こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
受注のとき、客先から図面が届きます。メールの添付、共有フォルダのリンク、紙、たまにFAX。この図面をそのまま現場に流してしまう会社は、思った以上に多いと思います。
そして起きるのが、こういう事故です。旧版で作ってしまい、全数やり直し。 読めない指示のまま進めて、納品時に違うと言われる。仕事が終わったあと、返却義務があったことに気づく。再委託したら、それが契約違反だった。
どれも、受け取った直後の数分で防げる類のものです。この記事では、支給図面を受領してから着手するまでに見る12点を並べます。受領台帳の様式も用意しました。
先に要点です。
- いちばん高くつく事故は、旧版で作ること。 受領時の版数記録で防げる
- 支給図面は所有権が相手にある。 目的外使用と再委託に制限がかかる
- 返却または廃棄の義務と、製造記録を残す必要が衝突することがある
- 読めない・分からないは、着手前に聞く。 着手後に聞くと立場が悪くなる
受領したら見る12点
まず、図面そのものを見る(1〜5)
1. 図面番号と版数。 最重要です。版が入っていない図面を受け取ったら、それが最新かを必ず確認してください。 「前回と同じ」と言われても、前回がいつでどの版かを記録と突き合わせます。
2. 受領日と受領経路。 いつ、どこから受け取ったか。メールなら送信者と日時、共有フォルダならダウンロードした日時。あとで「送った」「届いていない」が起きたときに効きます。
3. 図面が全部そろっているか。 組図だけで部品図がない、部品表に載っているのに図面がない、断面の参照先が欠けている。枚数と図番の一覧を突き合わせます。
4. 読めるか。 スキャンが粗くて寸法が判読できない、FAXでつぶれている、PDFの解像度が足りない。読めないまま進めないでください。 読み替えて作ると、その責任はこちらに来ます。
5. 指示が理解できるか。 特殊な記号、客先固有の社内規格の参照、意味の取れない注記。「たぶんこういう意味だろう」で進めない。
次に、仕事として成立するかを見る(6〜9)
6. 作れるか。 自社の設備で加工できる形状か。できないなら、外注するのか、断るのか、代案を出すのか。受注してから気づくと、選択肢が減ります。
7. 買えるか。 指定材料が手に入るか。特殊材や廃番部品が指定されていないか。納期が読めるか。
8. 測れるか。 指示された公差を、自社または外注先で測定できるか。検査成績書を求められている場合、その測定ができないと納品できません。
9. 数量・納期・支給品の条件が明確か。 図面の外にある情報です。ここが曖昧なまま着手すると、あとで条件が動きます。見積依頼の段階で揃えるべき項目は加工品の見積依頼書の書き方に整理しました。
最後に、権利と義務を見る(10〜12)
10. 秘密保持の状態。 契約が締結済みか。締結済みなら契約番号と締結日を記録に残します。未締結で図面だけ先に届くことはよくあります。 その場合、着手前に取り交わすか、少なくとも取扱いの条件を書面で確認してください。
11. 再委託の可否。 一部の工程を外に出す場合、それが認められているか。秘密保持契約で再委託が禁止または事前承諾制になっていることがあります。 熱処理やめっきを外注に出すのは当たり前の工程ですが、契約上は「第三者への開示」に当たりえます。
12. 返却・廃棄の義務。 契約終了後に返却するのか、廃棄するのか、廃棄したことを証明するのか。ここは受領時に確認しておかないと、後で困ります。
旧版で作る事故が、いちばん高くつく
12点のうち、実害の大きさで言えば版数管理が突出しています。
旧版で作ると、全数がやり直しになります。材料も、加工時間も、場合によっては納期も失います。そして「なぜ旧版で作ったのか」という話になったとき、受領の記録がなければこちらの管理不備として処理されます。実際には客先が改訂版を送っていなかったのだとしても、それを示せなければ同じことです。
防ぎ方は単純です。
受領時に版数を記録する。 台帳に1行足すだけです。
社内に配る図面には、受領日と版数を必ず併記する。 現場に回るコピーにも。
改訂版を受け取ったら、旧版を回収するか廃版の表示をする。 ここが抜けると、現場に2つの版が並びます。古いほうを誰かが手に取ります。
