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経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)とは?5000億円で先端技術を国が育てる制度を企業視点で解説

公開2026-07-19濱本 隆太

経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)は、AI・量子・半導体・無人機などの先端デュアルユース技術を国が5000億円規模の基金で育てる制度です。経済安全保障推進法(令和4年法律第43号)を根拠に、内閣府を中心にJST・NEDOが公募・伴走支援します。制度の全体像と、採択企業に課される守秘義務・技術流出対策、そして成果活用時の輸出管理までを政府の一次情報にもとづいて解説します。

経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)とは?5000億円で先端技術を国が育てる制度を企業視点で解説
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経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)とは?5000億円で先端技術を国が育てる制度

こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。

「うちの研究テーマがK Programの公募に採択されそうだ」という話を、この一年で何度か耳にするようになりました。ところが「では採択されたら何が変わるのか」と聞くと、答えに詰まる方が少なくありません。補助金の一種だと思って申請したら、守秘義務の誓約と技術流出対策の体制整備がついてきて面食らった、という声も実際にあります。

先に一文で説明しておきます。K Program(経済安全保障重要技術育成プログラム)は、AI・量子・半導体・無人機・宇宙・海洋・バイオといった、民生にも公的利用にも使える先端デュアルユース技術を、国が五千億円規模の基金で育てる制度です。ただの研究費ではありません。経済安全保障推進法という法律を土台にした国家戦略で、支援と引き換えに守秘義務や情報管理の規律がセットになっています。誰が、何を、いくらで、どの法律で動かしているのか。政府の一次情報にあたりながら、企業と大学の実務目線で整理していきます。

自社の技術が輸出管理の対象になりうるかどうかが気になる方は、記事を読み進める前に輸出管理コンプライアンス診断で現状をざっくり把握しておくと、後半の輸出管理の話が自分ごととして読めるはずです。

K Programとは何か──法律に根ざした指定基金

K Programの正式名称は「経済安全保障重要技術育成プログラム」です。頭文字のKは経済安全保障(Keizai Anzen Hosho)に由来します。このプログラムを支える資金の器が「経済安全保障重要技術育成基金」で、これは経済安全保障推進法(正式には経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律、令和4年法律第43号)第63条第1項に定める「指定基金」として指定されています [1] [10]。

同法は2022年(令和4年)5月11日に成立し、5月18日に公布されました [10]。先端技術の開発支援を定めた第4章の関係規定は、段階施行のなかで2022年8月1日に施行されています。ここで鍵になるのが「特定重要技術」という概念です。法第61条は、これを「将来の国民生活及び経済活動の維持にとって重要なものとなり得る先端的な技術のうち、当該技術が外部に不当に利用された場合等において国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれがあるもの」と定義しています [10]。民生用にも軍事・公的用途にも転用しうる、いわゆるデュアルユース(多義性)の技術を正面から対象に据えているわけです。

金額の根拠もはっきりしています。岸田文雄内閣総理大臣は令和3年(2021年)12月6日、第207回国会の所信表明演説で「国が、五千億円規模に向けた基金を設け、人工知能・量子・ライフサイエンス・宇宙・海洋といった世界の未来にとって不可欠な分野における研究開発投資を後押しします」と表明しました [11]。この五千億円規模というのは政府が掲げた目標であり、令和3年度第1次補正予算などを起点に積み上げられてきたものです。各年度の補正予算による累計の造成額そのものは公表資料で個別に確認する必要がありますが、制度の設計思想として「単発の補助金ではなく、腰を据えた基金で息長く育てる」という点は一貫しています。

なぜこの制度が生まれたのか

素朴な疑問として、なぜ国がわざわざ税金で特定の技術を育てるのか、という点があります。市場に任せておけばよいのではないか、と。

運用の基本文書である「経済安全保障重要技術育成プログラムの運用に係る基本的考え方について」(令和4年6月17日 内閣総理大臣決裁)を読むと、政府の危機感が伝わってきます [3]。背景にあるのは、国家間の技術覇権争いの激化、機微技術の流出リスク、そして民間だけでは投資が集まりにくい先端領域の存在です。安全保障に直結するような技術は、短期の収益が読みにくく、市場原理だけでは十分な資金が回りません。かといって放置すれば、他国に先を越されたり、育てた技術が意図せず流出したりするおそれがある。この「市場の失敗」と「安全保障上の要請」が重なる領域を、国が主体的に育てにいく。それがK Programの出発点です。

