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研究セキュリティ 各国比較|米・加・英・仏・独の制度とG7共通原則、日本の立ち位置

公開2026-07-24濱本 隆太

研究セキュリティは日本だけの話ではありません。米国のNSPM-33とNSFのTRUST、カナダのSTRAC、英国のTrusted Research、フランスのZRR、ドイツのDFG勧告を一次情報で並べ、G7が2022年に合意した共通原則と、日本が後発として足並みを揃えにいっている構図、そして相互主義がなぜ国際共同研究の入場券になるのかを整理します。

研究セキュリティ 各国比較|米・加・英・仏・独の制度とG7共通原則、日本の立ち位置
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こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。

「日本だけが急に厳しくなったんでしょうか」

研究セキュリティの説明をしていると、必ずこの質問をいただきます。実際は逆で、日本はむしろ最後のほうに手を挙げた側です。しかもこれは私の印象論ではありません。内閣府の手順書には「研究セキュリティの確保については、我が国にとって新たな取組となる」と書かれていて、続けて「諸外国の先進的な取組と同等の研究セキュリティの確保に関する取組を行うこととした」とあります1。政府自身が、後から追いついている構図を文書で認めているわけです。

この記事では、米国、カナダ、英国、フランス、ドイツがどんな制度を持っているのかを一次情報で並べ、そのうえで日本がどこに立っているのかを整理します。国際共同研究に関わる方にとって、相手国が何を前提に話しているかを知っておくことは、質問票に答えるのと同じくらい実務的な意味を持ちます。制度の全体像は研究インテグリティと研究セキュリティの完全ガイドに、日本の手続の詳細はデュー・ディリジェンスの実務にまとめてありますので、あわせてご覧ください。

なぜ各国が、同じ時期に、似た制度をつくったのか

その前に、この記事で何度も出てくる2つの言葉を整理しておきます。研究インテグリティは、研究活動の透明性と健全性を保つための取組で、内閣府の手順書では「全ての研究活動を対象」とするものと定義されています。研究セキュリティのほうは範囲がずっと狭く、「国や研究機関において守るべきと判断した研究活動を対象」とするものです1。研究全体にかける網がインテグリティ、絞り込んだ一部にかける鍵がセキュリティ、と考えるとつかみやすいと思います。

そのうえで、各国の制度がどことなく似ているのには理由があります。共通の土台があるからです。

2022年6月、G7は「研究セキュリティと研究インテグリティに関するG7共通の価値観と原則」を公表しました2。作成したのはG7の科学技術大臣会合の下に置かれた作業部会(SIGRE)で、日本を含む各国の政府や研究界の関係者が参加しています。この文書が、いま各国が動かしている制度の共通の設計図にあたります。

中身は二階建てです。一階が研究インテグリティの共通価値観7つ。学問の自由、差別やハラスメントや強制からの自由、公平性と多様性と包摂性、機関の自律、オープンサイエンスと研究へのアクセス、社会的信頼の醸成、透明性と情報開示と誠実性。二階が研究セキュリティの原則8つで、国家の利益と世界的な利益のバランス、開放性の維持と研究セキュリティ、共同研究と対話、積極的な取り組み、リスクとの釣り合い、責任の共有、説明責任と責任、適応性が並びます2

この構造そのものが、日本の制度設計にもそのまま反映されています。文部科学省は「研究セキュリティ確保に当たっては、その基盤として、研究者自身や大学等が、研究活動の透明性確保及び自律的なリスクマネジメントといった研究インテグリティ確保の取組を徹底することが、まず重要である」と書いていて3、インテグリティが先、セキュリティが後という順序を明確にしています。

G7文書のなかでいちばん引用されるのが責任の共有、原文の shared responsibility です。「いかなる組織も、単独では研究セキュリティに対処することはできない」2。内閣府の手順書はこの英語表記をそのまま引いたうえで、政府、資金配分機関、研究機関、研究者の4層それぞれに役割を割り振っています1。誰か一人が守る話ではない、というのがG7以降の共通了解です。

もうひとつ、見落とされがちですが決定的に重要な記述があります。G7文書は過剰な対応そのものを警告しているのです。「不相応な研究セキュリティ施策は科学や学問の自由と開放性の制限につながりうる。最悪のケースでは、特定の民族の研究者に焦点が当てられた場合に人種に基づくプロファイリングにつながるおそれがあり、国際共同研究の利点が損なわれる可能性もある」2。締めることと同じ重さで、締めすぎることの危険が書いてあります。ここを読み飛ばすと、制度の趣旨から外れた運用になります。

