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中国が米国10事業体を管控名簿へ|MOFCOM公告2026年第23号「任何国家和地区」の域外禁止を原文から読む

公開2026-07-30濱本 隆太

中国商務部が2026年6月22日、米国10事業体を輸出管制の管控名簿に掲載しました。公告第23号の原文から対象10社、根拠条文、そして「任何国家和地区的组织和个人」という第三国にも及ぶ域外禁止の文言を整理し、名寄せの落とし穴と日本企業が取るべき手順をまとめます。

中国が米国10事業体を管控名簿へ|MOFCOM公告2026年第23号「任何国家和地区」の域外禁止を原文から読む
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株式会社TIMEWELLの濱本 隆太です。

中国商務部が2026年6月22日に出した公告2026年第23号を、原文から読んでいきます。米国の10事業体を輸出管制の管控名簿(管控名单)に掲載する、という内容の公告です1

日本語で流通する情報では、この種のニュースは「中国が米国企業を規制」の一行に圧縮されがちです。ただ、原文を追うと日本企業にとっての要点はそこではありません。措置の一つ目に、こういう一文が入っています。

禁止任何国家和地区的组织和个人将原产于中国的两用物项转移或提供给上述实体

「いずれの国および地域の組織および個人が、中国原産の両用物項を上記の事業体へ移転または提供することを禁止する」。禁止の名宛人が、中国国内の輸出者に限られていません。日本企業にとっての本体はこの一文です。

先に但し書きを置きます。規制リストへの掲載は、その国の輸出管理制度上の区分であって、掲載された企業の是非を判断するものではありません。公告23号は、10事業体それぞれについて「なぜ載ったのか」を一切書いていません。これは私の配慮ではなく、公告そのものの状態です。

公告2026年第23号は何を決めたのか

題名は「商务部公告2026年第23号 公布将10家美国实体列入出口管制管控名单的决定」。発文日は2026年6月22日です1

冒頭で根拠として挙げているのは「中华人民共和国出口管制法」と「中华人民共和国两用物项出口管制条例」等の法令。目的の文言は「为维护国家安全和利益,履行防扩散等国际义务」、国家の安全と利益を維持し拡散防止等の国際義務を履行するため、です。これは制度共通の法定目的の定型句で、個社に対する評価ではありません。ここを混同すると、リストの読み方を根本から間違えます。

措置は2つです。措置一は、中国の輸出経営者が10事業体へ両用物項を輸出することの禁止。あわせて、いずれの国・地域の組織および個人が中国原産の両用物項を当該事業体へ移転または提供することの禁止。そして「正在开展的相关出口活动应当立即停止」、進行中の関連輸出活動は直ちに停止しなければならない。措置二は「特殊情况下确需出口的,出口经营者应当向商务部提出申请。」。原則禁止+個別申請という建て付けです。

施行日は「本公告自公布之日起正式实施」。6月22日から即日で、猶予期間の定めも失効日の定めもありません1

自社の取引が射程に入るかを確かめる方へ: 中国の出口管制法・両用物項出口管制条例、重要鉱物や両用品の管制公告、そして管控名単・関注名単・不可靠実体清単・反制清単の4系統を、1取引ごとに記入しながら確認できるスクリーニングシートを配布しています。「誰が載っているか」の一覧ではなく「取引前に何を確かめるか」の手順書なので、確認の記録がそのまま社内の判断根拠や取引先への説明資料になります。掲載は規制上の区分であって、企業の是非を判断するものではありません。→ 中国関連取引 輸出管理スクリーニングシート(記入式・2026年版)をダウンロード(無料。会社名とお勤め先のメールアドレスのご登録が必要です)

掲載された10事業体(附件の原文表記)

附件の各項は、番号・名称(中国語名に英語名を括弧で添える形)・地址・邮编・常用名称の5項目でできています。最後の常用名称、つまり「よく使われる呼称」の欄が実務では効きます。原文の順序と表記のまま並べます1

