こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
「利益相反の申告なら、毎年やっていますよ」
研究インテグリティの話を大学でしていると、この一言がよく返ってきます。ところが中身を伺うと、企業の役員兼務と未公開株の保有について年に一度の様式を回している、というところで止まっている機関が少なくありません。もちろんそれも立派な利益相反の申告です。ただ、いま国が求めている開示は、そこからかなり広がっています。
この記事では、研究インテグリティの土台にあたる情報開示の実務を整理します。利益相反と責務相反は何が違うのか、実際に何をどこまで申告するのか、e-Radでは何を登録するのか、機関側は何を整えるべきか、そして書かなかったときに何が起きるのか。制度の全体像は研究インテグリティと研究セキュリティの完全ガイドに整理していますので、あわせてご覧ください。
「利益相反」と「責務相反」は、別のものです
まず言葉を揃えます。ここを混ぜたまま議論すると、様式の設計を間違えます。
その前に、上位にある2つの言葉も整理しておきます。研究インテグリティとは、研究活動の健全性・公正性を保つための取組のことです。令和7年12月に内閣府の有識者会議が公表した「研究セキュリティの確保に関する取組のための手順書」は、これを「全ての研究活動を対象」とするものと位置づけています。対になる研究セキュリティは、技術流出などのリスクから研究を守る取組で、こちらは「国や研究機関において守るべきと判断した研究活動を対象」とする、範囲を絞った営みです1。文部科学省の整理でも、まず研究インテグリティの徹底が基盤にあり、その上に研究セキュリティを構築するという順序が示されています2。COIとCOCの申告は、この土台のいちばん下にある作業だと考えてください。
この区別の原典は、文部科学省の科学技術・学術審議会に置かれた利益相反ワーキング・グループの報告書(平成14年11月)です。同報告書は、広い意味での利益相反を、狭義の利益相反と責務相反という2つに分けて整理しました。狭義の利益相反とは、教職員または大学が産学官連携活動に伴って得る利益(実施料収入、兼業報酬、未公開株式など)と、教育・研究という大学における責任が衝突・相反している状況を指します。一方の責務相反は、教職員が主に兼業活動により企業等に職務遂行責任を負っていて、大学における職務遂行の責任と企業等に対する職務遂行責任が両立しえない状態を指します3。
同報告書は両者の違いを、要因の違いとして説明しています。どちらも大学における責任の遂行が問題になる点では同じ。ただ、その要因が「企業等から得る利益」であれば狭義の利益相反、「企業等に対して負う責任(責務)」であれば責務相反、と区別できるとしています3。ごく大づかみに言えば、お金や株式の話が利益相反、時間と労力の配分の話が責務相反です。この理解でおおむね実務は回ります。
もうひとつ、同報告書が書いている一節が、この分野の本質を突いていると私は思っています。利益相反という概念それ自体は「大学における責任が果たされていないこと」を指すのではない、という指摘です。その状態自体に問題があるというより、そのような状態に大学が無関心であることによって、社会一般の目からすれば大学における責任が果たされていないかのように見えてしまい、大学に対する社会的信頼が損なわれるおそれがある点において問題になる3。つまり、相反状態にあること自体は悪ではありません。放置していることが問題なのです。
そのうえで、研究インテグリティの文脈では定義が少し変わります。令和3年4月27日の統合イノベーション戦略推進会議で決定された対応方針は、利益相反と責務相反をひとまとめにして、研究者または大学・研究機関等が研究活動に伴って得る利益と、国や研究資金配分機関の経費を用いて行われる研究開発において求められる責任や各機関において所属する研究者に求められている責任が、衝突・相反している状況と定義しています4。産学連携の文脈で精緻に分けた定義があり、その上に国際化・オープン化のリスクに対応する定義が乗っている。この二階建てを知っておくと、学内規程を読むときに混乱しません。
なお、この領域の実務は安全保障輸出管理と地続きです。自組織の輸出管理体制がどの程度整っているかは輸出管理の無料セルフ診断で数分で確認できますので、出発点の把握に使ってみてください。
何を申告するのか。3つの層で考える
では具体的に何を出すのか。対応方針と、これを受けて改正された「競争的研究費の適正な執行に関する指針」を読むと、求められている情報は3つの層に分かれます。
| 層 | 対象となる情報 | 出し方 |
|---|---|---|
| 1 | 国内の競争的研究費に限らず、国外も含めた補助金・助成金・共同研究費・受託研究費等、全ての現在の研究資金の応募・受入状況(制度名、研究課題、実施期間、予算額、エフォート等) | 応募書類やe-Radに記載 |
