こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
新卒採用の景色が、ここ1年で完全に変わりました。米国ではテック大手の新卒採用が2024年だけで前年比25%減、コロナ前と比べて半減しています[^1]。日本でも生成AIを推進している企業の人事担当者の約9割が新卒採用戦略を見直し、55.4%が採用人数を削減すると回答しています[^2]。Shopifyの創業者トビ・リュトケが2025年4月に出した「人を増やす前に、AIで解決できないことを証明せよ」という社内メモは、いまや欧米テックの標準ルールになりました[^3]。
本連載「AIエージェント前提経営」の第5弾は、新卒採用がテーマです。前回まで戦略・組織・M&A・経営判断の話を進めてきましたが、最後にどうしても向き合わなければいけないのが、これからの新卒をどう採るか、何人採るか、いくら払うかという問いです。私の結論を先に置きます。新卒採用は、これから「人数を減らして1人を100倍化する」経営判断に切り替わります。
これからの新卒採用は「人数を減らして1人を100倍化」する
「とりあえず100人」「同期入社で500人」というモデルは、AIエージェント時代には合理性を失いました。理由は単純で、新人が最初の3年で担当する仕事の大半を、AIが先に片づけてしまうからです。資料整理、議事録、リサーチ、簡単な提案書、定型的な顧客対応、社内問い合わせの一次受け。これらはすべて2026年時点のClaudeやGeminiで処理できます。米IEEE Spectrumの調査でも、ジュニアソフトウェア開発者の雇用は2022年比で約20%減ったと報告されています[^4]。日本のマイナビ調査では2026年卒の採用充足率は69.7%で4年連続の最低を更新しましたが、これは「採れない」のではなく「絞り始めた」という側面が確実にあります[^5]。
では何が起きるか。経営者は「100人雇って3割辞めても残った70人で回す」モデルから、「20人だけ採って初任給を倍に引き上げ、1人にAIエージェントを30体ぶら下げる」モデルへ移行します。Gartnerは2026年のタレント責任者の52%がAIエージェントをチームに正式に加える計画だと予測しています[^6]。これは派遣でもパートでもなく、AIエージェントを正規メンバーとして数えるという思想です。新卒1人がAIエージェント30体を指揮できれば、見かけ上は新人1人でも、稼働量は30人分以上に膨らみます。
私は「100倍人材」という言い方をしています。従来の新人の100倍動く人を1人だけ採る。残りの99人ぶんは採用しない。浮いたコストを、その1人の報酬・教育・権限に振り向ける。中途半端な数を採って中途半端に育てるのが、これからは一番もったいない経営判断です。
AIエージェントに置き換わる業務と、人にしか残らない業務
採用人数を減らすには、「何がAIに置き換わって、何が人にしか残らないのか」を社長と人事と現場マネージャーが同じ解像度で持っていなければいけません。私が見ている範囲で整理すると、置き換わる側はかなり広いです。
| 領域 | AIで置き換わる業務 | 人に残る業務 |
|---|---|---|
| 営業 | 見込み顧客リスト抽出、提案資料の初稿、議事録、フォローメール | 商談での空気の読み合い、夜の会食、長期の関係維持 |
| バックオフィス | 経費精算、請求書処理、社内問い合わせ一次対応 | 例外処理の判断、社外との交渉ごと |
| 開発 | コードのドラフト、テスト、リファクタリング | アーキテクチャ判断、要件の引き出し、優先度決定 |
| マーケ | 記事下書き、SEOレポート、広告クリエイティブ案 | ブランドの世界観の設計、危機対応、媒体担当との関係 |
| 経営企画 | 競合調査、財務データ集計、議案書ドラフト | M&Aのディール感、社外取締役との折衝 |
この表を眺めて気づくのは、人に残る側はほぼすべて「人と人のあいだに発生する曖昧な仕事」だということです。客先で「この案件は本当に進めて大丈夫ですか」と聞かれたときの一拍の沈黙、会食の途中で本音が漏れる瞬間、ゴルフのラウンド中に出てくる人事の話、雀卓を囲んでいるときに出てくる経営の悩み。こういう場で取れる情報は、AIには絶対に取れません。
