こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
大学の先生や研究支援部門の方とお話ししていると、ここ半年ほどで質問の中身が変わってきたと感じます。以前は「研究インテグリティって、要は研究不正の話ですよね?」でした。いまは「うちの共同研究、来年度から何を確認しないといけないんですか?」です。
背景には、はっきりした変化があります。令和7年(2025年)12月、内閣府の有識者会議が「研究セキュリティの確保に関する取組のための手順書」1を公表しました。そして手順書のなかの工程表には、令和8年度(2026年度)からの取組として、研究セキュリティと研究インテグリティの確保が並んで書かれています。つまり、考え方を議論する段階が終わって、公募要領に落ちて現場が手を動かす段階に入りました。
この記事では、そもそも研究インテグリティと研究セキュリティが何なのかというところから、なぜ世界中でこれが同時多発的に問題になっているのか、そして手順書が実際に何を求めているのかまでを、政府の一次資料に沿って順に説明します。専門用語はそのつど噛み砕きます。最後に、私たちがTRAFEEDをこの領域まで広げていく理由と、その構想もお話しさせてください。
研究インテグリティと研究セキュリティは、守る対象の広さが違う
まず言葉の整理からです。ここを取り違えたまま社内で議論すると、話が永遠に噛み合いません。
手順書は巻末で用語をきちんと定義しています。研究インテグリティは「研究活動の健全性、公正性及び透明性を保つために、研究機関や研究者に遵守することが求められる認識や行動」であり、全ての研究活動を対象とするもの。いっぽう研究セキュリティは「国家及び経済の安全を脅かすリスクから研究活動を守るため、研究機関や研究者に求める認識や行動」で、国や研究機関において守るべきと判断した研究活動を対象とするもの1。
決定的な違いは、最後の一文にあります。対象範囲が違うのです。
研究インテグリティは全ての研究に効いてくる土台です。自分がどこから資金を受け取っていて、どこの機関に籍を置いていて、誰と組んでいるのかを正直に開示する。利益相反や責務相反があれば管理する。これは研究者としての誠実さの話で、機微な技術を扱っていようがいまいが関係ありません。対して研究セキュリティは、その土台の上に、守ると決めた特定の研究についてだけ乗せる追加の防御です。全部を守ろうとする制度ではありません。
この点は、誤解されやすいので強調しておきたいところです。手順書は、研究機関や研究者にゼロ・リスクを求めることはしないと明言しています。理由も率直で、「相手方の情報を確認するために多大な労力やコストをかけることになったり、研究機関や研究者が、国際共同研究等に過度に抑制的になったりするなど、研究現場に悪影響が生じるおそれがある。結果として、研究に支障をきたすようなことになれば、本末転倒である」1。研究を止めないための制度設計だと、政府自身が書いているわけです。
もうひとつ、手順書がわざわざ念を押している一文があります。相手方が信頼できるパートナーかどうかを判断するにあたって、「国籍や人種、宗教・文化等を理由とした差別的な取扱いがあってはならないことは当然である」1。文部科学省の文書も「人種や国籍等による差別はあってはならない」と同じ趣旨を書いています2。これは飾りの一文ではなく、制度の骨格に関わる前提だと私は受け止めています。自組織の技術や共同研究先が輸出管理の対象になり得るか気になる方は、輸出管理の無料セルフ診断で現在地を確認してみると、話の解像度が上がるはずです。
なぜ、いま世界中で同じことが起きているのか
「日本が急に厳しくなった」という受け止め方をされることがあるのですが、実態は逆です。日本は、G7のなかではむしろ遅れて足並みを揃えにいっている側です。
出発点は、科学技術のオープン性そのものにあります。研究成果を広く公開し、国境を越えて多様なパートナーと協働する。この原則があったからこそ科学は進んできましたし、日本もその恩恵を受けてきました。手順書の「はじめに」も、まずそこを確認するところから始まっています。