| 2 | 全ての現在の所属機関・役職(兼業、外国の人材登用プログラムへの参加、雇用契約のない名誉教授等を含む) | 応募書類やe-Radに記載 |
| 3 | 寄附金等や、資金以外の施設・設備等による支援を含む、自身が関与する全ての研究活動に係る透明性確保のために必要な情報 | 所属機関に適切に報告している旨を誓約 |
対象者は、申請する課題の研究代表者と研究分担者等です45。表の1層目に出てくる「エフォート」という言葉にも触れておきます。研究者の年間の総仕事時間を100%としたときに、その研究課題へ何%を充てるかを示す割合のことです。時間の配分そのものを数字で申告する欄なので、後で出てくる責務相反と直結しています。
実務でつまずくのは、圧倒的に3層目です。ここだけ建て付けが違います。1層目と2層目は応募のたびに書き出す情報ですが、3層目は「所属機関にちゃんと報告してありますね」という誓約の形をとります。裏を返すと、機関側に報告を受ける仕組みがなければ、研究者は誓約のしようがない。制度が機関に規程整備を求めている理由がここにあります。
3層目の中身も、思っているより広いはずです。対応方針は「研究資金以外の支援」を、無償で研究施設・設備・機器等の物品の提供や役務提供を受ける場合を含む、と定義しています4。お金が一円も動いていなくても対象になります。装置を無償で使わせてもらっている、解析やサンプル調製を無償でやってもらっている。こうしたやり取りは研究の現場では珍しくないでしょう。それが開示対象だという認識は、まだ十分に共有されていないように感じます。
内閣府のチェックリスト雛形はさらに具体的で、「報酬」の範囲について注記を置いています。奨励金、兼務の給与、賞金、贈答品、寄附金、出張費、講演料、執筆料等6。贈答品や出張費、講演料まで入っているのがポイントです。海外の大学に招かれて講演し、渡航費と講演料を出してもらった。これも報告の対象になり得ます。
秘密保持契約があって書けない、というケースにも手当てがあります。指針は、産学連携が萎縮しないよう、提出させる情報は研究課題の遂行に係るエフォートを適切に確保できるかを確認するために必要なものに限るとし、原則として共同研究等の相手機関名と受入研究費金額、エフォートに係る情報のみとしています。そのうえで当面の間、締結済みの秘密保持契約により提出が困難な場合は、相手機関名と受入研究費金額を記入せずに提出できるとしています5。JSTのe-Rad入力でも、機密保持契約締結有無を「有」とすればエフォート以外の入力が不要になる設計です7。契約を破らずに開示義務を果たす道は用意されています。
2層目に「雇用契約のない名誉教授等」が入っている理由も、実例を見ると腑に落ちます。文部科学省の委託事業として作成されたヒヤリハット事例集には、退職して3年が経ち雇用関係も研究費の管理実態もない名誉教授が、海外の大学から特別教授として5年間の教育研究活動を行えば破格の研究費と最先端の研究設備が提供され、すべての研究成果と技術情報を当該大学に帰属させることを求められ、報酬は在職時の3倍程度になる、という人材登用プログラムに誘われて事務局に相談した事例が収録されています8。雇用関係がないから機関は関知しない、では済まない場面があるということです。
責務相反のほうも、同じ事例集に分かりやすいものがあります。海外の大学から非常勤講師就任を依頼された教授について、人事部門が委嘱状と契約書案を突き合わせたところ、委嘱状では現地参加を含めて月1回2時間程度とされていたのに、契約書案では年間の勤務時間が1か月以上、半年に1回程度の技術交流会への現地参加、複数論文の発表や国際プログラムの共同申請が義務、となっていた。勤務内容と勤務時間に齟齬があったため、教授側が相手方に契約書案の修正を求めた、という事例です8。責務相反とは、突き詰めればこの時間の齟齬のことです。申告書に何時間と書いたか、実際に何時間使うことになるのか。ここが合っているかどうかを見る仕組みが要ります。
該非判定の属人化を、AIで解消する。
経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDの機能・導入フローをまとめたサービスカタログを無料でダウンロードできます。
e-Radの誓約チェックひとつで、応募できなくなります
制度の話をここで一度、目の前の画面に落とします。
この開示は、府省共通研究開発管理システム、いわゆるe-Radに実装されています。2022年3月15日以降、研究者情報のなかに研究インテグリティに関する登録欄が設けられました。入力の場所は、e-Radにログインして画面右上の研究者氏名のプルダウンから研究者情報の確認・修正に進み、所属研究機関のタブを開いたところです。そこに「e-Rad外の研究費」「兼業、外国の人材登用プログラムへの参加、あるいは雇用契約のない名誉教授等」「誓約状況」という3つの欄が並んでいます7。
