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外国資金の非開示と二重所属とは|研究セキュリティの確認項目を制度の背景から読む

公開2026-07-24濱本 隆太

外国資金の非開示、二重所属、外国の人材採用プログラムへの参加、意図せざる技術流出、インサイダーリスク。研究セキュリティの資料に並ぶこれらの言葉が何を指し、なぜ確認項目になっているのかを、内閣府の手順書やG7の文書といった一次情報から丁寧に解きほぐします。制度が差別を明確に禁じていることもあわせて整理します。

外国資金の非開示と二重所属とは|研究セキュリティの確認項目を制度の背景から読む
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こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。

研究セキュリティの資料を読み始めると、見慣れない言葉が立て続けに出てきます。外国資金の非開示、二重所属、外国の人材採用プログラムへの参加歴、意図せざる技術流出、インサイダーリスク。どれも初めて目にすると、少し身構えてしまう言葉ばかりです。

最初にひとつだけ、はっきりさせておきたいことがあります。これらの言葉は、特定の国の人や、特定の属性を持つ人を疑うために作られたものではありません。 制度の側は、過剰反応を防ぐところまで丁寧に書き込んでいます。それでも言葉だけが独り歩きして、現場が必要以上に萎縮してしまう場面を、私は何度も見てきました。

この記事では、これらの語彙が日本の制度上は何を指しているのか、そしてなぜ確認項目として並んでいるのかを、制度の成り立ちから順にほどいていきます。輸出管理側の考え方に馴染みのない方は、輸出管理の無料セルフ診断で自組織の現在地を粗く測ってから読むと、話が入りやすくなるはず。制度の全体像は完全ガイドにまとめてあります。

脅威側の語彙を、日本の制度用語に置き換える

まず言葉の整理から入ります。ここを曖昧にしたまま議論すると、話がすぐに感情的になってしまいます。

「undisclosed funding(外国資金の非開示)」「undisclosed affiliation(二重所属)」といった英語表現は、海外の研究セキュリティ議論でよく使われます。ところが日本の一次資料を読むと、この英語表現そのものは出てきません。日本の制度が使っているのは、もっと素っ気ない行政用語。

内閣府が令和7年12月に公表した「研究セキュリティの確保に関する取組のための手順書」1は、デュー・ディリジェンス(研究に参画する機関や研究者の適切性を確認するプロセスのことです)で確認すべき事項を13挙げています。そのなかで、外国資金の非開示に対応するのが3番の「研究費の取得歴」と4番の「研究費以外の支援等の取得歴」。4番については、手順書が丁寧に定義を置いています。報酬・給与、奨学金、寄附金、名誉職等の付与および兼職の状況をいう、と1

つまり、お金の話だけではありません。名誉職を与えられていることも、兼職していることも、この項目に入ります。

海外の議論での言い方 日本の制度上の表現 手順書の確認事項
外国資金の非開示 研究費以外の支援等の取得歴(報酬・給与、奨学金、寄附金、名誉職等の付与及び兼職の状況) 3、4
二重所属 全ての現在の所属機関・役職(兼業や雇用契約のない名誉教授等を含む) 2、4、10
外国の人材採用プログラムへの参加 外国の人材採用プログラムへの参加歴 7
共同研究先・外注先経由の流出 リスト掲載機関に所属する研究者との関係の有無、共同研究機関のデュー・ディリジェンス 5、6、11
インサイダーリスク 研究機関や研究者が意図しない形での流出 制度趣旨全体

ここで、一次資料を全文読んだうえでどうしても書いておきたいことがあります。手順書、文部科学省の文書2、経済産業省の説明資料3、G7の共通原則の日本語仮訳4、令和3年の政府方針5、文部科学省委託のヒヤリハット事例集6。この6本のいずれも、脅威の主体として特定の国名を一切挙げていません。手順書が使う表現は「一部の組織や行為者」「悪意のある組織や行為者」です。ヒヤリハット事例集にいたっては、23の事例すべてで国名を「B国」「C国」、機関名を「α大学」「β大学」と匿名化しています6

