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研究インテグリティ・研究セキュリティ完全ガイド|2026年度に運用が始まった制度の全体像

公開2026-07-24濱本 隆太

研究インテグリティと研究セキュリティの全体像を、2026年度に運用が始まった制度の実像から整理した総合ガイドです。概念の違い、関係する法令、資金応募の条件になった経緯、現場が変わる実務、各国制度までを地図として示し、詳細記事へ案内します。

研究インテグリティ・研究セキュリティ完全ガイド|2026年度に運用が始まった制度の全体像
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こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。

この1年で、大学や研究機関から届く相談の質が変わりました。以前は「研究インテグリティって、研究不正の話ですよね」という確認でした。いまは「うちの研究室、来年度の応募までに何を揃えればいいんですか」という具体的な話になっています。

変わった理由ははっきりしています。思想の話が、手続の話になったからです。2021年の政府対応方針から4年半、この領域はずっと理念レベルの議論でした。それが直近の1年で一気に運用段階へ入り、研究費の応募条件として現場に降りてきました。

この記事は、その全体像を1枚の地図にするために書きました。概念の整理から、関係する法令、なぜいま運用が始まったのか、現場の実務がどう変わるのか、そして各国が何をしているのかまでを順に置いていきます。それぞれの詳細は個別の記事に譲り、ここでは「どこに何があるか」が分かる状態を目指します。輸出管理との接点が気になる方は、輸出管理の無料セルフ診断で自組織の現在地を確認しておくと、後半の話が具体的になります。

まず、2つの言葉の関係を正しく置く

最初に用語です。ここを取り違えると、社内でも学内でも議論が噛み合いません。

内閣府の手順書は、両者を明確に定義しています。研究インテグリティは「研究活動の健全性、公正性及び透明性を保つために、研究機関や研究者に遵守することが求められる認識や行動」であり、全ての研究活動を対象とする。研究セキュリティは「国家及び経済の安全を脅かすリスクから研究活動を守るため、研究機関や研究者に求める認識や行動」で、国や研究機関において守るべきと判断した研究活動を対象とする1

対象範囲が違う、というのが決定的です。そして文部科学省の整理では、研究インテグリティの徹底がまず基盤であり、その上に研究セキュリティの取組を構築するという順序になっています2。土台と、その上に載せる限定的な追加防御。この関係を押さえておくと、以降の制度がどこに位置づくかが見えてきます。

もうひとつ、最初に置いておきたい前提があります。この制度はゼロリスクを目指していません。手順書は、ゼロリスクを求めれば「研究機関や研究者が、国際共同研究等に過度に抑制的になったりするなど、研究現場に悪影響が生じるおそれがある。結果として、研究に支障をきたすようなことになれば、本末転倒である」と書いています1。文部科学省も、ゼロリスクを目指したり幅広い研究に制限を設けたりすることは実効的でなく、研究力やイノベーション創出に悪影響を及ぼすと明記しました2国際連携を健全に前へ進めるために、リスクを適切な範囲で軽減する。それが制度の目的です。

そして、政府文書が繰り返し書いている一文があります。国籍や人種、宗教・文化等を理由とした差別的な取扱いがあってはならない12。これは装飾ではなく、制度の骨格に属する前提だと私は受け止めています。

概念そのものをもう少しやさしく確認したい方は研究インテグリティと研究セキュリティとは?から読むのがおすすめです。

なぜ、いま騒がれているのか

理由は5つに整理できます。ここがこのガイドの中心です。

第一に、手順書が出て、資金の応募条件になりました。 内閣府の有識者会議が令和7年(2025年)12月に「研究セキュリティの確保に関する取組のための手順書」を公表1。対象は「特定研究開発プログラム」、すなわち重要技術領域リストに該当する技術を含む可能性があり、経済安全保障の観点から技術流出防止が特に必要として所管府省が資金配分機関と相談のうえ指定したものです。そしてこれが、実際の公募要領に落ちました。詳しくは2026年度、研究費の応募条件になったで扱いますが、JSTの戦略的創造研究推進事業ではCRESTの5研究領域が指定され、令和8年度新規採択課題から適用されます3。防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度も令和8年度公募から対象になりました。対応しなければ応募や採択に影響する領域が、現実に生まれたわけです。

第二に、研究室の運営実務そのものが変わります。 デュー・ディリジェンスの対象は研究代表者だけではありません。共同研究機関のCo-PI、そして研究代表機関に所属する研究参画者まで含まれ、研究参画者には学生が含まれます1。リスク軽減措置の例には、研究参画者が学生の場合などに雇用契約を締結してガバナンスを強化することが挙げられています。学生に実験を手伝ってもらう、という日常的な運用にまで手続が及ぶ。ここが現場に最もインパクトのある部分で、反発も含めて話題になっている理由です。実務は学生・RAの受け入れ実務に整理しました。

第三に、第7期科学技術基本計画のタイミングと重なりました。 政府はもともと2026年4月開始の第7期に合わせて取組を進める方針で手順書を準備していました。制度改正の波が一点に集中した形です。

