株式会社TIMEWELLの濱本 隆太です。
TRAFEEDをお使いのお客様から、こんな質問をいただきました。
そもそも、該非判定でもない事前確認シートって何なんですか
これはいい質問だと思いました。輸出管理の帳票は名前が似ていて、しかも会社ごとに呼び方が違います。「該非判定書」「非該当証明書」「取引審査票」「需要者チェックリスト」、そして「事前確認シート」。全部が同じ手続きの一部なのに、どれが何のためのものかを説明できる人は、実務担当者でも意外と少ない。
結論から言うと、事前確認シートは「この取引を、そもそも審査の土俵に乗せるか」を決めるための足切りです。該非判定の前に置かれます。
もうひとつ先に言っておきます。この書類は大学だけのものではありません。 名前が条文で明文化されているのは大学・研究機関向けのモデル規程ですが、同じ機能は企業にも法令で求められています。名前が違うだけです。この記事では大学と企業の両方について、なぜこの手続きが要るのかを経済産業省の一次資料で整理します。
先に結論
- 事前確認シートは該非判定ではない。「取引審査の手続が必要かどうか」を判断するための入口の書類
- 見るのは2点。相手先に関する懸念情報と、例外規定(公知の技術、基礎科学分野の研究活動における技術)の当てはまり
- 経済産業省のモデル規程では、第10条 事前確認、第11条 該非判定、第12条 用途確認、第13条 需要者確認、第14条 取引審査、第15条 許可申請 の順で並ぶ
- 取引審査に乗ることが明らかな場合は省略できると明記されている。ここに、この書類の性格がはっきり出ている
- 企業にも同じ機能が義務づけられている。 輸出者等遵守基準は「用途及び需要者等の確認を行う手続を定め、手続に従って確認を行うこと」を求めている。担当者の判断任せにするな、という要求
- 「濃淡管理」は経産省の公式用語ではない(一次資料に「濃淡」の語は無い)。ただし濃淡をつける仕組みは制度に用意されている
事前確認シートとは何か
出典は、経済産業省が公開している「大学・研究機関のためのモデル安全保障輸出管理規程 マニュアル」です1。ここに条文と解説が載っています。
(事前確認)第10条 教職員等は、技術の提供又は貨物の輸出を行おうとする場合は、別途定める「事前確認シート」に基づき、相手先に関する懸念情報及び例外規定(公知の技術、基礎科学分野の研究活動における技術)の適用判定等について確認を行い、取引審査の手続の要否について、部局管理責任者の承認を得なければならない。ただし、取引審査を行う必要があることが明らかな場合は、「事前確認シート」による事前確認を省略することができる。
条文が短いので、要素を分解します。
| 要素 | 中身 |
|---|---|
| いつ使うか | 技術の提供または貨物の輸出を行おうとする場合(つまり最初) |
| 何を確認するか | ① 相手先に関する懸念情報 ② 例外規定の適用判定(公知の技術、基礎科学分野の研究活動における技術) |
| 何を決めるか | 取引審査の手続の要否 |
| 誰が承認するか | 部局輸出管理責任者。承認後、輸出管理責任者へ送付して確認を受ける |
| 省略できるか | できる。取引審査を行う必要があることが明らかな場合 |
同じマニュアルの第8条には、部局管理責任者が「事前確認シートの承認者であると共に、取引審査の一次審査者、該非判定審査者」となると書かれています。つまり事前確認は、担当者が一人で完結させる書類ではなく、組織として「審査に乗せるかどうか」を意思決定する記録です。
該非判定の属人化を、AIで解消する。
経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDの機能・導入フローをまとめたサービスカタログを無料でダウンロードできます。
なぜ該非判定の「前」なのか
ここが質問の核心だと思います。該非判定こそが輸出管理の本丸なのに、なぜその手前にもう一段あるのか。
理由は単純で、全部の取引を同じ深さで審査していたら回らないからです。
大学を例にすると分かりやすい。研究者が海外の共同研究先にメールで論文の図表を送る、学会で発表する、留学生に実験装置の使い方を教える。これらは形式的にはすべて「技術の提供」に当たり得ます。全件に該非判定書を起票して用途確認と需要者確認をかけていたら、研究活動が止まります。
一方で、そのなかには本当に規制に当たるものが混ざっている。だから入口で仕分ける。それが事前確認です。
条文の但し書きが、この性格をよく表しています。
