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クラウド越しにGPUを使わせることは「輸出」になるのか|米国RASA法案と、日本の外為法に同じ穴はあるのか

公開2026-08-21濱本 隆太

チップの輸出は止められるのに、そのチップを回線越しに使わせることは止められない。この差はどこから来るのかを、米国EARの条文とBIS自身の見解、そして日本の外為法の条文から一次情報で整理します。米下院を2度通過したRASA法案の実際の中身と、日本に同じ空白があるのか、実務で何を確認すべきかまで扱います。

クラウド越しにGPUを使わせることは「輸出」になるのか|米国RASA法案と、日本の外為法に同じ穴はあるのか
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株式会社TIMEWELLの濱本 隆太です。

先日、輸出管理のご担当者からこんな質問をいただきました。「チップの輸出はあれだけ厳しく止めているのに、そのチップを海外から回線越しに使わせるのは、どうして止まらないんですか」

もっともな疑問です。しかも調べていくと、この問いは日本企業にとっても他人事ではありません。国内にデータセンターを建てて海外の顧客に計算資源を売る事業は、いま実際に増えています。

結論から言うと、計算能力を貸すこと自体は、日米いずれの制度でも輸出管理の対象になっていません。 ただしこれは「クラウドが野放し」という意味ではまったくなく、どこまでが空白でどこからが規制なのかには、かなりはっきりした線が引かれています。その線を条文で確かめていきます。

この記事の要点

  • 米国EARの「輸出」の定義(15 CFR §734.13)は、物が動くか、技術やソースコードが開示されるかを要求している。演算させることはどれにも当たらない
  • これは解釈の余地がある話ではなく、BIS自身が2009年に「計算能力の提供はEARの対象外」「顧客の国籍を確認する義務もない」と書面で回答している
  • RASA(Remote Access Security Act)は米下院を2度通過したが、いずれも上院で止まっており成立していない
  • RASAは「輸出」の定義を変えない。 「リモートアクセス」という並行の規制類型を新設する構造で、ここを誤解している解説が多い
  • 日本の外為法にも同じ空白がある。「貨物=動産」(第6条第1項第15号)という定義が決定的で、サーバーは動かない
  • ただしその上に載せるプログラムが特定技術なら該当しうる。役務通達の別紙1-2が、ストレージとSaaSを既に切り分けている
  • 報道されている第三国経由の利用は、現行制度の下で違法ではない。迂回や潜脱と書くのは事実に反する

なぜ米国の輸出管理では止められないのか

「輸出」の定義に、演算は入っていない

米国のEAR(輸出管理規則)は、15 CFR §734.13 で「輸出」を定義しています1。3つの類型があります。

  1. 米国外への実際の出荷または送信
  2. 米国内にいる外国人への「技術」またはソースコードの開示(みなし輸出)
  3. 一定の宇宙機の登録・支配・所有の移転

いずれも、物・ソフト・技術が国外へ動くか、技術が人に開示されるかを要求しています。GPUに計算させることは、このどれにも当たりません。

しかもこの定義は2016年6月の改正以降、一度も変わっていません。AIチップを狙ったECCN 3A090・4A090が新設されるより前の条文が、そのまま生きています。

みなし輸出には二重の限界がある

「外国人に使わせるなら、みなし輸出になるのでは」と思われるかもしれません。ここには限界が2つあります。

客体の限界。 対象は「技術」とソースコードだけです。条文はわざわざ「but not object code(オブジェクトコードは除く)」と書いています。GPUを貸しても、技術もソースコードも渡っていません。

場所の限界。 ②の類型は、外国人が「in the United States」にいることを要件にしています。深圳から回線越しに使う利用者は、文言上そもそも対象外です。

補強すると、§734.15 が定義する「release」は、外国人が技術を視認することや、外国人との口頭・書面のやりとりを指しています。チップのノウハウを見せることを捉える規定であって、チップに計算させることを捉える規定ではありません。

よくある誤解:「§734.18にクラウド適用除外がある」

これは誤解です。§734.18(a)(5) は、自分の技術やソフトを、非機密で、エンドツーエンド暗号化し、FIPS 140-2準拠のモジュールを使い、特定の国に意図的に保管しない、という条件で送受信・保管することを「輸出ではない」としています。暗号化した自分のデータを国境越しに置く話であって、計算能力を借りる話ではありません。

