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申告価格に足し忘れているもの|ファーストセールの逆側、加算要素で後から追徴される構造

公開2026-08-02濱本 隆太

課税価格を下げる手法は知られていますが、事故が多いのは逆側です。買手が無償提供した金型、海外設計費、ロイヤルティ、売手に戻る収益——これらは申告価格に加算する義務があります。日本の関税定率法第4条と米国19 U.S.C. 1401a(b)(1)の条文を並べ、運賃の扱いが日米で逆になる点、委託加工で買付手数料の除外が外れる点まで、条文原文で整理しました。

申告価格に足し忘れているもの|ファーストセールの逆側、加算要素で後から追徴される構造
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株式会社TIMEWELLの濱本 隆太です。

前回の記事では、ファーストセールという手法を扱いました。工場→商社→米国輸入者という三層取引で、課税価格を「最初の売値」にできるという話です。

課税価格を下げる話です。この手の話は関心を持たれやすく、専門家の解説も豊富にあります。

一方で、実務で事故が起きているのは逆側です。

申告価格に足さなければいけないものを、足していない。

こちらは地味で、話題にもなりにくい。しかし後から追徴される案件の多くは、こちら側です。しかも厄介なことに、支払っていないものを加算しろと言われるので、経理の帳簿を見ても出てきません。

この記事では、日本の関税定率法第4条と米国の 19 U.S.C. § 1401a(b)(1) の条文を並べて、何を足す義務があるのかを整理します。両方とも条文原文を確認したうえで書いています。

まず全体像:日米で並べる

課税価格に加算すべきものは、日米ともWTO関税評価協定を土台にしているため、構造がよく似ています。

加算するもの 日本(関税定率法 第4条第1項) 米国(19 U.S.C. § 1401a(b)(1))
輸入港までの運賃・保険料 第一号 列挙なし=原則加算しない
仲介料その他の手数料 第二号イ(買付手数料は除く) (B) selling commission
容器の費用 第二号ロ (A) packing costs
包装に要する費用 第二号ハ (A) packing costs
買手が無償・値引き提供した物品・役務 第三号イ〜ニ (C) assists
ロイヤルティ等 第四号 (D) royalty or license fee
売手に帰属する収益 第五号 (E) proceeds of subsequent resale

最初の行が、いきなり日米で逆になっています。

日本は輸入港までの運賃・保険料を加算します(実質CIF建て)。米国の transaction value には運賃が列挙されておらず、原則として加算しません(実質FOB建て)。

米国の実務書を読んで日本の申告をすると、運賃分をまるごと申告漏れします。逆もまた然りです。この一点だけでも、両国の条文を別々に確認する理由になります。

加算は義務であり、リストは閉じている

条文の構造を先に押さえておきます。米国の柱書後段はこう書いています。

The price actually paid or payable for imported merchandise shall be increased by the amounts attributable to the items (and no others) described in subparagraphs (A) through (E) only to the extent that each such amount (i) is not otherwise included within the price actually paid or payable; and (ii) is based on sufficient information.

3つの要素があります。

  • shall be increased — 加算は義務。任意ではない
  • and no others — (A)〜(E) 以外は加算しない。リストは閉じている
  • based on sufficient information — 十分な情報に基づくこと

そして最後の要件には、見落とされがちな帰結があります。

If sufficient information is not available, for any reason, with respect to any amount referred to in the preceding sentence, the transaction value of the imported merchandise concerned shall be treated, for purposes of this section, as one that cannot be determined.

加算額を裏付ける情報がなければ、取引価額そのものが使えなくなります。

これは「加算漏れで追徴される」よりも重い結果です。取引価額が使えないと、19 U.S.C. § 1401a(a)(1) の順序に従って、同種・類似貨物の価額、逆算価額、積上価額……と代替の評価方法に落ちていきます。実際の取引価格ではなく、別の方法で算定された価格で課税されるということです。

条文は「sufficient information」を、その金額の正確性を立証する情報(information that establishes the accuracy of such amount)と定義しています。つまり金型の価値がいくらか、それをどう按分したかを、資料で示せる状態が求められます。「たぶんこのくらい」では足りません。