紙で運用している場合は、旧版に斜線を引いて「廃版」と書くだけでも効果があります。電子ファイルなら、旧版を別フォルダに移してファイル名に「廃版」を入れる。完璧なシステムより、誰でも一目で分かる印のほうが現場では効きます。
返却義務と、記録を残す必要は衝突する
これは実務でよく詰まるところです。
秘密保持契約には、契約終了後に図面を返却または廃棄し、その旨を証明するという条項が入っていることがあります。一方で、製造した製品については、製造物責任の観点から一定期間、設計と製造の記録を残しておく必要があります。製造物責任法は引渡しから10年で請求権が消滅すると定めていますが、人身被害の場合は「知った時から5年」という別の期間もあります1。
つまり、図面を返して手元に何も残っていない状態で、10年後に「この部品はどういう仕様でしたか」と聞かれる可能性があります。
対処は受注時に決めておくしかありません。よくある整理は次のとおりです。
- 図面の原本は返却するが、製造記録(検査結果、工程記録、使用材料のロット)は自社で保存する
- 図面そのものを保存する必要がある場合は、その旨を契約に書いておく
- 廃棄の証明を求められる場合、何を廃棄し何を残したかを明示する
いずれにしても、曖昧なまま「たぶん捨てなくていいだろう」で持ち続けるのは避けてください。 預かっているものを黙って持ち続けている状態になります。
保存年限の全体像は図面の保管期間は何年かに整理しました。
分からないことは、着手前に聞く
最後に、当たり前だけれど守られていないことを書きます。
読めない、分からない、確認したいことは、着手する前に聞いてください。
着手前なら、「確認させてください」は普通のやり取りです。着手後だと、「なぜ今さら」になります。納品時だと、「なぜそう作ったのか」になります。同じ質問でも、聞くタイミングで立場がまったく変わります。
そして、聞いた内容と回答は記録に残してください。メールで聞いてメールで返してもらう。電話で済ませた場合は、内容をメールで送って確認を取る。口頭の合意は、後から消えます。
受領台帳に「確認事項」の欄を作っておくと、これが自然にできます。
受領台帳
この12点を記録できる支給図面の受領台帳を用意しました。図番、版数、受領日、受領経路、秘密保持の状態、再委託の可否、返却・廃棄の区分、確認事項と回答、承認欄の構成です。
改訂版を受け取ったときに旧版の処置を記録する欄も付けました。取引先の品質監査で図面管理を聞かれたときに、そのまま出せる体裁です。資料のダウンロードは、この記事の下の案内からどうぞ。
受領した図面を、探せる状態にしておく
当社の製品との関わりを書いておきます。
台帳をつけること自体は、Excelでできます。 大事なのは仕組みより運用で、受領のたびに1行足す習慣がつけば、それで目的の8割は達成されます。
当社のエンタープライズAI「ZEROCK」が関われるのは、その先です。台帳と図面が溜まってくると、今度は探すのが大変になります。「去年やったあの客先の、似た形状の部品」「この材質で、この公差を要求されたときに何を確認したか」。図番では引けない探し方が必要になります。
過去の受領記録と確認事項を横断して引けるようにしておくと、同じ質問を2回しなくて済みます。 これは客先から見ても印象が違います。
図面の管理そのものについては図面管理とPLM・PDMに、権利関係については図面とAIの営業秘密の境界に書いています。
まとめ
- 支給図面を受け取ったら、着手前に12点を見る
- いちばん高くつくのは旧版で作る事故。 受領時の版数記録と、旧版の回収で防げる
- 支給図面は所有権が相手にある。 目的外使用と再委託に制限がかかる
- 返却・廃棄の義務と、製造記録を残す必要は衝突しうる。 受注時に整理しておく
- 読めない・分からないは着手前に聞く。 聞いた内容は記録に残す
- 台帳は Excel で十分。溜まってきたら、探せるようにする
図面の受領管理や、過去の記録を引けるようにする話は、お問い合わせからご相談ください。
参考文献
Footnotes
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製造物責任法(平成六年法律第八十五号)第5条(e-Gov法令検索)。損害賠償請求権は、被害者等が損害および賠償義務者を知った時から3年(人の生命または身体を侵害した場合は5年)、製造業者等が製造物を引き渡した時から10年で時効により消滅する旨は同条による ↩