この警告は、日本の文書にもそのまま引き継がれています。内閣府の手順書も文部科学省の資料も、国籍や人種、宗教、文化等を理由とする差別的な取扱いを明確に禁じています13。見るべきなのは人の属性ではなく、研究の中身と、その研究にまつわる関係性のほうだという整理です。ここは制度の建て付けとして揺らがない部分なので、学内の説明資料をつくるときにも最初に置いておきたいところです。

そして各国が繰り返し使う2つの標語があります。内閣府の手順書は、欧米主要国の共通認識として「Small yard & High fence」と「As open as possible, as closed as necessary」を挙げています1。前者は、守る庭を小さく囲って柵は高く、という意味。後者は、可能な限り開いておき、必要な分だけ閉じる、という意味です。全部を守ろうとしない、というのが出発点になっている点は、日本の実務者にも共有されるべき前提だと思います。

自組織の輸出管理体制がいまどの水準にあるかを先に把握しておきたい方は、輸出管理の無料セルフ診断から現状を確認してみてください。研究セキュリティの議論は、既存の安全保障貿易管理の体制がどこまで動いているかを起点に組み立てるほうが早く進みます。

米国、カナダ、英国、フランス、ドイツを並べてみる

ここからは国ごとに見ていきます。以下は各国政府の一次情報と、内閣府の手順書の参考資料(同資料はJST作成資料に基づくと注記されています)を突き合わせて整理したものです1

米国は「開示」と「金額の閾値」で切る

米国の土台は2021年1月14日のNSPM-33(United States Government-Supported Research and Development National Security Policy と題された大統領覚書)です4。連邦資金による研究に重要な影響を与える参加者に、所属や経歴や資金の情報を開示させることが柱で、ORCIDのようなデジタル永続識別子への登録方針を各機関が策定することも定められました。開示義務に違反した場合は、連邦雇用や契約の終了、助成の終了、連邦資金への適格性の停止や除外まで射程に入ります。

この覚書のなかで、日本の制度と対比するといちばん目を引くのが機関側の義務の切り方です。年間5,000万ドルを超える連邦の科学工学支援を受ける研究機関に対し、研究セキュリティ・プログラムを設置し運用していることを資金提供機関へ認証させる、という書きぶりになっています4金額の閾値で機関を選別する設計であり、後で見る日本のプログラム単位の指定とは考え方がかなり違います。

その後の展開として、NSFは2024年6月5日にTRUST(Trusted Research Using Safeguards and Transparency)フレームワークを発表しました5。柱は3つで、現在の人事上の任用やポジションの評価、開示要件の不遵守の特定、そして予見しうる国家安全保障上の考慮の評価です。3番目が新しい取組にあたります。展開は段階的で、2025会計年度に量子分野の提案でパイロットを行い、メリットレビューを通過した後に適用する形から始めて、CHIPS・科学法が挙げる他の重要技術領域へ広げ、最終的に全領域へスケールさせる計画です。NSFの担当者はこれを「コンプライアンス文化から研究セキュリティ文化へ転換する大きな一歩」と表現しています5

支援の側も同時に動いています。NSFは2024年7月24日、SECURE(Safeguarding the Entire Community of the U.S. Research Ecosystem)センターへ5年間で6,700万ドルを投じると発表しました6。ワシントン大学が主導し、9つの高等教育機関が支援する体制です。あわせて5つの地域センターを置き、これを6つの高等教育機関が運営します6。役割は、外国からの干渉を特定し軽減する力を研究コミュニティに与えるための情報のクリアリングハウス。文部科学省がこれを全国6大学にセンターを設置する取組として紹介している3のは、この地域センターを運営する6機関を指しているものと読めます。規制を敷くだけでなく、大学が使える共有インフラに公費を入れているところが米国の特徴です。

カナダは「2つの公開リスト」と「宣誓」で回す

カナダは2段構えです。まず2021年7月に導入された国際研究協力に関する国家安全保障ガイドライン(NSGRP)で、民間パートナーを含む申請にリスク軽減計画を含むリスクアセスメントフォームの提出を求めました1。資金提供者はまず公開情報で行政上のリスク検証を行い、必要に応じて国家安全保障関連機関に付託して評価と助言を受けます。ここで重要なのは、このガイドラインが特定の国や企業を指定していないという点です。案件ごとに評価する方式を採っています。