# 名称(原文) 地址(原文) 邮编 常用名称(原文)
1 艾维奥克斯公司(Aveox, Inc.) 2265A Ward Ave., Simi Valley, CA, USA 93065 AVEOX
2 红猫控股公司(Red Cat Holdings, Inc.) 2800 S West Temple St., Unite 2, South Salt Lake, UT, USA 84115 Red Cat
3 蒂尔无人机公司(Teal Drones, Inc.) 2800 S West Temple St., Unite 2, South Salt Lake, UT, USA 84115 Teal Drones, iDrone
4 美国IMSAR公司(IMSAR, LLC) 940 S 2000 W#140 Springville, UT, USA 84663 IMSAR
5 杰亚机器人公司(Jaia Robotics, Inc.) 22 Burnside St Bristol, RI, USA 02809 Jaia Robotics
6 鲍尔航空航天技术公司(Ball Aerospace & Technologies Corp.) 10 Longs Peak Drive, Broomfield, CO, USA 80301 Ball Aerospace, Space & Mission Systems business of BAE Systems
7 奥什科什防务公司(Oshkosh Defense, LLC) 2307 Oregon Street, Oshkosh, WI, USA 54902 Oshkosh Defense
8 L3哈里斯海事服务公司(L3Harris Maritime Services, Inc.) 3835 E Princess Anne Rd, Norfolk, VA, USA 23502 L3Harris Maritime
9 芒廷帕斯材料公司(MP Materials Corp.) 1700 S Pavilion Center Drive Eighth Floor, Las Vegas, NV, USA 89135 MP Materials
10 美国稀土公司(USA Rare Earth, Inc.) 100 W Airport Rd, Stillwater, OK, USA 74075 USAR, USARE

附件に書かれているのは以上です。業種の欄も、掲載理由を書く欄もありません。「理由の欄がない」ことと「常用名称の欄がある」ことは、どちらもあとで名寄せの話をするときに効いてきます。

公告は「なぜ載ったのか」を書いていない

制度側には、管控名簿に載せる事由がきちんと条文化されています。両用物項出口管制条例第28条は、第1款で3つの事由(最終使用者・最終用途の管理要求への違反、国家の安全と利益を害するおそれ、両用物項のテロリズム目的での使用)を挙げ、第2款でさらに2類型(大量破壊兵器およびその運搬手段の設計・開発・生産・使用への使用、国の関係部門から法に基づき取引・協力の禁止または制限の措置を受けたこと)を挙げます2

事由は複数あるわけです。にもかかわらず、公告23号の本文にあるのは制度共通の目的文言だけで、10事業体のそれぞれがどの事由に当たったのかは書かれていません。個社の行為に関する事実認定も、違反の指摘もありません1

私はこの点を、道徳的な配慮ではなく事実確認の結論として書いています。公告の文面から個社の理由は特定できない。だから推測して書かない。 「載った」という事実が意味するのは、その相手と取引する前に確認手続きが増えたということで、企業の事業や信用を否定的に評価する根拠にはなりません。制度をまたいで一列に並べると誤読が起きやすいので、リストごとの性格の違いはエンティティリスト・MEUリスト・SDNリストの比較も参照してください。

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「任何国家和地区」という書き方 — 27号との文言差

日本企業に効くのは措置一の後半です。ここは公告ごとに文言が違うので、6月29日の公告27号(日本20事業体を管控名簿へ)と並べます13

論点 公告23号(米国10事業体・2026-06-22) 公告27号(日本20事業体・2026-06-29)
中国の輸出者への禁止 禁止出口经营者对上述10家实体出口两用物项 禁止出口经营者向上述20家实体出口两用物项
域外への禁止の名宛人 任何国家和地区的组织和个人 境外组织和个人
品目の限定 原产于中国的两用物项 原产于中华人民共和国的两用物项
冒頭で対象に付す形容 形容句なし(「艾维奥克斯公司等10家美国实体」) 一括りの形容句あり(後述)
進行中の活動の停止 正在开展的相关出口活动应当立即停止 正在开展的相关活动应当立即停止(「出口」の語がない)
附件の項目 名称・地址・邮编・常用名称 名称・地址・邮编(常用名称の欄なし)
例外 特殊情况下确需出口的,出口经营者应当向商务部提出申请 同旨
施行 本公告自公布之日起正式实施 同旨

