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学生・RAの受け入れ実務が変わる|研究セキュリティと雇用契約・秘密保持・宣誓書

公開2026-07-24濱本 隆太

研究セキュリティのリスクマネジメントは学生を含む研究参画者まで対象にします。RAとしての雇用契約、秘密保持、同意書と宣誓書、アクセス権限の設計まで、研究室の受け入れ実務がどう変わるのかを内閣府の手順書に沿って整理し、萎縮を招かない運用の考え方を示します。

学生・RAの受け入れ実務が変わる|研究セキュリティと雇用契約・秘密保持・宣誓書
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こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。

研究セキュリティの話をしていて、大学の先生方の表情が変わる瞬間があります。「対象には学生も含まれます」と伝えたときです。

制度の説明としては1行なのですが、意味するところは重い。修士の学生に実験を手伝ってもらう。留学生が研究室に加わる。年度の途中で新しいメンバーが入る。研究室の日常そのものに、手続が接続してきます。ここが今回の制度でいちばん現場にインパクトのある部分で、率直に言えば反発も出やすいところです。

この記事では、その受け入れ実務がどう変わるのかを整理します。あわせて、萎縮を招かずに運用するにはどう考えればいいかについても書きます。制度は過剰反応を防ぐところまで設計されているのに、現場の運用でそれが失われるのは、いちばんもったいない失敗だと思うからです。全体像は完全ガイド、質問票の書き方はこちらにあります。

まず範囲を正確に。すべての学生が対象ではありません

最初に、対象範囲を正確に置きます。ここを曖昧にしたまま話が広がると、必要のないところまで手続が波及します。

内閣府の手順書は、リスクマネジメントの対象者として3種類を挙げています。研究全体の責任者であるPI、共同研究機関の代表として参加するCo-PI、そして研究代表機関に所属する研究参画者です。そして研究参画者について、手順書は「特定研究開発プログラムに参加する予定の研究者(学生を含み、PI及びCo-PIを除く)」と定義しています1

ここで効いてくるのが、前段の「特定研究開発プログラム」という限定です。手順書に基づくリスクマネジメントの対象は、成果公開を前提とする競争的研究費のうち、重要技術領域リストに該当する技術を含む可能性があるとして所管府省が資金配分機関と相談のうえ指定したものに限られます1。研究室で走っているすべてのプロジェクトが対象になるわけではありません。

つまり正確には、指定されたプログラムに参加する予定の学生が対象です。研究室に在籍しているすべての学生ではありません。この違いは実務上とても大きい。全学生を対象に手続を回そうとすると破綻しますし、そこまでは求められていません。指定の実態については研究セキュリティが応募条件になった経緯に整理しました。

とはいえ、対象プログラムに学生が参加するなら、その学生は対象です。そして研究室運営の現実として、「このプロジェクトにだけ関わる学生」ときれいに分かれていないことのほうが多い。そこが難しさの本体だと思います。

雇用契約という選択肢の意味

手順書がリスク軽減措置の例として挙げているもののなかに、この一文があります。

(研究参画者が学生の場合などにおいて)雇用契約を締結することによるガバナンスの強化1

なぜ雇用契約なのか。理由はシンプルで、契約がないと義務を課す根拠が弱いからです。

学生は、大学との関係でいえば学籍を持つ学修者です。研究室で研究に参加していても、そこに雇用関係がなければ、秘密保持義務や情報の取扱いルールを契約として課す設計になりません。就業規則の適用対象でもない。ここにRA(リサーチ・アシスタント)としての雇用契約を置くと、秘密保持、研究データの取扱い、機器へのアクセス、退職時の返却義務といった条項を契約として明確にできます。

ただし、これは義務ではありません。手順書の書き方は「例示する」であり、続けて「リスクの程度に応じた合理的な措置であれば足りる」としています1。全学生を一律にRA雇用しなければならない、という制度ではないのです。機微性の高い部分に関わる学生については雇用契約でガバナンスを効かせ、そうでない部分はアクセス権限の設計で対応する。そういうメリハリが想定されています。

手順書の脚注には、もうひとつ実務的な注意があります。研究参画者が他機関からの出向者、派遣労働者、業務委託先の従業員である場合は、研究参画に係る契約の内容を確認することが必要とされています1。学生に限らず、雇用関係が自機関にない人が研究に関わるとき、契約を見に行く必要がある、という話です。