次が2024年5月1日に発効したSTRAC(Policy on Sensitive Technology Research and Affiliations of Concern)です7。機微技術研究領域のリストと、指定研究組織のリストという2つの公開リストを政府が持ち、申請者はポリシーを遵守していることを宣誓します。宣誓の内容は、助成対象の活動に関与する研究チームの構成員が、カナダの国家安全保障にリスクをもたらしうる軍事、国防、国家安全保障の機関と結びついた大学や研究機関や研究所に所属せず、そこから資金や現物支援も受けていないこと、というものです7

体制面では、カナダ公安省がResearch Security Centreを置き、大学や研究機関に情報共有と助言を行っています。国の予算で一部の大学に研究セキュリティオフィスを設置し、情報分析の経験者などを配置して申告内容を確認し助言する仕組みも動いています1。リストを政府が公開し、申請者に宣誓させ、判断は資金配分機関が担う構図です。5か国のなかでは最も手続が明快なタイプでしょう。

英国は「啓発から始めて、判断は大学に残した」

英国の順序はほかと違います。最初に来たのが規制ではなくキャンペーンでした。2019年、国家保護安全保障局と国家サイバーセキュリティセンターがTrusted Researchという取組を開始し、研究者向け、上級管理職向け、渡航や国際会議に関するもの、国際共同研究を始めるときのチェックリスト、という構成でガイダンスを整備していきます1。助言が研究コミュニティや大学との協議の上で作られていることが、繰り返し強調されている点も英国らしいところです。

相談の受け皿として、科学技術イノベーション省にRCAT(Research Collaboration Advice Team)が置かれています8。国際研究に関わる国家安全保障上のリスクについて研究機関に助言する部隊で、各機関が指名した窓口、通常はリサーチオフィスを通じて動きます。文部科学省の資料では国内5拠点という整理です3

法制度としては、機微セクターの買収に強制届出を課す国家安全保障・投資法(National Security and Investment Act 2021)があり9、大学発スピンアウトや研究資産の取得という文脈で研究セキュリティの一角を占めています。資金配分機関のUKRIは、国際協力時のリスク評価体制の整備を大学に期待するガイダンスを出し、分野によっては国際共同研究の際に適性評価を行って軽減策を条件に付けることもあります1

そのうえで英国が明言しているのが、最終的な意思決定は独立した機関である大学の責任だ、という立場です1。政府は助言する立場にとどまり、判断そのものは大学が行います。5か国を並べたとき、この線引きをここまではっきり書いているのは英国だけでした。

フランスは「場所」に鍵をかける

フランスの制度は毛色が違います。PPST(Protection du potentiel scientifique et technique de la nation、国家の科学技術潜在力の保護)と呼ばれる枠組みで、刑法典413-7条を根拠に、2011年11月2日のデクレ第2011-1425号、2012年7月3日の首相命令、2012年11月7日の省庁間通達という3つの文書で運用されています10

保護の目的として掲げられているのは4つ。フランスの経済的利益が害されること、外国の軍備が強化されるか自国の国防力が低下すること、大量破壊兵器とその運搬手段の拡散に寄与すること、国内外でテロ目的に利用されること。これらの脅威が生じうる最も機微な知識、専門知識、技術を守る、という立て付けです10

その中核がZRR(zone à régime restrictif、制限区域)です。国が機微性の高い研究室などを制限区域に指定し、そこへの物理的なアクセスも、情報システムを介した論理的なアクセスも、所管大臣の許可制になります10。研究機関にはセキュリティ担当官が置かれ、各省の担当と連携しながら運用にあたる体制です。資金配分の側でも、フランス国立研究機構が採択候補に国際連携や産業連携が含まれる場合に高等教育担当大臣と情報を共有して判断を仰ぐ仕組みがあります1

プログラムでも人でもなく場所を単位に規制をかけ、しかも刑事罰の体系に接続しているというのが、フランス独特のところです。日本の手順書がガイドラインであることを思うと、フランスの硬さは際立ちます。high fence を文字どおり物理的な柵として作った国、と言ってよいと思います。