ただし、取引審査を行う必要があることが明らかな場合は、「事前確認シート」による事前確認を省略することができる
どうせ審査に乗るものは、入口で仕分ける意味がない。 事前確認シートは審査そのものではなく、審査の対象を絞るための道具だと、条文が自ら言っています。
「濃淡管理」の正体
実務では「輸出管理は濃淡をつけて回す」という言い方をよく聞きます。私も使います。ただ、この記事を書くにあたって一次資料を確認したところ、経済産業省の資料に「濃淡」という語は出てきませんでした。
安全保障貿易管理ガイダンス[入門編]第3.0版(令和8年3月)2、輸出管理への入門(令和7年度委託事業)3、そして先ほどのモデル規程マニュアル1。いずれも全文を検索しましたが、「濃淡」「メリハリ」「リスクベース」のいずれもゼロ件です。
つまり**「濃淡管理」は実務用語であって、制度上の呼称ではありません**。とはいえ、濃淡をつけること自体が我流というわけでもない。濃淡をつけるための仕組みは、制度の側にきちんと用意されています。
| 仕組み | 何を軽くするか | 根拠 |
|---|---|---|
| 事前確認 | そもそも取引審査に乗せるかを絞る | モデル規程 第10条 |
| 明らかガイドラインシート | 需要者要件の確認で「明らかなとき」を判断する | 補完的輸出規制に関する輸出手続等の通達 |
| 例外規定 | 公知の技術、基礎科学分野の研究活動における技術を外す | 外為令・関連通達 |
| 各種特例 | 少額特例など、取引の性質で手続を軽くする | 輸出令ほか |
濃淡は「手を抜くこと」ではありません。どこを厚く見るかを決めるために、薄くてよいところを制度の根拠に基づいて薄くするという話です。根拠なく省略すれば、それは単なる手抜きになります。この違いは監査で必ず問われます。
経済産業省が示す帳票の体系
ガイダンス[入門編]には、取引審査を「適切かつ効率的に行う」ための帳票として次の5点が挙げられています2。
- 該非判定書
- 用途チェックリスト
- 需要者チェックリスト
- 明らかガイドラインシート
- 取引審査票
大学・研究機関向けのモデル規程では、これに加えて次のような帳票の例が示されています1。
- 技術の提供・貨物の輸出の事前確認シート
- 外国人(留学生・研究者・教員・訪問者等)受入れの事前確認シート
- 特定類型該当者(学生・研究者・教員で外国人以外)受入れの事前確認シート
- 審査票(技術の提供・貨物の輸出用と、外国人・特定類型該当者の受入れ用の2種類)
- 「用途」チェックシート、「需要者」チェックシート、明らかガイドラインシート
- 該非判定票、外国為替令の関連項目等と技術の仕様(性能)の対比表、誓約書
事前確認シートが3種類あることに注目してください。取引そのものだけでなく、人を受け入れる場面にも事前確認が置かれています。技術は人を通じて出ていくからです。
なお、これらの帳票について経産省自身が「一つの参考例を示したものであり、実際の活用に当たっては、組織の特質・運用に合わせて、各大学・研究機関に委ねられます」と明記しています。様式が法定されているわけではない、という点は押さえておいてください。会社ごとに名前が違うのは、そのためです。
企業の場合はどうなるのか
ここまで大学・研究機関のモデル規程を読んできました。「うちは企業だから関係ない」と思われたかもしれません。関係あります。名前が違うだけです。
企業に課されているのは、外為法第55条の10に基づく輸出者等遵守基準(平成21年経済産業省令第60号)です。これは努力義務ではなく義務で、2段構成になっています2。
すべての輸出者等の基準
- 輸出等を行う貨物等がリスト規制貨物・技術に該当するか否かを確認する責任者を定めること
- 輸出等の業務に従事する者に対し、最新の法令の周知その他必要な指導を行うこと
リスト規制貨物・技術を扱っている輸出者等の基準(抜粋)
- 該非確認に係る手続を定めること
- 用途及び需要者等の確認を行う手続を定め、手続に従って確認を行うこと。 用途及び需要者の確認に必要な情報を需要者以外から入手する場合には、信頼性を高めるための手続を定め、当該手続に従って確認を行うこと
- 出荷時に、該非を確認した貨物等と一致しているか確認を行うこと
注目していただきたいのは、**「手続を定め、手続に従って」という言い回しです。省令は「確認しろ」とは言っていません。「手続として定めたうえで、その手続どおりに確認しろ」**と言っています。