27号は「境外」(中国国外)の組織・個人と書き、23号は「任何国家和地区」(いずれの国・地域)と書いています。条文の読み方としては、23号は中国国内の主体を除外していない、という読み方も成り立ちます。ここに実務上の意味を過大に読み込むつもりはありませんが、同じ制度の同じ月の公告で名宛人の書き方が揺れている事実は、原文を読まないと見えません。日本語の要約では両方とも「中国国外の組織・個人も禁止」に丸められます。

揺れているのは名宛人だけではありません。停止を命じる対象は23号が「相关出口活动」、27号は「出口」を挟まない「相关活动」です。附件の作りも違って、23号には常用名称の欄があるのに27号にはありません。同じ月に同じ部局(安全与管制局)から出た公告でも、書式は固定されていない。要約に頼ると、この差はきれいに消えます。

実務の判定軸は両方同じです。扱う品目が中国原産の両用物項かどうか。相手が掲載事業体かどうか。 この2点で、自社の国籍は判定に入りません。

自社が射程に入りやすいのはこういう経路です。日本のメーカーや商社が中国から部材を調達していて、その品目が中国の両用物項の管制対象に該当する。そして自社の米国拠点や販売代理店が掲載10事業体のいずれかに供給している、あるいは掲載事業体を顧客に持つ米国のディストリビューター経由で流れている。この場合、日本企業は公告の名宛人に含まれ得ます。

厄介なのは、自社の販売先リストを見ただけでは気づけないことです。一次取引先が掲載事業体でなくても、その先で流れていれば経路は成立する。しかも「中国原産か」は購買部門が持つ情報で、販売側は知らないことが多い。調達側と販売側の情報を突き合わせて初めて見える構造です。

域外適用そのものの条文構造は中国輸出管理法の域外適用、制度の全体像は中国輸出管理法の体系で扱っています。なお公告は品目を限定列挙していないので、どの品目が該当するかは管制清単に照らした該非判定の話になります。自社品目は中国の両用品目リスト側で確認する作業です。

根拠条文を条番号で押さえる

「中国の公告は法的根拠が曖昧」という言い方を時々聞きますが、条文は積んであります。実務で使うのは次の9か条です42

条文 内容
出口管制法 第18条 管控名簿の設置事由(3号)と、取引の禁止・制限、輸出中止命令等の措置
出口管制法 第20条 代理・貨物運送・宅配・通関・第三者ECプラットフォーム・金融等の役務提供の禁止
出口管制法 第37条 管控名簿掲載先と取引した場合の罰則
出口管制法 第44条 中国国外の組織・個人が輸出管制規定に違反した場合の責任追及
条例 第13条 特定の両用物項、特定の仕向国・地域・組織・個人への輸出禁止の枠組み
条例 第26条 関注名簿の効果(通用許可等が使えない、リスク評価報告の提出)
条例 第27条 最終使用者・最終用途の証明文書、契約、インボイス等の5年保存
条例 第28条 管控名簿への列入事由
条例 第29条 管控名簿に対する措置と、例外の事前申請・承認・事後報告

出口管制法は2020年10月17日公布・同年12月1日施行、両用物項出口管制条例は国務院令第792号で2024年9月30日公布・同年12月1日施行です。

罰則の水準を見ます。第37条は、管控名簿掲載先と取引した輸出経営者に対し、警告、違法行為の停止命令、違法所得の没収。そのうえで違法経営額が50万元以上なら違法経営額の10倍以上20倍以下の過料、50万元未満なら50万元以上500万元以下の過料。情状が重い場合は管制物項の輸出経営資格の停止または取消です4。倍数で効く建て付けなので、取引規模が大きいほど金額が跳ねます。

見落としやすいのは第20条です。「任何组织和个人不得为出口经营者从事出口管制违法行为提供代理、货运、寄递、报关、第三方电子商务交易平台和金融等服务。」代理、貨物運送、宅配、通関、第三者ECプラットフォーム、金融といった役務の提供も禁止対象に入っています4。荷主だけの話ではなく、フォワーダー、通関業者、商社、銀行にも当事者性が及ぶ設計です。