「e-Rad外の研究費」という言い方が独特なので補足します。これは、競争的研究費ではないもの、および競争的研究費に該当するけれどもe-Radで応募を行っていないものを指します。e-Radにすでに登録されている実施中・応募中・受入予定の研究費は、重ねて入力する必要がありません7。海外の財団からの助成、企業との共同研究費、学内の内部資金といったものが典型的にここに入ります。
そして最後の欄が誓約状況のチェックボックスです。上の2つの欄に記入すべき対象がまったくない場合でも、このチェックは入れる必要があります7。ここが実務上いちばん事故の起きやすいところ。JSTの入力マニュアルには、誓約が未登録の研究者が参加していると「研究インテグリティに関する誓約をしていない研究者が参加しているため、応募できません。」というエラーになる旨が明記されています7。CRESTでは研究代表者だけでなく主たる共同研究者も全員必須です。
科研費でも同じです。日本学術振興会の令和8年度公募要領は、令和7年度公募からe-Radに登録された研究インテグリティに係る情報を電子申請システムに連携しているとしたうえで、研究代表者および研究分担者が誓約状況を登録していない場合は応募できないと明記しています。しかも連携には通常30分から60分、混雑時には数時間かかるとされており、締切当日の登録は危険だと注意喚起までされています9。分担者が1人チェックを入れ忘れただけで、研究計画そのものが出せなくなる。この一点は、学内の説明会で毎回強調する価値があります。
対象となる事業の数も大きく変わりました。内閣府の資料によれば、令和3年12月17日の改定によって、従来の競争的資金だけでなく全ての公募型の研究費事業が対象となり、制度数は20件から100件に拡大しています。実施は令和4年4月以降に公募を行うものから順次とされています10。一部の大型事業だけの話ではなくなった、ということです。
事実と異なる記載があったとき、何が起きるか
ここは正確に押さえておきたいところです。措置には段階があります。
指針と対応方針が定める内容を整理すると、次のようになります45。
| 状況 | 措置 |
|---|---|
| 「不合理な重複」「過度の集中」と認められる場合、応募書類に事実と異なる記載が確認された場合 | 研究課題の不採択、採択取消し、または減額配分 |
| 誓約に反し、所属機関への適切な報告が行われていないことが判明した場合 | 同上(不採択、採択取消し、減額配分) |
| 偽りその他不正な手段による受給が確認された場合 | 研究費の返還、当該競争的研究資金への応募資格制限、他府省を含む他の競争的研究資金への応募制限 |
このうち不正受給の応募制限は、原則として補助金等を返還した年度の翌年度以降5年間とされています5。参考までに近接する類型を挙げると、研究費の不正使用は個人の利益を得るための私的流用で10年、社会への影響が大きく行為の悪質性も高いと判断されるもので5年、それ以外は2年から4年、社会への影響が小さく悪質性も低いと判断されるもので1年。捏造・改ざん・盗用といった研究上の不正行為は2年から10年です5。影響が小さく悪質性も低く、不正使用額が少額の場合等には応募制限を科さず厳重注意とする扱いもあります。
一点、断定を避けるべき論点があります。令和7年12月に内閣府の有識者会議が公表した「研究セキュリティの確保に関する取組のための手順書」は、手順書に違反する行為について、指針を改正したうえで不正受給の行為として研究者に対する応募制限措置等を講じることが「考えられる」という将来形で書いています1。現在公表されている指針の本文(令和3年12月17日改正版)に手順書への言及はありません。手順書に違反したら即座に5年の応募制限、という制度がすでに動いているわけではない、というのが2026年7月時点の正確な理解です。
適用範囲についても、誤解が広がりやすいので押さえておきます。手順書がかかるのは「特定研究開発プログラム」に指定された公募です。成果公開を前提とする競争的研究費のうち、重要技術領域リストに該当する技術を含む可能性があるとして、所管府省が資金配分機関と相談のうえで指定したものを指します。科学技術振興機構(JST)の2026年度募集要項では、戦略的創造研究推進事業のうちCRESTの5研究領域だけが指定されており、さきがけとACT-Xは対象外です。適用は令和8年度の新規採択課題からで、対象機関は委託研究契約書上の「大学等」「企業等」とされています。防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度も、令和8年度公募(公募期間は令和8年3月13日から5月20日正午まで)から特定研究開発プログラムの一つです。すべての公募に一律にかかる話ではありません。
