. 主要法制との比較:米国・EU・日本

4-1. 比較表

制度 国・地域 中核法令 保護対象 域外適用 主な罰則
国家核心キー技術 台湾 国家安全法(2022年改正) 32項目の指定技術の営業秘密 台湾域外への流出を対象 懲役5〜12年、罰金最大1億TWD、利得2〜10倍
経済スパイ法(EEA) 米国 18 U.S.C. §1831/1832 外国政府・組織のための営業秘密窃取 米国域外での行為にも適用可 個人最大15年、法人最大1,000万USD
輸出管理改革法(ECRA)/ EAR 米国 ECRA 2018、EAR デュアルユース品目・技術 再輸出・みなし輸出含む域外適用 民事最大30万USD/件、刑事最大20年
EUデュアルユース規則 EU Regulation (EU) 2021/821 Annex Iの管理対象品目・技術 EU域外への輸出・仲介を許可制 加盟国法による(最大10年程度の懲役)
経済安全保障推進法 日本 経済安全保障推進法(2022) 特定重要技術・基幹インフラ 国内事業の届出制 罰金・業務停止等(懲役は限定的)

4-2. 台湾制度の独自性

比較してみると、台湾の制度には3つの特徴が浮かびます。

  1. 営業秘密と輸出管理のハイブリッド:米国EEAのような営業秘密窃取罪と、品目リスト型の輸出管理の両方の性格を持つ。
  2. 「域外使用罪」という独自概念:通常の輸出管理は「物・技術の越境移転」を取り締まりますが、台湾の第8条は「域外で使用する目的での取得・複製」そのものを犯罪化します。境界を越える前から構成要件が完成するため、より早い段階で介入が可能になります。
  3. 法人処罰の積極的運用:本事件で東京エレクトロン台湾子会社が法人として起訴・有罪となったように、法人格を独立した処罰対象として運用する姿勢が明確化されました。

4-3. 日本企業にとっての実務的差異

米国EARや日本の外為法では、まず「該非判定」を行い、該当する品目・技術を許可制で扱う、というフレームに整理されています。一方、台湾の国家安全法は営業秘密の不正取得行為自体を犯罪化するため、契約上の許諾を取り付けたかどうかだけでは違法性が阻却されない可能性があります。

つまり、サプライチェーン上の従業員ひとりひとりの行動規範に踏み込まないと完結しない制度設計、ということです。日本のコンプライアンス担当者にとっては、輸出管理に加えて、人事・情報セキュリティ・退職者管理の各機能を横断するレベルの体制が要求されます。

5. 日本企業が直面する4つの典型リスクと、月曜から動かせる5ステップ

5-1. 影響を受ける主なセクター

まず、誰が読むべき記事なのか整理しておきます。

  • 半導体製造装置(前工程・後工程)
  • 半導体材料(特殊ガス、化学品、フォトレジスト等)
  • EDA・IPコア
  • ファウンドリ顧客(ファブレス)
  • 国防関連(カーボン複合材料、敵味方識別装置 等)
  • 宇宙航空関連

台湾に駐在員・子会社・合弁会社を持つ日本企業、台湾サプライヤーから装置・材料・サービスを調達する日本企業のほとんどが、何らかのかたちで影響を受けます。

5-2. 4つの典型リスクシナリオ

実務上、起こりやすいリスクシナリオは大きく4つに整理できます。

  1. 台湾子会社の従業員が、台湾顧客の機密情報を本社・他拠点に送信する:日常的な技術サポート連絡や障害対応のやり取りでも、当該情報がNCKTに該当すれば域外使用罪の構成要件と重なります。
  2. 台湾駐在員が顧客先で取得した情報を持ち帰る:駐在員が帰任する際に、ノートPCやスマートフォンに技術情報が残存していると、刑事リスクが発生します。
  3. 元台湾企業社員の中途採用:競合台湾企業を退職した人材を採用したとき、その人材が前職機密を持ち込むと、採用企業の法人責任も問われ得ます。
  4. 共同開発・JVでの情報共有範囲:契約上は適法な共有でも、NCKT指定技術については別途の許可・届出が必要となる可能性があります。