少し脱線しますが、私自身はゴルフをほぼやらないので説得力に欠けるかもしれません。それでも周りの経営者を観察していると、本当に大きな取引はゴルフの帰りの車の中で決まっています。これはAI時代になっても消えないどころか、相対的に価値が上がっている領域です。AIで処理できる仕事の単価が下がるほど、人と人のあいだでしか動かない仕事の価値は上がる。つまり、新卒に求めるべき素養は、ホワイトカラー的な事務処理能力ではなく、人間関係を動かす力に重心が移ります。
ここでひとつ補助線を引きます。前回の「AIエージェント駆動経営の3つの戦略選択肢」で書いたとおり、企業は「AIで業務を圧縮する」「AIで事業を増やす」「AIで人を厚くする」の3択を迫られています。新卒採用の文脈で言えば、3つ目の「人を厚くする」を選ぶ会社だけが、新卒を「未来の経営層」として抱えられる側に回ります。
新卒で取るべき「100倍人材」の2タイプ
私が経営者に勧めているのは、新卒採用のターゲットを2タイプに絞り込むことです。総合職という曖昧な括りで一括採用するのを、いったんやめます。
1つ目は「AI超活用型」。学生時代からClaudeやChatGPT、Geminiを並列で動かしてきた人です。彼らは課題が出たら、リサーチ用のエージェントとライティング用のエージェントとレビュー用のエージェントを別々に立ち上げて、自分はその指揮を執ります。Googleの「AI学生アンバサダープログラム」には全国200以上の大学から約800名の学生が参加し、すでに大学の講義レポートをマルチエージェントで仕上げる学生は珍しくありません[^7]。こういう人材を新卒で取りに行けば、入社初日から30人分の仕事をします。学歴フィルターをかける前に、AIの使用履歴を見たほうが確度が高い時代です。
2つ目は「人間関係領域特化型」。営業の現場、外部との交渉、顧客との信頼構築といった「AIにできない領域」で勝負できる人材です。商社や広告代理店、地銀、メガバンクが昔から得意としてきた「夜の会食で取引を決める」型のビジネスは、AI時代になってもむしろ強まります。学歴は関係なく、人懐っこさ、会食の場での会話の運び方、初対面の経営者との距離の詰め方が見られる人を採ります。体育会出身、生徒会長経験、家業を継ぐ予定だがいったん外で修業したい、といった経歴の学生は、この枠で本当に強い。
この2タイプの混合人材も歓迎です。AIを30体動かしながら、夜は経営者と会食で本音を引き出してくる、そういう新卒が1人いれば、その時点でその会社の事業部は5年分のショートカットを手に入れます。なお、M&Aで似た資質の人材を一気に取り込む選択肢もあり、そちらは「AI時代の人材獲得とM&A戦略」で詳しく扱います。
採用試験の刷新:AI開放、営業ロールプレイ、ゴルフ
採用方法も同時に変えなければ、上の2タイプは捕まえられません。学校歴とSPIで足切りして集団面接、というモデルでは、AI超活用型は最終面接の前に逃げますし、人間関係特化型は筆記で落ちます。
私が今、クライアントに勧めている選考プロセスは次のようなものです。まず1次選考は、AIツールを開放した自作課題を出します。たとえば「あなたが当社の新規事業責任者だとして、3日後に経営会議で5分プレゼンするとしたら何を作るか」という課題を出し、Claude Pro、ChatGPT Plus、Gemini Advancedを使って実物を作って提出してもらう。完成物の質と、そこに至るプロセスのログを両方見ます。AIをどう使ったかが分かれば、その人の頭の使い方が分かります。
2次選考は営業ロールプレイです。架空の顧客役を社員が演じ、「この案件、社内でNGが出そうなんですよ」と困っている設定に対して、学生が10分で関係を作り直す。これは、シナリオを暗記してきた学生はすぐ底が割れます。逆に、その場で相手の表情を読み、雑談を挟み、最後に名刺交換まで持っていく学生は本物です。ここで人間関係特化型が浮かび上がります。
3次は、できれば社外で会食やゴルフを設定します。形式ばった面接室では出ない素の振る舞いが、ここで全部出ます。気遣いができるか、お会計のときにどう動くか、初対面の社外パートナーに自然に混ざれるか。BtoBの大型案件は、最終的にこういう場で決まるので、ここで違和感のある人は、5年後に役員クラスにはいきません。
少し際どい話をすると、夜の会食やゴルフを採用に使うのは「古い」と批判されることがあります。私の意見は逆で、そういう場の重要性が下がるどころか、AI時代になって相対的に上がっています。なぜなら、Excelとパワポでできる仕事は全部AIに渡せるからです。残るのは、人と人の場でしか起きないやり取りで、それを学生のうちに楽しめるかどうかは、十分に観察すべき素養です。これは差別ではなく、職務適性の話として整理すべきだと考えています。
