こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
「図面を送ったのに、見積が返ってこない」。
調達や設計の担当者から、よく聞く話です。加工先が忙しいから、と思われがちですが、実際には先方が答えられない状態で止まっていることがほとんどです。
数量が分からないと段取り費を按分できません。表面処理の有無で工程が変わります。検査成績書が要るかどうかで工数が変わります。材料を支給するのかしないのかで、見積の構成そのものが変わります。図面には、これらが書かれていないことが多い。
この記事では、図面に添えるべき12項目を整理します。そのまま送れる様式も用意しました。
先に要点です。
- 見積が返らない理由の大半は、加工先が答えられない情報不足
- 一般の見積依頼書テンプレートは品名・数量・納期どまりで、加工品に必要な項目が無い
- 版数と数量と納期は、図面の外にある。 ここが抜けると必ず止まる
- 備考欄に書くと読み落とされる。項目として立てる
- 相見積ほど、秘密保持の扱いを明確にする
図面だけでは足りないものが、12ある
順に見ていきます。
1. 図面番号と版数。 最も重要です。版が違う図面で見積を取り、その版で発注してしまう事故は珍しくありません。「Rev.3」「B改」など、社内の表記をそのまま書いてください。差し替えたときは、旧版を回収したかどうかも記録に残します。
2. 材質と材料規格。 図面に書いてあることが多いですが、代替材を認めるかどうかは図面の外です。SS400指定で在庫がないとき、同等材で出してよいのか、確認を取ってほしいのか。ここを書いておくと確認の往復が1回減ります。
3. 材料の支給区分。 加工先に材料も手配してもらうのか、こちらが支給するのか。支給なら、いつ・どこへ・誰が運ぶのかまで。支給材の歩留まりの責任分界も、書けるなら書いておきます。
4. 数量とロットの考え方。 「10個」だけでは足りません。一度に10個なのか、月に10個を継続するのか。 段取り費の按分がまったく変わります。継続の見込みがあるなら、その前提で単価を出してもらえます。
5. 公差の扱い。 図面の一般公差で問題ないか、特に厳しい箇所があるか。加工先に「作りやすい形での提案」を求めるかどうかも、ここで書けます。VE提案を歓迎するなら、そう書いておくと出てきます。
6. 表面処理。 種類、膜厚、範囲、マスキングの有無。処理後の寸法変化を誰が織り込むかも決めておきます。「めっき後○○」なのか「めっき前○○」なのかは、毎回もめるところです。
7. 熱処理。 種類、硬度、範囲。熱処理による変形を見越した取り代が必要かどうか。
8. 検査要求と提出書類。 全数検査か抜き取りか。検査成績書、材料ミルシート、RoHSの非含有証明など、必要な書類を列挙します。これは工数に直結するので、後出しは禁物です。
9. 希望納期と、納期の性質。 「◯月◯日」だけでなく、動かせる納期か動かせない納期か。動かせないなら、その理由(客先の生産開始日など)を添えると優先度が伝わります。
10. 荷姿と納入先。 梱包の仕様、納入場所、分納の可否。数が多いものほど効いてきます。
11. 支給品の有無。 材料以外に、こちらから渡すもの(治具、部品、検具)があるか。貸与なのか消費なのかも。
12. 秘密保持の扱い。 秘密保持契約を締結済みならその旨と締結日。未締結なら、本図面は見積目的にのみ使用し、第三者への開示を禁じる旨を明記します。相見積で同じ図面を複数社に配るときほど重要です。
備考欄に書くと、読まれない
上の12項目を「備考」にまとめて書く人がいます。これはやめたほうがいいです。
受け取る側は、まず図面を見て、次に数量と納期を探します。備考欄は最後か、読まれないこともあります。長文の備考は特に読み飛ばされます。
項目として立てて、空欄なら「なし」と書く。「書いていない」と「無い」の区別がつく状態にしてください。これだけで確認の往復がかなり減ります。
同じ理由で、メール本文に条件を書くのも避けたほうがいいです。メールは転送され、引用が崩れ、担当者が変わると消えます。見積依頼書という1枚の形にして、図面と一緒に送ってください。
相見積のときに、気をつけること
複数社に同じ図面を送るとき、追加で注意が要ります。
全社に同じ条件を渡す。 当たり前のようですが、口頭で1社にだけ補足を伝えてしまうことがあります。それをやると比較になりません。
回答期限を明示する。 いつまでに欲しいかを書かないと、返信が揃いません。
