こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
「うちはまだ何もやっていないのですが、何から手をつければいいでしょうか」
研究セキュリティの話をしていて、いちばん多い質問がこれです。制度の解説は増えました。ところが、体制がゼロの機関が最初の一歩をどこに置けばいいのかは、どの資料にも書かれていません。手順書は「必要である」と書いてくれますが、「まず月曜日にこれをやってください」とは書いてくれないのです。
そこで、これから体制を作る研究機関に向けて、着手の順番を整理してみます。責任者と所掌部署をどう置くか、規程と様式をどこまで作るか、チェックリストの運用をどう回すか、そして自前で抱えなくていい部分はどこか。全体像は研究インテグリティと研究セキュリティの完全ガイドにまとめてありますので、制度そのものが初めての方はそちらを先にご覧ください。
先に、いちばん誤解されやすい2点を書いておきます。ひとつ、手順書はゼロ・リスクを求めていません。対象とする技術を限定したうえで、リスクの程度に応じた合理的な対処を求める、というのが基本の立て付けです1。「完璧な体制ができるまで応募できない」と身構える必要はありません。もうひとつ、手順書は国籍、人種、宗教、文化等による差別的な取扱いを明確に禁じています1。文部科学省の施策方針も同じ立場です2。特定の国や出身の研究者を一律に外すような運用は、制度の趣旨から外れます。この2点を最初にチームで共有しておくと、後の議論がぶれません。
なお、輸出管理側の体制がどこまで整っているかは、研究セキュリティの土台の一部でもあります。自組織の現在地をざっと測っておきたい方は輸出管理の無料セルフ診断から始めるのもひとつの手です。
順番を決めているのは「土台」と「期限」の2つ
なぜ順番の話から入るのか。理由は2つあります。
ひとつは、制度そのものが積み上げ構造になっているからです。文部科学省は令和6年12月の施策方針で、研究セキュリティの確保にあたっては「その基盤として、研究者自身や大学等が、研究活動の透明性確保及び自律的なリスクマネジメントといった研究インテグリティ確保の取組を徹底することが、まず重要である」と書いています2。内閣府の手順書も同じ立て付けで、従来から行われてきた研究インテグリティの取組の徹底の上に、研究セキュリティの確保に関する取組を構築するとしています1。
用語の整理をしておきます。研究インテグリティは、研究活動の健全性、公正性、透明性を保つために研究機関や研究者に遵守が求められる認識や行動のことで、すべての研究活動が対象です。一方の研究セキュリティは、国家および経済の安全を脅かすリスクから研究活動を守るための認識や行動で、国や研究機関において守るべきと判断した研究活動だけが対象になります1。土台が広く、上物が狭い。この関係を押さえておくと、着手順が自然に決まります。インテグリティの申告運用がないところに、セキュリティの手続だけを載せることはできません。ちなみに研究インテグリティの取組そのものは新しい話ではなく、令和3年4月27日の統合イノベーション戦略推進会議で決定された対応方針が出発点になっています。
この記事で何度も出てくる「特定研究開発プログラム」も、先に説明しておきます。これは、成果の公開を前提とする競争的研究費のうち、重要技術領域のリストに該当する技術を含む可能性があるとして、所管府省が資金配分機関と相談のうえで指定したものを指します1。競争的研究費のすべてが自動的に対象になるわけではありません。指定された制度に応募するときだけ、研究セキュリティの手続が上乗せされる。ここを最初に共有しておかないと、学内の議論がいきなり「全部の研究でやるのか」という方向に振れてしまいます。
この「守る範囲を絞る」という発想は、日本独自のものではありません。欧米では「Small yard & High fence(狭い庭に高い塀)」、あるいは「As open as possible, as closed as necessary(可能な限り開き、必要な限り閉じる)」という言い方が共通の原則として使われています。G7も2022年6月に、研究セキュリティと研究インテグリティに関するG7共通の価値観と原則を取りまとめ、これを政府と資金配分機関と研究機関が分担して担う責任(shared responsibility)と位置づけました。開かれた研究環境を守るために範囲を限定する、というのが国際的な共通了解だと理解しておくと、学内説明の言葉が見つけやすくなります。