確認の中身も、無制限ではありません。手順書のデュー・ディリジェンス確認事項は13項目で、学歴、研究経歴・職歴、研究費の取得歴、研究費以外の支援等の取得歴、発表論文の筆頭・責任・共著者、特許の出願状況、外国の人材採用プログラムへの参加歴、といった項目が並びます。このうち研究費取得歴から指針に基づく処分歴まで(3〜8)と、リスト掲載機関への所属の有無(10)、リスト掲載機関に所属する研究者との関係の有無(11)は、応募年度を含む過去3年分が対象です。11番でいう「関係」も、共同研究・受託研究の実施、共著論文の執筆・公表、学会等における連名の口頭発表の実績、と具体的に絞られています。対象者はPI(研究代表者)とCo-PI(共同研究代表者)に加えて、研究代表機関に所属する研究参画者で、ここには学生も含まれます。そのうえで手順書は、この確認を「自己申告による情報、オープンソースの情報など各研究代表機関が通常把握し得る情報」で実施してよいとしています1。探偵のような調査を求めているわけではない、ということです。手順書に基づく確認の実務はデュー・ディリジェンスの進め方と質問票の書き方に詳しくまとめました。
そして、処分よりも先に効くものがあります。政府自身が、チェックリストの注記でこう書いています。研究公募への応募において、研究者が、海外では制限が講じられている外国機関との共同研究の情報を提出しなかったことにより、虚偽記載や利益相反を疑われるような事態になり、本人の信頼が低下するリスクがある、と6。処分の前に飛ぶのは信用です。内閣府の概要資料が米国で確認された不適切な事例として、人材登用プログラムへの関与についての虚偽申告や、外国企業の設立者・主要株主であることと外国政府の人材登用プログラムへの参加を開示しなかった事例を、起訴や辞職の段階の話として紹介しています10。これらはいずれも資料の記載時点で司法判断が確定したものではありませんので、個々の評価に踏み込むつもりはありません。ただ、開示しなかったこと自体がキャリアに直結し得るという構図は、ここからも読み取れます。
機関の宿題は「規程を作る」から「裏取りをする」へ
制度は研究者だけに求めているわけではありません。対応方針は機関に対して、所属する研究者の人事および組織のリスク管理として必要な情報(職歴・研究経歴、兼業等の所属機関・役職、当該機関外からの研究資金や研究資金以外の支援およびその相手方)の報告・更新を受けること、そのための利益相反・責務相反をはじめとする関係規程および管理体制を整備すること、そして受けた情報に基づいて産学連携活動における利益相反・責務相反管理と同様の適切なリスクマネジメントを行えるようにすることを求めています4。指針も、資金配分機関が必要に応じて所属機関に規程の整備状況や情報の把握・管理の状況を照会することがある旨を公募要領に明記するとしています5。
内閣府はこのためのチェックリスト雛形を2種類公表しています。研究者向けが令和3年12月17日版、大学・研究機関等向けが令和5年6月29日版です。日付が違うので混同しないでください。いずれも全般的な事項、外国の機関・大学等との連携や契約・報酬・物品提供に係る手続に関する事項、連携・契約の相手方に関する事項、という3部構成をとっています611。
機関向けが令和5年に改定された際、実務上重い項目が追加されました。研究者・職員から提出された情報について、技術流出等のリスクのレベルに応じて、別途入手可能な情報等との比較など必要な確認をする仕組みがあるか。研究者・職員が何らかの関係を持つ外部機関のリスクレベルが変化した場合に、改めてリスク評価をしなおす仕組みがあるか11。読んでのとおり、これは申告を受け取るだけでは足りないという要求です。受け取った内容を外部の情報と突き合わせ、状況が変わったら評価をやり直す。ここまでを求めています。
現場がどこまで到達しているかは、数字で確認できます。内閣府が令和7年12月に公表したフォローアップ調査の結果概要によると、国公私立大学等344機関のうち、利益相反・責務相反に関する規程を整備済みなのは86%にあたる296機関、整備予定が4%の15機関で、あわせて約9割でした。国立大学・大学共同利用機関法人87機関は全項目100%です。一方で、報告された情報の事実関係を客観的に確認する仕組みがあるのは66%に整備予定6%、リスクが高い場合に顕在化する前に対処する仕組みは69%に予定7%、報告された情報の更新を受けるための仕組みは66%に予定6%でした12。
規程はほぼ整った。裏取りと更新の仕組みが追いついていない。 これが2026年時点の実像だと私は読んでいます。そしてこのギャップは、担当者の怠慢ではありません。共著関係や出資関係を公開情報と突き合わせて確認する作業は、人手でやると単純に終わらないからです。同じ事例集には、外為法上まったく問題のない研究で海外の大学の教授と共著論文を書いたところ、手続を相手方に任せていたために、共著者のなかに各国の規制リストに掲載されている機関に所属する研究者が含まれていたことが後から発覚し、大学本部を巻き込んだ対応を余儀なくされた、という事例も収録されています8。当の教授はその研究者と面識も共同研究の実績もありませんでした。自分では申告しようがない経路で関係が生まれることがある、という話です。
