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医療機器メーカーの輸出管理実務|薬機法×外為法の接点とコア業種指定後の2026年対応

2026-04-24濱本 隆太

2020年のコア業種指定以降、医療機器メーカーは薬機法と外為法という二層の規制を同時にさばく立場になりました。オリンパスやテルモの事例を踏まえ、2026年時点で現場がやるべき輸出管理の見直しを濱本が整理します。

医療機器メーカーの輸出管理実務|薬機法×外為法の接点とコア業種指定後の2026年対応
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こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。

業種別TRAFEEDシリーズの第2弾は、医療機器メーカーを取り上げます。医療機器は「人の命を助ける道具」というイメージが強く、輸出管理の文脈で語られることが少ない業種です。ところが実務の現場に入ってみると、薬機法の厳しい品質規制に加えて、外為法という別の軸の規制が重なり、しかも2020年以降はそこにコア業種指定と地政学リスクが乗ってきました。オリンパスが消化器内視鏡で世界シェア約70%を握り[^1]、キヤノンメディカルが150以上の国と地域に展開しているという事実[^2]は誇らしい一方で、それだけ「輸出管理で失敗した時の被害範囲」も広いということです。

この記事では、医療機器メーカーの輸出管理担当者が2026年時点で直面する具体的な論点を、私のスタンスを交えて整理します。薬機法担当と輸出管理担当が別部署になっているような会社こそ、読んでほしい内容です。

2020年コア業種指定が医療機器業界に突きつけた現実

2020年6月15日、財務省、経済産業省、厚生労働省は連名で、医薬品と医療機器に関する2業種を改正外為法のコア業種に追加すると発表しました[^3]。正確には、病原生物に対する医薬品、医薬品中間物、そして高度管理医療機器等の製造業の3分野です。適用は同年7月15日から始まりました。

コア業種指定そのものは対内直接投資規制、つまり「海外からの投資」への網です。海外の法人や個人が対象業種の上場企業株式を1%以上取得する場合、事前届出と審査が必須になりました。従来の10%基準から大きく前倒しされ、実務上はアクティビストやファンドの動きが丸見えになる水準です。

この指定の名目は、新型コロナ禍を踏まえた「国民の命・健康に関わる重要な医療産業の国内製造基盤の維持」とされました。当時はマスクや人工呼吸器の供給不足が世界的な政治問題になっており、パンデミックを経済安全保障の文脈に引きずり込んだ象徴的な動きでもありました。

ここで医療機器メーカーが誤解してはいけないのは、「うちは上場してないし、外国人投資家もいないから関係ない」という受け止め方です。コア業種指定は、日本政府が「この産業は国家の安全保障に直結する」と公式に宣言した出来事でした。投資規制はその一面に過ぎず、裏側では輸出側の管理水準、サプライチェーンの可視性、取引先デューデリジェンスにも同じ基準が求められるようになっています。経済産業省の安全保障貿易管理課も、医療機器分野へのヒアリングや自主管理体制の確認を強めていると聞いています。指定から5年経ち、当時の衝撃は薄れましたが、運用の深度はむしろ増しているというのが私の感覚です。

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薬機法と外為法のすれ違いを誰が埋めるのか

医療機器メーカーの輸出管理で最も厄介なのは、薬機法と外為法という性格の違う法律が同じ貨物に重なって適用される点です。

薬機法、正式名称は医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律ですが、この法律の目的は製品の品質と安全性の担保にあります。一方、外為法の輸出規制は国家安全保障の観点から、特定の仕向地、需要者、用途に対して貨物や技術の移転を制限するものです。目的が違うため、薬機法の要求を完璧に満たしていても、外為法の観点から見ると「その取引はNG」ということが普通に起こります。

例として、名称やパッケージデザインを輸出先に合わせて変更した医療機器を出す場合、薬機法側では「輸出用医療機器製造販売届」の提出と医療機器製造業許可が必要です[^4]。厚生労働省医薬・生活衛生局が2022年6月22日に出した事務連絡では、この届出のQ&Aが改正され、輸出先国の規制対応のために記載を変える場合の扱いが整理されました[^5]。つまり薬機法側の運用は細かいレベルで更新され続けているということです。

ところが同じ製品について外為法側では、輸出貿易管理令別表第1の何項に該当するのか、キャッチオール規制でどの仕向地・需要者・用途が問題になるのかを、まったく別の体系で判定しなければなりません。該非判定書の提出は通関時に税関でチェックされ、用途誓約書は輸出者の責任で取得します。ジェトロのQ&Aでも、医療機器はキャッチオール規制対象であり、自己判定書の提出が必要だと明記されています[^6]。

この2つの法律をつなぐ専門職は、日本の医療機器メーカーにはほとんど存在しません。薬事担当は薬機法の専門家、輸出管理担当は外為法の専門家、それぞれが別部署で別の書類を作り、たまたま同じ製品が両方の審議にかかったときだけ情報を突き合わせるという運用が多いのが実情です。私自身、医療機器メーカーの相談を受けた際、薬機法側では「当社のクラスII機器は問題なく輸出可能」と言われ、輸出管理側では「この仕向地は難しい」と言われて、現場が混乱しているケースを何度も見ました。この断絶を埋めるのは、制度ではなく社内の仕組みの問題です。

