こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
「加工時間 見積 計算方法」で検索すると、出てくるのは切削条件の計算式です。主軸回転数は切削速度と直径から、送り速度は1刃あたりの送りと刃数と回転数から。工具メーカーや商社が丁寧に解説しています。
ところが、見積を作る人が本当に困っているのはそこではありません。切削条件が分かっても、見積の金額は出ません。
必要なのは「この図面の部品を1個作るのに、機械と人が何分占有されるか」で、そこには段取りも、工具交換も、測定も、手待ちも入ります。そして時間を金額に直すためのチャージレートが要ります。この記事は、その積み上げ方を書きます。
先に要点です。
- 見積の時間は「段取り+加工+測定」。切削時間は加工の一部にすぎない
- 段取りはロットで1回、加工と測定は1個ごと。だからロットが小さいほど単価が上がる
- チャージレートは、設備費と人件費を実績の稼働率で割る。100%で割ると必ず赤字になる
- 内訳を出せる状態にしておくと、価格交渉が「お願い」ではなく説明になる
見積の時間は、切削時間ではない
最初に整理します。加工の1個あたりにかかる時間は、おおむねこう分解できます。
段取り時間。 図面を読む、材料を用意する、治具を付け替える、プログラムを呼び出して原点を出す、試し削りをして寸法を確認する。これはロット全体で1回です。10個作っても100個作っても、段取りは基本的に1回。
加工時間。 実際に機械が動いている時間。ここに切削条件の計算が効きます。ただし正味の切削時間だけでなく、早送りの移動、工具交換、ワークの着脱も入ります。これは1個ごとにかかります。
測定時間。 寸法を測る、記録を付ける。全数検査なら1個ごと、抜き取りなら頻度に応じて按分します。
この3つを足したものが、その部品に機械と人が占有される時間です。そして1個あたりの加工費は、こうなります。
1個あたりの加工費 = 段取り時間 × レート ÷ ロット数 +(加工時間 + 測定時間)× レート
ここから、小ロットの見積が高くなる理由がそのまま出てきます。 段取りに1時間かかる部品を10個作るなら、1個あたり6分の段取りが乗ります。100個なら0.6分です。同じ図面でも、数量で単価が変わるのは値付けの都合ではなく、式にそう書いてあるからです。
客先から「なぜ前回より高いのか」と聞かれたとき、この式を出せるかどうかで会話がまったく変わります。
チャージレートを、自分で出す
時間を金額に直すのがチャージレートです。1時間あたりいくらか。
分解すると、**機械にかかる費用(マシンチャージ)と人にかかる費用(マンチャージ)**に分かれます。呼び分けずに合算で持っている会社も多いですが、分けておくと「無人で回せる工程」と「人が張り付く工程」を区別できます。
マシンチャージに入るもの。 設備の減価償却費、設置している面積ぶんの家賃、電力、保守と修繕、切削油、工具の消耗。
マンチャージに入るもの。 オペレーターの人件費(給与だけでなく法定福利費と賞与を含む)、間接部門の人件費の配賦、事務所の費用。
これらを年間で合計し、年間の稼働可能時間で割ります。 ここが一番間違えやすいところです。
年間の営業日が240日、1日8時間なら1,920時間。この数字で割ってはいけません。 段取り替えの時間、保全の時間、仕事がない時間、不良のやり直し。実際に「お金になる時間」は、これよりずっと少ないはずです。
稼働率が70%なら1,344時間。同じ費用を1,920で割るか1,344で割るかで、レートは1.4倍違います。100%で計算したレートで見積を出し続けると、忙しいのに利益が出ない状態になります。心当たりのある方は、まずここを疑ってください。
なお、チャージレートは1つではありません。5軸のマシニングと汎用旋盤では設備費が違います。設備ごと、あるいは工程グループごとに持つのが基本です。
見落としやすい時間を、先に列挙しておく
見積が実際より安くなるのは、たいてい時間の数え落としです。よくあるものを挙げます。
工具交換と工具の準備。 プログラム上の工具交換時間だけでなく、必要な工具を探して段取り台に並べる時間。特殊工具の発注が要るなら、そのリードタイムも納期に効きます。
材料の準備。 定尺から切り出す、端材を探す、材料の受け入れ検査。支給材の場合は受領と確認の手間。
初物の確認。 最初の1個を作って寸法を測り、必要なら補正をかける。この「初物」にかかる時間は段取りに含めるか、別枠で持ちます。
測定の記録。 検査成績書を求められる場合、測定そのものより記録の作成に時間がかかることがあります。
手待ち。 熱処理やめっきに出している間、次の工程に入れない時間。工程間の滞留は加工時間ではありませんが、納期には効きます。