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事故が最も多いところ:買手が無償提供したもの

日本の条文を引きます。

第4条第1項第三号 当該輸入貨物の生産及び輸入取引に関連して、買手により無償で又は値引きをして直接又は間接に提供された物品又は役務のうち次に掲げるものに要する費用  イ 当該輸入貨物に組み込まれている材料、部分品又はこれらに類するもの  ロ 当該輸入貨物の生産のために使用された工具、鋳型又はこれらに類するもの  ハ 当該輸入貨物の生産の過程で消費された物品  ニ 技術、設計その他当該輸入貨物の生産に関する役務で政令で定めるもの

米国側は assists と呼ばれ、定義は 19 U.S.C. § 1401a(h)(1)(A) にあります。

(i) Materials, components, parts, and similar items incorporated in the imported merchandise. (ii) Tools, dies, molds, and similar items used in the production of the imported merchandise. (iii) Merchandise consumed in the production of the imported merchandise. (iv) Engineering, development, artwork, design work, and plans and sketches that are undertaken elsewhere than in the United States and are necessary for the production of the imported merchandise.

構造はほぼ同じです。そしてここが実務で最も漏れます

理由ははっきりしています。支払いが発生していないからです。

  • 取引先に金型を無償で貸与した → 支払いはない。しかし加算対象
  • 自社で設計した図面を渡した → 支払いはない。しかし加算対象
  • 材料を支給した → 支払いはない。しかし加算対象
  • 試作用の部品を無償提供した → 同上

経理の仕訳を追っても出てきません。購買の発注書にも載りません。「うちは払っていないので関係ない」という理解のまま、何年も申告が続く——これが典型的な形です。

そして税関の事後調査でこれが出てくると、過去にさかのぼって追徴されます。金型1つなら小さな金額でも、その金型で作った製品を数年間輸入していれば、按分した額の累計は無視できません。

条文が「apportioned as appropriate(適切に按分して)」と書いているとおり、金型の価値を生産数量で按分して各輸入に乗せるのが本来の姿です。

地理的限定は「設計」だけに付いている

先ほど引いた米国の (iv) をもう一度見てください。

Engineering, development, artwork, design work, and plans and sketches that are undertaken elsewhere than in the United States

「米国以外で行われた」もの、という限定が付いています。CBPの規則の設例も、米国のエンジニアリング会社から購入した詳細設計を海外の生産者に提供した場合について「No, design work undertaken in the U.S. may not be added to the price actually paid or payable」と明記しています。

ここで絶対に誤読してはいけない点があります。

この地理的限定は、(iv) の技術・設計等にしか付いていません。 (i) 材料・部品、(ii) 工具・ダイス・金型、(iii) 生産で消費される物品——これら3類型には地理的限定がありません

つまり、米国で作った金型を海外の工場に無償提供した場合、その金型はアシストに該当します。 製造地は関係ありません。

CBPの規則の設例(19 CFR 152.103(d) Example 2)は、まさにこの状況を扱っています。米国の輸入者が金型を海外の荷主に無償供給し、その金型の一部は米国企業製、一部は第三国製という設定で、問いは「課税価格に金型の価値を含めるべきか」。答えは "Yes. It is an addition required to be made to transaction value." です。

CBPの実務解説も同旨で、金型について「regardless of where they are manufactured(製造地を問わず)」加算が必要な項目だとしています。

「米国内のものは対象外」と一括りに覚えると、金型で事故ります。 設計だけが例外だと理解してください。

さらに念のため。米国内で行った設計費が、すでに現実支払価格に含まれている場合、それを控除する権限はありません。 CBPの解説は「No authority exists to deduct such costs when included in the price actually paid or payable」と書いています。加算されないことと、控除できることは別です。

日本の第三号ニにこの地理的限定はありません。「技術、設計その他当該輸入貨物の生産に関する役務で政令で定めるもの」とだけ書かれています。日米双方に設計拠点を持つ企業では、ここが実務に直結します。

ロイヤルティは「必ず加算」ではない

第四号とアメリカの (D) は、どちらも条件付きです。

日本:

第四号 当該輸入貨物に係る特許権、意匠権、商標権その他これらに類するもの(当該輸入貨物を本邦において複製する権利を除く)で政令で定めるものの使用に伴う対価で、当該輸入貨物に係る取引の状況その他の事情からみて当該輸入貨物の輸入取引をするために買手により直接又は間接に支払われるもの

米国:

(D) any royalty or license fee related to the imported merchandise that the buyer is required to pay, directly or indirectly, as a condition of the sale of the imported merchandise for exportation to the United States