政府が現場向けに作った教材ですら、国名を伏せているのです。これは配慮が足りていないのではなく、意図的な設計だと私は受け止めています。属性で線を引く発想を、最初から持ち込ませないための構えでしょう。

なぜこれらが確認項目になったのか

言葉の意味が分かっても、「なぜそこまで聞かれるのか」が腑に落ちないと、現場は動きません。制度の系譜を3段階でたどると、理由が見えてきます。

出発点は令和3年4月27日、統合イノベーション戦略推進会議が決定した研究インテグリティの確保に係る対応方針です5。この文書の趣旨には、こう書かれています。研究活動の国際化とオープン化に伴う新たなリスクにより、開放性や透明性といった研究環境の基盤となる価値が損なわれる懸念や、研究者が意図せず利益相反・責務相反に陥る危険性が指摘されている、と5

利益相反というのは、研究者個人の経済的な利益と、所属機関に対して負っている責任とが衝突しうる状態のこと。責務相反は、本務先への責任と、別の機関から引き受けた仕事への責任とが両立しなくなる状態を指します。どちらも「不正」とは別の概念で、まず存在を明らかにして管理するもの、という位置づけです。

注目していただきたいのは「意図せず」という3文字です。この方針は、不正を働く研究者を摘発するために作られたものではありません。むしろ、知らないうちに板挟みの状態へ置かれてしまう研究者を、透明性の確保によって守るための発想。そこが出発点になっています。だからこの方針は、国内外を問わずすべての研究資金の応募・受入状況と、兼業や外国の人材登用プログラムへの参加、雇用契約のない名誉教授を含むすべての所属機関・役職の申告を求めました5。疑いではなく、開示。それが最初に置かれた手段です。

2段目が、令和4年5月から適用されたみなし輸出管理の運用明確化です。みなし輸出という言葉は、物を国外に送らなくても、国内で技術を渡した時点で輸出と同じ扱いになる場合がある、という考え方を指します。外国為替及び外国貿易法が許可の対象とするのは、国境を越える技術の提供と、居住者から非居住者への技術提供の二つ。ところが従来の運用では、入国後6か月を経過した外国人や日本国内の事務所に勤務する外国人は居住者として扱われるため、その人への技術提供は管理の対象外となっていました3。人を通じた技術移転の経路に隙間があった、ということです。そこを埋めたのが「特定類型」という考え方。輸出管理の基礎についてはデュアルユース品目とはもあわせてご覧ください。

3段目が、令和6年12月18日の文部科学省の文書2を経て、令和7年12月の手順書1に至る流れです。ここで初めて登場するのが、重要技術に絞った上乗せの措置。文部科学省は、研究セキュリティ確保にあたっては、まず研究者自身や大学等が研究活動の透明性確保と自律的なリスクマネジメントといった研究インテグリティ確保の取組を徹底することが重要である、と書いています2。土台がインテグリティ、その上にセキュリティ。この順番が制度設計の骨格です。手順書自身も、研究インテグリティは「全ての研究活動を対象」とするのに対し、研究セキュリティは「国や研究機関において守るべきと判断した研究活動を対象」とする、と対象範囲を書き分けています1

対象範囲の話は、誤解が多いので少し丁寧に書きます。手順書の枠組みがそのまま適用されるのは、すべての研究ではありません。成果公開を前提とする競争的研究費のうち、重要技術領域のリストに該当する技術を含む可能性があるとして、所管府省が資金配分機関(研究費を配る側の機関のことです)と相談のうえで指定したもの。これを「特定研究開発プログラム」と呼びます1。確認の対象になる人も、研究代表者(PI)と共同研究者(Co-PI)、そして研究代表機関に所属する研究参画者。学生も研究参画者に含まれます1。指導する側は、この点を先に共有しておいたほうがよいと思います。