第四に、国際共同研究の入場券になりました。 手順書に基づく取組を実施していることを国際社会に示すことで、G7各国やその他の同志国と相互の信頼を構築し、国際共同研究等を円滑に進められる、というのが手順書自身の位置づけです1。文部科学省も、共通の価値観を有する国との国際共同研究において相手国と同等の対応を求められるプログラムを支援対象の類型に挙げました2。日本側の都合というより、相手国の大学から同等の体制を求められる構図です。

第五に、米中の輸出管理強化が大学にまで及んできました。 従来の外為法に基づく安全保障貿易管理だけでなく、経済安全保障上の重要技術の流出防止が課題として指摘されるようになり、各国のリスト規制や資本関係をたどる規制が、大学の共同研究先・外注先の審査にも波及しています。「輸出管理は企業の話」と考えてきた大学が、当事者になりました。現に、2026年7月には中国商務部の措置でEUの大学が規制リストに掲載される事例も出ています。

該非判定の属人化を、AIで解消する。

経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDの機能・導入フローをまとめたサービスカタログを無料でダウンロードできます。

制度の地図。どの法律がどこに効くのか

この領域は、単独の法律で完結していません。複数の制度が重なっています。全体像を持っておくと、個別の話が迷子になりません。

制度 何を守るか 詳細
研究インテグリティ確保の対応方針(令和3年4月27日) 情報開示と利益相反・責務相反の管理 大学の経済安全保障
研究セキュリティ手順書(令和7年12月) 特定研究開発プログラムのリスクマネジメント 手順書とDD13項目
外為法・安全保障貿易管理 貨物と技術の輸出、みなし輸出 デュアルユース品目とは
経済安全保障推進法 特定重要技術(K Program)、特許出願非公開 K Program特許非公開制度
重要経済安保情報保護活用法 セキュリティ・クリアランス セキュリティ・クリアランス制度
不正競争防止法 営業秘密の保護 営業秘密の保護

大学から見ると、この表の上2つが「研究セキュリティの話」で、下4つが「従来からある経済安全保障の話」に見えるかもしれません。ですが実際には連続しています。手順書のデュー・ディリジェンス確認項目には、安全保障貿易管理における「非居住者」や「特定類型」への該当性が含まれています1。つまり外為法の判定ロジックが、研究セキュリティの手続のなかに組み込まれているわけです。大学における輸出管理の実務は大学のための輸出管理で扱います。

実務は何をするのか。4ステップと13項目

手順書が求めるリスクマネジメントは4つの手続で構成されます。リスク確認、リスク評価、リスク軽減措置、フォローアップ1。この流れ自体はシンプルです。

中核はデュー・ディリジェンス、研究に参画する機関や研究者の適切性を確認するプロセスで、手順書は13の確認事項を挙げています。学歴、研究経歴・職歴、研究費の取得歴、研究費以外の支援の取得歴、発表論文の著者情報、特許の出願状況、外国の人材採用プログラムへの参加歴、処分歴、リストへの掲載の有無、リスト掲載機関への所属、リスト掲載機関に所属する研究者との関係、安全保障貿易管理上の該当性、そして資金配分機関がデュー・ディリジェンスの実施にあたり必要と認めるその他の事項です。このうち3番から8番、10番、11番は応募年度を含む過去3年分が対象になります1

実務として重いのは、9番と10番の「リストに載っているか」ではなく、11番の「リスト掲載機関に所属する研究者との関係」のほうです。本人も所属機関もどのリストにも載っていない。それでも共著者をたどっていくと、リスト掲載機関の研究者に行き着くかどうかを確認しなければならない。これは名前の照合では解けず、人と論文と特許と組織のつながりをネットワークとしてたどる必要があります。

手順書自身が、デュー・ディリジェンスに使うツールとして学術論文データベース、研究データベース、知的財産データベース、経済産業省の外国ユーザーリスト、米国の統合スクリーニングリストを挙げ、さらに「これらのツールを用いて収集した情報だけでは十分なデュー・ディリジェンスの実施が困難な場合は、企業が提供する情報分析ツールや企業への委託調査を活用することも考えられる」と書いています1。政府文書が民間ツールの活用を明示的に想定しているのは、この作業量を踏まえてのことでしょう。

個別の実務は次の記事に分けています。資金配分機関から送られてくる質問票への対応は研究セキュリティ質問票の書き方、日々の申告実務はCOI・COC申告の実務、アクセス権限や区画分離といった打ち手はリスク軽減措置の実装にまとめました。体制づくり全体の順番は研究機関の体制構築ロードマップをご覧ください。

脅威側の語彙と、国際的な足並み

制度を理解するには、何が問題視されているのかという語彙も知っておく必要があります。外国資金の非開示、二重所属、外国の人材招致プログラムへの参加を申告しないこと、意図しない技術流出、インサイダーリスク、そして共同研究先や外注先を経由した流出。これらが確認項目の背景にある想定です。詳しくは外国資金の非開示と二重所属で扱います。