問題は、科学技術における優位性が国の経済安全保障に直結する要素になった、という環境変化です。手順書はこう書いています。「一部の組織や行為者が、我が国が堅持してきたオープンで自由な研究環境という理念に付け込んで、重要技術を不正に窃取すること等により、科学技術における優位性を得ようとする動きも生じている」1。ここで特定の国名を挙げていないのは、おそらく意図的です。制度は、どの国の誰であっても同じ手続きで確認するという建て付けになっています。
国際的な足並みは、2022年6月のG7で明確になりました。「グローバルな研究エコシステムにおけるセキュリティとインテグリティ」(SIGRE)作業部会が、研究セキュリティと研究インテグリティに関するG7共通の価値観と原則をまとめています3。ここで打ち出されたのが shared responsibility、責任の共有という考え方です。いかなる組織も単独では研究セキュリティに対処できない、だから研究コミュニティの全構成員が各自の役割と責任を認識すべきだ、と。
各国の実装はそれぞれです。米国はCHIPS・科学法と大統領覚書(NSPM-33)を土台に、国立科学財団(NSF)がTRUSTフレームワークを導入して、2025年から研究費申請時のリスク評価・軽減プロセスを、まず量子分野から始めています。NSFの支援で全国6大学にSECUREセンターという情報共有組織も置かれました24。カナダは機微技術リストと指定研究機関リストを公表し、全申請課題を対象に研究体制の申告を求めています。英国はTrusted Research Guidanceを整え、RCATという相談窓口を設置。フランスは科学技術潜在力の保護制度(PPST)のもとで機微性の高い研究室を制限領域(ZRR)に指定し、ドイツはドイツ研究振興協会(DFG)の勧告に基づいて、国際連携を行う申請者に研究リスクの自己評価の提出を求めています1。
やり方は違っても、共通する原則があります。手順書が欧米主要国の共通認識として整理しているのが、「Small yard & High fence」と「As open as possible, as closed as necessary」1。囲う庭は小さく、しかし塀は高く。可能な限り開き、必要な範囲だけ閉じる。守る対象を絞り込むからこそ、残りを堂々と開いておける、という発想です。
そして日本の大学にとって、ここには実利の話も含まれています。文部科学省は、支援対象とする研究開発プログラムの類型のひとつに「共通の価値観を有する国との国際共同研究において、相手国と同等の対応を求められる研究開発プログラム」を挙げました2。相手国が研究セキュリティの手続きを整えている以上、こちらが整えていなければ、そもそも共同研究の相手として選ばれなくなる。守りの話であると同時に、国際共同研究の入場券の話でもあるわけです。
該非判定の属人化を、AIで解消する。
経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDの機能・導入フローをまとめたサービスカタログを無料でダウンロードできます。
2026年度から、実際には何が始まるのか
この制度は、ある日いきなり降ってきたものではありません。5年かけて積み上がってきました。
起点は令和3年(2021年)4月27日、統合イノベーション戦略推進会議が決定した「研究活動の国際化、オープン化に伴う新たなリスクに対する研究インテグリティの確保に係る対応方針」です5。ここで、研究者による適切な情報開示、所属機関における体制整備、研究資金配分機関における対応、という柱が示されました。具体的には、国内外を問わず全ての研究資金の応募・受入状況と、兼業や外国の人材登用プログラムへの参加を含む全ての所属機関・役職を申告する、という運用です。
興味深いのは、この2021年の時点ですでに輸出管理との連携が書き込まれていたことです。留意事項のなかに、経済産業省が「同省が作成・公表している安全保障貿易管理に関する企業・組織のリスト(外国ユーザーリスト)には含まれていないものの、海外では制限が講じられている機関との共同研究など、懸念される事案についての情報提供や相談への対応を行うこと」という一節があります5。日本のリストを見るだけでは足りない、という認識が5年前から政府文書に明記されていたことになります。後で述べますが、ここが実務でいちばん効いてきます。
そして令和6年(2024年)12月18日、文部科学省が「大学等の研究セキュリティ確保に向けた文部科学省関係施策における具体的な取組の方向性」を公表2。令和7年(2025年)12月に内閣府の有識者会議が手順書を取りまとめ、令和8年度(2026年度)から手順書に基づく取組が始まる、という流れです1。