担当者と話していて混同が多いのが管控名簿と関注名簿の違いです。管控名簿は原則として取引の禁止・制限で、例外は事前申請・承認制(承認後の取引は要求に従って報告)。関注名簿は取引自体を禁じるのではなく、通用許可や登記・情報記入方式による輸出証憑が使えず、単項許可の申請時に相手方のリスク評価報告と法令遵守の承諾が必要になる手続加重型の区分です。入り口も条例第26条に書いてあって、最終使用者・最終用途の核査に期限内に協力せず用途が確認できない場合に列入できる、という建て付けです2。「原則やらない」区分と「手続きが重くなる」区分、と押さえておくと社内の説明がぶれません。しかも条例第28条第3款により、関注名簿の相手が第1款・第2款の情形にあると判断されれば管控名簿へ引き上げる経路があります。関注名簿を「まだ大丈夫」と扱わないほうがいい。

条例第27条の5年保存義務は、日本企業にとっては守りの道具になります。最終使用者・最終用途の証明文書、契約、インボイス、帳簿、伝票、業務往復文書を5年以上保存する。負担でもありますが、「うちは確認していた」と後から示せる材料でもあります。確認の型そのものはエンドユーザースクリーニングと顧客デュー・ディリジェンスに整理しました。

2026年の公告のならび — 特定国に限らない枠組み

商務部の2026年公告一覧を見ると、管控名簿の公告が特定の国だけを対象にしていないことがはっきりします5

公告 日付 内容
第1号 2026-01-06 両用物項の対日輸出管制の強化について
第11号 2026-02-24 日本20事業体を管控名簿に掲載
第12号 2026-02-24 日本20事業体を関注名簿に掲載
第20号 2026-04-24 EU7事業体を管控名簿に掲載
第23号 2026-06-22 米国10事業体を管控名簿に掲載
第27号 2026-06-29 日本20事業体を管控名簿に掲載
第28号 2026-06-29 日本20事業体を関注名簿に掲載
第30号 2026-07-24 EU14事業体を管控名簿に掲載

1月に対日の管制強化、2月に日本20(+関注名簿20)、4月にEU7、6月に米国10、同月末にまた日本20(+関注名簿20)、7月にEU14。同一の枠組みがEU、米国、日本に横断的に適用されており、しかも日本向けは半年のうちに2ラウンドあります。2月の第11号・第12号については中国の対日デュアルユース品輸出規制強化で扱いました。同時期には管控名簿以外の制度整備も並んでいて、第24号(2026-06-24)の「産業チェーン・サプライチェーン安全調査工作弁法」、第26号(同日)の戦略鉱産両用物項に関する通報処理の整備、第29号(2026-07-10、商務部・税関総署の共同公告)のヘリウム臨時輸出禁止などが続いています5

因果関係については、事実の並びだけを書いておきます。公告23号の本文には他国の措置への言及がなく、2026年6月22日付の商務部報道官談話や記者会見録は私の側で取得できていません。「どの措置への対応か」を断定できる一次情報が手元にないので、「報復」「応酬」といったフレーミングは使いません。日本企業にとって重要なのは、どちらが正しいかではなく、どの国の企業でも規制区分に載りうる状態が現に続いているという点のほうです。

日本20事業体を対象とした公告27号については、対象に防衛装備関連の研究機関と製造・サービス会社が含まれています(所在地は東京、神奈川、長崎、愛知、岐阜、埼玉)3。個別の名前はここでは並べません。名前だけを列挙すると「問題企業の一覧」として読まれてしまうからです。

ひとつ正確に書いておきます。23号は10事業体に何の形容も付けていませんが、27号は冒頭に形容句を置いています。原文は「决定将防卫研究所等参与提升日本军事实力的20家日本实体列入出口管制管控名单」で、20事業体をまとめて形容する句が入っています3。ただしこれは発文側が公告に書いた区分の説明であり、事業体ごとにどの列入事由(条例第28条各号)に当たるかを認定したものではありません。27号の附件は名称・住所・郵便番号のみで、こちらも個社ごとの理由は書かれていません。日本の当事者企業にとって、これは自社の落ち度ではなく、国家間の制度が交差した結果として降ってきた事態です。詳しくは中国による日本向け両用品目の輸出制限で扱っています。