ドイツは「研究倫理の延長」として組み立てた

ドイツは政府の側に国家安全保障戦略や中国戦略があり、研究を所管する省が研究セキュリティに関するポジションペーパーを公表しています1。ただ、実務を動かしている主役は学術界のほうです。

資金配分機関にあたるDFG(ドイツ研究振興協会)は、国際連携におけるリスクへの対処にかかる勧告に基づき、国際連携を伴う公募申請者に対して研究リスクの自己評価を新しい様式で追加提出するよう求めています1。相手機関が軍事目的等の研究を行っているか、組織的なデータ窃取が想定されるか、研究テーマが危険な応用可能性を持つか、相手国における学問の自由の状況はどうか。特定の国にレッドラインを引くのではなく、申請者に検討と省察のステップを踏ませる設計です。

もうひとつ別系統の仕組みがあります。ドイツ国立科学アカデミー・レオポルディーナとDFGが2014年に導入し2022年に改訂した、セキュリティ関連の研究の取り扱いに関する勧告です。これに基づいて、国内120を超える研究機関や学協会がKEF(セキュリティ関連研究の倫理委員会)を設置しています1。倫理、法、人文の専門家を含む分野横断の委員会が、悪用リスクのある研究領域について助言し、意識啓発と能力開発を担います。政府が縦に落とすのではなく、学術界が自分たちで回している構造です。

5か国のなかで、ドイツだけがデュアルユース研究の倫理という伝統から接続しています。デュアルユースという概念そのものについてはデュアルユース品目とはで解説していますが、同じ言葉でも、輸出管理から入るか研究倫理から入るかで制度の顔つきがここまで変わるのかと、資料を読みながら思いました。

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並べてみて見えてきた、4つの差分

5か国を横に並べると、共通点よりも差分のほうが実務に効きます。私が重要だと感じたものを4つ挙げます。

ひとつめは、最終的に誰が判断するのかが国ごとに違うことです。英国は最終意思決定を大学の責任と位置づけ、カナダは資金配分機関が判断して必要なら安全保障関連機関に付託し、米国は軽減策の妥当性を大学との議論により決めるとされています。日本は資金配分機関と所管府省が回答内容の十分性を確認し、不十分であれば追加のリスク軽減措置を要請する形です1。判断の重心がどこにあるかは、共同研究の相手方と話すときに前提の食い違いを生みやすいところなので、押さえておく価値があります。

ふたつめは、懸念機関のリストを自前で持つかどうかです。カナダは機微技術研究領域と指定研究組織という2本のリストを政府が公開しています。一方で日本の手順書が定義する「リスト」は、経済産業省の外国ユーザーリストと米国の統合スクリーニングリストの2つだけで、研究セキュリティのための独自の懸念機関リストは持っていません1。既存のリストを借りて運用を始めた形です。

ここで必ず添えておきたいことがあります。これらのリストへの掲載は規制上の区分であって、掲載された機関や個人の是非を判断するものではありません。手順書自身も、確認事項に該当することが直ちに排除につながる仕組みにはしておらず、リスクの程度に応じた合理的な対処を求める構成になっています1。この点は運用する側が誤解しないよう、繰り返し確認したい部分です。

あわせて押さえておきたいのが、手順書がゼロ・リスクを求めていないことです。対象とする技術を限定したうえで、リスクの程度に応じた合理的な対処を行う、というのが基本の考え方として明記されています1。すべての共同研究を疑ってかかる制度ではありませんし、そう運用すると先ほどのG7の警告のほうに抵触します。

みっつめは、何を単位に絞り込むかです。米国は金額の閾値で機関を切り、フランスは場所を指定し、カナダは技術領域と組織のリストで切り、日本はプログラムの指定で切ります。切り口はばらばらですが、全部を守ろうとしていない点は共通です。Small yard & High fence という標語は、それぞれの国が自国の行政の仕組みに合わせて庭の囲い方を選んだ結果だと理解すると腑に落ちます。

よっつめは、どの伝統から接続したかです。米国とカナダは国家安全保障と資金配分の条件から、フランスは刑法と防衛から、英国は啓発とアドバイザリーから、ドイツは研究倫理から。同じG7原則を土台にしていても、各国が既に持っていた制度に接ぎ木した結果、まったく違う姿になっています。日本が参照するときに、どこか一国のやり方をそのまま持ってこようとするとうまくいかないのは、たぶんこのためです。