もうひとつの理由は、期限です。内閣府は手順書について令和8年4月からの運用開始を予定しており、有識者会議の第7回でも事務局長が「令和8年4月の運用開始に向けまして、具体的な取組を進めてまいります」と述べています3。加えて、防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度は令和8年度の公募から特定研究開発プログラムになり、公募期間は令和8年3月13日から5月20日正午まで。JSTの戦略的創造研究推進事業は、令和8年度の新規採択課題から適用されます4。応募の意思がある機関にとっては、この公募開始日が実質的な締切になります。
ここで対象範囲を正確に押さえておいてください。JSTの2026年度募集要項で特定研究開発プログラムに指定されたのは、CRESTの5研究領域のみです。さきがけとACT-Xは対象外になっています4。5領域は、量子科学技術における未踏領域の開拓、革新的な超寿命マテリアルの創出とその理論的基盤の構築、実環境知能システムを実現する基礎理論と基盤技術の創出、人とAIの共生・協働社会を実現する学際的システム基盤の創出、光と情報・通信・センシング・材料の融合フロンティアの5つ。対象となる機関は、委託研究契約書上の「大学等」「企業等」と整理されています4。事業名だけを見て「戦略的創造研究推進事業はすべて対象」と読むと、要らない負荷を全学にかけることになりますし、逆に該当領域を見落とす危険もあります。
制度が求めるリスクマネジメントは、リスク確認、リスク評価、リスク軽減措置、フォローアップという4つの段階で回ります1。対象になるのは、研究代表者(PI)、共同研究機関側の代表者(Co-PI)、そして研究代表機関に所属する研究参画者で、ここには学生も含まれます1。体制づくりとは、この4段階を誰がどの順番で回すのかを決めて、やったことが後から追える形にしておく作業のこと。そう考えると、やるべきことの輪郭がかなり具体的になります。
ここが厄介なところで、リスクマネジメントの本番は採択候補になってから始まります。ところが準備は応募前に終わっていないと間に合わない。制度が応募条件としてどう組み込まれたかは研究セキュリティが応募条件になった経緯に詳しく書きました。
該非判定の属人化を、AIで解消する。
経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDの機能・導入フローをまとめたサービスカタログを無料でダウンロードできます。
最初に決めるべきは、責任者と所掌部署
体制づくりで最初にやることは、規程を書くことではありません。誰がこの仕事を持つのかを決めることです。
手順書は、実は部署名を規定していません。指名が求められているのは「特定研究開発プログラムの運営に関与する者」であって、組織図上の箱ではないのです。ただ、周辺の文書を並べていくと、輪郭が見えてきます。内閣府の説明会資料では、機関側の窓口が「技術流出防止所管部署」として図示されました。文部科学省の相談窓口の通知は「本窓口への相談は、学内の担当部署で一元的に行って下さい」と求めています5。そしてJSTの2026年度募集要項は、質問票の回答提出について「研究代表者及び主たる共同研究者の所属機関の担当部署(研究セキュリティ・研究インテグリティを所掌する部署が設置されている場合には当該部署を含む部署等)の確認を得たうえで」と書きました4。
必置とまでは書かれていません。それでも、資金配分機関の募集要項が所掌部署の存在を前提に文章を組み立て始めている事実は重いと思います。少なくとも、外部から見て「ここに聞けばよい」という一点が要る。
では新設すべきなのでしょうか。ここには一次データがあります。内閣府の令和7年度フォローアップ調査の追加アンケートによると、組織体制の整備方法として最も多かったのは既存の組織を拡充して整備したという回答でした。国立研究開発法人では新設が26%、既存組織の拡充が48%、関係部署の長などを構成員とする委員会やタスクフォースの整備が26%。研究機関等32機関では22%、56%、22%という分布です6。
私はこの結果が実務の答えだと考えています。安全保障輸出管理、利益相反マネジメント、産学連携、人事、研究公正。研究セキュリティに必要な情報は、すでにこれらの部署が持っています。ないのは組織ではなく、それらを横につなぐ線のほうです。ゼロから新設すると、情報を持っている部署とのパイプを一から引き直すことになり、かえって遠回りになります。同じ調査で、Q3の「適切なマネジメントを行うことができる組織体制を整備」については、国公私立大学等344機関のうち実施済み277機関に年度内予定23機関を加えて約9割に達しています6。何もないところから始める機関はもう少数派、という現実も押さえておいてください。
90日で回す。何を、どの順に置くか