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同意書と宣誓書を、先に用意する

学生から情報を集める場面についても、手順書は手続を定めています。ここは順番を間違えやすいところなので、丁寧に書きます。

リスク確認とリスク評価のために研究者から取得する情報には個人情報が含まれ、それが第三者へ提供される可能性があります。そこで手順書は、個人情報の保護に関する法律を踏まえ、研究機関が研究者から個人情報の申告を受ける際に同意書の提出を求めるものとしています1

同意書に含める内容も示されています。ひとつ、研究セキュリティの確保に向けたリスクマネジメントを目的として、研究者が個人情報を研究機関に申告し、当該目的に限り研究機関がこれを利用すること。ふたつ、当該目的のため、研究機関が当該個人情報を第三者に提供すること1。ここでいう第三者には、資金配分機関や関係行政機関が含まれます。

さらに宣誓書も求められます。内容は、申告した個人情報が、署名者が知る限り申告時において最新のものであり、虚偽の内容および申告漏れがないこと1

実務としては、この2枚を先に整えてから情報収集に入ってください。集めた後に同意を取りに戻ると二度手間になりますし、学生からの信頼を損ないます。特に学生が相手の場合、なぜこれが必要なのかの説明とセットにすることが決定的に重要です。書類だけ渡して署名を求めると、監視されているという印象だけが残ります。

説明の際に必ず添えてほしい一文があります。経済産業省は、みなし輸出の特定類型について「あくまで個別に審査で確認する必要がある場合を類型的にまとめたものであり、特定類型に該当するからといって安全保障上懸念がある者とみなされるわけではない」と明記しています2。手続上の区分であって、その人への評価ではない。この前提が共有されているかどうかで、研究室の空気はまったく変わります。

年度途中の参加と、新規採用

研究室の現実として、メンバーは年度の途中でも動きます。手順書はそこも想定しています。

研究の進展に応じて研究参画者を追加する場合は、当該研究参画者についてデュー・ディリジェンスを実施する必要があるとされています1。追加のたびに手続が発生する、ということです。

そして新規に採用する場合については、採用に係る公募の段階で、候補者からデュー・ディリジェンスに用いる情報を収集することが望ましいとされています1。採用してから集めるのではなく、公募のプロセスに組み込んでおく。これは合理的な設計だと思います。着任後に情報が出てこなくて困る、という事態を避けられますし、候補者にとっても条件が事前に分かるほうが公平です。

もうひとつ、申告内容に誤りが判明した場合の手続もあります。研究者から申告された情報に誤りが発覚した場合、研究機関はその旨を速やかに資金配分機関に報告するとともに、修正された情報に基づいて改めてデュー・ディリジェンスを実施することが必要です1。隠さずに報告して、やり直す。ここは明確です。

「では留学生を受け入れないほうが安全なのか」への回答

この話をすると、必ず出てくる反応があります。手続が面倒なら、そもそも受け入れを絞ればいいのではないか、と。

制度の答えははっきりしています。それは制度が求めていることではありません。

手順書は、相手方が信頼できるパートナーかどうかを判断するにあたって「国籍や人種、宗教・文化等を理由とした差別的な取扱いがあってはならないことは当然である」と書いています1。文部科学省の文書も「人種や国籍等による差別はあってはならない」と明記し、さらに、ゼロリスクを目指したり幅広い研究に制限を設けたりすることは実効的でなく、研究力やイノベーション創出に悪影響を及ぼすと述べています3

手順書がゼロリスクを求めない理由も、率直に書かれています。ゼロリスクを求めれば「相手方等の情報を確認するために多大な労力やコストをかけることになったり、研究機関や研究者が、国際共同研究等に過度に抑制的になったりするなど、研究現場に悪影響が生じるおそれがある。結果として、研究に支障をきたすようなことになれば、本末転倒である」1

つまり制度は、過剰反応を防ぐところまで含めて設計されています。それでも現場で萎縮が起きるとしたら、原因は制度ではなく、判断の根拠を揃えられないことにあります。根拠がないと「念のため止める」がいちばん安全に見えてしまう。担当者を責めても解決しない構造です。ここが今後2〜3年の実務論点になると私は見ています。