名寄せが効かない3つの落とし穴

実務でいちばん時間を食うのはここです。「掲載10社と自社の取引先マスタを突き合わせる」という作業は、社名の完全一致検索では終わりません。附件を各社の一次資料と突き合わせてみると、外れ方の型が3つ出てきました。

1. 正式名称は旧法人名。現行の呼び名は常用名称の欄にある。 6番目の正式名称は「鲍尔航空航天技术公司(Ball Aerospace & Technologies Corp.)」です。一方BAE Systemsは2024年2月16日付の自社発表でBall CorporationからのBall Aerospace買収完了を公表し、当該事業を「Space & Mission Systems」という新事業部門としています(米国従業員5,200人以上が加わったと記載)6。つまり正式名称の欄だけを見ると、現行の呼び名とは一致しません。

ただ、公告はそこを織り込んでいます。同じ項の常用名称の欄に「Ball Aerospace, Space & Mission Systems business of BAE Systems」と書いてあるのです1。落とし穴は公告の側ではなく、受け取る側にあります。日本語や英語の要約記事、社内メモへの転記は、たいてい社名と住所しか拾いません。正式名称の列だけを取り込んだ照合テーブルを作ると、公告がわざわざ書いてくれた現行名を自分の手で捨てることになる。3番目の常用名称に入っている「iDrone」や、10番目の「USAR, USARE」も、正式名称の文字列からは導けない呼称です。取り込むなら常用名称の欄まで取り込む。 これは名寄せの手順の話で、買収や各社の事業を評価する話ではありません。

そのうえで、この欄はあると期待してはいけない項目でもあります。同じ月の27号には常用名称の欄がありません。公告ごとに使える手がかりが違うので、「今回は何が書いてあるか」を毎回見るしかない。

2. 親子が同一住所で並び、部屋番号が合わない。 2番目のRed Cat Holdings, Inc.と3番目のTeal Drones, Inc.は、どちらも地址が「2800 S West Temple St., Unite 2, South Salt Lake, UT, USA」、邮编84115で掲載されています。SEC EDGARでは、Red Cat Holdings(CIK 748268、RCAT)のbusiness addressは2800 S West Temple, Suite 5, South Salt Lake, UT 841157。番地は同じで部屋番号が違い、しかも「Unite 2」は原文どおりの表記です。住所突合を厳格な文字列一致でやると外れます。

3. グループ内に似た法人名が複数ある。 10番目の掲載名「USA Rare Earth, Inc.」はSEC登録名(CIK 1970622、USAR)と一致します8。ただ同社の公式サイトでは「USA Rare Earth, LLC」「USA Rare Earth Magnets, LLC」といった表記も見られ、グループ内でどの法人が公告の対象なのかを厳密に特定する材料が足りません。ここは確定できていないので、確定できていないと書きます。実務では「同名グループ内の別法人だから対象外」と自己判断せず、法務経由で確認する場面です。

一方で、突合の手がかりもあります。掲載10社のうち3社は米国の上場企業で、公告の英語社名がSEC登録名と一致します。MP Materials Corp.(CIK 1801368、MP)、USA Rare Earth, Inc.(同USAR)、Red Cat Holdings, Inc.(同RCAT)です9。住所も突合できました。附件の「1700 S Pavilion Center Drive Eighth Floor, Las Vegas, NV」+邮编89135は、EDGARのMP Materialsのbusiness address「1700 S. Pavilion Center Dr., Suite 800, Las Vegas, NV 89135」と同一所在地(8階=Suite 800)10。USA Rare Earthの「100 W Airport Rd, Stillwater, OK」+邮编74075も、EDGARの「100 W Airport Road, Stillwater, OK 74075」と一致します8上場企業についてはCIKやティッカーまで紐づけた名寄せができるので、社名文字列だけに頼らない照合キーを持てます。

なお掲載日前後のForm 8-Kも確認しましたが、MP Materials・Red Cat Holdingsとも、6月22日前後に掲載を対象とする8-Kは見当たりませんでした107。8-K提出の要否は各社の重要性判断によるものなので、開示が見当たらないこと自体を対応の是非として評価すべきではありません。提出履歴を確認した、という範囲の記述です。