どちらも「その支払いが輸入取引の条件になっているか」を問うています。

商標を使うために払っているロイヤルティが、その商品を買うための条件になっているのか。それとも、輸入とは独立した国内での使用許諾なのか。ここは事実関係次第で結論が変わります。

日本の条文には**「本邦において複製する権利を除く」**という明示的な除外もあります。複製権の対価は加算しない。細かいようですが、ソフトウェアやコンテンツを含む輸入では効いてきます。

判断が微妙になりやすい領域なので、事前教示制度で確認しておくのが安全です。

買付手数料は加算しない——ただし例外がある

第二号イには括弧書きがあります。

仲介料その他の手数料(買付けに関し当該買手を代理する者に対し、当該買付けに係る業務の対価として支払われるものを除く。)

つまり、買付代理人に払う買付手数料は加算しません。売手側に立つ販売手数料(selling commission)は加算し、買手側に立つ買付手数料(buying commission)は加算しない——これは日米共通の考え方です。米国側も (B) が "selling commission" と書いており、buying commission は含みません。

ただし、日本には例外があります。

委託加工:条文が扱いを丸ごと組み替える

関税定率法第4条第3項は、日本の製造業が実際に多用している取引形態を、まるごと別扱いにしています。

本邦にある者(委託者)から委託を受けた者(受託者)が当該委託者から直接又は間接に提供された原料又は材料を外国において加工又は組立てをし、当該委託者が当該加工等によつてできた製品を取得することを内容とする取引に基づき当該製品が本邦に到着することとなる場合には、 当該取引を輸入取引と、当該委託者を買手と、当該受託者を売手と、当該加工等の対価として現実に支払われた又は支払われるべき額を輸入貨物につき現実に支払われた又は支払われるべき価格とそれぞれみなして、前二項の規定を適用する。

読み解くとこうです。

原料を海外に送って加工させ、製品を受け取る。 この取引には売買がありません。しかし条文は、これを輸入取引とみなし、委託者を買手、受託者を売手とみなし、加工賃を「現実支払価格」とみなすと定めています。

そのうえで、条文はこう続きます。

この場合において、第一項第二号イ中「手数料(買付けに関し当該買手を代理する者に対し、当該買付けに係る業務の対価として支払われるものを除く。)」とあるのは、「手数料」とする。

買付手数料の除外が外れます。

つまり委託加工取引では、通常なら加算しない買付手数料も加算対象になります。この一文を見落としたまま通常取引と同じ処理をすると、申告漏れになります。

そして委託加工では、送った原料そのものが第三号イの加算対象です。加工賃+支給原料の価値+運賃、これらを積み上げたものが課税価格になります。加工賃だけで申告していれば、当然足りません。

海外委託加工は日本の製造業で広く行われています。この条文構造を知らずに運用している現場は、実際にあります。

前回の記事との関係

前回はファーストセールで課税価格を下げる話をしました。今回は足す義務の話です。

一見すると逆方向ですが、実は同じ構造をしています。

ファーストセール 加算要素
方向 下げる 上げる
立証責任 輸入者(前提を覆す側) 輸入者(正しく申告する義務)
必要なもの 取引の実態を示す書類 提供物・支払いの網羅的な把握
事故の形 認められず追徴 加算漏れで追徴

どちらも、申告額が実態と一致していることを説明できるかが問われます。前々回の記事で書いた「実態が伴っていれば設計、伴っていなければ偽装」という線は、ここでも同じです。

そして皮肉なことに、ファーストセールを使って課税価格を下げている会社ほど、加算要素の漏れが目立ちます。下げる方向には関心が向くのに、足す方向は誰も指摘しないからです。事後調査では両方が同時に見られます。

実務としてどう潰すか

加算漏れは「知らなかった」で起きるので、知る仕組みを作るのが対策になります。

1. 取引先に「渡しているもの」を棚卸しする。

購買部門ではなく、技術部門と品質部門に聞くのが要点です。金型、治具、検査ゲージ、図面、仕様書、支給材、試作部品。無償で渡しているものは、購買のシステムに載っていません。