つまり、担当者が経験と勘で「この取引先は大丈夫だろう」と判断する状態は、省令が求める形になっていません。 誰が見ても同じ手順を踏める形に落とし、記録が残ること。事前確認シートは、その要求を満たす具体形の一つです。
なぜ企業では名前が表に出にくいのか
経産省が企業向けに示している帳票は、前述の5点(該非判定書・用途チェックリスト・需要者チェックリスト・明らかガイドラインシート・取引審査票)で、ここに「事前確認シート」はありません。
理由は、企業は取引の単位がはっきりしているからだと考えています。受注があり、仕様があり、出荷先がある。だから入口の仕分けは取引審査票の冒頭や出荷前チェックに統合しやすく、独立した書類にならなくても回ります。
一方、大学は違います。共同研究のメール、学会発表、留学生への指導、装置の共同利用。「取引」という形をとらない技術の提供が大量に発生するので、入口で仕分ける手続きを独立させないと、そもそも何を審査対象にするのかが決まりません。モデル規程が事前確認シートを明文化しているのは、そのためだと読めます。
ですから企業の方は、「うちには事前確認シートが無い」ではなく、**「うちでは入口の仕分けを、どの書類のどこでやっているか」**を確認してみてください。取引審査票の1ページ目にチェック欄として埋まっていることが多いはずです。どこにも無ければ、そこが穴です。
内部規程(CP)は任意、遵守基準は義務
混同されやすいので整理しておきます。輸出管理内部規程(CP)は法的な規制ではなく、自主管理を強化するための任意のものです2。一方、輸出者等遵守基準は義務です。
CPには経産省への届出制度があり、届け出て適切と判断されると、包括許可が取得可能になる、制度改正のメールが配信される、自主管理体制を整備した企業として経産省のサイトに掲載される(希望者のみ)といった利点があります。ただし届出企業には、努力義務とされている監査・研修・子会社指導・文書管理を確実に実施することが求められます。
「CPを作っているから大丈夫」ではなく、遵守基準を満たしているかが先です。
該非判定書との違いを、一枚で
質問の元に戻ります。事前確認シートと該非判定書は、見ているものが根本的に違います。
| 事前確認シート | 該非判定書 | |
|---|---|---|
| 問い | この取引を審査に乗せるか | この貨物・技術は規制に該当するか |
| 見る対象 | 相手先と取引の性質 | モノ・技術の仕様 |
| 突き合わせる先 | 懸念情報、例外規定 | 輸出令別表第1/外為令別表の項番 |
| 出てくる答え | 取引審査が要る/要らない | 該当/非該当(+項番) |
| 位置 | モデル規程 第10条 | モデル規程 第11条 |
| 省略 | 審査に乗ることが明らかなら省略可 | 省略できない(判定が結論そのもの) |
よくある誤解が「事前確認シート=簡易版の該非判定」というものです。違います。簡易版ではなく、別の問いに答える書類です。事前確認をいくら丁寧にやっても該非判定の代わりにはなりませんし、逆に該非判定を先にやっても、相手先の懸念情報は分かりません。
自社で回すときに決めておくこと
ここからは実務の話です。事前確認を機能させるために、最低限これだけは決めておく必要があります。
1. 「明らかに審査が要る」の線引きを、文書にする
条文が省略を認めているのは「取引審査を行う必要があることが明らかな場合」です。この「明らか」を誰がどう判断するのかを決めていないと、省略が恣意的になります。 仕向地、取引先の属性、扱う品目のカテゴリなどで、社内の基準を書いておく。
2. 事前確認の記録を残す
省略した場合も含めて、「なぜ審査に乗せなかったのか」を残します。監査で聞かれるのは、審査した案件ではなく審査しなかった案件です。
3. 相手先の懸念情報を、どこで取るかを決める
事前確認の中身の半分はここです。外国ユーザーリスト、各国の制裁リスト、資本関係。担当者が個人の判断で「大丈夫そう」と書ける状態にしない。 参照先と手順を決めて、結果を記録に残す形にします。
4. 例外規定の当てはめを、担当者任せにしない
「公知の技術」「基礎科学分野の研究活動における技術」は、当てはまれば大きく手続きが軽くなる分、判断を誤ると外れ方も大きい。ここは組織として基準を持つべき部分です。
私たちが担っている部分
TRAFEEDは輸出管理AIエージェントとして、この流れのうち2か所を担えます。
1. 該非判定の調査と、判定書の作成