入社後のオンボーディングと配置:AIエージェント前提の業務設計
採用が終わって配属したあとも、AIエージェント前提に組み直さなければ意味がありません。「とりあえず3年は雑用」「先輩のカバン持ちで覚える」モデルは、もう完全に時代遅れです。雑用はAIがやります。新卒に雑用をさせるのは、年収500万円の人材に時給1000円の作業をさせていることと同じで、経営的に説明がつきません。
入社初日にやるべきは、自社のZEROCK(エンタープライズAI、社内ナレッジをGraphRAGで横断検索できる仕組み)にアクセス権を渡し、AIエージェントを5体立ち上げる権限を与えることです。新人のうちから、自分のチームに「リサーチ担当」「議事録担当」「資料作成担当」「メール下書き担当」「カレンダー調整担当」を持たせる。新人は最初の月で、AIに指示を出す側に回ります。これは特別な施策ではなく、これからの普通です。
配置については、AI超活用型は新規事業や経営企画、AIネイティブのプロダクト開発に当てます。彼らは指示が曖昧なほど力を発揮するタイプなので、定型業務に置くと逆に潰れます。人間関係特化型は営業の最前線、特に既存顧客の深耕や、新規開拓のキーマン攻略に置きます。AIで提案書はすぐ作れる時代だからこそ、関係を作って案件を呼んでくる人材の希少性が跳ね上がっています。
社内のAI活用基盤がまだ整っていない会社は、ここで完全に止まります。新卒に「AIを使え」と言いながら、社内のAIツールが個人のChatGPT契約だけ、というのは現実によくある話です。私たちのAIコンサルティングWARPでは、新卒のオンボーディング設計とAIエージェント基盤の整備をセットで支援しています。GoogleがCloud Next 2025で打ち出したAgent Development Kitを軸にしたエンタープライズ向け構成は、こちらに整理しました。
まとめ:採用人数半減、報酬倍増という経営判断
新卒採用について、私が今のクライアントに繰り返し言っているのは、次の3点です。
- 新卒採用人数は、3年以内に半減を前提に組み直す。100人採っていた会社は40人〜50人に絞る
- 浮いた人件費を、残った人材の初任給と教育、AIエージェント基盤に振り向ける。初任給は最低でも倍にする勇気を持つ
- 採るべきは「AI超活用型」と「人間関係領域特化型」の2タイプ。総合職という言葉を一度捨てる
正直なところ、これは経営者にとってかなり気合の要る判断です。「同期100人で頑張る」昭和的な美学を捨てなければいけませんし、初任給を倍にすると古参社員から不満が出ます。それでも、リュトケが2025年に出したメモから1年経って、欧米のCEOは静かにこの方向に舵を切っています[^3]。日本企業がこのまま「とりあえず例年通り」を続けると、5年後の人材構造で取り返しがつかない差がつきます。
最後にひとつだけ、現場の経営者の方へ。新卒採用の方針転換は、人事に丸投げで決められる話ではありません。社長自身が「AIで何を置き換えるか」「人に何を残すか」「残った人にいくら払うか」の3つを言語化したうえで、人事に降ろす必要があります。ここを曖昧にしたまま採用人数だけ減らすと、現場が壊れます。逆に言えば、ここさえ握れれば、新卒採用は経営の最強のレバーに変わります。100人を雇って疲弊するか、20人を選んで100倍化させるか。私は迷わず後者を選びます。
参考文献
[^1]: 米国の大卒就職、26年はコロナ禍以降で最悪の見通し AI導入が背景|日本経済新聞 [^2]: 生成AI時代に変わる新卒採用戦略 9割が戦略見直し、半数超が採用人数減少へ|HRプロ [^3]: Shopify CEO says staffers need to prove jobs can't be done by AI before asking for more headcount|CNBC [^4]: AI Shifts Expectations for Entry Level Jobs|IEEE Spectrum [^5]: 2026年卒企業新卒内定状況調査|マイナビキャリアリサーチLab [^6]: Gartner Says AI Revolution and Cost Pressures Are Two Forces Driving the Top Four Trends for Talent Acquisition in 2026|Gartner [^7]: 2026年 大学生を対象とした生成AI活用のためのコミュニティのご案内|Google Japan Blog
