こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
「研究セキュリティに関する質問票が届いたのですが、これ、どう答えればいいんでしょうか」
最近いただく相談のなかで、いちばん具体的で、いちばん切実なのがこれです。制度の解説記事は増えましたが、目の前の様式にどう記入するかを書いたものは、まだほとんどありません。しかも質問票は、資金配分機関から採択候補になった後に届きます。つまり時間がない状態で来る。
この記事では、質問票に向き合うための実務を整理します。何を聞かれるのか、その情報はどこから集めるのか、集まらないときはどうするのか、そして答えにくい項目をどう考えるのか。内閣府の手順書に沿って、できるだけ具体的に書きます。制度の背景は研究セキュリティが応募条件になった経緯を、全体像は完全ガイドをあわせてご覧ください。
質問票は、いつ、誰に届くのか
まず前提を揃えます。
質問票は、特定研究開発プログラムに応募した全員に届くものではありません。JSTの募集要項の書き方に沿えば、採択候補課題のうち、リスクマネジメントの対象となった課題の研究代表者へ別途送付されます1。順序としては、応募、採択候補、対象の確定、質問票の送付、という流れです。
そして回答の提出には条件が付きます。研究代表者は、主たる共同研究者の同意と、研究代表者および主たる共同研究者の所属機関の担当部署の確認を得たうえで、定められた期限までに提出します1。ここが実務上いちばん時間を食うところです。自分ひとりで書いて出せる書類ではありません。
共同研究機関が複数あれば、それぞれの機関の担当部署に確認を取る必要があります。相手機関に研究セキュリティを所掌する部署がなければ、まずその窓口探しから始まります。逆算すると、質問票が届いてから動き出すのでは間に合わない可能性がある。ここが、この記事でいちばんお伝えしたい点です。
提出後も終わりではありません。JSTと文部科学省が回答を確認し、必要に応じて追加的なリスク軽減措置の実施を要請することがあります1。往復が発生し得る前提でスケジュールを組んでください。
何を聞かれるのか。13の確認事項
質問票の様式は資金配分機関が作成しますが、内容の土台は内閣府の手順書です。手順書は、研究代表機関がPI、当該機関に所属する研究参画者、そしてCo-PIについて確認すべき事項を13挙げています2。
| # | 確認事項 | 過去3年分 |
|---|---|---|
| 1 | 学歴(必要に応じて指導教官等の情報を含む) | — |
| 2 | 研究経歴・職歴 | — |
| 3 | 研究費の取得歴 | ● |
| 4 | 研究費以外の支援等の取得歴 | ● |
| 5 | 発表論文における筆頭著者、責任著者及び共著者 | ● |
| 6 | 特許の出願状況(共同発明者及び共同出願人を含む) | ● |
| 7 | 外国の人材採用プログラムへの参加歴 | ● |
| 8 | 指針に基づく処分歴 | ● |
| 9 | リストへの掲載の有無 | — |
| 10 | リスト掲載機関への所属の有無 | ● |
| 11 | リスト掲載機関に所属する研究者との関係の有無 | ● |
| 12 | 安全保障貿易管理における「非居住者」又は「特定類型」への該当性 | — |
| 13 | その他資金配分機関が必要と認める事項 | — |
3から8、10、11は、応募する日の属する年度を含めた過去3年分が対象です2。単年度のスナップショットではなく履歴が要る、というのがこの表の読みどころです。
対象者にも注意が必要です。PIとCo-PIだけでなく、研究代表機関に所属する研究参画者も対象で、これには学生が含まれます2。研究室のメンバー構成によっては、対象人数が想定の何倍にもなります。学生を対象に含める場合の契約実務は学生・RAの受け入れ実務で扱います。
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項目ごとに、どこから情報を取るか
ここからが本題です。13項目を、情報源の性質で3つに分けて考えると整理しやすくなります。
本人からの申告で埋まるもの(1〜4、7、8、12)
学歴、研究経歴・職歴、研究費と研究費以外の支援の取得歴、外国の人材採用プログラムへの参加歴、処分歴、そしてみなし輸出上の該当性。これらは基本的に本人しか知らない情報で、申告に頼ります。
ここで効いてくるのが、平時からの蓄積です。手順書は、研究機関が日常的に実施する取組として、研究インテグリティのチェックリストに基づいて研究者から申告される情報を収集することを「必要」としています2。従来から研究インテグリティの枠組みで集めてきた情報が、そのまま質問票の材料になる設計です。逆に言えば、インテグリティの申告運用が形骸化している機関は、ここで詰まります。
4番の「研究費以外の支援」は見落とされがちです。政府の対応方針は、これを無償での研究施設・設備・機器等の物品提供や役務提供を受ける場合と定義しています3。お金が動いていなくても対象になります。装置を無償で借りている、解析を無償でやってもらっている、といったケースが該当し得ます。