もう一つ見逃せないのが、この制度が既存施策に対して「新規補完的な役割」を担う設計になっている点です [3]。文部科学省や経済産業省が従来から持つ研究開発予算を置き換えるのではなく、安全保障の視点から特に重要な技術を、迅速かつ柔軟に後押しする追加のレイヤーとして位置づけられています。時間軸も特徴的で、社会実装は中長期(10年程度)を見据えつつ、実際の研究開発から技術実証まではおおむね5年程度のスパンを基本に回していく設計です [3]。

該非判定の属人化を、AIで解消する。

経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDの機能・導入フローをまとめたサービスカタログを無料でダウンロードできます。

誰が動かしているのか──府省横断の推進体制

K Programのわかりにくさの一因は、関わる省庁の多さにあります。整理すると、中核を担うのは内閣府の科学技術・イノベーション推進事務局(CSTI)で、そこに内閣官房、文部科学省、経済産業省が一体となって加わる府省横断の体制です [1]。意思決定の流れを表にすると見通しがよくなります。

段階 担い手 役割
ビジョン決定 経済安全保障推進会議・統合イノベーション戦略推進会議 支援対象を定める「研究開発ビジョン」を決定
安全保障審議 国家安全保障会議(NSC) ビジョン決定に際し経済安全保障の観点から審議
運用の意思決定 プログラム会議 個別の運用方針・技術選定を実務的に議論
官民の対話 指定基金協議会(法第62条) 産学官が一体で意見交換し、国が伴走支援
資金運用・公募 JST・NEDO 基金を管理し公募・採択・進捗管理・評価を担当

運用の要となる「経済安全保障重要技術育成プログラムに係るプログラム会議」は、経済安全保障担当国務大臣と内閣府特命担当大臣(科学技術政策)が共同で主宰し、有識者と関係府省で構成されます [7]。有識者には青木節子氏、佐藤丙午氏、畠山一成氏、原一郎氏、松本洋一郎氏らが名を連ねており、座長は有識者の互選で決まります。この会議は令和4年6月17日の内閣総理大臣決裁で設置され、その後も令和5年4月24日、令和6年6月13日、令和7年9月9日、令和8年7月6日と、構成の一部改定が重ねられています [7]。制度が固定されず、状況に合わせて手が入れられ続けていることがうかがえます。

実際に研究者や企業と向き合う現場を担うのが、研究推進法人と位置づけられた国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)と、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)です [8] [9]。ざっくり言えば、大学や国立研究開発法人寄りの基礎から応用の研究構想はJST(文科省系)が、産業化・実装寄りの研究構想はNEDO(経産省系)が担当する棲み分けになっています。どちらもそれぞれ基金を設置し、公募・採択・マネジメント・評価・情報管理までを引き受けます。

何が支援されるのか──5領域とおよそ51の技術

支援対象は「研究開発ビジョン」という文書で具体的に決まります。ここは制度の心臓部なので、変遷を追っておきます。第一次のビジョンが令和4年9月16日に決定され、27の技術が選ばれました [4]。続く第二次が令和5年8月28日に決定され、23技術が追加されています [5]。さらに令和7年3月7日の第二次一部改定で、合成生物学やデータ科学を活用した肥料成分の有効活用・省肥料化・肥料生産に関する技術が1つ加わりました。食料安全保障を意識した拡張です [6]。この結果、累計でおよそ51の技術が支援対象として整理されています。

これらの技術は、大きく5つの領域に分類されています。全体像をつかむために一覧にします。

領域 主な技術の例
海洋 AUV(自律型無人潜水機)の運搬・回収、量子技術などを用いた非GPS環境での高精度航法、海中無線通信、次世代のデータ共有システム
宇宙・航空 低軌道衛星間の光通信、自律運用できる衛星コンステレーション、小型高感度の多波長赤外線センサー、高高度無人機によるリモートセンシング、衛星への燃料補給、航空機エンジン向けの先進材料
サイバー空間 AIセキュリティ、ファーム・ソフト・ハードの不正機能検証、ハイブリッドクラウド利用基盤、先進的サイバー防御・分析、暗号関連技術、偽情報の分析
領域横断 次世代蓄電池、金属積層造形、耐熱超合金の高性能化・省レアメタル化、重希土フリー磁石、次世代半導体材料・製造・微細加工、パワーデバイスや高周波デバイス向け材料、超伝導基盤
バイオ 生体分子シークエンサー、マルチガスセンシング、止血製剤の製造、脳波を活用するブレインテック、合成生物学と肥料