やり直し。 一定の確率で発生します。見積に不良率を織り込むかどうかは会社の方針ですが、織り込まないなら、実績で回収できているかを別途見る必要があります。
これらを毎回ゼロから思い出していると、人によって見積がばらつきます。チェックリストにしてしまうのが早いです。この記事の下に、そのまま使える計算シートを置きました。
数字を出せると、価格交渉が変わる
ここは実務として大事なので、少し丁寧に書きます。
原材料費や電力費、人件費が上がったときに、取引先へ価格の見直しを申し入れる。このとき「厳しいので上げてください」だけでは通りません。何がいくら上がって、その結果この部品の原価がいくら変わったのかを示せるかどうかで、結果が変わります。
中小企業庁は、この交渉のための資料を公開しています。価格交渉ハンドブックでは、確認項目として「業務フローと見積チェックリストを作成しているか」「製品・サービス単位での原価計算ができているか」「自社の事業特性をふまえた見積書のひな型があるか」が挙げられています1。また、労務費・原材料費・エネルギー費を分けて示すためのコスト費目別価格交渉フォーマットが様式として配布されています2。
つまり、行政の側が「作れ」と言っていて、様式まで用意してあるわけです。そして3月と9月は価格交渉促進月間として、発注側にも働きかけが行われています。
ここで効いてくるのが、この記事で書いた積み上げです。時間×レートの形で原価を持っていれば、「最低賃金が上がったのでマンチャージが◯円上がり、この部品は加工に△分かかるので単価が□円上がる」という説明ができます。感覚ではなく計算です。
逆に、原価が一式でしか分かっていないと、この説明ができません。価格交渉に強い会社とそうでない会社の差は、交渉の技術ではなく、原価の分解ができているかどうかだと思っています。
計算シート
この記事の内容をそのまま埋められる形にした加工時間積算シートを用意しています。工程ごとに段取り・加工・測定の時間とチャージレートを入れると、1個あたりの加工費とロット別の単価が出ます。見落としやすい時間のチェック欄も付けました。
そのまま客先に見積の根拠として出せる体裁にしてあるので、価格交渉の場でも使えます。資料のダウンロードは、この記事の下の案内からどうぞ。
手で積み上げたあとに、自動化を考える
ここまでの手順は、全部手で回せます。実際、多くの会社が見積担当者の頭の中でやっています。問題は、それが1人か2人の頭にしか無いことです。
その人が忙しいと見積が止まります。その人が辞めると、根拠が消えます。新しい人が入っても、同じ精度で出せるようになるまで何年もかかります。加工時間の見積もりは、技能伝承の問題でもあります。
当社のエンタープライズAI「ZEROCK」は、この積み上げを図面から起こすところを支援しています。過去の類似図面と、そのときの実績時間を引いてきて、今回の図面の見積の出発点を作る。ゼロから積むのではなく、過去の実績から差分で考える形です。
ただし、はっきり書いておきます。このやり方が効くのは、手で積み上げる手順が社内で決まっている場合だけです。人によって見積の出し方が違う状態でAIを入れても、ばらついた結果が速く出るだけになります。先に手順を決める。自動化はそのあとです。
図面まわりの話は、図面から見積を出すと製造業の原価計算にも書いています。あわせて読んでみてください。
まとめ
- 見積の時間は「段取り+加工+測定」。切削時間は加工の一部にすぎない
- 段取りはロットで1回、加工と測定は1個ごと。小ロットが高いのは式にそう書いてあるから
- チャージレートは実績の稼働率で割る。100%で割ると忙しいのに利益が出ない
- 見落としやすい時間(工具準備、材料、初物、記録、手待ち、やり直し)はチェックリストにする
- 時間×レートで持っていれば、価格交渉が説明になる。 中小企業庁が様式まで配っている
- 自動化は、手順を決めたあと
自社の見積の出し方を整理したい、属人化を解きたいという方は、お問い合わせからご連絡ください。
参考文献
Footnotes
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中小企業・小規模事業者の価格交渉ハンドブック(中小企業庁、令和8年1月改定)。「業務フロー」と「見積チェックリスト」の作成、製品・サービス単位での原価計算、見積書のひな型の整備が確認項目として挙げられている旨は同ハンドブックによる ↩
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価格交渉・転嫁の支援ツール(中小企業庁)。コスト費目別価格交渉フォーマット(労務費・原材料費・エネルギー費を分けて示す様式)は同ページで配布されている。背景となる指針は労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針(公正取引委員会) ↩