仕様から項番を突き合わせ、根拠を提示した状態で該非判定書・非該当証明書の形にするところまでを扱います。属人化しやすく、外為法違反の過半が起因する工程です。
2. 事前確認シートによる調査
事前確認シートが求めるのは、詰まるところ相手先に関する懸念情報です。TRAFEEDはこの調査そのものを実行します。取引先・共同研究先・受入れ人材について、外国ユーザーリスト、各国の制裁リスト、資本関係やその先の実質支配まで遡って確認し、根拠つきで結果を返します。
これは大学・研究機関でも企業でも同じです。大学であれば事前確認シートの「相手先に関する懸念情報」の欄を、企業であれば取引審査票の需要者欄や出荷前チェックを、担当者の記憶ではなく調査結果で埋められるようにするためのものです。前述のとおり、遵守基準が求めているのは「手続を定め、手続に従って確認する」ことなので、誰がやっても同じ手順・同じ深さで確認され、記録が残るという形にできること自体に意味があります。
課金は席数ではなく従量制にしています。輸出管理の判断は専任担当者の席だけで起きるものではなく、営業・技術・調達・研究室といった現場で起きるからです。事前確認は特にそうで、入口に置く手続きである以上、入口に立っている人が使えなければ意味がありません。
該非判定書の様式そのものは、記入ガイド+様式セットとして無料で配布しています。まずは自社・自機関の帳票体系を点検するところからでも構いません。
まとめ
- 事前確認シートは該非判定ではない。「取引審査に乗せるかどうか」を決める入口の書類
- 見るのは相手先の懸念情報と例外規定の当てはまりの2点
- 経産省のモデル規程では 事前確認、該非判定、用途確認、需要者確認、取引審査、許可申請 の順
- 取引審査に乗ることが明らかなら省略できると条文が明記している。足切りの道具だから
- 「濃淡管理」は実務用語で、経産省の公式用語ではない。ただし濃淡をつける仕組み(事前確認・明らかガイドライン・例外規定・特例)は制度に用意されている
- 企業も無関係ではない。 輸出者等遵守基準(義務)が「用途及び需要者等の確認を行う手続を定め、手続に従って確認を行うこと」を求めている。担当者の勘で判断する状態は、この形になっていない
- 内部規程(CP)は任意、遵守基準は義務。「CPがあるから大丈夫」ではない
- 帳票の様式は法定されていない。参考例であり、組織に合わせてよい
最初の質問に短く答えるなら、こうなります。事前確認シートは、該非判定をやるべき取引を選び出すための書類です。 これがないと、全件を同じ深さで審査するか、逆に基準なく省略するかの二択になります。どちらも続きません。
大学の方は、モデル規程の第10条がそのまま設計図になります。企業の方は、入口の仕分けを自社のどの書類のどこでやっているかを確認するところから始めてみてください。どこにも無ければ、そこが穴です。
該非判定と事前確認シートによる調査の仕組み化については、お問い合わせからご相談ください。
Footnotes
-
経済産業省「安全保障貿易に係る機微技術管理ガイダンス(大学・研究機関用)」関連資料『大学・研究機関のための モデル安全保障輸出管理規程 マニュアル』(令和元年5月)。第10条(事前確認)の条文および解説、第8条の部局輸出管理責任者の権限、帳票の例の一覧は同資料による。https://www.meti.go.jp/policy/anpo/daigaku/manual.pdf ↩ ↩2 ↩3
-
経済産業省『安全保障貿易管理ガイダンス[入門編]第3.0版』(令和8年3月)。取引審査に用いる帳票5点(該非判定書、用途チェックリスト、需要者チェックリスト、明らかガイドラインシート、取引審査票)、明らかガイドラインシートの位置づけ、輸出者等遵守基準の2段構成と各項目、輸出管理内部規程(CP)が任意であることと届出制度の利点は、いずれも同資料による。輸出者等遵守基準の根拠法令は外為法第55条の10および輸出者等遵守基準を定める省令(平成21年経済産業省令第60号)。https://www.meti.go.jp/policy/anpo/guidance/guidance.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4
-
経済産業省委託事業『安全保障の輸出管理への入門』(令和7年度)。本稿では「濃淡」等の語の有無を確認するために全文を参照した。https://www.meti.go.jp/policy/anpo/seminer/shiryo/anpo_level1.pdf ↩