顔ぶれを眺めると、AI・量子・無人機(ドローン)・先端センサー・先端エネルギーといった新興かつ最先端の技術が、ビジョン上でも別枠で明示されていることがわかります [4] [5]。半導体材料、次世代蓄電池、暗号、耐熱超合金あたりは、報道でよく耳にする米中の技術競争や供給網の話とそのまま重なります。裏を返せば、K Programの対象技術は、そのまま各国の輸出管理の関心領域と重なっているということです。この点はあとで輸出管理の話として掘り下げます。関連する技術リストの考え方は、リスト規制とキャッチオール規制の基本半導体と経済安全保障もあわせて読むと立体的に見えてきます。

採択されたら何が変わるのか──支援と規律はセット

ここが冒頭で触れた「面食らうポイント」です。K Programは、お金を出して終わりの制度ではありません。採択された企業や大学には、支援と引き換えに一定の規律が課されます。

その中心が「協議会」です。経済安全保障推進法第62条は、特定重要技術の研究開発について、国と研究者・企業が官民一体で丁寧に意見交換する場として協議会を位置づけています [10]。これは指定基金協議会と呼ばれ、令和7年4月時点でおよそ第42号まで設置されています [2]。協議会では、資金だけでなく、規制対応や関係機関との調整といった面で国が「伴走支援」を行います。研究者にとっては心強い仕組みです。

一方で、協議会には守秘義務が課されます。法第64条は協議会の構成員に守秘義務を求め、違反には罰則を定めています [10]。研究開発の過程で生じる情報は、その性質や技術の進展状況を踏まえて協議会ごとに取扱いを決め、必要な安全管理措置、つまり技術流出対策や情報管理を講じることになります。ここは誤解されやすいのですが、守秘義務は研究の自由を縛るためのものというより、機微な技術を安心して育てるための土台という位置づけです。とはいえ実務としては、誰がどの情報にアクセスできるかを管理し、社外への持ち出しを統制する体制を、採択後すみやかに整える必要があります。支援と規律はセット。この一点は最初に腹落ちさせておいたほうがよいと考えています。

公募から採択後まで──実務でどう関わるか

では実際にK Programに関わるには、どこが入口になるのか。答えは公募です。公募・採択はJSTとNEDOが継続的に実施しています。たとえばJSTは令和7年度の第2回研究開発課題を公募しており、締切は令和7年11月3日正午とされていました [8]。採択された研究開発の例としては、複合材の接着、次世代蓄電池、ガスセンシング、超伝導基盤、耐熱超合金、海中光無線、衛星への燃料補給、ブレインテック、AIセキュリティ、小型無人機の自律・分散制御、高機能暗号、サプライチェーンセキュリティなど、実に幅広い分野が並びます [8] [9]。自社や自組織の研究テーマが5領域のどこかに重なるなら、公募情報は定期的に確認する価値があります。

採択後に求められる実務は、大きく二つあります。一つは前章で述べた守秘義務と情報管理の体制整備。もう一つが、意外と見落とされがちな輸出管理との接続です。K Programで育てる技術の多くは、外為法(外国為替及び外国貿易法)が定めるリスト規制の対象と重なります。研究の過程で海外の共同研究者とデータをやり取りしたり、外国人の研究者や留学生に技術を教えたりする場面が出てくれば、そこに輸出管理の網がかかってきます。採択が決まった瞬間から、輸出管理の目線を持っておくことが望ましいのは、こうした理由からです。該非判定やみなし輸出の基礎は、経済安全保障の基礎みなし輸出リスクの実務ガイドで丁寧に解説しているので、体制づくりの出発点として使ってください。

成果を外に出すときの落とし穴──輸出管理という関門

K Programに関する相談で、私がいちばん重要だと感じるのがこの論点です。国費で育てた先端技術を、いざ海外展開や国際共同研究で外に出そうとしたとき、輸出管理という関門が立ちはだかります。

具体的には三つの場面があります。第一に、海外の大学や企業との共同研究で、技術情報やサンプルを海外へ提供する場面。第二に、外国人研究者や留学生に技術を提供する場面で、これはいわゆる「みなし輸出」にあたります。2022年の外為法の運用見直しで、居住者であっても外国政府等の強い影響下にある「特定類型」に該当する人への技術提供が許可対象に加わりました。第三に、海外での実証や成果の海外展開そのものです。K Programの対象技術であるAI・量子・半導体製造・無人機・センサー・暗号は、いずれも輸出貿易管理令別表第1や外為令別表のリスト規制品目・技術と重なりやすく、これらの場面では該非判定(貨物や技術がリスト規制に該当するかの判定)と、取引先や受入研究者のスクリーニングが必須になります。経産省の該非判定の考え方は該非判定ガイドライン解説に、取引相手のリスト照合は制裁リスト・規制リスト完全ガイドにまとめています。

