株式会社TIMEWELLの濱本 隆太です。
前職のパナソニック時代、中国向けにある製品を出そうとしたときの話です。完成品のまま送ると関税が想像以上に高くつくことが分かり、構成を組み替えました。部品の単位に分け、シンガポールを経由させ、中国側で組み立てる。結果として、負担はかなり下がりました。
製造業では珍しい話ではありません。むしろ、輸出入の実務に長くいる人ほど「そういう組み方がある」ことを知っています。ただ、この領域にははっきりした法的な線があり、そこを踏み越えると設計ではなく偽装になります。そして2025年以降、その線を越えた事案への執行が明確に強まっています。
この記事では、関税額がどう決まるのか、パターンによってどれくらい変わるのか、そしてどこまでが設計で、どこからが偽装なのかを整理します。数字は仕組みを説明するための試算例として示し、法的な線引きは米国の一次情報で確認した内容だけを書きます。
関税額を決めているのは3つの要素だけ
米国CBP(税関・国境警備局)は、商業輸入の一件ごとの納付額を3つのデータから計算すると説明しています。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| HTSコード | 品目分類。何として申告するか |
| 原産地(Country of Origin) | どこの国の産品として扱われるか |
| 申告価格(Declared Value) | いくらとして申告するか |
この3つだけです。逆に言えば、関税負担を左右できる余地もこの3つにしかありません。
そして製造業が実際に動かせるのは、多くの場合HTSコードと原産地です。完成品として送るか部品として送るかで品目分類が変わり、どこで実質的な加工をするかで原産地が変わる。冒頭の「部品に分けて経由させる」という話は、この2つを同時に動かしていたわけです。
ここで注意すべきなのは、3つのうちどれを偽っても同じ結果になるということです。CBPの摘発対象は、原産地の虚偽申告だけでなく、品目の誤分類(misclassification)と過少申告(undervaluation)を並べて挙げています。「原産地だけ気をつければいい」という話ではありません。
試算例:同じ製品を3パターンで送ると
仕組みを具体的に見るため、単純化した試算例を置きます。税率は説明のための仮定値であり、実際の税率は品目・時期・協定によって変わります。自社の数字を出すときは必ず現行の関税率表で確認してください。
前提:製造原価100万円の産業機械。完成品としてのHTS分類では関税率25%、主要部品単位では7.5%が適用されると仮定します。
| パターン | 課税対象 | 適用税率(仮定) | 関税額 | 追加コスト |
|---|---|---|---|---|
| A. 完成品で輸出 | 100万円 | 25% | 25万円 | — |
| B. 部品に分けて輸出し、仕向国で組立 | 100万円 | 7.5% | 7.5万円 | 現地組立費・管理工数 |
| C. 部品を第三国へ送り、そこで加工してから仕向国へ | 100万円 | 加工の内容次第 | 判断次第 | 物流費・在庫・リードタイム |
AとBの差は17.5万円、率にして7割の削減です。1台ならともかく、年間500台なら8,750万円の差になります。製造業がこの設計に真剣になる理由はここにあります。
ただし、この表で本当に重要なのは**Cの「加工の内容次第」**という欄です。ここが、設計と偽装を分ける場所です。
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「実質的変更」がすべてを決める
第三国を経由させたとき、その国が原産地になるかどうかを決めるのが**実質的変更(substantial transformation)**という考え方です。
米国CBPの基準はこうです。加工によって、新しい名称(name)・特性(character)・用途(use)を持つ別の物品が生まれたか。
そして重要なのは、次の点です。
単純な組立・梱包・ラベル貼りは、原則として原産地を変えない。
「現地で組み立てているのだから、その国の産品だ」という理解は、そのままでは通用しません。判断の実務では、(1) 投入された部品が同一性を失い、新しい製品の不可分な一部になっているか、(2) その国で行われた作業がどの程度のものか、という2点が決め手になるとされています。
同じ工場で組んでも、モデルごとに結論が分かれた
この領域の難しさを最もよく表しているのが、米国の国際貿易裁判所(CIT)で争われた Cyber Power Systems (USA) Inc. v. United States です。
事案はこうです。原告はフィリピンの自社工場で、主に中国産の数百点の部品からUPS(無停電電源装置)を組み立て、フィリピン原産として輸入しました。争点は、フィリピンでの工程が実質的変更にあたるかどうか。
