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2026年度、研究セキュリティが研究費の応募条件になった|JST・防衛装備庁の指定を公募要領から読む

公開2026-07-24濱本 隆太

研究セキュリティが理念から手続へ移りました。JST戦略的創造研究推進事業のCREST5領域と防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度が特定研究開発プログラムに指定され、令和8年度から適用されます。公募要領の原文から対象範囲、質問票、違反時の措置までを正確に整理します。

2026年度、研究セキュリティが研究費の応募条件になった|JST・防衛装備庁の指定を公募要領から読む
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こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。

研究セキュリティについて、この半年で決定的に変わったことがあります。応募要件になりました。

これまでこの領域は、理念や方針の議論でした。技術流出は防がなければならない、国際共同研究は続けなければならない、そのバランスをどう取るか。大事な話ですが、明日の業務が変わるわけではありません。ところが令和8年度(2026年度)の公募から、状況が変わりました。指定されたプログラムに応募するなら、手順書に基づくリスクマネジメントを実施しなければならない。しなければ、採択に影響します。

この記事では、その「実際に何が指定され、何を求められているのか」を、公募要領の原文から確認します。ここは伝聞で書くと必ずずれるところなので、JSTの募集要項124ページを直接あたりました。制度の全体像は研究インテグリティ・研究セキュリティ完全ガイドに、手順書そのものの中身は手順書とデュー・ディリジェンス13項目にまとめてあります。

誤解されやすい点から先に。対象はCRESTの5領域です

まず、いちばん誤解が広がっているところを正します。

「JSTの戦略的創造研究推進事業(CREST・さきがけ・ACT-X)が研究セキュリティの対象になった」という説明を見かけます。これは正確ではありません。2026年度の募集要項は、こう書いています。

本事業(のうち以下の領域)は、「特定研究開発プログラム」として指定されています。1

そして対象領域として列挙されているのは、CRESTの5研究領域です1

対象領域(CREST)
量子科学技術における未踏領域の開拓
革新的な超寿命マテリアルの創出とその理論的基盤の構築
実環境知能システムを実現する基礎理論と基盤技術の創出
人とAIの共生・協働社会を実現する学際的システム基盤の創出
光と情報・通信・センシング・材料の融合フロンティア

募集要項の冒頭でも、この5領域について「研究セキュリティ確保の取組を講じます」と告知されています1。つまり事業全体に一律で降ってきたのではなく、領域を指定して適用されたという構造です。

対象課題と対象機関も明記されています。対象課題は令和8年度新規採択課題より適用。対象機関は委託研究契約書において「大学等」あるいは「企業等」と認められた研究機関です1。継続課題ではなく新規採択から、という区切りになっています。

なぜこの精度にこだわるかというと、実務上の影響が正反対だからです。自分の応募先が5領域に入っていなければ、今回の手続は直接は関係しません。入っていれば、応募前に所属機関の担当部署と共有しておく必要があります。募集要項自身が「以下の記載内容を提案前に研究代表者及び主たる共同研究者の所属機関の担当部署とも十分に共有してください」と求めています1。応募直前に気づくと間に合わない類の話です。

防衛装備庁の制度も対象になりました

もうひとつ、令和8年度から対象になったプログラムがあります。防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度です。

この制度は、昨年12月に内閣府の「研究セキュリティと研究インテグリティの確保に関する有識者会議」が取りまとめた手順書の対象プログラム、すなわち特定研究開発プログラムとなりました。令和8年度の公募は令和8年3月13日から5月20日正午までの期間で実施されています2。公募要領には、特定研究開発プログラムの指定、リスクマネジメントの具体的内容、リスクマネジメントの結果の提出期限と確認、個人情報の取扱い、そして手順書違反が生じた場合の措置という項目が設けられました2

JSTと防衛装備庁で、記載されている項目の構成がほぼ同じであることに気づきます。これは偶然ではなく、手順書が資金配分機関に求める取組を、それぞれが公募要領に落とし込んだ結果です。今後、他の資金配分機関が特定研究開発プログラムを指定する場合も、似た構成になっていくと考えるのが自然でしょう。いま対象外の研究者にとっても、これは将来の予習になります。