5-3. 月曜から動かせる5ステップ

「では、明日から何をすればよいのか?」という問いに、可能な限り具体的に答えます。

ステップ 内容
STEP1 自社が台湾で扱う技術・受領情報を棚卸しし、NCKT 32項目との該否判定を実施する。半導体分野では「14nm以下」「ヘテロジニアスインテグレーション」のキーワードでまず仕分けるとよい。
STEP2 NCKT該当情報については、台湾域内アクセスのみを許可し、域外サーバへの保存・送信をブロックするアクセス制御を設計する。DLP・IRM等の既存ソリューションで設定変更を行う。
STEP3 台湾子会社の退職者管理を再点検する。競業避止・秘密保持の徹底、退職時のデバイス・クラウドのフォレンジック、競合転職時の追跡を制度化する。
STEP4 中途採用時の「クリーン採用宣誓」を整備する。前職機密の持込禁止を契約・誓約書で明示し、入社直後の業務指示で前職技術への接触が起きないよう運用する。
STEP5 台湾現地法律事務所との顧問契約、内部通報窓口、年次のコンプライアンス研修をパッケージで導入する。本事件のように突発的に家宅捜索・拘束が発生した際の社内エスカレーション手順も整える。

地味に見えるかもしれませんが、東京エレクトロン台湾子会社の事案で問われたのは、まさにこの5ステップが組織として運用されていたかどうか、という点だと筆者は読み解いています。

6. よくある質問(FAQ)

Q1. 日本本社に台湾子会社から技術情報を送る行為は、すべて違法になりますか? A. すべてではありません。当該情報がNCKT 32項目に該当しない通常の技術情報であれば、第8条の構成要件は満たしません。ただし、営業秘密法の域外使用罪(懲役1〜10年)の対象になり得るかは別途検討が必要です。NCKT該当情報の場合は、台湾域内の情報所有者(顧客等)からの明示的な許諾と、契約・法令に基づく正当な業務目的の双方が必要になります。

Q2. 「対中防衛立法」と紹介されることがありますが、本当ですか? A. 立法経緯では中国大陸への流出が主要な懸念として議論されましたが、条文は域外一般を対象としており、適用結果は仕向地を問いません。初の起訴事例は日系企業向けの流出でした。本稿は「対中防衛」と断定せず、「経済安全保障の文脈における国家核心技術の保護枠組み」として整理しています。

Q3. 中途採用した台湾出身エンジニアが前職機密を持ち込んだ場合、採用企業も処罰されますか? A. 法人としての監督責任が問われる可能性があります。本事件では、社員の行為について法人格そのものが起訴・罰金対象となりました。採用時の前職機密持込禁止の誓約書取得、入社後の業務指示内容の管理が重要です。

Q4. 「14nm以下」と指定されていますが、過去に14nm世代の量産経験がある日本企業にも影響しますか? A. NCKTは台湾の事業者・研究機関が保有する技術の流出を防止する制度であり、日本企業が独自に保有する14nm以下の技術自体が対象になるわけではありません。ただし、台湾顧客から受領した技術情報の取扱いには、本法が適用され得ます。

Q5. 本事件で東京エレクトロン本社(日本法人)も処罰されましたか? A. 起訴対象は東京エレクトロン台湾子会社(法人格)と関係者3名(自然人)であり、日本本社は2026年5月時点で直接の起訴対象になっていません。ただし、グループ・コンプライアンス上の重大インシデントであり、本社レベルでの対応が必要です。

Q6. 32項目のリストはどこで確認できますか? A. 台湾国家科学および技術委員会(國科會)の公告で確認できます。第1弾22項目は2023年12月5日、第2弾10項目は2025年公告です。正式な項目名と細目は中国語原文を一次資料として確認することを推奨します。

Q7. 罰金額は具体的にどう計算されますか? A. 自然人の経済スパイ罪・域外使用罪は500万〜1億台湾元の幅で定められ、違法収益が罰金上限を超える場合は収益額の2〜10倍まで加算可能です。法人にも同等の罰金規定が適用されます。本事件では、東京エレクトロン台湾子会社に1億5,000万台湾元(約7億円)の罰金が言い渡されました。