ここで、言い方について一つ釘を刺しておきます。規制リストへの掲載は、手続上の区分であって、その機関や研究者の是非を判断したものではありません。掲載されているから確認の手順が一段増える、というだけの話で、掲載されていること自体が不正や技術の軍事転用を意味するわけではないのです。安全保障輸出管理の「特定類型」(居住者であっても外国から強い影響を受け得る立場を類型化し、技術提供の際に個別の確認対象とする区分。令和4年5月から適用)についても、経済産業省は、あくまで個別に審査で確認する必要がある場合を類型的にまとめたものであり、特定類型に該当するからといって安全保障上懸念がある者とみなされるわけではない、と明記しています。照合の結果を人物の評価に読み替えないこと。ここを外した運用は、現場の信頼を失います。
この突き合わせの部分は、私たちがTRAFEEDで輸出管理のために積み上げてきた仕組みと、そのまま重なります。TRAFEEDは論文約9,000万件、特許約1億件、研究者約30万人を含む2億件超のナレッジグラフ(論文・特許・組織・人物といった要素を、関係の線でつないでたどれるようにしたデータベースのことです)に、企業リストや各国の制裁リストを接続した構造を持っています。日本の安全保障輸出管理(品目の仕様で規制対象を定めるリスト規制と、用途や相手先に着目して確認を求めるキャッチオール規制)の分野におけるAIエージェントとしては世界初のもので、これは2026年3月時点の当社調査により確認したものです。岡山大学との共同実証では、過去審査データ約3万件を用いた検証でAI判定精度95%以上を確認しました(自社調べ)。特許第7862062号を取得し、20組織以上に導入いただいています。研究者情報に加えて、株主・資本関係のリサーチにも対応を広げているところです。研究インテグリティ・研究セキュリティ向けの機能は今後の強化領域として開発を進めている段階ですが、申告された内容を公開情報と照らし、申告漏れの可能性がある関係を洗い出す、という用途に技術的な地続きがあることは間違いありません。もっとも、最終的な判断は研究機関(企業の場合は各社の輸出管理責任者)が行うものです。私たちが担えるのは材料を揃えることと、その根拠を後から説明できる形で残すことまでになります。
最後に、忘れてはならない前提を書いておきます。文部科学省は、研究セキュリティ確保の取組についてゼロリスクを目指したり幅広い研究に制限を設けたりすることはせず、研究や国際連携を健全に前に進めることを目的として、生じ得るリスクを適切な範囲で軽減するために行うことを原則とし、あわせて人種や国籍等による差別はあってはならないと明記しています2。手順書も同じ立場です。求めているのはゼロ・リスクではなく、対象とする技術を限定したうえで、リスクの程度に応じた合理的な対処を行うことだとしています。国籍・人種・宗教・文化等による差別的な取扱いの禁止も、手順書と文部科学省の文書の双方に明記されています12。COIとCOCの申告は、特定の属性の研究者を監視するための道具ではありません。誰と、どこから、何を受けて研究しているかを説明できる状態を作るための手続です。ここを取り違えた運用は、制度の趣旨に反します。この点は大学における研究インテグリティと経済安全保障でも繰り返し書いてきました。
まとめ
- 狭義の利益相反はお金や株式、責務相反は時間と労力の配分の問題です。研究インテグリティの対応方針は両者をまとめて定義しています
- 申告は3層。全ての研究資金、全ての所属機関・役職、そして寄附金や無償の設備提供・役務提供まで含む支援です。3層目は所属機関への報告についての誓約という形をとります
- 報酬には贈答品・出張費・講演料・執筆料まで含まれます。秘密保持契約がある場合は相手機関名と金額を伏せる扱いが用意されています
- e-Radの誓約チェックが未登録だと応募できません。分担者を含めて全員必要で、対象事業も20件から100件に拡大しました
- 措置は段階制。事実と異なる記載は不採択・採択取消し・減額配分、不正受給は返還と原則5年の応募制限です。ただし手順書違反への措置は現時点では将来形で書かれています
- 手順書がかかるのは**「特定研究開発プログラム」に指定された公募だけ**です。JSTでは戦略的創造研究推進事業のうちCRESTの5研究領域のみで、さきがけ・ACT-Xは対象外。確認は通常把握し得る情報の範囲で行えばよく、ゼロ・リスクは求められていません
- リスト掲載は規制上の区分であって是非の判断ではありません。照合の結果を人物の評価に読み替えない運用を、あらかじめ言葉にしておくべきです
- 機関側の到達点は、規程は約9割、事実関係の客観的確認の仕組みは66%。宿題は作文から裏取りへ移りました