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応募したら何が起きるのか。実際の流れ

では、対象領域に応募するとどうなるのか。JSTの募集要項が書いている手順を追います1

出発点は、リスクマネジメントの実施要請です。JSTは、研究セキュリティの確保の観点から、研究代表者の所属する研究機関と、主たる共同研究者の所属する研究機関に、手順書に基づくリスクマネジメントの実施を求めます。求められるのは研究者個人ではなく、研究機関である点に注意してください。個人が自力で頑張る話ではなく、機関として体制が要る話です。

次に、質問票が来ます。実施するリスクマネジメントの内容は手順書に基づくこととされ、具体的には、採択候補課題のうちリスクマネジメントの対象となった課題の研究代表者へ別途送付される「研究セキュリティに関する質問票」への回答をもとに、JSTと研究代表者および研究機関が協議のうえ決定します。ここで押さえておきたいのは、採択候補になってから対象が確定するという順序です。応募した全員に一律で来るわけではありません。

そして回答の提出には、条件が付いています。研究代表者は、主たる共同研究者の同意と、研究代表者および主たる共同研究者の所属機関の担当部署の確認を得たうえで提出しなければなりません。この担当部署について、募集要項はわざわざ「研究セキュリティ・研究インテグリティを所掌する部署が設置されている場合には当該部署を含む部署等」と書いています1。裏を返せば、そういう部署の設置が前提として意識されているということです。まだ置いていない機関にとっては、ここが最初の宿題になります。

提出後は確認と要請です。JST及び文部科学省が回答を確認し、その結果、必要に応じて、研究代表者および主たる共同研究者の所属する研究機関に対して追加的なリスク軽減措置の実施を要請することがあります1。つまり質問票は出して終わりではなく、往復が発生し得ます。スケジュールを組むときは、この往復の時間を見込んでおく必要があります。

個人情報の扱いについても明記があります。提供された研究者等の個人情報は、研究セキュリティの確保に向けたリスクマネジメントの実施を目的として、JSTのほか、JSTから提供を受けた文部科学省及び内閣府等の政府機関が、必要な範囲内で利用する場合がある1。研究者に情報を求める側は、この扱いを説明できるようにしておくべきでしょう。手順書は、研究者から個人情報の申告を受ける際に同意書と宣誓書の提出を求めるものとしています3

質問票そのものへの向き合い方は研究セキュリティ質問票の書き方で詳しく扱います。

違反した場合に何が起きるか

ペナルティの記載も、公募要領に入りました。

JSTの募集要項は、手順書に基づき、手順書違反行為については、当該行為の悪質性及び招いた結果の重大性を踏まえ、「競争的研究費の適正な執行に関する指針」(平成17年9月9日競争的研究費に関する関係府省連絡会申し合わせ)における不正受給の行為として、当該不正受給を行った研究者及び共謀した研究者に対し、本プログラム等への応募制限措置等が講じられる場合があると記載しています1

ここは冷静に読む必要があります。手順書自体は法令ではなくガイドラインです。しかし対象が競争的研究費であるため、既存の指針の枠組みを通じて、応募制限という実効的な措置につながる設計になっています。ガイドラインだから緩い、という理解は誤りです。

同時に、手順書は逆方向のことも書いています。求められる取組が十分に行われた場合でも結果的に技術流出を防止できないことは想定され、その場合に研究機関や研究者が責任を負うものではない3問われているのは結果ではなく、意図的な虚偽申告や申告隠しがあったかどうかです。この線引きは、現場に説明するときに必ず添えるべきだと思います。「流出したら罰せられる」と誤解されたまま運用が始まると、萎縮だけが残ります。

今年度、対象領域に応募する機関がやるべきこと

実務に落とします。時系列で書きます。

応募前の段階でやっておきたいのは、担当部署の特定と、機関内の共有です。募集要項が提案前の共有を明記している以上、研究者が一人で抱えたまま応募するのは避けたい。研究セキュリティ・研究インテグリティを所掌する部署がなければ、暫定でも窓口を決めておく。文部科学省は令和7年4月10日に相談窓口を設置していますし、大学間で連携するプラットフォームの支援や、研修教材の整備も進める方針を示しています4。孤立して悩む必要はありません。