そもそも§734.18には "cloud" という語が一度も出てきません。これはBIS自身が公の場で「規制文言に cloud という語は使っていない」と述べています。

決定打はBIS自身の回答

ここまでは条文の読み方の話ですが、この論点にはもっと直接的な根拠があります。BISが2009年1月13日付のアドバイザリー・オピニオンで、正面から答えているのです2

質問1への回答が本件の核心です。

The service of providing computational capacity would not be subject to the EAR as the service provider is not shipping or transmitting any commodity, software, or technology to the user. (計算能力を提供するサービスはEARの対象とならない。サービス提供者は、いかなる貨物・ソフトウェア・技術も利用者に出荷または送信していないため)

さらに質問5では、こう踏み込んでいます。

the service provider is not required to inquire about the nationality of the customer. (サービス提供者は、顧客の国籍を確認する必要はない)

確認義務すら無いと明言しています。この文書は現在もBISのアドバイザリー・オピニオン索引に掲載されたままで、撤回されていません。2011年と2014年の後続オピニオンも同じ立場です。

ひとつだけ例外が残る点は、正確を期すために書いておきます。同じ回答の質問2で、EARの対象外のサービスであっても、§744.6(a)(2) が定める活動を支援すると知っている場合には、その規定が及びうるとされています。ただし§744.6(a)(2)が捉えるのはミサイルと化学・生物兵器に関わる活動であって、先端コンピューティングやAIは対象外です。

BISは官報で「穴」を認め、対応を先送りした

2023年10月25日の連邦官報で、BISは興味深い応答をしています3

パブリックコメントの提出者が「IaaSでスーパーコンピュータ規制が迂回されうる。2009年・2011年のオピニオンを踏まえてBISの意図を明確にせよ」と求めたのに対し、BISはこう答えました。

BIS is also concerned regarding the potential for China to use IaaS solutions to undermine the effectiveness of the October 7 IFR controls and continues to evaluate how it may approach this through a regulatory response. (BISもまた、中国がIaaSを用いて2022年10月7日暫定規則の実効性を損なう可能性を懸念しており、規制上の対応によってこれにどう取り組みうるかを引き続き検討している)

過去のオピニオンを否認する機会を与えられて、BISは否認しませんでした。 同じ規則で「どのような追加の規制または要件が必要か」をコメントに諮ってもいます。既存規制が及んでいないことを前提にした問いです。

議会側も同じ認識です。下院の中国共産党特別委員会は2026年4月の報告書で、こう書いています4

And restrictions on accessing such chips through the cloud are non-existent. (そしてクラウド経由でそうしたチップにアクセスすることへの規制は、存在しない)

該非判定の属人化を、AIで解消する。

経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDの機能・導入フローをまとめたサービスカタログを無料でダウンロードできます。

RASAとは何か

その空白を埋めようとしているのが、RASA(Remote Access Security Act)です。ただ、この法案は世間の解説とかなり違う姿をしています。

事実関係

会期 法案 提出者 提出日 下院本会議 現況
第118議会 H.R. 8152 Lawler下院議員(共・NY-17) 2024年4月29日 2024年9月9日可決(発声投票) 上院銀行委で廃案
第119議会 H.R. 2683 Lawler下院議員(共・NY-17) 2025年4月7日 2026年1月12日可決(369対22) 上院銀行委に係属
第119議会(上院版) S. 3519 McCormick上院議員(共・PA) 2025年12月17日 なし 付託後、動きなし

下院は2度可決していますが、いずれも上院で止まっており、成立していません。 2026年1月の記名投票の内訳は、共和党167対22、民主党202対0。反対22票はすべて共和党でした。

誤解されている点その1:「輸出」の定義は変わらない

多くの解説が「RASAはリモートアクセスを輸出とみなす法案だ」と書いています。これは正確ではありません。

RASAは2018年輸出管理改革法(ECRA)を改正する法案ですが、「export」の定義には手を触れません。代わりに「remote access」という並行の規制行為類型を新設し、大統領の規制権限・追加権限・ライセンス・罰則・執行の各条に横断的に差し込む構造をとっています。

下院可決版の定義規定はこうです5

the term 'remote access' means access on a purposeful, knowing, reckless, or negligent basis to an item subject to the jurisdiction of the United States under this Act by a foreign person through a network connection, including the internet or a cloud computing service, from a location other than where the item is physically located if the Secretary determines that the use of the item could pose a serious risk to the national security or foreign policy of the United States.