掲載2社の自社開示と、米国レアアース供給網の数字

掲載10社のうち2社は、自社の一次開示で事業内容を確認できました。推測を挟まず、各社が自分で書いていることをそのまま示します。

MP Materials Corp.のFY2025 Form 10-K(2026年2月26日提出)Item 1 Businessは、自社を「the largest producer of rare earth materials in the Western Hemisphere」と説明し、カリフォルニア州サンバーナディーノ郡のMountain Pass鉱山・加工施設を「the only rare earth mining and processing site of scale in North America」と記しています。テキサス州フォートワースのIndependence施設で金属・合金・磁石を製造し、2025年12月にネオジム鉄ボロン(NdFeB)永久磁石の製造を開始したとしています。報告セグメントはMaterialsとMagneticsの2つです11

USA Rare Earth, Inc.は公式サイトで「Forging the future of critical minerals and advanced technologies — from mine to magnet and beyond」と掲げ、レアアース元素、酸化物、金属、磁石を扱い、「manufacture permanent magnets at scale」と説明しています12。EDGARでは2026年6月23日にS-4/A、7月24日にDEFM14Aを提出しており、株主総会の承認を要する企業結合案件が進行中であることが確認できます8

読み取れるのは、この2社が鉱山から磁石までの民生サプライチェーンを自国内に構築しようとしている事業者だということです。正規の商業活動をしている企業が他国の広い規制区分に巻き込まれる。特定の企業の落ち度ではなく、両用物項という区分の広さから来る制度設計上の帰結だと私は見ています。

背景として、供給網の構造をUSGSの一次統計で確認しておきます。企業ごとの評価ではなく、産業の数字の話です13

指標 数値(USGS Mineral Commodity Summaries 2026)
米国の鉱物濃縮物生産(2025年推計) 51,000トン(REO換算)、金額2億4,000万ドル
化合物・金属の国内生産 2021年120トン → 2022年95トン → 2023年800トン → 2024年4,300トン → 2025年推計8,900トン
化合物・金属の輸入 2025年に数量で169%増(一方で輸入額は2024年1億6,800万ドル→2025年推計1億6,500万ドルに減少。USGSは低価格帯の輸入品へのシフトと説明)
化合物・金属の純輸入依存度 2024年53% → 2025年67%
化合物・金属の米国輸入元(2021〜24年) 中国71%(香港を含む)、マレーシア13%、日本5%、エストニア5%、その他6%
世界の鉱山生産(2025年推計) 総計390,000トン(中国270,000/米国51,000/オーストラリア29,000)
埋蔵量 中国4,400万トン、米国190万トン
鉱山・製錬の雇用(2025年推計) 670人

国内生産は4年で120トンから8,900トン規模へ拡大している一方、純輸入依存度は53%から67%へ上がっています。生産を増やしながら依存度も上がるのは、需要と輸入がそれ以上に伸びているということです。政府備蓄でも、2025会計年度のpotential acquisitionsにNdPr酸化物300トン、NdFeB磁石ブロック450トン、サマリウム・コバルト合金60トンが含まれ、磁石という下流製品まで国内調達の対象に入っています13。中国側の管制の推移(2025年4月に7元素へ規制追加、10月に5元素へ拡大、11月に10月分を1年間停止し4月分は継続、選定輸出者への一般許可の発給開始)は中国レアアース輸出管制の全体地図で追っています13

ここで因果を勝手につながないことが大事です。「レアアース供給網の担い手だから掲載された」という説明は公告本文からは出てきません。確認できたのは、供給網の構造を示す一次統計と掲載事業体の自社開示という2つの独立した事実だけで、両者を因果で結ぶ材料は持っていません。

日本企業が今週やっておくこと

手順に落とします。

掲載10事業体との接点を洗い出す。 直接の取引先だけでなく、米国子会社の販売先、代理店やディストリビューターの先まで含めます。照合キーは正式社名の文字列だけにせず、附件の常用名称・住所・郵便番号、上場企業についてはCIK・ティッカーまで使う。旧法人名での掲載や「Unite」のような表記ゆれを吸収できる設計にしてください。出口管制法第20条があるので、フォワーダー、通関、決済銀行として関与しているだけの取引も洗い出しの対象です。