次に、日常的な情報収集の整備です。手順書は、研究機関が日常的に実施する取組として、研究インテグリティのチェックリストに基づく申告情報の収集を「必要」とし、論文投稿や出版物など研究成果に関する情報、発明・特許等の知的財産に関する情報の収集を「望ましい」としています。さらに、これらを関係部署が連携して一元的に管理する体制の整備も望ましいとされています3。応募が決まってから慌てて集めるのではなく、平時から溜めておく設計が想定されているわけです。

そして、採択候補になった後の往復に備えることです。質問票への回答には、主たる共同研究者の同意と双方の所属機関の確認が要ります。共同研究機関が複数あれば、それだけ調整先が増えます。追加のリスク軽減措置を要請される可能性もある。逆算すると、着手のタイミングは「採択候補の連絡が来てから」ではやや遅い、というのが正直な感覚です。

デュー・ディリジェンスの実作業そのものは、正直に言って重いです。手順書の13確認事項のうち、多くは応募年度を含む過去3年分が対象になります。そして11番の「リスト掲載機関に所属する研究者との関係」は、共著論文、共同研究、学会での連名発表まで含めて確認する必要があり、名前の照合だけでは終わりません。手順書自身が、学術論文データベースや知的財産データベース、各国のリストを挙げたうえで、「これらのツールを用いて収集した情報だけでは十分なデュー・ディリジェンスの実施が困難な場合は、企業が提供する情報分析ツールや企業への委託調査を活用することも考えられる」と書いています3

私たちがTRAFEEDで積み上げてきた2億件超のナレッジグラフ(論文約9,000万件、特許約1億件、研究者約30万人)と各国リストは、この13項目とほぼそのまま対応します。共著・共同出願のネットワークをたどる処理も、グラフ構造なら計算で扱えます。研究者情報に加えて、共同研究先の株主・資本関係のリサーチにも広げているところです。もっとも、リスク評価とリスク軽減措置の決定は研究機関が行うものです。私たちが担うのは、判断に必要な材料を漏れなく、根拠つきで、短時間で揃えることと、その根拠を後から説明できる形で残すことです。

まとめ

  • JSTの戦略的創造研究推進事業では、CRESTの5研究領域が特定研究開発プログラムに指定されました。事業全体ではありません
  • 適用は令和8年度新規採択課題から。対象機関は委託研究契約書上の「大学等」「企業等」です
  • 防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度も令和8年度公募から対象になりました
  • 流れは、機関へのリスクマネジメント要請、採択候補への質問票送付、共同研究者の同意と所属機関の確認を得た回答提出、JSTと文科省の確認、必要に応じた追加措置の要請です
  • 手順書違反は指針上の不正受給として扱われ、応募制限措置等につながり得ます。ただし十分な取組をしたうえでの流出は責任を問われません
  • 質問票の回答には所属機関の担当部署の確認が要ります。部署の設置が前提として意識されている点は、体制未整備の機関には宿題です

この変化を面倒と受け取るか、準備の合図と受け取るかで、この先2〜3年の差が付くと思っています。指定は5領域から始まりましたが、防衛装備庁の制度も加わり、他の資金配分機関へ広がる可能性は十分にあります。いま対象外の領域で研究している方も、公募要領のこのセクションを一度読んでおく価値はあるはずです。

自組織で何から着手すべきか判断がつかない場合は、TRAFEEDの担当までご相談ください

参考文献・一次情報

Footnotes

  1. 科学技術振興機構(JST)「2026年度 戦略的創造研究推進事業(CREST・さきがけ・ACT-X)募集要項」第6章 応募に際しての注意事項 6.5 https://www.jst.go.jp/kisoken/boshuu/teian/koubo/2026youkou.pdf 2 3 4 5 6 7 8 9 10

  2. 防衛装備庁「令和8年度 安全保障技術研究推進制度(委託事業)公募要領」令和8年3月 https://www.mod.go.jp/atla/funding/koubo/r08/r08koubo_honsatsu_itaku.pdf 2

  3. 研究セキュリティと研究インテグリティの確保に関する有識者会議「研究セキュリティの確保に関する取組のための手順書」令和7年12月(内閣府)https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/yushikisha/guidelines_v1.pdf 2 3 4

  4. 文部科学省科学技術・学術政策局「大学等の研究セキュリティ確保に向けた文部科学省関係施策における具体的な取組の方向性」令和6年12月18日 https://www.mext.go.jp/content/20241218-mxt_kagkoku-000039402_1-1rrr.pdf

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