まとめ

本稿の論点を、最後にもう一度整理します。

  • 台湾は2022年に国家安全法を改正し、NCKT営業秘密の域外使用罪・経済スパイ罪を新設した。
  • NCKTは半導体・国防・宇宙航空・情報セキュリティ・農業の5分野で、2026年5月時点で32項目が指定されている。半導体分野では14nm以下のIC製造プロセスとヘテロジニアスインテグレーションが対象。
  • 法定刑は懲役5〜12年、罰金最大1億TWD、違法収益の2〜10倍加算という重い設計。
  • 2025年8月に元TSMC社員3名と東京エレクトロン台湾子会社が起訴され、2026年4月の第一審判決で主犯に懲役10年、法人に1億5,000万TWDの罰金が言い渡された。これは2022年改正法の初適用事例。
  • 「域外」には日本も米欧も含まれ、仕向地は問わない。「対中防衛立法」と断定するのは条文の読み方として正確ではない。
  • 日本企業の典型リスクシナリオは(1)駐在員の情報持ち帰り(2)子会社からの域外送信(3)元台湾企業社員の中途採用(4)JVでの情報共有範囲——の4つ。
  • 月曜から動かせる5ステップは、NCKT該否判定/アクセス制御/退職者管理/クリーン採用宣誓/法務・通報・研修のパッケージ整備。

地政学や経済安全保障の議論は、つい大文字の言葉で語られがちです。「米中対立」「半導体戦争」「経済安全保障」。しかし、こうした事件で実際に問われたのは、ひとつの会社の中途採用フローと、退職者のノートPCに何が残っていたか、という極めて地に足のついたコンプライアンス運用でした。台湾の経済安全保障法制が日本企業の日常業務に交差してきている——本稿が、その実感を持って自社の体制を点検するきっかけになれば幸いです。

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参考文献

一次資料(法令・公告)

  • 中華民国(台湾)法務部 法律データベース「國家安全法」全文(英訳版):https://law.moj.gov.tw/ENG/LawClass/LawAll.aspx?pcode=A0030028
  • 台湾国家科学および技術委員会(國科會)公告「國家核心關鍵技術認定清單」第1弾(2023年12月5日)、第2弾(2025年)

主要二次資料

  • 渥美坂井法律事務所「台湾国家安全法と国家核心重要技術」(2025年8月26日):https://www.aplawjapan.com/publications/20250826
  • ジェトロ・ビジネス短信「国家核心重要技術リストを発表、半導体や宇宙など5分野22項目が対象(台湾)」(2023年12月):https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/12/98e93da937b4d025.html
  • ジェトロ・ビジネス短信「『国家安全法』改正草案が立法院を通過、経済スパイ罪など規定(台湾)」(2022年5月):https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/05/88adc04dbe787f48.html
  • JST CRDS「第297回 台湾、重要技術の保護強化」:https://www.jst.go.jp/crds/column/choryu/297.html
  • 万國法律事務所「『国家核心重要技術リスト』第1弾、行政院が公表」(2024年1月):https://www.fblaw.com.tw/insights-jp/legal-news-2024-1-22
  • フォーカス台湾「TSMC元従業員ら3人の勾留認める 機密情報を不正取得、国家安全法違反疑い」(2025年8月5日):https://japan.focustaiwan.tw/society/202508050005
  • 時事ドットコム「TSMC関係者3人拘束 機密取得で国安法違反疑い」(2025年8月5日)
  • 日本経済新聞「東京エレクトロン台湾子会社に有罪判決 TSMC機密流出、元従業員は懲役10年」(2026年4月)
  • GIGAZINE「台湾検察が東京エレクトロン子会社を起訴、TSMCの企業秘密を盗んだとして罰金6億円を請求」(2025年12月3日)
  • Global Trade & Sanctions Law「Taiwan Prosecutors Announce First Major Semiconductor Indictments under New National Security Framework」(2026年1月26日)
  • IAM「Amended National Security Act imposes stricter punishments on trade secret misappropriation」
  • PwC Japan「各国サイバーセキュリティ法令・政策動向シリーズ(1)中国・台湾」
  • The International Trade Council「Taiwan's Landmark Ruling Redefines Trade Secret Protection and National Security in Advanced Technology」
  • Law.asia「Taiwan's cross-border semiconductor controls」

比較制度の参考資料

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