日本はどこに立っているのか。後発であることと、相互主義

ここまでを踏まえて、日本の位置を確認します。

2025年12月、内閣府の有識者会議が「研究セキュリティの確保に関する取組のための手順書」をまとめました1。法令ではなく遵守すべきガイドラインという形式を採っていて、その理由も明記されています。「G7各国やその他の同志国においても、法令ではなくガイドラインとして策定することが一般的であることから」1。形式の選択からして、各国に合わせにいっているわけです。

対象は特定研究開発プログラムに限定されます。成果の公開を前提とする競争的研究費のうち、重要技術領域リストに該当する技術を含む可能性があり、経済安全保障の観点から特に技術流出の防止が必要だとして所管府省が資金配分機関と相談のうえ指定したものです1。実際の適用は、JSTの戦略的創造研究推進事業のうちCRESTの5研究領域と、防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度から始まります。ここは誤解が生まれやすいので念のため書いておくと、JSTの2026年度(令和8年度)募集要項で特定研究開発プログラムに指定されたのはCRESTのこの5領域だけです。同じ戦略的創造研究推進事業でも、さきがけとACT-Xは対象に入っていません。適用は令和8年度の新規採択課題からで、対象となるのは委託研究契約書上の「大学等」と「企業等」です。防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度も、令和8年度の公募から対象に加わりました。指定の経緯は研究セキュリティが応募条件になった経緯に詳しく書きました。

手続の骨格も押さえておきます。手順書が求めるリスクマネジメントは、リスク確認、リスク評価、リスク軽減措置、フォローアップという4つのステップで構成されています1。入口のリスク確認にあたるのがデュー・ディリジェンス(取引や連携の相手方、および当事者の背景を、あらかじめ確認しておく調査のこと)で、確認事項は13項目です。学歴、研究経歴と職歴、研究費の取得歴、研究費以外の支援等の取得歴、発表論文における立場、特許の出願状況、外国の人材採用プログラムへの参加歴、指針に基づく処分歴、リストへの掲載の有無、リスト掲載機関への所属の有無、リスト掲載機関に所属する研究者との関係の有無、安全保障貿易管理における「非居住者」や「特定類型」への該当性、そして資金配分機関が必要と認める事項。このうち3番目から8番目、10番目、11番目は、応募年度を含む過去3年分が対象になります1。確認の対象者はPI(研究代表者)とCo-PI(共同研究代表者)、そして研究代表機関に所属する研究参画者です。ここには学生も含まれます1。申告してもらう際には、同意書(取得した情報を目的の範囲でのみ使い、必要な範囲で第三者に提供することへの同意)と宣誓書(申告内容が申告時点で最新であり、虚偽や漏れがないこと)を本人から取る運用も定められています1

12番目の「特定類型」というのは、外国の政府や法人から強い影響を受けている状態を類型化したもので、居住者への技術提供でも許可が必要になる場合を切り分けるための区分です(みなし輸出の運用明確化として2022年5月から適用されています)。ここも誤解されやすいところなので補っておくと、経済産業省は「特定類型は、あくまで個別に審査で確認する必要がある場合を類型的にまとめたものであり、特定類型に該当するからといって安全保障上懸念がある者とみなされるわけではない」と明記しています。該当することと、問題があることは、まったく別の話です。

責任の所在についての整理も明快です。虚偽の申告など手順書に反する行為があった場合は、「競争的研究費の適正な執行に関する指針」の不正受給の行為として応募制限措置等の対象になりえます。一方で、十分な取組を行ったうえでなお技術流出が生じてしまった場合について、手順書はその責任を研究機関や研究者が負うものではないとしています1。やることをやっていれば結果責任までは問わない、という設計になっているわけです。

ここで、制度としてやや落ち着かない点を挙げておきます。対象の判定に使うはずの重要技術領域リストは、まだ策定されていません。手順書は、それまでの間は令和4年9月30日に閣議決定された「特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用に関する基本指針」の20の技術領域で代替するとしています1。バイオ、医療・公衆衛生、AI・機械学習、先端コンピューティング、マイクロプロセッサ・半導体など、かなり広い範囲が並びます。中核のリストが未完のまま制度が走り出しているという意味では、まだ形が定まりきっていない段階だと見ておくのが正確でしょう。