秘密保持を明確にする。 相見積は、同じ図面が複数の会社に渡るということです。未締結の相手に図面を出す場合のリスクは、社内で共有しておいてください。図面には設計のノウハウが詰まっています。
不採用の連絡をする。 見積を出してもらって何も返さないのは、次回に響きます。加工先も見積に工数をかけています。
図面を外部に出すときの権利関係については、図面とAIの営業秘密の境界に別途書きました。
発注側の書面には、法律上の要件もある
もう一つ、実務として知っておくべきことがあります。
見積依頼のあとに実際に発注するとき、発注側には書面を交付する義務があります。給付の内容、下請代金の額、支払期日、支払方法など、記載すべき項目が定められており、書類の作成と保存も求められます。取引記録の保存期間は2年です1。
2026年1月1日に施行された改正では、製造委託の対象に「金型以外の型等」が追加されました。具体的には木型、工作物保持具(治具)、成形用の型、専用特殊工具です。従来は金型だけが対象でしたが、範囲が広がっています2。治具を作らせている会社は、自社の取引がこれに当たるか確認しておいてください。
また、型の無償保管についても整理されています。1年以上発注していない、廃棄や引取りの希望を伝えられている、今後1年の発注時期を示せない、再使用の予定がない。これらに当たる型を無償で保管させ続けるのは問題になりえます。所有権が加工先にあっても、実質的に発注側が管理していれば同じ扱いです2。
見積依頼の段階から、型や治具をどちらが持つのかを整理しておくと、後々のトラブルが減ります。
様式
この12項目を並べた加工品の見積依頼書(RFQ)様式を用意しました。Excelで、そのまま加工先へ送れる体裁です。
空欄を残さない作りにしてあります。該当しない項目は「なし」を選ぶ形にしたので、書き忘れなのか不要なのかが受け取る側に伝わります。 相見積用に、宛先と回答期限を差し替えるだけで使い回せます。
資料のダウンロードは、この記事の下の案内からどうぞ。
人が書き写している12項目は、図面の中にある
最後に、当社の製品の話を少しだけ。
いま挙げた12項目のうち、材質、公差、表面処理、熱処理、検査要求の5つは、もともと図面に描かれています。 見積依頼書を作る人は、図面を見てそれを書き写しているわけです。1件なら数分ですが、毎日何件も出す部署では、そこそこの時間になります。そして書き写すたびに、転記ミスの可能性が生まれます。
当社のエンタープライズAI「ZEROCK」は、図面からこれらの項目を読み取って、依頼書の下書きを作るところを支援しています。人がやるのは、図面の外にある項目(数量、納期、支給区分、秘密保持)を埋めて、読み取り結果を確認することです。
ただし、これも先に様式が決まっていることが前提です。項目が定まっていない状態で自動化しても、埋める先がありません。 まず様式を決めてください。
図面から見積そのものを起こす話は図面から見積を出すに、加工時間の積算は加工時間の見積もり計算に書いています。
まとめ
- 見積が返らないのは、加工先が答えられない情報不足であることが多い
- 図面に添えるべきは12項目。版数・数量・納期は図面の外にある
- 備考欄に書くと読まれない。 項目として立てて、該当なしは「なし」と書く
- 相見積は、同条件・期限明示・秘密保持・不採用の連絡をセットで
- 発注書面には法律上の記載事項があり、取引記録は2年保存。2026年1月から治具や木型も対象に
- 図面に描いてある項目は、読み取って下書きにできる。ただし様式を先に決めること
見積依頼の様式づくりや、図面からの読み取りについてのご相談は、お問い合わせからどうぞ。
参考文献
Footnotes
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製造委託等に係る取引の適正化に関する法律(取適法)リーフレット(公正取引委員会、令和7年8月)。発注書面の記載事項、書類の作成・保存義務と保存期間2年は同資料による ↩
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取適法改正のポイント(中小企業庁、2025年10月14日 説明会資料)。2026年1月1日施行の改正で製造委託の対象に「金型以外の型等」(木型・工作物保持具・成形用の型・専用特殊工具)が追加された旨、および型の無償保管に関する整理は同資料による ↩ ↩2






