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米国の800ドル免税枠はもう無い|「一時停止」から「無期限停止」へ、小口輸出の実務がどう変わったか

公開2026-08-02濱本 隆太

米国の800ドル以下免税(de minimis)は、2025年8月29日に大統領令14324で停止され、2026年6月24日には国際郵便以外の全モードについて「無期限停止」の規則(91 FR 37789)が発効しました。何が停止され、何が残っているのか。贈答品と旅行者の携帯品は影響を受けません。サンプル・修理返送・展示会品・越境ECの実務がどう変わったかを、一次情報で整理します。

米国の800ドル免税枠はもう無い|「一時停止」から「無期限停止」へ、小口輸出の実務がどう変わったか
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株式会社TIMEWELLの濱本 隆太です。

米国向けに小口の荷物を送っている会社から、こういう相談を受けることが増えました。

「800ドル以下は免税でしたよね。あれ、一時停止でしたっけ。もう戻ったんでしたっけ」

戻っていません。そして「一時停止」でもなくなりました。

2026年6月24日、国際郵便以外の全モードについて、無期限停止の規則が発効しています。

この記事では、何がどう変わったのかを一次情報で整理します。関税シリーズのこれまでの記事は「どう申告するか」の話でしたが、今回はそもそも申告が必要になったという話です。

そもそも de minimis とは何だったのか

根拠は 19 U.S.C. § 1321 です。条文の趣旨は、税関がこう説明しています。

徴収できる税額に対して不釣り合いなほどの費用と手間を政府にかけないようにするため、行政上の免除を設ける

つまり、少額の荷物に通関の手間をかけるのは割に合わないから省略しよう、という制度です。徴税の効率のための規定であって、貿易を促進するための優遇ではありません。ここは意外と誤解されています。

この条文には3つの類型があります。

条項 内容
§1321(a)(2)(A) 真正な贈答品(bona fide gifts)
§1321(a)(2)(B) 旅行者に随伴する身の回り品・家財
§1321(a)(2)(C) 商業貨物向けの行政免除(800ドル以下)

停止されたのは**(C)だけ**です。ここが実務上とても重要なので、後述します。

何がいつ止まったのか

時系列を、原文を確認したうえで並べます。

2025年7月30日:大統領令14324 署名

正式名称は "Suspending Duty-Free De Minimis Treatment for All Countries"(全ての国に対する免税de minimis措置の停止)。

効力発生は原文で "12:01 a.m. eastern daylight time on August 29, 2025" と指定されています。

対象は 19 U.S.C. 1321(a)(2)(C) の免除で、**「価額・原産国・輸送モード・通関方法を問わず」**適用されます。根拠法として国際緊急経済権限法(IEEPA、50 U.S.C. 1701 et seq.)、国家緊急事態法、1974年通商法604条が挙げられています。

国際郵便経由の貨物については別の扱いが定められ、実効IEEPA税率に基づく従価税か、国の税率区分に応じた1個あたり80〜200ドルの特定税かのいずれかが課される仕組みになっています。

2026年2月20日:大統領令14388・14389

14388が停止の継続、14389が一部の関税措置の終了です。

2026年6月24日:無期限停止の規則

91 FR 37789-37801(第91巻第120号)、2026年6月24日公示・同日発効。

正式名称は "Indefinite Suspension of the De Minimis Exemption for Merchandise Arriving Through All Modes Other Than the International Postal Network"

SUMMARYの原文はこうです。

"This document amends the U.S. Customs and Border Protection (CBP) regulations to implement an indefinite suspension of the de minimis administrative exemption for imports valued at $800 or less arriving via all modes other than through the international postal network."

**「無期限(indefinite)」**という語が使われています。期限を定めた停止ではなくなった、ということです。

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何が残っているか

ここが実務で最も重要です。すべてが止まったわけではありません。

2026年6月の規則は、次の2つに影響しないと明記しています。

  • 19 U.S.C. 1321(a)(2)(A) の真正な贈答品の免除
  • 19 U.S.C. 1321(a)(2)(B) の旅行者に随伴する身の回り品・家財の免除

そして国際郵便ネットワーク経由の貨物は、この規則の対象外です(19 CFR 145.31 で別途規律されます)。

整理するとこうなります。

類型 現状
商業貨物(クーリエ・航空貨物・海上貨物など郵便以外) 停止(無期限)
国際郵便経由 別の規律(大統領令14324で特定税・従価税の仕組み)
真正な贈答品 影響なし
旅行者の携帯品・家財 影響なし