クラウド事業者自身を射程に入れているのは、権限規定に差し込まれた「or remotely access (including the provision thereof)」という文言です。アクセスする側だけでなく、提供する側も捕捉されます。

この違いは実務上も意味を持ちます。既存の「輸出」概念に読み込むのではなく別類型を建てるということは、既存の許可例外や適用除外がそのまま効くとは限らない、ということでもあります。

誤解されている点その2:対象は「懸念国」に限られていない

「RASAは中国・ロシア・イラン・北朝鮮を対象にする法案だ」という説明もよく見かけます。下院可決版はそうなっていません。

対象品目 対象者 リスク要件
2024年可決版 CCL掲載品、物理的所在を問わず any foreign person 列挙型
2026年可決版(現行) ECRA上の米国管轄item any foreign person 一般的な「重大なリスクを及ぼしうる」+主観要件
上院版S.3519(審議未了) CCL掲載品 懸念のある外国人に限定(中国・香港・マカオほか) 列挙型+「実証済み」

国の限定があるのは上院版だけです。 下院可決版は「a foreign person」で、限定がありません。

ややこしいことに、2026年1月12日の下院本会議では、議員自身が「懸念のある外国人、具体的にはロシア・イラン・北朝鮮・中国(香港・マカオを含む)」と説明しています。ですが可決したテキストにそうは書かれていません。議事録の説明と可決テキストが食い違っており、多くの二次記事がその取り違えを複製しています。 射程を確認するときは、必ず可決テキストにあたってください。

なお2024年可決版にあった「物理的所在を問わず」という文言、つまり米国内のデータセンターにあるチップにも及ぶという明示は、2026年可決版では落ちています。

反対論はどこにあるか

正直なところ、記録に残る組織的な反対はほとんどありません。委員会採決は51対0、本会議は369対22で民主党の反対はゼロ。両会期とも本会議で反対討論に立った議員はいません。

では懸念が無いのかというと、そうではなく、発言ではなく起草の履歴に現れています。 法案は動くたびに狭くなっているのです。

  • 2024年の本会議修正で、包括的だった定義がCCL紐づけと列挙型リスクに差し替えられた
  • 2026年の本会議修正で、主観要件が追加され、刑事責任の立証水準を下げない旨の留保が入り、包括条項が長官の判断要件に置き換えられた。米国経済への影響を議会に報告させる条項も加わった
  • 上院版はさらに狭い。対象を懸念のある外国人に限り、IaaSの定義をNIST SP 800-145に紐づけ、10年のサンセット条項を置き、プライバシーの最大化とコンプライアンス費用の最小化を明記した報告義務を課している

実質的な懸念の核心は、約20年続いた前提の反転にあります。 クラウド事業者は2009年のオピニオンを前提に体制を組んできました。BISは書面で「対象外」「国籍確認は不要」と伝えていたのです。RASAはこれをひっくり返します。

報道の読み方:これは「違反」ではない

2026年に入って、中国企業が第三国のデータセンター経由でNvidiaの計算資源を使っているという報道が相次いでいます。この話題を扱うときに、最も注意が必要な点があります。

現行の米国規制の下で、これは違法ではありません。

複数の専門家がそう述べていますし、報道自身も「現時点では違法ではない活動」と書いています。米国の輸出管理は物理的なチップに及ぶのであって、リモートアクセスには及ばない。ここまで見てきた条文の帰結そのものです。

ですので、この件を「迂回」「潜脱」「違反」と書くのは事実に反します。正確には「制度の射程外」「現行規制が及んでいない」です。私たちも記事や資料でこの表現を徹底しています。