ここから先は、90日の区切りで進め方を書きます。断っておくと、この90日という枠組みは政府文書にあるものではありません。私が相談を受けるなかで組み立てた進め方で、根拠にしているのは手順書の必要事項と、公募スケジュールから逆算した所要期間です。1か月目に器を決め、2か月目に紙を作り、3か月目に一度動かす。先ほどの4段階(リスク確認、リスク評価、リスク軽減措置、フォローアップ)を、自機関の日程に落とし込んだものだと考えてください。
最初の30日。現在地を測り、器を決める
最初の1か月でやることは3つです。
現在地を測ること。内閣府のフォローアップ調査は、組織体制の整備、事実関係を客観的に確認する仕組み、情報の更新を受けるための仕組みなど7つの設問で機関の状況を尋ねています6。これがそのまま自己点検の物差しになるわけです。同じ設問で自機関を採点してみると、どこが空いているかが1時間で分かります。
器を決めること。既存部署の棚卸しをして、どの部署が何の情報を持っているかを一覧にします。そのうえで所掌部署を指定し、役員級の責任者と実務の責任者を指名する。ここで大事なのは、兼務でよいので名前を確定させることです。「担当は総務課あたり」という状態のまま規程を書き始めると、必ず途中で止まります。
外部との窓口を明文化すること。文部科学省の研究セキュリティ相談窓口は、令和7年4月10日付の「7文科科第54号」で設置されました。科学技術・学術政策局長と高等教育局長の連名通知で、対象は大学、短期大学、大学共同利用機関法人、高等専門学校です。通知は、学内の担当部署で一元的に相談すること、そして学内で一定の検討をしたうえで対応に悩んだ際に相談することを条件としています5。つまり、学内の検討ルートが決まっていないと、この窓口はそもそも使えません。情報セキュリティインシデントへの対応は対象外である点にも注意してください。
31日目から60日。規程と様式を紙にする
2か月目は書類づくりです。ここで作るものは意外とはっきりしています。
まず、研究インテグリティのチェックリストです。内閣府と文部科学省が雛形を公開しており、研究者向けと大学・研究機関等向けの2種類。大学・研究機関等向けの雛形には、相談窓口の有無、教育や研修の機会、機関がリスクを懸念する場合に情報を把握し対処する仕組み、覚書などの書面を交わす際に機関として確認や判断を行う手続、相手方の組織や参加メンバーについて外国ユーザーリストや他国の同種のリストと比較したリスク評価を行っているか、外国機関からの補助金や報酬や物品提供の報告を受ける仕組み、長期や高頻度の出張の内容と目的を把握する仕組みといった設問が並びます7。自機関の規程は、この設問に「はい」と答えられる状態を作るために書けばよい、と考えると設計が早くなります。
手順書は、研究機関がチェックリストに基づき研究者から申告される情報を収集することを「必要である」としています。そして、そのチェックリストについて運用状況等を踏まえ見直すことも「必要である」としています1。作りっぱなしは想定されていません。年1回の申告サイクルと、随時の更新をどう受けるかを、規程に書き込んでおいてください。
次に、様式の3点セットです。自己申告様式、同意書、宣誓書。同意書には2つの内容を含めます。リスクマネジメントを目的として研究者が個人情報を機関に申告し、当該目的に限り機関が利用すること。そして、当該目的のため機関が第三者に提供すること1。ここでいう第三者は資金配分機関および関係行政機関で、申告先が共同研究機関の場合は研究代表機関も含まれます。宣誓書に入れるのは「申告した個人情報は、署名者が知る限り申告時において最新のものであり、虚偽の内容及び申告漏れはないこと」という一文です1。様式を設計するときは、PI、Co-PI、研究参画者という対象者の区分ごとに、誰から何を集めるのかを一覧にしておくと抜けが出にくくなります。学生も研究参画者に含まれますから、研究室単位で誰が対象になるのかを先に洗い出しておいてください。
そして契約審査の観点を足します。手順書は、共同研究契約その他の契約や協定について、協力の内容、研究データ等へのアクセス、発明や特許等の知的財産の取扱い、守秘義務の内容の4点の適切性を確認することを「必要である」としています1。共同研究機関そのものへのデュー・ディリジェンスは「望ましい」止まりですが、この契約4項目は必要事項です。ここは既存の契約審査フローにチェック観点を足すだけで済むことが多い部分。優先度は高く、コストは低いところです。