正直なところ、申告様式を厚くすること自体には、あまり意味がないと思っています。研究者に書かせる欄を増やしても、書かれた内容が正しいかどうかを誰も見ていなければ、負担だけが増えて信頼は増えません。今から着手するなら、様式の追加ではなく、いま集まっている情報を公開情報と一度突き合わせてみるところからではないでしょうか。想像より多くのことが分かるはずですし、そこで見えた抜けが、次に直すべき仕組みを教えてくれます。
進め方に迷っておられるなら、TRAFEEDの担当までご相談ください。
参考文献・一次情報
Footnotes
-
研究セキュリティと研究インテグリティの確保に関する有識者会議「研究セキュリティの確保に関する取組のための手順書」令和7年12月(内閣府)https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/yushikisha/guidelines_v1.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
文部科学省科学技術・学術政策局「大学等の研究セキュリティ確保に向けた文部科学省関係施策における具体的な取組の方向性」令和6年12月18日 https://www.mext.go.jp/content/20250423-mxt_kagkoku-000039402_1.pdf ↩ ↩2 ↩3
-
文部科学省 科学技術・学術審議会 技術・研究基盤部会 産学官連携推進委員会「利益相反ワーキング・グループ報告書」平成14年11月 ↩ ↩2 ↩3
-
統合イノベーション戦略推進会議「研究活動の国際化、オープン化に伴う新たなリスクに対する研究インテグリティの確保に係る対応方針について」令和3年4月27日 https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/integrity_housin.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
競争的研究費に関する関係府省連絡会申し合わせ「競争的研究費の適正な執行に関する指針」平成17年9月9日(令和3年12月17日改正)https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/shishin.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6
-
内閣府「研究の国際化、オープン化に伴う新たなリスクに対するチェックリスト(雛形)」(研究者向け)令和3年12月17日 https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/checklist1.pdf ↩ ↩2 ↩3
-
科学技術振興機構(JST)「CREST・さきがけ・ACT-X 2026年度 府省共通研究開発管理システム(e-Rad)による応募方法について」https://www.jst.go.jp/kisoken/boshuu/teian/koubo/2026e-rad.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
令和6年度文部科学省委託事業(東京大学)「研究インテグリティヒヤリハット事例集」令和7年3月 https://www.mext.go.jp/content/20250331-mxt_kagkoku-000019002_1.pdf ↩ ↩2 ↩3
-
日本学術振興会「令和8(2026)年度科学研究費助成事業 公募要領(基盤研究A・B・C、挑戦的研究、若手研究)」令和7年7月14日 https://www.jsps.go.jp/file/storage/kaken_kiban_2025_g_3687/r8_7_kobo.pdf ↩
-
内閣府「研究インテグリティの確保に係る対応方針(概要)」令和4年9月 https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/gaiyo_202209.pdf ↩ ↩2
-
内閣府「研究の国際化、オープン化に伴う新たなリスクに対するチェックリスト(雛形)」(大学・研究機関等向け)令和5年6月29日改定 https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/checklist2r.pdf ↩ ↩2
-
内閣府「研究インテグリティの確保に係る対応方針 令和7年度フォローアップ調査結果概要」令和7年12月 https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/ri_follow-up_fy2025/ri_fu_fy2025_sum.pdf ↩