ここで押さえておきたい制度の性格が3つあります。
ひとつ、手順書は法令ではなくガイドラインです。研究分野の特性や技術の成熟度、研究機関の実情によって対応は変わり得るため柔軟な枠組みが望ましく、G7各国でも法令ではなくガイドラインとして策定するのが一般的だから、という理由が示されています1。
ふたつ、要求は2段階に分かれています。本文で「必要である」と書かれている箇所が最低限実施すべき措置、「望ましい」と書かれている箇所が実施することが望ましい措置です1。全部を同じ強度でやれという話ではありません。
みっつ、対象が絞られています。リスクマネジメントを実施する対象は「特定研究開発プログラム」。成果公開を前提とする競争的研究費のうち、重要技術領域リストに該当する技術を含む可能性があるとして、所管府省が資金配分機関と相談のうえ指定したものだけです1。運営費交付金による研究や、指定されていない競争的研究費は直接の対象外になります(手順書に準じた対応が望ましいとはされています)。
違反した場合については、競争的研究費であることから「競争的研究費の適正な執行に関する指針」の不正受給の行為として、応募制限措置等が考えられるとされています。ただし同時に、求められる取組が十分に行われた場合でも結果的に技術流出を防止できないことは想定され、その場合に研究機関や研究者が責任を負うものではない、とも明記されています1。問われているのは結果ではなく、意図的な虚偽申告や申告隠しがあったかどうかです。この線引きは、現場の心理的な負担を考えるうえで大きいと思います。
手順書が求める4ステップと、デュー・ディリジェンス13項目
では具体的に何をするのか。手順書はリスクマネジメントを4つの手続きとして示しています。①どのようなリスクが想定されるかを確認する「リスク確認」、②そのリスクがどんな影響をもたらし発生可能性がどの程度あるかを判断する「リスク評価」、③想定されるリスクを軽減する対応策を実施する「リスク軽減措置」、④これらの取組を事後的に確認・検証する「フォローアップ」です1。
対象になるのは、研究全体の責任者であるPI、共同研究機関の代表として参加するCo-PI、そして研究代表機関に所属する研究参画者です。研究参画者には学生も含まれます1。研究室に学生が入るたびに対象者が増えていくということで、ここは運用負荷として見落とされがちなポイントです。
中核はデュー・ディリジェンス、つまり研究に参画する機関や研究者の適切性を確認するプロセスです。手順書は確認事項を13項目挙げています。
| # | 確認事項 |
|---|---|
| 1 | 学歴(必要に応じて指導教官等の情報を含む) |
| 2 | 研究経歴・職歴 |
| 3 | 研究費の取得歴 |
| 4 | 研究費以外の支援等の取得歴 |
| 5 | 発表論文における筆頭著者、責任著者及び共著者 |
| 6 | 特許の出願状況(共同発明者及び共同出願人の情報を含む) |
| 7 | 外国の人材採用プログラムへの参加歴 |
| 8 | 指針に基づく処分歴 |
| 9 | リストへの掲載の有無 |
| 10 | リスト掲載機関への所属の有無 |
| 11 | リスト掲載機関に所属する研究者との関係の有無 |
| 12 | 安全保障貿易管理における「非居住者」又は「特定類型」への該当性 |
| 13 | その他資金配分機関がデュー・ディリジェンスの実施に当たり必要と認める事項 |
このうち3から8、10、11については、応募する日の属する年度を含めた過去3年分が対象です1。単年度のスナップショットではなく履歴を追う必要がある、ということになります。
11番の「リスト掲載機関に所属する研究者との関係」には、手順書が具体的な中身を書いています。共同研究・受託研究の実施、共著論文の執筆・公表、そして学会等における連名の口頭発表の実績1。学会で名前を並べて発表したかどうかまで含まれる、と読めます。
12番の特定類型は、輸出管理側の概念です。令和4年(2022年)5月から適用された、みなし輸出管理の運用明確化で導入されました。もともと外為法では、居住者から非居住者への技術提供が許可の対象でしたが、入国後6か月経過した外国人などは居住者として扱われるため対象外になっていました。そこで役務通達を改正し、居住者であっても外国政府等の強い影響下にある状態を3つの類型として整理して、そうした人への技術提供もみなし輸出管理の対象になることを明確にしています。①雇用契約等の契約に基づき外国政府等・外国法人等の支配下にある者、②経済的利益に基づき外国政府等の実質的な支配下にある者、③国内において外国政府等の指示の下で行動する者、の3つです(正確な定義は役務通達の規定によります)6。