最後は、緊急時の連絡と対応のフローを1枚にする作業です。手順書は、応募時に準備することが望ましい事項として、運営に関与する者の指名、その者による守秘義務の遵守の徹底、そして重要技術の流出などの緊急事態が発生した場合の連絡と対応に係る体制の整備を挙げています1。ここは「望ましい」なのですが、同じ手順書の別の箇所では、重要技術が流出した場合にはこれらの体制が適切に整備されていたか、有効に機能していたかを検証することが「必要である」とされました1。有識者会議でもこの書き分けが論点になり、事務局は、応募の段階で体制整備の完了までを一律に求める趣旨ではない、と説明しています3。裏を返せば、事が起きた後には整備状況が問われるということ。であれば、1枚の連絡フローくらいは先に作っておくのが合理的だと私は思います。
責任の所在についても、手順書ははっきり書いています。申告した情報に虚偽があった場合などは、「競争的研究費の適正な執行に関する指針」における不正受給の行為として、応募制限などの措置の対象になりえます1。他方で、十分な取組を行ったうえでなお技術が流出した場合について、研究機関や研究者が責任を負うものではないとも明記されました1。この2つを並べると、体制づくりの目的が見えてきます。事故をゼロにすることではなく、合理的な取組をしたと後から説明できる状態を作ること。記録の残っていない取組は、残念ながら説明の材料になりません。様式と決裁の履歴を残す設計が効いてくるのは、まさにここです。
61日目から90日。一度、回してみる
3か月目は、作ったものを動かす期間です。紙だけ揃えて満足してしまう機関がいちばん危ないので、ここは飛ばさないでください。
デュー・ディリジェンスの予行演習を1件やります。デュー・ディリジェンスは、研究に参画する機関や研究者等の適切性を確認するプロセスのことで、公開情報だけで実施するものをオープンソース・デュー・ディリジェンス(OSDD)と呼びます1。手順書が挙げる確認事項は13項目。学歴、研究経歴と職歴、研究費の取得歴、研究費以外の支援等の取得歴、発表論文の筆頭・責任・共著者、特許の出願状況、外国の人材採用プログラムへの参加歴、指針に基づく処分歴、リストへの掲載の有無、リスト掲載機関への所属の有無、リスト掲載機関に所属する研究者との関係の有無、安全保障貿易管理における「非居住者」または「特定類型」への該当性、そして資金配分機関が必要と認めるその他の事項です1。このうち3番から8番と、10番、11番は、応募する日の属する年度を含む過去3年分が対象になります1。全項目が3年分ではないので、様式を作るときは注意してください。
範囲だけ聞くと重く感じますが、手順書は情報源のハードルまで上げているわけではありません。「自己申告による情報、オープンソースの情報など各研究代表機関が通常把握し得る情報」で実施してよい、と明記されています1。ツールとして例示されているのも、学術論文データベース、Google Scholarなどのポータル、e-Radやresearchmapといった研究者データベース、J-PlatPatなどの知的財産データベース、経済産業省の外国ユーザーリスト、米国の統合スクリーニングリストと、いずれも公開されているものばかり1。まずはこの範囲で、自機関の研究者1名を選んで13項目を最後まで埋めてみてください。どこで詰まるかが具体的に分かります。項目ごとの情報の集め方はデュー・ディリジェンスの実務と質問票の書き方にまとめました。
運用に入る前に、学内で必ず共有しておきたいことがあります。各国のリストへの掲載は規制上の区分であって、掲載された組織や、そこに所属する研究者の是非を判断するものではありません。安全保障貿易管理の「特定類型」も同じです。令和4年5月から適用されている枠組みですが、経済産業省は「特定類型は、あくまで個別に審査で確認する必要がある場合を類型的にまとめたものであり、特定類型に該当するからといって安全保障上懸念がある者とみなされるわけではない」と書いています8。該当したから排除する、ではありません。確認して、必要なら手続をとる。それだけの話です。国籍や出身を理由に扱いを変えることは、冒頭に書いたとおり手順書自身が禁じています1。ここを説明せずにチェックだけ配ると、現場に無用な緊張が生まれます。
あわせて、資金配分機関に提出する質問票に今答えたらどうなるかを試します。答えられない設問が残るはずで、それが残課題のリストになります。
研修も初回を実施しておきたいところです。ただし現時点で、研修に関する手順書の記述はすべて「望ましい」です。機関は応募予定の研究者等に対して研修の受講を奨励することが望ましい、研究者は積極的に研修を受講することが望ましい、という書き方になっています1。有識者会議では「必要がある」に格上げすべきという意見も出ましたが、事務局はプログラムがまだできていない段階であるとして現行の表現を維持しました3。