ただし、贈答品の免除は「真正な(bona fide)」ものに限られます。商業出荷を贈答品として送るのは、免除の濫用にあたります。19 U.S.C. 1321(b) は、歳入の保護や不法輸入の防止のために必要な場合の例外を認めており、そういった扱いへの手当ても制度上あります。

実務がどう変わったか

これまで de minimis で簡易に通っていた荷物が、ACE(Automated Commercial Environment)で適切なentry typeを使った通関の対象になりました。

具体的にぶつかるのは、こういう類型です。

  • サンプル送付 — 顧客への見本、評価用の試作品
  • 修理返送 — 故障品の引き取り、修理後の返送
  • 展示会用の見本 — 会期に合わせた出荷
  • 越境ECの個口出荷 — 消費者向けの直送
  • 部品の緊急出荷 — ライン停止を避けるための少量空輸
  • 保守用パーツ — 現地での交換部品

金額が小さいから簡単、ではなくなりました。1件ごとに、HTSコードの特定・原産地の申告・課税価格の算定が必要になります。そして関税と各種手数料が発生します。

つまり、このシリーズでこれまで書いてきたこと——品目分類原産地課税価格——が、少額の荷物にも全部かかってくるということです。

見落とされやすい影響

金額の話より、運用の話の方が実は重い。

1. 物流業者任せにしていた部分が自社の責任になる。

これまで「クーリエが良きに計らってくれていた」領域です。申告内容の責任は輸入者にあります。米国の輸入者が自社の現地法人であれば、責任は自社に返ってきます。

2. リードタイムが伸びる。

通関の手続きが増えれば、当然時間がかかります。緊急部品の空輸を「翌日着」で回していた運用は、見直しが必要かもしれません。

3. 商品マスタにHTSコードが要る。

1件ずつ都度調べるのは現実的ではありません。品目マスタにHTSコードを持たせる作業が、遅かれ早かれ必要になります。これは一度やれば資産になります。

4. 少額品の採算が変わる。

800ドル未満の商品に関税と手数料が乗ると、原価構造が変わります。越境ECでは価格設定そのものに影響します。

5. 「サンプルだから」が通らない。

無償のサンプルにも課税価格の算定が必要です。無償だから0円、とはなりません。この点は加算要素の記事で触れた「支払っていないものをどう評価するか」と地続きです。

法律そのものが $800 を削除している

ここが、この記事で最も重要な部分かもしれません。

これまで見てきた停止は、すべて大統領令とそれに基づく規則によるものです。理屈のうえでは撤回されうる。

しかし法律の側でも、すでに改正が済んでいます。

合衆国法典 19 U.S.C. § 1321 のソースクレジット行には、こう記載されています。

Pub. L. 119–21, title VII, § 70531(a)(1), (b)(1), (2), July 4, 2025, 139 Stat. 283

そして改正注記によれば、この改正は (a)(2) から「(C) $800 in any other case」およびそれに続く一文を削除し、あわせて subsection (c) を削除するものです。

施行日は二段階になっています。

改正部分 施行日
§70531(a)(1) の改正 制定日(2025年7月4日)から30日後
§70531(b) の改正((C)の削除等) 2027年7月1日

つまり、$800という金額そのものが、2027年7月1日をもって条文から消えます。

大統領令による停止は撤回されうる措置ですが、条文から削除されたものは大統領令では戻せません。「そのうち元に戻るだろう」という前提で運用を据え置くのは、この一点だけでも成り立たないということです。

ついでに:$800 は上限ではなく下限だった

条文を読んでいて気づいた点を1つ。(a)(2) の柱書はこうなっています。

shall not exceed an amount specified by the Secretary by regulation, but not less than

免税の上限額は長官が規則で定める額であり、条文の $800・$200・$100 という数字はその下限として置かれていました。つまり $800 は「上限800ドル」ではなく「長官が定める額は800ドルを下回ってはならない」という構造です。

実務上ここを意識する場面は多くありませんが、制度の設計思想——徴税の効率のために行政に裁量を与える規定であって、貿易促進のための優遇ではない——がよく表れています。