中国原産の両用物項を扱っているかを確認する。 これは購買部門の情報です。調達先が中国で、かつ品目が中国の両用物項の管制対象に該当するか。ここが分からないままだと、そもそも自社が公告の射程に入るのか判断できません。販売側だけでは答えが出ない設問なので、購買と営業を同じ会議に呼ぶ必要があります。

進行中の取引があれば、止める判断を先にする。 公告は「正在开展的相关出口活动应当立即停止」と書いています。契約履行との関係で悩ましい場面が出ますが、順序としては事実関係を確定させてから法務と相談する。商務部への申請ルートは残されていますが、条例第29条の建て付けからして承認制であり例外扱いです。

記録に残す。 条例第27条の5年保存を踏まえ、「いつ、どのリストと、どのマスタを、どの基準で突合したか」を記録します。確認した事実が残っていない確認は、後から説明できません。私の経験では、ここを面倒がった会社が半年後にいちばん困ります。

次回を前提に体制を組む。 2月に日本20、4月にEU7、6月に米国10と日本20、7月にEU14。半年で5回です。この更新のされ方を見れば、次があると考えるのが自然でしょう。中国語の公告が出た日にそれを見つけて社内マスタと突き合わせる作業を、担当者の気づきに頼るのは体制と呼べません。

私たちがTRAFEEDで各国の規制情報を当日反映で取り込み、取引先マスタとの照合を自動化しているのは、この更新頻度と多言語性に人手で追いつけないからです。世界初(*)の輸出管理AIエージェントとして、リスト規制とキャッチオール規制の該非判定に加え、こうした取引先スクリーニングも扱っています。もっとも、最終的な該非判定と取引可否の判断は各社の輸出管理責任者が行うものです。私たちが担うのは、判断に必要な材料を漏れなく、根拠つきで、短時間で揃えるところまでです。

この記事で書かなかったこと

一次情報で確認できなかった事項を、確認できなかったものとして残します。書いていないことを明示するのも情報だと考えています。

  • 10事業体それぞれの列入事由。公告に記載がなく、条例第28条のどの号に当たるかは特定できません
  • 他国の措置との因果関係。公告本文に言及がなく、2026年6月22日付の商務部報道官談話・記者会見録は取得できていません
  • 同時期に報じられた「米企業46社の政府調達禁止」。商務部の2026年公告一覧で第1号から第30号までの題名を確認しましたが、政府調達に関する措置は含まれていませんでした。商務部以外の機関による措置の可能性はありますが、一次情報を取得できていないため公告23号と混ぜていません
  • 掲載事業体側の公式コメント。Aveox、Teal Drones、IMSAR、Jaia Robotics、Oshkosh Defense、L3Harris Maritime Services、Ball Aerospace(現BAE Systems Space & Mission Systems)について、掲載に関する自社リリース・適時開示を取得できていません
  • 対象品目の具体的範囲と、掲載解除の運用実績。公告は品目を限定列挙しておらず、該非は管制清単に照らした判定に依存します。解除については条例第30条に申請ルートの定めがあり、調査への協力、違法行為の停止、是正措置、承諾の履行等を条件に移出を申請できるとされています2。ただし実際にどう運用されているかの記録は確認できていないため、解除の見込みには触れていません

まとめ

  • 2026年6月22日、中国商務部が公告2026年第23号で米国10事業体を管控名簿に掲載。公布日から即日施行で、猶予期間の定めはありません
  • 措置一の後半が日本企業に効きます。「任何国家和地区的组织和个人」が中国原産の両用物項を掲載事業体へ移転・提供することを禁止しています。判定軸は自社の国籍ではなく、品目が中国原産の両用物項か、相手が掲載事業体かの2点です
  • 6月29日の公告27号(日本20事業体)は同じ趣旨を「境外组织和个人」と書き、停止対象も「相关活动」(23号は「相关出口活动」)、附件に常用名称の欄はありません。同じ月・同じ部局の公告でも書式は固定されていません
  • 根拠は出口管制法第18条・第44条、条例第28条・第29条。罰則は同法第37条で違法経営額50万元以上なら10倍以上20倍以下の過料。第20条により物流・通関・金融等の役務提供も禁止対象です
  • 名寄せは社名一致では終わりません。正式名称が旧法人名のまま(現行名は常用名称の欄にある)、親子の同一住所掲載、部屋番号の不一致、グループ内の類似法人名。常用名称の欄まで取り込むことと、上場企業はCIK・ティッカーを照合キーに使うことが要点です
  • リスト掲載は規制上の区分であって、掲載された企業の是非を判断するものではありません。 公告23号は個社の理由を一切書いていません