つまり、いま使える既製の研修教材は限られています。政府側は手順書のなかで研修教材の作成や説明会の開催を政府の取組として位置づけていますが1、実物として確認できるのは、令和6年度の文部科学省委託事業で作成された研究インテグリティのヒヤリハット事例集と、先ほどのチェックリスト雛形あたりです。文部科学省は施策方針で、大学間が連携する場の支援、相談窓口の設置と政府内関係機関との連携、研修教材やトレーニングプログラムの整備と展開の3つを打ち出しており2、令和7年度から試行的な取組を始めています。教材が整うのを待つより、事例集とチェックリストを使って自前で1回やってしまうほうが早い、というのが現時点の私の見方です。
学生を含む研究参画者まで対象が広がる点も、この段階で押さえておいてください。研究室の受け入れ実務への影響は学生・RAの受け入れ実務に整理しています。
自前で抱えなくていい部分を切り分ける
90日を走ると、必ず「これは人手では無理だ」という部分が残ります。そこを最後に整理します。
外部リソースから確認します。内閣府は令和7年度に「研究セキュリティ・インテグリティに関するリスクマネジメント体制整備支援事業」を公募し、8機関を採択しました。採択機関名は公表されていません。有識者会議の議事録では、令和6年度の補正予算で23の大学・研究機関等に対して経費を支援したとの発言もありました3。令和8年度は資金配分機関を対象とした伴走支援事業が動いており、AMED、JST、JSPS、NARO(生研支援センター)、ERCA、NICT、JAXAの7機関が支援決定を受けています。研究機関向けの支援メニューは年度ごとに形が変わりますので、内閣府と文部科学省のページは定期的に見ておくのがよいと思います。なお、国内の大学にリスク管理の支援拠点を置く取組が報道されていますが、公募要領や採択結果に相当する一次情報を本稿執筆時点で確認できていないため、ここでは詳細を書きません。
そして、残る最大の負荷はデュー・ディリジェンスの実務です。特に13項目の11番、リスト掲載機関に所属する研究者との関係の有無。これは共同研究や受託研究の実施、共著論文の執筆や公表、学会等における連名の口頭発表の実績まで含めて、過去3年分をたどる必要があります1。名前の照合では終わりません。人と論文と特許と組織のつながりを、ネットワークとして追う作業になります。手順書自身も、列挙した公開情報ツールだけでは十分な実施が困難な場合には、企業が提供する情報分析ツールや企業への委託調査を活用することも考えられる、と書いています1。
私たちがTRAFEEDで積み上げてきたのは、まさにこの部分の基盤です。日本の安全保障輸出管理におけるリスト規制(品目の仕様で規制対象を定める仕組み)とキャッチオール規制(品目にかかわらず用途や需要者に着目して規制する仕組み)の分野で、AIエージェントとして世界初のサービスとして開発したもので(2026年3月時点、当社調査により確認)、2億件超のナレッジグラフを持っています。内訳は論文が約9,000万件、特許が約1億件、研究者が約30万人。これに企業リストと各国の制裁リストを組み合わせています。岡山大学との共同実証では、過去の審査データ約3万件を用いてAI判定の精度95%以上を確認しました(自社調べ)。特許第7862062号を取得し、20組織以上でご利用いただいています。
体制づくりという文脈でこの基盤がどこに効くかというと、2か所です。ひとつは、関係部署に散っている情報を一元的に扱うところ。手順書が「望ましい」としている一元管理は、部署を統合しなくても、情報の置き場と参照経路を揃えれば実現できます。もうひとつは、デュー・ディリジェンスの実行そのもの。共著と共同出願の関係を1ホップ、2ホップとたどってリスト掲載機関との接点を洗い出す処理は、グラフ構造なら計算で扱えます。研究者情報に加えて、株主や資本関係のリサーチにも対応を広げているところです。研究インテグリティと研究セキュリティ向けの機能は今後の強化領域として開発を進めている段階で、現時点で完成品としてお渡しできるものではありません。
念のため書き添えます。最終的な判断は研究機関が行うものです(企業の場合は各社の輸出管理責任者です)。私たちが担えるのは材料を揃えることと、その根拠を後から説明できる形で残すことまでです。
まとめ
- 順番は制度が決めています。研究インテグリティの申告運用が土台で、その上に研究セキュリティの手続が載ります
- 期限の目安は令和8年4月の運用開始と、応募予定制度の公募開始日です。準備は公募前に終えておく必要があります