実際の適用範囲も、いまのところかなり絞られています。科学技術振興機構(JST)の2026年度募集要項で特定研究開発プログラムに指定されたのは、戦略的創造研究推進事業のうちCRESTの5研究領域だけ。さきがけとACT-Xは対象外です。適用されるのは令和8年度の新規採択課題から。防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度も、令和8年度の公募から対象に入りました。つまり、いきなり全研究者へ質問票が回るという話ではありません。

そして手順書は、ゼロ・リスクを求めていません。求めているのは「対象とする技術を限定し、リスクの程度に応じた合理的な対処」です1。進め方も、リスク確認、リスク評価、リスク軽減措置、フォローアップという4つのステップに整理されています1。全部を等しく厳しく見るのではなく、重いところに手をかける。制度の設計思想は、そちらに寄っています。

まとめると、まず開示を求め、次に法令の隙間を埋め、最後に重要技術に限って上乗せする。3段構えで積み上がってきたものが、いま質問票の13項目として目の前に届いています。応募条件としての位置づけは研究セキュリティが応募条件になった経緯に整理しました。

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二重所属と「特定類型」。該当は評価ではありません

13項目のなかで、現場がいちばん緊張するのが12番の「安全保障貿易管理における非居住者又は特定類型への該当性」だと思います。ここを正確に理解しておかないと、無用な線引きが生まれます。

特定類型は、大まかに言えば3つの区分です。契約に基づいて外国政府や外国法人の支配下にある者、外国政府等から重大な利益を得ている者または得ることを約している者、そして日本における行動に関し外国政府等の指示や依頼を受ける者。経済産業省の説明資料は、大学で想定される具体例として、外国の大学と兼業している教職員、外国政府から留学資金の提供を受けている学生、外国政府のプログラムに参加して個人として多額の研究資金や生活費の提供を受けている研究者などを挙げています3

ここまで読むと、身構える方が多いはずです。だからこそ、同じ資料に置かれた次の一文を必ずセットで読んでください。

特定類型は、あくまで個別に審査で確認する必要がある場合を類型的にまとめたものであり、特定類型に該当するからといって安全保障上懸念がある者とみなされるわけではない3

この一文は、経済産業省の同じ資料のなかに2回登場します。大学・研究機関向けの説明ページと、企業向けの説明ページに、それぞれ1回ずつ。同じ注意書きを2度置くのは、意識的な繰り返しです。行政文書で同じ文を重ねるのは、それだけ誤読されやすいと分かっているからでしょう。

確認の方法についても、制度は過剰な身元調査を求めていません。指揮命令下にない学生や招聘教員などについては、商慣習上通常取得することとなる契約書等の書面に記載された情報から確認すればよく、書面から該当が明らかでない場合には追加の確認までは求められないとされています3。責められるのは、該当が明らかであるにもかかわらず漫然と技術を提供した場合だけ。

二重所属についても考え方は同じです。クロスアポイントメント(複数の機関に籍を置き、それぞれと雇用契約を結んで働く仕組みのこと)も、海外機関の非常勤講師も、それ自体はごく普通の研究活動。問題になるのは、その事実が申告されていないことによって、機関が判断の材料を持てない状態です。文部科学省委託のヒヤリハット事例集には、海外の大学から非常勤講師を委嘱された教授の例が載っています。委嘱状には月1回2時間程度と書かれていたのに、あとから届いた契約書案には年間1か月以上の勤務、複数論文の発表、国際プログラムの共同申請の義務が並んでいた6。二つの書面の中身が食い違っていたわけです。この教授は内容を確認し、契約書案の修正を求めています。

悪意はどこにもありません。書面の不一致に気づけるかどうか、ただそれだけの話。私はこの事例が、二重所属という論点の本体をいちばんよく表していると思っています。

意図せざる流出、インサイダーリスク、そして申告漏れ

「インサイダーリスク」という言葉は、正確に言うと手順書には出てきません。この語が定義されているのはG7のSIGRE作業部会が2022年6月にまとめた共通の価値観と原則で、その日本語仮訳にこう書かれています。