最後に一点だけ。この記事を書きながら何度も戻ったのは、公告が常用名称の欄をわざわざ用意しているという事実でした。掲載する側は、名寄せで取り違えが起きることを承知したうえで呼称を並べている。読む側がそこを落として社名の一致だけで済ませれば、確認した気になった記録だけが残ります。リストを「悪い会社の名簿」として眺めているかぎり、この欄は視界に入りません。載った10社は自国で事業を営む会社であり、日本企業も別の国の規則で同じ位置に立つことがある。読み方の軸を「誰が悪いか」ではなく「何と何を照合するか」に置いておく。地味ですが、後から自社の判断を説明できる状態をつくる方法はそれくらいだと思っています。

自社の取引網に今回の10事業体との接点があるか、どこから手をつけるべきか判断がつかない場合は、TRAFEEDの担当までご相談ください

(*) 日本の安全保障輸出管理(リスト規制・キャッチオール規制)分野のAIエージェントとして、2026年3月時点、当社(社内)調査により確認済みです。

参考文献・一次情報

Footnotes

  1. 中華人民共和国商務部「商务部公告2026年第23号 公布将10家美国实体列入出口管制管控名单的决定」2026年6月22日(本文および附件) https://www.mofcom.gov.cn/zcfb/blgg/gg/2026/art/2026/art_aab677e956c943808cebf8c06a28ff0e.html 2 3 4 5 6 7

  2. 「中华人民共和国两用物项出口管制条例」(国務院令第792号、2024年9月30日公布・2024年12月1日施行)第13条・第26条・第27条・第28条・第29条 https://exportcontrol.mofcom.gov.cn/article/zcfg/gnzcfg/gzjgfxwj/202410/1057.html 2 3 4

  3. 中華人民共和国商務部「商务部公告2026年第27号 公布将20家日本实体列入出口管制管控名单」2026年6月29日 https://www.mofcom.gov.cn/zcfb/blgg/gg/2026/art/2026/art_6607ea694b704da8ac5e863a5568e47c.html 2 3

  4. 「中华人民共和国出口管制法」(中国輸出管理法)第18条・第20条・第37条・第44条(2020年10月17日公布、2020年12月1日施行) https://exportcontrol.mofcom.gov.cn/article/zcfg/gnzcfg/flfg/202111/226.html 2 3

  5. 中華人民共和国商務部「2026年商務部公告」一覧 https://www.mofcom.gov.cn/zcfb/blgg/gg/2026/index.html 2

  6. BAE Systems「BAE Systems completes acquisition of Ball Aerospace」2024年2月16日(自社発信) https://www.baesystems.com/en-us/article/bae-systems-completes-acquisition-of-ball-aerospace

  7. 米国SEC EDGAR submissions API(Red Cat Holdings, Inc.、CIK 748268) https://data.sec.gov/submissions/CIK0000748268.json 2

  8. 米国SEC EDGAR submissions API(USA Rare Earth, Inc.、CIK 1970622) https://data.sec.gov/submissions/CIK0001970622.json 2 3

  9. 米国SEC EDGAR company_tickers.json https://www.sec.gov/files/company_tickers.json

  10. 米国SEC EDGAR submissions API(MP Materials Corp.、CIK 1801368) https://data.sec.gov/submissions/CIK0001801368.json 2

  11. MP Materials Corp. Form 10-K(FY2025、2026年2月26日提出)Item 1 Business https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1801368/000180136826000008/mp-20251231.htm

  12. USA Rare Earth 公式サイト(企業の自社発信) https://usare.com

  13. U.S. Geological Survey「Mineral Commodity Summaries 2026: Rare Earths」2026年2月 https://pubs.usgs.gov/periodicals/mcs2026/mcs2026-rare-earths.pdf 2 3

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