裁判所の結論は、6モデルのうち1モデル(CP600LCDa)だけがフィリピン原産、残り5モデルは中国原産というものでした。
同じ会社、同じ工場、同じような組立工程です。それでもモデルによって結論が分かれた。この一点だけで、「うちは現地で組んでいるから大丈夫」という自己判断がいかに危ういかが分かります。
さらにこの判決は、CBPがそれまで多くの原産地判断で使っていた考え方を退けています。「部品の多数がどこ産か」で決める見方も、「本質を与える重要部品がどこ産か」で決める見方も、裁判所は採りませんでした。判決は、部品を1つずつ見ていく方法を突き詰めると、後工程国での組立が実質的変更として認められることが事実上ほぼ不可能になってしまう、という趣旨の指摘もしています。
つまり判断基準そのものが安定していない領域だということです。だからこそ、自己判断で走らず、後述する事前教示を使う意味があります。
どこからが違法か
ここまでは合法な設計の話です。線を越えるのは、実態が伴わないのに原産地を偽って申告する場合です。
CBPは2025年12月18日付で、第三国を経由させて真の原産地を隠す手口が増えているとして注意喚起を出しています。対象として挙げられているのは、アンチダンピング税・相殺関税、Section 301関税、Section 232関税、その他の通商制限の回避です。
そして執行体制が変わりました。2025年8月、DOJ(米司法省)・DHS(国土安全保障省)・CBPの合同で Trade Fraud Task Force が設置されています。CBPの税関執行権限、HSI(国土安全保障捜査局)の犯罪捜査能力、DOJの民事・刑事の執行手段を組み合わせた枠組みです。
そして2026年7月14日、DOJはこのタスクフォースによる制裁金等が10億ドルを超えたと公表しました。
優先対象として明示されているのは、積替え(transshipment)・誤分類・過少申告・原産地の虚偽申告による Section 301関税およびAD/CVDの回避です。冒頭で述べた「3つのデータ」がそのまま摘発の切り口になっていることが分かります。
具体的な事案も出ています。2025年12月、ある米国企業が、中国産の超硬切削工具を第三国経由で輸入しSection 301関税を回避したとされる件で和解しています。
ここで大切なのは、「第三国を経由させること」自体は違法ではないという点です。物流上の必要から経由地を使うことは日常的にあります。違法になるのは、実質的変更がないのに経由国を原産地として申告する場合です。行為ではなく、申告が実態と一致しているかが問われています。
実務としてどうするか
判断が分かれうる構成の製品を扱うなら、自己判断で押し切らないことです。使える制度があります。
米国:CBPの事前教示(binding ruling) 輸入前に、品目分類や原産地の判断について書面で回答を得られる制度です。得られた回答は記録として残せます。
日本:税関の事前教示制度 関税分類・原産地・課税価格について、事前に文書で回答を得られます。
そして、最終的な申告の責任は輸入者にあります。原産地の判断、HSコードの選択、価格の申告——いずれも「そう聞いたから」では通りません。通関士など専門家の確認を受け、判断の根拠を記録として残してください。この記事の内容も、貴社の具体的な取引に当てはめる際は、必ず通関士・税関の事前教示を通してから実行に移すことをおすすめします。
実務で押さえるべき点を整理すると、次のようになります。
- HSコードの選択根拠を文書で残す。 「なぜこの分類にしたか」を後から説明できる状態にしておく
- 原産地判断の根拠を工程ベースで記録する。 どの部品がどこ産で、どの国でどんな加工をしたか。工程表と対応づける
- 判断が微妙な製品は事前教示にかける。 Cyber Power のようにモデル単位で結論が分かれることがある以上、製品ごとに確認する
- 輸出管理の該非判定と混同しない。 関税は「いくら払うか」、該非判定は「そもそも出してよいか」。別々に判断が要る
最後の点は特に混同されやすいところです。HSコードで関税分類が決まっても、それは輸出管理上の該非判定とはまったく別の作業です。日本なら輸出令別表第一、米国ならCCLのECCNへの当てはめが別途必要になります。両方を並行して見ないと、片方は通ったのにもう片方で止まる、ということが起こります。
TRAFEEDでできること、できないこと
正直に書きます。TRAFEED は輸出管理のAIエージェントであり、現時点で関税額の試算や原産地判断を行う機能は持っていません。この記事で扱った「どう送ると関税がいくらになるか」の判断は、通関士の業務領域です。
一方で、地続きの部分はあります。TRAFEEDが行っている品目の分類(該非判定)と、関税分類(HSコード)は、同じ製品仕様を別の基準に当てはめるという点で構造が似ています。この延長線上で、品目情報から関税分類の候補を示し、原産地判断に必要な工程情報を整理する——といった支援は、ロードマップとして検討している領域です。