インサイダーリスクは、組織のインフラや情報を知っている、あるいはそれらにアクセスできる人物や、違法な目的で研究のインプット、プロセス、知識に、故意あるいは不注意によって権限なしにアクセスしうる人物によって生じる可能性がある4

「故意あるいは不注意によって」という部分が決定的です。この文書はさらに踏み込んで、多くの場合そうした個人はスパイ活動の正式な訓練をほとんど、あるいはまったく受けておらず、比較的オープンなツールを意識的あるいは無意識に使用している場合が多い、とも書いています4。加えて、不正な知識移転には関わっていないものの、十分なセキュリティ対策を守っていない人員や、誤って不正アクセスを提供してしまう人員によるリスクもある、と4

つまり国際的な整理においても、想定されているのは映画に出てくるようなスパイではありません。うっかりの比重が、かなり大きく置かれています。

手順書側の対応する表現が「研究機関や研究者が意図しない形で流出する」です1。ヒヤリハット事例集は、令和3年方針の言い回しを敷衍して「研究者が意図せざる利益相反・責務相反そして技術流出に陥る危険性」と書いています6。出典によって語形は違いますが、指しているものは同じでしょう。

同じ事例集には、研究者向けの事例として「意図せぬ共著」という話が載っています。ある教授が海外の大学の教授と、輸出管理上まったく問題のない研究で共著論文を書きました。責任著者は相手方。この教授は自分の担当部分だけを確認し、他の手続は任せていました。ところが後日、共著者のなかに、規制上の関心が向けられていた機関に所属する研究者が含まれていたことが判明します。報道でも取り上げられました。事例集は、この教授には当該研究者との面識も共同研究の実績もなく「まさに、寝耳に水の事態であった」と記しています6

念のため補っておくと、こうした機関がリストに掲載されていたり関心を向けられていたりすること自体は、規制上の区分の話であって、その機関や所属する研究者が不正を行ったという判断ではありません。事例集がここで問題にしているのも相手の是非ではなく、自分が何に名前を連ねているかを把握できていなかった、という一点です。

こういうことが起こりうるからこそ、共著者の確認が項目として立っています。逆に言えば、確認項目は疑いの表明ではなく、こうした巻き込まれを避けるための予防線です。

ここから先が、この記事でいちばん伝えたい部分。申告漏れは、悪意とは限りません。 しかも制度自体が、そのことを前提に組まれています。

根拠は4つ。ひとつ、手順書が示す宣誓書の文言は「申告した個人情報は、署名者が知る限り申告時において最新のものであり、虚偽の内容及び申告漏れはないこと」であり1、完全無謬を求めていません。ふたつ、政府としての対応の対象は「意図的な虚偽申告や申告隠しなどが行われた場合」に限定されています1。みっつ、誤りが発覚したときの手当ては処分ではなく訂正。研究機関が速やかに資金配分機関へ報告し、修正された情報に基づいて改めてデュー・ディリジェンスを実施する、と書かれています1。よっつ、十分な取組を行ってもなお流出が起きた場合について、手順書は「その場合、研究機関や研究者が責任を負うものではない」と免責を明記しています1

個人情報を集める側にも、作法が課されています。取得にあたって必要なのは同意書と宣誓書で、同意書には利用目的の限定と、第三者へ提供する範囲の明示が含まれます1。集めた情報を別の用途へ流用しない。その約束が制度そのものに組み込まれているわけです。なお、意図的な虚偽申告等があった場合の措置は「競争的研究費の適正な執行に関する指針」の不正受給の行為として扱われ、応募制限措置等につながりうるとされています1

制裁ではなく訂正。無謬ではなく誠実。制度の骨組みは、そう読むのが素直だと思います。申告書を配るときにこの4点を添えるだけで、現場の受け止めはずいぶん変わるはずです。

