株式会社TIMEWELLの濱本です。
「米国から購入した部品を組み込んだ製品を第三国に輸出したいが、EARの対応が必要なのかわからない」「ECCN番号をどう調べればいいのか見当がつかない」「de minimisルールの計算方法がいまひとつ理解できない」。海外取引を行う日本企業の法務やコンプライアンス部門から、こうした相談を頻繁に受けます。
EAR(Export Administration Regulations)は米国商務省産業安全保障局(BIS)が管轄する規制です。米国から直接輸出する場合だけでなく、米国原産品を含む製品を第三国に再輸出する場合にも適用される。米国製の部品やソフトウェア、技術を使っている日本企業にとっては他人事ではありません。
2025年9月にはエンティティリスト掲載企業の子会社との取引も規制対象に含む「関連事業体ルール」が発表され、対応の範囲は広がり続けています。
この記事では、EAR対応の実務に必要なチェックリスト、ECCN分類の読み方、de minimisルールの計算例を整理します。
この記事でわかること
- EARが日本企業に適用される5つのケース
- ECCNの分類体系と読み方
- de minimisルールの計算方法と具体例
- EAR対応チェックリスト(15項目)
- 2025年から2026年の主要な制度変更とその影響
1. EARの基本構造を理解する
EARとは何か
EARは、米国原産の貨物、ソフトウェア、技術の輸出と再輸出、国内移転を規制する米国の法令です。
押さえておくべきは、EARの規制対象が米国からの輸出にとどまらないという点。日本企業が直接EARの規制を受けるケースを整理しました。
| ケース | 具体例 | 規制の根拠 |
|---|---|---|
| 米国原産品の再輸出 | 米国製半導体を日本から中国に再輸出 | EAR 734.3 |
| 米国原産品の組み込み | 米国製ICを搭載した自社製品を第三国に輸出 | EAR 734.4 |
| 米国原産ソフトウェアの利用 | 米国製EDAツールで設計した半導体を輸出 | EAR 734.4 |
| 米国原産技術に基づく製造 | 米国企業からライセンスされた技術で製造した製品の輸出 | 直接製品規則 |
| 制裁リスト該当者との取引 | エンティティリスト掲載企業への輸出 | EAR Part 744 |
これを見て「うちは該当しないだろう」と思った方。米国製の半導体やICを一つでも使っていれば、該当する可能性があります。
EAR99とは
CCL(Commerce Control List)上のいずれのECCNにも分類されないが、EARの対象であるアイテムは「EAR99」に分類されます。低リスクの民生品が多く、ライセンスなしで輸出や再輸出が可能なケースがほとんどです。
ただしEAR99であっても、エンティティリスト掲載企業への輸出や大量破壊兵器関連の用途が疑われる場合にはライセンスが必要になります。分類がEAR99だからといって安心してはいけません。
2. ECCN分類の読み方
ECCNの構造
ECCNは5桁の英数字コードです。読み方を覚えてしまえば、見た瞬間にどういう品目かの見当がつきます。
例:3A001
3 ... カテゴリ番号(電子機器)
A ... プロダクトグループ(装置、組立品、部品)
001 ... 規制理由を含む個別番号
CCLの10カテゴリ
| カテゴリ | 対象分野 | 日本企業に関係が深い例 |
|---|---|---|
| 0 | 核物質、施設、装置 | 原子力関連機器 |
| 1 | 材料、化学品、微生物、毒素 | 特殊合金、先端材料 |
| 2 | 材料加工 | 工作機械、数値制御装置 |
| 3 | 電子機器 | 半導体、集積回路、センサー |
| 4 | コンピュータ | 高性能計算機、デジタル機器 |
| 5 | 通信と情報セキュリティ | 暗号製品、通信機器 |
| 6 | センサーとレーザー | 光学機器、カメラ |
| 7 | 航法と航空電子機器 | GPS関連、ジャイロスコープ |
| 8 | 海事 | 水中装置、推進システム |
| 9 | 推進システムと宇宙関連 | ロケット、宇宙関連部品 |
5つのプロダクトグループ
各カテゴリは、さらにプロダクトグループで細分化されます。
| 記号 | グループ | 内容 |
|---|---|---|
| A | Equipment, Assemblies, Components | 装置、組立品、部品 |
| B | Test, Inspection, Production Equipment | 試験、検査、製造装置 |
| C | Materials | 材料 |
| D | Software | ソフトウェア |
| E | Technology | 技術 |