外国人留学生や研究者の受け入れそのものについては、受け入れに潜むリスクとバックグラウンドチェックでも扱っていますが、そこでも結論は同じです。属性で判断するのではなく、確認すべき事項を確認し、リスクに見合った措置を講じる。それ以上でも以下でもありません。

研究室で現実的に回すために

最後に、研究室と支援部門で分担するとして、どこから手をつけるかを書きます。

支援部門がやるべきことは、様式と手順の整備です。同意書と宣誓書の様式を作る。RA雇用契約に秘密保持と研究データ取扱いの条項を入れる。公募段階で情報を集める運用に変える。この3つは研究室ごとにやるものではなく、機関として一度作れば使い回せます。

研究室側でやるべきことは、範囲の把握と、アクセス設計です。対象プログラムに誰が参加するのかを明確にする。そのうえで、機微性の高い情報や設備に誰がアクセスするのかを決める。手順書が挙げるリスク軽減措置は、施設・設備へのアクセス権限の管理、オフキャンパス等の研究場所の確保、取り扱う情報の機微性に応じたミーティング参加者の考慮、研究データ等の情報へのアクセス権限の管理、サイバー攻撃への対策の強化です1大掛かりな設備投資ではなく、権限と場所の設計が中心であることが分かります。

そのうえで残るのが、デュー・ディリジェンスそのものの負荷です。対象者が学生まで広がると、確認すべき人数が増えます。特に手順書の11番、リスト掲載機関に所属する研究者との関係の確認は、共著論文や学会の連名発表まで含めて過去3年分をたどる必要があり、名前の照合では終わりません。手順書自身が、公開情報のツールだけでは困難な場合に企業の情報分析ツールや委託調査の活用も考えられる、と書いています1

私たちがTRAFEEDで輸出管理のために積み上げてきた2億件超のナレッジグラフ(論文約9,000万件、特許約1億件、研究者約30万人)と各国リストは、この確認とそのまま対応します。共著・共同出願のネットワークをたどる処理も、グラフ構造なら計算で扱えます。研究者情報に加えて、共同研究先の株主・資本関係のリサーチにも広げているところです。判断そのものは研究機関が行うものですから、私たちが担うのは材料を揃えることと、根拠を後から説明できる形で残すことです。

まとめ

  • 対象は「特定研究開発プログラムに参加する予定の研究参画者」で、学生が含まれます。研究室の全学生ではありません
  • 雇用契約は義務ではなくリスク軽減措置の例示です。リスクの程度に応じた合理的な措置であれば足ります
  • 情報を集める前に同意書と宣誓書を整えてください。学生相手では、なぜ必要かの説明とセットにすることが決定的です
  • 年度途中の追加も対象です。新規採用は公募段階で情報を集めるのが望ましいとされています
  • 国籍による受け入れ判断は制度が明確に否定しています。ゼロリスクも求められていません
  • 打ち手の中心は設備投資ではなく、権限と場所の設計です

正直に言えば、この制度は研究室に負担をかけます。それは事実です。ただ、求められている中身をよく読むと、「誰が、何に、どこまでアクセスするのかを決めて記録しておく」という話に収束します。これは研究セキュリティのためだけでなく、研究データの管理としても、知財の帰属整理としても、いずれ必要になることでもある。そう考えると、今回を機に一度きちんと設計しておく価値はあると思っています。

自組織で何から着手すべきか迷っておられるなら、TRAFEEDの担当までご相談ください

参考文献・一次情報

Footnotes

  1. 研究セキュリティと研究インテグリティの確保に関する有識者会議「研究セキュリティの確保に関する取組のための手順書」令和7年12月(内閣府)https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/yushikisha/guidelines_v1.pdf 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

  2. 経済産業省貿易管理部安全保障貿易管理課「みなし輸出管理の運用明確化について」https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/minashi/meikakukanitsuite2.pdf

  3. 文部科学省科学技術・学術政策局「大学等の研究セキュリティ確保に向けた文部科学省関係施策における具体的な取組の方向性」令和6年12月18日 https://www.mext.go.jp/content/20241218-mxt_kagkoku-000039402_1-1rrr.pdf

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