オリンパス・テルモ・キヤノンメディカルが直面する二重の壁

日本の医療機器メーカーの代表格として、オリンパス、テルモ、キヤノンメディカルシステムズ、ニプロ、フクダ電子などがあります。いずれも海外売上比率が高く、米国と中国が売上の大きな割合を占める点で共通しています。

オリンパスは消化器内視鏡の世界シェアが約70%と言われ、グローバル市場を主導してきました[^1]。ところが2026年3月期の営業利益予想では、米国の関税政策の影響を約160億円と見積もり、消化器内視鏡のかなりの部分を日本で製造しているため関税の影響を受けると明言しています[^7]。米国向け内視鏡を日本から出す以上、通関時にEAR(米国輸出管理規則)とも無縁ではなく、修理・再輸出・現地販売会社間の部品移動まで含めて管理の目が届くかどうかが問われます。

テルモは、カテーテルやシリンジなど幅広い製品群を持ち、米国向けは一定量を米国内で生産する体制を整えていると公表しています。在庫管理と価格転嫁で関税影響を緩和しようとしている様子ですが、現地生産比率を上げるほど、今度は技術移転、みなし輸出、現地採用エンジニアへの技術情報開示という別のリスクが出てきます。技術は人に宿るので、製品だけ現地化しても本国の技術情報が制限なく移れば、みなし輸出違反を構成する恐れがあります。みなし輸出の論点は別記事に整理しているので、みなし輸出リスクガイドも併せて読んでもらえればと思います。

キヤノンメディカルシステムズはCT、MRI、超音波診断装置、X線装置など画像診断領域で世界150以上の国と地域に展開しています[^2]。2024年にはオリンパスと超音波内視鏡システムで協業する合意も発表しており、日本メーカー同士の連携で米系メーカーに対抗する動きが目立ちます[^8]。画像診断装置はデュアルユース性が特に高く、核関連施設の内部検査や軍事研究機関での活用が懸念されるため、CT・MRIクラスの装置を特定国に出す際は該非判定とエンドユース確認を相当に丁寧にやる必要があります。ECCN(米国の輸出管理分類番号)の考え方は日本の該非判定でも参考になります。分類の基礎を押さえたい方はECCN分類ガイドが役立つはずです。

この3社に限らず、日本の医療機器メーカー全体の売上は「21兆円への道」という表現で語られるほど巨大市場で、米国・中国・欧州の3極に依存する構造です[^9]。関税だけでなく、輸出管理のミスで出荷が止まれば、その影響は年間数百億円単位になりえます。輸出管理は「守りの機能」と片付けられがちですが、実際には売上の蛇口を握っている機能だというのが私の見方です。

クラスII・III機器のデュアルユース性という見落とされがちな論点

医療機器の規制分類は日本独自のリスク区分で、クラスI(一般医療機器)、クラスII(管理医療機器)、クラスIII・IV(高度管理医療機器)と4段階に分かれます。コア業種指定の対象は主にクラスIII以上ですが、外為法上のリスクはクラス分類と一致しません。

内視鏡はクラスIIに分類されることが多い機器ですが、軍事医療施設や治験を偽装した施設、さらには軍の秘密研究機関が最終需要者である可能性を排除できません。ポータブル超音波装置も同様で、戦場医療や軍の野戦病院での利用、潜水艦内の医療機器として使われる可能性があります。

画像診断装置はさらに難しい論点を含みます。CT装置は人体の断層撮影に使いますが、同じ技術で核兵器の部品や電子機器の非破壊検査もできます。MRI装置は強い磁場を生み出すため、その部品や技術が軍事センサーへ転用される可能性も指摘されています。人工呼吸器や麻酔器は、本来の用途から想像しにくいものの、生物剤を使った動物実験・兵器開発の施設で使われるリスクが議論されてきました。

こうしたデュアルユース性は、仕向地と需要者の組み合わせで評価する必要があります。例えば中国の三甲医院(最高ランクの総合病院)向けの内視鏡と、仕向地不明の研究機関向けの同じ型番では、要求される確認レベルがまったく違います。2026年1月6日、中国商務部は日本向けデュアルユース品目の輸出管理を強化する告示を発表しました[^10]。日本から中国への流れだけでなく、中国から日本への流れにも規制が走っているため、修理部品・消耗品の調達ルートを見直すメーカーも増えているはずです。

キャッチオール規制とリスト規制の関係を整理した記事も用意しています。制度の全体像を把握するためには輸出コンプライアンスプログラムガイド日中輸出管理2026を先に読んでおくとスムーズです。