現時点でお役に立てるのは、輸出管理側です。取引先が各国の規制リストに該当しないか、製品が該非判定でどう扱われるか、その判断の根拠をどう残すか。ここは今すぐ支援できます。自社の輸出管理体制に不安がある方は、3分の無料診断から現状を確認してみてください。
まとめ
- 関税額を決めるのはHTSコード・原産地・申告価格の3つだけ。製造業が動かせるのは主に前の2つ
- 完成品で送るか部品で送るかで負担は大きく変わる。試算例では税率25%と7.5%の差で7割の削減(税率は仮定値。実際は品目・時期・協定で変わる)
- 第三国での加工で原産地が変わるのは、**実質的変更(新しい名称・特性・用途を持つ別の物品が生まれること)**にあたる場合だけ。単純な組立・梱包・ラベル貼りは原則として原産地を変えない
- Cyber Power 判決では、同じ工場・同じような組立でも6モデル中5モデルが中国原産と判断された。 判断基準そのものが安定していない領域であり、自己判断は危険
- 違法になるのは経由させること自体ではなく、実態が伴わないのに原産地を偽って申告すること。 DOJのTrade Fraud Task Forceは2026年7月時点で制裁金等が10億ドルを超えており、積替え・誤分類・過少申告・原産地虚偽が優先対象
- 実務では事前教示制度(米国CBPのbinding ruling/日本の税関事前教示)を使い、判断の根拠を記録に残す。最終的な申告責任は輸入者にあり、通関士の確認を受けること
- 関税の分類と輸出管理の該非判定は別物。 片方をクリアしてももう片方は別に確認が必要
制度を理解したうえでサプライチェーンを設計することは、まっとうな企業努力です。ただ、その設計が実態として規則を満たしているか、そして申告が実態どおりかを説明できる状態にしておくこと。この2つが揃っていれば、設計は設計のままでいられます。
自社の輸出管理まわりで整理したいことがあれば、個別のご相談からお声がけください。関税・通関そのもののご相談は通関士の領域になりますが、輸出管理と隣接する部分については一緒に整理できます。
このシリーズの続き
関税額を決める3要素のうち、この記事ではHTSコードと原産地を扱いました。残りは別の記事で整理しています。
- 靴底のフェルトとX-メンは人間ではないという主張|品目分類を設計して関税を下げる手法と、その限界 — HTSコードそのものを設計する話。コンバースのフェルト底、マーベルのX-メン判決、そして tariff engineering の限界
- 米国関税の課税価格を下げる「ファーストセール」|代表判例に日商岩井の名がついている理由 — 申告価格を下げる話。商社経由の三層取引で、工場の売値を課税価格にできる条件
参考文献
- Cyber Power Systems (USA) Inc. v. United States — U.S. Court of International Trade — https://www.cit.uscourts.gov/sites/cit/files/23-24.pdf
- Cyber Power Sys. (USA) Inc. v. United States, 471 F.Supp.3d 1371 (Ct. Int'l Trade 2020) — U.S. Court of International Trade
- "Substantial Transformation" — U.S. Court of International Trade — https://www.cit.uscourts.gov/sites/cit/files/Substantial%20Transformation.pdf
- A Resource Guide to Trade Fraud Enforcement — U.S. Department of Justice — 2026年7月 — https://justice.gov/fraud/media/1452331/dl?inline=
- CROSS(Customs Rulings Online Search System)— U.S. Customs and Border Protection — https://rulings.cbp.gov/
- Harmonized Tariff Schedule of the United States — U.S. International Trade Commission — https://hts.usitc.gov/
- 事前教示制度 — 日本税関 — https://www.customs.go.jp/
※ 本記事の試算例における税率は、仕組みを説明するための仮定値です。実際の税率・分類・原産地の判断は、品目・時期・適用される協定によって変わります。実務に適用する際は、現行の関税率表を確認のうえ、通関士および税関の事前教示制度を通してください。本記事の内容は2026年8月2日時点で確認した公開情報に基づきます。