もう2点、実務家として付け加えておきます。

個社を主語にした断定は避けるべきです。 報じられている内容の多くは匿名情報源に基づくもので、確定した違反も処分もありません。米国政府として公式に確認した事実もありません。仲介側の企業は実名で「適用されるすべての規制に完全に準拠している」と表明していますし、名指しされた企業のなかには、特定の一点についてのみ否定したところもあれば、そもそも公に応答していないところもあります。沈黙は否定でも肯定でもありません。

流通している数字にも留保が要ります。 「中国の計算資源へのアクセスを60%押し上げる」という推計をよく見かけますが、原典を読むと、著者自身が「1桁以上の幅を持つ範囲の下限であり、米国のライセンス方針の前提を変えれば約4倍にもなる」「どれだけの計算資源が貸し出されているかは、米国政府を含め誰も知らないというのが要点だ」と明示しています。数字だけを切り出すと誤伝になります。

日本の外為法に、同じ空白はあるのか

ここからが本題です。日本国内のGPUやデータセンターを、非居住者にクラウド経由で使わせる。これは外為法の許可対象になるでしょうか。

原則として、なりません。 根拠を条文の文言で示します。

「貨物の輸出」に当たらない

外為法第48条第1項は「貨物の輸出」に許可を要求します。その「貨物」の定義が決定的です。

第6条第1項第15号 「貨物」とは、貴金属、支払手段及び証券その他債権を化体する証書以外の動産をいう6

サーバーは国内に据え置かれたままで、動産の国外移動が一切生じません。ここで止まります。

「特定技術の提供」にも当たらない

第25条第1項の対象は「貨物の設計、製造若しくは使用に係る技術」です。では「技術」とは何か。実は貨物等省令にも外国為替令にも一般的な定義がなく、定義は役務通達に置かれています7

技術とは、貨物の設計、製造又は使用に必要な特定の情報をいう。この情報は、技術データ又は技術支援の形態により提供される

技術データは設計図・仕様書・マニュアル・プログラムなど、技術支援は技術指導・技能訓練・コンサルティングなどと定義されています。

計算資源の貸出しで提供されるのは「演算能力という便益」であって、技術データでも技術支援でもありません。 外国為替令第17条の別表も全16項が「輸出貿易管理令別表第一の◯の項の中欄に掲げる貨物の設計、製造又は使用に係る技術」という形式で、一貫して貨物に紐づいています。貨物に紐づかない「能力の提供」を捉える項目は存在しません。

役務取引にも、電気通信の規定にも当たらない

第25条第5項の役務取引として政令が指定しているのは、鉱産物の加工・貯蔵、放射線を照射した核燃料物質の分離・再生、放射性廃棄物の処理の3類型だけです(外国為替令第18条第1項)。計算資源は入っていません。

回線を捉える規定は第25条第3項にありますが、対象は「特定技術を内容とする情報の送信」であって、回線越しに演算させることではありません。しかも「本邦内にある電気通信設備からの送信に限る」という限定があります。非居住者が自分のデータを日本のサーバーへ送って処理させ、結果を持ち帰る形は、規制が想定している向きと逆です。

通達は既に「保管」を原則非該当としている

役務通達の別紙1-2は、クラウドについて2つの類型を明示的に切り分けています。

ストレージサービスについては、自らが使用するために情報を保管することのみを目的とする契約である限り、外国に設置されたサーバーに特定技術が保管される場合であっても、原則として役務取引に該当しないとしています。国外サーバーへの保管ですら原則非該当なのですから、国内サーバーに置いたまま演算させるだけの形が該当する構成は、現行解釈からは出てきません。

ただし、該当しうる場面は明確にあります

ここが最も大事なところです。計算資源の提供そのものが非該当でも、その上に載せるものが特定技術なら該当します。

1. SaaS型で提供するプログラムが特定技術のとき。 別紙1-2(2)は、サーバー上のプログラムをダウンロードさせずに利用できる状態にするサービスについて、提供を目的とする取引にあたると明記しています。「ダウンロードさせないから大丈夫」は免罪符になりません。役務通達は「提供とは、他者が利用できる状態に置くことをいう」と定義しており、利用できる状態に置いた時点で提供が成立します。GPUクラウドに規制対象プログラムをプリインストールして非居住者に使わせる形は、該当しうる典型です。