何から着手するか

第1に、対象を洗い出す。

自社の対米出荷のうち、これまで800ドル未満で簡易に通っていたものを特定します。件数・頻度・金額を出す。ここが分からないと影響が見積もれません。

第2に、品目マスタにHTSコードを持たせる。

1件ずつ都度調べる運用は破綻します。よく出る品目から順に、HTSコードを確定して登録していく。判断が割れるものは事前教示(CBP binding ruling)にかける。

第3に、原産地の根拠を整理する。

どの品目がどこ原産なのか、その根拠は何か。実質的変更の記事で書いたとおり、ここは自己判断が危ない領域です。

第4に、無償品の評価方法を決める。

サンプル・修理品・展示会品をいくらで申告するのか。ルールを決めて文書化しておく。都度の判断に任せると、申告がぶれます。

第5に、通関士に相談する。

de minimis 停止後の entry type の選択、必要書類、手数料の扱いは通関の専門領域です。この記事の内容を自社の出荷に当てはめる際は、必ず通関士および事前教示制度を通してから運用に移してください。

輸出管理側から見ると

小口だから輸出管理も簡単、ということはありません。むしろ逆です。

800ドル未満のサンプル1個でも、それが規制対象品目であれば該非判定と許可が必要です。金額の多寡は該非判定に一切関係しません。そして de minimis で簡易に通っていた時期は、輸出管理のチェックも一緒に省略されていた現場が少なくありません。

通関の手続きが増える今は、輸出管理側の運用も見直す機会でもあります。同じ品目マスタに、HTSコードと該非判定の結果を並べて持たせられれば、二度手間が減ります。

TRAFEED は輸出管理側を担当します。品目の該非判定、取引先の各種リスト照合、そして判断の根拠を残すところまで。小口出荷が多く、これまでチェックが手薄だった方は、3分の無料診断で現状を確認してみてください。

まとめ

  • 米国の800ドル免税(de minimis)は戻っていない。しかも「一時停止」ですらなくなった
  • 2025年7月30日 大統領令14324で全世界を対象に停止(発効:2025年8月29日 午前0時1分 東部夏時間)。根拠はIEEPA
  • 2026年6月24日、91 FR 37789-37801 が発効。国際郵便以外の全モードについて「無期限停止」
  • 残っているもの:真正な贈答品(§1321(a)(2)(A))、旅行者の携帯品・家財(同(a)(2)(B))。国際郵便は別の規律
  • 実務ではサンプル・修理返送・展示会品・越境EC・緊急部品が通常の輸入申告の対象に。1件ごとにHTSコード・原産地・課税価格が必要
  • 金額よりも運用の変化が重い。物流業者任せだった部分が自社の責任になり、リードタイムが伸び、品目マスタにHTSコードが要る
  • 法律の側でも改正済み。 Pub. L. 119-21 §70531(2025年7月4日、139 Stat. 283)が (a)(2)(C) の「$800 in any other case」を削除し、その施行日は2027年7月1日。大統領令は撤回されうるが、条文から消えたものは大統領令では戻せない
  • 「そのうち戻る」前提で運用を据え置くのはリスクが高い

このシリーズ


参考文献

  1. Executive Order 14324, "Suspending Duty-Free De Minimis Treatment for All Countries" — The White House — 2025年7月30日署名 — https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/07/suspending-duty-free-de-minimis-treatment-for-all-countries/
  2. Indefinite Suspension of the De Minimis Exemption for Merchandise Arriving Through All Modes Other Than the International Postal Network — U.S. Customs and Border Protection — 2026年6月24日公示・発効 — 91 FR 37789-37801 — https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2026-06-24/html/2026-12670.htm
  3. 19 U.S.C. § 1321 — Administrative exemptions(ソースクレジット行の Pub. L. 119-21, title VII, §70531(a)(1),(b)(1),(2), July 4, 2025, 139 Stat. 283 および Amendments・Effective Date of 2025 Amendment のノートを含む)— Legal Information Institute, Cornell Law School — https://www.law.cornell.edu/uscode/text/19/1321
  4. 19 CFR 145.31 — Importations not over $800 in value(国際郵便)— eCFR
  5. Notice of Implementation of the President's Executive Order 14324 — U.S. Customs and Border Protection — 2025年9月2日
  6. 事前教示制度 — 日本税関 — https://www.customs.go.jp/

※ 本記事の内容は2026年8月2日時点で確認した米国政府の一次情報に基づきます。制度は変更されます。実際の判断は当局の最新公表を正とし、通関士および事前教示制度を通してください。

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