12番の特定類型については、デュアルユース品目とはでも触れましたが、経済産業省が「特定類型に該当するからといって安全保障上懸念がある者とみなされるわけではない」と明記しています4。研究者に確認を依頼するときは、この一文を必ず添えてください。手続上の区分の確認であって、あなたを疑っているわけではない、と伝わる形にするかどうかで、現場の受け止めがまったく変わります。
公開情報から確認できるもの(5、6、9、10)
発表論文の著者情報、特許の出願状況、リストへの掲載、リスト掲載機関への所属。これらは本人の申告に加えて、公開情報で裏取りができます。
手順書は、デュー・ディリジェンスに用いるツールとして、学術論文データベース、Google Scholarなどのポータル、e-Radやresearchmapなどの研究データベース、J-PlatPatなどの知的財産データベース、経済産業省の外国ユーザーリスト、米国の統合スクリーニングリストを挙げています2。
そのうえで手順書は、デュー・ディリジェンスは「自己申告による情報、オープンソースの情報など各研究代表機関が通常把握し得る情報を用いて実施することとする」と書いています2。ここは安心材料です。探偵のような調査は求められていません。通常把握し得る範囲でよい、と明示されています。
関係をたどらないと分からないもの(11)
そして11番です。ここだけ性質が違います。
リスト掲載機関に所属する研究者との関係の有無。手順書はこの関係の中身を、共同研究・受託研究の実施、共著論文の執筆・公表、そして学会等における連名の口頭発表の実績、と定義しています2。
9番と10番は照合です。名前や機関名を突き合わせれば答えが出ます。ところが11番は、目の前の研究者本人はどのリストにも載っておらず、所属機関も載っていない。それでも、その人の共著者をたどっていくと、リスト掲載機関に所属する研究者に行き着くかどうかを確認しなければならない。しかも過去3年分、共著論文と共同研究と学会の連名発表まで含めて。
これは名前の照合では解けません。人と論文と特許と組織のつながりを、ネットワークとしてたどる必要があります。PIとCo-PIと学生を含む研究参画者の全員について、応募のたびに手作業でやる。研究支援部門の職員が数名の機関では、現実的とは言いがたい作業量です。
手順書自身も、そこは織り込んでいます。列挙したツールに続けて「なお、これらのツールを用いて収集した情報だけでは十分なデュー・ディリジェンスの実施が困難な場合は、企業が提供する情報分析ツールや企業への委託調査を活用することも考えられる」と書いています2。政府文書が民間ツールの活用を明示的に想定しているのは、この11番の性質を踏まえてのことだと私は読んでいます。
集まらないとき、該当したときの考え方
実務で必ずぶつかる2つの場面について、手順書の立て付けを確認しておきます。
情報が集まらない場合。 手順書は、必要な情報が得られない等の理由により十分な実施が困難な者については、必要に応じてリスク軽減措置を実施することが望ましい、としています2。空欄のまま進めるのでもなく、その人を一律に外すのでもありません。確認できないという事実を踏まえて、措置で埋めるという考え方です。海外から着任したばかりの研究者や、前職の情報が取りにくいケースは現実に発生します。そのときの答えは排除ではなく、アクセス権限の設計です。
該当した場合。 ここがいちばん誤解されます。共著者にリスト掲載機関の研究者がいた、外国の人材採用プログラムに参加していた。だから応募できない、ということにはなりません。手順書が求めているのはリスクの程度に応じた合理的な対処であり、リスク軽減措置の例として挙げられているのは、施設・設備へのアクセス権限の管理、オフキャンパス等の研究場所の確保、取り扱う情報の機微性に応じたミーティング参加者の考慮、学生の場合の雇用契約締結によるガバナンス強化、研修受講、研究データへのアクセス権限の管理、サイバー攻撃への対策強化です2。該当は入口であって、出口ではありません。
そして手順書は、相手方が信頼できるパートナーかどうかを判断するにあたって、国籍や人種、宗教・文化等を理由とした差別的な取扱いがあってはならないと明記しています2。文部科学省も同じ趣旨を書いています5。制度側が過剰反応を防ぐところまで設計している以上、運用する側がそれを超えて厳しくする理由はありません。
個人情報の扱いを整えてから集める
最後に、集める前にやっておくべきことです。
質問票のために研究者から集める情報には、個人情報が含まれます。しかもそれは第三者、すなわち資金配分機関や関係行政機関へ提供される可能性があります。手順書は、個人情報の保護に関する法律を踏まえ、研究者から個人情報の申告を受ける際に同意書の提出を求めるものとしています2。
同意書に含めるべき内容も示されています。ひとつは、研究セキュリティの確保に向けたリスクマネジメントを目的として研究者が個人情報を研究機関に申告し、当該目的に限り研究機関がこれを利用すること。もうひとつは、当該目的のため、研究機関が当該個人情報を第三者に提供すること2。