2026年地政学リスク下で医療機器メーカーがやるべき3つの見直し

ここからは、私が医療機器メーカーに対して「まずこの3つを見直してほしい」と伝えている論点です。網羅性より優先順位を重視します。

ひとつめは、該非判定プロセスの「型番ベース」から「型番+仕向地+需要者」への更新です。多くの会社では、型番ごとに一度判定をしたら、その結果を何年も使い回しています。これは外為法の規制品目が頻繁に追加・修正され、仕向地国のリスク評価も流動化している2026年の環境には合いません。特にロシア向けは2022年3月以降、経産大臣の承認が原則として下りない状態が続いています[^11]。中東向け、東南アジア経由の迂回取引も含め、仕向地ごとにリスク評価を更新する運用に変える必要があります。

ふたつめは、薬事部門と輸出管理部門の意思決定プロセスの統合です。私の知る医療機器メーカーでは、薬事は厚労省対応、輸出管理は経産省対応で部門がまったく別になっています。両者をつなぐ会議体を作り、新製品の開発段階から薬機法と外為法の要件を同じテーブルで議論する運用が不可欠です。米国や欧州で先に上市する戦略の会社ほど、FDAやCE対応の薬事タスクに引きずられて外為法論点が後回しになりがちです。ここは意識的に前倒しする必要があります。

みっつめは、デニアルリスト(制裁対象者リスト)の自動スクリーニングの導入です。医療機器の販売先は病院、医療法人、代理店、商社と多層にわたり、それらすべてを米国OFAC、EUサンクション、日本外国ユーザーリストと突き合わせる作業は人手では追いつきません。2026年1月発効の中国側デュアルユース規制で、取引先が中国側のエンティティリストに載るケースもあり、米中日の3方向スクリーニングが実務の標準になりつつあります。取引先審査の考え方についてはみなし輸出リスクガイドや過去記事も参考にしてください。

この3点は、どれも人力だけでやろうとすると確実にパンクします。だからこそ、AIエージェントの活用が選択肢として浮上します。

TIMEWELL TRAFEEDで医療機器メーカーの実務を補助する

TIMEWELLでは、輸出管理の実務を支援するAIエージェントとしてTRAFEED(旧ZEROCK ExCHECK)を提供しています。経産省の安全保障貿易管理基準に準拠し、該非判定のドラフト生成、取引先の多言語スクリーニング、用途確認書類の整理まで一貫してサポートする設計です。医療機器メーカーの現場をヒアリングしながら、クラスII・III製品の該非判定テンプレートや、デニアルリスト照合のワークフローを作り込んできました。

私のスタンスとしては、TRAFEEDを「人の仕事を奪うツール」ではなく「管理責任者が判断に集中できる環境を作る仕組み」と位置付けています。医療機器は人命に直結する製品で、最後の判断は必ず人間の管理責任者が担うべきです。その判断に至るまでの情報収集、書類作成、突き合わせ、記録化といった時間のかかる工程を、AIで圧縮する。これが一番自然な使い方だと思っています。

少人数の輸出管理部門が、1,000型番以上のラインアップと世界150カ国超の仕向地を相手にする。その負荷は制度で解決できません。仕組みで解決する以外にないというのが、私の結論です。

医療機器業界に特化したTRAFEEDの活用相談は、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。薬事担当と輸出管理担当が同席してのヒアリングも歓迎します。現場で実際に起きている運用課題を一緒に整理するところから始めましょう。

参考文献

[^1]: ダイヤモンド・オンライン「キヤノン、富士、テルモ、オリンパス…医療機器メーカーが挑む日本勢売り上げ『21兆円への道』米国強豪を倒す秘策とは」 https://diamond.jp/articles/-/356746 [^2]: キヤノンメディカルシステムズとオリンパス、超音波内視鏡システムの協業に合意(オリンパス株式会社) https://www.olympus.co.jp/news/2024/nr02608.html [^3]: Sustainable Japan「【日本】政府、医薬品と医療機器に関する2業種を改正外為法のコア業種に指定」 https://sustainablejapan.jp/2020/06/18/japan-forex-act-2/50996 [^4]: 西村あさひ法律事務所「医薬品及び高度管理医療機器の製造業についての外為法上のコア業種指定」 https://www.amt-law.com/asset/pdf/bulletins1_pdf/200709.pdf [^5]: 厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課「輸出用医薬品等の届出の取扱いに関する質疑応答集(Q&A)の改正について」(令和4年6月22日事務連絡) https://www.pmda.go.jp/files/000247110.pdf [^6]: ジェトロ「医薬品輸出における日本での許可事項:日本」 https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-000925.html [^7]: ニュースイッチ「オリンパス・テルモ…米関税影響が避けられぬ医療機器、それぞれの対策」 https://newswitch.jp/p/46746 [^8]: 東洋経済オンライン「【医療機器】世界を攻める"日の丸メーカー"キヤノン、富士フイルム、オリンパスの正念場」 https://toyokeizai.net/articles/-/892051 [^9]: ジェトロ「医療機器の輸入手続き:日本」 https://www.jetro.go.jp/world/qa/04M-010754.html [^10]: ジェトロ「2026年度NDAA成立、中国のバイオテック企業や対中投資の制限を拡大」 https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/12/28e03471e6967274.html [^11]: 経済産業省「ロシア等への輸出」 https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/02_export/17_russia/russia.html

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