2. 契約書のロイヤルティ条項を洗う。

法務が管理している契約書に、輸入品と紐づくロイヤルティがないか。その支払いが「その商品を買うための条件」になっていないか。

3. 委託加工の取引を別扱いにする。

第4条第3項の適用がある取引を特定し、加工賃だけで申告していないかを確認する。買付手数料の除外が外れる点も含めて。

4. 判断が割れるものは事前教示にかける。

日本の税関の事前教示制度は、関税分類だけでなく課税価格も対象です。米国のCBP binding ruling も同様です。

5. そして通関士の確認を受ける。

課税価格の判断は通関の専門領域です。この記事の内容を自社の取引に当てはめる際は、必ず通関士および事前教示制度を通してから運用に移してください。最終的な申告責任は輸入者にあります。

輸出管理側から見ると

加算要素の把握で問われるのは「取引先に何を渡しているか」です。

そして輸出管理でも、まったく同じ問いが別の目的で発生します。技術・設計・図面を海外へ提供する行為は、日本では外為法第25条の役務取引に該当しうるからです。関税では加算要素として、輸出管理では技術提供として、同じ図面が二重に効いてきます

金型を海外の工場へ送る。図面を渡す。仕様を伝える。関税の担当者は「加算対象か」を考え、輸出管理の担当者は「該非判定と許可が要るか」を考える。そして多くの会社で、この2つは別々の部門が別々に把握しています——結果として、どちらかが漏れます。

TRAFEED が担当できるのは輸出管理側です。提供する技術・設計が該非判定でどう扱われるか、提供先が各国の規制リストに該当しないか、その判断の根拠をどう残すか。関税の加算要素そのものは扱いませんが、「海外に何を渡しているか」の棚卸しは、両方の入口として共通です。現状の体制を確認したい方は、3分の無料診断からどうぞ。

まとめ

  • 課税価格を下げる手法は知られているが、事故が多いのは足す義務の側。しかも支払いが発生していないので帳簿に出てこない
  • 日米の加算要素は構造がよく似ている(WTO関税評価協定が土台)。ただし運賃・保険料は日本が加算し、米国は原則加算しない
  • 最も漏れるのは買手が無償提供したもの。日本は第4条第1項第三号(材料・工具・鋳型・消費物品・技術設計)、米国は 19 U.S.C. 1401a(b)(1)(C) の assists
  • 米国の地理的限定は (iv) の技術・設計にしか付いていない。材料・工具・金型・消費物品には限定がなく、米国製の金型を無償提供すればアシストに該当する(19 CFR 152.103(d) Example 2)。「米国内のものは対象外」と一括りに覚えると金型で事故る
  • 加算は義務(shall be increased)でリストは閉じている(and no others)。そして加算額を裏付ける情報がなければ取引価額そのものが使えなくなる——追徴より重い結果になりうる
  • ロイヤルティは必ず加算ではない。「輸入取引をするために」支払われるものか、が分かれ目。日本には「本邦において複製する権利を除く」という明示的除外もある
  • 買付手数料は原則加算しない。ただし関税定率法第4条第3項の委託加工では、この除外が外れる
  • 委託加工は加工賃が「現実支払価格」とみなされ、支給原料は第三号イの加算対象。加工賃だけで申告していれば足りない
  • 課税価格の判断は通関の専門領域。事前教示制度と通関士を通すこと

このシリーズ


参考文献

  1. 関税定率法 第4条(課税価格の決定の原則)— e-Gov法令検索(明治四十三年法律第五十四号)— https://laws.e-gov.go.jp/law/143AC0000000054
  2. 19 U.S.C. § 1401a — Value — Legal Information Institute, Cornell Law School — https://www.law.cornell.edu/uscode/text/19/1401a
  3. 19 CFR 152.103 — Transaction value((d) の設例を含む)— eCFR — https://www.ecfr.gov/current/title-19/chapter-I/part-152/subpart-E/section-152.103
  4. What Every Member of the Trade Community Should Know About: Customs Value — U.S. Customs and Border Protection(Informed Compliance Publication, July 2006)— https://www.cbp.gov/sites/default/files/assets/documents/2020-Feb/ICP-Customs-Value-2006-Final.pdf
  5. 事前教示制度 — 日本税関 — https://www.customs.go.jp/
  6. CROSS(Customs Rulings Online Search System)— U.S. Customs and Border Protection — https://rulings.cbp.gov/

※ 本記事の条文引用は2026年8月2日時点のものです。条文は改正されます。実務に適用する際は現行条文を確認のうえ、通関士および税関の事前教示制度を通してください。最終的な申告責任は輸入者にあります。

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