そして、この記事でいちばんお伝えしたいのが相互主義の話です。

文部科学省は、研究セキュリティ確保に取り組むべき対象プログラムの第1類型を「共通の価値観を有する国との国際共同研究において、相手国と同等の対応を求められる研究開発プログラム」と定義しています3。さらに現状認識として「諸外国との共同研究を行うに当たって、相手国側から日本側の研究体制についての問合せの事例が出てきている」とも書いています3

これは、日本国内の規制の話ではありません。相手国が同等の対応を確認できなければ、共同研究の枠に入れてもらえないという話です。手順書も同じ方向を向いていて、本手順書に基づく取組を実施することを国際社会に対して示すことにより、G7各国やその他の同志国と相互の信頼を構築し、引き続き国際共同研究等を円滑に進めることができる、と目的を説明しています1。さらに、外国の研究機関等から研究セキュリティの確保に関する取組の実施を求められた場合についても本手順書に準じた形でリスクマネジメントを実施することが考えられる、として、指定プログラム以外にも実質的に射程を広げています1

正直なところ、私はここが今回の制度のいちばんの本質だと思っています。日本の制度を守るために手続をやるのではなく、国際共同研究のテーブルに着き続けるための入場券として整えている、という構図です。負担の話として受け取ると納得しにくい制度ですが、参加資格の話として受け取ると、やる理由がはっきりします。ちなみに2024年2月にG7が公表したベストプラクティス文書の各国事例欄で、日本の持ち札として紹介されていたのはチェックリストでした11。そこから2年足らずで手順書まで来たと考えれば、追い上げの速度はむしろ速いほうです。関連する国内制度の動きはセキュリティ・クリアランス制度もあわせてご覧ください。

リストは、別々のタイミングで、別々の言語で更新される

各国比較を実務に落としたとき、いちばん厄介なのがここです。

これまで見てきたとおり、カナダは自国の2つのリストを持ち、米国は統合スクリーニングリストを持ち、日本は外国ユーザーリストを持ちます。手順書のデュー・ディリジェンス項目には、リストへの掲載の有無、リスト掲載機関への所属の有無、リスト掲載機関に所属する研究者との関係の有無が並んでいて、後者2つは応募年度を含む過去3年分が対象です1。手順書はさらに、米国の統合スクリーニングリストについて、掲載されていない機関でも掲載機関や個人に所有されている場合には同様の規制の対象とされることがあるため、所有関係の確認も望ましいと注記しています1

つまり実務としては、複数の国の複数のリストを、それぞれの更新タイミングで、それぞれの言語の表記ゆれを含めて追い続けることになります。しかも確認対象はPIだけでなく、Co-PIも、学生を含む研究参画者も入ります。11番目の「関係」が具体的に何を指すかも決まっていて、共同研究や受託研究の実施、共著論文の執筆と公表、学会等における連名の口頭発表の実績、の3つです1。ここまで含めて関係をたどるとなると、名前の突き合わせでは終わりません。

ただし、求められる水準が無制限というわけではありません。手順書は、デュー・ディリジェンスを「自己申告による情報、オープンソースの情報など各研究代表機関が通常把握し得る情報」によって実施してよいと明記しています1。探偵まがいの調査を各大学に課す制度ではない、ということです。使えるツールとして学術論文データベース、Google Scholarのようなポータル、e-Radやresearchmapといった研究者データベース、J-PlatPatなどの知財データベース、経済産業省の外国ユーザーリスト、米国の統合スクリーニングリストが例示されています。そのうえで手順書は、これらのツールで収集した情報だけでは十分なデュー・ディリジェンスの実施が困難な場合には、企業が提供する情報分析ツールや企業への委託調査を活用することも考えられる、と書いています1

私たちがTRAFEEDで積み上げてきたものが、ちょうどこの部分と重なります。日本の安全保障輸出管理のリスト規制とキャッチオール規制に対応するAIエージェントとして開発してきたもので、2億件超のナレッジグラフ(論文が約9,000万件、特許が約1億件、研究者が約30万人)に、企業リストと各国の制裁リストを接続しています。同分野のAIエージェントとしては世界初です(2026年3月時点、当社調査により確認)。岡山大学との共同実証では、過去の審査データ約3万件を用いた検証でAI判定精度95%以上という結果が出ています(自社調べ)。特許第7862062号を取得し、20組織以上に導入いただいています。