大学の例としては、外国大学とクロスアポイントメントを含む兼業をしている本邦大学の教職員、外国政府から留学資金の提供を受けている学生、外国政府の理工系人材獲得プログラムに参加して個人として多額の研究資金や生活費の提供を受けている研究者などが挙げられています6。
ここで、経済産業省が資料のなかで二度繰り返している一文を引いておきます。「特定類型は、あくまで個別に審査で確認する必要がある場合を類型的にまとめたものであり、特定類型に該当するからといって安全保障上懸念がある者とみなされるわけではない」6。手続きの区分であって、人物への評価ではない。研究室のメンバーにこの話を説明するとき、私はこの一文を必ず添えるべきだと思っています。
リスク軽減措置のほうは、大掛かりなものばかりではありません。施設・設備へのアクセス権限の管理、取り扱う情報の機微性に応じたミーティング参加者の考慮、学生が研究参画者になる場合の雇用契約締結によるガバナンス強化、研究データへのアクセス権限の管理、サイバー攻撃への対策強化などが例示されており、「リスクの程度に応じた合理的な措置であれば足りる」とされています1。制度の思想が一貫しているのがわかります。
現場が本当に詰まるのは「関係をたどる」ところ
手順書を読み込んでいて、私がいちばん引っかかったのは、デュー・ディリジェンスに使うツールを列挙している囲み記事でした。挙げられているのは、学術論文データベース、Google Scholarなどのポータルサイト、e-Radやresearchmapなどの研究データベース、J-PlatPatなどの知的財産データベース、経済産業省の外国ユーザーリスト、そして米国の統合スクリーニングリスト1。
論文、特許、研究者情報、そして各国のリスト。並べてみると、確認に必要な情報源が明らかに複数のドメインにまたがっています。しかも手順書は、そのすぐ後にこう書き添えています。「これらのツールを用いて収集した情報だけでは十分なデュー・ディリジェンスの実施が困難な場合は、企業が提供する情報分析ツールや企業への委託調査を活用することも考えられる」1。政府文書が民間ツールの活用を明示的に想定している、というのは注目に値します。
なぜ手作業では厳しいのか。理由は13項目の11番にあります。
9番と10番、つまり「リストへの掲載の有無」と「リスト掲載機関への所属の有無」は、まだ照合作業です。名前を突き合わせれば答えが出ます。ところが11番の「リスト掲載機関に所属する研究者との関係の有無」は、性質がまったく違います。目の前の研究者本人はどのリストにも載っていない。所属機関も載っていない。それでも、その人の共著者をたどっていくと、リスト掲載機関に所属する研究者に行き着くかどうかを確認しなければならない。
これは照合では解けません。人と論文と特許と機関のつながりを、ネットワークとしてたどる必要があります。しかも過去3年分、共著論文と共同研究と学会の連名発表まで含めて。研究支援部門の職員が数名で、応募のたびに、PIとCo-PIと学生を含む研究参画者全員について手作業でやる。現実的とは言いがたい作業量です。
さらに、照らし合わせるリストがひとつではありません。先ほど触れた2021年の対応方針が、日本の外国ユーザーリストに載っていなくても海外で制限が講じられている機関があることを指摘していました5。手順書がデュー・ディリジェンスのツールに米国の統合スクリーニングリストを併記しているのも、同じ理由です。日本のリストだけを見て「該当なし」と結論づけると、相手国と同等の対応を求められる国際共同研究の場面で通用しない可能性があります。
私たちがTRAFEEDで輸出管理を扱ってきて痛感してきたのも、まさにこの構造でした。規制は各国が別々に、別々のタイミングで更新します。そして本当に見なければならないのは、リストに載っている名前そのものよりも、その名前と対象とのあいだにある関係のほうです。研究セキュリティのデュー・ディリジェンスは、この課題がもっと純粋な形で現れた領域だと感じています。