「3A001」であれば、カテゴリ3(電子機器)のA(装置や部品)グループの001番。こう分解すると、コードの意味がすっと入ってきます。
ECCNの調べ方
BISの「Interactive Commerce Control List」(bis.gov)でキーワード検索やカテゴリ別の検索が可能です。ただ、最も確実なのは製品のメーカー、つまり米国のサプライヤーに直接ECCNを確認すること。自社で分類が困難な場合は、BISに対して分類要請(Classification Request)を行う手段もあります。
3. de minimisルールの計算方法
de minimisルールとは
de minimis(デミニミス)ルールは、外国製品に組み込まれた米国原産コンテンツの割合が一定の閾値以下であれば、EARの再輸出規制を適用しないという免除規定です。日本企業が自社製品に米国製部品を組み込んで輸出する場合に、まず確認すべきルールにあたります。
閾値
| 輸出先 | de minimis閾値 | 備考 |
|---|---|---|
| 一般国(ほとんどの国) | 25% | 米国原産コンテンツが25%未満であればEAR適用外 |
| 制裁対象国(キューバ、イラン、北朝鮮、シリアなど) | 10% | より厳しい閾値 |
| テロ支援国家指定国 | 10% | 同上 |
計算方法
de minimis比率の算式はシンプルです。
de minimis比率 = 米国原産品の取得価格 / 完成品の公正市場価格 x 100
具体例で見てみましょう。自社製品の販売価格が100万円で、そこに米国製IC(取得価格15万円)と米国製ソフトウェア(ライセンス料5万円)が組み込まれている場合。
米国原産コンテンツ合計 = 15万円 + 5万円 = 20万円
de minimis比率 = 20万円 / 100万円 x 100 = 20%
比率は20%で、一般国向けの閾値25%を下回るため、EARの再輸出規制は適用されません。ただし、制裁対象国向けであれば10%を超えているのでEAR規制の対象になります。同じ製品でも仕向地によって結論が変わる点に注意してください。
計算時の注意点
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| 価格の基準 | 米国原産品は取得価格、完成品は公正市場価格を使用 |
| 品目ごとに計算 | 貨物、ソフトウェア、技術はそれぞれ別に組込比率を計算する |
| 適用除外品目 | 暗号関連やステルス技術などはde minimis適用不可 |
| 直接製品 | 米国原産技術に基づいて製造された製品は別途「直接製品規則」で判定 |
| 付加価値の考慮 | 自社での加工や組立による付加価値は分母に含まれる |
正直に言うと、このde minimisの計算は実務で最もつまずきやすい部分です。特に「直接製品規則」との切り分けで混乱する企業が多い。迷ったら、専門家への相談かBISへの問い合わせを躊躇しないでください。
4. EAR対応チェックリスト
日本企業がEAR対応で確認すべき15項目を4つのフェーズに分けて整理しました。
事前確認フェーズ
| No. | チェック項目 | 確認内容 |
|---|---|---|
| 1 | 自社製品に米国原産品が含まれているか | 部品、ソフトウェア、技術のすべてを確認 |
| 2 | 米国原産品のECCNは何か | サプライヤーに確認、またはBISのCCLで調査 |
| 3 | de minimis比率は何%か | 米国原産コンテンツの割合を計算 |
| 4 | 直接製品規則の対象となるか | 米国原産技術に基づく製造物かどうか |
| 5 | 仕向地はどこか | 国別チャート(Country Chart)で規制の有無を確認 |
取引審査フェーズ
| No. | チェック項目 | 確認内容 |
|---|---|---|
| 6 | 最終需要者は誰か | Entity Listとの照合 |
| 7 | 最終需要者の関連事業体を確認 | 50%以上所有の子会社も含めて確認 |
| 8 | 最終用途は何か | 軍事用途、核関連用途の有無 |
| 9 | DPL(Denied Persons List)との照合 | 輸出拒否対象者でないか確認 |
| 10 | 介在者(仲介業者)の確認 | ペーパーカンパニー等のリスク |
ライセンス判定フェーズ
| No. | チェック項目 | 確認内容 |
|---|---|---|
| 11 | ライセンス例外の適用可否 | TMP、RPL、TSR等の適用条件を確認 |
| 12 | ライセンス申請が必要か | ECCNと仕向地と最終用途で総合判定 |
| 13 | みなし輸出への該当性 | 米国内の外国人への技術開示も規制対象 |
記録保存フェーズ