共同研究先と外注先という、見えにくい経路

最後の語彙が、共同研究先や外注先を経由した流出です。ここは自機関の内側を固めるだけでは対応できないため、実務としてはいちばん骨が折れます。

手順書は「共同研究機関」を定義するとき、研究を共同して行う機関だけでなく、研究の一部の委託を受けた研究機関を明示的に含めています1。外注先も、同じ枠のなか。G7の文書も、実際の攻撃対象に到達しやすくするために研究機関のパートナーやサプライヤーを標的とするサプライチェーン攻撃に触れています4。狙われるのは、いちばん守りが薄いところ。輸出管理でもサイバーセキュリティでも、構図は変わりません。

確認事項のなかで、この経路に対応するのが11番。リスト掲載機関に所属する研究者との関係の有無を確認する項目で、手順書はこの「関係」を、共同研究・受託研究の実施、共著論文の執筆・公表、そして学会等における連名の口頭発表の実績、と定義しています1。9番や10番のような単純な名前の照合では終わりません。なぜか。本人もその所属機関もどのリストにも載っていないのに、共著関係をたどっていった先にリスト掲載機関の研究者がいるかどうかを見る必要があるからです。しかも対象は応募年度を含む過去3年分。確認事項13項目のうち、3番から8番、10番、11番がこの「応募年度を含む過去3年分」の範囲です1

ここまで書くと途方に暮れそうですが、手順書は探偵まがいの調査を求めているわけではありません。デュー・ディリジェンスは「自己申告による情報、オープンソースの情報など各研究代表機関が通常把握し得る情報」を用いて実施してよい、と明記されています1。使う道具として例示されているのも、学術論文データベース、Google Scholarのようなポータル、e-Radやresearchmapといった研究者データベース、J-PlatPatなどの知的財産データベース、経済産業省の外国ユーザーリスト、米国の統合スクリーニングリストといった、誰でも当たれる公開情報ばかり。そのうえで手順書は「これらのツールを用いて収集した情報だけでは十分なデュー・ディリジェンスの実施が困難な場合は、企業が提供する情報分析ツールや企業への委託調査を活用することも考えられる」と続けています1。自前で抱え込むか、外の力を借りるか。そこは各機関の判断に委ねられています。

支援者に対する確認も「望ましい」措置として置かれています。助成や寄附、物品の提供を行う個人・機関について、支援の内容、支援の目的および条件、財務状況や資本構成、リストへの掲載の有無などを確認するというもの。目的と条件については、いわゆる見返りの要求がないかどうかを確認することが考えられる、との注記付きです1。契約面では、協力の内容、研究データ等へのアクセス、知的財産の取扱い、守秘義務の内容という4項目の確認が、最低限の措置とされています1

ここで少しだけ、私たちの仕事の話をさせてください。私たちがTRAFEEDで開発してきたのは、日本の安全保障輸出管理におけるリスト規制(品目のスペックで該当・非該当を判定する仕組み)とキャッチオール規制(用途や取引の相手方から確認が必要かを判断する仕組み)に対応するAIエージェントです(この分野のAIエージェントとしては世界初と考えていますが、2026年3月時点・当社調査により確認したものです)。土台にあるのは、論文が約9,000万件、特許が約1億件、研究者が約30万人という2億件を超えるナレッジグラフ(人・組織・論文・特許のつながりを線で結んで保持したデータベースのことです)と、企業リストや各国の制裁リストです。岡山大学との共同実証では、過去審査データ約3万件を用いてAI判定の精度95%以上を確認しました(自社調べ)。特許第7862062号を取得し、20組織以上に導入いただいています。

このグラフ構造は、11番のような関係の確認と素直に噛み合います。公開情報から所属、資金、共著の関係を横断的に引き当てて、研究者本人が申告した内容との差分だけを人の目に出すという使い方です。全件を人が見るのではなく、食い違っているところ、あるいは本人も気づいていない可能性が高いところに絞って確認する。先ほどの「意図せぬ共著」のような事態は、この差分の提示で拾える種類のものだと考えています。研究者情報に加えて、共同研究先の株主・資本関係のリサーチにも対応を広げているところです。