TRAFEEDを、経済安全保障コンプライアンスの基盤に広げます
ここから先は、私たちの構想の話をさせてください。
TRAFEEDはこれまで、輸出管理のAIエージェントとして開発してきました。該非判定と取引先調査が中心です。日本の安全保障輸出管理(リスト規制・キャッチオール規制)分野のAIエージェントとしては世界初であることを2026年3月時点の自社調査で確認しており7、国内特許(特許第7862062号)も取得しています。岡山大学との共同実証では過去審査データ約3万件を用いてAI判定精度95%以上を確認しました(自社調べ)。現在20組織以上で導入が決まっています。
そのうえで、この領域を輸出管理だけに閉じておくのは違うのではないか、と考えるようになりました。目指すのは、経済安全保障コンプライアンスの基盤です。輸出管理も、研究セキュリティも、取引先デューデリジェンスも、突き詰めれば「相手は誰で、その相手はどこと、どうつながっているのか」を確認する作業だからです。制度の名前が違うだけで、必要な情報基盤は驚くほど重なります。
そう判断できた理由は、技術スタックがすでに手元にあったことです。TRAFEEDは2億件を超えるナレッジグラフを持っています。内訳は論文が約9,000万件、特許が約1億件、研究者が約30万人。これに加えて、企業リストや各国の制裁リストも取り込んでいます。
手順書のデュー・ディリジェンス項目と並べてみると、対応関係がはっきりします。
| 手順書の確認事項 | 必要な情報源 | TRAFEEDの保有データ |
|---|---|---|
| 5. 発表論文の筆頭・責任・共著者 | 学術論文データベース | 論文 約9,000万件 |
| 6. 特許の出願状況(共同発明者・共同出願人) | 知的財産データベース | 特許 約1億件 |
| 2. 研究経歴・職歴、10. リスト掲載機関への所属 | 研究データベース | 研究者 約30万人 |
| 9〜11. リスト掲載と関係性 | 各国のリスト | 企業リスト・制裁リスト |
| 12. 非居住者・特定類型への該当性 | 輸出管理の判定 | 既存の該非判定エンジン |
論文と特許と研究者と組織を、別々のテーブルではなくグラフとして持っていること。これが11番の「関係の有無」に効きます。共著関係を1ホップ、2ホップとたどって、リスト掲載機関に所属する研究者との接点があるかを機械的に洗い出す。人手では現実的でない探索を、グラフ構造なら計算で扱えます。私たちがずっと輸出管理のためにデータを積んできた結果、研究セキュリティの要求とほぼ同じ形になっていた、というのが正直なところです。
今後は、この基盤の上に研究セキュリティ向けの機能を段階的に載せていく計画です。手順書の13項目に沿った確認レポートの生成、PIとCo-PIと研究参画者を単位にした管理、共著・共同出願ネットワークの可視化、複数国のリスト更新の追随と差分通知、そして資金配分機関へ提出する質問票の回答づくりを支える出力。研究インテグリティのチェックリストで集めた申告情報と、公開情報から機械的に集めた情報を突き合わせて、確認すべき差分だけを人に見せる。そういう形にしていきたいと考えています。
強調しておきたいのは、これは判断を機械に委ねる話ではないということです。輸出管理で最終的な該非判定を各組織の輸出管理責任者が行うのと同じで、研究セキュリティでもリスク評価とリスク軽減措置の決定は研究機関が行います。手順書が求めているのも、あくまで研究機関による判断です。私たちがやるべきなのは、判断に必要な材料を、抜けなく、根拠つきで、短時間で揃えること。そして、なぜその結論になったのかを後から説明できる証跡を残すこと。監査に耐える記録を残す設計は、輸出管理で最初から作り込んできた部分でもあります。
制度の詳しい実務対応、たとえば学内規程の作り方やみなし輸出の具体的な確認手順については、研究インテグリティと大学の経済安全保障で法令名と施行日を挙げながら整理しています。概念そのものをもう少しやさしく確認したい方には、研究インテグリティと研究セキュリティとは?もあわせてどうぞ。関連する制度としては、経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)やセキュリティ・クリアランス制度も同じ流れのなかにあります。
まとめ