正直に言えば、この該非判定とスクリーニングを人手だけで回すのは、今の情報量ではかなり厳しくなっています。規制リストは頻繁に更新され、相手先の名称は言語ごとに表記が揺れ、資本関係をたどると別のリスト該当者に行き着くことも珍しくありません。私たちTIMEWELLが開発した輸出管理AIエージェントTRAFEED(旧ZEROCK ExCHECK)は、まさにこの課題を解くために作りました。経産省の外為法基準に準拠した該非判定AIが、その技術や成果がリスト規制に該当するかを高速で判定し、共同研究先やサプライヤー、受入研究者を各種の制裁・規制リストと自動照合します。判定の根拠や照合の記録は監査可能な形で残せるので、協議会の守秘義務・技術流出対策の体制整備と、成果活用フェーズの輸出管理コンプライアンスを一気通貫で回せます。AI判定の精度は共同実証にもとづき95%以上を確認していますが、最終的な該非判定はあくまで貴社の輸出管理責任者が行う前提で、その判断を速く正確にするための道具という位置づけです。

当時から現在へ──制度の歩みと後継の動き

令和4年に始まったK Programは、この数年で着実に厚みを増してきました。研究開発ビジョンは第一次の27技術から第二次で23技術、令和7年3月の一部改定でさらに1技術を加え、支援対象はおよそ51技術に広がりました [4] [5] [6]。官民の対話の場である指定基金協議会も令和7年4月時点でおよそ第42号まで積み上がり [2]、運用を担うプログラム会議も令和8年7月6日に構成の一部改定が行われています [7]。制度は生き物のように更新され続けています。

そして今、政府は次の一手を打とうとしています。統合イノベーション戦略などで示された方針では、K Programの後継となる制度設計を具体化し、2026年度中に「重要技術戦略研究所(仮称)」の運用を開始して、総合的な経済安全保障シンクタンク機能を築くとされています。研究セキュリティの確保や、大学等のサイバーセキュリティ対策の推進も課題として掲げられています。これらはまだ制度設計や運用開始を予定している段階なので、公開時点の最新の政府資料で内容を確かめてください。研究機関側の備えについては、研究インテグリティと研究セキュリティが参考になります。

補足として、K Programの対象は法改正や経済安全保障政策の広がりとも連動しています。バイオ領域に肥料が加わった背景には、肥料が経済安全保障推進法の重要物資安定供給制度で特定重要物資に指定されたことがあります。経済安全保障の法制は、セキュリティクリアランス制度をはじめ改正が続いているため、最新の動向は継続的に追う必要があると考えています。

まとめ──採択の先を見据えて備える

K Programは、単なる研究補助金ではなく、国家戦略として先端デュアルユース技術を育てる仕組みです。要点を整理します。

  • 法的根拠は経済安全保障推進法(令和4年法律第43号)第4章、特に第61条から第64条。基金は同法第63条の指定基金
  • 規模は政府目標の五千億円規模。岸田総理の令和3年12月6日の所信表明が出発点
  • 所管は内閣府(CSTI)が中核で、内閣官房・文科省・経産省が府省横断で推進。資金運用と公募はJST・NEDO
  • 支援対象は海洋・宇宙航空・サイバー・領域横断・バイオの5領域、累計およそ51技術
  • 採択企業には協議会(法62条)の守秘義務(法64条・罰則あり)と技術流出対策・情報管理がセットで課される
  • 成果を海外へ出す局面では外為法の該非判定と取引先スクリーニングが必須になる

最後に一つだけ。相談の現場でいちばん多いのは、「採択された、では技術流出対策と輸出管理はどう回せばいいのか」という採択後の不安です。この二つは切り離せません。守秘義務と情報管理の体制を整えることと、成果活用フェーズの輸出管理を仕組み化することを、同じ設計図の上で考えておくと、あとで慌てずに済みます。

K Programの採択を検討している、あるいはすでに採択されて体制づくりに悩んでいるという方は、まずTRAFEEDの紹介ページをご覧ください。 30分のオンライン相談(こちらから)では、御社の研究テーマと海外連携の概要をお伺いしたうえで、該非判定・取引先スクリーニング・技術管理をどう仕組み化できるかを具体的にご提案します。

この記事が、採択の先にある実務まで見通す一助になれば幸いです。


参考文献


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