2. 顧客の特定技術を閲覧・取得・利用できると知りつつ契約したとき。 別紙1-2(1)のただし書きが、この場合は特定技術の情報を提供することを目的とする取引と「みなす」と明記しています。

3. サポートやチューニング支援が「技術支援」になるとき。 技術指導や作業知識の提供は、それ自体が技術の提供です。

4. 技術者が非居住者に技術データを送信するとき。 これはクラウドとは別問題として常に生きています。

つまり、空白なのは「計算資源そのものの提供」であって、クラウド全般ではありません。 「日本のクラウドは野放し」という理解は誤りです。

みなし輸出はこの穴を塞がない

2022年5月に施行された、いわゆる「みなし輸出」の明確化はどうでしょうか。及びません。 理由は3つ、いずれも通達の文言から出ます。

第一に、特定類型は「自然人である居住者に限る」と明記されています。みなし輸出は居住者への提供を非居住者への提供とみなす拡張であり、対象は日本国内にいる自然人です。非居住者はもともと第25条第1項の本体で捕捉されているので、みなし輸出の出番ではありません。

第二に、拡張したのは相手方の属性だけで、提供の客体は拡張していません。客体はあくまで特定技術のままです。計算資源が特定技術でない以上、相手が誰であっても掛かりません。

第三に、役務通達には「リモートアクセス」も「計算資源」も一度も出てきません。

みなし輸出は「人」の穴を塞ぐ制度であって、「計算資源」の穴を塞ぐ制度ではない、と整理するのが正確です。

なお、特定類型の中身自体もよく誤解されています。①は外国法人等との契約に基づき指揮命令に服する、または善管注意義務を負う者、②は外国政府等から年間所得の25%以上にあたる利益を得ている者、③は日本国内での行動について外国政府等の指示・依頼を受ける者です。「外国政府の支配下にある者」といった大づかみな理解で運用すると、判定を外します。

経済安全保障推進法でもカバーされていない

「基幹インフラの事前審査でクラウドが見られるのでは」という質問もいただきます。ここも確認しておきます。

経済安全保障推進法第50条第1項が定める特定社会基盤事業は、電気・ガス・石油・水道・鉄道・貨物自動車運送・外航貨物・港湾運送・航空・空港・電気通信・放送・郵便・金融・クレジットカードの15分野です。クラウドやデータセンターに相当する事業区分はありません。

「電気通信事業に含まれるのでは」と思われるかもしれませんが、実質的に含まれません。理由が2つあります。

政令が明示的に除外しています。 施行令は電気通信事業から「電気通信事業法第164条第1項各号に掲げる電気通信事業を除く」としており、その第3号は「他人の通信を媒介する電気通信役務以外の電気通信役務を、電気通信回線設備を設置することなく提供する電気通信事業」です。純粋なIaaS・PaaS・SaaSは他人の通信を媒介しないため、多くの場合ここに落ちます。

指定基準も限定的です。 第一種指定電気通信設備の設置者、国際海底ケーブルのシェア10%以上、5G開設計画の認定者、利用者6,000万人以上のメッセージ交換サービスの4類型で、クラウド・データセンター事業者は指定されていません。

クラウドがこの制度に登場するのは、指定事業者が使う特定重要設備の「構成設備」としてだけです。規制の主体は15分野の指定事業者側であって、クラウド事業者自身に届出義務は生じません。

ついでに言うと、ISMAPは法律ではありません。政府調達のための評価・登録制度であって、民間のクラウド利用を規律するものではない点は、混同されやすいので押さえておいてください。

2つの制度の棲み分け

外為法(安全保障貿易管理) 経済安保推進法 第3章
守るもの 技術・貨物が外へ出ること 基幹インフラ役務が止まること
規制の客体 貨物(動産)、特定技術(情報) 特定重要設備の導入・維持管理委託
規制の相手 輸出者・技術提供者 指定された特定社会基盤事業者
クラウド事業者 提供するプログラムが特定技術なら該当しうる 対象外(構成設備の提供者として間接的にのみ)