2026年度は、研究セキュリティが議論から運用に移る年になります。押さえておきたい要点を並べます。
- 研究インテグリティは全ての研究活動が対象、研究セキュリティは守ると判断した研究が対象。この対象範囲の差が実務の出発点になります
- 手順書は法令ではなくガイドラインで、ゼロ・リスクを求めない。対象は特定研究開発プログラムに限られ、要求も「必要」と「望ましい」の2段階に分かれています
- リスクマネジメントは確認・評価・軽減・フォローアップの4ステップ。デュー・ディリジェンスは13項目で、多くは過去3年分が対象。学生を含む研究参画者も対象者に入ります
- 国籍や人種による差別があってはならないことは、手順書にも文科省文書にも明記されています。特定類型該当も「懸念がある者」という意味ではありません
- いちばん重くなるのは、リスト照合ではなく共著・共同出願などの関係をたどる作業です
制度としてよくできていると私が思うのは、守る対象を絞ることで、それ以外を堂々と開いたままにしておける設計になっている点です。「Small yard & High fence」という原則は、研究の自由を削るためではなく、守るためのものだと読めます。囲いを小さく保つには、どこを囲うべきかを正確に見極める力が要ります。そこはたぶん、人の目と勘だけでは足りません。私たちがデータ基盤を作っている理由も、そこにあります。
自組織の体制をどう組み立てるか、どこから着手すべきかで迷っておられるなら、TRAFEEDの担当へご相談ください。研究セキュリティ向けの機能はこれから育てていく段階なので、現場で何に困っているのかを聞かせていただけると、私たちとしても大変ありがたいです。
参考文献・一次情報
Footnotes
-
研究セキュリティと研究インテグリティの確保に関する有識者会議「研究セキュリティの確保に関する取組のための手順書」令和7年12月(内閣府)https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/yushikisha/guidelines_v1.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14 ↩15 ↩16 ↩17 ↩18 ↩19
-
文部科学省科学技術・学術政策局「大学等の研究セキュリティ確保に向けた文部科学省関係施策における具体的な取組の方向性」令和6年12月18日 https://www.mext.go.jp/content/20241218-mxt_kagkoku-000039402_1-1rrr.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
G7「グローバルな研究エコシステムにおけるセキュリティとインテグリティ」(SIGRE)作業部会「研究セキュリティと研究インテグリティに関するG7共通の価値観と原則」令和4年6月(日本語仮訳)https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/g7_sigre_values_jpn.pdf ↩
-
National Science Foundation, "NSF enhances research security with new TRUST proposal" https://new.nsf.gov/news/nsf-enhances-research-security-new-trust-proposal ↩
-
統合イノベーション戦略推進会議「研究活動の国際化、オープン化に伴う新たなリスクに対する研究インテグリティの確保に係る対応方針について」令和3年4月27日決定 https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/integrity_housin.pdf ↩ ↩2 ↩3
-
経済産業省貿易管理部安全保障貿易管理課「みなし輸出管理の運用明確化について」https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/minashi/meikakukanitsuite2.pdf ↩ ↩2 ↩3
-
世界初の表記は、日本の安全保障輸出管理(リスト規制・キャッチオール規制)分野のAIエージェントとして、2026年3月時点の当社(社内)調査により確認したものです。 ↩