- 対象は「特定研究開発プログラム」に限られます。JSTで指定されたのはCRESTの5研究領域のみで、さきがけとACT-Xは対象外。全学一律に構えず、対象を確かめてから設計してください
- 手順書はゼロ・リスクを求めていません。十分な取組をしたうえでの流出について、研究機関や研究者が責任を負うものではないと明記されています。目的は事故ゼロではなく、説明できる状態を作ること
- 対象者にはPI、Co-PI、そして学生を含む研究参画者が入ります。リストへの掲載や特定類型への該当は規制上の区分であって、その組織や人の是非を判断するものではありません
- 最初にやるのは規程ではなく、責任者と所掌部署の指名です。新設より既存組織の拡充が実務の主流だとデータが示しています
- 2か月目は書類。チェックリストの改訂、自己申告様式と同意書と宣誓書、契約4項目のレビュー観点、緊急連絡フローの5点です
- 3か月目は予行演習。1件でも最後まで通してみると、残課題が具体的な形で見えます
- 一元管理は「望ましい」止まりですが、実務では早めに設計しておく価値があります
体制整備というと大掛かりに聞こえますが、90日でやることを並べてみると、名前を決めて、紙を4種類作って、一度動かしてみる、というだけの話でもあります。難しいのは中身より、誰の仕事にするかを決める最初の一歩のほう。有識者会議でも、専門人材が圧倒的に不足しており養成が必要だという議論がありました3。人がいないところから作り上げるのは、どの機関にとっても同じ条件です。まずは兼務でいいので、名前を1つ決めるところから始めてみてください。
自組織で何から着手すべきか迷っておられるなら、TRAFEEDの担当までご相談ください。
参考文献・一次情報
Footnotes
-
研究セキュリティと研究インテグリティの確保に関する有識者会議「研究セキュリティの確保に関する取組のための手順書」令和7年12月(内閣府)https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/yushikisha/guidelines_v1.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14 ↩15 ↩16 ↩17 ↩18 ↩19 ↩20 ↩21 ↩22 ↩23 ↩24 ↩25
-
文部科学省科学技術・学術政策局「大学等の研究セキュリティ確保に向けた文部科学省関係施策における具体的な取組の方向性」令和6年12月18日 https://www.mext.go.jp/content/20241218-mxt_kagkoku-000039402_1-1rrr.pdf ↩ ↩2 ↩3
-
内閣府「研究セキュリティと研究インテグリティの確保に関する有識者会議(第7回)議事録概要」2025年12月1日 https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/yushikisha/7kai/gijirokugaiyo.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
-
科学技術振興機構(JST)「2026年度 戦略的創造研究推進事業(CREST・さきがけ・ACT-X)募集要項」https://www.jst.go.jp/kisoken/boshuu/teian/koubo/2026youkou.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
文部科学省「文部科学省研究セキュリティ相談窓口の設置について(通知)」7文科科第54号 令和7年4月10日 https://www.mext.go.jp/content/20250424-mxt_kagkoku-000039402_1.pdf ↩ ↩2
-
内閣府「令和7年度研究インテグリティ フォローアップ調査結果概要」令和7年12月 https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/ri_follow-up_fy2025/ri_fu_fy2025_sum.pdf ↩ ↩2 ↩3
-
文部科学省「大学・研究機関等向けチェックリスト(雛形)」令和5年6月29日版 https://www.mext.go.jp/content/20230704-mxt_kagkoku-000019002_1.pdf ↩
-
経済産業省貿易管理部安全保障貿易管理課「みなし輸出管理の運用明確化について」https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/minashi/meikakukanitsuite2.pdf ↩