前者は「外へ出る技術」を、後者は「止まると困る国内インフラ」を見ています。「国内に置いたまま外国人に使わせる計算能力」は、その中間に落ちています。

日本での議論はどうなっているか

では日本政府がこの論点を見落としているのかというと、原文を読む限りそうではありません。切り口が違う、というのが実態に近いと感じます。

産業構造審議会の安全保障貿易管理小委員会が2024年4月にまとめた中間報告8を全文検索しましたが、「クラウド」「リモート」「計算資源」「データセンター」はいずれも出てきません。代わりに打ち出されたのは、別の軸でした。

時間的な経過に伴う軍事転用懸念は、貨物の取引に比して、技術の取引において顕著である。(中略)技術の取引に着目し、時間的経過を見据えた新たな管理強化の措置を講じるべきである。

これが「重要管理対象技術の官民対話スキーム」として実装されています。リモートアクセスではなく、時間軸で技術移転を捉える発想です。

一方、内閣官房の有識者会議が2026年1月にまとめた提言9には、隣接する論点が明確に出てきます。

データセンター及びクラウド上の大量のデータを防護するための措置等 (中略)我が国の外部から行われる行為からデータセンター及びクラウド上の大量のデータを防護するための措置の検討が必要である。

**着眼点が「技術へのリモートアクセス」ではなく「データの防護」**である点が、米国との決定的な違いです。しかも同じ提言は、こうブレーキもかけています。

現在投資が進みつつあるデータセンター建設等の事業活動を過度に阻害しないようにすることが必要である。このため、本規律については、引き続き丁寧に検討を行うことが必要である。

この制度は2026年6月公布の改正法には盛り込まれておらず、引き続き検討中です。「論点を認識していない」のではなく、投資促進とのバランスを取ったうえでの継続検討、と読むのが原文に忠実だと思います。

AI政策側はむしろ逆を向いています。2026年7月に閣議決定された人工知能基本計画は「計算資源」「データセンター」に繰り返し言及していますが、すべて振興・整備の文脈で、輸出管理への言及はありません。

ひとつ、正直に書いておきたいこと

ここまで「原則として該当しない」と書いてきましたが、これは消極的な論証です。

日米いずれについても、「計算資源の提供は該当しない」と明示的に述べた条文はありません。私が示したのは「該当するための要件を満たさない」という組み立てです。

米国には2009年のアドバイザリー・オピニオンという当局の明示的な見解がある分、根拠が強い。日本にはそれに相当する行政解釈が見当たりません。 ここは正直に非対称です。

ですので実務上は、自社の形態が別紙1-2のどちらに寄るのか、提供するプログラムに規制対象が含まれないか、サポート業務が技術支援に踏み込んでいないかを整理したうえで、個別に経済産業省へ確認するのが安全です。「たぶん非該当だから」で走らせる領域ではありません。

実務で何を確認すべきか

海外顧客に計算資源やSaaSを提供している、あるいはこれから提供する企業向けに、確認すべき点を整理します。

1. 自社のサービスが「保管」なのか「プログラムの提供」なのかを切り分ける。 別紙1-2はこの2つを明確に別扱いしています。GPUだけ貸しているのか、その上にソフトを載せて使わせているのかで、結論が変わります。

2. プリインストールしているソフトウェアの該非を確認する。 「ダウンロードさせていない」は理由になりません。利用できる状態に置いた時点で提供が成立します。ここは実際に見落とされやすい箇所です。

3. 顧客データへのアクセス権限を契約と実装の両面で確認する。 顧客の特定技術を閲覧・取得・利用できると知りながら契約すると、「みなす」規定が働きます。運用上アクセスできてしまう設計になっていないか、確認しておく価値があります。

4. サポート業務の線引きを決める。 チューニング支援や技術指導は、それ自体が技術支援です。どこまでが運用サポートで、どこからが技術提供かを社内で決めておくべきです。

5. 米国の動向は「成立していない法案」と「既に効いている規制」を分けて追う。 RASAは成立していませんが、2026年1月に発効した先端コンピューティングのライセンス審査方針改正は、ライセンスの条件としてリモートエンドユーザーの申告などを既に要求しています。いま効いているのは後者です。