各国のリストが別々のタイミングと言語で更新されるという課題は、輸出管理の現場でずっと向き合ってきたものでもあります。だから研究者情報に加えて、株主や資本関係のリサーチにも対応を広げてきました。研究インテグリティと研究セキュリティへの対応は今後の強化領域として開発を進めているところで、まだ実装済みとは申し上げられません。そのうえで申し添えると、最終的な判断を行うのはあくまで研究機関(企業の場合は各社の輸出管理責任者)です。私たちが担えるのは、判断の材料を揃えることと、その根拠を後から説明できる形で残すこと。ここを取り違えないようにしたいと考えています。

まとめ

  • G7が2022年6月に合意した共通の価値観と原則が、各国制度の共通の土台になっています。中心にあるのは責任の共有と、開放性とセキュリティは補い合うという考え方です
  • 共通の標語は Small yard & High fence と As open as possible, as closed as necessary。どの国も全部を守ろうとはしていません
  • 判断の重心は国ごとに違います。英国は大学、カナダは資金配分機関、日本は資金配分機関と所管府省です
  • 日本は独自の懸念機関リストを持たず、既存の2つのリストを借りて運用を始めています。重要技術領域リストも未策定で、当面は閣議決定の20技術領域で代替します
  • 相互主義が実務の核心です。相手国と同等の対応ができることが、国際共同研究に参加し続けるための条件になりつつあります

各国の制度を並べて読んでみて、いちばん印象に残ったのはG7文書の警告のほうでした。締めすぎることが、締めないことと同じくらいのリスクとして書かれています。制度をつくった側が自分でブレーキを踏んでいるのに、運用する現場でそれが失われるのは、もったいないと思います。まずは相手国が何を前提にしているのかを知るところから始めてみてください。

自組織で何から着手すべきか迷っておられるなら、TRAFEEDの担当までご相談ください

参考文献・一次情報

Footnotes

  1. 研究セキュリティと研究インテグリティの確保に関する有識者会議「研究セキュリティの確保に関する取組のための手順書」令和7年12月(内閣府)https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/yushikisha/guidelines_v1.pdf 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35

  2. G7 SIGRE作業部会「研究セキュリティと研究インテグリティに関するG7共通の価値観と原則」2022年6月(内閣府 日本語仮訳)https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/g7_sigre_values_jpn.pdf 2 3 4

  3. 文部科学省科学技術・学術政策局「大学等の研究セキュリティ確保に向けた文部科学省関係施策における具体的な取組の方向性」令和6年12月18日 https://www.mext.go.jp/content/20241218-mxt_kagkoku-000039402_1-1rrr.pdf 2 3 4 5 6

  4. The White House "Presidential Memorandum on United States Government-Supported Research and Development National Security Policy"(NSPM-33)2021年1月14日 https://trumpwhitehouse.archives.gov/presidential-actions/presidential-memorandum-united-states-government-supported-research-development-national-security-policy/ 2

  5. U.S. National Science Foundation "NSF enhances research security with new TRUST proposal" 2024年6月5日 https://www.nsf.gov/news/nsf-enhances-research-security-new-trust-proposal 2

  6. U.S. National Science Foundation "NSF-backed SECURE center will support research security" 2024年7月24日 https://www.nsf.gov/news/nsf-backed-secure-center-will-support-research 2

  7. Government of Canada "Sensitive Technology Research and Affiliations of Concern"(STRAC)https://science.gc.ca/site/science/en/safeguarding-your-research/guidelines-and-tools-implement-research-security/sensitive-technology-research-and-affiliations-concern 2

  8. UK Government "Research Collaboration Advice Team"(RCAT)https://www.gov.uk/government/organisations/research-collaboration-advice-team

  9. UK Legislation "National Security and Investment Act 2021"(2021 c.25)https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2021/25/contents

  10. ANSSI(フランス国家情報システムセキュリティ庁)「Protection du potentiel scientifique et technique de la nation(PPST)」https://cyber.gouv.fr/reglementation 2 3

  11. G7 SIGRE作業部会「安全で開かれた研究のためのG7ベストプラクティス」2024年2月(内閣府 日本語仮訳)https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/g7_sigte_practices_jpn.pdf

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