あわせて宣誓書も求められます。申告した個人情報は、署名者が知る限り申告時において最新のものであり、虚偽の内容及び申告漏れはないこと。これに署名してもらう形です2。
この2枚を先に用意してから情報収集に入るのが正しい順番です。集めてから同意を取りに戻ると、二度手間になるうえ、研究者からの信頼も損ないます。JSTの募集要項も、提供された個人情報がJST、文部科学省、内閣府等の政府機関で必要な範囲内で利用される場合があることを明記していますので1、説明資料はそこまで含めて作っておくと親切です。
実務を回すために
ここまでの内容を、着手順に並べ直します。
同意書と宣誓書の様式を先に整える。研究インテグリティのチェックリストで集めている情報を棚卸しし、13項目のうちどこが埋まってどこが空くかを把握する。空く部分、特に5番、6番、10番、11番について公開情報からの確認手段を決める。共同研究機関の担当部署の連絡先を、応募前に押さえておく。そして11番の関係確認をどう回すかを決める。この5つです。
11番の負荷が突出することは、ここまで書いてきたとおりです。私たちがTRAFEEDで輸出管理のために積み上げてきた2億件超のナレッジグラフ(論文約9,000万件、特許約1億件、研究者約30万人)と各国リストは、5番、6番、9番、10番、11番の確認とそのまま対応します。共著・共同出願の関係を1ホップ、2ホップとたどってリスト掲載機関との接点を洗い出す処理は、グラフ構造なら計算で扱えます。研究者情報に加えて、共同研究先の株主・資本関係のリサーチにも広げているところです。
ただし、質問票に何と書くかを決めるのは研究機関です。リスク評価もリスク軽減措置の決定も、手順書は研究機関の判断としています。私たちが担うのは材料を揃えることと、その根拠を後から説明できる形で残すこと。監査に耐える証跡を残す設計は、輸出管理で最初から作り込んできた部分でもあります。
まとめ
- 質問票は採択候補になってから、対象となった課題の研究代表者に届きます。全員に来るものではありません
- 提出には共同研究者の同意と双方の所属機関の担当部署の確認が要ります。届いてから動くと間に合わない可能性があります
- 内容の土台は手順書の13確認事項。3〜8、10、11は過去3年分。学生を含む研究参画者も対象です
- デュー・ディリジェンスは通常把握し得る情報で行えばよい、と手順書に明記されています
- 情報が集まらない場合は排除ではなくリスク軽減措置で埋める。該当したことも排除の理由にはなりません
- 集める前に同意書と宣誓書を整えてください。順番を間違えると二度手間になります
質問票は、書類仕事としては面倒です。ただ、書いてある項目を一つずつ見ていくと、要は「誰と、何を、どこから受けて、どう組んで研究しているか」を説明できるようにしておけ、という話でもあります。研究の透明性そのもので、本来なら聞かれなくても答えられるはずのこと。そう捉え直すと、少しだけ気が楽になるのではないでしょうか。
自組織で何から着手すべきか迷っておられるなら、TRAFEEDの担当までご相談ください。
参考文献・一次情報
Footnotes
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科学技術振興機構(JST)「2026年度 戦略的創造研究推進事業(CREST・さきがけ・ACT-X)募集要項」https://www.jst.go.jp/kisoken/boshuu/teian/koubo/2026youkou.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
研究セキュリティと研究インテグリティの確保に関する有識者会議「研究セキュリティの確保に関する取組のための手順書」令和7年12月(内閣府)https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/yushikisha/guidelines_v1.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14
-
統合イノベーション戦略推進会議「研究活動の国際化、オープン化に伴う新たなリスクに対する研究インテグリティの確保に係る対応方針について」令和3年4月27日 https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/integrity_housin.pdf ↩
-
経済産業省貿易管理部安全保障貿易管理課「みなし輸出管理の運用明確化について」https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/minashi/meikakukanitsuite2.pdf ↩
-
文部科学省科学技術・学術政策局「大学等の研究セキュリティ確保に向けた文部科学省関係施策における具体的な取組の方向性」令和6年12月18日 https://www.mext.go.jp/content/20241218-mxt_kagkoku-000039402_1-1rrr.pdf ↩