| No. | チェック項目 | 確認内容 |
|---|---|---|
| 14 | 取引記録の保存 | EARは5年間の記録保存を要求 |
| 15 | レッドフラグの記録 | 取引過程で認識した懸念事項の記録 |
5. 2025年から2026年の制度変更
関連事業体ルール(アフィリエイト・ルール)
2025年9月に発表されたこのルールは、エンティティリスト掲載企業を実質的に支配している事業体との取引も規制対象とするものです。掲載企業が50%以上の所有権を持つ子会社が対象になります。
JETROの報道によると、2025年11月10日から2026年11月9日まで適用停止の猶予期間が設けられていますが、延長がなければ2026年11月10日から施行されます。
日本企業への影響は大きい。取引先がエンティティリスト掲載企業の子会社でないかの確認が新たに必要になり、資本関係の調査範囲が拡大し、既存取引先の再スクリーニングを求められます。猶予期間があるうちに調査を始めておくべきだと私は考えています。
先端半導体関連の規制強化
半導体製造装置に関する規制は引き続き強化されています。2023年7月に日本政府が先端半導体製造装置を輸出管理品目に追加して以降、米国との連携のもとで規制範囲は拡大の一途です。
レッドフラグを見逃さない
BISは、取引においてレッドフラグ(懸念される兆候)を認識した場合、追加の調査を行い、懸念が払拭されるまで取引を進めてはならないとしています。
見逃してはいけない兆候をまとめます。顧客が製品の最終用途を明かすことを拒否する。製品の性能と顧客の事業内容が整合しない。異常な配送ルートや仲介者が存在する。通常ではない支払い方法、たとえば第三国経由の送金が指定される。顧客がアフターサービスや技術サポートを不要と言う。
どれか一つでも当てはまったら、立ち止まって追加調査を行ってください。「取引を止めると売上に影響する」という圧力に負けて進めてしまうと、取り返しがつかない事態を招きかねません。
6. EX-CheckによるEAR対応支援
日本企業にとってEAR対応の難しさは、日本の外為法と米国のEARという二つの規制を同時に管理しなければならない点にあります。片方だけ守っても、もう片方に違反していれば意味がない。
TIMEWELLが提供する輸出管理AIエージェント「EX-Check」(worried.jp)は、この二重管理の負荷を軽減します。
米国BISのEntity ListやSDN List、DPLをはじめとする各国の制裁リストとの照合をシステムが自動で実行。英語、中国語、アラビア文字などの名前表記バリエーションにも対応しており、手動チェックでの見落としリスクを減らします。
取引先ごとにS、A、B、Cの懸念度スコアを算出し、根拠URL付きのレポートを出力するため、なぜその評価になったのかが透明に見えます。100〜200件の取引先を一度に処理できる一括スクリーニング機能は、アフィリエイト・ルール対応で大量の再スクリーニングが必要な場面にも対応できます。
まとめ
EAR対応は、米国製品や技術を扱うすべての日本企業に関わるテーマです。
押さえるべきポイントを絞ると5つ。EARの適用範囲は米国からの直接輸出にとどまらず、米国原産品を組み込んだ製品の再輸出にも及ぶこと。ECCNは5桁のコードで、カテゴリとプロダクトグループで構成されること。de minimisルールでは米国原産コンテンツが25%未満(制裁対象国は10%未満)であれば再輸出規制が免除されること。2026年11月のアフィリエイト・ルール施行に向けて取引先の資本関係調査を早めに始めるべきこと。レッドフラグを認識したら、追加調査を行い記録を残すこと。
EAR対応は一回やれば終わりではなく、継続的な管理が求められます。自社の製品構成、取引先、仕向地を踏まえて、どの規制が適用されるかを体系的に把握することが出発点です。
EAR対応を含む輸出管理の効率化にご関心のある方は、EX-Check(worried.jp)をご覧ください。
参考文献
- BIS「Export Administration Regulations (EAR)」
- BIS「Interactive Commerce Control List」
- BIS「Commerce Control List Overview and the Country Chart」
- CISTEC「米国再輸出規制入門」
- CISTEC「EAR再輸出規制に関するQ&A集 Rev.7」(2024年8月)
- Business & Law「米国輸出管理規則(EAR)の基礎知識」
- TSR-PLUS「EARの基礎知識と2025年9月改正法への備え」
- JETRO「トランプ米政権、輸出管理の適用範囲を拡大」(2025年9月)
- 森・濱田松本法律事務所「国際通商法ニュースレター」(2025年2月)