私たちのTRAFEEDでは、こうした規制の動きを継続的に追いながら、取引先の審査と該非判定を支援しています。「この形態は該当するのか」という切り分けは、条文と通達を突き合わせる地道な作業になりますが、そこが実務のいちばん手間のかかるところでもあります。事前確認シートによる調査もお引き受けしていますので、判断に迷う形態があればご相談ください。

まとめ

  • 米国EARの「輸出」の定義は物の移動と技術の開示を要求しており、演算させることは含まれない。BIS自身が2009年に「計算能力の提供は対象外」「国籍確認は不要」と回答している
  • BISは2023年に官報で穴を認めたが、対応は将来の規則制定に先送りされたまま
  • RASAは下院を2度通過したが上院で止まっており、成立していない
  • RASAは「輸出」の定義を変えず、並行の規制類型を新設する構造。下院可決版は対象国を限定しておらず、限定があるのは審議未了の上院版
  • 報道されている第三国経由の利用は、現行制度の下で違法ではない。迂回や潜脱ではなく射程外
  • 日本も同様に、計算資源の提供そのものは原則として外為法の許可対象にならない。「貨物=動産」という定義が効いている
  • ただしSaaS型のプログラム提供、顧客技術へのアクセス、技術支援は該当しうる。空白は「計算資源そのもの」に限られる
  • 経済安保推進法の基幹インフラ15分野にもクラウドは入っていない
  • 日本政府は論点を見落としているのではなく、「データの防護」という別の切り口で継続検討している
  • 日米とも「該当しない」と書いた条文は無い。消極的な論証である点は率直に認識したうえで、個別に確認するのが安全

規制が追いついていない領域は、逆に言えば「いつ変わってもおかしくない領域」です。米国では2026年11月にAffiliates Ruleの執行停止が明けます。制度の空白を前提に事業を設計するのではなく、空白が埋まったときに何が起きるかまで見ておくのが、この領域との付き合い方だと思っています。


Footnotes

  1. 15 CFR §734.13 "Export". eCFR(2026年8月18日時点). https://www.ecfr.gov/current/title-15/subtitle-B/chapter-VII/subchapter-C/part-734/section-734.13

  2. Bureau of Industry and Security, Advisory Opinion: Application of the EAR to Grid and Cloud Computing Services, January 13, 2009. https://www.bis.gov/media/documents/application-ear-grid-cloud-computing-services.pdf

  3. 88 FR 73458(2023年10月25日), "Implementation of Additional Export Controls: Certain Advanced Computing Items", Topic 46. https://www.federalregister.gov/documents/2023/10/25/2023-23055/

  4. U.S. House Select Committee on the Chinese Communist Party, Buy What It Can, Steal What It Must: China's Campaign to Acquire Frontier AI Capabilities, April 16, 2026, p.4. https://www.govinfo.gov/content/pkg/GOVPUB-Y4_2_C44-PURL-gpo255259/pdf/GOVPUB-Y4_2_C44-PURL-gpo255259.pdf

  5. H.R. 2683, 119th Congress, Engrossed in House(2026年1月12日下院可決版). https://www.govinfo.gov/content/pkg/BILLS-119hr2683eh/html/BILLS-119hr2683eh.htm

  6. 外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号). e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000228

  7. 経済産業省「外国為替及び外国貿易法第25条第1項及び外国為替令第17条第2項の規定に基づき許可を要する技術を提供する取引又は行為について」(役務通達). 最終改正 輸出注意事項2025第27号. https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/tutatu/t10kaisei/ekimu_tutatu.pdf

  8. 産業構造審議会 通商・貿易分科会 安全保障貿易管理小委員会「中間報告」(2024年4月24日). https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/tsusho_boeki/anzen_hosho/pdf/20240424_1.pdf

  9. 経済安全保障法制に関する有識者会議「経済安全保障の更なる推進に向けた提言」(2026年1月30日). https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyohousei/r8_dai15/teigen.pdf

本記事は一部にAIを用いて作成し、公開前に人間が一次情報の確認と編集を行っています。

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