ここでも注意が要ります。制度は特定の国や属性の人を疑うために作られていません。経済産業省は、みなし輸出の特定類型について「あくまで個別に審査で確認する必要がある場合を類型的にまとめたものであり、特定類型に該当するからといって安全保障上懸念がある者とみなされるわけではない」と明記しています4。手続の区分であって、人物への評価ではない。研究室でこの話を説明するときに、必ずセットで伝えるべき一文だと考えています。

国際的には、日本はむしろ後発です。G7は2022年6月に研究セキュリティと研究インテグリティに関する共通の価値観と原則をまとめ、shared responsibility という考え方を打ち出しました1。米国はNSPM-33とCHIPS・科学法を土台にNSFがTRUSTフレームワークを導入し、英国はTrusted Research GuidanceとRCAT、カナダは機微技術リストと指定研究機関リスト、フランスはPPSTとZRR、ドイツはDFGの勧告という形で実装が進んでいます12。各国比較は各国の研究セキュリティ制度に整理しました。

共通する原則は「Small yard & High fence」と「As open as possible, as closed as necessary」です1。囲う庭を小さく保つからこそ、それ以外を堂々と開いておける。この発想が制度の背骨にあります。

いま起きている落差と、私たちがやろうとしていること

最後に、実務論点として今後2〜3年の焦点になると私が見ているところを書きます。

制度側は、過剰反応を防ぐところまで含めて設計されています。ゼロリスクを求めない。対象を絞る。差別的取扱いを禁じる。ところが現場では、判断基準が曖昧なまま属人的に運用され、萎縮が起きやすい。制度の設計思想と、現場の運用実態のあいだに落差があるわけです。「念のため全部止める」が最も安全に見えてしまう構造は、担当者を責めても解決しません。判断の根拠を揃えられないから、判断できないだけです。

ここが、支援の需要が立ち上がっている理由だと考えています。必要なのは、確認すべき情報を漏れなく、根拠つきで、短時間で揃える仕組みです。私たちがTRAFEEDで輸出管理のために積み上げてきた2億件超のナレッジグラフ(論文約9,000万件、特許約1億件、研究者約30万人)と各国の規制リストは、手順書の確認項目とほぼそのまま対応します。共著・共同出願のネットワークをたどる処理も、グラフ構造であれば計算で扱えます。研究者情報に加えて、株主や資本関係のリサーチにも広げているところです。

ただし、判断そのものを機械に委ねる話ではありません。輸出管理で最終的な該非判定を各組織の責任者が行うのと同じで、研究セキュリティでもリスク評価とリスク軽減措置の決定は研究機関が行います。手順書が求めているのもそこです。私たちが担うのは材料を揃えることと、なぜその結論になったのかを後から説明できる証跡を残すこと。この2つに尽きます。

まとめと、次に読む記事

  • 研究インテグリティは全ての研究活動が対象の土台、研究セキュリティは守ると判断した研究に限った追加の防御。文科省の整理ではインテグリティの徹底がまず基盤です
  • 2026年度から、JSTのCREST5領域や防衛装備庁の制度が特定研究開発プログラムに指定され、手順書対応が応募の条件になりました
  • デュー・ディリジェンスは13項目、多くは過去3年分。学生を含む研究参画者も対象です
  • 制度はゼロリスクを求めていません。国籍や人種による差別があってはならないことも明記されています
  • 実務でいちばん重いのは、リスト照合ではなく共著・共同出願の関係をたどる作業です

この領域は、守りの話として語られがちです。ですが手順書を読むと、狙いはむしろ逆だと分かります。守る対象を絞り込んで手続を整えることで、それ以外の国際連携を堂々と続けられるようにする。囲いを小さく保つには、どこを囲うべきかを正確に見極める力が要ります。そこが、これから各機関の実力差になっていくところだと思います。

自組織の体制をどう組み立てるか、どこから着手すべきかで迷っておられるなら、TRAFEEDの担当へご相談ください。研究セキュリティ向けの機能は育てている最中なので、現場で何に困っているかを聞かせていただけると私たちとしても助かります。

参考文献・一次情報

Footnotes

  1. 研究セキュリティと研究インテグリティの確保に関する有識者会議「研究セキュリティの確保に関する取組のための手順書」令和7年12月(内閣府)https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/yushikisha/guidelines_v1.pdf 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13

  2. 文部科学省科学技術・学術政策局「大学等の研究セキュリティ確保に向けた文部科学省関係施策における具体的な取組の方向性」令和6年12月18日 https://www.mext.go.jp/content/20241218-mxt_kagkoku-000039402_1-1rrr.pdf 2 3 4 5

  3. 科学技術振興機構(JST)「2026年度 戦略的創造研究推進事業(CREST・さきがけ・ACT-X)募集要項」https://www.jst.go.jp/kisoken/boshuu/teian/koubo/2026youkou.pdf

  4. 経済産業省貿易管理部安全保障貿易管理課「みなし輸出管理の運用明確化について」https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/minashi/meikakukanitsuite2.pdf

外為法違反の52%は該非判定起因 — 御社は大丈夫ですか?

2024年度の経産省統計で、輸出管理違反の過半が該非判定に起因。まず5問(約2分・メール不要)のライト診断。詳細は10問本編へ。

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