念のため書き添えますが、研究インテグリティ・研究セキュリティ向けの機能は今後の強化領域として開発を進めている段階です。そして何より、最終的な判断は研究機関が行うものであり、企業の場合は各社の輸出管理責任者が行うものです。私たちが担えるのは材料を揃えることと、その根拠を後から説明できる形で残すことまで。デュー・ディリジェンスの進め方そのものは研究セキュリティのデュー・ディリジェンスに詳しく書きました。

まとめ

  • 外国資金の非開示や二重所属は、日本の制度では「研究費以外の支援等の取得歴」「全ての現在の所属機関・役職」という開示の話です。摘発の枠組みではありません
  • 確認項目が並ぶ理由は、まず開示、次にみなし輸出の隙間を塞ぎ、最後に重要技術へ上乗せという3段構えの積み上げにあります
  • 特定類型に該当することは評価ではありません。経済産業省は同じ注意書きを2回置いて、そのことを念押ししています
  • インサイダーリスクの国際的な定義は「故意あるいは不注意によって」を含みます。想定されているのはスパイだけではありません
  • 申告漏れは悪意とは限らない。宣誓書の「知る限り」、故意要件、訂正ルート、免責規定の4点が、そう読める根拠です
  • 共同研究先だけでなく外注先も同じ枠に入ります。関係の確認は名前の照合では終わりません
  • 手順書がそのまま適用されるのは「特定研究開発プログラム」に指定された研究費であり、確認の対象者にはPI・Co-PIのほか学生を含む研究参画者が入ります
  • 手順書はゼロ・リスクを求めていません。求めているのは「対象とする技術を限定し、リスクの程度に応じた合理的な対処」であり、調査も通常把握し得る公開情報の範囲で足ります

制度をどう伝えるかで、現場の空気は本当に変わります。手順書も文部科学省の文書もG7の原則も、そろって国籍や人種による差別を否定し、ゼロリスクを求めないと明言しています。それでも運用する側が過剰に厳しくすれば、制度が守ろうとしたオープンな研究環境のほうが先に壊れてしまう。私はそれがいちばん避けたい失敗だと思っています。

申告書や質問票を配る担当者の方にお願いしたいのは、たったひとつです。「あなたを疑っているのではありません」という一文を、最初に添えてください。それだけで、返ってくる情報の質が変わります。

自組織でどこから着手すべきか迷っておられるなら、TRAFEEDの担当までご相談ください

参考文献・一次情報

Footnotes

  1. 研究セキュリティと研究インテグリティの確保に関する有識者会議「研究セキュリティの確保に関する取組のための手順書」令和7年12月(内閣府)https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/yushikisha/guidelines_v1.pdf 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22

  2. 文部科学省科学技術・学術政策局「大学等の研究セキュリティ確保に向けた文部科学省関係施策における具体的な取組の方向性」令和6年12月18日 https://www.mext.go.jp/content/20241218-mxt_kagkoku-000039402_1-1rrr.pdf 2 3

  3. 経済産業省貿易管理部安全保障貿易管理課「みなし輸出管理の運用明確化について」https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/minashi/meikakukanitsuite2.pdf 2 3 4 5

  4. G7 SIGRE作業部会「研究セキュリティと研究インテグリティに関するG7共通の価値観と原則」(日本語仮訳)2022年6月 https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/g7_sigre_values_jpn.pdf 2 3 4 5

  5. 統合イノベーション戦略推進会議「研究活動の国際化、オープン化に伴う新たなリスクに対する研究インテグリティの確保に係る対応方針について」令和3年4月27日 https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/integrity_housin.pdf 2 3 4

  6. 令和6年度文部科学省委託事業「研究インテグリティヒヤリハット事例集(研究インテグリティ確保の観点を中心とした大学等における研究活動のリスク事例集)」令和7年3月 https://www.mext.go.jp/content/20250331-mxt_kagkoku-000019002_1.pdf 2 3 4 5

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